資料2 南米諸国との国際教育協力に関する審議のまとめ(案)

目次
1.はじめに
2.南米諸国の概要
(1)地政学的概要
(2)経済の概要
(3)教育の概要
3.日本と南米諸国間の教育交流の重要性
4.今後の推進方策
(1)基本的な考え方
 1) 「集中」
 2) 日本側における組織的かつ継続的な協力体制の確保
 3) ポストODAへの対応
 4) 南米での日本語教育
 5) 安全等リスクへの配慮
(2)初等中等教育段階
 1) 南米諸国の初等中等教育機関への支援
  ア 教員の資質の向上、教育課程の構築等に向けた協力
  イ 持続発展教育(ESD)の視点を盛り込んだ教育協力
  ウ 大学等高等教育段階への就学率向上への協力
 2) 定住外国人の子どもへの支援
  ア 「虹の架け橋教室」プロジェクト
  イ 外国人児童生徒の公立学校での受入体制の整備等
  ウ 日本企業による教育協力
(3)高等教育段階
 1) ブラジルの「国境無き科学」プロジェクト等
 2)双方向の学生交流
 3) 大学間交流の構築
 4)工学系人材の養成等
 5)科学技術協力を通じた人材育成
(4)産業人材育成
5.おわりに

 

1. はじめに
グローバル化の進展、新興諸国の台頭等により我が国を取り巻く環境が大きく変化する中、資源や市場の確保等我が国との互恵関係の構築、充実が期待される国々からの要請に応え、戦略的に国際教育協力を進めることは、国際社会における我が国のプレゼンスを強化し、それらの国々との持続的な協力・連携関係の基盤を形成する観点から極めて重要である。
文部科学省は、新興諸国への国際教育協力の在り方を検討するため、平成23年6月に国際協力推進会議を設置し、平成24年3月に中間報告書を取りまとめた。
同報告書では、官民連携体制を構築して国際教育協力の戦略を練り、実施すること等が提言されるとともに、ASEAN 及び中東地域に対する協力の方向性について様々な指摘が行われている。
今回、本会議においては、関係省庁、企業、途上国協力機関からも参画を得つつ、BRICS(注1)の一角として急速な経済成長を続けるブラジルを含む南米に焦点をあてることにした。南米諸国においては、いずれも人材育成を基盤とした国作りが課題となっており、初等中等教育段階、高等教育段階等、様々な面での我が国からの協力が期待されている。
また、本国際協力推進会議の下に南米ワーキンググループを設け、産学官の南米に造詣が深い有識者により対南米協力の現状と課題を抽出し、オールジャパンの戦略的な国際教育協力の実施の必要性について審議した。
本「南米諸国との国際教育協力に関する審議のまとめ」は、平成24年度中に開催された本会議及び南米ワーキンググループにおける各委員のご意見を踏まえ、本会議として大所高所からの国際戦略の展開という観点から、今後の推進方策を取りまとめたものである。

2. 南米諸国の概要
(1)地政学的概要
南米の独立国は、アルゼンチン、ウルグアイ、エクアドル、ガイアナ、コロンビア、スリナム、チリ、パラグアイ、ブラジル、ベネズエラ、ペルー、ボリビアの12か国である。
南米は、地理的に我が国からみて地球の真裏に位置するが、19世紀末から20世紀初頭にかけてペルー、アルゼンチン、ブラジル等へ日本人が移り住んで以降、現在では、世界で最も多くの日系人を有する地域として親日派も多い。南米諸国の総面積は1,780万km²超であり、地球の陸地面積の約12%である。
また、人口の上位3か国は、ブラジル1億9,493万人(2011年)、コロンビア4,605万人(2011年)、アルゼンチン4,057万人(2011年)である。主要な言語は、ブラジルがポルトガル語、ガイアナが英語等、スリナムがオランダ語等、その他の国はスペイン語等である。

(2)経済の概要
南米諸国は、1980年代の「失われた10年」と呼ばれる経済危機を経て新自由主義的経済に大きく舵を切り、同時に軍事政権下から次々に民主化を達成、1990年代からは政治の刷新や経済の回復も目覚ましい。
GDP の上位3か国は、ブラジル2兆4,929億ドル(2011年)、アルゼンチン4,446億ドル(2011年)、コロンビア3,276億ドル(2011年)である。一人当たりGDP の上位3か国は、チリ14,403.11ドル(2011年)、ウルグアイ13,866.26ドル(2011年)、ブラジル12,788.55ドル(2011年)である。経済成長率の上位3か国は、アルゼンチン8.9(2011年)、ペルー6.9(2011年)、チリ5.9(2011年)である。
対日輸出の上位3か国は、ブラジル9,587億円(2012年)、チリ7,462億円(2012年)、ペルー2,249億円(2012年)である。また、対日輸入の上位3か国は、ブラジル4,730億円(2012年)、チリ1,590億円(2012年)、コロンビア1,200億円(2012年)である。
我が国でもODA の基準としているDAC 統計上のODA 対象国・地域(2011~2013年)としては、アルゼンチン、ウルグアイ、エクアドル、コロンビア、スリナム、チリ、ブラジル、ベネズエラ、ペルー(以上、高中所得国)、ガイアナ、パラグアイ、ボリビア(以上、低中所得国)となっている。

(3) 教育の概要
1990年のジョムティエン会議(注2)以降、EFA(万人のための教育)運動の進展に伴い、南米各国も教育改革や拡充を進めている。南米諸国の義務教育年限は、例えば、ブラジルは2009年憲法改正により2016年までに段階的に9年から14年に、チリは2003年憲法改正により8年から12年に、アルゼンチンは2006年教育基本法改正により10年から13年に、それぞれ延長されている。
基礎教育機会の拡大に関しては格段の進歩を達成しつつある南米諸国であるが、初等教育の修了率の向上、中等教育以上の段階への就学の拡大、教育の質の向上という点では課題に直面している。学力面では、PISA2009年調査(注3)にみる南米各国の習熟度については、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野ともにOECD 平均を下回っている。南米諸国の中では、チリ、ウルグアイが比較的上位を占める。
南米からの我が国への留学生数は、2012年5月現在622名であり、前年度から微増(33名増)となっているが、全体(137,756名)に占める割合は0.45%に留まっている。留学生数の多い上位3か国は、ブラジル(272名)、ペルー(78名)、コロンビア(64名)である。

3. 日本と南米諸国間の教育交流の重要性
南米諸国は全てODA 対象国ではあるが、例えば、ブラジルは経済成長著しい新興国の中でもとりわけ発展を遂げている国となっており、近い将来ODA 卒業国(注4)となることも視野に入ってきている。同国は、2億人近い人口を抱え、この20年間経済的にも非常に安定しており、海底油田が次々に発見されるなど、これからの経済成長も見込まれている。また、中南米として捉えれば、銀、銅はそれぞれ世界の生産量の約半分、大豆は約半分のシェアを占めるなど、我が国にとって資源及び食料の供給源として非常に魅力が高い。一方、近年の政治改革や経済成長を背景に、現在多くの国で産業育成、産業人材育成が課題となっており、先進国への留学生派遣などを進める動きが出てきている。
しかしながら、例えば、かつての日伯農業開発セラード・プロジェクト(注5)等による同国発展への貢献後、80年代の中南米の経済危機、90年代の日本のバブル崩壊によって我が国の南米諸国におけるプレゼンスが20年以上に渡る空白期間が生じたと言われるなど、日本の影は薄くなっている面があると指摘されている。
他方、地震国であるペルーとは、「地震」を二国間援助の対象分野のひとつとした協力が行われ、JICA が地震工学と地震学の2つの2年間のコースを設定するなど、非常に緊密な関係ができているものもある。
このような中、産学官の連携によるオールジャパンの国際教育協力の実施は、我が国と南米諸国間の友好親善の強化、さらには外交、経済面等の結びつきをより緊密化するなど、様々なメリットが期待され、これを戦略的に推進していくことは極めて重要である。
まず、南米諸国にとっては、国の持続的な発展のため、初等中等教育、高等教育、研究開発、産業人材育成といった国家的課題への取り組みを、我が国の協力を得てさらに充実・加速することができる。
一方、我が国にとっては、大学等による協力や企業におけるインターンの受け入れ等による産業人材育成協力を通じて、日系現地企業のより大きな発展の基盤に繋がることも考えられる。例えば、南米諸国に進出している日系企業の現地人材の雇用に際し、高い知識を持ったエンジニアの確保が難しいこと、教育水準の地域格差があること、また、日本に比べて離職率が高いことなどの課題の解決に寄与することが期待できる。
また、我が国の大学にとっても、南米諸国との留学生交流や国際共同研究の実施等を通じ、教育と研究の両面にわたる国際化に大いに寄与することが期待される。

4. 今後の推進方策
(1)基本的な考え方
我が国は従来から、教育協力の分野において国際的にも高い評価を得ているが、引き続き、官の縦割り行政を超え、産学官が協力して国際教育協力に係るリーダーシップをさらに発揮していくべきである。その際、相手国の事情とニーズを十分に把握し、それに的確に対応することを基本としつつ、特に南米諸国への協力に関しては、現地の多様な分野において指導的立場にある日系人との連携協力を図りつつ、次の諸点について考慮する必要がある。
1) 「集中」
我が国の限られた予算、マンパワーを効果的に活用するため、各種プロジェクト等の「集中」を考える必要がある。例えば、1.化学、バイオテクノロジー、航空工学、材料工学など、相手国に固有の重点分野や我が国としての得意分野を加味して、相手国が真に必要とする分野に「集中」する、2.日本の先進の技術やシステム等を対象国に直接伝えるのではなく、これまで日本が支援してきた発展途上国を通じた「南南協力」を促進することにより「集中」する、3.研修等の対象を、彼らを教える教員やリーダー等に「集中(限定)」する、等を検討・実施すべきである。また、南米諸国内での集中を考え、協力を実施する際には、南米地域を含めた世界の各地域に対する我が国が行う協力の全体像を考慮しつつ行う必要がある。
さらに、国際教育協力を実行に移す際、各当事者それぞれにおいて情報発信力を持つことが極めて重要である。

2) 日本側における組織的かつ継続的な協力体制の確保
我が国の大学によるこれまでの国際教育協力のうち、特定の教員が非常に熱心に行っているケースでは、当該教員が退職等で不在となるとその後は途絶えてしまうことが多い。国際教育協力を個人の力に依存することなく、組織として継承していくような体制が必要である。その際、我が国から最も遠距離に位置する南米諸国との教育協力に当たっては、現地の日系人組織や同窓会組織との連携を図るとともに、大学の学長、政府高官等、できるだけ高いレベルでの双方向交流の機会を持つことによって、組織的な協力体制を構築することも有効である。
また、継続性を確保する観点から、政府を含む関係機関において、それぞれの国や地域に詳しい人材の育成に配慮することも有効である。

3) ポストODA への対応
南米諸国の中にはODA 対象国から卒業することが見込まれる国もある中で、日本では、ODA 対象国から外れると国際協力の財源の確保やJICA の支援スキームの活用が困難になるが、中国や韓国はそうでなく、資源や戦略的重要性の観点からどの国が重要かという発想により支援を行っている。日本でも例えばポストODA に対する戦略的重要国特別支援制度など、ODA とは別のメカニズムの構築について検討を行うことが重要である。

4) 南米での日本語教育
かつて日本人が移り住み、現在も多くの日系人が暮らすなど、我が国と関係が深いブラジルだが、日本への出稼ぎ労働による関係が深まっている一方で、ブラジル国内では、80年代から90年代にかけて日本との経済交流は20年の空白期が生じたと言われてきた。とはいえブラジルは世界で最も年少者の日本語学習者が多い国でもあり、成人の日系以外の日本語学習者も増えてきている。
そのような状況の中、ブラジルでの日本語教育については、日系人に対する継承語教育としてはJICA が、それ以外は国際交流基金がそれぞれ行っている。
年少時からの日本語学習を通じて、日本に理解の深いブラジル人の裾野を広げていくことは、長期的視点から見て重要であり、日本文化も含めて日本語をプロモーションする際、日系人からさらにその先に広げていかなければいけないことを考えると、両方の制度を戦略的に活かした取組やプログラムが重要である。

5) 安全等リスクへの配慮
南米に限ったことではないが、政治的に不安定であったり、治安面に問題があるような国・地域において教育協力を行う場合は、事業実施の安全への配慮、非常時の対応策など、リスクへの対処に十分配慮する必要がある。

(2)初等中等教育段階
1) 南米諸国の初等中等教育機関への支援
南米諸国での初等中等教育段階においては、教育システム・学校運営の改善や、特に理科、算数等の基本科目の教育内容の充実が課題である。また、ブラジルでは、基礎教育8年間の義務教育課程での進級率が82%と、欧米の先進諸国と比較して低いことが課題である。このため、例えば、教員の資質の向上、実情に応じた教育課程の編成、教育指導体制の充実等が求められている。

ア 教員の資質の向上、教育課程の編成等に向けた協力
JICA が行う教育協力の事例のうち、南米の場合はこれまでに最も実績があるものの一つとして、「技術協力」の下で行われる基礎教育分野プロジェクトがある。これらのプロジェクトでは、主として学校運営の改善や、理科、算数等の科目に係る教員研修による教員の質の向上を目的として、専門家をペルー、コロンビア、ボリビア、パラグアイ、チリなどに派遣してきた。
引き続き、JICA基礎教育分野プロジェクトや専門家派遣スキームと連携し、教員研修による現地教員の養成に貢献するとともに、中米における実績(注6)も踏まえ、教育課程、学習指導要領及び教科書の整備に協力することが必要である。
具体的には、ブラジル、ペルー、コロンビア、ボリビア、パラグアイ、チリを初等中等教育協力拠点国とし、当該国の教育課程、学習指導要領及び教科書の整備に協力するとともに、近隣国の教員も参加する形で取り組みを行い、南南協力も活用しつつ、初等中等教育協力を進めることが考えられる。
また、国費外国人留学生の教員研修留学生制度は、我が国の国立大学の教員養成系学部に海外の教員を招いて1年半程度トレーニングをするプログラムであるが、30年近くの実績があり、ペルーやブラジル等南米からも多くの教員が採用されている。帰国した教員とのネットワーク構築等のフォローアップを行うなど、南米諸国との教育協力の柱と位置付けて、両国で連携して実施していくことが重要である。

イ 持続発展教育(ESD)の視点を盛り込んだ教育協力
ブラジルなど、教育へのアクセスが一定水準以上実現できている南米諸国にあっては、それに加えて地球市民教育や教育の質の向上を図る上で不可欠となる持続発展教育(ESD)(注7)の視点を盛り込んだ教育協力が重要である。
ESD については2002年の国連総会で決議された「国連ESD の10年(UNDESD)」に基づき、主導機関であるユネスコを中心に国際的に取り組まれている。2012年6月にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連持続可能な開発会議(リオ+20)における宣言文においても「UNDESD 以降もESDを推進し、より教育の中に持続可能な発展という観点を組み込んでいく」旨宣言されている。今後も我が国やブラジルを含め世界各国でESD に取り組み、環境問題、食料・エネルギー問題等地球規模の課題を解決し持続可能な社会を構築していくことが重要である。

ウ 大学等高等教育段階への就学率向上への協力
南米では、大学等高等教育段階への就学率は低く、例えばブラジルの場合でも、中等教育における、学齢の在籍生徒数のみで見た純就学率は50.9%(2009年)、また、18歳から24歳の高等教育在籍率は17%(2010年)となっているなど、欧米の先進諸国と比較して低い国がみられ、特に中等教育段階での就学の増加及び高等教育段階への円滑な接続について改善を図るための協力が考えられる。

2) 定住外国人の子どもへの支援
我が国に定住する外国人に対する教育機会の提供は、子どもの権利を守るために重要な課題である。特に、将来ブラジル等南米への帰国を考えている者の子どもへの教育支援や、日本の公立学校に入りたいと考える子どもへの就学支援は、国際的な人材を育て、日本のイメージ向上に寄与する観点からも、一層の充実を図っていく必要がある。これまでも国際交流政策懇談会等の提言に基づき、様々な取組が行われてきたところであるが、文部科学省、地方自治体、日本企業によるなお一層の協力が求められている。今後はグローバル化の中で、日本在住の高度な外国人人材を拡充するためには、外国人学校を含む様々な教育機関が教育の質を向上させ、かつ人材育成の一連のサイクルとして働くよう、今一段の努力が求められている。例えば、平成25年度より学校法人イーエーエス伯人学校では、ブラジルの職業専門学校の組織である全国工業連盟の下部組織「SENAI」や同商業分野の「SENAC」の遠隔教育コースを実施し、在日ブラジル青少年に対して、専門的な職業訓練を受ける機会を設けることにより、日本の地域社会及び母国ブラジルの社会で活躍する機会の拡大が期待されており、注目すべき取組である。

ア 「虹の架け橋教室」プロジェクト
昨今の景気後退により、自宅待機・不就学等になっているブラジル人等の子弟の就学を支援することを目的として、平成21年度から「定住外国人の子どもの就学支援事業」(虹の架け橋教室)を国際移住機関(IOM)において実施している。これまで2,000人以上が就学を果たした他、教育委員会や学校との連携体制の構築、地域交流の促進、子どもの将来の夢を引き出す「架け橋サポーター」の取組等が行われている。
「虹の架け橋教室」プロジェクトは、平成26年度で終了を予定しているが、継続的な取り組みが重要であることから、その延長が必要である。

イ 外国人児童生徒の公立学校での受入体制の整備等
外国人がその保護する子を公立の義務教育諸学校に就学させることを希望する場合には、無償で受け入れており、教科書の無償配付及び就学援助を含め、日本人と同一の教育を受ける機会を保障している。
外国人の子どもの公立学校への受入れ等に当たって、日本語指導を行う教員を配置するための加配定数を措置したり、日本の教育制度や就学の手続等をまとめた就学ガイドブックをポルトガル語など7言語で作成・配布している。
また、入学・編入学前後の外国人の子どもへの「初期指導教室(プレクラス)」の実施、日本語指導や外国人保護者との連絡調整の際に必要な外国語が使える支援員の配置等、地方自治体における取組を支援することにより、地域人材との連携による外国人児童生徒の公立学校への受入体制の整備が行われている。
引き続き、外国人の子どもの就学機会を保障し、日本で生活していくために必要となる日本語や知識・技能を習得させるため、公立学校での受入体制の整備により教育支援を推進することが必要である。

ウ 日本企業による教育協力
ブラジルでビジネスを展開している日系企業の中には、a)在日ブラジル人の子弟向け奨学金制度、b)NPO、ボランティア団体に対する支援活動、c)ブラジルに帰国した子弟の現地学校、社会等への適応支援、d)自閉症児自立支援、また、「在日ブラジル人向け自動車整備学校」プロジェクトや現地の職業訓練学校へのサポートなど、ブラジル人支援に係る社会貢献に力を入れているところもみられる。
将来、両国の架け橋となる人材育成への取り組みとして、引き続き、企業による社会貢献の実施を期待する。

(3)高等教育段階
ブラジルをはじめ南米諸国からの日本への留学生は、2011年度は対前年度比マイナス129人(マイナス18.0%)と大幅に減少し589人、2012年度は対前年度比33人(5.6%)増と回復傾向にあり622人となっているが、我が国の「留学生30万人計画(注8)」を踏まえ、ブラジルやアルゼンチン等における日本への留学生派遣プロジェクトと効果的に連携し、留学生の受入数の拡大を図ることが必要である。
ブラジルでは、国の持続的な発展のために、化学、バイオテクノロジー、航空工学、材料工学などの専門的知識を有するエンジニア等の人材育成が急務となっている。そのため、ブラジルでは、今後10万人の理系分野における学部学生、大学院生及びポスドクをブラジル政府奨学金で海外の先進国へ留学させる「国境無き科学」プロジェクトを2011年に策定し、企業へのインターンシップを含む留学を推進している。我が国(JASSO:日本学生支援機構)とは、2012年7月に覚書を結び、2013年より3年間で3,900人の受入れを目標としている。
また、アルゼンチンでは、外部資金を活用し、日本への留学生派遣を希望している。
チリ、ペルー、コロンビアなどは、日本との貿易投資関係が最近活発化しており、かつ日本への留学経験者が多いため、継続的な人的交流が非常に重要である。
今後も南米諸国からの日本への留学生の受入数の増を図るため、これらの国で留学フェア、留学セミナー等の定期的な実施やIT 等を用いて日本への関心を高めるための広報に努めることが重要である。

1) ブラジルの「国境無き科学」プロジェクト等
当面、ブラジルの「国境無き科学」プロジェクトにおける日本での受け入れを確実に行う必要がある。文部科学省及びJASSO では、積極的にその受け入れ可能性を調査するなどの対応を行っており、引き続き日本側の大学に適切な情報提供をするなどして積極的な受け入れに努める必要がある。また、「国境無き科学」プロジェクトでのブラジルからの留学生がインターンシップを行うに当たり、その受け入れ先については、現在、関心を示す企業等と連携しているところであるが、加えて、例えば日本国際協力センター(JICE)等において、企業の協力を得て、企業へのインターンシップ受け入れの情報提供を行うなど、インターンシップ受け入れメカニズムを構築すべきである。
また、アルゼンチンでは、米州開発銀行から留学生派遣のための資金を得て、科学技術分野における日本への留学生派遣を希望しており、文部科学省において具体的な受け入れ方法等を検討し、引き続き受入れ実現に向けた先方政府との調整を行う必要がある。

2) 双方向の学生交流
我が国とメキシコの間の日墨交流計画で、毎年100人の両国の学生、研究者、企業の人々が交流したことにより、相互理解の促進等大きな成果があった。これを踏まえ、南米諸国側学生を本邦で受け入れるだけではなく、我が国の学生を現地に派遣することは、日本人学生にとって短期間であっても現地で多様かつ優秀な人材と交流する機会が得られ、国際協力に対する意識が高まることが期待できると考えられ、これらを積極的に推進すべきである。
また、双方向の学生交流が進まない原因の一つとして、双方の教員レベルの交流が少ないことも考えられる。双方の教員レベルの交流が促進されるような教員にインセンティブを与える施策が必要である。

3) 大学間交流の構築
留学生受入のための大学の体制整備や、大学間の協働教育プログラムの実施等を通じて、南米諸国の大学とも連携を図るべきである。その際、国際教育交流の推進に大きく貢献した大学等、功績のある者への顕彰等があると有効である。

4) 工学系人材の養成等
南米諸国との間で、環境や気候変動、生態系といった新領域、あるいは新しい動きであるスマートシティ構築への取り組みなど工学分野の新領域開発プロジェクトに重点を絞っていくことにより、大きな成果を上げられる可能性がある。
その際、産学官の協力・連携の下、国際教育協力を進めることによって、人的つながりの醸成等の日本のプレゼンスを再び示し、今後の持続的な協力・連携関係の基盤を形成することもできると考えられる。
工学系人材を養成することを目的としてODA を活用した取組としては、ASEAN におけるAUN/SEED-Net(注9)や日エジプト間のE-JUST(注10)等がある。このうちE-JUST については、相手国政府にも相応の負担を求めつつ、教育・研究について我が国の支援大学が「技術協力」としてサポートするという教育協力の形態をとっている。ODA 卒業間近のブラジル等の新興国においては、このような支援の方策も検討すべきである。

5) 科学技術協力を通じた人材育成
文部科学省とJST(科学技術振興機構)、外務省とJICA の協力により開発途上国と我が国の国際共同研究を通じて地球規模課題の解決を目指す事業である、SATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力)(注11)を今後も継続し、同事業を通じた研修生や留学生の受け入れを推進するべきである。2013年1月時点で、南米では、アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、チリ、ペルーにおいて研究プロジェクトが実施されており、事例としては、「アマゾンの森林における炭素動態の広域評価(ブラジル)」、「津波に強い地域づくり技術の向上に関する研究(チリ)」などがある。

(4)産業人材育成
南米諸国に対する人材育成協力に関しては、南米諸国の要請に応え、我が国が得意とし評価も高い工学高等教育において、現地の発展に資するエンジニア等の人材育成に係る協力とともに、日系企業にとっても優秀な人材を確保することにつながる現地日系企業でのインターンシップの実施による協力が重要である。
一方で、日系企業が現地で必要とするローカル人材を確保しやすくするために、当該人材育成のニーズに日本の高等教育分野での協力がどれだけ応えていくことができるかが鍵である。そのためには、関係する日系企業に対して、例えばアンケート方式の調査を実施し、現地の人材ニーズを見極めた上で、企業と連携した我が国の具体的な教育協力を考えていくことが効果的である。
また、経済産業省における対南米人材協力として、途上国の産業人材を対象に、日本企業においてOJT 方式で研修を行う「技術研修」、AOTS(海外技術者研修協会)同窓会連合を通じて募集した現地のマネージャークラスに対する研修を行う「管理研修」が行われている。そのほか、「海外における中小企業の大卒、高専等の現地高度人材確保の支援」を検討中であるが、これらの現地研修生の受け入れを引き続き実施することが重要である。

5.おわりに
平和国家としての我が国がグローバル化の進む世界の中で国際教育協力によってプレゼンスを確保することは、政治、経済、外交で有益な結果を得るためにも不可欠の条件であり、国内の教育の充実と併せて世界の教育改善のために貢献していくべきであろう。南米諸国は教育の改革と拡充に乗り出しており、その機を捉えて、相手国が必要とし、我が国が貢献可能な、得意分野を活かした協力を、短期、中期、長期にわたり探求の上、積極的に開発促進するべきである。
昨年3月の本会議中間報告書で述べたとおり、国際教育協力においては、産学官の連携や組織的・継続的な支援などオールジャパンでの戦略的な取組が不可欠であり、これは、今後大きく発展する可能性を秘めた南米諸国への協力に当たっては特に留意すべき点である。
今後、我が国と南米諸国との持続的な協力・連携関係の基盤形成を目指し、本審議のとりまとめを十分踏まえつつ、関係省庁、大学等の教育機関、企業をはじめとする関係者が、さらに積極的な取組を展開されることを切に期待したい。

【脚注】
注1BRICS:B はブラジル(Brazil)、R はロシア(Russia)、I はインド(India)、C は中国(China)及びS は南アフリカ(South Africa)の5か国を表す。現在の発展途上国の中で、広大な面積と多くの人口、豊富な天然資源を有し、21世紀に大きな経済成長が見込まれる国として、米国証券会社ゴールドマンサックスが名付けたのが語源。

注2ジョムティエン会議:1990年にタイのジョムティエンにおいて、ユネスコ、ユニセフ、世界銀行、国連開発計画の主催により開催された「万人のための教育(EFA)世界会議」。初等教育の普遍化、教育の場における男女の就学差の是正等を目標として掲げた「万人のための教育宣言」及び「基礎的な学習ニーズを満たすための行動の枠組み」が決議された。

注3PISA2009年調査:参加国が共同して国際的に開発し、実施している15歳児を対象とする学習到達度調査。2000年に第1回本調査が実施されて以後3年ごとのサイクルで実施され、2009年調査は第4サイクル目。65か国・地域(OECD 加盟国34、非加盟国・地域31)、約47万人の生徒を対象に、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について調査。

注4ODA 卒業国:ODA 被援助国が経済発展を遂げ、一人当たり国民総所得(GNI)が一定水準以上となり、DAC(開発援助委員会)統計上のODA 対象国から除かれた国。

注5日伯農業開発セラード・プロジェクト:不毛の地と呼ばれたブラジルの中央高原を中心に広がるセラードを開発するため、1979年、日本とブラジルが共同で実施した事業で、2001年に20年以上にわたる歴史に幕を下ろした。日本側・ブラジル側が事業費用の9割の資金を用意、事業地に入植した農家に設備・営農資金を貸出すとともに、長期専門家をブラジルに送り側面支援。
その結果、セラードは南半球最大の農業地帯となった。

注6中米の教育協力という形でホンジュラスのもとにある組織とJICA が長期間協力して教科書や教員用指導書を整備する等して算数教育のレベルを高めたという実績。

注7持続発展教育(ESD):持続可能な社会の担い手を育むための教育。環境教育、基礎教育、国際理解等、個別課題に関する教育を持続可能な発展の観点から総合的につなげる概念。2002年の国連決議に基づき、ユネスコを主導機関として国際的に取り組んでいる。

注8留学生30万人計画:日本を世界に開かれた国とし、アジア、世界との間のヒト、モノ、カネ、情報の流れを拡大する「グローバル戦略」を展開する一環として、2020年を目途に留学生受入れ30万人を目指し、2008年に、文部科学省のほか関係省庁(外務省、法務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省)が策定。

注9AUN/SEED-Net(アセアン工学系高等教育ネットワーク):ASEAN 地域中核大学の教育・研究能力を強化することにより、日本を含むASEAN 各国の大学間ネットワークの形成と協働を通じて、ASEAN 地域の社会・経済発展に必要な工学系人材を持続的に輩出することを目的としている。
域内実施体制:ASEAN10か国26大学。事務局:チュラロンコン大学(タイ)内に設置。
本邦支援大学:14大学が参加。

注10E-JUST(エジプト日本科学技術大学):日本型工学教育・研究の特徴である「少人数、研究室中心、実践性・応用力重視」をコンセプトとし、中東及びアフリカ地域における中核的教育・研究の拠点となり得る工科系国立大学をエジプトに新設する支援を行う事業。国内支援大学は12大学。

注11SATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力):独立行政法人科学技術振興機構(JST)と独立行政法人国際協力機構(JICA)が共同で実施している、地球規模課題(一国や一地域だけで解決することが困難で、国際社会が共同で取り組むことが求められている「環境」「エネルギー問題」「食糧問題」等の課題)解決のために日本と開発途上国の研究者が共同で研究を行う3~5年間の研究プロジェクト。

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大臣官房国際課国際協力企画室

(大臣官房国際課国際協力企画室)