獣医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議(第10回) 議事要旨

1.日時

平成22年11月17日(水曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省16F特別会議室

3.出席者

委員

唐木座長、酒井座長代理、石黒委員、池田委員、伊藤委員、加地委員、片本委員、廉林委員、小崎委員、西原委員、政岡委員、矢ヶ崎委員、山崎光悦委員、山根委員、吉川委員

文部科学省

西山環境省自然環境局総務課動物愛護管理室長

オブザーバー

澤川専門教育課長、茂里高等教育局視学官、枝専門教育課課長補佐

4.議事要旨

議事

(○:委員 ●:事務局)

(1)委員及び事務局から配付資料について説明した後、「口蹄疫の発生を踏まえた今後の我が国の獣医学教育の在り方」について意見交換が行われた。主な発言は以下のとおり。

○今回の宮崎の口蹄疫の問題について、口蹄疫対策検証委員会を立ち上げ議論してきているが、行き着くところは、口蹄疫に係らず、大学において悪性伝染病の教育体制が不十分ではないかということ。そして、もう一つは、なぜ宮崎県に獣医が少ないか。処遇改善を進めないと偏在は直らない。農林水産省の獣医師の需給の検討委員会でも、2020年までは獣医師の数はトータル的には不足はしてないとしており、偏在が非常に多いということ。今の獣医学教育は偏った教育がなされているのではないか、いわゆる産業動物や公衆衛生の教育が不十分ではないか、という意見がかなり出ていた。

○以前は、臨床獣医師、開業獣医師、並びに家畜共済の診療獣医師が家畜防疫員になっていたが今は公務員だけが対応することになっているので、以前のような形に戻して国を挙げて緊急時に対応が出来るような体制を至急整えた方がよいのではないか。獣医師不足の問題では、受け皿の整備が必要ではないか。今年の6年生の就職状況を見ると、大動物臨床獣医師、特に家畜共済の獣医師を希望する者が多いが、一部の県では足きりをしたと聞いている。国を挙げて産業動物獣医師を確保するというならば、国と県が連携をして行う方がよい。

○現在の家畜伝染病予防法で定められている家畜防疫員は公務員であるが、民間の獣医師も臨時雇用という形で家畜防疫員に任用できる。

○政令指定都市や中核市は、任命権者が都道府県知事になっており、身分の関係で残念ながら今回は派遣を見送らざるを得なかった。今後の課題としてテイク・ノートしていただきたい。

○宮崎県の家畜防疫員47名のうちの多くがあまり牛に接した事がなかった。採血や血管注射の経験がないという家畜防疫員がほとんどだったことが混乱の大きな元。そのような不備があったということなので、日頃から、そのようなことを踏まえて議論、検証しておかねばならない。

○口蹄疫に関して、以前は、民間の獣医師を雇い上げて、各農家を回り、予防注射を打つという予防治療をやっていたが、補助金が廃止されたことによって、予防治療が枯渇し、自衛防疫という観点の組織が崩壊してしまったというところに大きな問題があるのではないか。したがって、予防治療のような、獣医師が農家を巡回できるような形にしておけば、早期発見も出来うる、そのような改正もおそらく必要になるのではないか。

○この協力者会議の調査研究事項は4つある。社会的ニーズ等に対した教育内容の在り方については十分議論してきたのではないかと思うが、教育の質の保証の在り方や教育研究体制の在り方についてはあまり議論していない。モデル・コア・カリキュラムを作るのは、最低限必要だが、それをクリアするために何をすべきかということを議論する必要がある。外部評価も含めて実施するということの議論はなされていないに等しい。

○農水省に提案したい。OIEで Performance of Veterinary Services(PVS)というシステムがあって、各国の獣医療の評価をやっている。これまでは途上国を中心に評価をやってきたが、それがほぼ終わり、今後、先進国の評価に移ろうとしており、北欧の国が手を上げるという話もある。日本の獣医療の体制も客観的に検証する非常にいい機会だと思うので、農水省でOIEのPVSの評価を全部見ていただき、その結果を、教育の改善につなげていくきっかけを是非作っていただきたいと思っている。

○ご意見として承る。その獣医療とは、家畜伝染病予防体制、あるいは、食の安全、公衆衛生体制を主にしているのではないかと思うので担当ではないが、趣旨は担当の所に伝えたい。

(2)北海道大学及び帯広畜産大学から共同教育課程の設置に向けた取組状況について、東京大学尾崎教授からモデル・コア・カリキュラム策定に向けた取組状況について、それぞれ以下の報告があった後、質疑応答が行われた。主な発言は以下のとおり。

<委員>

獣医学に対する社会のニーズが非常に増大している。畜産物の安心・安全の確保や、国境を越える動物由来感染症への対応などが喫緊の課題となっており、国際性を備えた人材を養成していかなければならない。このようなニーズに対応するため、新しい獣医学教育カリキュラムを構築して、日本の獣医学教育のレベルを引き上げ、欧米の獣医系大学に対する評価を参考にしながら、欧米における獣医学教育と同等以上の水準で、モデル・コア・カリキュラムや国際化に対応したカリキュラムを提供していきたい。北大は、20の学部を持つ総合大学で、我々の獣医学研究科は、人獣共通感染症あるいはライフサイエンス研究、あるいは小動物臨床に重点をおいて獣医師を養成していく。帯広畜産大学は、畜産総合大学と位置づけており、大動物の診療や、生産獣医療、獣医公衆衛生などに重点を置いた教育研究により獣医師を養成していく。北海道大学と帯広畜産大学は、獣医学に対する社会的要請と国際化に応えるために、両大学の優位な教育研究の資源を持ち寄り、連携して国際的な獣医学教育を行うこと目指し、本年1月22日に公表した

共同教育課程の主な目標は次の4点。一つ目は、獣医学教育をめぐる世界の動向を踏まえ、国際的に通用する獣医師を養成する。2点目は、産業動物臨床、先端的な伴侶動物臨床教育、公衆衛生教育、ライフサイエンスにかかわる基礎獣医学教育、実験動物や野生動物医学に関する教育を充実させる。それから、北海道の強みを生かして、家畜試験場や食肉衛生検査所、農業共済での実習、研修プログラムを充実させ、さらに、両大学の教育資源を活用して、獣医学関連分野、あるいは、獣医倫理などの教育を充実させる。最後に、獣医師としての基礎知識、技能を向上させるため、アドバンスト科目を作り、職域に関連した授業を設定したいと考えている。共同教育課程では、31単位を相互に提供しなければならないが、既存の獣医学教育の科目に新たに62単位分を積み上げることは不可能であり、既存の科目をどのようにまとめるかを中心の議題として、これまでテレビ会議、両大学の話し合い、事務系職員での話し合いだけで15回程度議論を行ってきた。教養教育、専門教育、アドバンスト教育の3つに分けた教育課程表はほぼ完成している。現在、提供科目の最終調整を行っている。まだ協議中のため今後若干変更の可能性があるが、教養教育を46単位でまとめている。専門教育は2年から5年次半ばで行う予定。この課程で、獣医学部のコア・カリキュラムを教えることになる。相互提供科目は、現在のところ、35単位以上で両大学が調整できている。現在、2年から4年次までの3年間の全ての時間割表、毎週の時間割を策定し、科目の開講時期と開講時間に関する教員の意見徴収を行っている。アドバンスト科目は現在検討中であり、5、6年次の学生は、所属した分野に特化した教育を受け、その中に職業と橋渡しになるような、演習科目を作る予定。演習科目は、授業の目標がはっきりとわかるような授業内容、科目で、これを学生が自由に選択できるようにしたいということで、現在、この科目の協議を行っているところ。相互提供科目は、担当教員が移動して行う講義が主体。一部の科目は学生を移動させて、講義、実習を行う予定。現在、検討しているコア・カリキュラムは、日本の獣医学教育のミニマム・リクワイアメントであると考えており、その中で、共同教育課程の特色を出すのは難しい。そのため、アドバンスト科目で、共同教育課程の特色を出したいと考えている。この科目は教員の数が増えれば、それだけ教える分野が広がる。さらに、教員の専門分野に則った基礎から応用までの講義、実習が設定できると考えている。

<委員>

○帯広畜産大学は、大動物臨床や生産獣医療に適した環境にあり、共同教育課程において、獣医公衆衛生学に重点をおいた教育を分担するということで作業が進められている。現状として、本学の獣医学科は、平成20年度入学学生から既にカリキュラムを一部変更している。これは国際化への対応のため獣医学教育の底上げを行うもの。実務実習を重視したカリキュラムを念頭に置いており、平成20年度入学学生のカリキュラムからは、ポリクリの単位数が倍になっている。この学生が平成23年4月から4年目にあがり、その対応としてどのような形とするか、その次には、北大との共同教育課程に移行するということを念頭において取り組んでいる。また、公衆衛生に関しても北大との共同教育ということで、実務実習を行うには大量の機材不足が生じることもあり得るので、学内予算により公衆衛生実習機材の整備を行っているところ。また、コーネル大学の前獣医学部長のドナルド・スミス先生を帯広にお招きし、米国トップレベルといわれる獣医学教育の実情等について、教員、学生からいろいろ質疑応答させていただき、カリキュラム内容等についても参考にしたいということで話を進めているところ。

<発表者>

資料9に基づいて説明させていただく。モデル・コア・カリキュラムの定義は「教育内容のガイドライン、大学卒業時までに身につける必要不可欠な知識を精選し、共通の到達目標を明示したもの」としている。国家資格のある医、歯、薬学では既に完成、看護学、法学でも作業が行われており、法学は我々よりも1年前から、その作業が始まっている。医歯薬の分野では、各大学で教える全ての教育内容の6割程度に相当するもの、という定義をしている。残りの4割は、各大学が独自の理念で教えるべきもの、特色のある教育ができるような余裕を残すという思想で6割という数値がここではある。

コア・カリキュラム作成の経緯としては、まず第一が「古い体質から脱却すべき」ということ。これは、「私が教え、私が試験問題を作り、私が採点し、私が合否を決めるのだ」という、旧態依然とした閉鎖的な教育、体制を改めるべきだというのが一つの背景。2番目に、「日本学術会議が推奨する教育の質保証を担保する3つの手法」というのがある。その一つに挙げられているのが、コア・カリキュラム。その他に、共通テキスト、共通試験が挙げられている。コア・カリキュラムは、職業人の養成分野で使われる言葉であり、理学部や農学全般等では、分野別参照基準と言われている。共通試験に関しては、この後共用試験の話が出てくるが、医歯薬等だけの話ではなく、例えば、法律や経済では既に共通試験が実施されている。次に、「獣医学にコア・カリキュラムを作ろうという議論はどこから始まったのか」ということについて、私なりに整理をさせていただいた。これは医歯薬とは少し違った経緯があるのではないかと感じている。医学のコアカリの制定の経緯はどうだったかというと、臨床教育、特に、参加型臨床実習が不十分であるという議論が10年以上も前にされていた。さらに、学生と患者のトラブルが頻発した。例えば、学生が教員の許可をとらずに、患者から血液を採血したなどといった事件が頻発し、一定の学生の質を保証する制度を作らなければならないということで共用試験が考えられた。そうした共用試験の基準として、コア・カリキュラムが作られたという経緯がある。免許を持たない学生が医療行為を行うのは違法行為であり、その違法性をどうやって阻却するのかということで考えた制度が共用試験である。参考資料①にある運転免許の交付システムを見ていただくと分かるが、これは多分、運転免許、仮免という制度をヒントに、おそらく法律の専門家と相談しながら議論をしていったのではないかと思う。薬学の場合は、参加型実習を行うための6年制に移行するという強い意思があって、コアカリや共用試験に関して、全く議論の余地のないものとしてスタートしたという経緯である。平成16年に6年制移行への国会決議が出されたが、ここでは既に共用試験を実施するという文言が入っていた。これに対して、獣医学のコアカリの制定の背景は、私見ではあるが、今まで、30年以上の間、獣医学は教育が不十分であるということを再三直訴していたことに対して、文科省では、協力者会議を設置して、獣医学教育の制度の見直しをしようという議論がなされているところ。議論の中で色々なことを学習したが、一つは、獣医学教育の基準として、国家試験の基準はあるが、大学が主体的に考えた基準はない。国家試験はあくまでも規制であって、自主的な規範が必要だろうということである。2番目が各大学の状況を定量的に評価する客観的な基準も必要であろうということ。分野別・横断的な大学の評価のひとつの根拠、基準にもなるのではないかということである。3番目が、参加型実習に関して農水省から報告書が出て、獣医学も医歯薬に習って共用試験をすべきだという状況になっている。次に、コアカリの作成のための委員会については、協力者会議の中の教育内容に関する小委員会での討議を経て、文科省先導的大学改革推進委託事業として平成21年5月に発足した。この委員会のメンバーは小委員会と同じメンバーで構成しており、平成16年に日本獣医師会の中で議論されてきた「獣医学標準的カリキュラム」をベースに作ろうということで作業を始めた。来年の3月に事業が終了するため、その時期に公表するべく作業を進めている。具体的には、参考資料を見ていただきたい。参考資料②は、モデル・コア・カリキュラムの緒言の案であるが、コア・カリキュラムとはどういうものなのかが書かれている。参考資料③は、獣医学コアカリキュラム科目の一覧で、講義科目として51科目を設定し、実習科目は19科目となっている。最終的には、コア・カリキュラムは、単位数を明示せず公表するが、作業に当たり単位数を目安として置いておかないと作業が出来ないため、単位数を入れている。参考資料④は、具体的にどのようなものが出来てくるのかということ。第一次案のパブコメは既に終わったが、その第一次案として公表しているものの中からサンプルとして公衆衛生学について印刷した。

コアカリの制定後の活動として、コアカリを獣医学教育の改革にどう生かすか、ということについては5つ程の項目があると思う。第1が、各大学がコアカリに従ってカリキュラムを改定する。2番目が、共通テキストの作成。3番目が、参加型実習への対応、共用試験に向けての準備、4番目が、分野別大学評価の実施。5番目が獣医学教育システムの基準作り。設置基準等の支援などに生かしていくべき。2番の共通テキストに関しては、コアカリという形で、教員が学生に何を学ばなければならないかということを具体的に示すが、「模範解答を示さなければ無責任」ということで、コアカリ準拠の共通テキストを作ろうと議論している。日本獣医学会の中に、テキストの編集委員会というのが出来て、既に会議も始まっている。日本獣医学会の中に置いているが、学術というより教育の話なので、協議会の方に移した方がいいのではないかという議論もなされている。コアカリ施行後となる来年度から、獣医学会の各分科会に科目を割り振って作業をしていく。私個人の考えであるが、紙媒体だけではなく、電子図書という形態でも出してはどうかと思う。共用試験については、学生が参加型実習を行う場合、違法性の阻却のため、質保証が義務付けられているが、その方法として共用試験が最も社会的な認知を得られやすいということで、調査委員会が北里大学の高井先生を委員長にして、2009年9月に発足した。この間、今年の3月に、全国協議会に答申書を出していただき、これを実施する方向で考えていこうということで決議された。今は、この調査委員会が準備委員会に切り替わり、第一ステップの活動が開始されているところ。準備委員会の活動に当たっては、文科省、関係団体等の支援協力が是非とも必要であり、よろしくお願いしたい。

最後にまとめになるが、コア・カリキュラムというのは、いわば、ソフト面からの獣医学教育改善運動の取組であると思っている。コア・カリキュラムを基に新しい教育カリキュラムを作っていく、参加型実習を行う、共通テキストを作る、共用試験を行う、こういったことを進めていくべきだと考えている。

参考資料⑤は、医学・歯学のモデル・コア・カリキュラムの第1次改訂版が検討された時の議事要旨。この議事要旨が、文科省のホームページに出ているということが一点。それから、この会議に文科省と厚労省の方が参加されているということも、是非注目したい。議事要旨の中で、例えば、世界的な教育内容の標準化の流れに乗り遅れないためにも、英訳は必須であると書かれている。英訳版は、公表はされていないけれども、既に出来ていると聞いている。また、国家試験との整合性についても検討が必要というご意見もある。獣医学においても、コアカリの維持、管理をどうするのか、国家試験ガイドラインとの整合性をどうとるのか、という大きな問題がある。こういったことに関しては、是非とも、文科省、農水省のご支援をいただきたいと思っている。

○最近、OIEがミニマム・コンピテンシーというものを公表した。これは、獣医療サービスの提供を保障するために、獣医学卒業生に期待される最低限の資質能力。これは今回のコア・カリキュラムの策定にも非常に大きな影響を与える内容で、日本でも、コアカリの委員会で是非検討をしてほしいとお願いし、検討を続けていただいている。これについて、石黒先生の方から、お話いただきたい。

<委員>

○先生の資料に続く資料を見ていただきたい。獣医学教育に関するAHGレポートの特徴を簡単に列挙した。獣医師としての資質(技能、知識、態度、適性)を明記。2番目は一般的なコンピテンシー、特定コンピテンシー、発展的なコンピテンシーを区別し、OIEが重要と考える事項に力点を置いて記述。3番目はOIEが重視している事項である家畜衛生、動物福祉に力点を置いた内容。その一方で、基礎獣医学、臨床獣医学分野に関しては多くを触れなかった。モデル・コア・カリキュラムに相当する内容のものではない。4番目が、獣医療サービスに関する獣医師の責務に関して言及。5番目が世界の家畜感染症発生や広がりが、世界の公衆衛生上の問題を引き起こし、世界の経済活動の弊害となっている点を重要視した記述になっている。6番目が、特定のコンピテンシーや発展的なコンピテンシーの中で、詳細に獣医師が資するべき事項を列挙し、各国に獣医師教育への重要性を示した。以上が重要な点。

これとコア・カリキュラムの比較は対応表を見ていただけばわかるが、それをまとめたのが3のところ。1点目は、現在、作業を進めているモデル・コア・カリキュラムの履修内容は、OIEの本レポートに記載されている事項を概ねカバーしているというようなことが言えるかと思う。2番目に、本レポートの項目の中には、モデル・コア・カリキュラムでは検討されない、各大学が特色を出して教育するアドバンス教育に含まれる教育内容も散見される。3番目に、本レポートの獣医学部卒業生に求められる最低限の資質能力は、導入教育、病態獣医学、臨床獣医学と多様にわたるが、中でも、応用獣医学の履修科目が最も多い。対応表を作らせていただいたが、日本語訳の1が一般的なコンピテンシー、2番目が特定のコンピテンシー、3番目が発展的なコンピテンシー。この3つから構成をされている。このうち、1ページ目の一般的なコンピテンシーに、基礎獣医学や臨床獣医学が項目だけ書かれている。現在進めているコアカリキュラムでは、基礎獣医学、臨床獣医学で対応できる。それ以降のことが、家畜衛生、公衆衛生あるいは、動物福祉に関することが非常に沢山書かれており、対応表のとおりコア・カリキュラムは対応している。一般的なコンピテンシーの1.5のところで、例えば、生涯学習に対する責務、というのがあるが、これは、コア・カリキュラムではあまり触れてない部分。導入教育では触れているが、おそらく、高学年でのアドバンス教育のところで触れるべきものである。コア・カリキュラムでは、さっと書いてある程度のところもある。こういったところは今後の課題であると思う。したがって、この一般的なコンピテンシー、特定のコンピテンシーのところは、私どもが作っているコア・カリキュラムに対応しているだろう。応用獣医学、病態獣医学、導入教育、臨床教育の科目でカバーしている。3番目の発展的コンピテンシーのところについて、このレポートは極めて多く書いている。それはOIEの性格的なところだろうと思う。こういうところは、導入教育、3の発展的なコンピテンシーの最初にある、アドバンス教育の必要性というように、括弧書きで書かせていただいたが、コア・カリキュラムでは詳しく触れてない部分がある。それが最後の方にいくに従い徐々に多くなる。獣医事サービスの組織、リスク分析の適用、それから、研究、国際貿易枠組み、管理、経営といったところはおそらく、高学年の中で、アドバンス教育の中で各大学が触れていくのであろうと思われる部分。コア・カリキュラムの内容と、OIEから出てきた内容を見させていただいたが、概ね、私どものカリキュラムは満たしていたが、一部このように今後検討しなければいけない部分があるのではないかと考えてる。

○項目から見ると、コア・カリキュラムはOIEのミニマム・コンピテンシーの内容を大体カバーしているが、その重点の置き方は非常に違うと感じた。これからの獣医師、獣医療の中で動物福祉という言葉が絶対に欠かすことが出来ないが、日本ではそういう考え方自体が非常にまだ弱いというところをこれからどうしていくのかという問題。また、対応表の一番最後にある国際貿易の枠組みの問題、管理と経営の問題は、今の獣医学教育ではほとんどやっていない。しかし、これはこれから大事な問題として取り組んでいかなくてはならない。そのような濃密の問題はあるが、コア・カリキュラムの中でほぼカバー出来る。後は、後回しでも、教育の中でまたカバー出来るということで安心した。

○OIEのミニマム・コンピテンシーとの対応表を見ると半分程度が導入教育。16大学の評価の中で一番点数が悪く取り組まれていないのが導入教育で、この大半の導入教育に対応しなければならないというのはかなり厳しい。テキストが出来、また、各大学がカリキュラムを改訂して、それに対応していくとなると、教育面をどうするのかとなる。その試みとして、新しく共同学部のような取組が出てきているということを考えると、既に現実の方が動き始めている。コア・カリキュラムの51科目と19科目の履修を実際に行おうとすると、どの程度教育スタッフが必要と考えるのか。

○コア・カリキュラムを実施するために、どんな教育体制が必要なのか個人的な意見として事務局から聞かれて作成してみた。以前であれば、国家試験は18科目ですから、18講座を作るという考え方になるが、今回、コアカリが出来て、複数科目を担当する中講座的なものをつくり、その講座がコアカリのどの部分を担当するというような表を作った。講義科目は1名の教授が何単位を教えるべきか、准教授であれば何単位教えるべきか、助教であれば実習をどれくらいカバーするのかといった数値を置いて、どれくらいの人数が必要かを算出した。私の計算では1大学で学生入学定員が80名を想定し、71名という教員の数を出した。特に参加型実習は手間もかかるため、学生数が多い大学にあってはその点に関して更に多くの教員が必要という数値を出した。

○大学基準協会が2回にわたって獣医学教育の基準を出しているが、そこでも入学定員が80名の時に最低72名と計算している。今回も約70名。誰が計算しても大体そんなところになるのかなと思う。

○大学基準協会では学生の数は、60名か70名ではなかったか。

○前回は60名だった。このコアカリの問題と共用試験の問題は、この協力者会議の議論と平行して現実の方がどんどん進んでいる。コアカリについては文科省が全面的に協力をし、検討委員会が出来ている。共用試験についても、文科省の協力が是非必要ということなのでよろしくお願いしたい。それからもう一つ、医学・歯学の方のコアカリの委員会の議事録は文科省のホームページに出ているということなので、文科省の事業については是非ホームページで公表していただきたい。

●委託事業なのでそこの扱いはご協力できると思う。

 

(3)事務局から配布資料について説明した後、「今後の我が国の獣医学教育の改善・充実の方向性と具体的方策」について意見交換が行われた。主な発言は以下のとおり。

○議論のたたき台として、机上配布資料に私案として、獣医学教育改善の道筋という1枚紙をつけている。これは獣医学教育改善のロードマップを明確に示せという声に対応して私が考えていることを簡単にまとめたもの。1番目の目標は今まで議論した中から出てきたもので、社会的要請に応えられるということ。それから先進国の水準に達していること。例えば、アメリカの獣医学のアクレディテーション合格レベルを目指したらどうか。アメリカの最低限の大学程度にはなりたい。それから、ライフ・イノベーションに対応できる獣医学教育の実施とそのための獣医学部の設置が目標である。これは我々が長年言い続けてきたこと。では何を改善するのか、そのために、どんな手段を使うのか。1番目が教育内容の改善。そのためにはコア・カリキュラムの策定、共用試験の実施、それから進級、卒業制度を厳格にやること、それから国家試験の出題基準というものもここに入るかもしれない。2番目が教育システムの改善ということ。教員数をどうするのか、学生対教員比をどうするのか、施設・設備の問題、動物病院の問題、その他、という重い問題がある。3番目が外部評価という問題。これも実施しないと改善は出来ない。外部評価の基準はどうするのかというのが一つの大きな課題。獣医学の独自の設置基準を作って欲しいということは、獣医学教育関係者が以前から言ってきたこと。これについては、規制緩和その他いろいろな状況から難しいという答えは文科省からいただいているが、解説があったらいただきたい。外部評価については、評価を改善に反映させる仕組みが是非必要だということになっているが、これを具体的にどうするのかということも問題になる。こうした3つの改善項目についての手段について、それぞれ検討が必要である。

次に書いてあるのが、改善の段階。現状は教育内容、システム、評価制度の全てが不十分であるということで、協力者会議が開かれているが、これを第一段階として、自主努力あるいは共同教育課程の設置によって改善をする。これを推進するのは、外部評価であり、評価の時に基準の何パーセントを達成しているかということが大きなポイントになると思う。もう一つは、この第1段階をいつまでに達成するのか、ということも考えておかなくてはいけない。第2段階は、共同教育課程が単一学部の設置ということ。これは再編・整備が極めて難しいことが分かってきた現在、2あるいは3大学が共同で、単一の学部が出来ないだろうかということ。それが出来れば第2段階は達成。その上で全てを改善して第3段階のゴールにいく、といったものは誰が考えても考えられる。しかし、それぞれの評価、段階を推し進めるべき問題がいろいろある。それが解決すべき主な問題ということ。これは4点あげているが、第1点は、獣医学関係者が、こういったロードマップの論議をしなくてはいけない。これは最低限、獣医学関係者の合意は出来ているだろうと思っている。次に難しいのが、関係大学と地域と社会の同意ということ。再編整備については、ここが得られないために今までは挫折してきた。今度は挫折をしないような、関係大学、地域、社会の同意を得られるようなやり方は何なのか、ということも検討しなくてはならない。最後は政治主導ということだが、最後はやはり、痛みを被る所も出てくるし、そうでない所も出てくる。その辺のところは政治的判断というものが絶対必要。この辺の大きな問題が我々の前に横たわっているというのが1番目です。2番目が教育改善と入学定員の増加の問題です。これは非常に大きな問題、我々の前に横たわってる問題は、大阪府立大学が、自主努力で、教員数を増やして、教育の大幅な改善をした。これは全国協議会の合意の元に、我々全員がそれを支援するという形で進めてきた。そして教育改善が行われれば、今の学生入学定員では不足して何とかしなくてはいけないということは分かっていた。実際に大学が教育改善をしたら、学生入学定員の増はなかなか難しいという話になってきて、我々が支援しなければ、2階に上って梯子をはずすことになってしまう。これは、喫緊の問題として我々が考えなくてはいけない。これをやらないと、自主努力で教育改善しようというところはどこもなくなってしまう。もう一つ、我々、あるいは、連合協議会の苦い経験として、2階に上がった所で梯子をはずしてしまったのが、宮崎大学の例。宮崎大学は、九州にある大学ということで、山口、鳥取と3校の協議を続けて、宮崎大学は教授会のOKまで取ったが、他の2大学は降りてしまった。その時、全国協議会あるいは獣医学関係者としては何も出来なかった。これに関しては、宮崎大学から、約束違反だというご意見をいただき、私もそれに対してはお詫びさせていただいた。獣医学関係者が腹をくくって動き、最後の最後の先頭きっていったところが馬鹿を見るということにならないようにしなくてはならない。これは今までの教訓ということで、2番目に挙げさせていただいた。3番目は、改善の期限設定とそれまでに改善が出来ない未改善校として取り扱いをどうするのかということ。これについては再編整備をもう30年前からやっているが、20年、10数年前、文科省が本気で再編整備をやるといったが実現しなかった。改善しない大学が獣医学教育をやめて、他の一般の教育に移るような、退場するうまい仕組みを作っておかなければいけない。これは前から我々議論しているがなかなか結論が出ていないということ。4番目の問題は、3番目ともリンクするが、外部評価結果が非常に悪い大学、要するに未改善校が退場する仕組みの一つとして、今は、獣医学教育を行っている大学を卒業した卒業生は獣医師の国家試験の受験資格があるというリンクが行われている。しかし、外部評価の結果、不完全という判定になった場合、そこの卒業生は国家試験の受験資格が本当にあるのかどうかといったリンクの問題も考えなくてはいけない。ただしこれは社会的な混乱とかいろんな問題が起こる問題であるため慎重に考えなくてはいけない。米国に前例があり、アメリカのアクレディテーションシステムを通らなかった大学は、年限を切って改善をする。そして、その年限以内に改善できなければ、その大学の卒業生は獣医師の資格を得られないという規則がある。そういったものを参考にしながら考えなくてはいけない。こういった解決すべき、非常に重い問題があるが、これについて我々は真剣に議論をして、この辺を解決して、改善の段階をひとつでも進めていきたい、というふうに思っている。これは、議論の課題ということで、必ずしもこれにとらわれることなく、率直なご意見を聞きたい。その前に設置基準のことについて、事務局から何かあるか。

●設置基準については、獣医学関係者の皆様から長年ご要望いただいている。また、いろいろな形で教員が足りない、もう少し充実させたいというご要望を承っているところ。獣医学を振興していく当課の立場から何とかしていい知恵がないかと考えている。事務方から見るとかなりハードルが高いが、何とかしていきたいという思いがある。一つお考えいただきたいのは、平成15年の大綱化をした後の設置基準の位置づけは、かなり重いものだと思っている。コアカリから算出される教員数という概念と、設置基準上の最低基準28人が直接につながるかは、もう少し慎重なご議論をいただきたい。設置基準を一歩でも下回ったら、大学は大学足り得ない。学校教育法上、文部科学大臣による閉鎖命令というものがあり、今まで大学の歴史上1回たりとも発動されたことはないが、国が強制的にやめなさいという根拠たりうる法律違反という形になるので、極めて重いものだと思っている。設置基準をどうするかということと、獣医学教育の在り方、理想像を追求するということを事務方の立場として、まずは出来るだけ一緒に考えつつも、違う面も見ながら、複眼的に考えていきたいと思っている。特にOIEへの対応もあり待ったなしの課題だと思っており、皆様方の知恵と事務方の観点をもう少し議論を戦わせるような形をしながら更に詰めて行きたい。

現在コアカリ作成の委託をしているが、次の手段を考えていかねばならない。いろいろな手段があった時代とは異なり、どのように経費を維持していくかというのは我々として頭を絞っているところ。あれもこれもという形には多分出来ないと思うので、来年度はこうしたい、こういうところに次のステップとして力を入れたいということがあれば委託研究などでできるのではないかと思っている。それを共用試験について行うのか、また、例えば諸外国の体制を調べるのがいいのか、あるいは、いくつかモデル的なケースを作って、在るべき獣医学教育の在り方について考えていくなどいろいろな形が考えられると思う。それは、協力者会議の場なり、全国協議会なり、いろいろな場を通じて皆様方と今後の方針について考えていければと思う。

○体的、現実的な話は良く理解出来る。しかし、コア・カリキュラムで18科目から51科目になるので、今の28名体制でどう獣医学教育を充実するか、というところに力点をおいて議論すべきだと思う。設置基準を議論しないならばこの会議の意義がなくなってしまう。

●28名から一切上げられないとか上げるつもりはないと言うつもりはない。ただ、事務方の立場からすると、さらに考えて行かなければいけないことがあるということで、思いは同じだということをご理解いただきたい。

○いきなり70人に引き上げると言っているのではなく、段階的にやればよい。過去に農学部長会議でも54名体制というのが出てきている。大学の方から、改善、改革、再編、共同学部をやってくださいという話が出るのは、おそらく獣医学だけだと思う。出来るだけしっかりと協力していただきたいと思う。

○外部評価基準というものを作り、その外部評価基準によって厳しい評価をし、その基準に達しなかった大学は退場していただくということで、実質的設置基準ということも出来る。設置基準の改正がとても難しければ、我々はそういった方法も考えなくてはいけない。要するに問題は実効あるものにするということ。外部評価基準は非常に重要だと思っている。

○この会議は国際水準に日本の獣医学教育を上げるということが大前提でスタートしている。獣医学部はこれまで農学教育の一部であった。それが獣医学教育として国際水準に到達するということになれば、大幅に見直ししないともう対応できないのではないか。もう一つは、入学定員の問題に触れるとなると、なおさら、設置基準の問題が非常に重要になってくる。設置基準を改正するのは、出席委員の気持ちではないかと思う。これまでずっと言い続けてきているので、是非ともこれにご協力をいただきたいと思う。

○一つは、コアカリは理想的なカリキュラムというイメージとは根本的に違う。ミニマム・リクイアメントとして、あるいは、ミニマム・コンピテンシーとして要るという考えで作ってきているプログラムである。もう一つは、足かせになっている再編統合の部分だが、護送船団で一気にやろうとすれば難しかったが、モデル校をはじめプログラムはすでに変わっている。コアカリと共用試験を含めて、すでに進行しているプログラムの現状をうけて、もう一回考えるべき。かつての再編統合の議論を繰り返す理由はない。

○コア・カリキュラムがミニマム・リクイアメント、これは非常に心強い言葉で、そう在るべきだと思う。もう動き出しており、これからの議論は、如何にして共同学部を立ち上げていくか、それが駄目ならば、統合というようなことも含めて議論すべき。それは護送船団でやるべきものではなく、出来るところからやっていくべき。そうすることでむしろスピードを速めることになる。

                                  以上

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