新たな学生支援機関の在り方について

平成14年12月12日
 

<目次>

はじめに

1 学生支援施策の総合的展開に向けて

1. 高等教育における課題
(1) 我が国に求められる政策課題
(2) 高等教育における学生支援施策の課題

2. 今後の学生支援の在り方ー学生支援施策の総合的展開ー


2 新たな学生支援機関の基本的在り方

1. 目的・役割・機能

2. 設置形態及び組織の骨格
(1) 設置形態、職員の身分等
(2) 組織体制の整備(総論)
(3) 個別業務に対応した組織体制の整備
(4) その他

3. 主な業務と実施の在り方
(1) 総論
(2) 経済的支援(奨学金事業)
(3) 交流基盤整備・交流活動支援
(4) 安心して勉学に取り組める基盤の整備・キャリア形成支援
(5) 研修、調査・研究

おわりに



はじめに
  近年の我が国の高等教育を巡る状況は、進学率の上昇による高等教育の規模の拡大とそれに伴う学生の能力・適性や興味・関心の多様化、国際化の進展に伴う外国からの留学生数の一層の増加や国際交流の活発化など、大きく変化している。このような状況の中で、多様な学生に対するサービスや留学生に対する支援のより一層の充実を図ることによって、次代を担う優れた人材や社会に貢献する人材を育成することが強く求められている。  また、現在政府においては、21世紀の日本にふさわしい新たな行政システムを構築するため、様々な分野の行政改革に取り組んでおり、こうした一連の改革として、平成13年12月の「特殊法人等整理合理化計画」(閣議決定)において、日本育英会については、廃止した上で国の学生支援業務と統合し、新たに学生支援業務を総合的に実施する独立行政法人を設置することとされた。さらに、留学生支援業務を一層充実させる観点から、平成14年3月の「公益法人に対する行政の関与の在り方の改革実施計画」(閣議決定)において、この新たに設置される独立行政法人に、国の留学生支援業務の一端を担う行政委託型公益法人の行う事業のうち適切な事業を移管することとされた。このような状況を踏まえ、文部科学省において、「新たな学生支援機関の設立構想に関する検討会議」(以下、「本会議」という。)が平成14年5月14日に設置され、新しく設置される学生支援機関(以下「新機関」という。)の在り方について検討することとされた。  本会議では、合理的、効率的・効果的な事業の実施などの行政改革の基本的視点を踏まえつつ、学生支援業務の総合化、大学等との適切な役割分担と連携の強化等による学生支援機能の充実を図る観点から、新機関の役割・機能、設置形態・組織の骨格、主な業務の在り方等について検討を行い、これまで7回の会議を重ねてきたところである。その間、本年10月には「中間取りまとめ」の形で議論を整理したが、これに対する各界からの意見を参考にしつつ、今般最終報告を取りまとめたので、以下のとおり公表することとする。


1 学生支援施策の総合的展開に向けて   
1. 高等教育における課題
(1) 我が国に求められる政策課題
  21世紀を迎え、科学技術の急速な発展に伴い世界規模の競争が激化し知識社会の到来する中で、我が国に対する国際的期待の高まりとともに我が国の果たすべき役割もますます重要度を増してきている。国内においても、社会の高度化や複雑化に伴い、人材育成に対する多様な社会的要請に今後一層対応していくことが求められている。このような国内外の要請に応え、かつ我が国が果敢に新しい時代に挑戦し国際社会の中で発展していくためには、大学等の国際競争力の強化等によって次代を担う優れた人材や社会に貢献する人材を育成し、人材大国・科学技術創造立国の実現を図っていかなければならない。また同時に、存立と繁栄を諸外国との円滑な関係の維持・発展に依存している我が国としては、諸外国との相互理解を増進し、相互信頼に基づく友好関係を築くために、諸外国の人材育成に寄与するなどの知的国際貢献を推進していくことが求められている。

(2) 高等教育における学生支援施策の課題
  上記(1)に述べたように、今後我が国が、国際的期待に応えつつ、持続的に発展を図っていくためには、高等教育において、国際的視野を持ち、我が国の発展を支えかつ世界に貢献する人材育成や、我が国とともに世界の発展に貢献する諸外国の人材育成への貢献が重要になっている。
このためには、教育の重視と学生中心の大学等づくり等への視点の転換とともに、留学生施策における質の重視への視点を加味していくことが必要である。このような視点に立って、具体的には、(ア)教育研究の場のみならず、生活環境も含めた修学環境のグローバル化の推進、即ち(イ)日本人学生(在日外国人学生を含む。以下同じ。)と留学生との学生交流の推進、(ウ)留学生の日本理解の増進や優れた留学生を引き付ける留学環境の充実、(エ)日本の生活、文化等に直に触れることのできる生活環境整備、また、(オ)教育を受ける意欲と能力のある者に対する学習機会の確保、(カ)多様な学生に対する指導、相談、支援等の充実、などを一層図っていくことが強く求められている。

2. 今後の学生支援の在り方ー学生支援施策の総合的展開ー
  我が国における次代を担う優れた人材や社会に貢献する人材の育成及び留学生支援の充実に向けては、既に文部科学省や各大学等において様々な取組が行われているほか、日本育英会における奨学金事業や(財)日本国際教育協会等における留学生支援事業も充実が図られてきている。しかしながら、21世紀において求められる高等教育における学生支援施策の課題解決に向けては、日本人学生と留学生に係る支援施策を統一的視点で捉え、一層の質的充実と関係事業の有機的連携を図りつつ総合的に実施することが不可欠となっている。  これらの学生支援は、日本人学生と留学生に対する支援事業を総合的に行うことによって、日本人学生の国際理解を推進し国際協調の精神の醸成に寄与するとともに、留学生の日本理解を深めるなど、日本人学生と留学生の双方にとって有意義なものとなる。このため、今後の学生支援において、日本人学生と留学生との学生交流や、修学環境のグローバル化の推進等を積極的に展開することが重要になってくる。  現在、これらの学生支援は、文部科学省や各大学等におけるほか、日本人学生に対する奨学金事業は日本育英会において、また、留学生に対する支援事業は(財)日本国際教育協会、(財)内外学生センター、(財)国際学友会及び(財)関西国際学友会においてそれぞれ実施されている。上記に述べたように、今後は統一的な理念と実施方針の下に合理的、効率的・効果的に実施できる体制を整備することが必要であり、学生支援に関係する事業の有機的連携を図りつつ総合的に実施する新機関を設置することが望まれる。この際、新機関が行う業務は、留学生支援事業や奨学金事業など、公益性が高く、国の政策として一定以上の事業規模の確保が必要とされるなど、国として主体的に実施すべきものであることから、合理的、効率的・効果的な実施を図ることのできる新機関を国として設置することが必要である。
 
2 新たな学生支援機関の基本的在り方   
1. 目的・役割・機能
  このたび設置される新機関は、グローバル化が進展し知的創造性が社会の基盤となりつつある中、時代の変化に柔軟に対応できる創造性豊かな人材を育成していくために、我が国の学生支援を先導する中核機関として、大きな役割を果たすことが期待される。それは、学生支援により、学生の課題探求能力を涵養し国際理解を推進するとともに、意欲と能力のある学生に対する修学環境を整えることが、今後ますます重要になるからである。このような期待に応えるため、新機関は、今後より一層学生支援施策の充実に努め、大学等における教育の充実、国際交流の推進、教育の機会均等の確保等の実現を目的として設置されることが必要である。
このような目的を達成するために、新機関は、国民・社会の期待に十分応えられるよう、国公私立大学等の学生に対する支援業務をリード・サポートする中核機関としてふさわしい役割・機能を有することが必要である。また同時に、新機関は大学共同利用的な性格を有することが望ましい。今後少子化が進行し、より厳しい競争的環境に置かれる大学等が個性輝く大学等づくりを目指して取り組む中、新機関には、国公私立大学等における学生支援の充実が図られるよう、各大学等に共通しかつ共同して実施することが合理的、効率的・効果的な業務を実施することが求められているからである。このような新機関と大学等の間で適切な役割分担がなされることによって、各大学等は、学生との人間的なふれあいを通じてより学生の視点に近い位置で教育・指導の充実を図っていくことや、地域社会へ貢献する学生の自主的な活動を促進するなど、各大学等独自の個性を生かした学生支援業務に重点的に取り組むことが期待される。 さらに、新機関は、これらの各業務を合理的、効率的・効果的に実施するとともに、大学等、地域社会、産業界等との連携・協力を推進することによって、設置目的の実現を図っていくことが求められる。
 
2. 設置形態及び組織の骨格
(1) 設置形態、職員の身分等
  新機関の設置形態については、「特殊法人等整理合理化計画」(閣議決定)を踏まえ、独立行政法人として設置することが適当である。 独立行政法人は、国の関与が制限され自律性・自主性が認められることで、自ら責任を持って弾力的・効率的で透明性の高い運営を行うことが期待できる。具体的には、予算面で運営費交付金が措置されるが、使途の内訳を特定されることなく活用でき、各事業年度で生じた損益計算上の利益は、中期計画であらかじめ定められた使途の範囲内で翌年度以降使用することができるなど弾力的かつ効率的な財務運営が可能となる。さらに、役員以外の内部組織の設置・改廃は、長の裁量事項として自主的に決定できることとなる。さらに、業務の内容が公表されること等により、組織及び運営の状況が国民に明らかになることが期待できる。 役職員については、「特殊法人等整理合理化計画」(閣議決定)を踏まえ、非国家公務員型とすることが適当である。このことにより、国家公務員法体系にとらわれない、より柔軟で弾力的な雇用形態・給与体系・勤務時間体系や、人事戦略に基づく専門的知識・技能等を重視した採用が可能となる等の利点がある。また、役職員は、新機関が果たすべき重要な使命を十分理解し自覚と責任を持って、国民・社会の期待に応じられるよう全力で職務遂行に当たることが求められる。 なお、独立行政法人の特性に鑑み、本会議としては、組織編成の基本的考え方及び大括りの組織の骨格を中心に提示することとした。実際に組織編成や運営を行う際には、新機関の長は大学等、地域社会、産業界等からの意見も参考にしつつ、それらとの連携・協力を推進するよう留意するなど、本会議が提示する事項を尊重することが望まれる。

(2) 組織体制の整備(総論)
  新機関の組織については、新機関が全国唯一の国の学生支援の中核機関として位置付けられることを踏まえ、日本育英会、(財)日本国際教育協会、(財)内外学生センター、(財)国際学友会、(財)関西国際学友会、国・国立大学の機能や資源を再編成し、学生支援業務を合理的、効率的・効果的に実施できるよう構築されなければならない。 業務の実施の際には、新機関の自律性を確保するため、新機関の長が主導性を発揮し、迅速な決断を行い得るように、企画機能、総合調整機能、対外連絡・協力機能などを有する組織体制を構築するとともに適切な服務規律を確立するよう留意しなければならない。 また、新機関は以下に述べるように多岐にわたる業務を担うため、新機関の長を適切に補佐することができる体制を整備することが望ましい。また、新機関の長は、特殊法人、公益法人等から多様かつ多量の業務が移管されることに伴い、職員各自の円滑かつ効率的な職務遂行が可能となるような組織運営体制の構築を図ることが必要である。 さらに、各大学等における学生支援業務のうち大学等間交流やキャリア形成支援などについては、各地域ブロック単位での新機関の業務の一部としての実施により一層効果をあげることが期待できるところであり、支部の設置などの体制整備が望まれる。これにより、各地域ブロックにおける大学等間交流等が一層充実するとともに、各大学等が必要に応じて随時最寄りの支部に情報提供や相談を求めることも可能となるなど、各大学等における学生支援業務が一層合理的、効率的・効果的に実施されることが期待される。

(3) 個別業務に対応した組織体制の整備
  経済的支援(奨学金事業)については、その原資を適切に確保する必要があり、次の世代への投資として、国民の理解と協力を求めるとともに、長期借入金、債券発行による市場での低利かつ長期の資金調達等を適切に行い得る機能、体制を構築する必要がある。 また、留学生支援については、これまで留学生が在籍する大学等以外に国や複数の公益法人が別々に言わば縦割り的に実施していたが、よりきめ細かな支援体制を実現するために、対応窓口をできるだけ一元化するなど留学生にとって「顔の見える支援体制」となるよう整備を行うことが求められる。 さらに、留学生支援業務の中には、日本人学生への支援業務と有機的連携を図って総合的に実施することにより、一層合理的、効率的・効果的な実施が図られるようになるものもあるが、留学生の特性に鑑みて別途の方策を構ずべきものもある。この点に留意して、新機関の組織体制を構築することが重要である。特に教育の国際競争力強化という観点からも、海外における情報収集・提供機能の充実に留意しなければならない。

(4) その他
  新機関においては、新機関の職員の専門性の向上等を図る観点から、文部科学省、大学等、その他の関係機関等との人事交流を積極的に推進することが必要である。 また、新機関の長は、新機関の職員に各自の職務に対する自覚と責任を持つよう啓発に努めるとともに、職務能率向上の観点から職員に対する研修を適切に実施することが必要である。 新機関の名称については、新機関の役割が学生支援の機能を有すること、国内外の学生に対し我が国に存する機関であることを明確にするためにも「日本」と冠する名称によることが望ましいと考えられること、また、これまで日本育英会や(財)日本国際教育協会というように「日本」と冠する名称が定着していることなどを踏まえ、例えば「日本学生支援機構」(仮称)などの新機関の役割・機能を適切に表す名称を考慮することが望まれる。
 
3. 主な業務と実施の在り方
(1) 総論
  大学等において学生支援は教育の一環として位置付けられる必要があり、その在り方については、特色ある大学等づくりを進めていく観点から、学生に対する個別的な対応とその充実は、各大学等において行うことが基本である。 他方、各大学等において一層充実した対応をするため、次のような性格の業務については、新機関においてその役割・機能を踏まえ実施することが必要である。 第一に、各大学等が共通して取り組む必要がある基盤的な業務であり、かつ、共同して実施することが合理的、効率的・効果的な業務である。例えば、事業実施の基盤となる調査、関係機関間との連絡調整、基盤的・共通的な業務についての情報収集や大学等に対する情報提供が挙げられる。 第二に、国の施策として実施すべき事業や施策推進のための支援措置についての業務である。例えば、奨学金事業、国費外国人留学生関係等の実施業務が挙げられる。 新機関の主な業務は、以下に掲げるとおり、経済的支援、交流基盤整備・交流活動支援、安心して勉学に取り組める基盤の整備、キャリア形成支援、研修、調査・研究があり、日本人学生と留学生それぞれに対して総合的に支援を行っていくこととなる。 なお、学生支援業務全体の充実を図る観点から、新機関において民間寄附金を受入れ、有効に活用できるよう工夫することが望まれる。

(2) 経済的支援(奨学金事業)
1 奨学金事業実施の基本的考え方
  奨学金事業については、従来より教育の機会均等の確保と18歳以上自立型社会の確立を目指し、日本育英会における無利子及び有利子の貸与制による事業の充実が図られてきたところである。 従って、新機関における奨学金事業についても、意欲と能力のある学生が経済的に自立し、自らの意志と責任により高等教育機関において学ぶことができるよう、引き続き無利子及び有利子の貸与制による事業の充実とその合理的、効率的・効果的実施を図る必要がある。この際、在学中に修学が困難な経済状況になった者に柔軟に対応できる現行の「緊急採用奨学金制度」の適切な運用に引き続き努めることが求められる。 また、奨学金事業の実施に当たっては、学生に対して自己責任と自立意識の確立を促すためにも、自分の責任において奨学金を借りて返すということを学生が認識するよう、十分な教育的な指導を充実することが求められる。他方、限られた国の資金の効率的・効果的な活用という観点も重要であり、事業実施に当たっては、保護者の所得水準や社会に有為な人材の育成といった観点も考慮することが重要である。

2 学生の自立を支援する新しい保証システムの導入
  18歳以上自立型社会の確立を目指し、意欲と能力のある学生が経済的に自立し、自らの意志と責任において高等教育機関において学ぶことができるよう事業の充実を図る観点からは、従来、貸与に当たって求めていた人的保証である連帯保証人や保証人を学生が確保しにくい場合を考慮して、人的保証に替えて又は加えて、学生の自立を支援する新しい機関保証のシステム(以下「機関保証制度」という。)をできるだけ速やかに導入することが適当である。 この機関保証制度は、貸与を受ける学生が一定の保証料を保証機関に支払うことにより、在学中及び返還の期間中、保証機関の保証を受けることができるという制度であるが、連帯保証人等を探す手間が省けるというだけでなく、学生本人の意志と責任による申請が可能となり、学生の自立という観点からも意義があると考えられる。 その制度設計については、収支相償を基本にして、奨学生や返還者(以下「奨学生等」という。)の負担状況を勘案し、奨学金事業にふさわしい安定的な制度設計を図ることが必要である。同時にモラルハザード、即ち機関保証制度に加入したから返還しなくても構わないといった意識が生じることのないよう、奨学金事業の意義と奨学生等としての責任についての教育的な指導を充実することが求められる。 さらに、機関保証制度を利用するに当たっては個人信用情報機関を利用することになるが、これにより奨学生等に対する奨学金以外の各種ローン等の過剰貸付、多重債務への移行を防止することができるなどの利点が考えられる。なお、個人信用情報機関への情報提供の内容については、個人情報保護の観点や機関保証制度の利用者が奨学生等であることを勘案し、教育的配慮の上定めることとするのが適当である。

3 より合理的、効率的・効果的な実施方策
  奨学金事業の実施に当たっては、「特殊法人等整理合理化計画」(閣議決定)を踏まえ、業務全体にわたり合理的、効率的・効果的な実施体制・方策の整備に努めることが必要となる。 特に、返還請求業務については、返還金のうち延滞債権率が10%程度にも上っている現状を踏まえ、一層の改善が求められる。新機関においては、返還金が次の世代を育成する資金として循環運用されていることの重要性を認識し、返還率の向上に一層努力しなければならない。さらに、制度的にも返還請求業務がより一層合理的、効率的・効果的に行われるための仕組みを整えることが必要である。具体的には、従来より実施している様々な方策に加えて、電話督促による返還率向上の効果が期待できることもあり、電話督促の外部委託をはじめとした業務の合理化、効率化を更に徹底することが必要である。なお、その際には、奨学生等に係る個人情報の保護のための十分な措置を講ずることが重要である。

4 大学院生返還免除職制度の廃止と別途の政策的手段の創設
  大学院生返還免除職制度については、「特殊法人等整理合理化計画」(閣議決定)において「若手研究者の確保等という政策目標の効果的達成の手法として、(中略)廃止し、若手研究者を対象とした競争的資金の拡充等別途の政策的手段により対応する」とされたところである。本会議としても、この大学院生返還免除職制度については、教育・研究職という特定の職に対してのみ返還免除を行うため不公平感を生じさせることや、制度導入時と比べ教育・研究職の処遇の改善や需給構造の変化等により人材の誘致効果が減少していることなどにより、その意義が薄れてきているということもあり、現在の制度については廃止することが望ましいと考える。しかしながら、引き続き、優れた学生に対する大学院への進学のインセンティブの付与や、研究者養成の充実の視点は重要であり「特殊法人等整理合理化計画」(閣議決定)における「別途の政策的手段」の制度設計を検討する際には留意されるべきである。 「別途の政策的手段」は、閣議決定に挙げられた若手研究者を対象とした競争的資金の拡充のほか、特別研究員制度の充実、優れた業績をあげた大学院生を対象とした卒業時の返還免除、大学院生を対象とした給費制奨学金などが考えられ、これらについて、優れた人材の確保という政策目的の実現のため、どの手段が最も効率的・効果的かという観点から検討を行った。 その結果、本会議としては、1国際的に活躍し得る優れた高度専門職業人及び研究者を養成していく上で大学院の重要性がますます高まっている中で、経済的理由によって大学院進学を躊躇する学生に対する進学のインセンティブを高める施策が求められていること、2大学院在学中の学修の成果等を適切に評価することにより大学院生の質的向上のみならず、ひいては我が国のあらゆる分野で活躍する中核的人材の育成への多大な貢献が期待できること、などを考慮すると「別途の政策的手段」については、厳しい財政状況の中で限られた財源の効果的活用を図りつつ、意欲と能力のある者に対して広く奨学金を貸与することを基本とする中で、若手研究者を対象とした競争的資金の充実に加え、「優れた業績をあげた大学院生を対象とした卒業時の返還免除の制度」を導入することが適当であると考えられる。

5 留学生に対する奨学金
  留学生に対する奨学金事業は、留学生が我が国又は諸外国での留学生活に際して勉学に専念できるよう支援することを目的とするものであり、「留学生受入れ10万人計画」の達成に向けた各般の取組の中でも留学生施策の中心的役割を果たしてきたとも言える。 我が国が受け入れる留学生に対する奨学金事業としては、従来国が直接実施していた、国費外国人留学生の給与(奨学金)等の支給、私費外国人留学生及び就学生に対する学習奨励費の給付、最先端分野の先導的人材の養成を目的とした最先端分野学生交流推進制度による奨学金の交付等がある。 日本人学生の海外留学に係る国費による奨学金事業については、現在、大学等間交流協定等に基づく短期留学推進制度、最先端分野学生交流推進制度、アジア地域専門の研究者養成のためのアジア諸国等派遣留学生制度等の支援方策があるが、近年、外国の大学等に留学する学生が増加していることを踏まえ、日本人学生の海外留学支援のために、留学情報の収集・提供(後述)とあわせて支援体制の充実がますます重要になってきている。 これらの奨学金事業に関連する業務のうち、国費外国人留学生の選考等は引き続き国が直接行う必要があるが、現業的業務については、よりきめ細やかな支援体制を実現し、学生交流を一層充実する観点から、新機関において、交流基盤整備・交流活動支援業務(後述)と一体的に実施することが必要である。

6 その他
  奨学金事業については、社会の変化や新たな需要を踏まえ、次のような点にも配慮してその充実・改善に向けた検討を行っていくことが必要である。 第一に、今後は、外国からの留学生受入れのみならず、国際社会に貢献する人材育成のための観点から、意欲と能力のある日本人学生が海外留学に挑戦することが一層容易となるような奨学金の在り方についての検討が望まれる。 また、高度専門職業人の養成の観点から設置されることとなる法科大学院など専門職大学院に対応した奨学金の在り方についても、経済的理由によって学ぶ機会が失われることのないよう、意欲と能力のある学生のために具体的な方策を検討することが必要である。 なお、従来日本育英会で実施していた高校奨学金については、「特殊法人等整理合理化計画」(閣議決定)に基づき、都道府県に移管されることとなっているが、現在、高等学校は、事実上すべての国民が学び得る教育機関となっており、今後も高校生に対する奨学金事業が社会のセ−フティネットとして重要な役割を果たしていくことになる。このため、移管後において各都道府県が地域の特色を生かした事業を実施できるよう、関係省庁との連携の下に、円滑な事業の移管方策を早急に検討することが求められる。

(3) 交流基盤整備・交流活動支援
1 国際交流
  留学生支援施策については、これまで「留学生受入れ10万人計画」に基づき、国費・私費留学生等の受入れを推進するための各般の取組が行われてきたところであり、平成14年5月現在の我が国の外国人留学生受入れ数は約9万6千人となり、「留学生受入れ10万人計画」は近々達成の見込みとなっている。今後は、優れた留学生を引き付けるために、量的拡大に対応した質的充実が求められている。 また、留学生と日本人学生等との学生交流や日本人学生、留学生の相互受入れ、派遣等による大学等間の国際交流を推進することにより、我が国と諸外国の相互理解の深化を図るとともに、大学等の国際化や日本人学生の国際理解を推進し国際協調の精神の醸成を図ることが必要である。 昨今の国際社会のグローバル化の進展を踏まえると、海外における情報収集、国内外の機関間の連携、世界への情報発信の強化等の高等教育の国際競争力の強化への対応が重要になってきており、今後、これらも含めた新たな留学生政策の在り方について検討していく必要がある。

2 大学等間交流
  スポーツや文化等に係る学生交流は、学生の自主的活動を通じて人間的成長を促すことから、国内においても留学生も含めた学生交流を充実させることが必要である。現在各地域ごとに複数大学等間で行っている学生交流については、各支部が拠点となって継続的に多様なプログラムを提供するなどの工夫により、その充実が図られるものと考えられる。また、これらのうち適切なものについては、更に発展させて全国的にも展開することにより多面的な交流が可能となり、学生の人格形成の観点から一層の効果が期待される。このため、新機関では、大学等間交流の拠点となる各地域の支部を本部を中心としてネットワーク化することにより、各大学等への全国的な情報の収集・提供や相談・助言等の充実を図り、より広い範囲での大学等間交流の推進や、学生の自主的活動機会の一層の拡充に努めることが必要である。 新機関がこれらの業務を行うことにより、各大学等は、個性的な取組を進める中で互いに情報を交換し交流することが可能となり、一層多様で充実した学生への支援を行うことが期待される。今後、新機関はこのような大学等を結ぶ中核としての役割を果たし、活発な交流を促していくことが求められる。

3 留学情報の収集・提供
  留学希望者がまず取り組むことの一つが留学に必要な情報の収集である。様々な国や地域の多様な情報の収集が円滑にできるようにしていくことは、留学生支援の一層の推進のために不可欠である。 日本への留学希望者や日本人学生の海外留学希望者に対して、自らの留学目的に合った留学を達成できるように支援するため、我が国の事情や海外を含む各大学等の教育・研究活動に関する適切な留学情報の提供は重要であり、新機関において幅広い情報を集約し必要な情報を国内外に的確に提供する業務を実施することが必要である。 業務の実施に際しては、大学等や関係機関との連携を密にし、質的にも量的にも充実した情報の蓄積を図り、例えばインターネットを通じて国内外において容易に留学情報の提供を受けられるようにすることが求められる。

4 日本留学試験
  これまで、我が国の多くの大学等における留学生の入学選考は、欧米諸国に比べて必ずしも分かりやすいものではなく、留学希望者にとって事前に渡日しなければならないなど負担が大きく、日本への留学を躊躇する要因の一つになっていた。このため、我が国に留学を希望する者に渡日前入学を可能とするなどの特色を有している日本留学試験が開発され、今年度から実施されている。この日本留学試験は、国内外において一斉に実施される公的試験という性格上、高い公平性や信頼性が強く求められることから、新機関において実施することが必要である。 今後も、各大学等において日本留学試験の利用が一層進むよう努めるとともに、海外実施都市数の拡充など、日本への留学希望者にとって利用しやすい試験となるよう更なる見直しを図ることが求められる。

5 留学生宿舎
  留学生数の増加に伴い留学生宿舎の確保は留学生施策上の重要な課題となっている。主として国費外国人留学生を対象とした宿舎については、新機関において整備保有することが必要である。このほか、新機関では、留学生宿舎を安定的に確保するために、適切な民間宿舎の開拓を行うこと等が必要である。 留学生宿舎については従来宿舎機能が中心であったが、今後、新機関においては、国際理解の推進や国際協調の精神の醸成の観点から、学生のための国際交流を一層充実させるために、留学生宿舎に「国際学生交流拠点」機能を持たせ、留学生と日本人学生との交流事業をはじめとして、留学生と地域住民、留学生と小中学生など多彩な交流事業を各拠点で体系的、継続的に実施することが望ましい。また、各留学生宿舎に居住する日本人学生がチューターとして留学生に対して指導助言を行う事業を新機関で実施することが必要である。 留学生宿舎の管理運営については、新機関をスリム化する観点から、外部に業務委託することが必要と考えられる。委託先については、単なる施設設備の保守管理等にとどまらず、留学生に対する各種のサポート等にも十分対応できることを勘案することが重要となる。

6 帰国外国人留学生に対するフォローアップ
  帰国外国人留学生は我が国と母国との友好の架け橋になることが大いに期待されるとともに、帰国外国人留学生の母国等での活躍が日本留学希望者の増加する誘因ともなっている。 このようなことから、帰国外国人留学生に対するフォローアップ事業は大変有意義であり、フォローアップ効果ができるだけ生かされるよう多彩なメニューを有した事業を留学生支援事業の一環として新機関において実施することが望まれる。

7 その他
  国費外国人留学生を中心とした日本語予備教育、留学生全体を対象に医療費負担を軽減する医療費補助などは、留学生の修学を支援する業務として新機関において実施することが必要である。

(4) 安心して勉学に取り組める基盤の整備・キャリア形成支援
  学生が複雑化し価値観が多様化する社会の中を生き抜いていくために必要な基本的能力を涵養するために、経済的支援のみならず修学支援やキャリア形成支援の観点からの学生支援も今後特に重要視されることとなる。その際、障害のある学生を含め個々の学生のニーズを的確に踏まえて更なる業務の充実が求められることとなる。
1 学生相談等
  進学率の上昇とともに目的意識が希薄であったり心の問題を抱えるなどの学生が増加しているほか、セクシュアル・ハラスメントなど学生の人権に係る問題への対応が重要になってきている。このような中、学生の修学支援の観点から、メンタルヘルスなど学生相談の重要性が高まっている。学生相談は、学生の様々な悩みに応えることにより、その人間的成長を図るものであり、新機関では、例えば、学生のプライバシーに配慮しつつ、各大学等が行っている学生相談事例の収集・提供や学生相談の指導の手引きの作成など学生に対する相談対応の充実に資する業務を実施することが必要である。その際、医療機関等と適切に連携・協力を図って対処していくことが望まれる。

2 キャリア形成支援
  また、学生には変化する社会に柔軟に対応できる能力を身に付けていくことが一層求められるようになってきており、学生が主体的に進路を選択してキャリアを形成していくことが重要となっている。このような観点から、各大学等において行われている就職相談やインターンシップはもとより、就職指導のためのガイダンスの開催や各大学等への相談・助言等学生のキャリア形成のための取組を充実させる必要がある。特に、大学等の位置する地域での企業におけるインターンシップ受入れのための体制づくりやその情報提供等は、学生のキャリア形成を支援するのみならず、大学等と地域における企業との連携・協力を推進する観点からも有意義である。その際、支部が地域の拠点となって、大学等と企業との間をコーディネートすることでより円滑な事業の実施が期待できる。さらに、各地域の支部を本部を中心としてネットワーク化することによって、支部で収集した就職やインターンシップに関する情報を全国レベルで集積し、多様なニーズにきめ細かく対応できる様々な機会を提供することができ、学生の高い職業意識の育成、それに伴う学習意欲の喚起に資することとなる。この際、既にインターンシップの受入れ推進に向けて取り組んでいる関係機関と連携・協力するなど、効果を高めていくことが求められる。

3 転学等の支援
  さらに、学生の多様な学習需要に対応する、又は大学等の倒産等に備えセーフティ・ネットを整備するためにも、新機関では、各大学等の転学(転部)に関する情報の収集及び学生への情報提供のほか、大学等での管理が行えない場合に学籍簿の管理を行うことも重要であると考えられ、その具体的な方策について検討することが必要である。

(5) 研修、調査・研究
  現在は、国が各大学等の学生支援担当教職員に対してブロック単位ごとにメンタルへルスや学生相談等の研修を行っているが、今後は多様な学生に対する指導を全国的に充実させる観点から、これらの教職員に対してより一層のスキルアップが図られるよう体系的なプログラムを組むなどして新機関で研修を実施することが必要である。 また、奨学金事業の基礎資料となる学生生活調査や留学生支援業務に必要な留学生の在籍調査等、現在も行っている調査に加え、今後新機関の業務の充実に必要な国内外の調査・研究を新機関で実施することが必要である。

おわりに
  我が国が21世紀においても活力ある国家として発展していくために、大学等は、高い付加価値を身に付けた社会に貢献する人材を育成していく責任がある。従って、大学等は、より学生の視点に近い位置に立ってサービスの充実を図ることにより、学生に豊かな知識を教授するだけではなく、国際交流や地域との交流の中で人間としての成長を促すよう、独自の理念に基づき努力しなければならない。このような各大学等の努力を下支えしていくために、新機関は、次代を担う人材育成のための象徴となる機関として新しく生み出されなければならない。
  このため、国に望まれることは、新機関の設置に向けた周到な制度設計、周辺環境の整備に加え、効果的で十分な支援について責任を持って対処することである。新機関が独立行政法人として設置されることを踏まえ、その自律性の確保に配慮することが望まれる。
  また、各大学等においては、学生を中心に据えた個性輝く大学等づくりを進めるため、新機関を積極的に活用することが望まれる。さらに、企業等においては、大学等の学生支援業務の重要性について理解し、これらに関する協力を行うことが期待される。
  今後、この報告内容を踏まえて、文部科学省においては関係法令等の策定等を進めるとともに、新機関においては、本報告を踏まえた体制整備と運営を行うことにより、我が国における学生支援の中核機関となり国民や社会の期待に応えるものとして発展することを期待する。

(高等教育局学生課・留学生課)

-- 登録:平成21年以前 --