歯学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議(第4回) 議事要旨

1.日時

平成20年10月28日木曜日10時~12時

2.場所

文部科学省16階16F1会議室

3.議事要旨

●  事務局より、資料1について説明

○:医学のほうでは、「医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」において、一次、二次、最終報告とまとめており、お手元の机上資料の中にもこの三次の報告書が綴じられている。これまでの議論で問題となった項目のかなりの部分が、この最終報告の目次に上がっているため、参考までに、一次報告から最終報告をとりまとめるまでの経緯とこれらの報告書の概要について、福田(康)先生にご説明いただきたい。医科の状況との比較で、医科との共通の課題及び歯科の特異性を明らかにし、今後の議論の参考としたい。

○:「医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」の立ち上げ、報告書とりまとめに至った発端としては、やはり医師不足、地域医療崩壊の問題があった。加えて入学定員の問題。これは歯科とは反対の議論になるが。また、がん対策基本法の問題。地域医療については、コアカリの総点検を行い、分散されていた記載をまとめた。がんについては、コアカリに記載がないのではないかとの意見もあり、記載を見直し、分散して記載されていたものを分かりやすくまとめた。医療安全推進対策についても見直しをした。さらに、現状の医師養成システムの在り方と臨床研修制度、大学病院の在り方についても検討。この時期は、高等教育全体にわたる教育の質の保障についての議論が出始めた頃であり、医学は先頭にたってやっていた感がある。最終報告では、これからの方向性を示したが、報告書をまとめた当時に比べ状況はさらに悪化している。中教審の中長期的な大学教育の諮問も踏まえ、10年後でも古くならない報告書を作る必要がある。また、臨床実習をきちんと実施できるようにするためにも卒業時の質の担保が問題であり、コアカリの全面改訂やOSCEの見直しなど、現在の制度の全面的な見直しが必要。報告書においても、コアカリは随時改訂されるものであることを明示している。共用試験で終わり、というのもダメ。

○:本会議において提示された歯科の問題は、「医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」の報告書において、ほとんど網羅されている。また、現状が深刻化していることも事実。

●  資料1について

【1.歯科医療・歯科医師に係る現状認識】

○:「高レベルの医療を求める・・・」の「高レベルの医療」とは何を指すのか。この定義により、議論の方向が違ってくると思うが。また、「若手医師」の「若手」とは?

○:「歯科医師の現状のレベルは低下しているか」とあるが、低下していない。これは、「若手」という単語を追加したほうがよいのではないか。「若手」=新卒の歯科医師、研修歯科医師、卒後臨床研修修了後の歯科医師ということではないか。

○:「高レベルの医療・・・」というのは、大学病院に来院する患者は、高いレベルの医療を求めているため、学生や研修医に治療されるのは不本意、という文脈で使われたと記憶している。例えばヨーロッパでは、患者教育も盛んに行われており、患者の理解を得る努力をしている。

○:開業医の立場からの意見としては、歯科医師のレベルは決して低下していない。先進医療については昔から言われているが、先進医療を実施できるかどうか、知識として知っているかどうかとは別問題。

○:歯科医療全体の問題としては、一般の歯科医院においては、診療報酬点数が低いため、自費診療を勧めるなど差別化を図るための努力をしている。当然、保存を主とする歯科医院ではインプラントを勧めることはない。一方で、患者側からすると、強調する診療内容がそれぞれの歯科医院で異なるため、評判がいい歯科医師と聞いて受診したら、前の歯科医師とは全く違う治療方針を提示され、何を信じていいのか分からない、という状況に陥る。標準化とは逆に差別化が進みすぎるのも問題。

○:特色を出すと差別化に拍車がかかる。医科に比べて、歯科は、インプラントなど混合診療の色合いが強いため、特色を出そうとすると差別化の傾向が強くなるのではないか。

○:総論になって恐縮だが、文部科学省は、数年前から、特色を出すように、個性を持たないと淘汰される、と言うが、歯学部の個性とは何か?歯学部は歯科医師を養成しているのだから、それが個性だと言う人もいるが、それには違和感がある。本来は29の歯学部の中で特色を出し、個性化を図ることが必要なのではないか。しかし、歯学部の入学者の当面の目標は歯科医師免許取得であり、歯科医師免許取得のための道筋はある程度同じ。個性化を図るのは困難。特色ある教育を行って、国試不合格者が多く出た場合、非難されるのは必至。あるレベルまで持って行くことが要求されている状態であり、コアカリや、共用試験がある中で差別化を図るのは無理。

○:医科のコアカリ作成時にも同じ議論があった。医療人養成という目標がある以上、どうしても共通するポイントはあるが、その中で見直しを図ることが必要。コアカリでは、最低限学ぶべき内容を定めてあるだけで、授業の在り方や実習の組み方は自由。コアカリの内容さえやればいいというのでは、本末転倒。自分たちでどうすればよいのか考えるべき。実態はコアカリ任せなのではないかと思うが、もっと高いレベルのことをやってほしいという思いがある。コアカリがマキシマムではない。しかし、それに見合ったレベルの学生が入ってきているかどうかは疑問。国試の問題を作成しているのも大学の教員だが、専門的な難しい問題を出題するなど、コアカリの教授と矛盾するような出題も多い。教員の意識を変える必要がある。

○:国試はマキシマムになっており、高いレベルが求められる。

○:国試の出題基準改定では、先生方は頑張りすぎて高レベルになる傾向がある。しかし、この作業を行っているのも大学の教員なのだから、教員が自覚し、この傾向を改めるべき。

○:標準化すると没個性になり、また、コアカリでミニマムを定めたつもりが、マキシマムになってしまった。出題基準もコアカリも、スリム化する必要があるが、教員の領域争いなどもあり、難しい問題。引き続き議論したい。

【2.学生の質の向上】

○:今の入学者は「将来歯科医師になる」という意識を持って講義を受けているのか疑問。やはり、18歳で将来を決めるのは無理があるのではないか。ある程度の年齢に達しているほうが、学生の質の担保の観点からはよいのでは?例えば、社会人経験が4年くらいないと入学できないとか、学士編入学など。米国のようにデンタル・スクール化するなどすれば、学生の意識も上がるのではないか。

○:学生の幼稚化は、医科・歯科に限らず大学全般にいえることであり、学生のレベルは低下している。医科・歯科については、偏差値だけの選別は適当でない。学生の選抜方法、国試の在り方を見直すべきではないか。

○:今の高校生の受験基準は第一に予備校の発表する偏差値であり、歯学部を受験する場合は偏差値に加えて国試合格率。受験生は偏差値が高い方を受験する傾向にあり、偏差値の高い大学(学部)に入った者が偉いという意識をずっと引きずっている。これが歯学部の学生にとってはマイナス要因。18歳の一時期の結果が、卒後もずっと持続しているような錯覚を持っている。大学卒業時の偏差値を比較するなら、歯学部卒業生の方が勝っているはずである。18歳人口が減少しているのだから、優秀な学生も少なくなり、レベルが下がるのは当然。このよう中で資質向上をはかるのは困難。中高の間にそれなりの学力と人間性が形成されていなければ、大学でそれらを行うのは無理。

○:当然、偏差値だけで入学者を選抜するのは止めるべきであり、偏差値が人間の差別化につながっているのは憂慮すべき事態。学生の質の向上は、医療人の質の担保につながるため重要な問題。

○:米国のメディカル・スクールに似た制度として、日本では学士編入学を実施してきた。学士編入学の学生は、モチベーションがあるにはあるが、人の上に立ちたい、医者は儲かるなど浅いモチベーションでしかない。残念ながら、学士編入学者の評価は決して高くはない。歯科でも学士編入学の効果をきちんと検証すべき。また、米国のように4年間リベラル・アーツを学ぶだけの価値がある大学が、日本にあるのかも疑問。

○:一つ誤解があるのは、米国では、リベラル・アーツといっても人体については、ほとんど勉強してからメディカル・スクールに入学してくる。

○:ヨーロッパは日本と同じような制度であるが、入試制度に違いがあり、かなり長期にわたって判定する方法をとっている。

○:「大学の個性化」と「学生のモチベーションを高める」ことについては、昔は各大学は個性化されていた。学力というより、歯科医師としての人格形成にかなり力を入れていた。それが、コアカリやOSCEが導入され、薄まってきている。学年が上がる毎に学生の興味、モチベーションは上がり、それが大学の教育のやり方、各大学の個性ということではないか。この点からも大学における教育が重要。

【3.教育の質の向上】

○:「改善の視点」に挙げられていることは、教員の教育能力が重要になる。継続的に教員の教育能力を改善していくべきであり、この問題は十分に議論するべき。

○:資料に挙げられている事項は抽象的すぎる。具体的な方法を明示し、それをここで議論すべきではないか。

○:具体的な方向性を議論するべきということか。

○:具体的な例を挙げても、全ての大学で同じようにできるわけではない。その大学の歴史や教員の質によって左右される。むしろ具体例を示すなら、なぜそれが成功しているのか理由を示すほうが意味がある。目標は同じでもその過程において個性化をはかるべき。

○:昔は、学習意欲がないなら大学に来なければいいという感じだった。大学は、学ぶ意思を持った学生が来る所だったが、現在はそうではなくなってきている。学ぶ「意思」まで大学側が与えてやるというのはやり過ぎ。コアカリも、標準化しようとして、逆に詰め込みすぎて個性化できないという問題が起きている。何でも与えすぎはよくない。

○:コアカリの周りを個性化で埋めるべきではない。

○:--委員の言うとおりで、個性的なカリキュラムを作成したら、コアカリが入っていた、というのが理想。ミニマムがマキシマムになるのが問題。

○:教員は「学習意欲を刺激するような教育」を行っているはずだが、学生の反応が薄いため、教員の教育意欲の低下につながる。学問が面白いという前提で授業をするのも間違い。学問は面白くないものだという前提で授業を始めるべき。1,2年たち、ある程度分かってくると面白くなってくる。面白くなるまで引っ張るのが教員の役目。

○:日本は昔からの伝統で、「面白くなくてもやるもの」という意識がある。米国がよいというわけではないが、米国ではその辺はかなり工夫している。

○:面白いかどうかではなく、教育効果があるかどうかが重要。カリキュラムとは目標と教育方法、効果を含めたものを指す。その点でコアカリは誤解されている。コアカリは目標を定めたものであり、いうなればコア目標。どう教えるかが問題であり、評価、プロセスは各大学に任されている。また、技能評価が必要。

○:演習をやっていないのが問題。グループワークや、人に教えさせる(後輩の指導はコアカリにもある)ことは、評価が難しいが、能力の差がはっきり出てくる。自ら参加し、やらせることが必要であり、効果的。

○:カナダでは、少人数のチュートリアルに切り替えて、数年後国試の合格率が下がった。チュートリアルを取り入れるのは4分の1が限度。

○:チュートリアルで失敗した例は他にもある。他の方法と併用しないと効果はない。

○:教育に専念できるポジションが必要。

○:歯科でも教育に専念できるポジションはあるのでは?医科ではコアカリの導入がすすんでから、教育担当が何十人もいる。

○:教員のモチベーションを上げることも重要。教育者でありながら、研究者の意識しかない教員がいる。研究者の評価システムの確立も一つの手ではある。

○:歯科で教育担当の教授を置いている大学は非常に少ない。設置基準上の問題で、講座数が少ないため、そのために割ける教員数がない。

○:設置基準は昔の話。法人化して自由になったはず。自分たちで変えていかないと。

【4.歯科医師養成規模】

○:「新たな切り口が必要」とあるが、なにか意見はないか。ここは当事者が多いため、当事者ではない前野委員に率直な意見をお願いしたい。

○:歯科医師が多いというのは事実だろうが、国試で絞るべきではない。適正数について議論すべき。これは、医科との連携という話にもなるが、医科と歯科が全く別に行われているのは早急に改善すべき。以前、読売新聞の特集で、麻酔科に歯科医師の協力を、という記事掲載したら、麻酔科医からかなり反発を受けた。麻酔科医は既得権益を守ることしか考えていないが、本来は国民の利益を考えるべきではないか。当事者ではない者、マスコミなどの視点が必要だと感じる。

○:厚労省は、国試はあくまで歯科医師の質を担保するものであり、需給調整を行うものではないとの見解。どういった調整が必要か議論すべき。歯科医師を増やすときは手前勝手に増やしておいて、減らすときには行政まかせというのはよくない。自立すべき。

【5.研究者・教育者の養成】

○:先ほど--委員から、デンタル・スクールという意見がでたが、米国では、このせいで研究者が育っていないという側面もある。研究者養成と専門家の養成についてはどこもジレンマを抱えていると思うが、システム的なことなど提案はないか。

○:特にいい考えはない。 

【6.学部、大学院教育体制】

○:「医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」の報告書にも記載があり、大学院GP等で改革案が出されているが、当面の一番の課題は臨床系大学院をどうするか。

○:研究者養成と専門技術者養成を両方やるのは基本的に無理。臨床系大学院では4年間で両方求められるが、現在はレベル自体が高度な研究を求められており、研究をしながら病院で臨床も行うというのは無理がある。プロフェッショナルを外す方がよい。また、プロフェッショナルを目指す人には学位を与えず、専門医を取得させるべきではないか。

○:正にその点が問題で、全員が基礎研究をやる必要はない。大学院の原点は教育機関なのだから工夫してやるべき。

○:大学院重点化のときに定員が増え、このときの増員理由が、プロフェッショナル養成もやる、ということだった。それで、混乱が起こっているというのが、中原先生の意見。日本はアカデミック・トラックとプロフェッショナル・トラックの仕分けができていないのが問題。中教審の諮問の様子もみながら、すぐには解決できない問題ではあるが、早急に対応すべき問題。

○:日本歯科大学では、全て学部ベースの大学院だが、ある大学では研究所ベースで大学院を運営しており、小さくまとまっていて非常に効率的。18講座が全て研究をする必要はなく、研究所ベースのようなやり方もよいのではないかと思う。

○:独立研究科の設置も可能となっているが、講座が強くてなかなか進まないという現状もある。

●  資料5について

○:本事業は、本会議の調査についても行うことを前提に獲った予算である。今後の議論のために、年度内にどういったデータが必要か、どのような海外調査、第三者評価をすべきか、意見をお願いしたい。

→次回までに江藤座長まで連絡するか、次回会議で意見を。

【7.歯学教育の質保障システム】

○:中教審の諮問の中の2ページ目、「第三に、・・・」と「第四に、・・・」のくだりに基づき、議論を深める必要がある。概略すべきことなど提案はないか。

○:分野別評価をどうするのか。医科、歯科、薬学、看護、それぞれ別々に行うのか。

○:ベースになるのは専門職大学院の評価手法・・・・・認証評価だけでなく、それぞれの基礎となる調査研究を進めていく・・・・・当面は学位プログラムに立脚して行っていくことになる・・・・・

○:仕分けをどうするかについては、事務局と相談の上整理し、次回の会議においてお示しする。

○:学会単位にならないようにしてほしい。コアカリ策定のときもそうだったが、学会単位になると領域争いになる。全て集約して行うというスタンスでお願いしたい。プログラムに則ってやった上での「質の保証」が必要であり、医療系として一つのスタンスを示すべき。

○:「8.附属病院等」については、資料6のとおり、次回のテーマに「大学附属病院について」を予定しているため、次回の会議に持ち越したい。

○:学生のOSCE、CBTの成績についての分析の暫定版ができた。お回しするので、ご覧いただきたい。

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