資料1 歯学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議 論点の整理

検討の視点

○歯科医療の高度化や医療ニーズの多様化等に伴う教育内容の増大や国家試験の難化の中、臨床実習の時間数の減少と卒業時の臨床能力の格差が生じていないか。

○18歳人口の減少や歯科医師過剰が叫ばれる中でのキャリアの魅力の低下などから、入学者の資質の低下や格差が生じていないか。

○歯学教育の質を確保し社会の要請に応える歯科医師としての臨床能力をはじめとする資質能力の向上が急務ではないか。

(主な意見)

・志願倍率の低迷について、入学時の基本的資質の低下につながっているのかどうか問題

・臨床実習の日数のバラツキがあり、研修の開始時点での差が大きく、カリキュラムだけではなく、臨床能力の質の担保について議論の必要

(参考提言)

・18歳人口の減少による大学全入時代を迎える中、大学歯学部に入学する学生の資質の低下が指摘(資質向上検討会)

・医療安全、全身管理、高齢者及び障害者への対応、EBM等、新たに習得すべき内容の増大に伴い、歯科医療の基本的技術の実習時間が減少の傾向にあると指摘(資質向上検討会)

・歯科医師数は毎年平均1,500人程度のペースで増加している。この結果、歯科医師1人当たりの患者数が減少していくことになり、現状の歯科医師の過剰感がますます強くなっていくと考えられる(資質向上検討会)

・歯科医師の過剰は、専門職としての魅力を低下させ、その結果、歯学部入学者の質の低下を招くと同時に、臨床実習及び臨床研修における患者の確保が困難となり、二重に質の低下を引き起こすこととなる(資質向上検討会)

歯科医師となる者の臨床能力の向上

○歯科医師として最低限必要な臨床能力の到達目標や評価基準を明確にした上で、各大学における臨床実習終了時OSCEの実施を推進すべきではないか。

○卒業時までに必要な臨床実習項目について、学生の実施履歴が記録できる共通フォーマットを作成してはどうか。

○臨床実習とその評価の期間が十分に確保されるよう、国家試験の内容を歯科医師として必要な事項に整理するとともにマッチングの時期を遅らせるなど適切な配慮がなされるべきではないか。

○共用試験は臨床実習前に必要な学生の能力の保証という趣旨を踏まえ内容を整理すべきではないか。また、実施時期の早期化についてどう考えるか。

○面接試験の実施等、目的意識・意欲等を見極める実効ある入学者選抜の更なる工夫が必要ではないか。

(主な意見)

・卒前の臨床実習について、卒業時の技能をしっかりと担保した上で臨床研修につなげていく必要がある

・臨床研修を終えてもまだ学生気分が残り、自己学習能力がない。卒業時に臨床能力について自信を持てるようにする必要がある

・国試対策で卒前臨床実習の時間がとれない。またマッチングを7,8月に実施するため、卒後臨床研修に関心が移り学生が浮き足だってしまう

・OSCEを実習前と卒業時に行うことは良いが国試との負担重複を避ける必要がある

・適性のない者に他の道への転向を求めるような厳しい措置ができるよう、CBTの時期を3年後期ぐらいに前倒ししてほしい

・資質に関するハードルを手前に設けるべきだが、CBTを利用するのは不適切。どの大学も実施できるような、資質のない学生を選別する方策を検討すべき

・面接対策の受験マニュアルもでてきているので面接に代わる方法も必要

・偏差値が人間の差別化につながっているのは憂慮すべき事態。学生の質の向上は、医療人の質の担保につながるため重要な問題

(参考提言)

・大学歯学部・歯科大学においては、入学時、在学中及び卒業時における各段階で、歯科医師として具有すべき資質をより適切に評価していくことが重要であり、これらの資質が欠如・欠落している者に対しては、可能な限り早期に進路変更を勧める(医道審報告書)

・実習の内容は、全ての診療科で同一同等の取り扱いを求めるものではなく、様々な診療科を通じて体系的に行うものであることに留意することが必要である。このため、全学的な実施体制を構築した上で、学生の実習内容を記録し、実習の場となる診療科が変わった場合にも、新たな実習先がそれまでの実習内容を把握し、実習の成果を段階的・体系的に蓄積していく体制を構築することも必要である。このような各診療科の実習内容の記録を診療参加型臨床実習終了時や卒業時の学生に対する評価や指導に活用し、必要に応じて実習内容の改善を行うことも考えられる(医学協力者会議最終報告)

臨床能力を育成する歯学教育の充実

○臨床能力の修得に不可欠な臨床実習の単位数の明記等、制度的な位置付けを明確にすべきではないか。

○卒後臨床研修を含め、学外の歯科医療機関との連携や臨床教授等の活用を促すべきではないか。

○患者の理解と協力が得られるよう、共用試験の意義の広報に努め、合格者に対する統一的な証明書の発行を検討すべきではないか。

○シミュレーター等を活用した臨床基礎教育や問題解決能力、コミュニケーション能力の育成を推進すべきではないか。

○口腔と全身の関わりなど医学との連携を含めた幅広い歯学教育を推進すべきではないか。

(主な意見)

・卒前、卒後の重複・乖離、コアカリの改訂含め、卒前・卒後が連動した教育内容となるようにする必要がある

・標準化すると没個性になり、コアカリでミニマムを定めたつもりが、マキシマムになってしまった。出題基準もコアカリも、スリム化する必要があるが難しい課題

・臨床の現場のニーズを生かす学部教育が重要

・医科と歯科が全く別に行われているのは早急に改善すべき

・今の学生は指導者の下でしか動いていないため、知識量があるが、考える力はまだまだ足りない

・知識技能はモデルコアカリキュラムや共用試験で担保されてきているが、情意教育の充実が必要

・きちんと模型実習をやっていないと臨床研修で不都合が生じる。段階を追った技能教育が必要

・シミュレーション教育を含めて歯科技工を臨床基礎でも教えていないところもある

・臨床実習のバラツキについては、医行為の法的根拠、患者数等の問題がある

・マッチングの改善や病院歯科が優遇できるような施設基準とすれば、研修、実習を病院歯科に誘導できる

・共用試験は患者を納得させるためのでもあるが、これを活用し、合格していることを患者に対して説明していない

・国試合格率は大学によって90~40%まで差がある。本来医療人としての知識を評価することが国試の目的であったはすが、専門分化が進み過ぎ、国試の難しさが教育内容を阻害している

(参考提言)

・口腔と全身との関わりや高齢者・全身疾患を有する者等への対応、歯科疾患の予防管理等について内容を充実(医道審報告書)

未来の歯科医療を拓く研究者の養成

○歯学教育を通して研究マインドを育成するとともに、研究室配属など実際の研究に携わる機会を拡充すべきではないか。

○歯学系大学院の目的を、基礎・臨床を問わない研究者の養成と、研究能力を備えた歯科医の養成に明確化し、他大学等と連携を図りつつ、各大学の特色を生かした魅力ある大学院教育を提供すべきではないか。

(主な意見)

・大学院教育の目的は、高度な研究者、専門技術者の養成だが、技術者と研究者の養成の両立をするには、やり方をかえることも制度の見直しを含めて議論する必要

・歯学の学生は卒業してすぐ大学院に入るため、臨床マインドに乏しく、未熟。論文も書いていない学生もいる

・大学院生の段階で、どれだけ臨床について知っているのか疑問。臨床を徹底的に研究した上で、基礎の先生の指導の下、基礎的考え方を学ぶ方がよいのではないか

・臨床の教室ではPatient-Oriented Researchを行うべき

・資格さえ取ればいいという風潮が強すぎる。医学でも歯学でも、コアカリにもあるようにResearchの視点を取り入れ、基礎的視点を持った臨床医を育てるべき

・国立のほうが、若干研究志向が強い。私立大学の歯学部の学生は、臨床歯科医になることを目指して入学してくる

・日本はアカデミック・トラックとプロフェッショナル・トラックの仕分けができていない

質の高い教育体制の確立

○歯学教育担当の専任教員の配置が進められるべきではないか。

○臨床実習をはじめとする各大学の教育活動の質を保証する第3者評価の仕組みを検討すべきではないか。

○歯科医師の地域的集中の是正の観点から、都道府県との連携を深め、計画的な歯科医師の養成に努めるべきではないか。

○質の高い入学者を確保し歯科医師となる者の質を確保する観点から自ら入学定員の見直しを検討すべきではないか。

(主な意見等)

・需給問題については検討しなければならない。従来の調整方法には限界があり新たな切り口が必要である

・歯科医師が多いことは事実だろうが、国試で絞るべきではない。適正数について議論すべき

・1つの研究を一つの大学で完結させるのは難しくなってきており、複数の大学が集まって講座を運営するという例も増えている

・教員組織や学生の質が違うため、各大学の大学院の存在意義も違う。機能分化することが必要。研究科長や学部長がリーダーシップを発揮し、ビジョンを明確にすべき

・歯科で教育担当の教授を置いている大学は非常に少ない。設置基準上の問題で、講座数が少ないため、そのために割ける教員数がない

・第三者評価は機関別と分野別があるが、学部教育は専門分化している。パターン化しない評価手法を考案する必要がある

・評価基準の設定のためにはまず卒業時の設定をきちんとする必要がある

・欧州のように第三者評価による大学評価を厳しくして(認可取り消しも有り)、国試を簡単にするというのも一つの方法

・カナダでは、国試はあるがレベルの高い大学はパスできる。毎年、国が大学を査定し、レベルが下がると国試受験対象大学になる

・歯学部附属病院は教育病院としてのウェイトが高く、医科の理解が必要。また、目指すべき歯科医師像の提示など、キャリアパスの設定が必要

・教育病院としての機能と地域病院としての機能は相反するため、分けるべきではないか

(参考提言)

・今後、法科大学院教育の質の一層の向上のため、例えば、以下のような状況が見られる法科大学院については、自ら主体的に入学定員の見直しを個別に検討する必要がある。

1.入学定員の規模に比して質の高い教員の数を確保することが困難

2.志願者が減少し競争率が低いため質の高い入学者を確保することが困難

3.修了者の多くが司法試験に合格していない状況が継続

・特に小規模の法科大学院や地方の法科大学院において、今後、単独では、質の高い教員が十分確保できず、充実した法律基本科目や幅広い先端・展開科目の提供が困難となるなど、教育水準の継続的・安定的な保証について懸念が生じている場合には、他の法科大学院との間で教育課程の共同実施・統合等を図ることを積極的に検討する必要がある。(法科大学院中間まとめ)

今後の検討

○モデル・コア・カリキュラム、共用試験、国家試験、臨床研修の間の整合性の確保のために、文部科学省と厚生労働省が連携し検討を行う必要があるのではないか。

(注)括弧内の略称は下記の報告を意味する。

医学協力者会議最終報告:「医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」最終報告(平成19年3月)

法科大学院中間まとめ:中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会中間まとめ(平成20年9月)

資質向上検討会:今後の歯科保健医療と歯科医師の資質向上等に関する検討会中間報告書(平成18年12月)

医道審報告書:医道審議会医師分科会歯科医師国家試験制度改善検討部会報告書(平成19年12月)

 

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