資料2 これまでの主な意見の整理(案)

1.今日の医学教育を巡っては次のような課題が見られるのではないか

(1)医学教育モデル・コア・カリキュラム、臨床実習開始前の「共用試験」の導入、各大学の改革努力などにより、医学教育は着実に改善

(2)小児科、産科などの診療科や地域の医師不足、救急医療の疲弊などの問題が極めて深刻となる中、こうした地域や診療科の医療を担う医師を養成・確保する方策を講じることが急務

(3)臨床研修制度は、研修医の基本的な診療能力に一定の向上が見られるなど制度の基本理念は実現されつつあるが、地域における医師不足問題が顕在化・加速するきっかけ

(4)より高度な医療、医療の安全性が求められる中、大学の若手医師の不足や関連事務作業の増大から、大学教員の診療業務が極めて多忙となり、診療参加型臨床実習への転換が不十分

(5)同時に、研究活動に関する時間確保が困難となり、研究業績の停滞、若手研究者の減少が深刻

(6)臨床研修制度が見直される今日、卒前・卒後教育を共に担う大学が、両者を一貫して見通し、社会の要請に応える医学教育の改善を図る必要

2.検討に当たっては、次のような考え方で改善を図るべきではないか

(1)多様な医療現場を体系的に経験させながら、診療参加型の臨床実習を強化し、診療チームの一員として患者と直に接し役割を果たすことを通して、心身共に重視し診断や治療を行うための判断力を習得させるとともに、自らのキャリア等の将来像を描けるようにすること

(2)地域枠を設定した入学者選抜等の工夫とともに、地域の第一線の病院や診療所との連携協力、地域の人々や患者の声を聞く機会などを体系的に実施し、地域医療を担う医師を養成すること

(3)臨床実習の成果をその後の評価や研修医としての採用時に活用できるようにするとともに、共用試験、医師国家試験が整合性をもって各段階で求められる能力を適正に評価出来るシステムを確立すること

(4)全ての医学生が履修すべきコアとなる内容を確実に修得させるとともに、地域の実情を踏まえ、各大学の強みを生かした特色ある教育の展開を促進すること

3.次のような観点から、医学教育内容を充実すべきではないか

(臨床教育の充実)

(1)6年次の臨床実習の形骸化をなくすべきではないか

(2)臨床研修の到達目標との整合性を図りながら、臨床研修開始前、臨床実習修了時の到達目標を明確にすべきではないか

(3)患者の協力を得て診療に携わる臨床実習の位置付けを明確にすべきではないか

(4)臨床実習における医行為への認識が明確となるよう、臨床実習段階で可能な医行為の例示のあり方について、見直しを検討すべきではないか

(5)様々な医療現場の早期の経験・見学、シミュレーション機器等を用いた模擬診療型実習を経て、段階的・体系的にいずれの分野においても診療参加型の臨床実習が行われるようにすべきではないか

(6)特に、内科・外科などの基本科目の臨床実習の充実とともに、全人的な総合診療能力の育成、多くの診療科や関係機関との連携・協働が必要な救急、周産期医療、精神医療などについては、急性期からリハビリ、生殖から成長・発達、心身両面などからの視点で、臨床実習前から体系的に教育すべきではないか

(地域医療教育の充実)

(7)6年間の医学教育全体を通じて、地域の第一線の病院・診療所や自治体と連携し地域医療を学ぶ機会を設けるとともに、地域の人々や患者と接しその声を聞く機会を設けるなどにより、患者本位に立って、地域医療への理解を深め、その担い手としての使命感を涵養すべきではないか

(教養教育の充実)

(8)看護師をはじめとする様々な職種との協働や患者と接する機会を通じて、チーム医療を実践し、患者や家族から信頼されるコミュニケーション能力や職業的態度を育成すべきではないか

(9)医学・医療全体を俯瞰し、その後の教育や進路に指針を与える医学概論、医療政策に関する教育を充実すべきではないか

(研究マインドの育成)

(10)基礎医学と臨床医学の有機的な融合による横断的な教育によって、全ての医学生が、日々の診療の中での患者や疾患の分析から病因や病態を解明するアプローチや、常に自らの診断・治療技術等を検証し、研究成果等に基づき磨き続ける意欲や態度を身に付けるべきではないか

(特色ある教育の推進)

(11)医師国家試験の出題基準との整合性に留意しながら、選択制カリキュラムに基づく各大学の特色ある教育が一層充実するよう、モデル・コア・カリキュラムの示し方の工夫を検討すべきではないか

4.次のような観点から、医師として臨床能力の評価を充実すべきではないか

(1)卒業時までに必要な臨床実習等の成果とその評価を体系的に記録・蓄積できるシステムを構築し、卒業認定や臨床研修の採用時に積極的に活用すべきではないか

(2)前記3(2)と併せ、臨床実習を行うに際し必要な能力を全国的な水準で評価する共用試験の位置付けを明確にし、統一的な合格基準を設定し、患者の診療に携わる臨床実習の質を担保するとともに、合格者に一定の証明書を発行するなどにより、医学生の意欲と患者や国民の理解を高めるべきではないか

(3)前記の共用試験の見直しによって臨床実習を行うに際し必要な能力が適正に評価されることを前提に、医師国家試験が、臨床能力の評価を重視したものとなるよう検討するとともに、各大学における臨床技能評価の実施等により、臨床実習を質量ともに向上させるべきではないか

(4)地域の病院や診療所での実習や看護師などの様々な職種との協働、患者等と接する機会に関わる学外の指導者は、学生の評価に積極的に関わり、特にコミュニケーション能力や態度に関する評価を多角的に行うべきではないか

(5)求める学生像や医学教育を受けるために必要な水準等を示した個性ある入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を明確にし、基礎学力はもとより、時間をかけたきめ細かい面接や社会福祉施設等でのボランティア活動などの考慮を通じて、医師としての資質や目的意識、意欲等を重視した選抜を行うべきではないか

(6)地域枠の設定による入学者選抜やその後の選考の過程で、地域や診療科の医療を担う明確な意思や資質を備えた学生を選抜する取組を一層促進すべきではないか

5.次のような観点から、教育研究体制を充実すべきではないか

(教育体制)

(1)地域や診療科の医療を担う医師や研究者の養成のため、選択制カリキュラムを有効に活用するとともに、上級年次の学生を対象とした専修コースを設けて集中的に養成していく取組も推進すべきではないか

(指導体制)

(2)臨床実習を個々の講座・診療科、学外施設が独立して行っている状況を改め、臨床実習全体の総括責任者を置くとともに、臨床実習委員会などを設け、チーム医療に関わる職種の参加で診療科横断的に企画・調整を行い、系統的・体系的な臨床実習を確保する責任体制を確立すべきではないか

(3)臨床実習は、教育病院である大学病院を中心としながら、学外の病院や診療所、他大学、学会などとの連携協力、臨床教授などの活用を推進し、関係者が実習内容や評価基準の企画・実施に協働で取り組み、地域や診療科の医療を担う教育などの充実を図るべきではないか

(4)卒前・卒後教育、生涯教育を一貫して担う大学が、地域医療機関や関係自治体と連携しながら、地域の医師の専門性の向上、キャリア形成に中核的な役割を果たすべきではないか

(5)上記の臨床実習等の充実に必要な指導教員の充実を図るとともに、医療補助職員の配置などによって教員の負担を軽減すべきではないか

(教員の教育能力)

(6)教員の評価や人事において、教員の教育・研究・診療における役割に応じて、研究業績のみならず、教育能力、臨床能力の適切な評価がなされるべきではないか

(7)基礎と臨床、診療科間の有機的な連携による体系的な教育課程の編成のため、臨床研修の指導の経験も生かしつつ教員相互の共通理解や意識改革を促進する組織的な取組(ファカルティ・ディベロップメント)の充実を図るべきではないか

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