資料6‐2 「日本型MYP学校」の学習指導要領試案

中島章夫

第1 教育課程編成の一般方針

1.各学校においては、初等基礎教育を終えた後、後期中等教育へ進む前の前期中等教育段階ともいうべきこの時期の青年教育の、それぞれの人生航路における決定的な重要性に鑑み、学校が提供する各教科等の指導を中心としつつ、一人ひとりの青年の自主的な学習への意欲を引き出し、学校や地域社会への参加の仕方を学ばせ、やがてこの国の社会や文化を構成する重要な一員としての資質を養うために、全教員が一致協力して次に掲げるような教育目標を実現して、青年それぞれの個性を最大限に発揮させて意欲あふれる人生開拓が行えるように、適切な教育課程を編成し指導を充実させるものとする。

2.日本型MYP学校で実現すべき教育目標としては、1. すべての青年が将来の社会的独立に向けて獲得すべき知的独立への道筋に関するもの、2. 獲得した知識や経験を社会的に活用するに際しての道筋に関するもの、3. ますます国際化の度合いを強める社会の各層で責任あるリーダーの役割を果たすための道筋に関するものに分けて、それぞれ次のようなものがある。これらの教育目標が効果的に実現されるためには、各教科等がそれぞれどのような役割を分担すべきかについて、学年・学期等あるいは共通テーマやプロジェクト毎に、担当するすべての教職員の間で共通の理解ができていることと、すべての教職員が参加して教育課程の開発を行うことが何よりも大切である。

(1)
ア、知識のある人(基礎的・基本的な知識及び技能を確実に身につける。)
イ、考える人(獲得した知識・技能を活用して批判的・創造的に思考できる。)
ウ、探求する人(自主的に学ぶことができ、生涯にわたって前向きに探究する。)
エ、挑戦する人(自分の信念を持ち、新しい状況に常に勇気をもって取り組む。)

(2)
ア、コミュニケーションできる人(周りに人たちと協力し合い、よい人間関係が作れる。)
イ、振り返ることができる人(思慮深く自分の学習や経験を振り返り、謙虚に人と対応する。)
ウ、心を開く人(自分の考えを率直に開陳し、人の意見に心を傾けて行動する。)
エ、バランスのある人(周りの人々のことに気を配り、自分と周囲との調和が図れる。)

(3)
ア、正義感のある人(誠実かつ正直で公平な考え方と道義感を持ち、社会に尽くそうとする。)
イ、思いやりのある人((他の人の気持ちや必要としていることに共感し、理解を示す。)
ウ、文化の多様性を理解できる人(自分の国の歴史や文化と同様、他の国の文化に心を開く。)
エ、国際社会の平和と発展に寄与できる人(国際社会の信頼を得て平和と発展に寄与する。)

3.日本型MYP学校で道徳教育を進めるに当たっては、上記2の 1.、2.、3.に示した教育目標を各教科等が協力して実現していくに際して、各学年の学期等ごとに、その間の各教科等の指導内容との関連を考慮して、学期重点目標や学年重点目標を立て、各教科等の担当教員が協力してその間に担当する教科等において、それらの目標に関してどのような指導展開を行う予定であるかの事前調整を行うことが望ましい。その際『中学校学習指導要領』第3章、第2 内容に示された1 主として自分自身に関すること、2 主として他の人とのかかわりに関すること、3 主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること、4 主として集団や社会とのかかわりに関すること に示された各徳目を参考にして、青年前期の生徒がこれから自らの責任で人生の開拓を始めるに当たって、豊かな人間形成を図れるよう各教員間の連携・協力が大切である。なお、「4 主として集団や社会とのかかわりに関すること」に示された徳目は、社会科や国語、特別活動などの教科等と関連を図りながら定着を図るよう特に注意する必要がある。

第2 内容等の取扱いに関する共通事項

1.各教科、道徳及び特別活動の内容に関する事項は、特にこの「学習指導要領試案」で示す場合を除き、『中学校学習指導要領』第2章以下第5章まで及びこれまで世界のMYP学校で積み上げられて来た経験等を参考にして、学校が主体的に編成するものとする。

2.複数の学校で小学校の課程を修了した生徒を、新たに中学校の系統的な教科の学習に導入するに際しては、学習に入る前に学習到達度等について入念な診断テストを行い、個々の生徒に最も適した指導戦略を樹立することによって、すべての生徒が自信をもって中等学校の学習を開始できるよう配慮することが特に大切である。

3.国語、数学、外国語等のいわゆる用具教科や系統性の特に強い教科については、基礎部分の完全習得学習に特に意を用い、生徒の個性に応じて指導時間・指導方法等を変えるなどを含めて万全の配慮をする必要がある。これらの教科の完全習得のために中学校の最初の一年ないし1年半は、全教員が集中して取り組む体制が必要がある。

4.生徒が各教科の学習に手掛かりをつかみ興味を示し始めたおよそ2年生の頃からは、教科によっては課題を与えて調査研究を行わせ、クラスで発表し討議させ、最終的にはレポートにまとめさせるなど手法を用いて、生徒の自主的な学習意欲を高めるとともに、調査・分析・発表・討議といった現代社会に欠かせない資質の育成に配慮することが望ましい。

5.家庭においても地域社会においても、また友人関係においても、自分と社会との幅広い関係について目を開くこの年代では、青年が地域社会を中心とした現実社会の中から自ら学びとる態度が求められる。教員はこのような青年の教育要求に対応して、教科等の学習の中に現実社会から学ぶプログラムを注意深く用意する必要がある。

6.人間と社会について系統的学習を始めるこの段階の教育では、特に国語や外国語などの教科で、優れた文学や伝記など青年の心を打つ作品を注意深く選定して与えることや、社会科ではわが国と世界の歴史について興味深く学習させるための工夫を特に入念に行う必要がある。このことに関連して、地理・歴史・公民を統合して指導する工夫が必要である。

7.国際化する現代および将来の社会において、外国語特に英語の学習は国際的なコミュニケーション能力の育成はもとより、比較文化・国際理解の上で欠かせない重要な要素として、特に2年生以降は使える英語、第2言語としての外国語として、カリキュラム編成上特に重視する必要がある。この点では、IBプログラムが積み上げた経験が特に参考になる。

8.地球環境の問題は今後の国際社会における最重要課題となった。人間社会の持続的発展のために世界の協力が要請されるこの分野の教育については、本来社会科のカリキュラムの中に系統的に位置付けられていなければならないが、MYP学校においては、特に入念な準備を行い社会科や理科の学習を中心に系統的な指導が行われる必要がある。

第3 時間割と授業時数

1.授業がおよそ50分を1単位として組み立てられることは、経験的にはうなずけることであるが、教科や指導の種類や内容によってこれを固定的に考えることは却って弊害となる可能性がある。調査活動や制作活動、校外活動や討議活動などあるいは教科横断的なプログラムなどについて、適当な学習時間を自由に設定することが必要である。

2.いわゆる時間割がおよそ50分を単位として年度初めに発表され、原則として学年の終わりまで教師と生徒との行動計画の指針として位置づけられるのが慣例になっていて、一面諸準備や教科間調整などに便利であるが、個性差が著しくまた学習による伸長変化が激しい中学校では、固定的な時間割の設定はこの時期の指導の徹底を阻害する恐れがある。

3.上記1及び2で述べた趣旨に従い、少なくとも学期単位で場合によっては1カ月単位で、個々の生徒の学習の習得状況を入念にチェックし、必要に応じて幾つかのグループごとに異なった時間割を採用するなどを含めて、生徒の学習の一層の充実と完全習得を目指して時間割編成を必要に応じて自由に見直すことが大切である。

4.このことの前提になるのは、各教科等全教員のあるいは各教科等の代表によるカリキュラム編成戦略会議(仮称)の設置であり、学年はじめや学期はじめなどにはその間の指導の重点目標の確認、各教科による連携体制の確認、学年共通のプログラムや全学プログラムの配置、地域や父母との連携の機会や地域との連携などについて確認する主体となる必要がある。

5.なお時間割の中には、各教科担当の教員があるいは教科横断的なプロジェクト研究のための教員が、週1時間程度は集まって指導方針や指導計画について検討を加えたり、指導上特に注意を要する生徒について指導方針の引き継ぎを行うなどの、「指導計画会議」とでもいうべきものをあらかじめ設置しておくことが望まれる。

第4 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項

1.第1学年の生徒特に入学間もないころの生徒や途中転入生などについて、学習計画を立てるためのガイダンスの機能を特に入念に行う必要がある。このためには、教務主任、学年主任等の経験者やベテラン教員を配置して、各教科やクラス担任とも連携してそれぞれの生徒の学習履歴を参考にしながら、家庭の父母とも相談して入念な指導を行うこととする。

2.青年の人間形成に係わる道徳教育や社会科その他の教科関連のプロジェクト、特別活動や総合的な学習の時間などは、これらの指導時間やプロジェクト参加の効果が、その後のその他の教科等の指導の中で有効に引き継がれてゆくように、中・長期のコーディネーションに当たる教員を配置することが望ましい。

3.この時期の生徒の指導については、従来、非行・いじめや異常行動の取り締まりといった生徒の行動の消極的部分に対する対応が中心であった。大多数の生徒の望ましい学習環境確保のためにこのことの大切さは論をまたないが、あらゆる可能性を秘めて伸び盛りのこの期の生徒に対して、長所を褒めて伸ばす積極的な生徒指導のシステムを全教員参加体制の下で作る必要がある。

4.中学校の課程を修了してこれに続く学校や家庭に進むに際して、一人ひとりの生徒に対して親切なカウンセリングの機能が確保できるように体制を整える必要がある。この際特に生徒が持っている性格上、学習上の長所をさらに伸ばすための学習計画を、次の学習段階との関連で示せるような情報を整理して対応することが望まれる。   

平成20年6月19日(木曜日)

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