今後の学校法人会計基準の在り方について(検討のまとめ)

2004年3月31日
学校法人会計基準の在り方に関する検討会

目   次

 見直しの背景

 見直しの方向性

 基本金の在り方

 収支計算構造の在り方

 様式及び記載事項等の在り方

 財務情報公開制度化への対応

 今後の課題

参考資料(※国立国会図書館ホームページへリンク)別ウィンドウで開きます




 見直しの背景

 学校法人会計基準は、国または都道府県から経常的経費について補助を受ける学校法人が会計処理を行い、財務計算に関する書類を作成するに当たっての基準として、文部科学大臣が定めたものである。
  この基準の内容は、学校法人の特性、すなわち、私立学校の公共性が極めて高く、安定性、継続性が特に強く求められること、このため、営利企業と異なり、剰余が多いほどよいというものではなく、むしろ長期にわたって収支の均衡をとることが求められること等を踏まえたものとなっている。
  学校法人会計基準は、昭和45年、私立学校の経常的経費に対する国の補助制度が創設されるに当たり、公費により経常費補助を行うためには、当該補助金を受ける学校法人の公共性が一層高められ、適正な会計処理が行われることが前提となることから、統一的な会計処理を行うための基準として、昭和46年に制定された。
  このような目的から制定されたものであるため、学校法人会計基準は、私立学校振興助成法により、国または都道府県から経常的経費について補助を受ける学校法人に適用されるものとされている。但し、他の学校法人についても、学校法人会計基準に従って会計処理を行うことが望ましいと考えられている。
  その後、幾度か改正がなされたが、我が国の学校法人の会計実務に広く定着し、学校法人の財政の維持と発展とを図るために有効な情報を提供してきた。
  一方、近年、財務情報の公開が進む中で、学校法人の財務書類についても一般の人から見てもう少し分かりやすいものにできないかとの声があり、また、他の公共的法人にかかる会計基準の見直しにおいても、それぞれの特性は維持しつつ、可能な範囲で新しい企業会計の基準の考え方を取り入れる動きがあり、これらの状況を受けて、総合規制改革会議の答申でも見直しの検討が必要であるとの指摘がなされたところである。さらに、社会経済情勢の変化に応じて各学校法人が事業の見直しを行った場合、実態をより正確に表すよう必要に応じ基本金の取崩しを認めるようにすべきではないか、との意見もある。
  一昨年10月に大学設置・学校法人審議会の下に設けられた学校法人制度改善検討小委員会においてもこの問題が議論の俎上に上ったが、「会計基準の見直しに当たっては、専門的・実務的知識が必要とされるため、本委員会とは別に、新たな組織を設けて検討することが適当」とされた。これを受けて、昨年8月、高等教育局長決定により本検討会が発足した。以来、これまで11回にわたり精力的に検討を行い、ここにその内容をとりまとめた。


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 見直しの方向性

 学校法人会計基準は何のためのものか
  学校法人の会計は、教育研究上の要求と財政上の諸条件との持続的な調和を図り、学校法人の永続的な維持を可能にするための計測の指針を提供するものであり、同時に、学校法人の諸活動の合理的な決定とその実行結果についての判断に資する資料を提供する観点から、的確に処理されなければならないものである。
  学校法人会計基準は、経常的経費に対する補助金の交付を受けていない学校法人には適用されないが、他に学校法人における会計処理の基準となるものがない現状では、これを参考に会計処理を行うことが一つの望ましい在り方と考えられている。文部科学省が各学校法人の参考として示している「学校法人寄附行為作成例」(昭和38年3月12日私立大学審議会決定)においても、会計に関する規定の例として、「この法人の会計は、学校法人会計基準により行う。」(第29条)とされているところであり、現実にも多くの学校法人がこれに沿った会計処理を行っているものと考えられる。その意味でも影響力の大きいものであるといえよう。

 学校法人会計の特性
  学校法人にあっては、永続的に教育研究活動を行えるよう必要な校地や校舎等の基本財産を健全に維持することが必要であり、さらに、長期的にみて収入と支出のバランスをとることが特に重要である。このことは学校法人の根幹ともいうべき基本的な考え方であり、これを実現するために「基本金」の制度が取り入れられている。
 したがって、今後ともこのような学校法人の特性を踏まえ、このような基本金についての考え方や収支均衡の考え方は、維持すべきである。但し、学校法人が必ず保持しなければならない基本的な財産をどうとらえるかについては、教育研究条件に対応したものとして、社会情勢の変化に応じた弾力的な在り方を考えるべきであろう

 現行基準に対する改善意見の例
  一方で、学校法人会計基準についても、他の公共的法人にかかる会計基準をめぐる最近の動向等、社会の情勢に対応した不断の見直しは必要である。具体的には、例えば、新しい企業会計の基準の考え方を取り入れる等、できるだけ積極的に対応すべきである。また、財務書類をより分かりやすいものにすべきであるとか、事業の見直しを行った場合に必要に応じ基本金の取崩しを認めるようにすべきである等の声に早急に応えていくことも重要である。
  さらに、収支のバランスの状況については、中長期的な消費収支の均衡を図るということも大切であるが、年度ごとの収支のバランスの状況がより分かりやすく計算書類に表示されるようにすべきとの要請も強い。
  また、「事前規制から事後チェックへ」という規制緩和の流れの中で、学校法人は、公共性の高い法人として、これまで以上に情報公開を進め自ら説明責任を果たしていくことが重要であり、これによって社会から評価を受け、ますます質の向上が図られていくことが期待される。したがって、学校法人会計基準についても、今後は財務書類の公開も念頭に置きつつ、その在り方を考えるという視点が必要である。

 留意すべき点
  今日、学校法人会計基準は学校法人の会計実務に広く定着しており、その変更は各学校法人における実務に大きな影響を与えることになる。したがって、見直しを行う場合、各学校法人における実務に支障を来たすことなく円滑に実施するためには、その内容や趣旨を関係者にしっかりと周知することや、特に小規模の学校法人における事務体制の実態等に十分配慮することが必要である。このため、具体の改訂に当たっては、私学団体等関係者の理解を得つつ、円滑な実施を期すべきである。
  また、将来的な改正の方向性についても、他の公共的法人における会計基準見直しの状況や、新しい企業会計の基準の考え方等の情報をできる限り関係者に周知するなどして、理解を深めていくことが重要である。


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 基本金の在り方

  学校法人が学校を運営していくために必要な基本的な資産は、学校が存立している限り、当然、継続的に保持しなければならないものである。
  この基本的な資産を価額の面でとらえるのか、実態の面でとらえるのかについては議論があり得るが、いずれにしても、これらの資産の金額を「基本金」という形で維持するという現行の考え方は、学校法人会計基準の最も特徴的なものの一つである。この基本金についての議論のポイントの一つは、「学校法人が、その諸活動の計画に基づき必要な資産を継続的に保持するために維持すべきものとして、その帰属収入のうちから組み入れた金額を基本金とする。」(学校法人会計基準第29条)との考え方を、今後とも維持するか否かである。
  現在は、1第1号基本金(設立当初に取得した固定資産の価額、新たな学校の設置・既設の学校の規模の拡大や教育の充実向上のために取得した固定資産の価額)、2第2号基本金(将来取得する固定資産に充てるために、事前に計画的・段階的に積み立てる金銭等の資産の額)、3第3号基本金(基金(奨学基金、研究基金、国際交流基金等)として継続的に保持・運用する金銭等の資産の額)、4第4号基本金(恒常的に保持すべき金額として文部科学大臣が定める額(1か月分の経常経費の額))となっており、基本金の取崩しができるのは量的規模の縮小(学校等の廃止、定員の縮小等)の場合に限定されている。これについて、今後は、諸活動の見直しや教育設備の取替更新等に伴う資産の減少等がある場合(第1号基本金)、将来計画や事業の見直しに伴い、その計画等を中止または縮小する場合(第2号基本金、第3号基本金)にも取崩しができるようにし、実態をより正確に表すようにすることが適当である。これは、例えばキャンパスの統廃合や、学生寮を廃止し以後建設を予定していない場合など、いわゆる空洞化している基本金についても、基本金組入れ対象資産との整合性を図る必要があるということである。
  さらに、第4号基本金については、そもそも、保持を義務付けなくてもよいのではないかとの意見もある。
  基本金についての将来的な在り方としては、現行の制度を基本的に維持しつつ、前述のように基本金の取り崩しを必要に応じて認めていくべきとの考え方もあるが、本検討会としては、
れに加え、
(a)  学校法人における資本取引についての概念を明確にしたうえで、基本金の考え方を存続させる。その場合、「寄附者、学費負担者など利害関係者の意思」を資産の拘束性の程度に反映させる仕組とすること。具体的には、1創立時に寄附された施設設備、2特定の施設設備を取得するなどのために受領した寄附金等(現物寄附を含む。)で寄附者の意思が明確であるもの、3帰属収入から消費支出を除いた、いわゆる帰属収支差額(=基本金組入前差額)の範囲で、学校法人の意思決定により基本金に組み入れることとされたものを「基本金」ととらえるという考え方。
(b)  基本金は現在の制度とし、毎年度、基本金組入れ対象資産にかかる減価償却見合い額について取崩しを行うという考え方。
等を中心に検討を行った。
  但し、(a)については、学校法人会計基準の基本的な考え方を大きく転換するものであり、各学校法人における会計実務への影響が極めて大きいと考えられること、また、収入の全てについて「寄附の意思が明確である寄附」との概念に対応したものに整理できるか等の課題が残る。(b)については、学校法人を永続的に維持するという基本金の根本的な考え方、すなわち施設設備の取替更新のために価額を維持するという考え方を崩すことになり、そもそも何のために基本金を維持するのかという大きな問題と関わることになる。
  したがって、引き続き、学校法人等関係者の理解を得つつ、具体的な内容等について検討を深めることが必要であろう。


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 収支計算構造の在り方

  学校法人の財務書類である消費収支計算書において、現行では、帰属収入から基本金組入額を先に差し引くという手法をとっているが、この計算構造の分かりにくさを指摘する声もある。
  そもそも、学校法人会計には損益の概念はないが、一般に、消費収支差額は「黒字」であるか「赤字」であるかを表していると誤解されやすい。また、消費支出に充ててはならない収入を含んでいる帰属収入から継続的に保持すべき資産の金額を基本金組入として差し引き、さらに消費支出を差し引いて算出される消費収支差額について、疑問が呈されるところである。
  そこで、このような指摘に答えるための一つの案として、現在の消費収支計算書において「帰属収入」から「消費支出」を差し引いた「帰属収支差額(=基本金組入前差額)」を何らかの形で示すことが考えられる。この趣旨は、基本金の充実は必要であるが、充実に当たっては、帰属収入(学校法人の負債とならない収入)と消費支出(学校法人の費用)とを比較することにより、より厳格に財政状況を見極めた上で、基本金の充実を判断しようとする決定プロセスを反映させようとするものである。なお、これは、学校法人会計基準第29条で定められている「学校法人が、その諸活動の計画に基づき必要な資産を継続的に保持するために維持すべきものとして、その帰属収入のうちから組み入れた金額を基本金とする。」との考え方に変更を加えるものではない。
  しかしながら、この方法によっても、帰属収入の中にいわゆる資本取引的なもの(学校法人が諸活動の計画に基づき必要な資産を継続的に保持するために維持すべき収入)が混在しているという問題は残る。
  このようなことから、今後さらに、帰属収入に含まれる資本的な収入を区分し、それによって経常的な運営のための支出とそれに充てられるべき収入を対比させる収支計算の構造を検討する必要があろう。この構造による収支差額及びその累計は、単年度における収支の状況、及び長期的な収支均衡の状況を把握するための極めて有用な情報を提供し、また、資本取引がより明確になることにより、維持すべき基本金がより実態に則して認識されるものと考えられよう。


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 様式及び記載事項等の在り方

  資金収支計算書、消費収支計算書については、重複感を与えるものとなっており、両者の計算・表示区分を見直すべきとの指摘もなされている。具体的には、例えば、資金収支計算書については教育研究活動、施設等整備活動、財務活動等に区分して諸活動を表す書類とし、消費収支計算書については諸活動を区分することなく消費収支の結果を表す書類として整理することも一つの方策であろう。
  有価証券等の金融資産は、現在は、取得のために通常要す価額と比較してその時価が著しく低くなった場合で、その回復が可能と認められるときを除き、時価によって評価し、これ以外の場合には取得時の価額により評価することとなっているが、今後は、有価証券については時価情報を貸借対照表に注記するか又は積極的に評価替えするなど価額状況をより正確に表示することとすべきであろう。
  今国会に提出されている私立学校法の一部を改正する法律案においては、学校法人の財務情報の公開に関し、財産目録、貸借対照表、収支計算書に加え、新たに、財務書類の背景となる学校法人の事業の概要等を分かりやすく説明した「事業報告書」の作成が規定されている。併せて、財務書類においても、必要に応じ、偶発事象や後発事象等、学校法人の財政状態及び経営状況を判断するための重要な事項を注記等により記載できるようにするなど、積極的な対応を促すべきである。
  学校法人会計基準上、資金収支計算書及び消費収支計算書に附属するものとして位置付けられている資金収支内訳表及び消費収支内訳表については、各部門別の諸活動に対する収入支出の内容を明らかにすることにより経常的経費に対する補助の効果等を的確に把握する目的で、所轄庁に提出すべき書類の一つとして規定されているものである。これらの内訳表の作成に当たっては、各部門への計上、配分の方法や人件費支出の取扱い等について学校法人会計基準等により一定の目的に沿った方式が定められていることから、学校法人の部門収支の実態とは直接連動しない等の指摘もあり、今後どのような形で部門ごとの状況(セグメント情報)を表示していくのかということとも併せ、検討の余地があると考えられる。


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 財務情報公開制度化への対応

  財務情報の公開に関しては、今国会に提出中の私立学校法の一部を改正する法律案に関連の規定が盛り込まれる予定であったため、本検討会でも、3回にわたり、留意すべき事項等について検討した。なお、この検討に当たっては、当面、現行の学校法人会計基準を前提として議論を行った。
  財産目録については、現在でも私立学校法において作成が義務付けられているが、様式は定められていない。学校法人会計基準においても、財産目録は計算書類の体系外であることから、その作成方法や様式は規定されていない。基本的には従来通り各学校法人がそれぞれの工夫により作成するものであるが、財務情報公開の制度化に当たり、各学校法人の参考に供するため、様式例を示すことが適当であろう。
  貸借対照表及び収支計算書については、学校法人会計基準において様式が規定されているが、これらは補助金交付の観点から定められたものであり、全ての学校法人に適用されるものではない。したがって、財務情報公開の制度化に当たっては、学校法人会計基準の様式も踏まえつつ、基本的な構成について参考となる様式例を示すことが適当であろう。
  学校法人会計基準に従って書類を作成している学校法人にあっては、それらの書類を公開すればよい。但し、資金収支内訳表及び消費収支内訳表については、前述のとおり、作成に関し一定の技術的な手法がとられており、また、必ずしも学校法人の経営は部門ごとに独立採算で行なうものではなく、法人全体としての経営戦略に基づき運営されているのが現状である。したがって、これらの内訳表をそのまま公開した場合、学校法人における各部門が独立した収支をとっているかのような誤解を生ずるおそれもある。そこで、仮にこれらの内訳表を公開する場合には、これらが補助金交付の観点から一定の手法により作成されたものである旨を、注記等により記載することが適当と考えられる。
  新たに法定される予定の「事業報告書」については、学校法人制度改善検討小委員会の報告書(平成15年10月10日)において、「財務書類は、結果としての数字の羅列が主であり、専門家ではない一般の人にとっては容易に理解できない場合が少なくなく、場合によっては、誤解されたりする可能性もある。そのために、財務書類の背景となる学校法人の事業方針やその結果をわかりやすく説明し、正しく理解してもらえるような方策をとる必要がある。このため、法人の概要、事業の概要及び財務の概要に区分した事業報告書を作成することが適当である。」とされており、この趣旨に沿って対応すべきである。
  なお、学校法人は、その設置する私立学校の教育に支障のない限り、その収益を私立学校の経営に充てるため、収益を目的とする事業を行うことができるとされており、収益事業を行っている場合には、それに関する財務書類も併せて公開することが適当である。
  この他、情報公開の対象者については、不正な目的による請求への対応の必要性、他の公共的法人における関係法令の規定の例等から、在学生等をはじめとする利害関係人とすることが適当であること、また、1個人情報の保護、2法人の運営上の機密に関わる情報、3不正な目的への対応等の観点から必要な場合には、該当部分を非公開とすることができるようにすべきであること等が指摘された。


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 今後の課題

 文部科学省においては、今後、本「検討のまとめ」を踏まえ、可能なものから実施に向けての取組を進め、学校法人における会計実務の一層の充実が図られるよう期待したい。
  なお、学校法人会計基準の見直しについては、学校法人の在り方とも関連する事柄であり、今後さらに、最近の設置基準の緩和等も視野に入れつつ、また、国立大学法人会計基準の実施状況や公益法人会計基準の見直し状況なども踏まえ検討を進めていく必要がある。
  キャッシュ・フロー計算書、連結財務諸表、退職給付会計及び施設整備費補助金の会計処理等の課題についても、引き続き検討が必要である。また、法人の内部統制のための管理会計上の書類としての在り方や、外部への開示を目的とする財務会計上の書類としての在り方、あるいは税制上の優遇措置を受けるための要件であることや、補助金交付上の要請に対応するものとして位置づけられていることにも留意し、幅広く議論することが必要である。

-- 登録:平成21年以前 --