資料2 第3回 配付資料4 国際教育協力懇談会のためのメモ 白石 隆

 「知のマーケット」ということばが国際教育協力推進のキーワードの一つとなっている。そうしたマーケットが成立するためには、「知」の供給が「供給者」の利益となるようなインセンティヴがなければならない。しかし、現実にはインセンティヴではなくディスインセンティヴの構造が制度として定着している。それは具体的には以下のような問題である。

 (1)留学生の受け入れは常に教員にとっては教務負担の増加を意味する。留学生の教育、特に論文指導には、日本人学生についてよりはるかに「手間」と時間がかかるからである。これが二つの問題をもたらす。その一つは、留学生教育がきわめて限られた特定の教員に集中することである。もう一つは、そのため、留学生の体系的な教育がむつかしいことである。
 なお付言しておけば、現在、日本の大学において、英語で、高度の大学院教育を、システマティックに、つまり、アメリカの一流大学のように300番台、400番台、600番台と体系的に編成されたカリキュラムに応じて学生を教育し、さらに学生それぞれに3人の委員会を編成して論文指導を行うことのできるところはほとんどない。こうした教育を行うには、水準の高い教員を、かなりのまとまった数、用意しなければならないからである。この問題に短期的に対処するには、外国で教育を受けた外国人のPh.D.を多数、雇用するしかない。

 (2)JICA(ジャイカ)専門家等で大学関係者が中長期的に派遣される場合、本来この人物が大学の所属機関で行うべき学務・事務は同じ機関所属スタッフの追加負担となる。

 (3)TLOに相当するようなサポートセンターを作るというのは一見良さそうに見えるが、実際にそういったセンターを運営し、スタッフの目利きをして「マーケット」に情報提供できる人材がどれほどいるか、考える必要がある。いまおそらくそれ以上に必要なことは、多くの研究者が「自己利益の追求」のため科研に応募するように、自己利益追求のため研究者がJICA(ジャイカ)、JBIC(ジェイビック)などのプロジェクトに応募するようなシステムの構築であり、そこでの鍵はプロジェクトの受注が研究者と大学(特に当該研究者の所属する機関)の両方に利益となるようにすることである。

お問合せ先

大臣官房国際課国際協力政策室

(大臣官房国際課国際協力政策室)