1 医学部の定員をめぐる動向

(1)我が国の医師養成制度

  • 我が国の医師国家試験の受験資格は、「大学において医学の正規の課程を修めて卒業した者」(医師法第11条)とされており、医師免許を取得するには、外国の医学校を卒業した場合や外国において医師免許を取得した場合等を除き、医学部の卒業が必須となっている。
  • すなわち、我が国の医師養成は基本的には大学医学部で行われており、このため、その定員の在り方は、医療政策や医師の需給等と密接な関わりを持っている。

(2)これまでの医学部の定員の取扱いの経緯

  • 戦後、新制大学が発足して以来、大学医学部の数は46校(国立21校、公立12校、私立13校)、入学定員は3,000人前後で推移してきた。昭和40年代に入り、国民皆保険制度の定着に伴う医師需要の増加や医療水準向上の要請に対応し、大学医学部の拡充が行われた。国の無医大県解消計画や私立大学の設置申請により、大学の新設や定員の増加が進められ、昭和56年度には、大学医学部数は79校(国立42校、公立8校、私立29校)、入学定員は8,280人に達した。
  • 昭和50年代後半からは医師の需給に関する議論が始まり、昭和57年には、医師については、全体として過剰を招かないように配意し、適正な水準となるよう合理的な養成計画の確立について政府部内において検討を進めることが閣議決定(「今後における行政改革の具体化方策について」)された。昭和61年には、厚生省の「将来の医師需給に関する検討委員会」の最終意見において、平成37年には医師の10パーセントが過剰になるとの需給検討に基づいて、平成7年を目途に医師の新規参入を10パーセント程度削減するとの提言がなされた。また、昭和62年に文部省の「医学教育の改善に関する調査研究協力者会議」の最終まとめにおいて、平成7年に新たに医師になる者を10パーセント程度抑制することを目標として、国公私立大学を通じて入学者数の削減等の措置を講じることが提言された。
  • さらに、平成9年には、大学医学部の整理・合理化も視野に入れつつ引き続き医学部定員の削減に取り組むことが閣議決定(「財政構造改革の推進について」)された。平成10年には、厚生省の「医師の需給に関する検討会」の報告書において、平成29年頃から供給が需要を上回り、その後も乖離の拡大が続くとの需給検討に基づいて、高齢者人口が最も多くなる平成32年を目途に医師の新規参入の概ね10パーセントの削減を目指すことを提言した上で、入学定員については、昭和61年の検討委員会の提言に係る、昭和59年当時の医学部入学定員を10パーセント削減するという目標の達成に向けて、改めて関係者が調整の上、具体的に取り組むことが要請された。また、平成11年に文部省の「21世紀医学・医療懇談会」の第4次報告において、医学部の入学定員について、当面、昭和61年~62年に立てられた削減目標の達成を目指して国公私立大学全体で対応すべきことが提言された
  • これらの提言を踏まえ、医学部の入学定員は、新たな入学定員増は行わないとともに入学定員の削減を図ってきたところであり、現在までに、入学定員が最高であった時点と比較して、国公私立を合わせ7.9パーセント(国立10.7パーセント、公立0.8パーセント、私立5.3パーセント)の削減が実施されている。

(3)最近の医学部の定員の取扱いをめぐる動向

  • 厚生労働省においては、平成17年2月より、「医師の需給に関する検討会」を設けて平成10年の検討会報告書公表後の医療を取り巻く環境の変化や社会経済状況の変化等を踏まえた医師の需給の将来推計や取り組むべき課題について検討を行い、同年7月には地域別、診療科別の医師の偏在解消に関する当面の医師確保対策等を中間報告としてとりまとめた上で、平成18年7月には、その報告書(以下「検討会報告書」という。)がとりまとめられた。
  • 検討会報告書では、将来の医師の需給の見通しとしては、「供給の伸びが需要の伸びを上回り、平成34年(2022年)に需要と供給が均衡し、マクロ的には必要な医師数は供給されるという結果になった」としている。一方、「全体の需給とは直結しないが、地域別・診療科別の医師の偏在は必ずしも是正の方向にあるとは言えず、また、病院・診療所間の医師数の不均衡が予想される等の問題があり、厚生労働省は関係省庁と連携して効果的な施策等を講じることが必要である」とした上で、大学医学部における地域枠の設定、地方公共団体が取り組んでいる勤務地を指定した奨学金の設定、地域枠と奨学金の連動の推進等の具体的な取組に関する提言がなされた。入学定員に関しては、「医師の養成には時間がかかること、また、多額の国費が投入されていることを踏まえれば、医師数が大きく過剰になるような養成を行うことは適当ではない」「医学部定員の増加は、短期的には効果がみられず、中長期的には医師過剰をきたす」とする一方、「(へき地を含む)地域における医療体制の確保は喫緊の課題であることから、すでに地域において医師の地域定着策について種々の施策を講じているにも係わらず人口に比して医学部定員が少ないために未だ医師が不足している県の大学医学部に対して、さらに実効性のある地域定着策の実施を前提として定員の暫定的な調整を検討する必要がある。」としている。
  • さらに、平成18年8月に、地域医療に関する関係省庁連絡会議(厚生労働省、総務省及び文部科学省)において取りまとめられた「新医師確保総合対策」においては、奨学金の拡充など実効性のある医師の地域定着策の実施等を条件として、医師の不足が特に深刻と認められる10県(青森、岩手、秋田、山形、福島、新潟、山梨、長野、岐阜、三重)において、平成20年度からの最大10年間を限度として、最大10人を医師の養成数に上乗せする暫定的な調整の計画等を容認するとともに、自治医科大学においても同様の暫定的定員増の申請を容認することとされた。その上で、関係審議会において、大学の具体的な定員の在り方について検討を行った上で大学の定員増の申請の審査を行うこととされたところである。

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