資料2 東アジアにおける交流に関するワーキング・グループ (第6回) 議事要旨(案)

1.日時

平成22年5月19日(水曜日)9時30分~11時30分

2.場所

文部科学省5F7会議室

3.議事

・東アジアにおける大学間交流のあり方について

4.配付資料

資料1 大学の国際化と大学間交流の促進について(高等教育局提出資料)
資料2 AUN/SEED-Netアセアン工学系高等教育ネットワークプロジェクト(JICA人間開発部提出資料)
参考資料1 東アジア諸国出張報告
参考資料2 東アジア地域における協力枠組等

5.出席者

委員

青木委員、白石委員、角南委員、田中委員、恒川委員、寺島委員

JICA

萱島人間開発部長、小西高等・技術教育課長

文部科学省

中川副大臣、坂田次官、清水文部科学審議官、山中官房長、木曽国際統括官、土屋総括審議官、加藤高等教育局審議官、芝田大臣官房国際課長、坪井大臣官房政策課長 他

6.議事概要

(1)東アジアにおける大学間交流のあり方について

  • 加藤高等教育局審議官より大学の国際化と大学間交流の促進について、萱島JICA人間開発部長よりAUN/SEED-Netアセアン工学系高等教育ネットワークプロジェクトについて発表が行われた。また、中川副大臣より、東アジア諸国出張報告が行われた。その後自由討議が行われ、概要は以下の通り。

【清水文部科学審議官】

 SEED-Netについては分野拡大の可能性についても検討されていたと思うが、今はどういう方向か。

【萱島国際協力機構部長】

 現行の「フェーズ2」の協力期間はまだ3年弱残っており、少なくともその間は工学系を対象とするつもりである。理学系、医学系、地方分権のような行政学系の分野等に対象を広げてはどうかとの意見もあり、今後も議論を進めていく。対象国、対象大学についてもどういう形で行うのかがより効果的か検討中である。ある程度、現在のアセットを活用することも必要である一方、クローズにして小さいものにならないよう、うまくバランスをとりつつ発展的に成長できるような形に検討したいと思っている。

【委員】

 ダブル・ディグリーは特に専門職大学院などでは問題なくできそうな印象だが、ジョイント・ディグリーになると国内制度の改正等の課題もあるのではないか。この辺りの現状を教えて欲しい。

【加藤審議官】

 今回のガイドラインは、現行の法制度に基づいてダブル・ディグリー・プログラム等を行う際の留意点をとりまとめたものであり、我が国の大学と海外の大学が共同で学位記を発行することは意図していない。ただ、その場合、A大学とB大学が共同で開発したある課程を卒業したという証明書のようなものを別途発行するという形を考えている。具体的には(資料1)の14ページにガイドラインの概要をまとめている。質保証の観点から、当初に確認すべき事項、教育研究活動の評価、共同実施体制の整備等々の留意点をまとめている。このガイドラインについては、二宮先生が主査を務める「大学グローバル化検討ワーキング・グループ」において検討を進めてきたところ。

【委員】

 JICA研究所のプロジェクトでアジアの300大学の共同学位プログラム823を特定し、アンケート調査をかけたところ、回答のあった241のプログラムのうち大半はダブル・ディグリー・プログラムであった。ジョイント・ディグリーは、各国のカリキュラムや制度も含めた調整が必要になるので非常に難しいのではないかと考えている。

【委員】

 SEED-Netの「フェーズ2」が終了した後の予算等の見通しはあるのか。

【萱島国際協力機構部長】

 現時点では、終了後の予算が確保されている状況ではない。事業を継続するために、関係者・関係機関と調整していきたい。

【委員】

 ASEANの国・地域毎に戦略が必要なのではないか。また、ディグリーの価値の評価はどうなっているのか。例えば、フランスでは、日本の大学のディグリーはほとんど価値が認められていないと聞く。ASEANや日中韓でダブル・ディグリー等を行った場合に、その価値はどのように評価されるのか。例えば、日本の学生がマレーシアの大学でディグリーをとった場合、日本企業に採用される際に有利に働くのか。

【委員】

 ASEANには、経産省が年間10億円を投入し、ERIAというシンクタンクを提供しているが、ASEANのブレーンタンクとしての機能を期待され始めている。例えば、ASEANは今年1月から中国・インドとの自由貿易協定を発効させたが、ERIAを窓口として、同協定発効1~2年後の実効性について研究することまで期待され始めている。経産省がERIAを提供した意図は、ASEANの共同プロジェクトに日本がしっかり参入していくための足がかりとすることだと思われるが、文科省が別の意図でASEANと連携し、日本としての統一感のない印象を与えるのは好ましくないため、ERIAの現状等については経産省とも情報共有しておくべきである。
 (資料1)によれば、留学生30万人計画は、現在13万人まで達成されているとのことだが、実態として、うち約10万人は中国、韓国からの留学生である。香港、シンガポール、台湾の中華圏を含めれば、来日している留学生の9割近くがグレーターチャイナ+韓国からの留学生ということになるだろう。第1回日中韓大学間交流・連携推進会議での議論に参加し、韓国は大学間交流に非常に積極的であるという印象を持った。CAMPUS Asiaという言葉も韓国が提案した。最初のステップとして、日中韓で大学単位互換、質保証に踏み込むことは戦略的に極めて重要であり、3カ国の間で強い問題意識を共有しておくべきである。
 大学間交流において重要なのは出口戦略である。産業界との連携が重要であり、留学生数を増やす目的は何か、卒業後どうさせるかについて、しっかりと考えていかなければならない。
 留学生を受けとめる体系的な出口戦略が重要だと認識した一つの例として、次のような経験がある。現在、大阪の関西経済団体連合会を中軸に「大阪駅北地区先行開発区域プロジェクト」という開発が行われているが、その中で、「アジア太平洋研究所構想(仮称)」が進められている。構想の中で、「留学生のとまり木」プロジェクトとして、研究所内に、留学生が大学卒業後、就職活動や共同研究を行う場を設けたいと考え、関西7大学(阪大、京大、神戸大、関関同立)の留学生を対象にヒアリングを実施したところ、日本での就職、研究の継続、インターンの機会に関する情報が留学生の間で共有されていないということがわかった。まず、大学と連携し、産業界と留学生の間でデータベースをしっかり設ける必要がある。例えば、研究所の一つの試みとして、留学生の留学動機、今後の志望、留学生活に関する要望等をしっかり把握し、産業界のニーズとマッチングをすべきであると考えている。
 「新成長戦略」に関する検討の中で、アジア連携による教育に関する話が出始めているようだ。今後の日本産業活性化の鍵は文化産業のアジアへの攻勢であるという観点から、メディア・コンテンツに関する話が出ており、知財権に関連する事項についてアジア地域と信頼できる仕組みを構築することが重要になってくる。観光立国論もかなり出ており、例えば医療ツーリズムでは、シンガポールが昨年65万人の観光客を呼び込み、2年以内に100万人を達成するとしている。日本でも熱心に主張している人もいる一方で、大学医療機関等との連携なしには実現できない話であり、議論をかみ合わせないといけない。 

【委員】

 日本が大学間交流を行う場合、工学系等のすぐに役に立つ技術等も重要だが、社会科学・人文科学分野も含めて検討すべきである。中韓、ASEAN諸国にはそうしたニーズもあるため、豊かな知識や教養を吸収するハブ大学を日本に設ける必要があるのではないか。技術系の留学生などは、文化コンテンツ、クール・ジャパンにも興味があり、それらも提供できると、日本への留学もより魅力的になる。現状では、技術の習得を目的に日本への留学を希望する学生もいるが、総じて欧米への留学生が圧倒的に多い。
 海外に日本の大学の支部をつくる、海外の大学キャンパス内に日本の大学との協力機関をつくる等、積極的な海外展開を図り、国内外の体制を充実させていく中で、JICAや国際交流基金、他省庁の教育プログラム等もその枠組みの中に収斂させていくべきではないか。そういう大きなプランがないと、日本の協力が部分的なものになってしまう。

【座長】

 分野によっては、日本の大学が明らかにハブになっているものもある。例えば、東南アジア研究の分野について言えば、15年ほど前に米国の同分野の研究拠点がほぼ壊滅したため、現在は、京都大学とシンガポール国立大学がハブとなっている。ただし優秀な研究者が集まるが、教育はしっかりできていないのが実態である。極めて徒弟奉公的であり、体系的なコースワークができていないため、学生側も不満を抱いているようだ。同様の懸念は、総合科学技術会議でも挙げられており、主に産業界から、日本の大学院教育は徒弟奉公的であり、特に修士レベルにおいて、体系的なコースワークが不十分だという指摘を受ける。例えば、政策研究大学院大学でも、東南アジアとのダブル・ディグリーを行っているが、最も期待されるのは論文指導ではなく、広範なコースワークである。特に基礎教育に重点を置いて欲しいという要望が強い。
 また、個人的なつながりを頼りにしたネットワークで協力を進めていると、関係者の加齢とともにつながりを失う危険性があるが、その辺りをどう考えるか。JICAのプログラムはまだ期間が短いが、世代交代をどのように考えるか。
 ERIAに関しては、日本が最初に資金を拠出したが、その後、オーストラリア、ニュージーランド、インドも拠出し、中国も検討を始めているようであり、歓迎すべき状況だと思う。一方で、ERIAは経産省が設置したと見られることは一番まずいと思う。例えばアジア・リサーチ・エリアは賢人会議等を設けて議論するべき話だが、事務局としてERIAを使うなど、ERIAの活用方法を検討すれば、ASEAN事務局をうまく巻き込むことができるのではないか。
 クール・ジャパンに関して、東南アジアでは、日本のファッション、料理、コンピュータゲーム等の専門学校に留学したいという需要が非常に多い。ところが、ビザが認められず、日本に留学できない。ビザに関する検討の推進は、日本の文化産業における人材拡大にもつながる。優秀な人材には日本に残ってもらうべきであり、是非前向きに検討いただきたい。

【萱島国際協力機構部長】

 SEED‐Netにおける世代交代についてだが、ネットワークは人のつながりに依拠する部分が多く、当事者の年齢が上がれば自然と関係が薄れるのが現状である。ただ、今は若い人材を留学生として受け入れており、まだそのような問題には直面していない。ネットワークとしての活動をある程度維持しない限り、人的つながりは縮小するのは確実であり、人的つながりによる再生産の機能も生かすことが重要だと考えている。
 体系的な教育については、ASEAN諸国は大学院教育を開始して日が浅いため、必ずしも日本よりも進んだ教育ができるわけではなく、徒弟的な教育が中心なのではないか。英語教育が必ずしも主ではないタイやインドネシアでは留学生の受入れに緒がついたところであり、英語教育が比較的進んでいるマレーシアやフィリピンにおいても、言葉の障壁はないが、まず留学生を受け入れるところから始まっている。唯一例外的なのはシンガポールであり、レベルが高くSEED‐Netの枠組みにおける留学生でも入学が容易でなかったり受け入れてもらえない、或いはコースワークが大変厳しく学生が苦労しながら学位を取る状況になっている。

【委員】

 日本の大学院教育は改善しなければならない点が多い。人文科学系のコースワークが不十分だというのは指摘通りだと思うが、工学・理学系については正直分からない。日本の工学系教育の良さは、学部3、4年生ぐらいから徹底的に実験室や研究室で実験をさせるという方法であり、このような徒弟奉公性的な側面がかえって強みにもなっている。シンガポール国立大学などは素晴らしいが、工学系や基礎科学分野ではコースワークを重視し過ぎており、ある程度の段階までは行くが、その後自ら独創的な実験を行い、十分な成果を生み出すことができるかというと、日本の方が「ネイチャー」や「サイエンス」に論文発表できるような研究成果を生みやすい印象を持つ。

【加藤審議官】

 大学院教育においてコースワークが弱いというご批判は以前からある。平成17年に今後の大学院教育をどうするかについて中教審答申(『新時代の大学院教育-国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて』)があり、大学院課程の目的を明確化し、体系的な教育プログラムをしっかりと築いていく中でコースワークもやるという方針を踏まえ、実際に各大学院において、この5年間取組を進めてきてもらった。現在、取組状況のレビューを行っており、分野別に、研究大学院や中小の大学院など色々な大学院を選び、実際の状況を専門家の先生にも見ていただき、まとめつつある。近いうちに中教審の関係の部会などに結果を出せると思うが、その結果を踏まえ、分野等に応じてどのような点をさらに強化すべきか、併せてまとめてまいりたい。

【座長】

 産業界と議論していると、例えば、自動車会社に入社したのに製図について勉強したことがないなど、広い意味でのコースワークの必要性が常に指摘される。

【委員】

 大学の国際競争の中で言うと、大学と国の利害はやや相違する場合もある。地域コミュニティをつくる国の利害から言えば、大学間交流は当然に取り組むべき話であるが、他方、国際的な競争の中にいる大学の立場からすると、大学間交流は手段であり、質の高い教育をするにはどうしたらよいかという点が重要となる。その辺りがなかなか難しい。 また、大学は暗黙の階層意識が非常に強い組織であり、大学間交流を行うのであれば、自分より上のレベルの大学とは交流したいが、下のレベルの大学とは交流したくないという傾向が常にある。大学の自己利益の観点から言えば、日本の学生の内向き志向を改善するためには、まず学生を外に出す仕組みをつくらなければ質を維持できないというのが目下の課題である。とりわけ、学部生を外に出す仕組みづくりが一番の難問である。大学院より学部のカリキュラムの方が融通がきかないため、約1年間海外経験をさせて、4年間で大学を卒業させるには、学部のカリキュラムを全面的に見直す必要がある。学部3~4年生段階で就職活動を行っている状況下で、どの段階で留学させるかは難しく、今の状況では相当インセンティブがないと難しいのではないかと思う。しかし、日本の学部教育として、中国や韓国に留学経験のある学生をある程度有しておくことは重要ではあり、その面からも大学間交流を今まで以上に進めていかなければいけない。
 また、受入れについても大学の自己利害からすると非常に重要であり、優秀な学生をどれだけ獲得できるかという話になってくる。その際、受入れる側の環境、インフラ整備は極めて重要である。国際的大学間競争の中で優秀な学生を獲得するには、相当額の奨学金を設ける必要があり、また、最近では、日本で秋入学のプログラムとして英語プログラムを幾つか設けている。秋入学については今年も2、3、4月に合格通知を出す予定だが、応募者は東京大学のみならず、ハーバード大学やオックスフォード大学にも併願しており、複数合格した場合は、その時点で奨学金を提供できる米国の大学等に進学し、日本に来る留学生は1ランクレベルが下がるという問題もある。グローバル30でも、専用の奨学金があるが額が非常に少なく、1つのプログラムにつき、1人ないし2人分出せればよい方だ。国費留学生全体の優先配置枠や国費留学生の大使館推薦数など全て含めて検討する必要があるだろう。留学生30万人計画を仮に継続するのであれば、一貫した政策遂行、予算編制を行わないと難しい。グローバル30を採択し1年目は実施したが、翌年度には予算が30%以上カットされ、留学生の宿舎整備や教員の雇用に支障が生じる等、状況が毎年変わるようではなかなか苦しい。

【委員】

 ASEANのシンクタンクの高度化、テーマ・システムの多角化を図る上で、知財権や教育分野でもASEANと連携する基点としてERIAを大いに生かしていくべきである。
 大学間交流を成功させるためには、日本語教育についてはオーストラリア方式をよく研究し、日本なりに実施するべきだろう。留学生30万人計画の背後には、多様な留学生を想定しなければならず、東京大学留学を志し、ハーバード大学と競い合うレベルの学生がいる一方、日本に関心があるから留学する学生もいる。多様な学生に対して、現地或いは日本国内で体系的な日本語教育を行うことについて、文科省でしっかり検討してもらいたい。例えば、介護士・看護師として日本で働く場合、現場では日本語を使うわけであり、留学生を受け入れる日本企業も英語環境が整っているところばかりではない。留学1年目には体系的な日本語教育を受け、2年目に自分の専門領域に取りかかり、3年目に専門教育に編入していくようなオーストラリア方式を日本でも検討し、中国やASEAN諸国における日本語教育の現場を充実させるべきである。

【委員】

 日本で4年間学部教育を受けたにも関わらず日本語が全くできないというのはいかがなものか。英語だけの講義を受けるのであれば、米国に留学すればよいという話になる。留学する際、入口では日本語要件は課さず、英語の講義を受けることもできるが、カリキュラムの中で日本語を重視し、卒業時には日本語もほぼパーフェクトになっているという形にしないと、日本での就職に対するインセンティブ等も下がる。ただ、現在、外国語としての日本語教育課程は未発達なので、まずは日本語教師の養成等に本腰を入れて取り組む必要がある。
 産業界と連携した出口戦略については、今、グローバル30の事務局を務める東京大学と経団連との間で協議しているところである。8月初旬に経団連とグローバル30の関係大学との間で、留学生の就職その他について共に議論するシンポジウムを開催する予定である。

【委員】

 日本の大学のアジアへの関心は極めて低い。アジアと日本との経済的なつながりは深いが、アジアを知る教養プログラムもほとんどない。文部科学省には、アジアに関する知識を深め、関心を喚起するような教育を推奨するプログラムを設けていただき、アジアへの関心をもっと巻き起こしていただきたい。

【委員】

 留学生が卒業するまでに日本語検定2級程度の取得を課すことは可能だが、2級を取得しても、日本語の授業にはついていけず、また、日本語をあまり要求し過ぎると、漢字圏以外の学生は日本への留学が困難になると思う。日本語を課すこと自体には賛成だが、留学生30万人計画を達成するためには、英語で授業をやらざるを得ないのではないか。また、一部の私立では既に実施されていると思うが、複数の大学が共同で現地にサテライト校を設け、最初2年ほどは日本語教育を含め専門教育に入る前段階ぐらいまでは教え、その後日本に留学させる、或いは、逆に日本から学生を送り出すという枠組みができるとよいのではないか。

7.次回以降の日程

  • 次回の議事は、とりまとめの審議を予定。日程については後日調整。

お問合せ先

大臣官房国際課