資料5 名古屋大学法政国際教育協力研究センターの活動の概要

2006年3月8日(国際教育協力懇談会)
名古屋大学法政国際教育協力研究センター
センター長 杉浦 一孝

1.前史

1.アジア太平洋地域法政研究教育事業基金(AP基金)の設立(1991年4月)

 名古屋大学法学部は、学部創立40周年を契機に、各界からの浄財をもとに学部としてアジア諸国の法・政治についての研究教育を開始(日本の欧米偏重・アジア軽視の法律学・政治学に対する反省)。

1.アジア諸国の法・政治についての共同研究の推進

 国際シンポジウム・ワークショップの開催(例;1992年7月の国際シンポジウム「環境と開発-その法的・政治的諸相」等)
 研究者の招聘・派遣
 アジア諸国の大学・研究機関との学術交流協定の締結(2005年11月8日現在、1994年の中国政法大学をはじめとする19大学・研究機関)
 ↓
 人的ネットワークの形成

2.アジア諸国からの留学生の受入体制の整備

 留学生に対する研究教育費の助成
 オリエンテーション・プログラム講義の実施
 チューター制度の強化等

 ※ 日本人の大学院生に対するアジア諸国の法・政治についての研究教育助成および学部生に対する一般的な教育助成

2.アジア法整備支援への取組みの準備

 アジア諸国、とくに市場経済化の途上にあるインドシナ三国(ベトナム、カンボジアおよびラオス)から、名古屋大学に西欧法の継受国である日本の経験の教授を含めて法整備支援の要請あり。名古屋大学法学部は、機関として法整備支援を行うことを決定(1998年度)。

1.日本ODA(政府開発援助)による法整備支援の実施

 国際協力事業団(JICA(ジャイカ))のベトナムに対する法整備支援の開始と法学部スタッフの参加(1996年)
 法学部の研究教育プロジェクト「アジア法整備支援」の準備とインドシナ三国(ベトナム、カンボジアおよびラオス)の法整備の現状の調査(1997年10月および1998年1月)

2.国際シンポジウム「アジアにおける社会変動と法整備」の開催(1998年9月)

 インドシナ三国(ベトナム、ラオスおよびカンボジア)とモンゴルの法律学者・法律実務家の招聘、法整備支援の要請内容の聞取りおよび合意事項
 ↓
 法学部スタッフの派遣と現地研修
 JICA(ジャイカ)プロジェクト・国別特設研修(ラオス)の開始(1999年2月)

 ※ 法務省法務総合研究所との共同研修
 法整備支援の一環(人材(法律家)養成への協力)としての留学生の受入の開始(1999年度)
 ※ 添付資料「法学部・法学研究科 国籍別在籍留学生数の推移」を参照。

2.名古屋大学法政国際教育協力研究センターの設置

1.アジア法整備支援およびその研究活動の体制の確立

 名古屋大学大学院法学研究科は、法学部創立50周年を契機に、各界からの浄財をもとにセンターを設置してアジア法整備支援およびその研究活動を展開するための体制を確立。

1.アジア法政情報交流センター(Center for Asian Legal Exchange)の設置(2000年4月)

 アジア諸国の法・政治ついての研究の推進、アジア諸国の法・政治に関する情報の収集・発信、アジア法整備支援のコーディネートの拠点として大学院法学研究科内にアジア法政情報交流センターを設置。
 ↓
 個別の法整備支援事業の実施

2.国際シンポジウム「『アジア法整備支援』と国際協力」の開催(2000年9月)

 法整備支援を実施している国際(金融)機関(国連開発計画、世界銀行、アジア開発銀行および欧州復興開発銀行)、外国の政府関係機関(ドイツ技術協力事業団、フランス司法省、スウェーデン国際開発協力庁、米国国際開発庁、日本法務省法務総合研究所およびJICA(ジャイカ))、大学・研究機関の代表の招聘と法整備支援のあり方についての討議
 ↓
 法整備支援に関する情報交換等のためのネットワークの構築

3.名古屋大学法政国際教育協力研究センター(CALE)の設置(2002年4月)

 アジア法政情報交流センターが名古屋大学の共同研究教育施設として法政国際教育協力研究センターに再編され、法政領域における国際(教育)協力のナショナル・センターとしての役割を果たすことも求められている。
 CALEの組織、任務および活動については、CALEパンフレットを参照。

2005年度の活動の一部
  • (1)人材(法律家)養成への協力
     2005年10月1日現在、大学院法学研究科・法学部の留学生の総数は121名、そのうち法整備支援事業の一環として受け入れている留学生数は62名。
  • (2)JICA(ジャイカ)プロジェクト・国別特設研修等の実施
     ラオスの裁判官、検察官および行政官を対象とした研修を実施し、本年度は商法教科書の作成を支援。
     イランの司法官の研修を実施(5年間の予定で昨年度から開始)。
     アドホックな研修の実施(モンゴルの司法関係者)
  • (3)世界銀行の委託調査の実施
     世界の司法制度の統計資料を収集・分析(日本を含む18カ国。URL;http://cale.nomolog.nagoya-u.ac.jp/en/activities/projects/worldbank(※名古屋大学法政国際教育協力研究センターウェブサイトへリンク)を参照)。
  • (4)日本の法令の英語翻訳ソフトの開発
     名古屋大学の大学院情報科学研究科等と共同で開発中。

2.法整備支援に関する研究活動の展開

 名古屋大学法政国際教育協力研究センターは、アジア法整備支援事業を行うとともに、その事業を学問的に支えるため、法整備支援という新しい法的現象を対象とする研究活動を展開。

1.科学研究費特定領域研究「アジア法整備支援一体制移行国に対する法整備支援のパラダイム構築-」の開始(2001年9月~2006年3月)

 他の大学の法律学者、法律実務家等の協力を得ながら、名古屋大学の法律学者・政治学者を中心に上記の研究プロジェクトへの取組みを開始。

 ※ 従来の法整備支援(例;米国の「法と開発」運動)の理論的・実践的総括、支援対象国の慣習など法規範以外の社会規範、その規範意識、これらにもとづいて形成された伝統的秩序、そしてその生成の歴史・文化的背景の検討を含む支援対象国の法の研究をとおして、法整備支援の「理念」「目標」「手法」および「評価」を明らかにすることが課題。
 この研究プロジェクトの一環として、2002年2月の国際シンポジウム「21世紀中央アジアにおける体制転換と法一法整備の現状と課題-」、同年6月のサテライト・フォーラム「体制移行にともなう法整備と法学教育一法政国際教育協力の課題-」(このフォーラムで、日本語による日本法の教育とそのためのサテライト・オフィス(ウズベキスタン、ベトナムおよびモンゴルの学術交流協定締結大学内)の設置を提起)など、多くのシンポジウム等を開催。

2.先端研究拠点事業「21世紀の『開発支援と法』研究」の開始(2004年4月~2006年3月)

 米国のウィスコンシン大学、コーネル大学およびスウェーデンのルンド大学と国際的な研究協力体制を築き、途上国の法制改革のための情報等を共有し、「法整備支援学」を構築することが目的(将来は、研究協力体制を拡大)。
 この研究プロジェクトの一環として、2004年10月に国際シンポジウム「開発における法の役割-法と開発;その理論と展望」を開催。

3.アジア研究教育拠点事業「アジア法整備支援のための実務・研究融合型比較法研究拠点」の開始(2005年9月~2010年3月)

 マッチングフォンドにもとづいて、ベトナム、中国およびモンゴルの主要な法学研究教育機関との研究交流をとおして、これら三国における法整備および高度な能力を有する研究・実務人材の育成を実現するための研究教育拠点を形成することが目的。

4.科研費補助金等の交付を受けたその他の研究活動

 日本学術振興会・ハンガリーとの共同研究「グローバル化の中の法典化」(2005年4月~2007年3月)
 基盤研究(A)「モンゴル国の土地法制に関する法社会学的研究」(2005年4月~2009年3月)
 基盤研究(B)「中央アジア諸国における立憲主義の『移植』とその現実態に関する研究」(2005年4月~2008年3月)
 その他の外部資金にもとづく研究活動

3.アジア法整備支援およびその研究活動の実例1-ウズベキスタン

1.ウズベキスタンに対する国際協力の開始(2000年1月)

 ウズベキスタンの法整備に関する調査団の派遣
 2000年8月、名古屋大学大学院法学研究科は、サマルカンド国立大学法学部、タシケント国立法科大学および世界経済外交大学と学術交流協定を締結。

 ※ 翌2001年度から、法整備支援事業の一環として、ウズベキスタンからの留学生の法学研究科博士課程前期課程への受け入れを開始。2005年10月1日現在、ウズベキスタンからの留学生の在籍者数16名。

2.学術交流=研究活動をとおしての法整備支援と日本法教育研究センターの開設

  • (1)2002年2月、中央アジア三国(ウズベキスタン、カザフスタンおよびキルギス共和国)の法律家の招聘(各国5ないし6名)と国際シンポ「21世紀中央アジアにおける体制転換と法一法整備の現状と課題-」の開催
    • ※ 科学研究費特定領域研究「アジア法整備支援」の最初の国際シンポジウムであり、ソ連解体後の上記3カ国(研究の空白地帯)の法整備の現状と課題について認識を共有することが課題。
  • (2)2002年9月、国際シンポジウム「法整備と伝統法」(タシケント)の開催
    • ※ 法整備を行うためには、その国の慣習(法)等の「伝統法」(法規範以外の社会規範とその規範意識をも含むものとして理解)を考慮に入れなければ、実効性のある法制度を構築することはできないという認識のもとに開催。このような課題認識は、私たちの法整備支援事業に一貫して存在。
  • (3)2003年9月、国際シンポジウム「伝統法とマハラ」(タシケント)の開催
    • ※  「伝統法」が実際に機能している場であり、自治機関的側面と行政機関的側面を有するマハラ(地域共同体)をどのように理論的に把握すべきかを課題として開催。
       当該シンポジウムの開催に向けてマハラ研究会を組織し、その後、この研究会でウズベキスタンの法制改革について検討を開始。現在は、その研究の成果のとりまとめの段階。
  • (4)2003年12月、セミナー「日本とウズベキスタンにおける司法改革」(名古屋)を開催
  • (5)2004年9月、国際シンポジウム「ウズベキスタンにおける司法改革」(タシケント)の開催
  • (6)2005年9月、国際シンポジウム「公法関係領域における法の支配とパラリーガル・プロフェッションズ」の開催
  • (7)2005年9月、名古屋大学日本法教育研究センターの開設(タシケント国立法科大学内)
    • ※ 日本語による日本法教育の実施、共同研究の推進、日本法の情報センターとして帰国留学生への新しい法情報の提供等

3.日本ODA(政府開発援助)による法整備支援

  • (1)2001年9月、JICA(ジャイカ)の要請により、名古屋大学大学院法学研究科と法務省法務総合研究所から今後の法整備支援の可能性を調査するため調査団を派遣。翌2002年より、5年間のプロジェクトで法務省法務総合研究所においてウズベキスタンの裁判官、検察官、司法省の職員等の研修が実施される。
    • ※ 2000年9月、2001年12月、名古屋大学大学院法学研究科は、別の機関から委託を受けて調査団を派遣し、報告書を提出。
  • (2)2003年9月より、名古屋大学法政国際教育協力研究センターがコーディネーターとして、JICA(ジャイカ)の短期専門家・長期専門家を派遣。
    • ※ ウズベキスタン民法典の改正についての調査研究を開始。日本の民法典および商法典をロシア語に翻訳し、ウズベキスタン民法典を日本語に翻訳する作業に着手(後者の作業は、2004年3月に終了し、邦訳を刊行)。
  • (3)2005年10月1日より、JICA(ジャイカ)のウズベキスタンに対する法整備支援プロジェクトが開始され、名古屋大学法政国際教育協力研究センターがコーディネーターとして法整備支援を実施。
    • ※ ウズベキスタンの中小企業の振興・個人事業者の法的保護を目標に、担保法制の改革、行政手続法の制定(行政機関による許認可権の恣意的な行使の排除等)、法令データーベースの改善等を内容とするプロジェクト

4.アジア法整備支援およびその研究活動の実例2-モンゴル

1.モンゴルに対する国際協力の開始(2000年4月)

 名古屋大学大学院法学研究科は、2000年4月にモンゴル国立大学法学部と学術交流協定を締結し、学生・教員の交換を開始。
 ※ 2005年10月1日現在、モンゴルからの留学生の在籍者数11名。

2.学術交流=研究活動をとおしての法整備支援
  • (1)2004年1月、科学研究費特定領域研究「アジア法整備支援」の一環としてモンゴル法研究会を設立し、モンゴルにとって緊急の課題である土地法制の改革を取り上げて研究を開始。
    • ※ テーマの特殊性を考慮して、法律学者だけでなく、文化人類学者、自然科学者にも研究会への参加を要請。
  • (2)2004年9月、国際シンポジウム「モンゴル国における土地法制の諸問題」(モンゴル)の開催。
  • (3)2005年9月、国際シンポジウム「モンゴル国における土地私有化の現状」(名古屋)の開催
    • ※ このシンポジウムを契機に、2005年度に採択された科学研究費・基盤研究(A)「モンゴル国の土地法制に関する法社会学的研究」(研究期間4年)にもとづいて、モンゴル国における初めての本格的な法社会学的調査による法改革支援をモンゴル国立大学、モンゴル国立法律センター、モンゴル土地管理局との共同研究として開始。
  • (4)2005年8月、名古屋大学日本法教育研究センター準備室の設置(モンゴル国立大学法学部内)
    • ※ 本年9月の開設にむけて日本語教育を開始。
       なお、ベトナムのハノイ法科大学にも名古屋大学日本法教育研究センターを開設するため取組みを開始。

 私たちは、このようなアジア法整備支援事業をとおして、日本の法律学・政治学を輸入型から情報発信型へと転換することを目標としている。

以上

法学部・法学研究科 国籍別在籍留学生数の推移

(( )(かっこ)はアジア法整備支援分野の留学生)

  1997年5月 1998年5月 1999年5月 1999年11月 2000年5月 2000年11月 2001年5月 2001年11月 2002年5月 2002年11月 2003年5月 2003年11月 2004年5月 2004年11月 2005年5月 2005年10月1日
中国 22 22 23 27 30 33 33 34 31 32 24 22 23 22 18 18
韓国 8 6 4 4 6 7 8 9 8 8 8 10 11 13 14 15
(ウズベキスタン)           (2) (2) (6) (7) (11) (10) (12) (13) (15) (13) 16
(カンボジア)     1 (4) (3) (8) (8) (10) (9) (11) (8) (12) (13) (15) (12) 16
(ベトナム) 2 2 3 (8) (9) (14) (14) (18) (16) (17) (12) (15) (11) (13) (10) 13
(モンゴル)       (1) (1) (2) (2) (2) (2) (4) (4) (8) (7) (10) (8) 11
(ラオス)       (2) (2) (5) (5) (7) (6) (7) (5) (6) (4) (5) (5) 6
アメリカ 2 1 3 3 3 2 1 1 1 1 1     2 4 0
台湾 2 3 4 4 5 4 4 4 4 3 4 5 4 3 3 4
タイ         1 1 2 2 3 3 3 3 2 3 3 4
インドネシア               1 1 1 2 2 2 3 2 1
フィリピン   1 1 1 1 1 1 1         2 2 2 2
イギリス                           1 2 3
ハンガリー                         1 1 2 2
オーストラリア         1 1   1 1 1 1 1 1 1 1 1
ギリシャ                   1 1 1 1 1 1 1
ミャンマー 1                         1 1 1
ブラジル                           1 1 1
マダガスカル                           1 1 1
ブルガリア                             1 1
ラトビア                             1 1
エジプト                             1 1
イタリア                           1 1 0
フランス 1 1 1             1 1          
ロシア     1 1 1 1 1 1                
マレーシア 1 1 1 1 1 1 1 1                
カナダ 1 1 2 2 1 1 1 1                
ドイツ   1                            
スウェーデン                           1   2
37 35 39 54 62 80 80 96 89 100 83 97 95 115 107 121
    2005年10月1日
1 中国 18
2 (カンボジア) 16
3 (ウズベキスタン) 16
4 韓国 15
5 (ベトナム) 13
6 (モンゴル) 11
7 (ラオス) 6
8 タイ 4
9 台湾 4
10 イギリス 3
11 スウェーデン 2
12 ハンガリー 2
13 フィリピン 2
14 インドネシア 1
15 エジプト 1
16 オーストラリア 1
17 ギリシャ 1
18 ブラジル 1
19 ブルガリア 1
20 マダガスカル 1
21 ミャンマー 1
22 ラトビア 1
23 アメリカ 0
24 イタリア 0
24カ国 121

 1999年10月留学生特別コース開設・JICA(ジャイカ)長期研修員受入開始
 2000年10月JDS支援無償留学生の受入開始

お問合せ先

高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

Get ADOBE READER

PDF形式のファイルを御覧いただく場合には、Adobe Acrobat Readerが必要な場合があります。
Adobe Acrobat Readerは開発元のWebページにて、無償でダウンロード可能です。

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)