東アジア諸国出張報告

 文部科学副大臣 中川 正春

1.日程

平成22年4月28日水曜日から5月6日木曜日

2.訪問国

中国、韓国、インドネシア、マレーシア、シンガポール

3.訪問先

○中国

  • 国家自然科学基金委員会(NSFC)沈文庆(SHEN Wenqing) 副主任(国際担当)
  • 中国教育部 郝平副部長
  • 科学技術部 王偉中・副部長
  • 中国国家版権局閻(イエン)副局長

○韓国

  • 李賢九(イ・ヒョング)大統領府 科学技術特別補佐官
  • 科学技術政策研究院(STEPI)における政策セミナー講演会

○インドネシア

  • インドネシア政府研究技術省(RISTEK) スハルナ・スラプラナタ大臣
  • 技術評価応用庁(BPPT) マルザン・イスカンダール長官
  • 原子力規制庁(BAPETEN) アス・ナティオ長官
  • アル・アズハル大学ズハール学長
  • 東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)西村事務局長

○マレーシア

  • マラヤ大学ガウス副学長
  • ファディラ科学技術革新副大臣(ムスタファ宇宙庁長官同席)
  • ハジ・ファディラ・ビン・ユソフ高等教育大臣

○シンガポール

  • 国立研究基金(NRF)テオ・ミン・キアン事務次官
  • イスワラン上級国務相(教育・貿易産業担当)

4.報告

○  アジア共同体構想に関連して、文部科学省として取り組む具体的な政策を打診しながら、アジア諸国の現状を理解しニーズを把握。

  1. 「アジア・リサーチ・エリア構想(仮称)」と、その基盤となる共同研究ファンドの構築に関しては、韓国、中国からは、積極的な期待感をともなう賛意を得た。両国共に科学技術政策が、これまで産業化に結びつく応用技術に偏重していたことの限界に気づき、改めて基礎研究の構築を模索している。
  2. アセアン諸国では、すでに研究領域も含めた様々な協力体系が存在していることを改めて理解した。総体的には、国境にこだわらない、研究課題を中心にした共同研究への資金配分には賛成だとの感触を得た。しかし、拠出金に関しては、アセアン事務局の指摘として、「アセアン諸国内のルールでは国の規模に関わらず各国平等の拠出を行う原則があるので、現状では、大きく期待は出来ない」との見方があった。

○  日本の「核セキュリティー総合支援センター」への参加を呼びかけると同時に、各国の原子力発電への取り組みに対する日本の技術支援を中心とする協力を表明。

  1. マレーシアが2021年に、原子力発電所の導入計画を持っており、インドネシアでも将来的な導入を目指していた。シンガポールは、小型のモジュール炉の建設に進みたいとの意向を確認した。こうしたことから、日本の訓練センター設立には、それぞれ強い関心を寄せていた。テロ対策などへの対応の重要性を認識しながらも、一方で、核利用の研究者や施設運用の専門家の養成が急務であることの認識も得た。彼らの関心は、「核セキュリティー訓練センター」と同時に「核の平和利用研究訓練センター」としての機能を持つ総合支援センターであり、それが設置されれば、よりニーズにあった日本の政策打出しとなるということも理解できた。
  2. 立地に関しては、各国共に国民の理解を得ることへの難しさに直面している。サイトの現地関係者や行政担当者を日本に招聘して、日本の経験を伝え、地元対策諸制度等の理解を深めてもらうと共に、現地視察を実施すること等を提起したところ、積極的な反応があった。

○  大学間連携の推進、留学生や研究者の受け入れの前提となる各国での日本語教育の現状と日本の大学等教育機関の受け入れ態勢をアジアからの視点で検証。

  1. マレーシア日本国際工科大学構想について、マレーシア側より、円借款の正式要請がなされたら、日本側として対応を検討することを確認した。アジアでは、オーストラリアのモナシュ大学やアメリカの諸大学など大学自体がキャンパスを開設して海外展開している状況がある。日本の大学、特に、理工学部や高等専門学校等がアジアに海外展開する需要は多くあると、各国関係者から指摘された。グローバル30は、日本国内における英語による授業等の実施体制の構築等を目的とするものだが、日本の大学が海外の大学と連携して、海外で英語やその国の母国語を前提にした学部開設や海外キャンパス開設への支援を前提とした補助金スキームが効果的ではないかという感想を持った。そのことを相手の教育関係者に確認したところ、積極的な反応があった。こうしたプログラムに、日本語教育も加えて、確かな日本留学への入り口にすることが考えられる。
  2. 日本への留学をさらに魅力的なものにするためには、卒業後の就職機会が日本国内はもちろん、海外でも充分に確保されることが前提。
  3. それぞれの国で、高等学校レベルで日本語教育を第二外国語の選択言語の一つとして取り入れている。しかし、教育の質の面からいくと指導教員のレベルアップが問われる。日本が、英語教育でJETプログラムを実施しているように、地域に進出している日系企業のバックアップを前提に各国に若い日本語教師の派遣を進めて、若い世代のコミュニケーションを図ることもかね合わせた事業を展開することが考えられる。日本の企業が、従業員の採用時に日本語を習得しているかどうかを条件に入れることを進めることも大切だと考えるが、現状は、英語に重点が置かれる傾向にあると聞いた。
  4. 日本への留学だけでなく、EPAで締結された介護や看護士、また、研修事業などの単純労働にいたるまで、母国での事前日本語研修と日本語のレベル確保は大きな課題となっている。現状、外務省の国際交流基金を中心に点で対応している状況を、面的な制度に拡大する必要がある。日本国内の日本語学校が、こうした海外のニーズに応える展開をすることが望まれるが、日本語学校の制度自体が法的にも、質的にも確立されたものとなっていないところに問題がある。海外展開への支援制度も含めた、抜本対策が必要である。

○  その他

  1. 青少年、高校生の交流事業だけでなく、教員の交流をさらに進めてはどうかと、中国、韓国には、特に、提案をした。互いの理解促進に大いに役立つと考えられる。
  2. 日本の新しいカルチャーイメージの醸成に、戦略的な組織と構想が必要だ。日本とアジア各国との合作映画作成、ファッション、食べ物に関するイベント開催やニューメディア芸術祭などのアジア各地での展開を戦略的に進めることで、それぞれの国の受け皿が機能的に起き上がる可能性を確認した。シンガポールなどは、日本の文化庁にあたる組織が担当している。
  3. 中国には、特にDVDなどの芸術文化コンテンツの著作権保護に関しての対応要請と、中国国内での一般国民への周知啓蒙活動に対して日本の業界関係者による協力の意思があることを伝達した。文化庁からの積極的な啓蒙イべントの提案が必要且つ有効だと考えられる。

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