国際協力推進会議 南米ワーキンググループ(第1回) 議事録

1.日時

平成24年9月27日(木曜日)10時30分~11時30分

2.場所

文部科学省旧庁舎5階 文化庁特別会議室

3.議題

  1. 対南米教育協力について(現状と課題)

4.出席者

委員

木村座長、井上副座長、江原委員、岡本委員、桜井委員、讃井委員、田中委員、細野委員

文部科学省

森口事務次官、山中文部科学審議官、加藤国際統括官、永山国際課長 外

オブザーバー

(外務省) 塚本中南米局南米課首席事務官、横林国際協力局国別開発協力第二課課長補佐、狩俣国際協力局地球規模課題総括課企画官 外
(経済産業省) 田村通商政策局米州課中南米室長 外
(独立行政法人国際協力機構) 亀井人間開発部基礎教育第一課長

5.議事録

○事務局より、本ワーキンググループは、国際協力推進会議のもと、対南米への国際教育協力の現状と課題を整理するために設けたものであり、本日を含めて2回のワーキンググループを開催して、産学官の関係者から発表を頂く予定である旨説明した。

○木村委員が座長に、井上委員が副座長に選任された。

○「国際協力推進会議の公開」について、国際協力推進会議に準じることが決定された。

○対南米の国際教育協力の現状と課題について、文部科学省、外務省、経済産業省から資料1~3に基づき説明があった後、自由討議が行われた。

<文部科学省からの発表>
【犬塚企画調整室長】  資料1「文部科学省における対南米諸国教育協力の現状と課題」ということで、両面の1枚紙を用意させていただいた。
 まず、「1.教育協力の現状」だが、定住外国人への支援については、近年の経済不況等により就学困難に陥っている日系ブラジル人等の定住外国人の子供への支援を図るため、平成21年12月に、「定住外国人の子供の教育等に関する政策懇談会」を設置して、次の基本方針を提言している。
 初等中等教育分野においては、入りやすい公立学校を実現するため、日本語指導体制の整備、定住外国人児童生徒が日本の学校生活に適用できるよう支援体制を整備。公立小中学校への入学、編入学する定住外国人児童生徒の受入れ体制について、制度面の検討を含めて、環境整備を行うとともに上級学校への進学や就職に向けた支援を充実。
 また、外国人学校における教育体制の整備については、ブラジル人学校等の経営を安定させ、充実した教育内容を提供できるよう、各種学校・準学校法人化を促進。認可権を有する都道府県に対して、適切な範囲での基準の適正化を引き続き求めていくところである。
 学校外については、学校外における学習支援ということで、標準的なカリキュラム案、また、教材例集等を作成するとともに、これらの周知・活用等によって、日本語学習支援を充実。
 公立学校の授業についていくのが困難な子供、外国人学校に在席していて日本語学習の機会が不十分な子供、あるいは不就学・不登校になっている子供に対しては、補完的な日本語学習の機会を提供する「虹の架け橋教室」事業を実施しているところである。
 高等教育分野での支援においては、ブラジルでは大学の国際化、又は科学技術発展の促進等を図るため、理系分野における学部生、大学院生等10万人をブラジル政府奨学金で国外に留学させる「国境無き科学」プロジェクトを実施しているところである。
 2012年7月、当該プロジェクト実施に関して、日本学生支援機構、ブラジル側はブラジル高等教育支援・評価機構、国家科学技術発展審議会とで双方の役割を定めた覚書を締結した。
 アルゼンチンでは、米州開発銀行から留学生派遣のための資金を得て、科学技術分野における日本への留学生派遣を希望しており、受入れ方法等について検討中である。
 「2.課題」としては、近年の超深海油田の発見と開発の石油石化業界、再生し始めた造船業界、自動車産業界などのブラジル産業界ではエンジニアが不足しており、工業学校や大学工学部の拡充の必要性が求められている。
 ブラジルを始め、南米諸国からの日本への留学生は、2011年度は前年比マイナス18.1%と大幅に減少しており、ブラジルやアルゼンチン等における日本への留学生派遣プロジェクトの活用等により受入数の増加を図ることが必要と考えている。
 日系ブラジル人等定住外国人の子弟が母国に戻った場合、また日本の大学等に留学等で長期間日本で生活をした後、母国に戻った場合、現地学校や社会への適応が円滑にいかないケースが多く見受けられるので、将来の両国のかけ橋となる存在であるそれらの方々に対する適応支援を目的としたきめ細かいケアが必要だと考えている。

<外務省中南米局南米課からの発表>
【塚本外務省首席事務官】 今回は教育についての話だが、その背景として、日本の中南米政策について御説明したいと思う。
 外交政策として3本柱がある。1番目は、経済関係の強化。具体的には市場としての魅力、資源・食料の供給源としての魅力が中南米にある。
 2つ目の柱、これは国際場裏での連携である。安保理改革や気候変動といったようなマルチの話題でも中南米と連携していく余地が多い。
 3番目は、安定的発展に対する支援である。これは教育と一番関係ある。今中南米は伸びているが、貧困格差は引き続き大きな不安要因となっているので、人材育成といった教育が非常に重要である。
 1つ目の柱、経済関係の強化について、ここでは特に市場として非常に大きいことを説明する。
 中南米は、まさに今、新興経済地域である。GDPはASEANの約2.5倍、1人当たりのGDPも中国の2倍で、非常に大きなものがある。
 中南米は、特にブラジルの比率が非常に大きく、ブラジルだけでも、ASEAN、ロシア、韓国を上回っている。ブラジルは中南米の約半分のGDPを占めるぐらい大きな位置を占めている。
 世界経済危機はあるが、引き続き4から6%という高い成長率を維持しており、昔懸念されていた債務危機、高インフレは既に過去のもので、これからも有望な成長市場として期待される。
 日本は、何をやっているかということだが、下の(1)、(2)、(3)に書いてあるとおり、具体的にはEPA、投資協定の枠組みの強化。EPAは昨日、国連総会でコロンビアと新しくEPAの交渉開始が決まって、投資協定も進めている。また、大型インフラ案件として、鉄道などの獲得の支援も日本政府は強化している。
 1つ目の柱、経済関係の強化について、ここは違う側面で、資源と食料の供給源としても中南米は非常に魅力が高い。資源・食料外交の最前線で、具体的には、銅については世界の生産量の約半分、鉄については約4分の1を中南米が占めている。資源だけではなく、食料について、例えば大豆だが、中南米は世界の生産量の約半分のシェアを占めている。
 我が国としては、中南米の資源、食料を日本に輸入して相互補完的な関係を築いていきたいと思っている。
 (4)の下の方方に書いてある資源・食料で、石油・石炭、新しい資源であるリチウムといったものについても非常に潜在性が高いのが中南米の特色である。
 2番目の柱、国際場裏での連携についてであるが、新興国の発言力は非常に高まっている。南米に限らず、中南米全体合わせると33か国、これは国連加盟国の約2割を占めている。2割の発言力を持った国というのが中南米である。
 特に新興国の台頭として大きいのは、ブラジル、メキシコ、アルゼンチンといったG20のメンバーで経済プレゼンスが非常に上昇している。
 日本と同じように民主主義、市場経済の基盤を共有しているので、FTAなどを通じて協力できる余地は非常に大きい。
 具体的な協力分野としては、経済、気候変動、核軍縮、安保理改革などがある。
 政策ツールとしては、主要国との首脳・外相会談や定期的な政策協議といったような政治レベルの場を使って物事を推進していこうということである。
 アルゼンチンでの留学生派遣もあり、実は来月アルゼンチンからハイレベルの要人が来る予定である。そのときにもアルゼンチンとの留学生関係の取組を進めていきたいと思っている。
 3番目の柱、安定的発展に対する支援についてだが、これはODAの関係の話で、まさに人材育成を基盤とした国づくりは南米では非常に課題となっている。非常に伸び率が高い経済成長という光の部分はあるが、その光が目立つ分だけ貧困や格差という影の部分が非常に目立っている。貧困格差は伝統的に非常に大きく、ほかの地域に比べてもまだまだ多いので、日本としても貧富の格差をなくすような支援をしていきたいと思っている。
 我が国のODA実績における中南米のシェアについては、割合としては7%と、非常に低いものになっている。この7%というのを今後どうやって増やしていくか、さらに、少ない7%をどのように効果的に使っていくのかというのが1つ課題になるかと思う。

<外務省国際協力局からの発表>
【横林外務省課長補佐】 中南米に対する協力については、経済成長が著しい地域なので、おのずとその援助の量、裨益(ひえき)資金も減ってきており、ますます選択と集中が問われている。まさに昨今は、何のためのODAか、日本の国内、又は民間企業にも裨益(ひえき)するような形でODAを使っていく必要があるのではないかという声にも応える形で案件形成をしていく状況になっている。
 重点方針は、中南米全体に当てはまることではあるが、南米についても、最初のところでは、資源エネルギー安定供給、食料安全保障、又はインフラの海外展開である。我々は、インフラ、鉄道、橋梁(きょうりょう)、道路、交通網といった分野での知見を持っているが、インフラ分野での整備が南米はおくれているので、そういった分野での協力。それをもって日本の民間にも裨益(ひえき)するような形での協力を行うのが最初のポイントである。
 2つ目は、自然災害、防災である。日本もそうだが、中南米は地震頻発地域で、津波や昨今の気候変動絡みの洪水といったものが多いということもあって、我々の知見を中南米に対して提供していくという観点での防災分野での協力がある。1つ例を挙げると、今年からブラジルに対して統合的な防災協力ということで、国交省の護岸工事といったところから、気象庁系の衛星を通じた気象観測なども含めた統合的な防災協力が始まる。ブラジルからは、そういった防災分野は非常に日本が知見を一番持っているということで、日本に是非頼みたいというラブコールが数年前からあって、そういった意味で、ブラジルでの防災協力に我々も本腰を入れようということになっている。
 3点目は、再生可能エネルギー、省エネ、森林保全である。ブラジルの例を出すまでもなく、森林、熱帯雨林や、自然保護の観点から重要な分野があるので、そういった分野でも我々としての協力をしていきたいと考えている。
 最後のところは、人間の安全保障、貧困削減である。経済発展著しいとはいえ、国ごとに見ていけばまだまだ貧富の格差が大きいというのが中南米の特徴であるので、そういったところで、学校建設や草の根での協力を行っている。
 外務省が行っている草の根無償については、教育分野での協力で、平成23年度の実績をカウントしたところ、南米全体で約84件の草の根無償を行っている。1件当たり大体限度額が1,000万円で、総額8億4,000万ぐらいになるが、基本は小学校建設である。その国の教育省の予算が地方まで行き渡らないということもあるので、地方の貧困地域の学校建設を草の根無償で現在も行っている。
 教育協力という点では、社会開発の一つとして今まで行ってきているが、南米のODAを使った協力という観点では、そういった分野を卒業した国が大分増えてきて、そういったところから産業育成、人材育成に関する要望が来ている。ブラジルの例だが、造船分野で進出している日本企業があって、造船をやっていくにもブラジル人の人材が足りないので、JICAの協力で造船分野の専門家を派遣するといった形での人材協力ができないかという要望が向こうから来ている状況である。

<経済産業省からの発表>
【田村経済産業省中南米室長】  当省の対南米人材協力は、研修の受入れと、現地専門家派遣の2点がある。
 研修受入れの事業の実施については、財団法人海外産業人材育成協会に委託して実施しているが、今年の3月に合併してできたものなので、旧AOTS(海外技術者研修協会)と、旧JODC(海外貿易開発協会)の2つの事業を合わせたものと考えていただければと思う。受入れ研修は、旧AOTSの事業である。
 技術研修の方が主になるが、相手国から日本に研修生を受け入れて、座学で一般的知識、予備知識等を入れた後、受入れを了解していただいた日本企業の方で現場での研修をする。「開発途上国の現地企業等から申請」と研修の流れの部分に書いてあるが、基本的に、日系企業であることや、出資があることなどの縛りはない。しかしながら、日本で研修、日本の企業に研修を受け入れていただくものなので、日本企業との取引先、あるいはローカルサプライヤーになっていただいている方等の技術向上という意味で、日系関連企業の方が中心になるとは思う。
 その中でも、特に中南米だと、日系人の方の3世、4世という方が日系企業の方に就職されているということもあるし、日本企業の方からもそういった方を、優先的にというわけではないが、採用されていることもあるので、そういった方々が中心になっているかと思う。
 それから、右側の方の管理研修と書いてあるが、これは技術というよりは、現地のマネジャークラスの方を研修しようというものである。期間は若干短くはなっているが、そういった方々に受けていただく。
 これは、研修の流れのところに「同窓会等を通じて参加者を募集」と書いてあるが、これは今までの過去の蓄積からAOTSで来られた方の現地のOB会があるので、そういったところを窓口に募集手続等をお願いしている。
 AOTS自体の実績であるが、昭和34年度から平成22年度まで52年間あるが、世界全体で12万人強受け入れているが、ほかの事業と同様にアジア中心であり、84%程度がアジアの方である。ただ、中南米は、日系人の方もいらっしゃるので、アジアの次に比率が高く、約9,000人いらっしゃる。大体割合にして7%程度で、中南米の中でもメキシコとブラジルが突出している。
 平成23年度は、事業組みかえをしているが、技術者研修、管理者研修で1年に2,600人程度。これも90%以上をアジアが占めており、中南米は2番目で4%程度だと思う。
 分野については、メキシコ、ブラジルで、専門技術者の方では自動車関連のもの、管理者研修の方ではメキシコが突出している。これは今メキシコが自動車産業の下につく部品産業の方もかなり進出しているので、現場でのローカルスタッフのマネジャークラスの養成といったところから需要が出ていると思う。
 同窓会組織を通じた現地の同窓会の状況については、アジアが中心になるが、ラテンアメリカ同窓会連合では、メキシコとブラジルのみ、地方別になるが、同じ国内に2つ同窓会組織ができている。
 AOTSなり、日本で研修を受けた方のOBとして現地での要職についておられる方、また企業の要職についておられる方、工業界での要職についておられる方等々が、中南米にいる。
 専門家派遣の方では、旧JODCの事業と考えていただければと思う。これも現地への専門家派遣の行き先に縛りはない。ただ、日本企業の方が専門家派遣の負担があるので、ローカルサプライヤーの方や、企業の取引のある方が中心になっているとは思う。
 これもどちらかというと、サプライヤーとなる中小企業の方、現地の中小企業の方等々が中心になっている。
 また、本年度の事業から、若手日本人の海外へのインターンシップの支援を始めた。途上国にインターン受入先を大使館その他の関係機関を通じて抽出していただき、マッチングして、今年度については86名の方を派遣することを決定した。
 派遣先一覧の方では、今後のつながりを考えて、一般企業のほかに、電力公社や資源の公社といった政府系、純粋に政府というわけではなくて、昔でいう公社、公団、エネルギー企業のようなところが中心になっているとは思う。
 平成21年度から23年度までは産業人材裾野拡大支援事業を行ったが、これは、日本とのつながりを強化することを目的に、現地の企業や大学での日本語教育などを行ったものである。いわゆる異文化講座であり、ビジネス講座、インターンシップ、ジョブフェアを行って、今年度は事業を終了しているが、評価を頂いた事業なので、来年度、新規要求している。
 各省との連携、JICAとの連携等については、経済産業省は中小企業関連支援が中心になっているので、中小企業庁、あるいは経済産業局が行っている海外進出を考えている方への支援のための会議を設けている。その会議に、JICAの地方センター長の方も出席いただいて、海外におけるインフラの状況等の情報交換をさせていただいている。
 対南米人材協力の課題については、アンケートや定量的な資料がないので、どこの企業とは特定せず、通常よく聞いているものを挙げさせていただいた。
 一点目は、エンジニアの確保が難しくなっていることである。「低い失業率」と書いているが、これは日系企業が進出しているサンパウロ首都圏、サンパウロ圏を中心に、地方に行けば別になるが、日本企業が進出している地域では人材が不足している。サンパウロ圏や、クリチバ周辺であれば教育水準が高いが、地方に進出しようとすると格差がある。
 それから、ブラジルに限らないと思うが、離職率、ヘッドハンティングなり転職していくのは通常のことであるので、人材育成にかなり注力しても、ある程度の離職は見込んでいかないと、企業としては戦略を立てられないと思う。
 また、日系人の方といっても、今は5世までいらっしゃるとなると、言葉の壁は結構厳しいものがあるといった意見が多かったと思う。

<質疑応答>
【岡本委員】  AOTSの同窓会連合は、ラテンアメリカに特化するとどれぐらい機能しているか。

【田村経済産業省中南米室長】  最近の情勢はわからないが、私が10年ほど前にメキシコにいたときは、AOTSの横のつながりはかなり強いものがあったと思う。次期候補者をどうしようかといったところも、横のつながりで、日系企業の方に就職されている方からもかなり推薦を受けられた。
 アジアの方は、政府要人の訪問がかなり頻繁なので活動はもっと盛んだが、中南米は、日本からの要人訪問が増え、同窓生が集まる回数が増えればいいと思う。ただ、日系人社会には日本人協会もあるので、そういった中で活動はされていると聞いている。

【井上副座長】  特に外務省から、この地域はブラジルを中心にして潜在的な可能性があり、非常に重要な地域だというお話があった。
 そこでお聞きしたいのは2つあって、1つは、日本がそれだけ思っているなら、ほかの国はどう思っているのか。つまり、アメリカももっと南米を取り込もうとか、あるいは、韓国や中国は何をしているのか。あるいは、ポルトガルやスペインはどういうことをしているのか。その中で、日本はどうやっていくのかということについて、御意見があれば教えていただきたい。
 それから、2つ目は、中東との関係でも言ったが、協力をするとなると政治的安定性、あるいは安全が非常に大事だと思うが、貧富の差が非常にあると、ガバナンスの問題、コラプションの問題は今どういう状況で、今後どうなるとお考えかを教えていただければ有り難い。

【塚本外務省首席事務官】  1点目の質問について、他国がどう思っているかについては、3つのグループに分かれると思う。
 アメリカについては、非常に仲のいい国、悪い国がはっきりしている。具体的にはチャベス政権下のベネズエラとは関係がよくない。ベネズエラとは政治的には距離を置いている。
 2つ目のグループの韓国、中国は積極的に進出している。例えば、韓国の中南米への投資の割合(対全世界)は、10年前の数%から現在は10%程度を占めており、かなり増えている。
 第3のグループのスペイン、ポルトガルは、欧州の経済危機とともに影がやや薄くなっているというのが大きな印象である。
 日本はその中で各国、特に中国、韓国の企業とは競合関係にあるが、仲よくできるところは仲よくしている。具体的には、先月、日中韓の局長レベルが東京で会議をした。中南米について今後どういう方針で臨むかについて議論している。各国とも協力しながら行っているのが日本の状況である。
 2つ目の質問の、政治、治安、ガバナンスだが、国によりかなり違いがある。ただ、一般的にはガバナンスはそれほどよくなく、汚職もまだ蔓延(まんえん)している。治安について、例えばコロンビアは、最近企業の進出も増え、ゲリラとも和平交渉が進み、治安はややよくなっている。

【細野委員】  中国、韓国が最近急速にアプローチをしてきているのは確かであり、中国のトップが中南米を回ったほか、資源を大量に買っている。日本が長い間協力して、ブラジルの大豆生産は増えたが、多くを買っているのは中国である。中国、韓国の動きは非常に注目される。
 ただ、違いは幾つかあると思う。例えば中国、韓国は、資源を買うのが中心となってきた。一方、製造業への投資、特に技術を移転させ、雇用の拡大をしてきた投資は、圧倒的に日本が行ってきており、50年以上の伝統がある。その点がまず第1点。
 それから、2点目は、国際協力という意味では、JICAをはじめとする日本の協力の長いアセットは非常に大きくて、中国、韓国はごく最近始めたばかりである。多くの現地の人たちは、日本の長いアセットについて知っている。日本の面積の5.5倍ある不毛の大地と言われたセラードが、世界有数の穀物生産地に変わっていった。70年代半ばからはじまったセラード開発に最初から協力してきたのは日本である。エリゼール・アルベスさんはまさにセラードのスタートからずっと関わっている方だが、こういう方は、日本が本当によくやってくれたと文書にも残しておられる。経団連の土光さんの名前をとった土光大豆というのがあるが、ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)の行った技術革新でブラジルの画期的な熱帯性大豆ができている。
 一例だけ申し上げたが、日本は、中南米のあらゆる国に協力の長い蓄積がある。幾つかの空港や港も日本がつくった。
 そういうことを考えると、非常に長い国際協力をベースにつくられてきた協力関係は、中国、韓国に簡単にかわられるものではないことを現地でも理解されていることと考える。
 3点目は、日系人の方々がおられることもあり、信頼関係が非常に強いことである。一部のアジアの国々に対する多少の不信感等は、いろいろなところで見え隠れする。それに対して、ブラジルでは日本人のことをハポネスガランチードと言う。日本人とだったら安心で、ガランティードだという言い方は広く知られている。日系人の方のおかげでもあるが、そういう点で、中国、韓国とは違う。
 それから、中南米は、アメリカでも、ヨーロッパでも、いいものであれば積極的に取り入れる国が多い。だから、いい技術、あるいは、すぐれた日本のプラクティスを発信していくことでヨーロッパ、アメリカとも互角でやっていけるのではないかと思う。
 例えば防災の分野では、ヨーロッパ、アメリカよりもはるかにいろいろな協力を行っている。それから、地デジが非常にいい例で、日本方式がヨーロッパ方式、アメリカ方式をある意味で退けて、ブラジルが最初に日本と組むことを判断した。日本方式のすぐれた部分を非常によく理解してくださり、ルーラ大統領はじめとして、首脳レベルが、地デジをほかの国へ紹介していったことが今日につながっていると思う。そういった、ほかの国々との違いも確かにはっきりと言えるのではないかと思う。

【木村座長】  ペルーからは、地震関係でたくさんのエンジニアが日本に来ており、JICAの供与もあってペルーに立派な地震センターができている。私は、道路公団の理事と一緒にJICAのポストスタディーでコロンビアとペルーへ行ったが、日秘センターでの会合には、300人ぐらいの人々が集まった。そのとき感じたのは、人的なつき合いが非常に重要であるということだった。今後ともこういう関係を続けていかなければいけないし、その意味で受け入れ留学生を増やすことはマストだと思う。
 コロンビアはそうたくさん人が集まらなかったが、参加している人のクオリティーが高く、大学の教授や実業家が多く出席して、人的なつながりは大きいと感じた。
 日本は地震に関しては50年ぐらいの研修コースの伝統がある。これは依然として続いているから、こういう協力は今後とも非常に大事だと思う。そのためには留学生を何とか今の10倍ぐらいは昔の関係からすると来てもらってもいいと思う。
 東京工業大学には、タイから非常に優秀な学生が来ていて、学位、修士、博士を取って帰り、就職するのは日本企業である。今、タイの日本企業のトップはほとんど彼らと言ってもいいぐらいの状況になっており、日本の大学を出て、あるいは学位をとって現地の企業、日本企業以外の企業に就職するのはなかなか難しい状況がある。日本企業が進出して、そこで雇ってもらうのが第一であり、それから徐々に広がっていくのではないかと思う。

【桜井委員】  日本では、この国はODA対象国ではないから協力できないという話にすぐなるが、中国や韓国はそういう発想はしない。資源や戦略的重要性の観点からどの国が重要という発想をしているのではないかと思う。日本は、戦略的重要国特別支援制度というようなプログラムをつくり、ODAとは別のメカニズムをつくらないと完全に諸外国との競争に負けてしまう。

【木村座長】  私も同じ意見で、日本はどうしても均等にするから、薄まってしまう。たまたまペルーの地震の例は、結果として重点投資になって非常に緊密な関係になっている。津波については日本の研究が非常に進んでいるから、チリや、その周辺は相当期待していると思う。その辺の重点投資を考えなければいけないと思う。
また、枝野大臣が、AOTSの同窓会に出られたとのことだが、政治家の主要ポストにいらっしゃる方が同窓会に出ることは重要だと思う。福田康夫さんが総理大臣のとき、タイへ行かれた。タイの日本の大学の同窓会に行かれて、褒める意見だけではなくて、相当批判も聞いてきたそうだが、後で福田総理は、非常によかったとおっしゃっていた。

【江原委員】  日本に来る外国人留学生の支援枠組みは、日本の国費留学生が主になっているのか。

【木村座長】  今、留学生は14万人ぐらいいるが、そのうち国費は1万人ぐらいである。数は頭打ちだが、日本の国の立ち位置からすると仕方がないのかもしれない。先進国で、これだけ留学生に公費を出している国はない。イギリスの国費留学生の数は微々たるものであり、英国は外国から来た留学生が払う授業料で稼いでいるから、状況は日本とは全然違う。日本は留学生にサービスをしている状況である。

【江原委員】  日墨交流計画で日本とメキシコの間で、毎年100人の日本人とメキシコ人の学生、研究者や企業の人が交流して、非常に役に立ったと思う。その数値的な評価はまだ行っていないと思うが、目に見えないところでの大きな効果があったのではないかと思う。そういう中南米向けの重点的な留学プログラムを日本でできれば、来たい人は多分たくさんいると思う。

【井上副座長】  今のお話は、突き詰めていくと、予算が伸びない中にあって、重点化という観点から資源の再配分をどうするかという問題になると思う。そこは恐らくこういった議論を踏まえて、事務当局においても考えると思う。

【山中文部科学審議官】  全体の中での予算の再配分という方法と、特定の地域への戦略的方針があった場合、予算全体は徐々に減っているから、その分特別な留学交流プログラムをオンして行うというのも1つあるかと思う。アジア、アフリカ、中近東、南米など、いろいろと重要な地域があるが、それごとにやるのかなど。

【木村座長】  ODAのお金も奨学金に使えるようになった。やり方はいろいろあるのではないか。

【山中文部科学審議官】  ブラジルから10万人の海外留学を促進する「国境無き科学」プロジェクトで、その第一波の中に日本が入っていないのは非常に寂しい状態だったが、第二波の中には入っているので、こういう契機をつかんで政策をつくることも考えられる。

【木村座長】  アルゼンチンがこれから留学生を派遣するとのことだが、日本も、文科省から行って喧伝(けんでん)をしてきたらどうか。

【山中文部科学審議官】  ブラジルは今後オリンピックや、サッカーのワールドカップがあって、世界的にも注目される地域である。そこを、環境問題など、幾つかのてこを使って協力を集中していく。文部科学省の会議に外務省、経産省、JICAの方に来ていただいているので、そういうものをここで少しまたつくってもらえると良い。

【木村座長】  国費留学生の数の割当ては各国にある。ブラジルは、数の割当てよりも申請数が少ないのか、多いのか。タイはすごく多いが、ブラジルはむしろ少ないのではないか。

【山中文部科学審議官】  どこを増やすかというと皆重要だから、留学生数を伸ばすためには、プラスするプログラムを立ち上げていく方が枠を取り合うよりも早いのではないか。

【木村座長】  SEED-NetとE-JUSTも非常にうまくいっていると思う。中南米に対してもこういうモデルをつくっていくべきではないか。

【山中文部科学審議官】  中南米は日系人というバックグラウンドがあるということで、ある程度プログラムを絞った形で集中したらどうか。それをあるところをやることによって中南米に広げていくなど、幾つか共通する提案があるので、今日の意見をまとめて次回、それを具体にどうするのか議論いただく。集中的に戦略的に行動できるように、そういう中に教育プログラムも入っていける状態がつくれれば有り難いと思う。

【江原委員】  日本語教育については、ブラジルにも中国の言語教育機関の孔子学院の関係かもしれないが、数年前から学校をつくっている。ブラジルでの日本語の取組は、継承語としての日系人の日本語教育に関してはJICAが行っていて、日系人以外は国際交流基金が行っているということだったが、日本語教育や文化を広めるときに、日系人からまたその先に広がっていかなければならないことを考えると、両方のいいところを生かす形で、ある程度まとまった方針のようなものが見えやすいといい。
 ブラジルの普通高校で、日本語を教えているところがある。それは私塾としての日本語学校ではなくて、ブラジルの公立高校の中で、パラナの方では放課後に行っている。公立高等学校に近隣の高校生たちを集めて日本語教育を行っているが、先生をどう養成しているかというと、それがなかなかよくわからない。観察したところでは、たまたま日系人がいたので教えているということであったが、公立学校の中で日本語教育を広めるには、ブラジルにおける日系人支援と、外国語としての教育の部分とでいろいろと協力しないとできないのではないかと思う。

【木村座長】  全土というのは難しいと思うが、特定のところでその辺の事情を少し調べていただくといいかもしれない。

【岡本委員】  例えばサンパウロ大学だと、田中角栄さんが行かれたときに、田中さんの一声で、日本から日本語学科にかなりお金を入れたと聞いている。そういったところで、日本語教師になっている人はブラジル内では派遣されていると聞いている。孔子学院と大分性格が違うが、そういった形の日本語学科のニーズは今でもある。

【田中委員】  その点では、帰国した人が不適応を起こしているのは、非常にロスが大きい。財源が限られているなら、こういう帰国者支援で、日本語を広めて、日本企業などで雇用できないのか。日本の外国人の場合にも同じようなケースがあると思う。

【木村座長】  日本の企業に入らないと、なかなか適応しないという状況がある。タイでは、それがうまくいっている。日系企業に入らない人は、現地のタイの企業に入るが、給料の高いところへ移っていってしまう傾向があるという。日本の企業に入った人は日本に対するロイヤリティーがあるので、長続きすると聞いた。

○最後に、事務局より次回のワーキンググループでの議題や今後の予定について説明がなされ、閉会した。

お問合せ先

大臣官房国際課国際協力企画室

(大臣官房国際課国際協力企画室)