1999年4月
I 検討の経緯 平成8年6月の本懇談会第1次報告等を踏まえ,各大学において医学・歯学教育改革に係る様々な取組が始められていること,大学審議会から「21世紀の大学像と今後の方策について」具体的な改革方策が提言されたこと,医療提供体制の改革の一環として,医師・歯科医師の将来における需給見通しも踏まえた育成・確保体制の適正化の必要性が指摘されている状況等を踏まえ,21世紀に向けた医師・歯科医師の育成体制の在り方について検討が行われ,議論の結果が第4次報告としてとりまとめられたものである。 II 報告の概要 1 基本的な検討の視点 国民の多様かつ高度な医療サービスに対するニーズにこたえる人材や,将来の医学・医療をきりひらく先端的研究の進展に寄与する人材が求められており,こうした要請にこたえるため,各大学において教育研究体制の改善を図り,それぞれの特色を生かした多様な教育研究活動を展開することにより,幅広い視野を持って生涯にわたり主体的に学習・研究していくことのできる医師・歯科医師を養成していく。 2 大学における教育研究体制の改善の方向 (1)学部教育の改善 学部教育においては,以下のような改善が必要。 ・面接の充実,適性検査の活用など,入学者選抜方法の一層の改善。学士編入学制度の導入の拡大と充実。 ・病院への体験入院,介護・福祉施設等での実習や,豊かな人間性を育む教養教育,コミュニケーション教育,生命の尊厳や死に関する教育等の充実。 ・少人数教育やチュートリアル教育の導入等による問題発見・解決能力の育成。 ・クリニカル・クラークシップ(医療チームの一員として医療行為に携わる臨床実習の形態),地域の医療機関の優れた人材に教育に協力いただく「臨床教授」制度の導入等による臨床実習の充実。 ・精選された基本的内容を重点的に履修させるコア・カリキュラムの確立及び選択履修科目の拡充・多様化。 ・適切な進級認定の実施,特に臨床実習に臨む学生に対する共通評価システムの構築に向け具体的検討を要望。 ・プライマリ・ケア,高齢者医療,末期医療,救急医療,医薬品の適正使用,効果的,合理的な医療提供等,今日の医療の課題に応じた諸分野の教育の充実。 (2)大学院における教育研究の改善 大学院においては,以下のような改善が必要。 ・研究的思考法を身に付けさせるための教育機能を重視した,コースワーク中心の学修の導入。 ・公衆衛生分野における人材養成のセンター機能を有する大学院の課程の設置に向けた具体的検討を要望。 ・基礎医学・学際的領域の研究者を育成するためのコースの設置等,支援策の検討。 ・大学院と卒後臨床研修及び専門医・認定医の関係については引き続き検討が必要。 (3)教育研究の国際交流 ・国際的な見地から医療関係人材の育成に貢献するため,医学部・歯学部及び同大学院への留学生受入れ等の一層の拡大が必要。 ・国際医療協力に貢献することのできる人材を育成するため,関連する大学院の整備充実や研修プログラムの開発等を推進。 (4)教育研究を支える体制の整備 ・教員の学生に対する教育能力の向上を図るため,ワークショップの開催等ファカルティ・ディべロップメント活動の充実が必要。 ・教員採用や業績評価にあたっては,研究業績に偏ることなく,教育に関する能力・意欲や臨床能力についても積極的に評価すべき。 ・学部長や病院長のリーダーシップの強化や,教育研究に係る成果や実績についての自己点検・評価の実施,外部評価等の積極的な導入が必要。 3 医学・歯学教育に係る制度改正の必要性について 平成10年10月の大学審議会答申で提言された制度改正事項のうち,医学・歯学教育の特性を踏まえた検討を要するものについて,以下のような結論を得た。 (1)学部段階 ・答申において4年制の学部での導入が提言されている早期卒業の例外措置については,医・歯学部の教育及び卒業が医師・歯科医師の免許取得に直結していること,実施期間における経験そのものに価値を有する臨床実習を重視したカリキュラム編成が必要であることなどから,医・歯学部における導入は適当でない。 ・一方,免許取得を目的とせず,臨床行為を伴わない研究を目指している成績優秀者については,より早くから研究に携わらせ,その資質・能力の伸長を図るため,学部卒業を待たずに早期に大学院に進学できるようにすることが適当であり,今後大学審議会において検討されるよう要望。 ・答申において拡大が提言された単位互換等の上限については,当面,他学部と同様60単位とすることが適当。 (2)大学院段階 ・答申において,高度専門職業人の養成に特化した大学院修士課程の例として設置が提言されている公衆衛生分野については,欧米等にみられるMPH(Master of Public Health)の課程を参考として,設置に向け具体的検討を要望。 ・大学院における履修形態の柔軟化・弾力化の一環としての医学・歯学博士課程の修業年限の弾力化については,大学院博士課程全体の意義・役割についての議論や,3年で博士号が取得できる例外措置の活用状況を踏まえつつ,引き続き検討。 (3)メディカル・スクール及びデンタル・スクール構想について 本懇談会第1次報告で提言したメディカル・スクール(デンタル・スクール)構想については,学部教育全体の改革や学士編入学の実施状況等を踏まえ引き続き検討。 4 医師・歯科医師の卒後の育成体制の改善と適正配置の推進 (1)国家試験の改善 医師・歯科医師として具有すべき知識・技能・態度を総合的に評価することができるよう,画像や模型を利用した実技試験や,コミュニケーション能力や倫理面を評価する試験を導入することを検討すべき。 (2)卒後臨床研修の充実 ・大学全体の統一的な理念に基づく研修目標やプログラムの策定,複数の診療科にわたるローテート方式等の積極的導入,学外の医療機関との連携等が必要。 ・卒後臨床研修の必修化は医師・歯科医師の臨床能力向上の観点から望ましいが,その前提として,指導医の充実や研修医に対する経済的支援の保証等が不可欠。 (3)専門医,認定医制度の整備 今日の医療に対するニーズを踏まえた質・量,領域のバランスに留意する必要があり,特に,プライマリ・ケアや救急の専門医の育成に力を入れることが必要。 (4)生涯学習体制の充実 医学・医療に関し最も豊富な教育資源を有する医学部・歯学部は,医療人のみならず,社会人に対する生涯学習の機会を提供することについて,積極的な取組が必要。 (5)医師・歯科医師の適正配置の推進 医師・歯科医師の地域的な適正配置や専門分野ごとの適正配置を促進するための実効性ある施策について検討すべき。 5 医師・歯科医師の需給問題と医学部・歯学部の入学定員の在り方について ・医師・歯科医師数については,大学の入学定員の削減だけでなく,国家試験の改革や資格取得後の段階も視野に入れた総合的な対策を講じることにより,その適正化を図るべき。 ・医学部・歯学部の入学定員については,将来の医師・歯科医師の過剰がもたらす弊害にかんがみ,現状よりさらに削減していくことが必要。具体的には,医学部については,当面,昭和61〜62年に立てられた削減目標の達成を目指して削減を行い,歯学部については,新規参入歯科医師数について,歯科医師国家試験の改善による削減効果と併せて10%程度削減するとの厚生省検討会報告を踏まえ対応。 ・入学定員の削減にあたっては,医師・歯科医師の育成について,国公私立大学がそれぞれの立場からその役割を果たしていることにかんがみ,国公私立大学全体で対応すべきであり,医療をめぐる諸般の状況の推移を見ながら,それぞれの関係者において,対応を検討するよう要請。 (参考) 21世紀医学・医療懇談会の概要 ○平成7年11月発足。会長;浅田敏雄 東邦大学名誉学長,名誉教授 ○21世紀における我が国の医学・医療の姿を見据えた教育・研究・診療の進展を図る上で必要な諸方策について検討することを目的としており,これまでに3次にわたる報告を提出。 ・第1次報告(平成8年6月13日) 「21世紀の命と健康を守る医療人の育成を目指して」 ・第2次報告(平成9年2月21日) 「21世紀に向けた介護関係人材の育成の在り方について」 ・第3次報告(平成9年7月1日) 「21世紀に向けた大学病院の在り方について」 |
-- 登録:平成21年以前 --