坂本委員提出資料

定住外国人の子供の教育に関する懇談会

NPO法人 愛伝舎  坂本久海子

愛伝舎の活動を通して見た課題と要望

○国際教室担当者

 国際教室の運営は、正規採用の教員、常勤講師、非常勤、指導助手(通訳)、巡回指導員などが行っている。坂本自身、2002年に緊急雇用で教員資格がなく臨時免許を得て、小学校の講師として採用され2008年まで国際教室の非常勤講師として働いた。教員免許はないがポルトガル語が少し話せるということで、国際教室の担当をしたが、カリキュラムもなく研修もないまま新米教師として子供たちを任された。ほかの学校でも、国際教室の担当者は正規採用されている教員でなく、講師がやっているところが多い。英語塾の経験があるとか、英語が話せるという理由で国際教室の担当になるということは少なくない。

 日本語の話せない子供たちには、日本語指導を行うわけだが他の教科のように、文部科学省が定めた教科書、指導方法にそって教師が教えるということではなく、担当者が教材を集め指導方法を考える。多くは担当者の手探りで長年行われている。外国人集住都市会議に参加する一部の教育委員会では教育委員会主導で、教育方針が定まっているが、そうでない多くの学校では、短期間で変わる担当者が試行錯誤で教材を用意し、指導に当たっている。しかし単年契約の講師の経験が蓄積されて継続されていない場合も多い。「マイノリティの生徒をマイノリティの教師が担当する。」これは友人の教師がかつて言っていた言葉だが、学校現場で正規職員の立場にない、講師が国際教室を担当していることが多いが、組織の中で外国籍の子供たちの問題を学校全体の課題として取り上げられにくい環境にある。

 指導助手と呼ばれる日系人は、通訳という役割で学校現場に入る。子供たちからすると、教師と同じ指導者であるが、通訳の選考は「日本語とポルトガル語、スペイン語」などの通訳ができるかどうかという視点で、教育者としての適性などは十分に考慮されていない場合もある。日本の学校の制度や仕組みを理解していない人が、学校現場に入るということもある。

 指導助手は、生徒や保護者たちの生の声を聞くことが多くなり教師よりも近い存在になる。通訳をするだけでなく、ソーシャルワーカー的な役割を果たしていることも多くなる。経済的に困窮する家庭の状況を直接聞き困っている家庭の支援を何とかできないものかと思うが、行政との板挟みに苦しむことも少なくない。最近相談や悩みを訴える外国人が増え通訳を長時間することで、通訳者自身が苦しみ疲れて、精神的に悩む人たちも出てきている。

要望・・・

・教員養成の課程で、多文化共生についての履修を追加していただきたい。

・ 教員の研修として、外国につながる子供の教育、人権研修の充実。正規職員だけでなく、非常勤講師、指導助手や教育委員会、管理職の研修も行っていただきたい。

○子供の出産

 10代半ばの母親の出産が少なからずある。正式な結婚をしないまま妊娠をし、宗教の影響もあり未婚のまま出産をする。外国人集住地域では日本で育った青少年が親となり次の世代の子供が、小学校に入学をし始めている。保護者が十分な教育を受けておらず、保護者として日本の社会での適応力が低いまま親になっている若い世代がいる。保護者自身は自分の教育への反省もあり、子供には教育を受けさせたいと考える。

 かつて「自分が14歳のときに、13歳の女の子を妊娠させ子供を産んだが結婚をしていない。養育費は払っているが、生活費まで働く必要があるのか。」と17歳の青年からの相談もあった。

 20歳前後で小学生の保護者になる人たちへ、孤立しないような支援体制が必要である。

要望・・・

・ 三重県では妊娠中の検診が無料で行われることなど、多言語での案内を出す予定。小学校入学後に、保護者へ教育に啓蒙をするのでは遅く、妊娠、出産のタイミングで外国人保護者の子育てサポートを行ってほしい。

○乳幼児検診

 自治体によって、行政から外国人への情報提供には差がある。乳幼児検診は南米では日本ほど整備されていないため、保護者が検診の意義を理解していないケースもある。

 子供に障害があっても、乳幼児検診をしないまま小学校に入学していくケースがあり、就学前に必要なケアを受けていない。乳幼児検診を仕事を休んで受けられる環境にあるのかも、不明。ある市の通訳によると、3歳を過ぎても言葉を発しない子供、ADHDの子供、学習障害の子供の相談が増えているという。日本で生まれ育った子供の就学が増えているが、障害など要支援の外国籍の子供たちの存在は、日本の子供の人口比より多いのではないかという現場の声を聞く。

○保育園・幼稚園

 景気後退で失業して、親の収入が減り保育料が払えず退園している子供が増えている。就学前の集団生活を経験しないまま、小学校に入学する外国人児童が増えていくと、受け入れる学校の負担は増えていく。保護者が日本語を勉強するために、子供を保育園に預けることはできないため、幼児のいる母親が日本語を学習する機会は持てない。

○自動車免許

 派遣会社の送迎が減り、仕事には自分で通勤できる人が就職できるという状況になってきている。女性では母国で、自動車の免許を持っていない人が多く、就職には自動車免許取得が条件となっているが、日本語ができないため日本での自動車免許の取得は難しい。

 無免許運転で通勤する人もいるが、そうしないと仕事に就けず働いている人たちがいる。愛知県では英語の学科試験があるため、愛知県に住所を移して免許を取る人がいる。三重県ではポルトガル語とスペイン語の自動車学科試験の実施を求めて、県議会で再三要望が出されている。平成20年11月に愛伝舎では、外国語の学科試験実施に向けてシンポジウムを行った。無免許運転をしている外国人の存在を身近に感じており、市民生活にとっても大きな問題と認識してきた。今年4月から英語の試験が始まり、ポルトガル語の試験についても検討となっている。実現に向けては、日系人たちが署名活動をし、県議会に提出する予定でいる。

 母国に帰国して自動車免許を取る人が、景気後退前にはいた。保護者の帰国に伴い子供も帰国すると、子供は数ヶ月日本の学校教育から離れてしまい、教育の空白期間が生まれる。そのためますます学習が遅れてしまう。

 南米の国での道路事情、車検、保険は日本と異なり、日本での状況に必要な知識、理解を周知していく必要がある。

○健康保険

 派遣会社での社会保険加入が増えてきたが、景気後退で失業し社会保険が切れて、国民健康保険に切り替えるという人も多い。しかし国保になると、社会保険よりも負担が増えて、失業や収入減少で国保の支払いができない人も多い。小中学生の子供たちには資格証が支給されることになっていて、鈴鹿市では学校を通じて案内が外国人家庭にも周知されているが、対応は自治体によって異なっている。国一律の行政サービスが、自治体によって受けられる内容が変わっているということに対しては、格差がないように求めたい。

○外国人からの相談

 子供が犯罪を犯し、捕まってから後悔している保護者からの相談を受ける。仕事中心で、子供のことを気にかけずにお金を稼ぐことに夢中になってしまったと相談をしてくる保護者がいた。日系人の保護者は、自分たちは外国人だからと学校や先生に対して遠慮があるという。

 母国で教育を受けていない保護者は、教育の重要性を理解していない人もいる。国や州によって、教育レベルに差があり、教育を受けていなくても派遣会社で働くことができている。母国で稼げない額が手に入り、教育がなくても仕事に就けると思っている保護者はいる。そのため、子供を学校に送らない人たちがいる。

○不法滞在、偽装認知

 不法滞在者が日本人に偽装認知を依頼し、子供が日本国籍を取得している例がある。小学校には日本国籍で入学し、親子ともども日本語ができないが、外国籍児童としてカウントされない。偽装認知や不法滞在者であることが分かったら、通報しなくてはいけないということに今後なっていくが、学校現場やNPOの活動でそれを行うのは非常に負担が大きい。

○離婚と再婚

 日系人の家庭の離婚、別居が多い。ブラジルやペルーでは離婚に大変時間がかかる。別居をして離婚が成立していない場合、家庭は母子家庭だが法律上は離婚が成立していないため、母子家庭手当を受けられず経済的に困窮する。日本にいながら母国へ申請を行う以外に、日本国内での離婚の手続きを行うことができるが、行政書士費用を払えない人もいて法的な離婚の成立ができないというケースも少なくない。母子家庭で困窮している家庭に対し、学校の先生たちも心配をし、保護者の作るお菓子を購入するなどの支援をすることもある。

 また、別居中の保護者の離婚が成立しないまま、別の男性と同居を始め子供をもうける例も少なくない。家庭が不安定な中、居場所を失う子供がいる。

○就学援助

 就学援助は自治体によって運用が異なるため、外国籍の子供たちだけ就学援助の申請が通らなかったという学校もある。財政負担を嫌い積極的に外国人家庭への周知を行っていない自治体も少なくない。経済的に厳しい外国人家庭は少なくないと思われるが、外国人に対する就学援助を自治体はどのように運用しているのか、子供の教育を保証するために地域によって格差があるということは、是正されるべきではないかと思う。

○中学校卒業証書

 ブラジル人学校を8年生で卒業して日本の中学校に中学2年生の途中から編入してくる場合、ブラジル人学校の月謝が払えなくて日本の公立中学校に編入する場合の卒業間近の編入に対し、卒業証書の授与は教育委員会によって対応が異なり統一されていない。中学の卒業証書がない子供たちには、その後の日本での進学の道が閉ざされる。日本でこれからも生きていこうとする子供たちの可能性や選択肢を閉じてしまうということが、学校現場で平気で行われているということは、教育者の教育観を疑う。

課題全体を通しての要望

 NPO法人 愛伝舎は、多文化共生社会づくりを目指して活動を行っている。

 ・ ポルトガル語、スペイン語の電話通訳サービス

 ・ ポルトガル語、スペイン語の翻訳

 ・ 公営住宅外国人入居者生活ガイダンス

 ・ 生活オリエンテーション

 ・ 日本語教室

 ・ 外国人住民アドバイザー事業

 ・ 就労支援 介護ヘルパー養成講座

 ・ 人権研修 講師 など

 教育・住居・医療・保険・雇用など外国人が日本で自立するための支援を行っている。生活全般にわたって子供から大人までかかわっているが、行政単位で考えると行政間の連携がない。景気後退後、外国人に対して様々な緊急対策が行われているが、今外国人と日常接していて必要と思うのは、「拠点」である。

 子供と大人が学べる日本語教室、介護ヘルパーの研修、相談、子育て懇談会など一か所でまとめて対応ができる「外国人の拠点」を作り、そこから行政の窓口につなげる、年代を超えて対応ができるようにしてほしい。また自治体によっては、外国人が1000人以上いても、外国人への行政サービスがほとんど行われていないところもあり、ある程度広域の外国人市民に対応できる拠点が必要を作っていただきたい。

 

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大臣官房国際課企画調整室