21世紀に向けた介護関係人材育成の在り方について(21世紀医学・医療懇談会第2次報告)

平成9年2月21日
 

【C・A・R・E(Communication, Affection, Reliability, Efficiency)プラン'97】
                =対話=      =愛情=    =信頼=    =効率=              


(  概要は「文部省ニュース」に掲載しています。  )

I  はじめに

  近年,我が国においては高齢化,少子化の急速な進展,家族形態の変化等により,福祉に対する国民のニーズが増大している。このような国民のニーズに対応するため,社会福祉の各分野において,社会福祉事業の量的な拡充を図り,保健医療等の関連分野も含めて,体系的,総合的な施策を推進することが課題となっている。
  21世紀においては出生率低下に伴う労働力人口の減少傾向が予測されるなかで,人間が中心となって行うサービスである社会福祉事業を円滑に実施していくためには,専門性を有する福祉・医療・保健関係の人材の育成・確保が重要な要素となる。
  特に,高齢化の進展に伴い介護を要する高齢者が急増しており,寝たきり,痴呆および虚弱を合わせた要介護高齢者等の数は,1993年(平成5年)には200万人であったが,2025年(平成37年)には520万人に達するものと見込まれている。このため,現在,政府において新たな介護保険制度創設の準備が進められ,21世紀に向けて高齢者福祉,とりわけ高齢者介護に係る福祉・医療・保健サービス(以下「介護サービス」という。)提供体制の整備が急がれており,このための人材育成・確保を図ることは緊急の課題となっている。
  本懇談会においては,以上のような認識にたって,21世紀に向けた介護関係人材育成の在り方について,教育部会を中心に精力的に議論を行ってきた。
  このたび,これまでの議論の結果をとりまとめることができたので,ここに広く世に明らかにすることとしたものである。





(注)本報告では,介護サービスに携わる専門職のうち社会福祉士,介護福祉士,看護婦(士),保健婦(士),理学療法士,作業療法士,医師,歯科医師,薬剤師を総称して,「介護関係人材」の用語を用いる。





II  介護関係人材育成の視点

1  専門的知識・技術と豊かな人間性を兼ね備えた資質の高い人材の育成

  介護サービスに関わる各々の専門職は,サービスの受け手の心身の状況・特性及び家庭的,社会的な状況を的確にとらえて,第一に自立への可能性を見据え,本人の意思や主体性を尊重した利用者本位の適切なサービスを提供する必要がある。また,介護サービスに関わる各々の専門職は受け手の生命,健康,生活や個人のプライバシー等に直接かかわるものである。故に,要介護者を援助するための専門的な知識・技術を有するとともに,人間愛に培われた豊かな人間性と確かな人権意識を持ち,家族や介護に携わる人々との連携を円滑に図ることができる資質を備えた人材として育成することが必要である。


2  福祉,医療,保健が連携した総合的なチームケアの推進

  要介護者がより自立できるように援助するためには,介護を受ける者の立場にたち,福祉,医療,保健のサービスが縦割りの形ではなく総合的・一体的に提供される体制を整えることが必要である。
  このような体制が円滑に機能するためには,介護サービスに関わる各々の職種の人々が,それぞれの専門性を生かしつつ,チームとして利用者個人の自立を支える最適のサービスを提供することが求められ,そのためには,各人が対人援助活動に携わる者としての共通の価値観を有し,互いを知ることが重要である。


3  介護・福祉についての認識の高揚

  高齢者のための介護サービス制度が円滑に実施されるためには,社会全体で高齢者を支えていくという介護・福祉に対する広い国民の理解が前提となる。また,将来にわたり介護サービスの分野で安定的に資質の高い人材を育成・確保していくためには,学校教育,社会教育をとおして,福祉に関する教育やボランティア活動を一層推進し,できるだけ多くの人が福祉についての理解と関心を持つようになることが重要である。


III  介護関係人材育成の在り方ー専門教育の充実と連携の強化ー

  21世紀に向けて,介護関係人材を育成していくにあたっては,福祉,医療,保健関係職種の人材について,生涯学習体制の整備や専門的研究の推進を含めてそれぞれの専門教育を充実するとともに,各職種間の連携を強化していくことが重要である。

1  専門教育の充実

1)専門職育成の推進

(1)介護を要する高齢者等に対し,それぞれの心身の状況等に応じた多様なニーズ  に対応し,高齢者が尊厳をもって生活を送ることができるようにするためには,それぞれの専門職がプロフェッショナルとしての高い技術を有し職種間で協調することはもちろんのこと,ボランティア等の幅広い協力も得て,柔軟かつ多様できめ細かな介護サービスを提供する体制がつくられる必要がある。
  このようななかで,今後,入浴・排せつ・食事等のサービス,訪問看護サービス,リハビリテーションサービス,療養管理指導サービス等の介護サービスの量的充実を図ることが重要になる。それに伴い,社会福祉士,介護福祉士,看護婦(士),保健婦(士),歯科衛生士,理学療法士,作業療法士,医師,歯科医師,薬剤師,栄養士の他,現在資格化が検討されている言語及び聴覚に障害を持つ者に対して訓練等の業務を行ういわゆるST(Speech Therapist)(以下「ST」というjなどの介護サービスに関わる専門職が果たす役割が増大すると考えられる。特に,介護サービスに関する利用者のニーズは多様であることから,要介護者等の心身の状況等に応じて,それぞれのサービスを過不足なく調整するケアマネージャーは大きな役割を果たすと考えられる。
  今後,国においては,福祉等に関する基礎的な法知識等の幅広い教養と確かな人権意識に裏付けられた感性豊かな人間性,人間性への深い洞察力などを持ち,介護される者の立場に立ったサービスを提供できる専門職の育成体制を強化することが必要である。これらの人材育成に係る大学等においては,人間教育,教養教育の重視を徹底する必要がある。

ア  社会福祉士,介護福祉士

  社会福祉士,介護福祉士については,昭和62年に制度化され,平成8年9月末現在の登録者数は,社会福祉士 7,485人,介護福祉士80,799人となっている。社会福祉士,介護福祉士は,今後介護サービスが円滑に行われるために大きな役割を果たす専門職であり,介護サービス需要が増大するのに伴って,これらの資格を有する者の需要も増大すると考えられる。このため,今後とも,社会福祉士,介護福祉士育成に係る大学学部・学科,専修学校等の整備,充実を進めることが必要である。また,これらの登録者数は現在地域によって偏りがみられることから,社会福祉施設等を地域的な均衡にも留意しつつ計画的に整備していくことが求められる。
  社会福祉士,介護福祉士にとっては,制度,知識の理解や支援活動,援助活動に係る知識,技術の修得はもちろんのこと,介護を要する者に対する望ましい態度や行動の在り方を体得していくことが不可欠である。これらの人材育成に係る大学等においては,これまで社会福祉援助技術等の現場実習が十分に行われてきたとは言えず,更なる実習等の教育の充実に努めることが重要である。

イ  看護婦(士),保健婦(士)

  看護婦(士),保健婦(士)については,これまで需給関係を踏まえて育成が進められてきているが,今後介護サービス需要が増大することを考えれば,要介護者に係る看護需要が増大するとともに,質的にも高い看護が要求されてくると考えられる。今後とも,看護系大学学部・学科の設置,整備・充実を進めることが必要である。
  また,在宅療養者に対する看護ニーズの増大に対応するため,平成8年8月の保健婦助産婦看護婦学校養成所指定規則の改正において,保健婦学校養成所における公衆衛生看護と在宅療養者に焦点をあてた継続看護を含む「地域看護学」,看護婦学校養成所における「在宅看護論」の履修が規定されたところであり,今後,看護婦(士),保健婦(士)育成に係る大学等においては,これらの教育内容の改善,充実に努めることが重要である。さらに,看護系大学及び大学院においては,地域看護実践の質を向上させるため,その実際や管理運営体制についての研究を推進する必要がある。

ウ  理学療法士,作業療法士

  理学療法士,作業療法士については,需要数の見通しのもとで育成が進められてきているが,平成7年度末現在の登録者数は,理学療法士15,626人,作業療法士 7,708人であり,理学療法士の就業者の約80%,作業療法士の就業者の約60%が病院,診療所で働いている状況である。今後,高齢者介護に関する在宅サービスや施設サービスが増加するなかで,理学療法士,作業療法士の働く場は,医療現場だけでなく,地域や福祉分野に拡大すると予想されるなど,今後これらの職種の需要が増大するものと考えられる。このため,今後とも,理学療法士,作業療法士育成に係る大学学部・学科,専修学校の整備・充実を進めることが必要である。

オ  医師,歯科医師,薬剤師

  医師,歯科医師,薬剤師に関しては,今後,在宅サービスでの医学,歯学,薬学的管理や訪問診療の増加等医療サービスの内容が変化することが予想される。
  大学の関係学部においては,このような医療サービス内容の変化に対応して,適  切な医療サービスが提供できる人材を育成するため,高齢者医学,歯学,薬学分野の教育研究体制の整備や在宅を前提とした医療に係る教育内容の改善・充実が必要である。

(2) 将来の高齢社会では,要介護の状態にならないよう高齢者自らが予防に努めることが求められる。さらに,一旦発病した場合には早期治療が患者の自立に大きく影響していると言われる。従って,疾病等の治療後に自立した日常生活に戻ることができるよう,早期からリハビリテーションを行うなど治療後の生活も見据えた十分な医療が提供される必要がある。このため,今後,教育研究体制の整備とともに看護婦(士),保健婦(士),理学療法士,作業療法士,STなどの人材育成を進め,高齢者医療体制の整備を図ることが重要である。

(3) 介護保険制度が導入され,将来にわたり十分な介護サービスが円滑に提供されるためには,専門職の育成体制を整備することが必要となる。文部省においては,所管省庁と十分に連携をとり一体となって,専門職に係る将来の需給関係を踏まえて必要な人材育成を進めていくことが必要である。
  また,介護サービスには専門職以外の人材も含め多くの人材が関わると考えられることから,社会福祉士,介護福祉士,看護婦(士),保健婦(士),理学療法士,作業療法士,医師,歯科医師,薬剤師以外の人材の育成の在り方についても,今後検討する必要がある。


2)生涯学習体制の整備

(1)大学,専修学校等での専門教育や国家試験を経て実務にあたっている介護関係人材にとって,現場での経験を踏まえ,さらに良質の介護サービスを提供していくためには,医学・医療の進歩等に伴う新知見の理解や新たな福祉用具の利用法の修得など新しい知識,技術を身につける機会が設けられることが大変有意義である。特に,社会福祉士,介護福祉士,看護婦(士),保健婦(士)にとって,職場において働きつつ学ぶ研修に加え,一定期間職場外で研修を行うことは,それぞれの職場での実践を踏まえ,さらに大所・高所からこれを見直す大変重要な機会である。

(2)このため,各都道府県・市町村や関係団体において様々な形での研修の場が確保され,多くの実務者が研修を受けているが,科学技術の進展等に対応したさらに多様な学習の機会を提供するため,今後,夜間大学院の開設や研修生の受入れ等社会人を対象とした大学・大学院の積極的な取組みが進められることが望まれる。

(3)また,福祉施設の管理運営に携わる職員や福祉事業に関わる行政職員等の介護専門職以外の人にとっても,福祉の心に裏打ちされた福祉施策の在り方や新たな介護実践の動向,施設経営の在り方等について学ぶ機会が得られることが重要であり,このような観点からも,社会人を対象にした大学・大学院の積極的な取組みが望まれる。


3)社会福祉,看護に関する専門的研究の推進,研究教育者の育成

(1)社会福祉士,介護福祉士は制度化されてからの歴史が浅く,かつ社会福祉学が対人援助を軸にした実践をもとにしているために,その実践の理論化,体系化に関する実証研究が行われつつあるが,いまだ社会福祉学や社会福祉実践に関する専門的教育・研究の在り方が十分に確立されているとは言えない面がある。また,看護教育も看護実践に関する専門的研究が十分に確立されているとは言えない面がある。

(2)今後,社会福祉士,介護福祉士,看護婦(士),保健婦(士)が専門性に裏付けられたより良いサービスを提供していくためには,社会福祉,看護に関する総合的,専門的な研究の振興と社会福祉,看護に係る研究教育者の育成が必要であり,このため,現場の実践経験を持つ者を対象とする社会福祉,看護に関する大学院の整備を進めることが重要である。


2  福祉,医療,保健に関する職種間の連携の強化

(1)介護サービスは,介護を要する者の状況に適切に対応して,福祉,医療,保健のサービスが総合的・一体的に提供されることが必要であり,このためには,介護サービスに携わる福祉,医療,保健関係者の緊密な連携が不可欠である。また,介護サービスに携わる職種の人材は,それぞれの専門性に基づいた教育カリキュラムをとおして育成されているが,育成段階から各職種間に共通の価値観を育てることが,サービス提供の現場での各職種間の連携強化に資すると考えられる。

(2)近年,大学において,医学部,歯学部等で,入学後の早い時期に老人保健施設等への体験実習を行うケースが増加しているが,このような学習は,学部での専門教育に資するとともに,医療関係者が介護サービスに携わり対人援助活動を行ううえでの共通の価値観を育て,介護サービス提供体制のなかで医療関係者と福祉関係者が密接に連携した総合的なサービスの提供に資すると考えられる。介護関係人材育成に係る大学等においてこのような取組みを一層進めることはもとより,例えば,介護サービスに携わる職種全ての学生・生徒に合同で介護・福祉現場での実践活動を経験させる等の取組みが望まれる。また,このような実習活動を円滑かつ効果的に進めるとともに地域への貢献に資するため,大学や関連施設において教育研究のための要介護病床を設置するなどの工夫も考えられる。
  さらに,介護に関わる福祉,医療人材にとって共通に必要な資質を修得させるため,基本的な共通カリキュラムの調査研究を進めることが重要であり,これをもとに各大学において教育内容の工夫,改善を進めることが望まれる。

(3)一方,専門教育段階においても,福祉関係学部・学科間や医療関係学部・学科間はもとより,例えば福祉関係学部・学科と医療関係学部・学科間で,単位互換制度を活用し相互の学習を可能にするとともに編入学を容易にするなどの教育内容の工夫,改善を図ることが望まれる。
  また,介護サービスの多様なニーズ等に対応するため,福祉,医療,保健関係の複数の資格を取得できるコースや例えば医療関係の資格を有する者が福祉関係の資格を取得しやすいコースを設置するなど大学・大学院の積極的な取組みが望まれる。

(4)さらに,育成段階における連携強化のための諸方策を進めるうえで,介護サービスに関わる福祉,医療,保健関係者や行政関係者を含めて,制度的,経済的な視点も含め適切で円滑な連携による介護実践の在り方について政策的総合的な研究を進めることが重要である。


3  地域の実情に即した介護関係人材育成に係る調査研究の実施

  今後,各々の都道府県・市町村で,地域の多様なニーズに応じた介護サービス提供体制が整備されていくと考えられる。その際,介護関係人材についても,地域の実情に応じて,広く民間の関係者も含めて行政側と大学,専門学校側が協力して育成を進めていくことが必要である。
  このため,介護関係人材を育成する大学等が主体となって,都道府県・市町村,教育委員会,民間関係者等とともに「介護関係人材育成連絡協議会(Care  MAC  =
Care  Man-power  Conference)」を設置し,専門職育成に係る実習の受入れ,生涯学習の充実方策等について連絡調整を図ることを提案したい。その場では,例えば地域の要請に応じて学生・生徒から成る介護ボランティアチームを老人保健施設に派遣するなど,福祉,医療,保健関係学部・学科等の学生・生徒が積極的にボランティア活動を行う仕組みづくりなどの実践をとおして,地域の実情に即した介護関係人材育成の在り方について調査研究を進めるものである。国においてもこのための支援を行うことが望まれる。


IV  福祉に関する教育,ボランティア活動,健康教育の推進

  高齢者のための介護サービス制度を円滑に進めるためには,将来にわたり安定的に介護サービスに係る人材を育成・確保するとともに,社会全体で高齢者を支えていく基盤をつくることが必要である。このためには,児童・生徒が介護体験やボランティア活動などをとおして介護・福祉への理解を持つとともに,これらをとおして親も含めて広く国民の社会福祉への関心と理解が深まることが重要である。
  また,高齢社会においては,他人を思いやる心や感謝の心,公共のために尽くす心など豊かな人間性が一層求められるとともに,誰もが高齢になってなお自立心を持ち,自ら要介護状態になることを予防するため,加齢に伴って生ずる心身の変化を自覚して常に健康の保持,増進に努め,単なる寿命の延長のみならず各人が自立して生活できる自立寿命を延長することが重要になる。さらに,最近の研究では,我が国の生存数曲線の実測値は,女性の場合は理想像に近づいているが,男性の場合は理想像には達しておらず,一方で自殺を含む外因性死因による数が増加しているとの結果(注)がまとめられていることなどから,生命尊重の教育を充実する必要がある。また,メンタル・ヘルスに関するカウンセリングやカウンセリングに関わる人材育成に力を注ぐことも重要である。
  今後,21世紀に向けた教育の在り方としては,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力と,自らを律しつつ,他人とともに協調し,他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性,すなわち力強く「生きる力」を育むことが必要である。高齢者介護・福祉に関して,福祉に関する教育,ボランティア活動,健康教育を推進することは,このような「生きる力」を育むことに資するものと考えられる。

(1)福祉に関する教育
  学校教育においては,福祉や社会保障制度について正しい理解を深め,望ましい態度の育成を図るため,小・中・高等学校では,社会科,家庭科,道徳等において,社会福祉の重要性や高齢者への理解,思いやりの心,公共のために尽くす心を育てることなどについての指導がなされている。今後は,家庭,地域,学校の教育力がバランスよく組み合わさっていくことが求められることから,学校教育における福祉に関する教育を推進するとともに,家庭や地域活動においても例えば特別養護老人ホームを訪問し介護の現実に触れる体験をするなどの様々な体験活動を充実し,家庭や地域の教育力を向上させることが重要である。
  さらに,大学等の高等教育段階においても,例えば福祉,医療,保健関係学部・学科の学生以外の学生も含め全学生が何らかの介護経験を積むようにするなどの教育内容の工夫も望まれる。特に教員については,新たな時代に向けた教員養





(注)自殺,事故等の外因による死亡を除き,全ての人間が疾病等によって死亡することなく,各々の寿命を全うして70歳から100歳までの間に死亡していくという理想像を曲線で示したもの(別添資料参照)。(スタンフォード大学フリーズ教授の研究による。)





成の改善の一環として,教員養成カリキュラムにボランティア活動や福祉活動等の体験を導入することなどを検討すべきである。
  また,高等学校の福祉に関する学科の数は近年増加しており,平成7年度現在で公私立合わせて46学科となっている。また,総合学科の数も平成8年度現在で45学科に達しており,このうち多くの学科で福祉に関する科目が開設されている。さらに,平成6年度からは高等学校での「家庭科」が男女必修となってい  る。今後,このような教育を一層充実するため,大学における福祉の専門的教育を修得した教員の養成にも力を注ぐことが重要である。

(2)ボランティア活動
  現在,国,都道府県,市町村において,小・中・高等学校や地域に対して,ボランティア活動の推進を支援する多くの事業が行われており,ボランティア活動に参加する人は年々増加している。今後,社会福祉について国民の関心と理解を深めるためには,学校教育,社会教育をとおして,一層積極的にボランティア活動が行われるよう,国等においてその条件整備を行うなどの支援をしていくことが必要である。また,共生社会の実現と「心の教育」の充実を図るため,大学生の社会福祉活動,青少年育成活動,海外援助・協力活動など各種のボランティア活動を普及・奨励するための方策について,早急に検討に着手する必要がある。
  中学校,高等学校の進路指導においては,福祉施設での体験活動やボランティア活動をはじめとする進路に関する啓発的な経験等の充実を図ることが重要であり,こうした活動をとおして,例えば偏差値が高いから医学部への進学を勧めるといった指導の在り方を改め,豊かな人間性,他者を思いやる心や自らの生き方を考え将来に対する目的意識を抱いて,自分の意志と責任で福祉,医療,保健関係学部への進学を決定する能力を身につけさせる指導へと転換することが必要である。
  また,大学等の入学者選抜においても,福祉施設での体験活動やボランティア活動等を積極的に評価するなどの入学者選抜の工夫,改善を進めることが望まれる。
  さらに,高齢者による介護ボランティア活動や生涯を通じて学習することにより,高齢者自らが生きがいをもち自己実現を図り人間性豊かな生活を送ることができるよう,国,都道府県・市町村においては,生涯学習の基盤整備を進める必要がある。

(3)健康教育
  高齢になってなお自立心を持ち,それぞれの健康を自らで保持,増進していくためには,幼少の頃から自らの将来を考え,自らの健康を自らで保持・増進していく態度,習慣を育てることが重要である。
  このため,学校教育において,児童・生徒の成長発達段階に対応した一貫した健康教育を推進し,子供たちが健康の増進や体力の向上の必要性を十分理解したうえで,自ら健康を増進する能力を育てることが大切である。また,これからの家庭活動においては,基本的な生活習慣・生活能力,豊かな情操,他人に対する思いやり,自制心や自立心など「生きる力」の基礎的な資質や能力が育まれることが望まれる。さらに,地域の保健所や市町村の行う衛生教育,訪問指導等の一層の充実も望まれる。


V  おわりに
  介護保険制度が近々創設されれば,具体的なサービスは平成12年から提供されることとなる。今後,制度の円滑な実施に向けて,国,都道府県,市町村において,サービス提供のための基盤整備がなされ,必要な人材の育成・確保がなされていくと考えられる。
  また,21世紀は我が国の国民誰もが「100年生きる地球人」(注)として生きる社会になると考えられる。このことは,我が国の国民が地球規模で活躍することとともに,他の国の人々が我が国も含めて地球規模で活躍し,日本が国際化,ボーダーレス化することをも意味する。今後我が国の社会は大きく変貌し,少子高齢化が進展し労働力人口が減少していく中にあっては,留学生の受け入れの拡大や日本以外の国の人々が我が国に入国する際の諸問題の解消等も含めた介護関係人材育成の在





(注)21世紀医学・医療懇談会第1次報告において,医療人育成を見直す背景の中の社会の視点として,我が国は「昭和20年代においては,平均寿命50年の人生を国内のみで過ごすという,言わば「50年生きる日本人」の社会であった。今日においては,人生80年時代を迎えており,今後さらに長寿になり,また活動範囲も日本国内にとどまらず地球規模での活動が期待される。すなわち,各個人も医療人も「100年生きる地球人」として人生を過ごす社会」となるとしている。





り方の検討が必要になることも予想される(「地球人が地球人を支える時代」)。介護関係人材以外の人材についての検討も必要になろう。
  本懇談会においては,今後の介護サービスを取り巻く様々な状況の変化を見極めながら,必要に応じ,さらに介護サービスに関わる人材育成の在り方について議論を深めていきたいと考えている。


(  概要は「文部省ニュース」に掲載しています。  )

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