参考資料3 「新成長戦略」について~「元気な日本」復活のシナリオ~

平成22年6月18日
閣議決定

「新成長戦略」を別紙のとおり定める。

【目次】

第1章 新成長戦略-「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」の実現

(第三の道による建て直し)
(「強い経済」の実現)

第2章 新たな成長戦略の基本方針-経済・財政・社会保障の一体的建て直し-

日本経済の成長力と政策対応の基本的考え方
(1)需要面からの成長
(2)供給面からの制約
(3)資金循環面からの制約
マクロ経済運営を中心とする経済財政運営の基本方針
「新成長戦略」のマクロ経済目標

政策の優先順位の判断基準

第3章 7つの戦略分野の基本方針と目標とする成果

強みを活かす成長分野
(1)グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略
(「世界最高の技術」を活かす)
(総合的な政策パッケージにより世界ナンバーワンの環境・エネルギー大国へ)
(グリーン・イノベーションによる成長とそれを支える資源確保の推進)
(快適性・生活の質の向上によるライフスタイルの変革)
(老朽化した建築物の建替え・改修の促進等による「緑の都市」化)
(地方から経済社会構造を変革するモデル)
(2)ライフ・イノベーションによる健康大国戦略
(医療・介護・健康関連産業を成長牽引産業へ)
(日本発の革新的な医薬品、医療・介護技術の研究開発推進)
(アジア等海外市場への展開促進)
(バリアフリー住宅の供給促進)
(不安の解消、生涯を楽しむための医療・介護サービスの基盤強化)
(地域における高齢者の安心な暮らしの実現)
フロンティアの開拓による成長
(3)アジア経済戦略
~「架け橋国家」として成長する国・日本~
(日本の強みを大いに活かしうるアジア市場)
(アジアの「架け橋」としての日本)
(切れ目ないアジア市場の創出)
(日本の「安全・安心」等の制度のアジア展開)
(日本の「安全・安心」等の技術のアジアそして世界への普及)
(アジア市場一体化のための国内改革、日本と世界とのヒト・モノ・カネの流れ倍増)
(「アジア所得倍増」を通じた成長機会の拡大)
(4)観光立国・地域活性化戦略
~観光立国の推進~
(観光は少子高齢化時代の地域活性化の切り札)
(訪日外国人を2020年初めまでに2,500万人に)
(休暇取得の分散化等)
~地域資源の活用による地方都市の再生、成長の牽引役としての大都市の再生~
(地域政策の方向転換)
(緑の分権改革等)
(定住自立圏構想の推進等)
(大都市の再生)
(社会資本ストックの戦略的維持管理等)
~農林水産分野の成長産業化~
(課題が山積する農林水産分野)
(「地域資源」の活用と技術開発による成長潜在力の発揮)
(森林・林業の再生)
(検疫協議や販売ルートの開拓等を通じた輸出の拡大)
(幅広い視点に立った「食」に関する将来ビジョンの策定)
~ストック重視の住宅政策への転換~
(住宅投資の活性化)
(中古住宅の流通市場、リフォーム市場等の環境整備)
(住宅・建築物の耐震改修の促進)
成長を支えるプラットフォーム
(5)科学・技術・情報通信立国戦略
~「知恵」と「人材」のあふれる国・日本~
(科学・技術力による成長力の強化)
(研究環境・イノベーション創出条件の整備、推進体制の強化)
~IT立国・日本~
(情報通信技術は新たなイノベーションを生む基盤)
(情報通信技術の利活用による国民生活向上・国際競争力強化)
(6)雇用・人材戦略
~「出番」と「居場所」のある国・日本~
(雇用が内需拡大と成長力を支える)
(国民参加と「新しい公共」の支援)
(成長力を支える「トランポリン型社会」の構築)
(地域雇用創造と「ディーセント・ワーク」の実現)
~子どもの笑顔あふれる国・日本~
(子どもは成長の源泉)
(人口減少と超高齢化の中での活力の維持)
(質の高い教育による厚い人材層)
(7)金融戦略
《21世紀日本の復活に向けた21の国家戦略プロジェクト》
(21の国家戦略プロジェクトの選定)
強みを活かす成長分野
1.グリーン・イノベーションにおける国家戦略プロジェクト
(1.「固定価格買取制度」の導入等による再生可能エネルギー・急拡大)
(2.「環境未来都市」構想)
(3.森林・林業再生プラン)
2.ライフ・イノベーションにおける国家戦略プロジェクト
(4.医療の実用化促進のための医療機関の選定制度等)
(5.国際医療交流(外国人患者の受入れ))
フロンティアの開拓による成長
3.アジア展開における国家戦略プロジェクト
(6.パッケージ型インフラ海外展開)
(7.法人実効税率引下げとアジア拠点化の推進等)
(8.グローバル人材の育成と高度人材等の受入れ拡大)
(9.知的財産・標準化戦略とクール・ジャパンの海外展開)
(10.アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築を通じた経済連携戦略)
4.観光立国・地域活性化における国家戦略プロジェクト
(11.「総合特区制度」の創設と徹底したオープンスカイの推進等)
(12.「訪日外国人3,000万人プログラム」と「休暇取得の分散化」)
(13.中古住宅・リフォーム市場の倍増等)
(14.公共施設の民間開放と民間資金活用事業の推進)
成長を支えるプラット・フォーム
5.科学・技術・情報通信立国における国家戦略プロジェクト
(15.「リーディング大学院」構想等による国際競争力強化と人材育成)
(16.情報通信技術の利活用の促進)
(17.研究開発投資の充実)
6.雇用・人材分野における国家戦略プロジェクト
(18.幼保一体化等)
(19.「キャリア段位制度」とパーソナル・サポート制度の導入)
(20.新しい公共)
7.金融分野における国家戦略プロジェクト
(21.総合的な取引所(証券・金融・商品)の創設を推進)

第4章新しい成長と政策実現の確保

(新しい成長)
(「新成長戦略」の政策実現の確保)
(別表)「成長戦略実行計画(工程表)」

第1章 新成長戦略-「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」の実現

 90年代初頭のバブル崩壊から約20年、日本経済が低迷を続けた結果、国民はかつての自信を失い、将来への漠たる不安に萎縮している。こうした閉塞感が続く主たる要因は、低迷する経済、拡大する財政赤字、そして信頼感が低下した社会保障である。新内閣は、「強い経済」、「強い財政」、「強い社会保障」を一体的に実現する。「強い経済」の実現に向けた戦略を示した「新成長戦略」を実行し、20年近く続く閉塞状況を打ち破り、元気な日本を復活させる。

(第三の道による建て直し)
 我が国の経済政策の呪縛となってきたのは、産業構造・社会構造の変化に合わない二つの道による政策の失敗である。
 第一の道は、公共事業中心の経済政策である。60年代、70年代にかけての高度経済成長の時代には、道路、港湾、空港などの整備が生産性の向上をもたらし、経済成長の原動力となった。
 しかし、基礎的なインフラが整備された80年代になると、この投資と経済効果の関係が崩壊し、90年代以降は様相が変わり、社会構造・産業構造が変化し、従来型のインフラへの投資効率が低下してもなお、将来の成長産業を育てる明確な意思のないまま、既得権保護のためのばら撒きを続けてきた。不況対策の名の下、財政出動として行われた非効率な公共投資の拡大は、成長にも国民生活の向上にもつながらず、地域はますます活力を失うという悪循環に陥った。不況対策としても行われた公共事業の拡大は、効率的な投資でなかったため、結局有効な効果を上げなかった。

 第二の道は、行き過ぎた市場原理主義に基づき、供給サイドに偏った生産性重視の経済政策である。
 一企業の視点では、リストラの断行による業績回復が、妥当な場合もあるが、国全体として見れば、この政策によって多くの人が失業する中で、国民生活は更に厳しくなり、デフレが深刻化している。また、いわゆる「ワーキングプア」に代表される格差拡大が強く認識され、社会全体の不安が急速に高まった。「企業は従業員をリストラできても、国は国民をリストラすることができない」のである。生産性の向上は重要であるが、同時に需要や雇用の拡大がより一層重要である。

 我々は、過去の失敗に学び、現在の状況に適した政策として、「第三の道」を進む。それは、経済社会が抱える課題の解決を新たな需要や雇用創出のきっかけとし、それを成長につなげようとする政策であり、その実現のための戦略が、「強い経済」、「強い財政」、「強い社会保障」の一体的実現に主眼を置く「新成長戦略」である。
 持続可能な財政・社会保障制度の構築や生活の安全網(セーフティネット)の充実を図ることが、雇用を創出するとともに、国民の将来不安を払拭し、経済成長の礎となる。セーフティネットの確立、経済活性化、財政健全化は一体の関係にあり、「強い経済」、「強い財政」、「強い社会保障」の確保が互いに好影響を与える「Win-Win」の関係にあると捉えるべきである。

(「強い経済」の実現)
 一昨年の世界金融危機は、外需に過度に依存していた我が国経済を直撃し、他の国以上に深刻なダメージを与えた。強い経済を実現するためには、安定した内需と外需を創造し、産業競争力の強化とあわせて、富が広く循環する経済構造を築く必要がある。
 需要を創造するための鍵が、「課題解決型」の国家戦略である。現在の経済社会に山積する新たな課題に正面から向き合い、その処方等を提示することにより、新たな需要と雇用の創造を目指す。この考え方に立ち「新成長戦略」では、「グリーン・イノベーション」、「ライフ・イノベーション」、「アジア経済」、「観光・地域」を成長分野に掲げ、これらを支える基盤として「科学・技術・情報通信」、「雇用・人材」、「金融」に関する戦略を実施する。

 第一の「グリーン・イノベーション」には、2020年における温室効果ガスの25%削減目標を掲げた地球温暖化対策も含まれる。運輸部門や生活関連部門、原子力や再生可能エネルギー産業を含むエネルギー部門、さらにはまちづくりの分野で新技術の開発や新事業の展開が期待される分野が数多く存在し、その向こうには巨大な需要が広がっている。
 第二は、「ライフ・イノベーション」による健康大国の実現である。社会保障は、少子高齢化を背景に負担面ばかりが強調され、経済成長の足を引っ張るものと見なされてきたが、医療・介護や年金、子育てなどの社会保障に不安や不信を抱いていては、国民は、安心してお金を消費に回すことができない。一方、社会保障には雇用創出を通じて成長をもたらす分野が数多く含まれており、社会保障の充実が雇用創出を通じ、同時に成長をもたらすことが可能である。
 こうした「強い社会保障」を実現し「少子高齢社会を克服する日本モデル」の確立のため、年金、医療、介護、各制度の建て直しを進める。また、子育て支援の充実は待ったなしの課題である。子ども手当に加え、待機児童の解消や幼保一体化による子育てサービスの充実に、政府を挙げて取り組む。
 第三は、「アジア経済戦略」である。急速な成長を続けるアジアの多くの地域では、都市化や工業化、それに伴う環境問題の発生が課題となるだけでなく、少子高齢化も懸念されている。また、日本では充足されつつある鉄道、道路、電力、水道などは、今後整備が必要な社会資本である。世界に先駆けて、課題を解決するモデルを提示することで、アジア市場の新たな需要に応えるとともに、こうした需要を捉えるため、海外との人的交流の強化、ハブ機能を強化するインフラ整備や規制改革を進める。
 第四の「観光立国・地域活性化戦略」のうち、観光は、文化遺産や自然環境を活かして振興することにより、地域活性化の切り札になる。既に、中国からの観光客の拡大に向け、ビザの発行条件の大幅緩和が開始されている。
 農山漁村が生産、加工、流通までを一体的に担い、付加価値を創造することができれば、そこに雇用が生まれ、子どもを産み育てる健全な地域社会が育まれる。農林水産業を地域の中核産業として発展させることにより、食料自給率の向上も期待される。特に、低炭素社会で新たな役割も期待される林業は、戦後植林された樹木が生長しており、路網整備等の支援により林業再生を期待できる好機にある。戸別所得補償制度の導入を始めとする農林水産行政は、こうした観点に立って進める。
 さらに、地域の活性化に向け、真に必要な社会資本整備については、民間の知恵と資金を活用して戦略的に進めるとともに、意欲あふれる中小企業を応援する。
 これらの成長分野を支えるため、第五の「科学・技術・情報通信立国戦略」の下で、我が国が培ってきた科学・技術力を増強する。効果的・効率的な技術開発を促進するための規制改革や支援体制の見直しを進め、我が国の未来を担う若者が夢を抱いて科学の道を選べるような教育環境を整備するとともに、世界中から優れた研究者を惹きつける研究環境の整備を進める。イノベーション促進の基盤となるデジタルコンテンツ等の知的財産や産業の競争力を高めるクラウドコンピューティング等の情報通信技術の利活用も促進する。
 第六の「雇用・人材戦略」により、成長分野を担う人材の育成を推進する。少子高齢化に伴う労働人口の減少という制約を跳ね返すため、若者や女性、高齢者の就業率向上を目指す。さらに、非正規労働者の正規雇用化を含めた雇用の安定確保、産業構造の変化に対応した成長分野を中心とする実践的な能力育成の推進、ディーセント・ワーク、すなわち、人間らしい働きがいのある仕事の実現を目指す。女性の能力を発揮する機会を増やす環境を抜本的に整備し、「男女共同参画社会」の実現を推進する。
 「強い人材」すなわち将来にわたって付加価値を創出し、持続可能な成長を担う若年層や知的創造性(知恵)(ソフトパワー)の育成は、成長の原動力である。教育、スポーツ、文化など様々な分野で、国民一人ひとりの能力を高めることにより、厚みのある人材層を形成する。
 「強い人材」の実現が、成長の原動力として未来への投資であることを踏まえ、教育力や研究開発力に関し世界最高水準を目指し、効果的な施策に対する公的投資を拡充する。
 第七の「金融戦略」により、1.金融が実体経済、企業のバックアップ役としてそのサポートを行うこと、2.金融自身が成長産業として経済をリードする。そのために、投融資や支援対象のカテゴリー・特性に適した成長資金を供給できる新たな金融産業を構築する。長期的な視点で、イノベーション重視の経営をサポートできるように、「金融システムの進化」を目指す。また、金融自身も成長産業として発展できるよう、市場や取引所の整備、金融法制の改革等を進め、ユーザーにとって信頼できる利便性の高い金融産業を構築することによって、金融市場と金融産業の国際競争力を高める。
 これら7つの戦略分野の具体策を盛り込んだ「新成長戦略」では、官民を挙げて「強い経済」の実現を図り、2020年度までの年平均で、名目3%、実質2%を上回る経済成長を目指す。また、当面はデフレの終結をマクロ経済運営上の最重要課題と位置付け、日本銀行と一体となって、強力かつ総合的な政策努力を行う。
 20年近く続く閉塞状況を打ち破り、元気な日本を復活させるには、「新成長戦略」で示した戦略が実行できるかどうかにかかっている。
 これまで、日本において国家レベルの目標を掲げた改革が進まなかったのは、政治的リーダーシップの欠如に最大の原因がある。個々の団体や個別地域の利益を代表する政治はあっても、国全体の将来を考え改革を進める大きな政治的リーダーシップが欠如していた。日本の将来ビジョンを明確に示した上で国民的合意を形成し、リーダーシップを持って目標に向けての政策を推し進める。

第2章 新たな成長戦略の基本方針 -経済・財政・社会保障の一体的建て直し-

 日本の経済成長はバブル崩壊の後、約20年にわたり極めて低い水準にとどまり、その間、国民は、失業や給与の減少といった厳しい生活を余儀なくされ、閉塞状況におかれている。「新成長戦略」は、過去の低成長の原因についての冷静で的確な認識と、それが目指す新たな成長を実現するための政策理念と政策体系を備えたものでなければならない。
 以下では、日本経済の成長力を需要面、供給面、資金循環面から多面的に分析し、日本経済の抱える問題とその解決に向けた政府の基本哲学を明らかにする。その上で、「新成長戦略」におけるマクロ経済運営を中心とする政策の基本方針を明確にするとともに、実現を目指すマクロ経済目標を明示する。さらに、限られた資源の下でこれらの目標を達成するために不可欠となる政策の優先順位の判断基準を示す。政府はこの基本方針、経済目標、政策の判断基準に沿って、「新成長戦略」を、一体的、整合的に推進する。
 「強い経済」、「強い財政」、「強い社会保障」の実現という3つの課題は、相互に密接に関連し合っており、どれも単独で実現できるものではない。経済成長による税収は財政健全化のために不可欠であり、他方、経済成長のためには、財政の持続可能性の確立と財政面からのメリハリの効いた成長戦略が必須である。また、社会保障は財政の最大支出項目であるとともに、極めて重要な成長分野である。同時に、安心できる社会保障制度が確立されることで、国民は消費を拡大することが可能になる。
 過去20年間の失敗の最大の原因は、政治がリーダーシップを持ってこの3つの課題に持続的に取り組むことを怠ってきたことである。この「新成長戦略」は「財政運営戦略」及び「中期財政フレーム」、さらには社会保障制度の改革と整合性をとり、かつ一体的に推進するものとする。また、時々の経済動向や将来展望の変化を定期的に点検し、それを踏まえて適切に対応する。

日本経済の成長力と政策対応の基本的考え方

(1)需要面からの成長

(1)過去の低成長と優先順位第一の課題

 過去10年間、日本の実質成長率は平均で1%を下回り、名目ではマイナス成長と、OECD諸国の中で最低の水準にとどまった。国民のニーズに応える適切な政策が実行されず、また、企業が本来持つ力を発揮できる環境が整備されない場合には、今後も日本の成長率はこのように低い水準を続けるおそれが強い。

 こうした認識の下、経済財政運営の最重要課題は、過去の政権が残してきた規制・制度の束縛や、適切な政策及びそのために必要となる財源確保の努力の欠如を是正し、本来の需要を実現することである。医療、介護、保育を始め様々な分野で、国民が必要性を強く感じているにもかかわらず実現されていない需要がある。さらには、これまで日本が発掘してこなかった海外の需要が存在する。ルールの変更や需要面からの政策を呼び水として実行することによって、これらの需要を顕在化させるとともに雇用を創出し、日本が本来持つ成長力を実現することが、優先順位第一の課題である。

(2)需要面からの成長戦略

 今後、2020年度までの期間において、必要な政策が全く行われない場合には、実質成長率は過去10年と同程度の1%程度にとどまるものと想定される。しかし、需要面を重視する政策対応を実行することにより、成長率を1%以上引上げ、外需の寄与を含め、平均で2%を上回る実質成長を実現することは、困難を伴うが実現可能と判断される。
 特に、最大の需要が存在するのは、1.社会保障・福祉分野(少子高齢化に対応した医療、介護、保育サービス等への需要、安心できる社会保障制度の構築や雇用情勢の改善等により顕在化される消費需要等)と、2.環境分野(地球温暖化の防止に向けた再生可能エネルギーや製品への需要、森林の整備・活用等)である。これらに次ぐものとして、3.安全・安心な食品、4.エコ、耐震、バリアフリーの住宅などにも大きな潜在需要がある。これらの分野において、需要を喚起するために必要な規制・制度の見直し、予算編成、税制改革、政策金融による対応等を進める。
 また、日本の製品、サービス等に対する海外の潜在需要、とりわけ環境面で優れ、安全・安心な製品や食品、交通やエネルギー等のインフラ整備、日本での観光や高度医療の受診などに対する需要は大きい。規制の見直し、政策金融などの対応により、アジア等の経済成長もあいまって、日本の輸出は増加し、その成長寄与度は過去10年の平均(約0.4%)を上回ることも予想される。

(注)上記の需要面からの成長戦略は、後述する成長7分野の、グリーン・イノベーション、ライフ・イノベーション、アジア経済戦略、観光立国・地域活性化戦略等と密接に関連している。

 さらに、国民の生活実感を直接左右する名目成長率についても、上記のような政策対応に加え、適切に金融政策が実行され、デフレからの脱却と適度で安定的な物価上昇が実現されることにより、3%を上回る成長を達成することが可能と考えられる。

(2)供給面からの制約

(1)需給ギャップの存在と潜在成長率

 現在、日本経済は大きな需給ギャップ(5%程度)を抱えており、経済全体としてみれば供給力が成長の制約になっているわけではない。失業率も5%と高水準を続けている。しかし、景気が順調に回復を続ければ、需給ギャップの解消に伴って、やがて供給面からの成長制約は徐々に強まっていくと考えられる。また、現状においても、マクロ的にみれば供給余力があるものの、個別に見ると、例えば、医療、介護、保育など供給力が不足している分野もある。さらに、高齢化の進展により労働供給は減少せざるを得ず、供給能力の伸びを表す潜在成長率は、過去10年の平均(約1%)を下回るおそれがある。

(2)供給面からの成長戦略

 適切な政策対応を行うことにより、供給能力を高めていくことは可能である。特に、1.高齢者、女性、若者等が就業しやすい環境を整備すること、2.意欲ある人々がベンチャー、社会的企業、NPO等を含め起業しやすい環境、国内に立地しやすい環境を整備することの重要性が高い。また、3.人的資本の形成、4.イノベーションの促進、知的資産の蓄積も重要な課題である。数年後には供給制約が強まることを想定し、現時点でも供給力が不足している成長産業を中心に、規制・制度の改革を進めるとともに、必要な能力を備えた人材の育成・定着、起業の促進、リスク・マネーの円滑な供給などを着実に推進していく必要がある。

(注)上記の供給面からの成長戦略は、後述する成長7分野の科学・技術・情報通信立国戦略、雇用・人材戦略等と密接に関連している。

 他方、こうした取組により、就業が最大限促進されるとしても、2020年度の就業者数は現在の水準を下回る見込みであり、2%を上回る実質成長率を実現するためには、それを上回る労働生産性(GDP/就業者数)の伸びが必要である。今後の成長産業には、労働生産性が必ずしも高くない分野が含まれていることも踏まえれば、規制・制度の改革等に取り組むことを通じ、全ての産業において、労働生産性を高めていくことが不可欠である。
 以上のような対応がとられれば、供給面から成長が強く制約されることはないとみられる。また、景気回復局面においては、需要面からの成長戦略による需要の拡大とともに、企業等の中で十分活用されていない労働が減少するため、この面からも労働生産性の上昇が期待できる。

(3)資金循環面からの制約

(1)資金需給のタイト化と信認確保の重要性

 現在、日本では、政府の大幅な赤字(資金不足=投資超過)を家計と企業の黒字(資金過剰=貯蓄超過)が埋め合わせ、国内全体では黒字(資金過剰=貯蓄超過=経常収支黒字)となっている。
 ただし、高齢化の進展により家計の貯蓄率は近年低下してきている。また、企業部門も低成長の下で投資が低水準であることなどから近年黒字を続けているが、景気回復が続けば、本来の姿である赤字主体に戻る可能性が高い。このため、仮に、政府が大幅な財政赤字を続ける場合には、これを国内で吸収することが困難となり、金利の高騰等の問題が生じるのではないかという指摘もなされており、長期金利の動向には引き続き注意を要する。
 幸い、国債等の長期金利は現在まで基本的には低い水準で安定的に推移している。これは、我が国が財政健全化への取組を続けていること、また、リーマン・ショック後の景気後退により財政赤字は急拡大したが、景気要因による赤字は今後縮小すると見込まれること、インフレは起こりにくいとみられること、さらには、中長期的にみた日本経済の成長余力や社会の安定性に対する信認があることなどが背景にあると考えられる。
 今後予想される、家計、企業の黒字の縮小(ないしは赤字化)は、消費や設備投資の拡大の結果であり、需要の拡大という観点から、むしろ望ましいことである。従って、金利の高騰などの問題を生まないようにするためには、政府が財政健全化を成し遂げる確固たる方針を示すとともに、財政赤字の削減に全力で取り組むこと、同時に、経済成長を実現し、安定した社会を維持していくことなどにより、内外の投資家やマーケットの信認を引き続き確保することが決定的に重要である。

(2)金融・資本市場の健全な発展とリスク・マネーの供給

 円滑な資金循環を確保するためには、上記のような対応と同時に、国際的な動向も踏まえつつ、金融・資本市場の健全な発展を支える規制・制度の改革を進める必要がある。また、国際的な金融危機等に機動的に対応するため国際協調体制の強化を進める必要がある。
 さらに、日本経済の成長を支える資金、とりわけ、リスクの高い投資や研究開発等のためのリスク・マネーの供給、さらには、起業や新規参入を行う企業、社会的企業、NPO等に対する資金供給を確保することが不可欠である。リスク・マネーの供給やNPO等への資金供給を円滑化するため、規制・制度や税制の改革を進める。また、こうした分野における政策金融の役割は重要である。
 以上のような取組を通じ、資金循環面から成長が制約されることのないよう最大限の努力を行う。

(注)上記の金融・資本市場の健全な発展とリスク・マネーの供給は、後述する成長7分野の金融戦略等と密接に関連している。

マクロ経済運営を中心とする経済財政運営の基本方針

 「新成長戦略」においては、2020年度までの11年間をデフレ終結の前後で二つの期間(「フェーズ1」、「フェーズ2」)に区切り、基本方針を定める。
 フェーズ1は、需要面を中心とする新たな政策体系と政策理念の下、リーマン・ショック後の景気後退から日本経済を蘇らせ、本格的な回復軌道に乗せるとともにデフレを終結させる期間であり、新成長戦略全体の成否を左右する重要性を持つ。フェーズ2は、フェーズ1の成果を確かなものとしつつ、需要、供給両面から日本経済の成長力を高める期間である。
 この「新成長戦略」と「財政運営戦略」は、相互に補完し合う関係にあり、両者を一体的に推進していくことが必要不可欠である。フェーズ1及びフェーズ2の両期間を通じ、「財政運営戦略」に基づき財政健全化を着実に進めるとともに、成長のために必要な分野への財源の重点配分、税制による対応等に取り組む。日本銀行には、政府とここで述べるようなマクロ経済運営に関する基本的視点を共有し、最大限の努力がなされることを期待する。

<フェーズ1の基本方針>

 デフレは実質金利の上昇をもたらし、需要の伸びを抑制するなど、経済に大きな問題を生じさせている。政府は、フェーズ1を「デフレ清算期間」と位置付け、景気を回復させ、2011年度中には消費者物価上昇率をプラスにするとともに、速やかに安定的な物価上昇を実現し、デフレを終結させることを目指す。デフレの終結をマクロ経済運営上の最重要課題と位置付け、デフレによって抑えられている需要の回復を中心に、政策努力を行う。
 この間、財政金融政策のポリシー・ミックスについては、財政面では、「中期財政フレーム」の下、事業仕分け等を通じ、歳出の無駄を削減すると同時に、需要・雇用の創出効果の高い政策・事業を重視して、需給ギャップの解消を目指すとともに、金融面では、日本銀行にデフレの終結に向けた最大限の努力を期待する。世界の中で日本だけがデフレに陥っている現状を踏まえ、財政・金融両面からの、さらには規制・制度の見直しなどを含めた適切な対応が求められる。こうした取組により、過度の円高は回避し、内需とともに外需も下支えする経済成長を実現する。
 また、財政運営においては、国民が必要と感じている社会保障・福祉のサービス給付等を拡充すると同時に、国民にその分担(税、保険料)を求める政策パッケージは、安全・安心な社会の構築とともに、需要や雇用を拡大する効果を持つ(均衡財政乗数はプラスである)。それによって需給ギャップが縮小し、デフレと雇用不安が緩和されて消費需要を刺激し、税収の増加も期待される。こうした点を踏まえ、国民のニーズに的確に対応し、かつ、経済成長と財政健全化の双方に寄与する政策として検討を進める。

<フェーズ2の基本方針>

 デフレ終結後のフェーズ2においては、二度とデフレに戻ることのないよう、更に安定的な物価上昇を維持するとともに、着実な経済成長を実現する。財政面では「財政運営戦略」で示す財政健全化目標の実現に向け、更なる取組を進める。
 また、需給ギャップの解消を受け、需要と供給のバランスのとれた成長を促す政策を実行する。特に、フェーズ2においては、労働生産性の向上が重要な課題となることから、規制・制度改革を始めとする取組を更に推進する。

「新成長戦略」のマクロ経済目標

 上記のような経済財政運営の下、「新成長戦略」においては、2020年度までの平均で、名目3%、実質2%を上回る成長を目指す。特に、景気回復の継続が予想されるフェーズ1.においては、実質成長率を3%に近づけるべく取組を行う。物価については、デフレを終わらせ、GDPデフレータでみて1%程度の適度で安定的な上昇を目指す。失業率については、できるだけ早期に3%台に低下させる。過去10年の低成長等を考慮すれば、これらの目標の達成には困難を伴うと考えられるが、政策努力の目標と位置付け、全力で取り組む。
 国民の満足度や幸福度には、所得などの経済的要素だけではなく家族や社会との関わり合いなどの要素も大きな影響を持つ。「新しい公共」の考え方の下、全ての国民に「居場所」と「出番」が確保され、市民や企業、NPOなど様々な主体が「公(おおやけ)」に参画する社会を再構築することは重要な課題である。政府は、マクロ経済目標の実現に向け全力を尽くすとともに、官では行うことが困難な、国民の多様なニーズにきめ細かく応えるサービスを無駄のない形で市民、企業、NPO等が提供できる社会の構築に向け、国民各層による取組を支える。

政策の優先順位の判断基準

 「新成長戦略」に掲げる諸目標を達成するためには、予算編成において政策に優先順位を付け、限られた財源を最も効果的に使う必要がある。需要・雇用の創出効果の大きさなど、以下に示す基準に沿って政策・事業の評価を行い、重点的な資源配分を行う。

(1)需要・雇用創出基準

 需要、雇用の創出効果を評価し、その効果の高い政策・事業を最優先する。その際、例えば、現金給付より現物・サービス給付(利用券等の活用を含め)を優先し、国民が必要とするサービスが確実に提供されるようにするとともに、雇用が拡大する点を重視する。
 また、海外需要を発掘し、対外競争力を高める効果の高い政策・事業を重視するとともに、グローバル化に対応し得る規制・制度の改革やハブ空港、ハブ港湾等への重点化した投資を進める。

(2)「選択と集中」基準

 国民目線で政策や事業の必要性を総点検し、「選択と集中」の観点から、真に必要性の高い分野への重点化、各分野における政策・事業の重点化、類似事業の重複排除(省庁をまたがるものも含め)などを推進する。
 その際、以下の点に留意する。

(国民参加基準)

 行政が独占してきた「公」を企業、NPO等に開き、国民が積極的に公に参画することを重視する。このため、行政による直轄事業を見直し、企業、NPO等の参画を認める事業、民間資金等活用事業や公共サービス改革を進める事業を重視する。また、何が必要かの選択について、国民が積極的に意見を述べる機会の拡大を目指す。

(制度・政策一体基準)

 制度改革と一体的に実施することで相乗的な効果が期待される政策・事業を重視する。特に、潜在的な需要を抑えているルールを変更すること(規制・制度の改革、総合特区の創設等)は極めて重要である。その際、これと一体的に行うことが必要となる事後チェック体制の強化、安全性の確保のための体制強化、弱い立場の人々への対応、個人情報の保護の強化等に十分配慮する。

(3)最適手段基準

 限られた財源の下で、最大限の効果を得るために、最適な政策手段を選択する。例えば、デフレ下の実質高金利で抑えられている住宅等の需要の回復、インフラの海外展開の支援、種々の分野における民間企業、NPO等の参入支援などのために、政策金融や公的資金と民間資金を組み合わせる様々な仕組みは効果的な政策手段である。制度の見直しや創設も含め検討する。
 また、税制は、個人貯蓄の一層の活用や起業促進などに関して重要な役割を果たす。
 さらに、社会資本の整備や維持管理・更新を効率的に実施するために、民間資金等を活用する手法(PFI等)をより積極的に活用できるよう、制度の見直しを行う。

第3章 7つの戦略分野の基本方針と目標とする成果

 日本は、世界に冠たる健康長寿国であり、環境大国、科学・技術・情報通信立国、治安の良い国というブランドを有している。こうした日本が元来持つ強み、個人金融資産(1,400兆円)や住宅・土地等実物資産(1,000兆円)を活かしつつ、アジア、地域を成長のフロンティアと位置付けて取り組めば、成長の機会は十分存在する。また、我が国は、自然、文化遺産、多様な地域性等豊富な観光資源を有しており、観光のポテンシャルは極めて高い。さらに、科学・技術・情報通信、雇用・人材は、成長を支えるプラットフォームであり、持続的な成長のためには長期的視点に立った戦略が必要である。
 以上の観点から、我が国の「新成長戦略」を、

  • 強みを活かす成長分野(環境・エネルギー、健康)、
  • フロンティアの開拓による成長分野(アジア、観光・地域活性化)、
  • 成長を支えるプラットフォーム(科学・技術・情報通信、雇用・人材、金融)

として、2020年までに達成すべき目標と、主な施策を中心に方向性を明確にする。

強みを活かす成長分野

(1)グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略

【2020年までの目標】
『50兆円超の環境関連新規市場』、『140万人の環境分野の新規雇用』、『日本の民間ベースの技術を活かした世界の温室効果ガス削減量を13億トン以上とすること(日本全体の総排出量に相当)を目標とする』

(「世界最高の技術」を活かす)

 我が国は高度成長期の負の側面である公害問題や二度にわたる石油危機を技術革新の契機として活用することで克服し、世界最高の環境技術を獲得するに至った。
 ところが今日では、数年前まで世界一を誇った太陽光発電が今ではドイツ・スペインの後塵を拝していることに象徴されるように、国際競争戦略なき環境政策によって、我が国が本来持つ環境分野での強みを、必ずしも活かすことができなくなっている。

(総合的な政策パッケージにより世界ナンバーワンの環境・エネルギー大国へ)

 気候変動問題は、もはや個々の要素技術で対応できる範囲を超えており、新たな制度設計や制度の変更、新たな規制・規制緩和などの総合的な政策パッケージにより、低炭素社会づくりを推進するとともに、環境技術・製品の急速な普及拡大を後押しすることが不可欠である。
 したがって、グリーン・イノベーション(環境エネルギー分野革新)の促進や総合的な政策パッケージによって、我が国のトップレベルの環境技術を普及・促進し、世界ナンバーワンの「環境・エネルギー大国」を目指す。
 このため、すべての主要国による公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築や意欲的な目標の合意を前提として、2020年に、温室効果ガスを1990年比で25%削減するとの目標を掲げ、あらゆる政策を総動員した「チャレンジ25」の取組を推進する。

(グリーン・イノベーションによる成長とそれを支える資源確保の推進)

 電力の固定価格買取制度の拡充等による再生可能エネルギー(太陽光、風力、小水力、バイオマス、地熱等)の普及拡大支援策や、低炭素投融資の促進、情報通信技術の活用等を通じて日本の経済社会を低炭素型に革新する。安全を第一として、国民の理解と信頼を得ながら、原子力利用について着実に取り組む。
 蓄電池や次世代自動車、火力発電所の効率化、情報通信システムの低消費電力化など、革新的技術開発の前倒しを行う。さらに、モーダルシフトの推進、省エネ家電の普及等により、運輸・家庭部門での総合的な温室効果ガス削減を実現する。
 電力供給側と電力ユーザー側を情報システムでつなぐ日本型スマートグリッドにより効率的な電力需給を実現し、家庭における関連機器等の新たな需要を喚起することで、成長産業として振興を図る。さらに、成長する海外の関連市場の獲得を支援する。
 リサイクルの推進による国内資源の循環的な利用の徹底や、レアメタル、レアアース等の代替材料などの技術開発を推進するとともに、総合的な資源エネルギー確保戦略を推進する。

(快適性・生活の質の向上によるライフスタイルの変革)

 エコ住宅の普及、再生可能エネルギーの利用拡大や、ヒートポンプの普及拡大、LEDや有機ELなどの次世代照明の100%化の実現などにより、住宅・オフィス等のゼロエミッション化を推進する。これはまた、居住空間の快適性・生活の質を高めることにも直結し、人々のライフスタイルを自発的に低炭素型へと転換させる大きなきっかけとなる。
 こうした家庭部門でのゼロエミッション化を進めるため、各家庭にアドバイスをする「環境コンシェルジュ制度」を創設する。

(老朽化した建築物の建替え・改修の促進等による「緑の都市」化)

 日本の都市を、温室効果ガスの排出が少ない「緑の都市」としていくため、中長期的な環境基準の在り方を明らかにしていくとともに、都市計画の在り方や都市再生・再開発の在り方を環境・低炭素化の観点から抜本的に見直す。
 老朽化し、温室効果ガスの排出や安全性の面で問題を抱えるオフィスビル等の再開発・建替えや改修を促進するため、必要な規制緩和措置や支援策を講じる。

(地方から経済社会構造を変革するモデル)

 公共交通の利用促進等による都市・地域構造の低炭素化、再生可能エネルギーやそれを支えるスマートグリッドの構築、適正な資源リサイクルの徹底、情報通信技術の活用、住宅等のゼロエミッション化など、エコ社会形成の取組を支援する。そのため、規制改革、税制のグリーン化を含めた総合的な政策パッケージを活用しながら、環境、健康、観光を柱とする集中投資事業を行い、自立した地方からの持続可能な経済社会構造の変革を実現する第一歩を踏み出す。

 これらの施策を総合的に実施することにより、2020年までに50兆円超の環境関連新規市場、140万人の環境分野の新規雇用、日本の民間ベースの技術を活かした世界の温室効果ガスの削減を13億トン以上とすること(日本全体の総排出量に相当)を目標とする。

(2)ライフ・イノベーションによる健康大国戦略

【2020年までの目標】
『医療・介護・健康関連サービスの需要に見合った産業育成と雇用の創出、新規市場約50兆円、新規雇用284万人』

(医療・介護・健康関連産業を成長牽引産業へ)

 我が国は、国民皆保険制度の下、低コストで質の高い医療サービスを国民に提供してきた結果、世界一の健康長寿国となった。世界のフロンティアを進む日本の高齢化は、ライフ・イノベーション(医療・介護分野革新)を力強く推進することにより新たなサービス成長産業と新・ものづくり産業を育てるチャンスでもある。
 したがって、高い成長と雇用創出が見込める医療・介護・健康関連産業を日本の成長牽引産業として明確に位置付けるとともに、民間事業者等の新たなサービス主体の参入も促進し、安全の確保や質の向上を図りながら、利用者本位の多様なサービスが提供できる体制を構築する。誰もが必要なサービスにアクセスできる体制を維持しながら、そのために必要な制度・ルールの変更等を進める。

(日本発の革新的な医薬品、医療・介護技術の研究開発推進)

 安全性が高く優れた日本発の革新的な医薬品、医療・介護技術の研究開発を推進する。産官学が一体となった取組や、創薬ベンチャーの育成を推進し、新薬、再生医療等の先端医療技術、情報通信技術を駆使した遠隔医療システム、ものづくり技術を活用した高齢者用パーソナルモビリティ、医療・介護ロボット等の研究開発・実用化を促進する。その前提として、ドラッグラグ、デバイスラグの解消は喫緊の課題であり、治験環境の整備、承認審査の迅速化を進める。

(アジア等海外市場への展開促進)

 医療・介護・健康関連産業は、今後、高齢社会を迎えるアジア諸国等においても高い成長が見込まれる。医薬品等の海外販売やアジアの富裕層等を対象とした健診、治療等の医療及び関連サービスを観光とも連携して促進していく。また、成長するアジア市場との連携(共同の臨床研究・治験拠点の構築等)も目指していく。

(バリアフリー住宅の供給促進)

 今後、一人暮らしや介護を必要とする高齢者の増加が見込まれており、高齢者が居住する住宅内での安全な移動の確保や転倒防止、介助者の負担軽減等のため、手すりの設置や屋内の段差解消等、住宅のバリアフリー化の促進が急務である。このため、バリアフリー性能が優れた住宅取得や、バリアフリー改修促進のための支援を充実するともに、民間事業者等による高齢者向けのバリアフリー化された賃貸住宅の供給促進等に重点的に取り組む。

(不安の解消、生涯を楽しむための医療・介護サービスの基盤強化)

 高齢者が元気に活動している姿は、健全な社会の象徴であり、経済成長の礎である。しかし、既存の制度や供給体制は、近年の急速な高齢化や医療技術の進歩、それに伴う多様で質の高いサービスへの需要の高まり等の環境変化に十分に対応できていない。高齢者が将来の不安を払拭し、不安のための貯蓄から、生涯を楽しむための支出を行えるように医療・介護サービスの基盤を強化する。
 具体的には、医師養成数の増加、勤務環境や処遇の改善による勤務医や医療・介護従事者の確保とともに、医療・介護従事者間の役割分担を見直す。また、医療機関の機能分化と高度・専門的医療の集約化、介護施設、居住系サービスの増加を加速させ、質の高い医療・介護サービスを安定的に提供できる体制を整備する。

(地域における高齢者の安心な暮らしの実現)

 医療、介護は地域密着型のサービス産業であり、地方の経済、内需を支えている。住み慣れた地域で生涯を過ごしたいと願っている高齢者は多く、地域主導による地域医療の再生を図ることが、これからの地域社会において重要である。具体的には、医療・介護・健康関連サービス提供者のネットワーク化による連携と、情報通信技術の活用による在宅での生活支援ツールの整備などを進め、そこに暮らす高齢者が自らの希望するサービスを受けることができる社会を構築する。
 高齢者が安心して健康な生活が送れるようになることで、生涯学習や、教養・知識を吸収するための旅行など、新たなシニア向けサービスの需要も創造される。また、高齢者の起業や雇用にもつながるほか、高齢者が有する技術・知識等が次世代へも継承される。こうした好循環を可能とする環境を整備していく。

 これらの施策を進めるとともに、持続可能な社会保障制度の実現に向けた改革を進めることで、超高齢社会に対応した社会システムを構築し、2020年までに医療・介護・健康関連サービスの需要に見合った産業育成と雇用の創出により、新規市場約50兆円、新規雇用284万人を目標とし、すべての高齢者が、家族と社会のつながりの中で生涯生活を楽しむことができる社会をつくる。また、日本の新たな社会システムを「高齢社会の先進モデル」として、アジアそして世界へと発信していく。

フロンティアの開拓による成長

(3)アジア経済戦略

【2020年までの目標】
『アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を構築』、『アジアの成長を取り込むための国内改革の推進、ヒト・モノ・カネの流れ倍増』、『「アジアの所得倍増」を通じた成長機会の拡大』

~「架け橋国家」として成長する国・日本~
(日本の強みを大いに活かしうるアジア市場)

 近年、アジア諸国は、日本企業と共に産業集積を形成し、豊富で勤勉な労働力を背景に力強く、急速な成長を遂げてきた。アジア各国は昨今のサブプライムローン問題に端を発した金融危機にも適切に対応し、今や世界経済の牽引役として堅調な経済回復をみせている。特にアジアにおける中間所得者層の成長が著しいこと、また、環境問題や都市化等、我が国が先に直面し、克服してきた制約要因や課題を抱えながら成長していることは、日本にとって、大きなビジネス機会である。

(アジアの「架け橋」としての日本)

 今日のアジアの著しい成長を更に着実なものとしつつ、アジアの成長を日本の成長に確実に結実させるためには、日本がこれまでの経済発展の過程で学んだ多くの経験をアジア諸国と共有し、日本がアジアの成長の「架け橋」となるとともに、環境やインフラ分野等で固有の強みを集結し、総合的かつ戦略的にアジア地域でビジネスを展開する必要がある。

(切れ目ないアジア市場の創出)

 まず、日本企業が活躍するフィールドであるアジア地域において、あらゆる経済活動の障壁を取り除くことが必要である。このため、より積極的に貿易・投資を自由化・円滑化し、また知的財産権の保護体制の構築などを行うことにより、アジアに切れ目のない市場を作り出す。そのきっかけとして、2010年に日本がホスト国となるAPECの枠組みを活用し、2020年を目標にアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を構築するための我が国としての道筋(ロードマップ)を策定する。

(日本の「安全・安心」等の制度のアジア展開)

 また、アジア諸国が経済・社会のセーフティネットをより厚いものにするために、日本の「安全・安心」の考え方が貢献できる部分は大きく、経済成長の基盤ともなる。環境分野や製品安全問題等にかかる日本の技術や規制・基準・規格を、アジア諸国等とも共同で国際標準化する作業を行い、国際社会へ発信・提案することなどにより、アジア諸国の成長と「安全・安心」の普及を実現しつつ、日本企業がより活動しやすい環境を作り出す。また、スマートグリッド、燃料電池、電気自動車など日本が技術的優位性を有している分野においては、特に戦略的な国際標準化作業を早急に進める。食品においても、流通の多様化・国際化等を踏まえ、アジア諸国とも共同しつつ、食品安全基準の国際標準化作業等に積極的に貢献する。

(日本の「安全・安心」等の技術のアジアそして世界への普及)

 その上で、環境技術において日本が強みを持つインフラ整備をパッケージでアジア地域に展開・浸透させるとともに、アジア諸国の経済成長に伴う地球環境への負荷を軽減し、日本の技術・経験をアジアの持続可能な成長のエンジンとして活用する。具体的には、新幹線・都市交通、水、エネルギーなどのインフラ整備支援や、環境共生型都市の開発支援に官民あげて取り組む。同時に、土木・建築等で高度な技術を有する日本企業のビジネス機会も拡大する。さらには、建築士等の資格の相互承認も推進し、日本の建設業のアジア展開を後押しする。また、アジアにおけるこれらの分野のビジネス拡大につながる途上国産業人材の育成を官民が協力して進めていく。これらにより日本も輸出や投資を通じて相乗的に成長するという好循環を作り出す。また、日本の「安全・安心」の製品の輸出を促進するとともに、インフラ・プロジェクトの契約・管理・運営ノウハウの強化に取り組む。これらの取組は、アジアを起点に広く世界に展開していく。

(アジア市場一体化のための国内改革、日本と世界とのヒト・モノ・カネの流れ倍増)

 同時に、日本国内においても、アジアを中心に世界とのヒト・モノ・カネの流れの障壁をできるだけ除去することが必要である。ヒト・モノ・カネの日本への流れを倍増させることを目標とし、例えば、その流れの阻害要因となっている規制を大胆に見直すなど、日本としても重点的な国内改革も積極的に進める。具体的には、羽田の24時間国際拠点空港化やオープン・スカイ構想の推進、ポスト・パナマックス船対応の国際コンテナ・バルク戦略港湾の整備等により、外国人観光客やビジネスマン等のヒトの流れやモノの流れを作り出す。また、外国人学生の受入れ拡大、研究者や専門性を必要とする職種の海外人材が働きやすい国内体制の整備を行うほか、貿易関連手続の一層の円滑化を図るとともに、海外進出した企業が現地であげた収益を国内に戻しやすくする。加えて、金融や運輸等のサービス分野の国際競争力を強化し、その流れの円滑化を図る。さらには、アジアや世界との大学、科学・技術、文化、スポーツ、青少年等の交流・協力を促進しつつ、国際的に活躍できる人材の育成を進める。

(「アジア所得倍増」を通じた成長機会の拡大)

 これらを通じて、アジアの一員としてアジア全体の活力ある発展を促し、アジア市場における取引活動を拡大させ、アジアの所得倍増に貢献することでアジア市場と一体化しつつ、日本の大きな成長機会を創出する。拡大したアジア市場に対して、日本のコンテンツ、デザイン、ファッション、料理、伝統文化、メディア芸術等の「クリエイティブ産業」を対外発信し、日本のブランド力の向上や外交力の強化につなげるとともに、著作権等の侵害対策についても国際的に協調して取り組む。
 加えて、都市化・地球環境・地球規模での格差の解消など、世界規模の問題を共に解決していくことにも貢献する。

(4)観光立国・地域活性化戦略

~観光立国の推進~

【2020年までの目標】
『訪日外国人を2020年初めまでに2,500万人、将来的には3,000万人。2,500万人による経済波及効果約10兆円、新規雇用56万人』

(観光は少子高齢化時代の地域活性化の切り札)

 我が国は、自然、文化遺産、多様な地域性等豊富な観光資源を有しており、観光のポテンシャルは極めて高い。例えば、南国の台湾の人々は雪を見に北海道を訪ね、欧州の人々は伝統文化からポップカルチャーまで日本の文化面に関心を持ち、朝の築地市場など生活文化への関心も高くなっている。このように、日本を訪れる外国人の間では、国によって訪れる場所や楽しむ内容に大きな相違があるが、その多様性を受け入れるだけの観光資源を地方都市は有している。また、日本全国には、エコツーリズム、グリーンツーリズム、産業観光など観光資源が豊富にあり、外国人のみならず、日本人にとっても魅力的な観光メニューを提供することができる。公的支出による地域活性化を期待することが難しい現在、人口減少・急激な少子高齢化に悩む地方都市にとって、観光による国内外の交流人口の拡大や我が国独自の文化財・伝統芸能等の文化遺産の活用は、地域経済の活性化や雇用機会の増大の切り札である。

(訪日外国人を2020年初めまでに2,500万人に)

 急速に経済成長するアジア、特に中国は、観光需要の拡大の可能性に満ちている。例えば、中国から日本を訪問している旅行者数は年間約100万人、日本から中国を訪問している旅行者数は年間約340万人(いずれも2008年ベース)と大きな開きがある。人口増加や経済成長のスピードを考えれば、中国を含めたアジアからの観光客をどう取り込むかが大きな課題である。今後、アジアからの訪日観光客を始めとした各国からの訪日外国人の増加に向けて、訪日観光査証の取得容易化、魅力ある観光地づくり、留学環境の整備、広報活動等を図ることにより、訪日外国人を2020年初めまでに2,500万人、将来的には3,000万人まで伸ばす。また、観光立国にとって不可欠な要素として、交通アクセスの改善と合わせて安全・安心なまちづくりを進める必要がある。

(休暇取得の分散化等)

 国内旅行は約20兆円規模の市場である。しかしながら、休日が集中しているため繁閑の差が大きく、需要がゴールデンウィークや年末年始の一定期間に集中する結果、顕在化しない内需が多いと言われている。このため、休暇取得の分散化など「ローカル・ホリデー制度(仮称)」の検討や国際競争力の高い魅力ある観光地づくり等を通じた国内の観光需要の顕在化等の総合的な観光政策を推進し、地域を支える観光産業を育て、新しい雇用と需要を生み出す。

~地域資源の活用による地方都市の再生、成長の牽引役としての大都市の再生~

【2020年までの目標】
『地域資源を最大限活用し地域力を向上』
『大都市圏の空港、港湾、道路等のインフラの戦略的重点投資』

(地域政策の方向転換)

 この10年間、大都市への人口集中が進む一方で、地方の中心市街地はシャッター通りと化し、地域経済の地盤沈下が著しい。このような地方都市の状況は結果として国全体の成長のマイナス要因となってきた。地方都市が空洞化した背景には、これまでの国の地域振興策が、「選択と集中」の視点に欠け、ハコモノ偏重で、地方の個性を伸ばし自立を促してこなかったことに他ならない。一方で、地方にはその土地固有の歴史と文化・芸術がある。例えば、フランスで最も住みやすい街として知られるナント市が、かつての産業・工業都市から歴史遺産の「文化」と「芸術」により都市の再生を果たしたように、これからの国の地域振興策は、NPO等の「新しい公共」との連携の下で、特区制度等の活用により、地方の「創造力」と「文化力」の芽を育てる施策に転換しなければならない。

(緑の分権改革等)

 それぞれの地域資源を最大限活用する仕組みを地方公共団体と住民、NPO等の協働・連携により創り上げ、分散自立型・地産地消型としていくことにより、地域の自給力と創富力を高める地域主権型社会の構築を図る「緑の分権改革」を推進し、地域からの成長の道筋を示すモデルを構築する。
 また、地域のことは地域に住む住民が決める、活気に満ちた地域社会をつくるための「地域主権」改革を断行する。

(定住自立圏構想の推進等)

 都市は都市らしく、農山漁村は農山漁村らしい地域振興を進めるため、圏域ごとに生活機能等を確保し、地方圏における定住の受け皿を形成する定住自立圏構想を推進する。また、離島・過疎地域等の条件不利地域の自立・活性化の支援を着実に進める。
 高速道路の無料化により、地域間のヒト・モノの移動コストの低減が実現されれば、地域産品の需要地への進出拡大、地域の観光産業の活性化、地方への企業進出等の経済効果が期待される。

(大都市の再生)

 大都市は、これまでは国の成長の牽引役としての役割を果たしてきたが、ソウル、シンガポール、上海、天津等の他のアジア都市は国を挙げて競争力向上のための取組を推進しており、国としての国際的、広域的視点を踏まえた都市戦略がなければ、少子高齢化もあいまって東京でさえ活力が失われ、国の成長の足を引っ張ることになりかねない。
 このため、成長の足がかりとなる、投資効果の高い大都市圏の空港、港湾、道路等の真に必要なインフラの重点投資と魅力向上のための拠点整備を戦略的に進め、世界、アジアのヒト・モノの交流の拠点を目指す必要がある。この整備に当たっては、厳しい財政事情の中で、特区制度、PFI、PPP等の積極的な活用により、民間の知恵と資金を積極的に活用する。

(社会資本ストックの戦略的維持管理等)

 我が国の道路は高度経済成長期に集中的に整備され、現在、50年以上経過した橋梁は8%、トンネルは18%であるが、20年後には橋梁は51%、トンネルは47%に急増すると言われており、農業用水利施設は500箇所前後の施設が毎年更新時期を迎えることになり、今後は、国・地方の財政状況の逼迫等により、社会資本ストックが更新できなくなるおそれがある。このように高度経済成長期に集中投資した社会資本ストックが今後急速に老朽化することを踏まえ、維持修繕、更新投資等の戦略的な維持管理を進め、国民の安全・安心の確保の観点からリスク管理を徹底することが必要である。さらに、社会資本ストックについては、厳しい財政事情の中で、維持管理のみならず新設も効果的・効率的に進めるため、PFI、PPPの積極的な活用を図る。

~農林水産分野の成長産業化~

【2020年までの目標】
『食料自給率50%』、『木材自給率50%以上』
『農林水産物・食品の輸出額を2.2倍の1兆円』(2017年まで)

(課題が山積する農林水産分野)

 農林水産分野については、食の安全・安心確保、食料自給率の低下、農林水産業者の高齢化・後継者難、低収益性等、将来に向けての課題は山積しているものの、我が国の「食」の目指すべき姿や具体的方針が定まらず、消費者、生産者ともに不安に陥っているのが現状である。

(「地域資源」の活用と技術開発による成長潜在力の発揮)

 こうした不安を解消し、農山漁村の潜在力が十分に発揮されるよう、「戸別所得補償制度」の導入など意欲ある農林漁業者が安心して事業を継続できる環境整備を行い、農林水産業を再生し、食料自給率を50%に向上させることを目指す。
 今後、自然資源、伝統、文化、芸術などそれぞれの地域が有するいわば「地域資源」と融合しつつ技術開発を進め、成長への潜在力の発揮及び需要喚起に結びつけていく。また、農山漁村に広く賦存するバイオマス資源の利活用を更に促進する。
 また、いわゆる6次産業化(生産・加工・流通の一体化等)や農商工連携、縦割り型規制の見直し等により、農林水産業の川下に広がる潜在需要を発掘し、新たな産業を創出していく。

(森林・林業の再生)

 戦後植林した人工林資源を持続可能な形で本格的に利用するため、国産材利用の環境面での効用に対する理解を深めていくとともに、路網の整備、森林管理の専門家(フォレスター)等の人材の育成、間伐材を始めとした国産材の利用の拡大、木質バイオマスとしての活用等を柱として、森林・林業の再生を図り、木材自給率を50%以上に向上させることを目指す。

(検疫協議や販売ルートの開拓等を通じた輸出の拡大)

 日本の農林水産物・食品の輸出の拡大に向け、特に潜在需要が高いと見込まれる品目・地域を中心に検疫協議や販売ルートの開拓に注力し、現在の2.2倍の1兆円水準を目指す。

(幅広い視点に立った「食」に関する将来ビジョンの策定)

 「食」は我が国成長の基盤ともいうべき最も重要なテーマの一つである。安全・安心・健康で豊かな食生活を守るための方策やそれを支える農山漁村の在り方について、子ども・大人・お年寄りの視点に立ち、消費者・生産者も含め広く産官学横断的に検討する場を設け、「食」に関する将来ビジョンを早急に策定する。

~ストック重視の住宅政策への転換~

【2020年までの目標】
『中古住宅流通市場・リフォーム市場の規模倍増』
『耐震性が不十分な住宅割合を5%に』

(住宅投資の活性化)

 住宅投資の効果は、住宅関連産業が多岐にわたり、家具などの耐久消費財への消費などその裾野が広いことから、内需主導の経済成長を実現するためには、今後とも住宅投資の促進は重要な課題である。
 このため、1,400兆円の個人金融資産の活用など住宅投資の拡大に向けた資金循環の形成を図るとともに、住宅金融・住宅税制の拡充等による省エネ住宅の普及など質の高い住宅の供給の拡大を図る。

(中古住宅の流通市場、リフォーム市場等の環境整備)

 また、「住宅を作っては壊す」社会から「良いものを作って、きちんと手入れして、長く大切に使う」という観点に立ち、1,000兆円の住宅・土地等実物資産の有効利用を図る必要がある。このため、数世代にわたり利用できる長期優良住宅の建設、適切な維持管理、流通に至るシステムを構築するとともに、消費者が安心して適切なリフォームを行える市場環境の整備を図る。また、急増する高齢者向けの生活支援サービス、医療・福祉サービスと一体となった住宅の供給を拡大するとともに、リバースモーゲージの拡充・活用促進などによる高齢者の資産の有効利用を図る。さらに、地域材等を利用した住宅・建築物の供給促進を図る。
 これらを通じて、2020年までに、中古住宅流通市場やリフォーム市場の規模を倍増させるとともに、良質な住宅ストックの形成を図る。

(住宅・建築物の耐震改修の促進)

 現在、我が国の既存住宅ストック約4,950万戸のうち、約21%に当たる1,050万戸が耐震性不十分と言われている。2036年までに70%の確率で首都直下地震が起こると言われており、阪神・淡路大震災の被害を考えれば、尊い人命が住宅等の全壊・半壊による危機にさらされているのが現状である。
 このため、住宅等の耐震化を徹底することにより、2020年までに耐震性が不十分な住宅の割合を5%に下げ、安全・安心な住宅ストックの形成を図る。

成長を支えるプラットフォーム

(5)科学・技術・情報通信立国戦略

【2020年までの目標】
『世界をリードするグリーン・イノベーションとライフ・イノベーション』、
『独自の分野で世界トップに立つ大学・研究機関の数の増』、『理工系博士課程修了者の完全雇用を達成』、『中小企業の知財活用の促進』、『情報通信技術の活用による国民生活の利便性の向上、生産コストの低減』、『官民合わせた研究開発投資をGDP比4%以上』

~「知恵」と「人材」のあふれる国・日本~
(科学・技術力による成長力の強化)

 人類を人類たらしめたのは科学・技術の進歩に他ならない。地球温暖化、感染症対策、防災などの人類共通の課題を抱える中、未来に向けて世界の繁栄を切り拓くのも科学・技術である。
 我が国は、世界有数の科学・技術力、そして国民の教育水準の高さによって高度成長を成し遂げた。しかし、世界第二の経済大国になるとともに、科学・技術への期待と尊敬は薄れ、更なる高みを目指した人材育成と研究機関改革を怠ってきた。我が国は、今改めて、優れた人材を育成し、研究環境改善と産業化推進の取組を一体として進めることにより、イノベーションとソフトパワーを持続的に生み出し、成長の源となる新たな技術及び産業のフロンティアを開拓していかなければならない。

(研究環境・イノベーション創出条件の整備、推進体制の強化)

 このため、大学・公的研究機関改革を加速して、若者が希望を持って科学の道を選べるように、自立的研究環境と多様なキャリアパスを整備し、また、研究資金、研究支援体制、生活条件などを含め、世界中から優れた研究者を惹きつける魅力的な環境を用意する。基礎研究の振興と宇宙・海洋分野など新フロンティアの開拓を進めるとともに、シーズ研究から産業化に至る円滑な資金・支援の供給や実証試験を容易にする規制の合理的見直しなど、イノベーション創出のための制度・規制改革と知的財産の適切な保護・活用を行う。科学・技術力を核とするベンチャー創出や、産学連携など大学・研究機関における研究成果を地域の活性化につなげる取組を進める。
 科学・技術は、未来への先行投資として極めて重要であることから、2020年度までに、官民合わせた研究開発投資をGDP比の4%以上にする。他国の追従を許さない先端的研究開発とイノベーションを強力かつ効率的に推進していくため、科学・技術政策推進体制を抜本的に見直す。また、国際共同研究の推進や途上国への科学・技術協力など、科学・技術外交を推進する。

 これらの取組を総合的に実施することにより、2020年までに、世界をリードするグリーン・イノベーション(環境エネルギー分野革新)やライフ・イノベーション(医療・介護分野革新)等を推進し、独自の分野で世界トップに立つ大学・研究機関の数を増やすとともに、理工系博士課程修了者の完全雇用を達成することを目指す。また、中小企業の知財活用を促進する。

~IT立国・日本~
(情報通信技術は新たなイノベーションを生む基盤)

 情報通信技術は、距離や時間を超越して、ヒト、モノ、カネ、情報を結びつける。未来の成長に向け、「コンクリートの道」から「光の道」へと発想を転換し、情報通信技術が国民生活や経済活動の全般に組み込まれることにより、経済社会システムが抜本的に効率化し、新たなイノベーションを生み出す基盤となる。

(情報通信技術の利活用による国民生活向上・国際競争力強化)

 我が国の情報通信技術は、その技術水準やインフラ整備の面では世界最高レベルに達しているが、その利活用は先進諸外国に遅れを取っており、潜在的な効果が実現されていない。
 個人情報保護、セキュリティ強化などの対策を進めて国民の安心を確保しつつ、情報通信技術を使いこなせる人材の育成などを強化して情報通信技術の利活用を徹底的に進め、国民生活の利便性の向上、情報通信技術に係る分野の生産性の伸び三倍増、生産コストの低減による国際競争力の強化、新産業の創出に結びつける。行政の効率化を図るため、各種の行政手続の電子化・ワンストップ化を進めるとともに、住民票コードとの連携による各種番号の整備・利用に向けた検討を加速する。子ども同士が教え合い、学び合う「協働教育」の実現など、教育現場や医療現場などにおける情報通信技術の利活用によるサービスの質の改善や利便性の向上を全国民が享受できるようにするため、光などのブロードバンドサービスの利用を更に進める。加えて、温室効果ガス排出量の削減、事業活動の効率化、海外との取引拡大、チャレンジドの就労推進等の観点からも情報通信技術の利活用を推進する。あわせて、情報通信技術利活用を促進するための規制・制度の見直しを行う。

(6)雇用・人材戦略

~「出番」と「居場所」のある国・日本~

【2020年までの目標】
『20~64歳の就業率80%、15歳以上の就業率57%』、『20~34歳の就業率77%』、『若者フリーター数124万人、地域若者サポートステーション事業によるニートの進路決定者数10万人』、『25歳~44歳までの女性就業率73%、第1子出産前後の女性の継続就業率55%、男性の育児休業取得率13%』、『60歳~64歳までの就業率63%』、『障がい者の実雇用率1.8%、国における障がい者就労施設等への発注拡大8億円』、『ジョブ・カード取得者300万人、大学のインターンシップ実施率100%、大学への社会人入学者数9万人、専修学校での社会人受入れ総数15万人、自己啓発を行っているの労働者の割合:正社員70%、非正社員50%、公共職業訓練受講者の就職率:施設内80%、委託65%』、『年次有給休暇取得率70%、週労働時間60時間以上の雇用者の割合5割減』、『最低賃金引上げ:全国最低800円、全国平均1000円』、『労働災害発生件数3割減、メンタルヘルスに関する措置を受けられる職場の割合100%、受動喫煙の無い職場の実現』
 これらの目標値は、内閣総理大臣主宰の「雇用戦略対話」において、労使のリーダー、有識者の参加の下、政労使の合意を得たもの。また、これらの目標値は、「新成長戦略」において、「2020年度までの平均で、名目3%、実質2%を上回る成長」等としていることを前提。

(雇用が内需拡大と成長力を支える)

 内需を中心とする「需要創造型経済」は、雇用によって支えられる。国民は、安心して働き、能力を発揮する「雇用」の場が与えられることによって、所得を得て消費を拡大することが可能となる。雇用の確保なくして、冷え切った個人消費が拡大し、需要不足が解消することはあり得ない。
 また、「雇用・人材戦略」は、少子高齢化という制約要因を跳ね返し、「成長力」を支える役割を果たす。少子高齢化による「労働力人口の減少」は、我が国の潜在的な成長エンジンの出力を弱めるおそれがある。そのため、出生率回復を目指す「少子化対策」の推進が不可欠であるが、それが労働力人口増加に結びつくまでには20年以上かかる。したがって、今すぐ我が国が注力しなければならないのは、若者・女性・高齢者など潜在的な能力を有する人々の労働市場への参加を促進し、しかも社会全体で職業能力開発等の人材育成を行う「雇用・人材戦略」の推進である。

(国民参加と「新しい公共」の支援)

 国民すべてが意欲と能力に応じ労働市場やさまざまな社会活動に参加できる社会(「出番」と「居場所」)を実現し、成長力を高めていくことに基本を置く。
 このため、国民各層の就業率向上のために政策を総動員し、労働力人口の減少を跳ね返す。すなわち、若者・女性・高齢者・障がい者の就業率向上のための政策目標を設定し、そのために、就労阻害要因となっている制度・慣行の是正、保育サービスなど就労環境の整備等に2年間で集中的に取り組む。
 また、官だけでなく、市民、NPO、企業などが積極的に公共的な財・サービスの提供主体となり、教育や子育て、まちづくり、介護や福祉などの身近な分野において、共助の精神で活動する「新しい公共」を支援する。

(成長力を支える「トランポリン型社会」の構築)

 北欧の「積極的労働市場政策」の視点を踏まえ、生活保障とともに、失業をリスクに終わらせることなく、新たな職業能力や技術を身につけるチャンスに変える社会を構築することが、成長力を支えることとなる。
 このため、「第二セーフティネット」の整備(求職者支援制度の創設等)や雇用保険制度の機能強化に取り組む。また、非正規労働者を含めた、社会全体に通ずる職業能力開発・評価制度を構築するため、現在の「ジョブ・カード制度」を「日本版NVQ(NationalVocationalQualification)」へと発展させていく。
※NVQは、英国で20年以上前から導入されている国民共通の職業能力評価制度。訓練や仕事の実績を客観的に評価し、再就職やキャリアアップにつなげる役割を果たしている。

(地域雇用創造と「ディーセント・ワーク」の実現)

 国民の新たな参加と活躍が期待される雇用の場の確保のために、雇用の「量的拡大」を図る。このため、成長分野を中心に、地域に根ざした雇用創造を推進する。また、「新しい公共」の担い手育成の観点から、NPOや社会起業家など「社会的企業」が主導する「地域社会雇用創造」を推進する。
 また、雇用の安定・質の向上と生活不安の払拭が、内需主導型経済成長の基盤であり、雇用の質の向上が、企業の競争力強化・成長へとつながり、その果実の適正な分配が国内消費の拡大、次の経済成長へとつながる。そこで、「ディーセント・ワーク(人間らしい働きがいのある仕事)」の実現に向けて、「同一価値労働同一賃金」に向けた均等・均衡待遇の推進、給付付き税額控除の検討、最低賃金の引上げ、ワーク・ライフ・バランスの実現(年次有給休暇の取得促進、労働時間短縮、育児休業等の取得促進)に取り組む。

~子どもの笑顔あふれる国・日本~

【2020年までの目標】
『誰もが安心して子どもを産み育てられる環境の実現による出生率の継続的上昇を通じ、人口の急激な減少傾向に歯止め』
『速やかに就学前・就学期の待機児童を解消』
『出産・子育ての後、働くことを希望するすべての人が仕事に復帰』
『国際的な学習到達度調査で常に世界トップレベルの順位へ』

(子どもは成長の源泉)

 我々は周りの人々の笑顔を我が歓びと感じ、幸せを実感することにより、生きていく力を与えられる。子どもの笑顔が、家族の笑顔に広がり、地域や職場での笑顔に広がる。社会が笑顔であふれることが、日本が活力を取り戻し、再び成長に向かうための必要条件である。我々は、将来の成長の担い手である子どもたちを、社会全体で育てていかなければならない。

(人口減少と超高齢化の中での活力の維持)

 70年代後半以降、出生率が低下傾向に転じ、深刻な少子化が顕在した90年代以降、累次の対策が講じられたが、公的支出や制度・規制改革において抜本的な対策が実施されず、少子化傾向に歯止めがかかっていない。2005年には日本の総人口は減少に転じ、現在の出生率の見通しのままでは2050年の人口は9,500万人と推計される。将来にわたって、良質な労働力を生み出し、日本の活力を維持するために、今こそ大きな政策転換が求められる。
 このため、子ども手当の支給や高校の実質無償化を実行に移し、すべての子どもたちの成長を支える必要がある。また、子育て世代は、消費性向が高く、これらの支援は消費拡大・需要創造の面からも効果が高い上、子ども関連産業の成長にも高い効果をもたらす。

 誰もが安心して子どもを産み育てられる環境を実現することは、女性が働き続けることを可能にするのみならず、女性の能力を発揮する機会を飛躍的に増加させ、新たな労働力を生み出すとともに、出生率の継続的上昇にもつながり、急激な人口減少に対する中長期的不安を取り除くことになる。また、子どもの安全を守り、安心して暮らせる社会環境を整備する。
 このため、幼保一体化の推進、利用者本位の保育制度に向けた抜本的な改革、各種制度・規制の見直しによる多様な事業主体の参入促進、放課後児童クラブの開所時間や対象年齢の拡大などにより、保育の多様化と量的拡大を図り、2020年までに速やかに就学前・就学期の潜在需要も含めた待機児童問題を解消する。また、育児休業の取得期間・方法の弾力化(育児期の短時間勤務の活用等)、育児休業取得先進企業への優遇策などにより、出産・育児後の復職・再就職の支援を充実させ、少なくとも、2017年には、出産・育児後に働くことを希望するすべての人が仕事に復帰することができるようにする。

(質の高い教育による厚い人材層)

 成長の原動力として何より重要なことは、国民全員に質の高い教育を受ける機会を保障し、様々な分野において厚みのある人材層を形成することである。すべての子どもが希望する教育を受け、人生の基盤となる力を蓄えるとともに、将来の日本、世界を支える人材となるよう育てていく。
 このため、初等・中等教育においては、教員の資質向上や民間人の活用を含めた地域での教育支援体制の強化等による教育の質の向上とともに、高校の実質無償化により、社会全体のサポートの下、すべての子どもが後期中等教育を受けられるようにする。その結果、国際的な学習到達度調査において日本が世界トップレベルの順位となることを目指す。
 また、高等教育においては、奨学金制度の充実、大学の質の保証や国際化、大学院教育の充実・強化、学生の起業力の育成を含めた職業教育の推進など、進学の機会拡大と高等教育の充実のための取組を進め、未来に挑戦する心を持って国際的に活躍できる人材を育成する。さらに、教育に対する需要を作り出し、これを成長分野としていくため、外国人学生の積極的受入れとともに、民間の教育サービスの健全な発展を図る。

(7)金融戦略

【2020年までの目標】
『官民総動員による成長マネーの供給』
『企業のグローバルなプレゼンス向上』
『アジアのメインマーケット・メインプレーヤーとしての地位の確立』
『国民が豊かさを享受できるような国民金融資産の運用拡大』

 成長戦略における金融の役割は、1.実体経済、企業のバックアップ役としてそのサポートを行うこと、2.金融自身が成長産業として経済をリードすることである。2020年までの期間において、これら2つの役割を十分に果たしうる金融を実現し、実体経済と金融との新たな「Win-Win」の関係を目指す。
 そのために、大企業、中堅企業、中小企業、個人事業者、海外での本邦企業活動、国内プロジェクト、海外プロジェクトなど、投融資や支援対象のカテゴリー・特性に適した成長資金が供給できる金融産業を構築する。長期的な視点で、イノベーション重視の経営をサポートできるように、「金融システムの進化」を目指す。
 また、金融自身も成長産業として発展できるよう、市場や取引所の整備、金融法制の改革等を進め、ユーザーにとって信頼できる利便性の高い金融産業を構築することによって、金融市場と金融産業の国際競争力を高める。
 具体的には、ユーロ市場と比肩する市場を我が国に実現するため、プロ向けの社債発行・流通市場を整備するとともに、外国企業等による我が国での資金調達を促進するための英文開示の範囲拡大等を実施する。あわせて、中堅・中小企業に係る会計基準・内部統制報告制度等の見直し、四半期報告の大幅簡素化など、所要の改革を2010年中に行う。また、国民金融資産を成長分野や地域に活用するための方策として、民間金融機関の積極的な取組を促す。さらに、政府系金融機関・財政投融資等の活用やファンドスキームの活用・検討など、官民総動員による対応を進める。
 これらの取組を含め、アジアを中心とした新興国が牽引する世界経済の成長に、我が国がアジアの金融センターとして大いに関与しつつ、国民の金融資産の運用を可能とする「新金融立国」を目指し、2010年中から速やかに具体的なアクションを起こす。

《21世紀の日本の復活に向けた21の国家戦略プロジェクト》

(21の国家戦略プロジェクトの選定)

 「新成長戦略」においては、各戦略分野での成果を確実なものとするため、規制の緩和や府省の壁を乗り越えた推進体制を構築するとともに、成長を支えるプラットフォームに「金融戦略」を加え、7つの戦略分野における有効な施策を選定している。そのうち、経済成長に特に貢献度が高いと考えられる21の施策を、国家戦略プロジェクトとし、これをブレークスルーとして、各分野の攻略を強力に進めることにする。
 21の国家戦略プロジェクトは、第2章にある経済成長に大きな貢献が期待される分野から、政策の優先順位の判断基準に照らして選定する。

強みを活かす成長分野

1.グリーン・イノベーションにおける国家戦略プロジェクト

 グリーン・イノベーションを成長の原動力として位置づけ、制度設計、規制改革、税制のグリーン化、事業性評価などによる総合的な政策パッケージにより、将来への投資とする事業を行い、我が国のトップレベルの環境技術・製品・サービスを普及させ、環境・エネルギー大国を目指す。

1.「固定価格買取制度」の導入等による再生可能エネルギー・急拡大

 再生可能エネルギーの普及拡大のため、買取対象をこれまでの太陽光発電から風力、中小水力、地熱、バイオマス発電に拡大、全量買取方式の固定価格買取制度の導入を軸とする、以下の政策パッケージを導入する。
 第一に、スマートグリッド導入、系統運用ルール策定、系統連系量の拡大施策等を通じて電力システムの高度化を図る。第二に、風力発電・地熱発電立地のゾーニングを行い、建設を迅速化する。また、公有水面の利用促進、漁業協同組合との連携等による洋上風力開発の推進等への道を開く。第三に、グローバルな新産業ベンチャー育成、リスクマネー補完、地域の事業・便益に繋がるファイナンスの仕組みを強化する。第四に、木質バイオマスの熱利用、空気熱利用、地中熱・太陽熱の温水利用等の普及を推進する。
 これにより、2020年までに再生可能エネルギー関連市場10兆円を目指す。

2.「環境未来都市」構想

 未来に向けた技術、仕組み、サービス、まちづくりで世界トップクラスの成功事例を生み出し、国内外への普及展開を図る「環境未来都市」を創設する。具体的には、内外に誇れる「緑豊かな、人の温もりの感じられる」まちづくりのもとで、「事業性、他の都市への波及効果」を十分に勘案し、スマートグリッド、再生可能エネルギー、次世代自動車を組み合わせた都市のエネルギーマネジメントシステムの構築、事業再編や関連産業の育成、再生可能エネルギーの総合的な利用拡大等の施策を、環境モデル都市等から厳選された戦略的都市・地域に集中投入する。
 このための新法を整備する(環境未来都市整備促進法(仮称))。関係府省は、次世代社会システム、設備補助等関連予算を集中し、規制改革、税制のグリーン化等の制度改革を含め徹底的な支援を行う。また、都市全体を輸出パッケージとして、アジア諸国との政府間提携を進める。

3.森林・林業再生プラン

 森林所有者をサポートするシステムを構築した上で、施業の集約化、路網の計画的な整備、林業機械の導入を一体的に進め、スケールメリットによる林業経営を可能とする。
 森林計画制度については、行政が策定する計画を現場に分かりやすく、使いやすいものにするとともに、森林経営者が策定する「森林経営計画(仮称)」を創設し、施業の集約化や路網の整備を認定要件とする。また、「日本型フォレスター」、「森林施業プランナー」、「技能者」の資格制度及びこれらの人材育成のための仕組みを整備する。
 さらに、無秩序な伐採を防止し、持続的な森林経営を確保する観点から、伐採面積の上限の設定や伐採後の確実な更新を確保する仕組みの導入等、伐採・更新ルールを抜本的に見直す。
 あわせて、林野関係予算を「選択と集中」の観点から抜本的に見直し、努力する者が報われるものとし、新たに「森林管理・環境保全直接支払制度(仮称)」を導入する。
 これにより、今後10年以内に外材に対抗できる国内林業の基盤を確立するとともに、木材の需要拡大を図り、木材自給率50%以上を見込む。

2.ライフ・イノベーションにおける国家戦略プロジェクト

 今後、飛躍的な成長が望まれる医薬品・医療機器・再生医療等のライフサイエンス分野において、我が国の技術力・創造力を発揮できる仕組みづくりに重点に置いたプロジェクトに取り組む。また、医療分野での日本の「安心」技術を世界に発信し、提供する。

4.医療の実用化促進のための医療機関の選定制度等

 がんや認知症などの重点疾患ごとに、専門的医療機関を中心としたコンソーシアムを形成し、研究費や人材を重点的に投入するほか、先進医療に対する規制緩和を図ることにより、国民を守る新医療の実用化を促進する。
 また、患者保護、最新医療の知見保持の観点で選定した医療機関において、先進医療の評価・確認手続を簡素化する。
 これにより、必要な患者に対し世界標準の国内未承認又は適応外の医薬品・医療機器を保険外併用にて提供することで、難治療疾患と闘う患者により多くの治療の選択肢を提供し、そのような患者にとってのドラッグ・ラグ、デバイス・ラグを解消する。
 新たな医薬品・医療機器の創出、再生医療市場の顕在化などにより、2020年までに年間約7,000億円の経済効果が期待される。

5.国際医療交流(外国人患者の受入れ)

 アジア等で急増する医療ニーズに対し、最先端の機器による診断やがん・心疾患等の治療、滞在型の慢性疾患管理など日本の医療の強みを提供しながら、国際交流と更なる高度化につなげる。そのため、いわゆる「医療滞在ビザ」を設置し、査証・在留資格の取扱を明確化して渡航回数、期限等を弾力化するほか、外国人医師・看護師による国内診療を可能とするなどの規制緩和を行う。
 また、外国人患者の受入れに資する医療機関の認証制度の創設や、医療機関ネットワークを構築することで、円滑な外国人患者の受入れを図るとともに、海外プロモーションや医療言語人材の育成などの受入れ推進体制を整備するほか、アジア諸国などの医療機関等との連携に対する支援を行う。
 これらの取組を推進することで、2020年には日本の高度医療及び健診に対するアジアトップ水準の評価・地位の獲得を目指す。

フロンティアの開拓による成長

3.アジア展開における国家戦略プロジェクト

 近年のアジア諸国の目覚しい発展は、我が国に大きなビジネス機会を与えている。そうしたビジネス機会を活かすため、日本の特色である「安全・安心」の技術力や多様な文化力を強化し、アジアへの展開を図るとともに、日本の特色を支える人材育成にも注力する。

6.パッケージ型インフラ海外展開

 アジアを中心とする旺盛なインフラ需要に応えるため、「ワンボイス・ワンパッケージ」でインフラ分野の民間企業の取組を支援する枠組みを整備する。具体的には、国家横断的かつ政治主導で機動的な判断を行うため、内閣総理大臣を委員長(国家戦略担当大臣を委員長代理)とし、官民合同の委員からなる「国家戦略プロジェクト委員会(仮称)」を設置する。同委員会では、国として重点的に推進するプロジェクトに対し、我が国経済への波及効果・インパクト等を判断し、パッケージ化の対応も含めた省庁間の政策調整や調査審議を行う。また、「インフラプロジェクト専門官(仮称)」を重点国を中心に在外公館内に指名する等、在外公館の拠点性を強化する。さらに、適切なファイナンス機能の確保や展開の基盤整備支援を含む関係政府機関の機能・取組を強化する。特に、パッケージ型インフラ海外展開推進会議(※)の検討を踏まえ、先進国向け投資金融においても、国際協力銀行(JBIC)が民間と連携して支援できる分野を拡充する。国際協力機構(JICA)の海外投融資については、既存の金融機関では対応できない、開発効果の高い案件に対応するため、過去の実施案件の成功例・失敗例等を十分研究・評価し、リスク審査・管理体制を構築した上で、再開を図る。国際協力銀行(JBIC)の在り方についても、機動性、専門性及び対外交渉力を強化する観点から検討する。また、自治体の水道局等の公益事業体の海外展開策を策定・推進する。
 これらの体制・制度を整備し、官民連携して海外展開を推進することにより、2020年までに、19.7兆円の市場規模を目指す。

(※)国家戦略室を中心に、関係省庁間で、パッケージ型インフラの展開を推進するための官民連携した取組について検討する会議。

7.法人実効税率引下げとアジア拠点化の推進等

 日本に立地する企業の競争力強化と外資系企業の立地促進のため、法人実効税率を主要国並みに引き下げる。その際、租税特別措置などあらゆる税制措置を抜本的に見直し、課税ベースの拡大を含め財源確保に留意し、雇用の確保及び企業の立地環境の改善が緊急の課題であることも踏まえ、税率を段階的に引き下げる。
 また、日本を「アジア拠点」として復活させるため、高度人材等雇用への貢献度等と連動したアジア本社・研究開発拠点等の誘致・集積を促す税制措置を含むインセンティブ制度について、2011年度からの実施を目指して検討する。
 加えて、日本の事業環境の魅力を向上させるためのヒト・モノ・カネの流れを円滑化する制度改革等を盛り込んだ「アジア拠点化・対日直接投資促進プログラム(仮称)」を2010年末を目途に策定する。あわせて、輸出貨物に係るいわゆる「保税搬入原則」の見直し等を含む、貿易関連手続の一層の円滑化を行う。
 これにより、日本に立地する企業の競争力を向上させ、雇用増につなげる。また、高付加価値型外資企業の立地促進等により外資企業による雇用倍増を実現し、対内直接投資を倍増させる。

8.グローバル人材の育成と高度人材等の受入れ拡大

 我が国の教育機関・企業を、積極的に海外との交流を求め、又は国内のグローバル化に対応する人材を生み出す場とするため、外国語教育や外国人学生・日本人学生の垣根を越えた協働教育をはじめとする高等教育の国際化を支援するほか、外国大学との単位相互認定の拡大や、外国人教職員・外国人学生の戦略的受入れの促進、外国人学生の日系企業への就職支援等を進める。一方、日本人学生等の留学・研修への支援等海外経験を増やすための取組についても強化する。
 さらに、優秀な海外人材を我が国に引き寄せるため、欧米やアジアの一部で導入されている「ポイント制」を導入し、職歴や実績等に優れた外国人に対し、出入国管理制度上の優遇措置を講じる仕組みを導入する。また、現行の基準では学歴や職歴等で要件が満たせず、就業可能な在留資格が付与されない専門・技術人材についても、ポイント制を活用することなどにより入国管理上の要件を見直し、我が国の労働市場や産業、国民生活に与える影響等を勘案しつつ、海外人材受入れ制度を検討し、結論を得る。
 これらの施策を通じ、海外人材の我が国における集積を拡大することにより、在留高度外国人材の倍増を目指す。また、我が国から海外への日本人学生等の留学・研修等の交流を30万人、質の高い外国人学生の受入れを30万人にすることを目指す。
 あわせて、海外の現地人材の育成も官民が協力して進める。

9.知的財産・標準化戦略とクール・ジャパンの海外展開

 日本の強みを成長につなげる取組を強化する。
 知的財産の積極的な取得・活用、特定戦略分野の国際標準獲得に向けたロードマップの策定、今後創設される「科学・技術・イノベーション戦略本部(仮称)」(総合科学技術会議の改組、知的財産戦略本部の見直し)の活用を進める。
 また、我が国のファッション、コンテンツ、デザイン、食、伝統・文化・観光、音楽などの「クール・ジャパン」は、その潜在力が成長に結びついておらず、今後はこれらのソフトパワーを活用し、その魅力と一体となった製品・サービスを世界に提供することが鍵となっている。
 このため、海外の番組枠の買取り、デジタル配信の強化、海外のコンテンツ流通規制の緩和・撤廃、海賊版の防止、番組の権利処理の迅速化とともに、民間を中心としたチームによるクール・ジャパン関連産業や地域産品の売込みと海外ビジネス展開支援、人材育成の強化、海外クリエイター誘致のための在留資格要件の緩和等を行う。
 これらの施策を通じ、戦略分野における日本の国際競争力を強化するとともに、アジアにおけるコンテンツ収入1兆円を実現する。

10.アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築を通じた経済連携戦略

 アジア諸国を含めた主要国・地域との経済連携の進め方などの検討を行い、2010年秋までに「包括的経済連携に関する基本方針」を策定する。
 上記基本方針を踏まえて、国内産業との共生を目指しつつ、関税などの貿易上の措置や非関税措置(投資規制、国際的な人の移動に関する制限等を含む)の見直しなど、質の高い経済連携を加速するとともに、国内制度改革等を一体的に推進する。
 特に、「東アジア共同体構想」の具体化の一環として、2010年にAPEC(アジア太平洋経済協力)をホストする機会を通じて、アジア太平洋を広く包含するFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)の構築のためのあり得べき道筋を探求するに当たって強いリーダーシップを発揮する。
 また、EPAに基づく看護師・介護福祉士候補者の受入れを確かなものとしていくことを通じ、我が国の病院・介護施設において就労する外国人が増え、医療・介護の技術や知識を海外に広めることにより、看護・介護サービスの質・量が充実し、潜在的な看護・介護サービス需要が喚起されることが期待される。
 これらにより、アジアにおける「ヒト・モノ・カネの流れ倍増」に大きく貢献し、貿易促進、外資系企業による日本への立地促進、人材の集積を図る。

4.観光立国・地域活性化における国家戦略プロジェクト

 公共事業費減少の中、「財政に頼らない成長」を大原則とした上で、これまでの再配分政策であった地域振興策からの脱却を図り、成長の足かせとなってきた各種規制の緩和やルールの変更を大胆に進め、「選択と集中」の観点と「民間の知恵と資金」を積極的に活用した仕組みを導入して、埋蔵需要の掘り起こしを図る。

11.「総合特区制度」の創設と徹底したオープンスカイの推進等

 地域の責任ある戦略、民間の知恵と資金、国の施策の「選択と集中」の観点を最大限活かす「総合特区制度」を創設する。具体的には、1.我が国全体の成長を牽引し、国際レベルでの競争優位性を持ちうる大都市等の特定地域を対象とする「国際戦略総合特区(仮称)」を設け、我が国経済の成長エンジンとなる産業や外資系企業等の集積を促進するため、必要な規制の特例措置及び税制・財政・金融上の支援措置等を総合的に盛り込む。その際、法人税等の措置についても検討を行う。また、2.全国で展開する「地域活性化総合特区(仮称)」では、地域の知恵と工夫を最大限活かす規制の特例措置及び税制・財政・金融上の支援措置等、「新しい公共」との連携を含めた政策パッケージを講じる。
 これら総合特区制度の創設により、拠点形成による国際競争力等の向上、地域資源を最大限活用した地域力の向上が期待される。
 また、アジア・世界からのヒト・モノ・カネの流れ倍増を目指し、羽田の「24時間国際拠点空港化」、首都圏空港を含めた徹底したオープンスカイを進めるとともに、港湾の「選択と集中」を進め、民間の知恵と資金を活用した港湾経営の実現等を図る。

12.「訪日外国人3,000万人プログラム」と「休暇取得の分散化」

 本年7月1日から、中国人訪日観光の査証取得要件の緩和、申請受付公館の拡大など、査証の取得容易化を実現し、同時に「選択と集中」による効果的なプロモーションの実施や、医療など成長分野と連携した観光の促進、通訳案内士以外にも有償ガイドを認めるなど受入体制の充実等に取り組むことで、訪日中国人旅行者数の大幅な増加を図り、2020年初めまでに訪日外国人2,500万人、将来的には3,000万人の達成に向けた取組を進める。
 また、ピーク時に依存した需要構造を平準化し、混雑等のために顕在化していない需要を掘り起こすため、地域ブロック別に分散して大型連休を取得する取組など「休暇取得の分散化」を実施する。このための祝日法の改正について検討を進め、十分な周知・準備期間を設けた上で、早ければ平成24年度中の実現を目指す。あわせて、年次有給休暇の一層の取得促進を図る。
 2020年初めまでに訪日外国人2,500万人達成により、経済波及効果10兆円、新規雇用56万人が見込まれ、休暇取得の分散化により需要創出効果約1兆円が見込まれる。

13.中古住宅・リフォーム市場の倍増等

 内需の要である住宅投資の活性化を促す。具体的には、これまでの新築重視の住宅政策からストック重視の住宅政策への転換を促進するため、建物検査・保証、住宅履歴情報の普及促進等の市場環境整備・規制改革、老朽化マンションの再生等を盛り込んだ中古・リフォーム市場整備のためのトータルプランを策定する。
 また、省エネ・耐震・バリアフリー、長期優良住宅等の質の高い新築住宅の普及促進を図るため、住宅エコポイント等に加え、住宅等のネット・ゼロ・エネルギー化に向けた新たな省エネ基準を策定する。さらに、建築基準法の見直しやリバースモーゲージの活用促進を図る。これにより、新たな成長産業としての住宅市場の活性化を図るとともに、「二地域居住」など生活の質の向上を実感する新たなライフスタイルの変革を促す。
 これにより、中古住宅流通市場・リフォーム市場を20兆円まで倍増を図るとともに、ネット・ゼロ・エネルギー住宅を標準的な新築住宅とすることを目指す。

14.公共施設の民間開放と民間資金活用事業の推進

 国、地方ともに財政状況が極めて厳しい中、必要な社会資本整備や既存施設の維持管理・更新需要に最大限民間で対応していく必要がある。そのため、PFI制度にコンセッション方式(※)を導入し、既存の法制度(いわゆる公物管理法)の特例を設けることにより公物管理権の民間への部分開放を進める。あわせて、公務員の民間への出向の円滑化、民間資金導入のための制度整備、地方公共団体への支援体制の充実など、PFI制度の拡充を2011年に行う。
 これにより、PFI事業規模について、2020年までの11年間で、少なくとも約10兆円以上(民間資金等の活用による公共施設等の整備等に関する法律施行から2009年末までの11年間の事業規模累計約4.7兆円の2倍以上)の拡大を目指す。

(※)公共施設の所有権を民間に移転しないまま、民間事業者に対して、インフラ等の事業権(事業運営・開発に関する権利)を長期間にわたって民間に付与する方式。

成長を支えるプラット・フォーム

5.科学・技術・情報通信立国における国家戦略プロジェクト

 我が国の最大の強みである科学・技術・情報通信分野で、今後も世界をリードする。新しい知の創造とイノベーション創出を両輪として制度改革や基盤整備に果断に取り組むとともに、科学・技術人材の育成を進め、彼らが活躍する道を社会に広げていく。政策推進体制の抜本的強化のため、総合科学技術会議を改組し、「科学・技術・イノベーション戦略本部(仮称)」を創設する。

15.「リーディング大学院」構想等による国際競争力強化と人材育成

 拠点形成と集中投資により、我が国の研究開発・人材育成における国際競争力を強化する。すなわち、我が国が強みを持つ学問分野を結集したリーディング大学院を構築し、成長分野などで世界を牽引するリーダーとなる博士人材を国際ネットワークの中で養成する。最先端研究施設・設備や支援体制等の環境整備により国内外から優秀な研究者を引き付けて国際頭脳循環の核となる研究拠点や、つくばナノテクアリーナ等世界的な産学官集中連携拠点を形成する。また、「国立研究開発機関(仮称)」制度の検討を進める。
 大学・大学院の理系カリキュラム改善を産学官連携で推進し、「特別奨励研究員事業(仮称)」の創設を含む若手研究者支援制度の再構築や大学等におけるテニュアトラック制(※)の普及により優秀な若手研究者の自立的研究環境を整備する。また、研究開発独法を活用した取組等により、産業を担う研究開発人材や研究マネジメント人材等を育成する。
 これらの取組により、特定分野で世界トップ50に入る研究・教育拠点を100以上構築し、イノベーション創出環境を整備するとともに、博士課程修了者の完全雇用と社会での活用を実現する。

(※)若手研究者が、厳格な審査を経てより安定的な職を得る前に、任期付きの雇用形態で自立した研究者としての経験を積むことができる仕組み

16.情報通信技術の利活用の促進

 我が国は情報通信技術の技術水準やインフラ整備では世界最高レベルに達しているが、その利活用は先進諸国に比べ遅れ、国際競争力低下の一因ともなっている。特に、今後のサービス産業の生産性向上には、情報通信技術の利活用による業務プロセスの改革が不可欠である。自治体クラウドなどを推進するとともに、週7日24時間ワンストップで利用できる電子行政を実現し、国民・企業の手間(コスト)を軽減するとともに、医療、介護、教育など専門性の高い分野での徹底した利活用による生産性の向上に取り組むことが急務である。このため、個人情報保護を確保することとした上で、社会保障や税の番号制度の検討と整合性を図りつつ、国民ID制度の導入を検討する。また、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)を中心に、情報通信技術の利活用を阻害する制度・規制等の徹底的な洗い出し等を実施する。あわせて、「光の道」構想(2015年頃を目途にすべての世帯でブロードバンドサービスを利用)の実現を目標とし、速やかに必要な具体的措置を確定した上で、所要の法案等を提出する。

17.研究開発投資の充実

 2020年度までに官民合わせた研究開発投資をGDP比の4%以上にする。そのため、政府の関与する研究開発投資を第4期科学技術基本計画に沿って拡充することとし、効果的、効率的な技術開発を促進するための規制改革や支援体制の見直し、官民連携の強化、民間研究開発投資への税制優遇措置など研究開発投資の促進に向けた各種施策を検討・実施する。
 これらの施策を進めるに当たり、国民の理解を得られるよう、科学・技術予算編成プロセスの抜本的改革などのシステム改革を進める。すなわち、科学・技術政策の総合司令塔である「科学・技術・イノベーション戦略本部(仮称)」の下、府省横断の科学・技術重要施策アクションプランの実施により、予算の「選択と集中」を強化し、重複の排除や透明性の向上を徹底する。また、基礎研究力の向上と研究のデスバレーの克服やオープン・イノベーションの実現に向けた科学・技術・イノベーションシステムを構築する。

6.雇用・人材分野における国家戦略プロジェクト

 我が国は、「人づくり」を社会全体で再構築すべき時期に直面している。急激な少子高齢化の中での成長を実現するため、就学前の子どもから社会に出て様々な経験を積んだ後の大人まで、生涯を通じた能力・スキル向上の機会を社会全体で提供する。

18.幼保一体化等

 すべての子どもたちに質の高い幼児教育と保育を保障することが「人づくり」の起点として必要であり、このため、幼保一体化を含む制度改革と環境整備に全力で取り組む。
 具体的には、幼稚園教育要領と保育所保育指針を統合した「こども指針(仮称)」の策定、幼稚園・保育所の垣根を取り払い(「保育に欠ける要件」の撤廃等)、新たな指針に基づき、幼児教育と保育をともに提供する「こども園(仮称)」に一体化、実施体制の一元化を行うとともに、指定制度の導入、利用者が自ら選択する事業者と契約する利用者補助方式への転換、「こども園(仮称)」について価格制度を一本化等により多様な事業主体の参入促進による様々な子どもの事情に応じた幅広いサービス提供を行う。
 2017年には待機児童が解消し、保護者の就労形態等によらず、すべての子どもに質のよい成育環境が整備されることが期待される。

19.「キャリア段位」制度とパーソナル・サポート制度の導入

 時代の要請に合った人材を育成・確保するため、実践的な職業能力育成・評価を推進する「実践キャリア・アップ制度」では、介護、保育、農林水産、環境・エネルギー、観光など新たな成長分野を中心に、英国の職業能力評価制度(NVQ:NationalVocationalQualification)を参考とし、ジョブ・カード制度などの既存のツールを活用した『キャリア段位』を導入・普及する(日本版NVQの創設)。あわせて、育成プログラムでは、企業内OJTを重視するほか、若者や母子家庭の母親など、まとまった時間が取れない人やリカレント教育向けの「学習ユニット積上げ方式」の活用や、実践キャリア・アップ制度と専門学校・大学等との連携による学習しやすい効果的なプログラムの構築を図る。
 同時に、失業をリスクに終わらせず、新たなチャンスに変えるための「セーフティ・ネットワーク」の実現を目指し、長期失業などで生活上の困難に直面している人々を個別的・継続的・制度横断的に支える「パーソナル・サポート」を導入するほか、就労・自立を支える「居住セーフティネット」を整備する。

20.新しい公共

 「新しい公共」が目指すのは、一人ひとりに居場所と出番があり、人に役立つ幸せを大切にする社会である。そこでは、国民の多様なニーズにきめ細かく応えるサービスを、市民、企業、NPO等がムダのない形で提供することで、活発な経済活動が展開され、その果実が社会や生活に還元される。「新しい公共」を通じて、このような新しい成長を可能にする。政府は、大胆な制度改革や仕組みの見直し等を通じ、これまで官が独占してきた領域を「公(おおやけ)」に開く。このため、「「新しい公共」円卓会議」や「社会的責任に関する円卓会議」の提案等を踏まえ、市民公益税制の具体的制度設計やNPO等を支える小規模金融制度の見直し等、国民が支える公共の構築に向けた取組を着実に実施・推進する。また、新しい成長及び幸福度について調査研究を推進する。
 官が独占していた領域を「公」に開き、ともに支え合う仕組みを構築することを通じ、「新しい公共」への国民参加割合を26%(「平成21年度国民生活選好度調査」による)から約5割に拡大する。

7.金融分野における国家戦略プロジェクト

 成長戦略における金融の役割は、1.実体経済、企業のバックアップ役としてそのサポートを行うこと、2.金融自身が成長産業として経済をリードすることである。2020年までの期間において、これら2つの役割を十分に果たしうる金融を実現し、実体経済と金融との新たな「Win-Win」の関係を目指す。

21.総合的な取引所(証券・金融・商品)の創設を推進

 「新金融立国」に向けた施策として、証券・金融、商品を扱う取引所が別々に設立・運営されているという現状に鑑み、2013年度までに、この垣根を取り払い、全てを横断的に一括して取り扱うことのできる総合的な取引所創設を図る制度・施策の可能な限りの早期実施を行う。
 総合的な取引所においては、市場としての機能を再生・発展させるため、投資家・利用者の利便性を第一の仕組みとし、「国を開き」、世界から資本を呼び込む市場を作り上げるための具体的な対応をできるだけ速やかに実行することにより、アジアの資金を集め、アジアに投資するアジアの一大金融センターとして「新金融立国」を目指す。

第4章新しい成長と政策実現の確保

新しい成長

 「新成長戦略」では、官民を挙げて「強い経済」の実現を図り、2020年度までの年平均で、名目3%、実質2%を上回る経済成長を目指している。強い経済を実現するためには、安定した内需と外需を創造し、産業競争力の強化と併せて、富が広く循環する経済構造を築く必要がある。需要を創り出す鍵が、「課題解決型」の国家戦略である。すなわち、地球温暖化や少子高齢化など我が国を取り巻く重要課題への処方箋を示すことが、社会変革と新たな価値を育み、結果として雇用を創り出すことにつながる。
 従来、環境や社会保障は、温暖化や少子高齢化を背景に負担面ばかりが強調され、経済成長の足を引っ張るものと見なされる傾向があった。しかし、このような分野にこそ、雇用創出を通じて成長をもたらす分野が数多く含まれている。地球温暖化や少子高齢化などの課題に正面から向き合うことで、日本が世界に先駆けて課題を解決する「モデル国」となるとともに、需要の創造と供給力の強化の好循環を作り出す。我が国が目指すのは、こうした経済・環境・社会の3つが相互に高め合い、人々の幸福度に寄与する「三方よし」の国である。
 また、2000年代の「構造改革」の名の下に進められた、供給サイドの生産性向上による成長戦略により、いわゆる「ワーキングプア」に代表される格差拡大も社会問題化している。新たな成長戦略では、このような経済政策によって生み出された、失業や貧困など国民の幸福度が低下する要素を取り除かなければならない。
 とりわけ、近年、「孤立化」という新たな社会リスクが急激に増加している。人は誰しも独りでは生きていけず、悩み、挫け、倒れたときに、寄り添ってくれる人がいるからこそ、再び立ち上がれる。かつて我が国では、家族や地域社会、そして企業による支えが、そうした機能を担ってきた。それが急速に失われる中で、社会的排除や格差が増大しており、老若男女を問わず「孤立化」する人々が急増している。
 「新成長戦略」は、「強い経済」の実現により、できる限り早期に3%台の失業率を実現し、失業のリスクを減らす。加えて、長期失業や非正規就業で生活上の困難に直面している「孤立化」した人々を、個別的・継続的・制度横断的に支える「パーソナル・サポート」制度を導入する。
 また、こうした活動の可能性を支援する「新しい公共」すなわち、従来の行政機関ではなく、地域の住民が、教育や子育て、まちづくり、防犯・防災、医療・福祉、消費者保護などに共助の精神で参加する公共的な活動を、応援する。
 世界各国が、世界同時不況を一つの契機に、より公正で持続可能な資本主義と成長の在り方についての本質的な検討を深めている。日本政府としては、幸福度に直結する、経済・環境・社会が相互に高め合う、世界の範となる次世代の社会システムを構築し、それを深め、検証し、発信すべく、各国政府および国際機関と連携して、新しい成長および幸福度(well-being)について調査研究を推進し、関連指標の統計の整備と充実を図る。このことにより、新しい成長、新しい環境政策、新しい公共を、一体的に推進するための基盤を構築する。

「新成長戦略」の政策実現の確保

(1)成長戦略実行計画(工程表)の提示

 21の国家戦略プロジェクトをはじめ7つの戦略分野の施策を計画倒れに終わらせずに確実に実現するため、別表の成長戦略実行計画(工程表)に実施スケジュールを示す。

(2)予算編成や税制改革の優先順位付け

 予算編成や税制改革に当たっては、無駄遣いの根絶を強力に進めるとともに、「新成長戦略」を着実に推進する。「財政運営戦略」との整合性を保ちつつ、第2章にある経済成長や雇用創出への寄与度等も基準とした優先順位付けを行う。

(3)施策執行の進捗管理

 成長戦略実行計画に示された各施策については、国家戦略室を中心に、効果的・効率的な執行を図る観点から関係者に進捗状況の報告を求め、必要に応じ改善措置を講じさせるなど、PDCAサイクルに立脚した進捗管理を徹底する。
 こうした措置により、将来の予見可能性を高め民間部門の投資を促す。

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大臣官房国際課