原子力損害賠償紛争審査会(第59回) 議事録

1.日時

令和4年11月10日(木曜日)14時30分~16時30分

2.場所

文部科学省3F2特別会議室及びオンライン

3.議題

  1. 判決等の調査・分析について(最終報告)
  2. その他

4.出席者

委員

内田会長、樫見会長代理、明石委員、江口委員、織委員、鹿野委員、古笛委員、富田委員、中田委員、山本委員

大塚専門委員、日下部専門委員、末石専門委員、米村専門委員

文部科学省

井出文部科学副大臣、千原研究開発局長、林原子力損害賠償対策室長、松浦原子力損害賠償対策室室長代理、川口原子力損害賠償対策室次長

オブザーバー

【説明者】
古谷原子力損害賠償紛争和解仲介室(原子力損害賠償紛争解決センター)室長

5.議事録

【内田会長】  それでは、時間になりましたので、第59回原子力損害賠償紛争審査会を開催いたします。本日はお忙しいところ、お集まりいただきまして、ありがとうございます。また、オンラインで御参加の委員の方々もありがとうございます。
 初めに、本日は井出文部科学副大臣に御出席いただいておりますので、最初に御挨拶をいただきたいと思います。井出副大臣、よろしくお願いいたします。
 
 
 
【井出文部科学副大臣】  本日は先生方、お忙しいところ御出席をいただきまして、ありがとうございます。また、オンラインでの参加の先生方にも御礼を申し上げます。内田会長はじめ先生方におかれましては、これまでも賠償の状況、被災地の実態把握などに御尽力をいただきまして、心から感謝申し上げます。
 本日は中間指針の見直しの要否などの検討を行うために、専門委員の先生方が進めてくださった7件の確定判決の最終報告が行われると伺っております。最終報告に至るまでも大変な作業であったと思います。まず、そのことに心から敬意を表したいと思います。
 中間指針は平成23年の8月に策定をされまして、これまで4回、追補という形で変更がされてきました。震災から明日で11年と8か月ということでございますが、その11年8か月のうちの後半半分といいますか、この4回というものは、震災があってから前半の段階で追補はなされてきたものだろうと思います。
 また、私自身、大きいなと考えておりますのは、やはり様々な裁判所で判決が確定して、それを受けての御議論というものは今回が初めてであって、そこは1つ大きな、これまでの経過の中でも1つの節目になるんだろうというふうに思います。先生方には引き続き、賠償が迅速、そして公正に進むように、お力添えをいただきますよう、お願い申し上げまして、私からの挨拶とさせていただきます。
 すいません、この後、公務で外させていただきますが、どうぞ何とぞよろしくお願いいたします。今日はありがとうございます。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございました。
 
 
 
(井出文部科学副大臣退出)
 
 
 
【内田会長】  それでは、事務局から資料等の確認をお願いいたします。
 
 
 
【川口原子力損害賠償対策室次長】  事務局でございます。資料の確認をさせていただきます。本日は会場での対面とオンラインを組み合わせましたハイブリッド形式での開催となってございます。会場で参加されている委員につきましては、お手元の端末を、また、オンラインで参加されている委員につきましては、事前にお送りしているものを御覧いただければと思います。資料は議事次第に記載のとおりでございます。
 資料1、判決等の調査・分析について最終報告。資料2、中間指針見直しの要否の検討における論点。また、参考資料といたしまして、参考1、審査会の委員名簿を配付してございます。さらに参考2といたしまして、地方公共団体等からの主な要望事項についてでございます。こちらにつきましては、要望書本体について皆様には共有させていただいたところでもあり、この場での御説明は割愛させていただきますけれども、概要として参考に配付してございます。
 資料に不備等ございましたら、議事の途中でも結構でございますので、事務局までお声かけをいただければと思います。
 会場で参加されている委員につきましては、御発言の際にはお手元のマイクのボタンを押していただき、マイクにランプが点灯したことを確認いただいた後、必ずマイクに近づいて御発言いただければと思います。マイクから離れて御発言されますと、オンライン参加の委員などへ音声が聞こえない場合もございます。御留意いただければと存じます。発言が終わりましたらボタンを再度押していただき、ランプが消灯したことを確認いただければと思います。
 また、オンラインで御参加されている委員の皆様につきましては、御発言の際に端末の画面上にございます挙手ボタンを押していただけますと、会長などから指名させていただきます。御発言いただく際にはミュートの解除をお願いいたします。発言が終わりましたら、その都度ミュートに戻していただければと思います。
 なお、本日は過半数以上の委員の皆様に御出席いただいており、会議開催の要件を満たしておりますことをあらかじめ御報告させていただきます。
 以上でございます。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。
 それでは、議事に入りたいと思います。議題1は、判決等の調査・分析についての最終報告です。専門委員による判決等の調査・分析については、前回の審査会におきまして中間報告をいただいたところです。その後、各委員からいただいた御意見も踏まえ、さらなる調査・分析を進めていただきまして、今回、最終報告をいただくことになりましたので、審査会として聴取をしたいと思います。
 それでは、前回同様、専門委員を代表いたしまして、座長をお願いしております大塚専門委員から御説明をお願いいたします。
 
 
 
【大塚専門委員】  どうも恐れ入ります。大塚でございます。判決等の調査・分析についての最終報告について説明をさせていただきたいと思います。
 最高裁で確定いたしました7つの高裁判決を基礎といたしまして、判決の間の違いもある中で、各判決の趣旨とか判決の傾向を捉えるというのが今回留意した第1点でございます。それから第2点でございますけども、中間指針の示す目安との食い違いについて着目するということでございまして、以上2点を考慮しつつ分析・検討いたしました。
 さらに、従来の損害論との関係についても配慮するということも踏まえていきたいと考えておりました。
 最初に概要がございますけれども、概要ではなくて、その後の内容のほうを使って御説明をさせていただきたいと思います。50ページにございますように、最初の5行目から書いてある5つの矢羽根のところのポイントを中心に検討いたしましたので、これらについてこれから特に申し上げていきたいと思います。前回、中間報告で御説明しましたところから深掘りした点を中心に説明をさせていただきます。
 最初に、過酷避難状況による精神的損害ということで、避難を余儀なくされたことによる精神的損害の中で、この精神的損害を取り出して検討するというところでございます。13ページから始まっていますけれど、16ページのところが特に関係いたします。この13ページのところの避難を余儀なくされたことによる精神的損害につきましては、これを独立の損害項目とする判決と、そうでない判決が分かれておりましたが、3-2-1-3、16ページのところに挙げられた独立の損害項目とする3つの判決が避難を余儀なくされたこととして捉えるものは、ここにあります3つのものでございます。
 1つは被曝不安、2つ目が過酷避難、3つ目が生活基盤からの剥離の全部又は一部でございます。このうち丸3 の生活基盤からの剥離の全部又は一部につきましては、既に中間指針の避難継続慰謝料の中で考慮されておりますので、丸1 の被曝不安と丸2 の過酷避難のセットとなったもの、つまり、過酷避難状況に関する損害、つまり、ここで書いております放射線に関する情報が不足する中で、被曝の不安と今後の展開に関する見通しも示されない不安を抱きつつ、着の身着のまま取るものも取り敢えずの過酷な状況の中で避難を強いられたこと、これが避難を余儀されたことによる精神的損害の内実であるというふうに考えております。そして、これにつきましては、中間指針では考慮していたとは言い難いと考えられます。
 この過酷避難状況による精神的損害は、避難所を転々とする場合とか、少なくとも約2か月間にわたって一時立入を厳しく制限されたことなどでも生じていると考えられまして、避難生活に伴う日常生活阻害慰謝料の考慮要素と、時間的にも内容的にも重なり合う部分があると考えました。
 そのため、同じ損害の重複評価を避けるために、中間指針の第1期、つまり本件事故発生から6か月間における加算要素とすることが適切であるというふうに考えております。
 この対象といたしましては、17ページの下のほうにございますように、避難指示区域の居住者ということになります。具体的な慰謝料の金額につきましては、18ページのほうに行きますが、避難所等における避難生活の加算額が事故当初の2か月間程度であることが多いということも考慮しつつ考えていくことが合理的ではないかと考えられます。
 次に、3-2-2、故郷喪失・変容による精神的損害(生活基盤変容慰謝料)のほうに移っていきたいと思います。判決ではこれを認めるものが多いわけでございますけれども、中間指針につきましては、20ページにございますように、帰還困難区域を除いて、故郷の変容に対する慰謝料については、損害の実態が十分に想定・把握できていなかったために、審査会でも議論の対象になっていなかったと考えられます。
 生活基盤、故郷の「喪失」と「変容」の違いにつきましては、21ページに書いてあるとおりでございまして、変容にあっては、相当期間にわたって帰還が制限されたことによって、従前の生活基盤がかなりの程度毀損された状況、喪失のほうは長期間にわたって帰還が制限されたことによって、従前の生活基盤が著しく毀損された状況を意味するという違いがございます。喪失は具体的には帰還困難区域を考えていくということになると思われます。
 帰還困難区域につきましては、中間指針は、先ほど申しましたように故郷の喪失損害を考慮しておりまして、これを独立の損害項目として示していると考えられます。判決との関係では、21ページの下のところにありますように、避難を余儀なくされたことによる精神的損害に対する慰謝料も含めた慰謝料の総額として適正な規模となるかどうかという点からも検討が必要であると考えられます。
 次に、居住制限区域についてでございますけれども、帰還困難区域とは、従前の生活基盤がどれだけ変容・毀損したかという程度の違いに過ぎないと言うことができると考えられます。つまり、この生活基盤変容の慰謝料は、月額10万の避難生活に伴う損害とは性格が違うと考えられますので、帰還困難区域と同様に独立の損害項目とすることが適切であると考えられます。
 次に、避難指示解除準備区域についてでございますけれども、避難指示解除準備区域につきましても、避難指示の解除された時期が居住制限区域と同じ時期である区域も多いということ、さらに、居住制限区域のほうが別の自治体の避難指示解除準備区域よりも先に解除されるケースもあったということから、この避難指示解除準備区域につきましても、居住制限区域と同等に扱うことが合理的ではないかと考えられると思われます。
ということで、居住制限区域や避難指示解除準備区域についても、故郷喪失・変容損害を認めていくということを提案させていただきたいということでございます。
 その慰謝料額のそれぞれの算定方法でございますけれども、各判決が認めた金額から共通的な考え方とか目安を導き出すことは簡単ではないということでございまして、どう考えていくかの1例でございますが、各判決の認容額から日常生活阻害慰謝料等の金額を控除した額を参考にするということが考えられるのではないかと思っております。
 各判決の認容額の主なものとしては1,600万というものがございます。85か月間を日常生活阻害慰謝料の算定期間というふうに考えますと850万ということになり、さらに、過酷避難状況による精神的損害、先ほど2か月程度というものを申しましたが、これを引いた額が故郷喪失損害として考えられるものに当たるということが、参考として考えられるのではないかということでございます。
 次のポツの最後のほうに出ておりますように、第二次追補におきましては、実質的には帰還困難区域の故郷喪失損害を700万としていますので、それを基礎にして考えていくと、全体としては過去の裁判例の結果との間で齟齬をきたすものではないということにはなるということを参考として申し上げておきたいと思います。
 そのほかの居住制限区域とか避難指示解除準備区域の損害額については、判決を参考にしながら検討していくことが考えられると思います。
 さらに、緊急時避難準備区域はどうかという問題がございまして、これが23ページの下から書いてあるところでございます。これにつきましては、24ページの上のほうに行きますが、事故から約6か月後に全て解除されていますので、どう考えるかについてはなかなか悩ましいですけれども、一定の地域社会が残っていたとは考えられますが、他方で、解除後も生活基盤の毀損の回復に一定程度の期間を必要としているということがございますので、居住制限区域とか避難指示解除準備区域に準じて損害を類型化することも考えられるのではないかということを申し上げておきたいと思います。
 次に、3-2-3の自主的避難等による精神的損害のほうに移っていきたいと思います。これにつきましては、各判決が自主的避難等による精神的損害を認めておりますが、27ページのところにございますように、賠償期間とか賠償額については中間指針とは異なっており、かつ、判決の間でもばらばらの状況であるということがございます。
 そこで、28ページのほうに移っていただきまして、損害の類型化の考え方でございますけれども、中間指針は子供・妊婦とそれ以外の方を大きく分けて、放射線の感受性の違いなどからその取扱いを区別しております。損害の類型化の可否の検討に当たっても、この両者を区別して検討していきたいと思います。
 子供・妊婦以外の者に関しましては、中間指針は、28ページにございますように、丸1 水素爆発が発生したことなどから抱いた大量の放射性物質の放出による放射線被曝不安について、本件事故発生当初の時期まで、つまり平成23年4月22日頃までの間を賠償の対象となる損害の基礎としていますが、その後、生活圏内の空間放射線量とか被曝の影響等に関する情報がある程度入手できる状況での被曝不安については、損害の基礎としては認めておりません。
 その理由としましては、そこに書いてありますように、原発の状況とか放射線量に関する情報が徐々に公表され、こうした情報を基に避難区域の見直しが行われ、これによって政府による避難指示等の対象区域がおおむね確定したとみることができ、そのような状況下では放射線への感受性を子供・妊婦程に重視する必要はないと考えていたからでございます。
 しかし、各判決は平成23年4月22日に賠償すべき損害の基礎となる不安が解消したとは考えておりません。そこで、ここは中間指針と大きく食い違ってくることになります。
 そこで、どう考えていくべきかということでございますが、29ページのところでございますけれども、仙台高裁の生業と高松高裁の松山の判決が、賠償すべき損害の基礎となる不安について、2つのものを中心要素として考えております。1つは、「被曝線量及び健康被害に関する不安」でございまして、もう一つが「本件事故発生当初の時期以降も残存する後続事故に対する不安」でございます。
 この2つを中心要素として考えているということがございますので、これを踏まえて考えていきますと、子供・妊婦以外の者につきましては、低線量の場合に子供・妊婦程に放射線への感受性が高い可能性があることが一般には認識されていないということから、賠償の対象となる損害の基礎となるものは、「放射線被曝への恐怖・不安と残存する後続事故に対する不安と相まって抱く複合的な恐怖・不安」ではないかというふうに考えることができると思われます。この2つが複合的に集まった、複合された恐怖・不安というのがここでの賠償の対象となる損害の基礎になるというふうに考えることができると思われます。
 さて、そこで、この残存する後続事故に対する不安はいつ解消したと考えるのが合理的かということでございますけれども、これについては、平成23年12月16日に原子炉の冷温停止状態が確認されたとして発電所の事故そのものの収束が政令により宣言された時とすることが考えられると思われます。
 次に、損害項目ですけども、中間指針におきましては、自主的避難者については、生活費増加費用・日常生活阻害慰謝料・移動費用、それから滞在者につきましては、生活費増加費用・日常生活阻害慰謝料、これらが損害項目になるとして認めておりまして、判決における被曝不安による精神的損害はここに取り込まれていると考えることができると思われます。30ページのほうでございます。
 次に、算定額でございますけれども、31ページのほうですが、子供・妊婦以外の者の場合には、先ほど申しましたように残存する後続事故に対する不安と相まった複合的な不安として初めて賠償の対象になる損害の基礎になり得ると考えられまして、子供・妊婦の目安額を参考にするにしても、そのベースは大きく下回るというふうに考えられます。
 各判決の認容額が、子供・妊婦の場合の3分の1から2分の1程度であるということも参考にして算定するのが合理的ではないかと考えているところでございます。以上が子供・妊婦以外についてでございます。
 次に、子供・妊婦でございますけれども、これにつきましては、31ページの下にございますように、各判決と比較した場合に少なくとも平成23年12月末までの間は、中間指針と各判決の考え方に整合性は取れていると考えることができます。
 32ページのほうに行きますが、平成24年1月以降につきましては、各判決の間でも終期が分かれておりますが、中間指針の柔軟性を維持して、個別の事例又は類型ごとに一定の要件の下で賠償の対象とすることには相応の合理性が認められると考えております。
 次に、自主的避難等対象区域外の損害についての類型化の可否でございますけども、これにつきましては仙台高裁生業判決が唯一、この類型化を認めております。しかし、中間指針は自主的避難等対象区域として市町村単位で設定しておりまして、この区域を設定するに当たっては、原発からの距離、避難指示区域との近接性、政府等から公表された放射線量情報等を総合的に勘案しておりまして、これは引き続き合理性を有すると考えてよいのではないかと思っております。
 また、県南地域と丸森町につきましては、中間指針では個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められ得るとされておりまして、また、東京電力は子供・妊婦の場合には自主的避難等対象区域の半額を自主的に賠償しているということを考慮しますと、自主的避難等対象区域の拡大には慎重に対応すべきではないかと考えられます。
 次に33ページ、3-2-4に移ります。相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害でございます。いわゆる計画的避難区域に設定された地域の居住者につきましては、後で政府による避難指示が発出される基準、つまり1年間の積算線量が20ミリシーベルトに達するおそれに該当する地域に一定期間滞在していたという事実がございまして、その滞在期間中の放射線被曝による健康不安に関して別途考える必要があるといたしまして、検討したところでございます。
 これらの健康不安は、年間積算線量が20ミリシーベルトに達するおそれがあるとして、後で政府による避難指示が発出される状況下に一定期間滞在したということに基づく不安でございまして、後から問題になってきた事情によって不安が生ずるというものでございます。
 そこで、相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害として類型化することが適切かどうかということについて検討いたしました。この計画的避難区域につきましては、詳細は33ページの後半に書いてあるところですけども、実際の区域としては34ページの上に書いてある葛尾村、浪江町、飯舘村、川俣町と南相馬市の一部であって、(福島第一原子力発電所から半径)20キロの圏内の区域を除く地域でございます。特に飯舘村に関しましては、住民の大部分が避難を完了したのが平成23年の6月末だったということでございます。
これに関しましては、高裁判決7判決は扱っていません。係争中の後続訴訟において扱っておりまして、令和3年7月30日の郡山支部の判決をはじめとして、3つの判決、それから、37ページにありますADRセンターにおける申立て事例において、これを加算事由としたものがございます。
 中間指針のこれに対する対応は38ページの前半部分になりますけども、個別具体的な事情に応じて賠償の対象になり得るという位置づけでございます。
 そこで、3-2-4-3のところで、これについての要保護性の有無について検討したわけでございますけれども、後に政府による避難指示が発出される基準を超える相当量の放射線量が認められるという地域に、場合によっては数か月間という一定期間にわたって滞在したと認められる、これをどう考えるかということでございますけれども、安心できる生活空間を享受する利益が相当期間にわたって侵害されたという客観的利益の侵害が認められると考えられまして、この侵害から生ずる健康不安に基礎を置く精神的損害がここでの精神的損害となるというふうに考えられます。
 これにつきましては、自主的避難者・滞在者の損害と比較いたしますと、自主的避難者・滞在者の損害については、科学的に不適切とは言えない程度の社会的合理性を有する不安を基礎とする平穏生活権侵害があり、そこから損害が発生したと考えられるわけでございますけれども、この計画的避難区域の居住者につきましても、少なくとも科学的に不適切とは言えない程度の不安があるという点で、自主的避難等対象区域の避難者・滞在者と共通な面を持っています。
 さらに、そこでの放射線量は、39ページの一番上に書いてありますように、自主的避難等対象区域と比較して著しく高く、格段に深刻だったというふうに考えられますので、その健康不安を継続するものとして考えられるのではないかと思っております。
このように、相当線量地域健康不安につきましては、自主的避難等対象区域の滞在者が抱く不安を超えるものであり、少なくも法的保護に値する損害であろうと考えています。
 さて、この損害の終期でございますけれども、39ページの1つ目のポツ、さらに40ページの一番下のポツが関係いたしますが、福島県が平成23年12月に公表した県民健康調査「基本調査」におきまして、行動記録を基にした外部被曝線量の推計値からは、「放射線による健康影響があるとは考えにくい」という見解が発表されています。この調査の公表によって相当線量地域健康不安はある程度解消されたものと考えることには合理性があると考えております。
 さて、この慰謝料額の算定方法でございますけれども、41ページに移っておりますが、ここでの精神的損害の基礎となる健康不安は、避難生活に伴う日常生活阻害慰謝料と期間的に重なり合いを持っていることから、本件事故から平成23年12月までの間における避難生活に伴う精神的損害の加算要素とすることが適当であると考えております。
 次に移っていきたいと思います。3-2-5でございますけれども、42ページでございますが、総括基準で類型化されている精神的損害の増額要因でございますけれども、丸1 以降のものがあるわけですけども、特にここで取り上げるのは丸1 、丸2 、丸4 、丸5 、丸6 でございます。
要介護状態にあること等でございますが、このような事情がある場合に賠償額を増額することがADRの総括基準で決められていますが、判決を見てみますと、増額をしているものがあり、一方で一定の事情に基づいて増額することを否定する判決はないというふうに見ることができます。ということで、これらの事由が認められる場合には、避難生活が通常の避難者と比べて、その精神的苦痛が大きくなるということが一般的であると考えられます。
 そこで、該当するかどうかの認定あるいは程度の判定は比較的容易であるというふうに考えられるこれらにつきまして、指針において類型化することは検討に値すると考えているところでございます。
 具体的には、このア、イ、ウという3つの方法がありますが、個人的にはアが適切ではないかというふうに思っていますけども、この目安額を設定することが望ましいということを提案させていただいております。
 以上が主な論点ですけども、その他の論点について簡単に申し上げます。45ページのところにございますように、過失の帰責性につきましては、東京電力の故意又は過失ないし非難されるべき行為態様の有無・程度の慰謝料算定における扱いについて、判決には認めるものと認めないものがございまして、判断が分かれております。
 47ページのところの最後に行きますけれども、また、肯定する立場の判決においても具体的な慰謝料額の算定において、どのように反映されたかは明らかでない、さらに、肯定、否定の各判決の間で慰謝料の認容額に大きな差がないということを勘案いたしますと、慎重に対応することが求められるのではないかというふうに考えているところでございます。
 次、48ページの後続訴訟からの影響等でございます。これは確定している判決ではございません。先ほど計画的避難区域のところで一部の判決を参考にいたしましたけれども、それ以外につきましては現時点で留意すべきと認められるものまではないと考えております。
 次に49ページですけれども、既に確定した判決や和解済み案件等がある場合の留意点でございますが、仮に確定判決の認容額よりも見直し後の中間指針に定められた目安額としての慰謝料額のほうが高額であったとしても、確定判決の原告が既判力の効果として、東京電力に対して見直し額と認容額の差額を訴訟において請求することは、残念ながらできないということになる可能性が高いと思われます。
 もっとも、既判力につきましては、実体法上の権利関係が変更するものではないと考える訴訟法説が通説でございまして、その意味では債務者が見直し額と認容額との差額を任意弁済することは、非債弁済とみなされる可能性は低いと考えられます。
 また、任意弁済をした場合に、会社法に基づく取締役の任務懈怠責任を問われる可能性は低いものと考えております。
 次に、中間指針が見直されたとして、直接請求手続とかADRセンターで既に和解している案件についてどうなるかということですが、これにつきましては、清算条項が付された事案は限定的でございますので、先ほど申しました差額の請求ができなくなるという事態は生じないと考えています。
 ということで、50ページのほうに移りますけども、主にこの5つの点について検討させていただきました。
 最後に、中間指針が果たした役割と成果について一言申し上げておきます。中間指針は大多数の被害者の迅速な救済を促進し、紛争の深刻化、長期化を防ぐという役割を果たしてきたのではないかと思っております。今後の中間指針の見直しを含めた対応の要否等の検討をする際には、従来からの一貫性や継続性を重視して、現在の中間指針の構造を維持しつつ、新しく類型化された損害を取り込む努力、工夫が求められるのではないかと思っております。
 また、指針で類型化されたものだけが賠償する損害でないということは言うまでもないことでございまして、東京電力におかれましては、被害者からの賠償請求を真摯に受け止めて、誠実な対応をしていただくように求めたいと思います。
 最後に、審査会による検討結果が早急に取りまとめられて、被災地の復興や被害者の生活再建、心の復興に貢献することを心からお祈りしたいと思います。
以上でございます。
 
 
 
【内田会長】  大塚専門委員、どうもありがとうございました。大塚専門委員には中間指針の策定そのものに大変御尽力をいただいたわけですが、改めて専門委員として中間指針の見直しの要否の検討のために、確定判決の精緻な分析のためにも多大な御尽力をいただきました。ありがとうございます。
 それでは、本日は前回同様、青野専門委員は御出席がかなわなかったのですが、そのほかの専門委員の皆様には御出席をいただいております。そこで、質疑に先立ちまして、各専門委員から一言ずつ御発言をいただければと思います。
 まず、会場参加の専門委員からということで、米村専門委員からお願いいたします。
 
 
 
【米村専門委員】  専門委員を務めております、東京大学の米村です。
 今回の最終報告の詳細につきましては、ただいま大塚専門委員から御説明があったとおりですので、私からは幾つかの点に絞って、どのようなことを根拠に今回の最終報告に至ったのかという考え方の要点をかいつまんでお話しさせていただきたいと思います。
 1点目は、「避難を余儀なくされたことによる慰謝料」についてです。報告書の16ページ以下を御覧いただければと思います。通常の不法行為による損害賠償請求の運用においては、何かしら損害が発生した場合に、その損害に対応する賠償額を認めるということ以上に、「損害を受けることを余儀なくされたことによる慰謝料」という形で、さらに慰謝料額を積み増すというようなことは通常いたしておりません。
 ところが、今回の原発事故による避難というのは、通常の不法行為の場合、典型的には交通事故が想定されることが多いわけですが、そういった通常の不法行為の場面とは質的に異なるものがあると考えられたわけです。
 そのことは、16ページ以下に書かれている「過酷避難状況」という言葉に端的に表現されているわけですが、単に避難をせざるを得ない状況が生じた、従って、避難に伴う様々な財産的・精神的損害につき賠償を認めるというだけではなく、過酷避難状況がある中で、避難者の方々には様々な生活全般に関する御苦労がおありになったというところを捉えて、損害として認めるべきだという考え方が出てきたわけです。今回の本件の特殊性に配慮した慰謝料額の認定の仕方をすべきではないかということで、こういった判断に至ったというところです。それが1点目です。
 もう一つは、自主的避難者の賠償の問題です。自主的避難者の賠償に関しては、28ページ以下に詳細が記載されておりますので、そちらを御覧いただければと存じます。本来の中間指針の考え方としては、大塚専門委員からの御説明のとおり、必ずしも被曝不安だけをクローズアップしていたわけではなく、複合的な不安を根拠にしていたのではないかと考えられるのですが、しかし、一般的に自主的避難者に対する賠償に関しては、どうしても被曝不安というものが中心的な損害であると捉えられやすかったように思います。
 この問題に関して、裁判例の認定の仕方を踏まえつつ整理し直したというのが、今回の最終報告の基本的な位置付けではないかと考えております。最終的に賠償の根拠は複合的不安と表現されるわけですが、特に、後続事故への不安というものが重要な要素になっていると考えられ、その点が従来必ずしも明確化されていなかったところを今回改めて整理し直したのが重要な点ではないかと考えております。
 その結果として、従来よりも部分的には慰謝料額が増える扱いになる可能性が出てきております。特に、従来から妊婦・子供と妊婦・子供以外という2つの類型が存在していたわけですが、妊婦・子供以外の方の慰謝料額がやや低めに設定されていた印象は否めないところでして、こちらにつきまして、裁判例の動向を踏まえて、妊婦・子供の3分の1から2分の1程度の額を認定するのが適切ではないかという考え方を出させていただいたところです。
 長くなりましたが、私からは以上です。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございました。
 それでは、今度はオンライン参加の専門委員からお願いしたいと思いますが、まず、日下部専門委員、お願いできますでしょうか。
 
 
 
【日下部専門委員】  専門委員を務めさせていただきました日下部でございます。本日、最終報告をさせていただくことになりましたが、その内容につきましては大塚専門委員からの丁寧な御説明のとおりでございます。
 専門委員を務めていく中で、私がどういうことを考えてその作業に当たったのかということにつきましては、先般行われました中間報告の際に言及したとおりですので、ここでは割愛させていただこうと思います。
 その上で、最終報告に当たりまして、専門委員の打合せの最後の段階で、私が個人的に特に関心を持っていたことを4点言及させていただきたいと思います。
 1点目は、7つの高等裁判所の判決の事案の検討をしていく中で、そこで示された考え方を中間指針にどのように反映させていくことが適切なのかということを検討したわけですが、それは考え方によっては中間指針に大きな変更を加えることも考えられ得るところでして、しかし、そのようにいたしますと、これまでの賠償実務に対して混乱を与えるということも考えられるところです。そうした賠償実務に混乱を生じさせてしまうということですと、それは本末転倒という見方も十分あり得るところでございまして、そのような混乱を避けることも重要であるという観点から、従来の賠償実務との連続性や継続性を維持しつつ、高等裁判所の判決に現れていた考え方を適切な形で取り込むにはどのようにしたらよいのかということを検討してまいりました。
 2点目ですけれども、損害賠償額につきましてはその内訳を考えて検討してまいりましたけれども、全体として個々の被害者に対して与えられる損害賠償額が適切なものになっているのかということを、高等裁判所の判例の事案における賠償額との対比の中で考え、そこに乖離ができる限り生じないということを実現するにはどうしたらよいだろうかという包括的な視点での検討も必要であるというふうに考えておりました。
 それから3点目ですけれども、これは被災地域の視察に参りましたときに強く感じたことではありますが、損害賠償額の差が近隣住民の中で生じますと、それが地域の分断につながり、それがひいては被災地の復興の支障にもなり得るというように理解をしたところです。それゆえに、今回の最終報告の内容によって、さらにその地域の分断が生じ得るような原因になってはよろしくないということも考えておりました。そのような発想も念頭にありながらの最終報告になったものと理解しております。
 最後の4点目ですけれども、これはやや特別なケースの話になるかもしれませんが、判決が出て、訴訟が終了している事案における既判力の影響を気にかけていたものです。そのような既判力が生じているということで、東京電力において既にその賠償がなされている被害者に対する追加の支払いが拒絶されるということは適切ではない、そのような事態を憂慮はしておりました。
しかし、適切な考え方が周知され、理解されることで、そのような憂慮が杞憂に終わるものと信じております。
 私からの付言は以上でございます。ありがとうございました。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございました。
 それでは、末石専門委員、お願いいたします。
 
 
 
【末石専門委員】  専門委員の末石でございます。すいません、15分に少し一度途中退席させていただきたいと思いますので、手短にお話しさせていただきたいと思いますけれども、米村専門委員もおっしゃっておりましたけれども、やはりこれまで避難を余儀なくされた慰謝料、それから被曝不安ということにつきましては私もかなり頭を悩ませておりまして、日下部専門委員もおっしゃっておりましたけれども、これまでの賠償実務の取扱いとの、やはり少し今までとは取扱いが違うというところも出てきますので、ここをどういうふうに位置づけるか、これまでの高裁判決をどのように中間指針に落とし込むのかというところについては相当に頭を悩ませたというところでございます。
 ただ、今回は、そうですね、例えば避難を余儀なくされた慰謝料というところでは、これまでの賠償実務というところでは、被害者が入通院したことによる慰謝料以外に、入通院せざるを得なくなったことによる慰謝料というものは算定していなかったわけですけれども、こういったものを特殊性に鑑みて評価していく、中間指針の中に取り込んでいくということを賠償実務にそれほど影響を与えない形でできたのではないかなというふうに考えております。
 それから、最後のところですけれども、どうしても分かりにくくなってしまうところではありますけれども、最後の取りまとめる段階では、読んだ人に今回の報告が分かりやすく、少しでも分かりやすくなっているかどうかというところは、私も考えながら意見を述べさせていただいたというところでございます。
 本当に最後になりますけれども、中間指針というのは、もちろん先生方御存じのとおり、最大値を定めるものではございませんで、個別事情についてはADRの中で取り組まれていくということでございますので、今回の報告が中間指針に取り込まれた後も、これが最大値ではなくて、個別事情についてはADRの中で十分被害者の方の救済が図れるように、今後もADRを利用して、そのPR活動等を多くの方々が利用できるように努めていっていただければいいかなというふうに考えております。
 手短でございますが、以上でございます。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございました。ただいま各専門委員から最終報告の御説明をいただきました。大変中身の豊かな浩瀚な最終報告でございますけれども、大塚専門委員から大変要領よく要点をまとめていただき、また、各専門委員からも重要なポイントの補足をいただきましたので、かなり内容が明確になったのではないかと思います。
 それでは、指針の見直しの要否そのものについては後にまた審議をいたしますけれども、まず、ただいま大塚専門委員の御報告、そして各専門委員の御発言によって明らかにされました最終報告の内容につきまして、委員の皆様から御意見、御質問等ございましたら、お受けしたいと思います。どこからでも結構ですので、もしございましたら御発言をお願いいたします。中田委員、どうぞ。
 
 
 
【中田委員】  専門委員におかれましては、短期間に精力的な検討をしていただきまして、また、中間報告の後もそのときに出た意見を踏まえて、さらに検討を深めていただきまして、感謝申し上げます。2点御質問をしたいと思います。
 1点は、損害類型と対象区域の関係について、これはなかなかまとめるのは難しいと思ったんですけれども、今日の大塚専門委員の御説明は非常によく分かったんですが、おまとめになる際に、そのどっちから入っていくか、損害類型から行くのか、対象区域から行くのか、御議論あったと思うんですけど、そのあたりどんなことをお考えになったか、御苦労あったかということをお聞かせいただければと思います。これが1点です。
 もう1点は、最終報告の小さな時計数字、ローマ数字のⅱというところに、損害の類型化に当たっての論点というのがありまして、その第2パラグラフの……。
 
 
 
【内田会長】  すいません、何ページですか。
 
 
 
【中田委員】  小さなⅱですね。最初の概要のところです。あるいは中にも出ているのかもしれませんけれども。
 
 
 
【川口原子力損害賠償対策室次長】  全体のPDFでいうと7ページ目、左下に5という数字が書いてあるページになります。
 
 
 
【中田委員】  よろしいでしょうか。損害の類型化に当たっての論点というところの第2パラグラフの後半に、今回の御指摘は「実体法上の損害賠償や慰謝料額算定の新たな理論や発想を示唆することを何ら意図するものではない」と書いておられる、ここの御意図を知りたいんです。
 というのは、先ほど米村専門委員のほうから、通常の不法行為とはちょっと違っているところがあるということをおっしゃいましたし、あるいは、末石専門委員から賠償実務との取扱いの違いをどうするのかということを考えられたということなんですけれども、しかし、全体としては当然、不法行為法の枠組みの中にあるものであって、別に特別の不法行為法以外のことを出したものではないという理解でずっといたんですが、そういう理解でよろしいかどうか、以上2点お教えいただければと思います。
 
 
 
【内田会長】  それでは、大塚専門委員、お願いします。
 
 
 
【大塚専門委員】  ありがとうございます。全体的なことをお聞きいただいて、どうもありがとうございます。
 第1点でございますが、損害類型と対象区域とどちらら先に検討したのかということでございますけども、これは中間指針自体がまず損害類型で分けるものにもともとなっていますので、それに沿う形で今回、判決との関係を検討したということになります。ですので、どちらかといえば損害類型のほうから見て、その後、対象区域を見たということになっていると思います。
 ただ、あまりどちらから見るかによって結論が変わってくるということはないというふうに思っておりますが、中間指針の体系との関係ではそういう検討したことになるのではないかと考えているところでございます。
 それから、第2点でございますけれども、ここは先ほど最初に私が申し上げたことと若干関係しますが、伝統的な従来の損害論の在り方を大きく変更することはできるだけしないほうがいいのではないかという発想は一応持ってはいます。ただ、米村専門委員とか末石専門委員が言ってくださったことにもございましたように、原発事故の特殊性というのはあり、それは考慮して検討せざるを得ないということがございますので、その範囲では新しい検討はしているというつもりでございますが、新しい説を出すような感じで新理論とかを示唆するということを特に意図したわけではないということを申し上げておるつもりでございます。もちろん不法行為法の中で検討しているという趣旨でございます。
 それでお答えになっておりますでしょうか。
 
 
 
【内田会長】  中田委員、どうぞ。
 
 
 
【中田委員】  どうもありがとうございました。理解できました。
 
 
 
【内田会長】  それでは、米村専門委員、お願いします。
 
 
 
【米村専門委員】  今の中田委員の御質問の第2点につきまして、一言だけ補足をさせていただきたいと思います。
 最高裁判決の分析の際に、「事例判決」という表現を用いる場合があります。最高裁が当該事例に限って判断を加えていて、何ら一般的な法律論を展開したものではない、という分析をする際にそういう表現を用いるわけですけれども、今回の報告書はまさにそういった事例判決的なものだというのが私の理解です。今回の原発事故に起因する様々な被害、損害に対してどのような処理をするか、不法行為法の中で処理しているのは当然ですが、今回の事例でどのような処理にするのかについては述べているものの、今回の事例を超えて一般的にどうするかについては何ら述べていない、という趣旨で書かかれているものです。
 
 
 
【中田委員】  どうもありがとうございました。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。
 ほか何か御発言ありますでしょうか。富田委員、お願いします。
 
 
 
【富田委員】  非常に精緻な分析をしていただいて、どうもありがとうございます。私のほうからは、避難を余儀なくされた損害について、それをどういうふうに見るかというのは後でまた議論するとして、判決の分析に関して述べさせていただきます。御報告ですと、左袖の通し番号24のところで、東京高裁関係の判決が、これを独立の損害項目としては捉えていない判決ということで挙げられているわけですが、これらは、少なくとも文言的にも、特にこの過酷避難のことをあまり取り上げていない、類型化するほど取り上げて書いていないのではないかというふうには受け取っております。それは、もともとそういう類型を考えていないせいもあると思います。しかし、通し番号でいうと25のところでの分析に至りますと、東京高裁の各判決も事故当初の過酷避難に関する精神的苦痛を重視しているというふうに書いているんですが、私の受け取りとしては、これらの判決自体には、過酷避難に関しては、ほかの慰謝料考慮事由と並べているだけであって、特にこれを重視してはいないというふうに受け取っています。東京高裁関係の判決が、過酷避難の事由をそれほど重視していなくても、我々が、これを最終的に重視するのは何ら問題ないと思っていますが、東京高裁関係3つの判決の分析としては、これらは独立の慰謝料類型として重視はしていないのではないかと受け取っております。そのあたりについてはどのようにお考えになっているか、お伺いしたいと思います。
 
 
 
【内田会長】  では、大塚専門委員、お願いします。
 
 
 
【大塚専門委員】  ちょっとページ数がずれていて、やや困惑しているんですけども、東京高裁の判決は避難を余儀なくされた慰謝料を独立の損害項目としては捉えない判決として考えておりますので、少なくともそのように扱っております。
 
 
 
【内田会長】  報告書の15ページです。通しでなく、報告書そのもので。
 
 
 
【富田委員】  14、15ですね。左にあるのじゃ分からないわけですね。右側のページ数ですかね。
 
 
 
【大塚専門委員】  はい。独立した損害項目としては考えていない代表例として、東京高裁の判決について考えているところでございますが。過酷避難状況を精神的損害自体としては考慮はしているとは考えております。
 
 
 
【富田委員】  いや、私がお伺いしたいのは、独立の損害項目としていないだけでなく、過酷損害を文章的に文言的に捉えているかというと、あまり読み取れなかったように思ったんです。ご報告でも、東京高裁の判決から、過酷避難部分の損害賠償額を抽出することは困難であり、なおかつ賠償額については、3類型の判決と遜色ないということですから、要するに、2類型で考えても問題がないというふうに受け取ることもできるんじゃないかというふうに考えるわけですが、そのあたりについてはどのような御議論されたかなということです。
 
 
 
【大塚専門委員】  東京高裁のどの判決ですか。3つあるうちの。
 
 
 
【内田会長】  15ページの多分一番最後の行じゃないでしょうか。
 
 
 
【富田委員】  いや、東京高裁全体です。3つありますよね。
 
 
 
【内田会長】  ええ。3つについて、事故当初の精神的苦痛を慰謝料算定において重視していると考えられると書かれているけど、文言上は必ずしもそう読めないのではないかという御指摘だと思います。
 
 
 
【大塚専門委員】  それについては、どういうふうに読むかは、さらに検討する必要あるのかもしれませんけども、例えば、この前橋の判決ですと、どういうふうに過酷な避難状況があったかということを詳細に認定しておりますし、千葉の判決も、具体的な事実関係を詳細に認定していますので、重視はしているのではないかというふうに私どもとしては考えたということでございますけれども、委員がおっしゃるように、仮に重視していないというふうに考えるとしても、仙台高裁の2つの判決と高松高裁の松山は非常に重視していますので、判決全体の傾向としては重視はしているのではないかというふうには思っております。
 確かに東京高裁の3つの判決は、とにかく独立の項目とはしていないので、仙台高裁の2つの判決とか高松高裁の松山に比べると、避難の継続的な慰謝料の中に入れてしまっておりますので、先生がおっしゃるような読み方も出てくるかなとは思います。
 
 
 
【富田委員】  今の件は事実関係ではもちろん出ているわけです。ただ、個々の慰謝料認定のところでどんな要素を入れたかと普通書きますが、そこでは、そういう過酷避難という言葉はあまり使われていないんじゃないかということです。ただ、それとは別に、今後そういうことも前提にして議論すればいいかとは思っております。
 
 
 
【大塚専門委員】  過酷避難状況というのは、むしろ私どもがつくった言葉でして、それに当たるようなことが事実関係で詳細に認定されていることをそのように捉えたということでございますので、先生がおっしゃるようなことも読み方によってはあり得るかなというふうにはもちろん思います。
 
 
 
【富田委員】  分かりました。どうもありがとうございました。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございます。
 ほかに御発言ありますでしょうか。山本委員、その後、樫見委員でお願いいたします。まず、山本委員、お願いします。
 
 
 
【山本委員】  ありがとうございます。それでは、大変精緻な分析をしていただいて、私自身も読ませていただいて大変勉強になりました。
 基本的には書かれている内容に違和感は全くなかったのですが、ちょっと1点だけ御質問をさせていただきたいのは、42ページのあたりの総括基準との関係が述べられているところであります。最終的な結論といいますか、御報告の趣旨としては、丸1、丸2、丸4、丸5、丸6のあたりには新たに基準として加えるということでよいのではないかということで、そのこと自体異論はないのですけれども、加えられなかった、あるいは加えることが推奨されていない部分について、少しその理由をお伺いできればと思いました。
 具体的には、例えば丸3の重度または中程度の持病があることとか、丸7、家族の別離・二重生活等が生じたこと。あるいは丸8、避難所の移動回数が多かったこととか、このあたり書かれている趣旨からすると、恐らく該当するかどうかの認定あるいはその程度の判定というのが、必ずしも容易でないということなのかなというふうに推測はするところでありますが、このあたり、先般の被害者の方々からお話を伺った際に、避難所での生活等について、こういった事情というのを、家族と別々に避難せざるを得なかったとか、避難所を何回も何回も移らなければいけなかったとか、そういったことをかなり訴えられていたように記憶しておりますものですから、このあたりの理由について少し教えていただければと思います。以上です。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。では、大塚専門委員、お願いします。
 
 
 
【大塚専門委員】  重要なところを御指摘いただいてありがとうございます。御指摘したように、例えば丸3 の重度または中程度の持病があることというのは、指針に類型化することもあり得ると思っておりますが、まさに今おっしゃっていただいたように、何が重度で中程度か判断がつきかねるというところもあり、認定がかなり難しいのではないかというふうに考えて、類型化の中からは外させていただいたところでございます。
 丸7 、丸8 、丸9 についても同様に考えていまして、もちろん個別事情として考慮することは非常に重要だと思っていますが、なかなか類型化したときの認定が難しいのではないかとは考えております。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。山本委員の推測されたような回答かと思いますが、よろしいでしょうか。
 
 
 
【山本委員】  ありがとうございました。
 
 
 
【内田会長】  それでは、樫見委員、お願いします。
 
 
 
【樫見会長代理】  すみません、私も山本委員と同じ点を御質問させていただこうと思っておりましたので、全て言っていただいたので、私は結構でございます。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。
 それでは、明石委員、お願いします。
 
 
 
【明石委員】  明石でございます。私は専門ではないので素人的な質問をさせていただきたいんですが、まず、例えば43ページ等に、多くのところに相当量の放射線の線量という言葉が使われていて、場所によっては多少意味が違うということは分かるんですが、この相当線量というのは、まず確認として、かなり高い線量という意味を示しているものではなくて、ある種の、ある特定の線量という意味という解釈でいいのかどうかということが第1点。
 それから、左下の59ページ、右下でいうと49ページのところに、ADR、それから既に裁判が確定したものについても、ちょっと素人的に我々には分かりにくい文章なんですけれども、差があった場合にも、そこについてはまだ議論するというか、請求する可能性が残されているという解釈をするということでよろしいんでしょうか。大変素人的な質問で申し訳ありません。
 
 
 
(井出文部科学副大臣入室)
 
 
 
【内田会長】  場所は大丈夫ですか。
 
 
 
【大塚専門委員】  最初は43ページとおっしゃったんでしょうか。
 
 
 
【内田会長】  最初は通しの43で、冒頭の報告書の33ページ。相当量の線量地域というところです。それから、2番目は、通し番号の49ページですか、明石委員が今おっしゃったのは。
 
 
 
【明石委員】  3-2-4というところになると思います。
 
 
 
【内田会長】  3-2-4の通しでいうと48ページですよね。3-2-4-3というあたりが御指摘の場所なのですが。
 
 
 
【明石委員】  私のこのページで言いますと、多分これ、左の下に43って書いてあると思うんですが。右の下には33と書いてあるところだと。
 
 
 
【内田会長】  それは最初のほうですよね。
 
 
 
【明石委員】  最初のほうです。もう一つのところは、左の下でいうと59、右下が49と書いてあると思います。
 
 
 
【内田会長】  59ページ、報告書の49ページですね。
 
 
 
【川口原子力損害賠償対策室次長】  3-3-2というところの後続訴訟からの影響等のところのさらに下のところで3-3-2-2というのが報告本体の49ページ、全体通しページで59ページのほうにありますけれども、確定した判決や和解済み案件等がある場合の留意点の部分。
 
 
 
【明石委員】  そうです。
 
 
 
【川口原子力損害賠償対策室次長】  そこの(2)のところでございましょうか。
 
 
 
【明石委員】  そうです。そこ以降からずっと後について、ADRで既に支払いを受けている場合とか、そのあたりまでです。
 
 
 
【内田会長】  差額の請求ができなくなるという事態は生じないという意味ですかね。では、よろしくお願いします。
 
 
 
【大塚専門委員】  ありがとうございます。33ページの相当量の線量というのは、確かにここで初めて使った言葉で分かりにくくて恐縮でございますが、自主的避難対象区域のような低線量被曝とは違うという意味で相当量としたということを、まず一言申し上げておく必要があるかと思います。
 もう一つ申し上げておきたいのは、先ほど申しましたように、後から政府から避難指示が発出される基準に該当するとして指定した地域でして、年間の積算線量が20ミリシーベルトに達するおそれがある地域ということに後から指定されたということなので、それを踏まえて相当量の線量地域というふうに言っているという趣旨でございます。一応それでよろしいでしょうか。
 それから、もう一つの2つ目の点につきましては、既判力との関係で、実際に裁判所がどういうふうに判断するかに関しては、100%確実なこととしてはちょっとここでは申し上げられないので、既判力との関係で遮断される可能性が高いということを書いているわけでございますが、そうであっても、東京電力としては、実体法上の権利関係が変更されるわけではないということなので……。
 
 
 
【川口原子力損害賠償対策室次長】  大塚専門委員、明石委員の御質問は(1)のところではなく、(2)のほうの直接請求手続、ADRの場合の取扱いの部分での御質問でございます。
 
 
 
【大塚専門委員】  そうですか。こちらのほうに関しては、清算条項が付された事案は限定的なので、差額の請求ができなくなるということは生じないと。こちらのほうは差額が請求できるというふうに考えていただければということで書いております。
 
 
 
【内田会長】  補足ですが、清算条項というのは、和解のときに、以後一切請求しませんという条項を入れることも多いのですが、そうすると和解してしまうと後から追加で請求するということはできなくなります。しかし、そういう条項は入れていないので、追加的な損害があるとなれば、和解後もまた請求できるという、そういう趣旨かと思います。
 
 
 
【明石委員】  どうもありがとうございます。後半のほうはとてもよく分かりました。前半のほうで、相当線量20ミリシーベルトを超えるというのは、別にそれは言っている意味は分かります。ただ、線量によって何か精神的な影響というのはもちろん、今回も多く出ているのは百も承知の上なんですけど、線量によって何か影響が出る数字が区別されているかのようにちょっと聞こえたもので、そうではなくて、いずれにしても精神的な影響であるということの範囲で使われているのかどうかということを確認したんですが、今の先生のお話で、多分私の思っているとおりかなというふうに思いましたので、もうこれで結構でございます。ありがとうございました。素人的な質問で申し訳ありません。
 
 
 
【大塚専門委員】  先生がおっしゃっているのと同じつもりでございます。ただ、ここは後から政府の避難指示が発せられる基準に該当する地域として指定されたものでございますので、その限りで違う不安を与えたのではないかという、そういう趣旨でございまして、線量によるリスクを直接問題にしているというわけではなくて、後で指定されたというところをポイントとして判断しているつもりでございます。
 
 
 
【明石委員】  分かりました。どうもありがとうございます。
 
 
 
【内田会長】  専門委員の議論を、私もオブザーバーとして傍聴いたしましたが、明石先生が指摘されるであろうということを意識しながら、線量についてかなり意識的な議論が行われたように思います。蛇足ですが、一言補足をいたします。
 ほかに御発言ございませんでしょうか。特によろしいでしょうか。
 ありがとうございます。質疑については、では一応以上といたします。中間指針の見直しを含めた対応の要否につきまして、この審査会において検討を行うに当たって、専門委員の皆様には、賠償すべき損害の範囲や項目、あるいは金額等についてそれぞれ考え方が異なっている7つの判決について詳細な調査・分析をするという、大変困難かつ重要な任務に当たっていただきました。
 前回審査会において中間報告をいただいた後、さらなる調査・分析を深めていただいて、今回、最終報告ということになったわけですが、最終報告では各判決等に関する精緻な調査・分析が行われているだけではなく、中間指針の見直しの検討に向けて、どういう考え方を取るべきかについての御提言もいただいたと思います。これは今後の議論を進めていく上で大変参考になるものと考えております。
 本日御報告いただきました大塚専門委員をはじめ、日下部専門委員、米村専門委員、末石専門委員、そして本日は御出席がかないませんでしたけれども、青野専門委員の各専門委員の皆様には、この場をお借りして改めて、審査会を代表いたしまして感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。
 今後は審査会において、中間指針の見直しも含めた対応の要否について議論を進めていくということになりますが、各専門委員の皆様には、これまで精緻な調査・分析を行っていただいておりますので、その知見を、この後もぜひお借りできればと思います。そこで、今後の審査会にもオブザーバーとして御出席をいただくなど、必要に応じて御助言等をいただくことにしてはどうかと考えておりますけれども、そのように進めることについて、委員の皆様、御異議ありませんでしょうか。
 
(「異議なし」の声あり)
 
 ありがとうございます。それでは、そのように進めることとさせていただきます。
 以上で議題の(1)を終えまして、続いて議題の(2)その他でございますが、先ほど聴取いたしました判決等の調査・分析の最終報告を踏まえて、以後、本審査会として中間指針の見直しの要否の検討に向けた議論を行うことになります。先ほど申し上げましたとおりこの最終報告は、今後の議論を行う上で大変参考となるものであると考えております。このため、非常に大部の報告書ですので、審査会における議論をしやすくするために、最終報告の内容を基に検討すべき論点を整理した資料を作成していただくように、あらかじめ私から事務局にお願いをいたしました。当然ながらこの審査会での議論は、事務局作成の資料に拘束されるというものではありませんけれども、あくまで1つの整理の仕方として、この最終報告書を基につくられた論点の整理を使いつつ、今後の論点として、まずどのような論点について議論すべきか、その論点についてどのような方向性で議論をしていくべきか、ということについて御議論をいただきたいと思います。
 それでは、最終報告を踏まえた中間指針の見直しの要否の検討における論点について、事務局から説明をお願いいたします。
 
 
 
【松浦原子力損害賠償対策室室長代理】  それでは、資料2を御覧ください。内田会長からの御指示で取りまとめた、今後の論点に関する資料でございます。
 まず、ローマ数字のⅠ、これは最終報告の結論のところに記載されておりましたが、中間指針の見直しの形式については、中間指針の趣旨、役割、あるいは実績を踏まえまして、また最終報告で指摘されている損害については、これまで中間指針が賠償の対象として示してきているものと密接に関連しているということから、従来からの一貫性や継続性を重視し、現在の指針の構造を維持しつつ、第五次追補という形で検討しているということです。
 次に、ローマ数字Ⅱにいきまして、具体的な論点にまいります。まず、避難指示区域におきましては、(1)過酷避難状況による精神的損害ということで、論点としては、かぎ括弧の中にある過酷避難状況による精神的損害は、中間指針では考慮されているとは言い難いというふうに最終報告でも指摘されておりますとおりでして、これを新たに類型化する。そして、慰謝料額の算定の考え方を新たに示すということでよいか。
 過酷避難状況による精神的損害は、避難生活に伴う日常生活阻害慰謝料の考慮要素と、時間的にも内容的にも重なり合う部分を有するというふうに考えられておりますことから、同じ損害の重複を避けるために、独立の損害項目とするのではなく、加算要素とすることでよいかということです。
 次に(2)にいきまして、故郷喪失・変容による精神的損害。報告書でも指摘されているとおり、故郷の喪失については、少なくとも帰還困難区域に関しましては、既に中間指針で示されているというふうに言えますが、故郷の変容に対する慰謝料については、第四次追補の策定当時は生活基盤の変容による損害の実態が十分に想定・把握できていなかったことから、審査会でも議論の対象となっておらず、中間指針には示されていないというふうに考えまして、これをまず新たに類型化することでよいか。その場合、故郷喪失に対する慰謝料が独立の損害報告として示されていると考え、故郷変容に対する慰謝料についても同様に、独立の損害項目として検討してよいか。
 さらに故郷喪失変容に関する具体的な慰謝料額の算定に当たりましては、各判決との比較で適正な金額を算定するため、各判決の認容額から日常生活阻害慰謝料等の金額を控除した残額を参考にして検討すると、そういうことでよいか。
 (3)ですが、相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害。まず論点といたしましては、計画的避難区域に設定された地域の居住者につきましては、後に政府による避難指示が発出される基準、これは事故発生後1年間の積算線量が20ミリシーベルトに達するおそれと。これに該当する地域に一定期間滞在していた事実があり、安心できる生活空間を享受する利益が相当期間にわたって侵害されたことを認められ、この侵害から生ずる健康不安、これは法的保護に値する損害と考えることでよいかと。この相当線量地域健康不安というものは、自主的避難等対象区域の滞在者が抱く不安を超えるものとして、指針で類型化をしてよいか。
 (4)ですが、精神的損害の増額事由。総括基準で定められた増額事由のうち、ここにあります要介護状態、身体または精神の障害があること、これらの者の介護を恒常的に行ったこと、懐妊中であること及び乳幼児の世話を恒常的に行ったことにつきましては、これらの事由が認められる場合は、避難生活が通常の避難者と比べて精神的苦痛が大きくなることが一般的であるとして、該当するか否かの認定、あるいは程度の判定が比較容易であるということから、指針において類型化し、そのことによって直接請求手続において広く適用されることが期待されるというふうに考えられます。そのため、被害者に対して迅速かつ手続の負担が少ない形で賠償が行われることを第一に、指針で類型化を検討してよいか。
 次に、2.の自主的避難等による精神的損害ですが、まず(1)の子供・妊婦以外の者です。第一次追補では、賠償すべき期間については、本件事故当初の時期としていたことにつきまして、今回分析しました裁判例も踏まえまして、本件事故当初の時期以降に抱いた放射線被曝への恐怖・不安についても、自主的避難等対象区域のような比較的低線量の場合に、放射線への感受性が子供・妊婦と同じ程度に高い可能性があるとは一般に認識されていないことから、これだけでは賠償の対象となる損害の基礎にはなり得ないが、残存する後続事故に対する不安と相まって抱く相当程度の複合的な恐怖、不安を抱いたことには相当な理由があり、また、その危険を回避するために自主的避難行ったことについてもやむを得ないと考え、中間指針が示した賠償すべき損害の対象期間を変更するということでよいか。
 (2)子供・妊婦ですが、子供・妊婦につきましては、各判決と比較した場合、少なくとも中間指針が対象とする平成23年12月末までの賠償の考え方は、各判決と中間指針との考え方は整合が取れていくというふうに考えられる。
 また、平成24年1月以降については、各判決は終期において考え方が分かれていますが、中間指針は個別の事例、または類型ごとに一定の要件の下で賠償の対象とするということ等がされており、この考え方につきましては、相応の合理性が認められるというふうに考えられる。こういうことから、中間指針の見直しにつきましては、慎重に対応するということでよいか。
 (3)ですが、自主的避難等対象区域以外における精神的損害。これ、報告書でも指摘されておりましたとおり、区域外の住民に対する賠償を類型的に認めた判決は少ない、1つでした。一方で、市町村単位で一律に賠償を認めるため、原発からの距離、避難指示区域外近接性、政府等から公表された放射線量の情報等、これには生活圏、あるいはヨウ素剤の配布地域を含んでおります。こういったものを総合的に勘案して、自主的避難等対象区域を設定した中間指針の判断枠組みは引き続き合理的である。
 さらに県南地域及び宮城県丸森町につきましては、一律に賠償を認めるべき区域とはみなされず、個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められ得るとされ、実際東京電力は、子供・妊婦の場合には自主的避難等対象区域の半額を自主的に賠償していることを考慮すれば、自主的避難等対象区域の拡大については、慎重に対応をすることでよいか。
 最後にその他ですが、これまで論点として整備されたもの以外に、第五次追補に記載しておくべき論点がほかにあるかということであります。
 説明は以上です。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございます。
 それでは、ただいま事務局から説明がありました点について、御議論いただければと思います。今後の議論は、どういう論点を取り上げるか、そしてその論点についてどのような方向で議論するかということについて、今日どこまでコンセンサスが形成されるかを議論したいということでございます。
 進め方としては、まとめて行うという形ではなく、項目ごとに順番に議論を進めてまいりたいと思います。
 まず、最初にローマ数字Ⅰ、中間指針見直しの形式でございますが、具体的な論点として、第五次追補という形で検討してよいかという形で論点が提示されております。これは最終報告書の最後のところで述べられている論点を踏まえての論点整理ですが、この点について、まず御意見をいただければと思います。いかがでしょうか。中田委員、どうぞ。
 
 
 
【中田委員】  ありがとうございます。前回私、第五次追補ということがあり得るんじゃないかということを申し上げましたが、今回のこの形式についての御提案は、私は賛成でございます。その上で、当然のことですけれども、第五次追補の冒頭に、「はじめに」とか何とかそういう項目をつくって、そこでこの追補がなぜなされたのか、とりわけADRとの関係を確認する必要があると思います。
 これは先ほど、末石専門委員もおっしゃったことですけれども、今回の中間指針への取り込みの結果、ADRでは、それ以外のものはもう応じないんだというような態度を東京電力がお取りにならないような工夫、注意が必要だと思いますので、なぜ今回の追補がされたのか、そして中間指針とADRとの関係についても再度確認しておくということがよろしいんじゃないかと思います。
 以上です。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。重要な御指摘をいただきました。
 ほかに御発言ございますでしょうか。富田委員、お願いします。
 
 
 
【富田委員】  先ほど、総括基準との関係で話が出たときに、中間指針には、総括基準の中で一部確実なものを取り入れるという話がありました。それは非常に結構なんですけれども、そのことによってほかの要素について、東京電力のほうで、中間指針で取り上げなかったんだから、それは受け入れなくていいんだというような形にならないようにしていただきたいと思います。総括基準自体は残ると思いますので、中間指針に取り入れなかったものについての審査会の考え方、あるいは今後の進め方についても、明確にしていただきたいと思います。今、中田委員が言われたのはそういうところがあるんじゃないかと思いましたので、あらかじめそこもお願いしておきたいと思います。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。総括基準に限らずということですね、今の御発言は。ありがとうございます。
 ほかに御発言ございますでしょうか。どうぞ、お願いします。
 
 
 
【古笛委員】  私も、第五次追補という形式で検討をお願いできたらと思いました。先ほどの判例分析の御報告にも絡むんですけれども、やはり今回の見直しというものが、広く国民の皆さんにも受け入れていただけるようなものにならなくてはとも考えておりますので、専門委員の先生方が、従来の賠償の考え方との連続性とか継続性とか、それを踏まえた上で最高裁に至るまで裁判所がどういった点を示しているのかということを御検討いただいたので、そういったことをベースにすると、中間指針の第五次追補という形がよろしいのだろうと思いました。
 避難を余儀なくされたとか、それから、健康被害に対する不安とか、その言葉だけ抜き出すと、一般の不法行為の被害者の方も、これまで自分たちは救済の対象とならなかったにもかかわらず、原発では対象になるのかという誤解をされないように、なぜこれが今回の見直しに至ったのかというところなどもきちんと分析いただいたので、そのことを反映させていただけたらと思いました。
 
 
 
【内田会長】  古笛委員、どうもありがとうございました。
 ほかにはありませんでしょうか。
 それでは、おおむね第五次追補という形を取るということについて、御同意をいただけたと理解してよろしいでしょうか。ありがとうございます。
 それでは、次に、ローマ数字Ⅱ、具体的内容の1、避難指示区域の(1)ですが、過酷避難状況による精神的損害を新たに類型化し、慰謝料額算定の考え方を示すことでよいか。それから、独立の損害項目ではなく加算要素とすることとしてよいかという論点です。これは通しページでいうと27ページ、最終報告書のページでいうと17ページあたりで書かれている内容かと思います。
 この点について、御意見ございましたらお願いします。江口委員、どうぞ。
 
 
 
【江口委員】  私もこの避難を余儀なくされたというところの損害をどういうふうに扱うのかってすごく難しいなと思って、先ほど富田委員からもお話ありましたように、いわゆる仙台高裁等の3判決と東京高裁の3判決の捉え方というのが、やっぱり大分違うんじゃないかと思うんです。ただ、従来の損害賠償実務とは違って、やはり原発事故ということの重大性を考えると、仙台高裁のいわき判決ですか、最初のいわき判決が、結局わざわざ避難後の避難生活の継続による精神的苦痛とは区別し、居住地からの避難を余儀なくされたこと自体により原告らが被った損害というふうに、わざわざ自体により被った損害というのをいっているというところを見ると、これはやっぱり新たに類型化して、新たに算定の考え方を示すということはそのとおりなんだろうなと思う面もあるんです。
 ただそうすると、その場合に加算要素というふうに言われてしまうと、少なくともこのいわき判決の中では、継続によるのとは区別して、余儀なくされたこと自体と言っていることと、今度は何か齟齬してしまうような気がして。じゃあどうするのと、金額だけばかっと決めるのというと、それも難しいなというのは分かるんですけれども、完全に加算要素とすることとしてよいかと。ここでよいと決めてしまうと、2か月間分の加算要素しかならないよという言葉でちょっと決めてしまうというか、一応の合意ではありましょうけれどもね。決めてしまうということは、もう少し考えるべきところも、もし損害項目に立てるというのであれば、日常生活阻害慰謝料の金額等も十分考慮に入れるのはそのとおりなんで、そこをうまく入れつつ考えるというようなこともあっていいのではないかと思うんですけれども。
 多分考えている実質は一緒で、今の時点で皆さんが思っていらっしゃることが本当に一致しているのかなというところがちょっとあるんですけれども。
 
 
 
【内田会長】  ただいまの御指摘に対して、何か御意見ございますでしょうか。富田委員、どうぞ。
 
 
 
【富田委員】  そこは私も一番関心があるところです。今日の段階では、その中身をどうするというところまで、これは一番大きな問題ですので、詰めるということではなくて、これは重要論点として議論するということで、そこまで合意できればいいのではないかなというふうに思います。
 要するに、問題点としては、仙台のようにとらえれば、150万と大きく捉えている。東京高裁関係の判決では、具体的に金額としては捉えられないという懸隔がある中で、こちらが加算要素をするということは、審査会として独自の考えでいくということですので、その点は十分に意見交換しなければならないだろうと思います。ただ、私は直接被害者の話も聞き、原発事故の特殊性から見て、そういうことは十分にあるんじゃないかというふうには思っているので、これはそういう意味で十分に議論してやっていけばいいのではないかなと思います。私は、審査会として取り上げて、こういう類型を認めるということは十分にあるんではないかと考えております。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。
 ほかに今の点についての御発言ございますでしょうか。樫見委員ですか。
 
 
 
【川口原子力損害賠償対策室次長】  鹿野先生が手を挙げていらっしゃるんですが、この議論の続きかという問題がありますが。
 
 
 
【内田会長】  鹿野委員は、今の論点についての御発言ですか。
 
 
 
【鹿野委員】  はい。
 
 
 
【内田会長】  じゃあお願いします。
 
 
 
【鹿野委員】  避難を余儀なくされたことによる精神的損害につきまして、私は関心があって、前回も要望という形で発言させていただきました。先ほどから言及されているように、高裁判決を見ると、避難を余儀なくされたことによる精神的損害を独立の損害項目として立てているものとそうでないものとがあるところでございますが、前回、私は、これを別項目とするか、あるいは賠償額算定の際の考慮要素ないし加算要素とするかは、いずれの整理もあり得るとは思われるけれども、いずれにしても、従来の指針では十分に考慮されていなかったところの、避難を余儀なくされたことによる損害というものを類型化し、中間指針の中で、これに関する賠償の考え方を分かりやすい形で示す必要があるのではないかという趣旨の発言をさせていただきました。
 今回の最終報告では、大変御苦労されたと思うのですが、避難を余儀なくされたことによる損害の内実は何かということをまず検討され、先ほど御説明されたような意味での過酷な状況の中で避難を強いられたことによる精神的損害については、中間指針では十分に考慮されてはいなかったのではないかということで、これを類型化して、慰謝料額算定の考え方を示すという方向性が示されたものと理解しました。この点にまず賛成の意を表したいと思います。
 独立の項目とするかどうかということについては、この報告書では、内容的にも期間の上でも重なりがあり得るので、その調整という観点からも独立の損害項目ではなく加算要素とするということで、整理をされているところであります。そのあたりについては、さらに議論があるかもしれませんが、私自身は、明確に賠償の考え方を示すということが重要だと考えておりますので、独立の損害項目とすることにこだわるという趣旨ではありません。
 以上です。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。
 あと、ちょっと順番が正しいかどうか……。
 
 
 
【川口原子力損害賠償対策室次長】  恐らく織先生のほうが先だったと思います。
 
 
 
【内田会長】  織委員のほうから先にお願いいたします。
 
 
 
【織委員】  よろしいでしょうか。ありがとうございます。大塚委員をはじめ、専門委員の先生方が精緻な理論構成、分析をしていただいて、また、中間指針に対して適切な御助言をいただいたこと、本当に感謝したいと思います。
 避難を余儀なくされたこと、過酷な避難に関する精神的損害について加算要素として考えるということについて、私は基本的に全面賛成というふうな意見です。といいますのは、今までのところで、住民の方に、被害者の方にどうやって寄り添っていくのかということを、今までの中間指針の議論の中でさらに住民の方に、実際に現地調査をした成果も踏まえて、寄り添う気持ちというものを考えたときに、皆さんからよく過酷な避難のところについて様々な御意見いただきました。それをどうやって金銭的に換算するかというのはまた次のステップの問題になるかと思いますけれども、原則として、これを独立の損害要素とするのではなく、加算要素として考えていく。その状況に合った加算をしていくという方針を中間指針が示すということは、中間指針が今まで再三住民の方から要請があった、住民の心情に寄り添うというところにも沿った判断になるのではないかというふうに考えております。
 以上です。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。
 それでは、樫見委員、お願いします。
 
 
 
【樫見会長代理】  今回の報告書を読ませていただきまして、極めて詳細な御報告で、様々な点、配慮が行き届いているということで感謝申し上げます。
 今の点でございますが、私も報告書と同じ意見です。中間指針においては、自宅以外の生活を長期間余儀なくされ、あるいは屋内退避を余儀なくされた者が、行動の自由の制限等を余儀なくされた結果、正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛に対する慰謝料という形で、当初考えておりました。これは、やはり被災間もない状態で、やはり被災者の方々が遭った現実の内容がどのようになるのかということが分からない段階で、ある意味包括的、あるいは抽象的に表現された表現であったと思います。
 今回、私も被災した方々に直接お目にかかってお話を伺って、その中で特にやはり、家族の別離であったり、二重生活が生じたこと、避難所の移動回数が多かったこと、そういった様々な事情について具体的にお聞きしたので、この内容が当初予想していた被害、あるいはそれに見合った損害額であったかという点については、やはり報告書と同じように疑問を感じておりました。
 その点について、具体的な加算要素で挙げられる点でありますけれども、それが不安はあったということで、より被災者の皆さんの現実に即した加算要素が明らかにされたという点で、むしろ中間指針に即した形で加算要素とするという点に、私は賛成しております。
 以上です。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。
 ほかに御発言はありますでしょうか。大体よろしいでしょうか。
 独立の損害項目とするかどうかという点についていろいろ御議論もありましたけれども、判決と違って中間指針の場合は、今後行われる大量のADRを中心とした紛争解決の基準を出さないといけないというところがありますので、どうしても基準としては、1か月幾らとかという金額を示した基準を出さざるを得ないわけですが、これが独立の損害項目、慰謝料の独立の損害項目ですというふうにいうというのは、かなり強いスタンスを取るということになるのだと思います。そこまではしないで、裁量的な慰謝料の加算要素について基準を示すという形を取ってはどうかというのがここでの御提案かと思いますが、その限りでは、ほぼ御異論がなかったのではないかと思います。そのような理解でよろしいでしょうか。ありがとうございます。
 それでは、この点についてはそのような方向で、今後議論を進めたいと思います。
 続いて、(2)故郷喪失・変容による精神的損害、生活基盤の変容慰謝料という点についてですが、故郷の変容に対する慰謝料を新たに類型化し、慰謝料額算定の考え方を示すことでよいか。その場合、故郷の喪失に対する慰謝料と同様に、変容についても独立の損害項目として検討してよいかという論点。これは最終報告書ですと、通しページの31ページから32ページあたりですかね。報告書では21、22ページの論点かと思います。そして、続いて、故郷の喪失・変容に関する具体的な慰謝料額の算定に当たっては、各判決の認容額から日常生活阻害慰謝料等の金額を控除した残額を参考にして検討することでよいか。これは通しページで言いますと33ページあたりかと思います。報告書では23ページあたりという論点ですが、これにつきまして御意見をいただければと思います。いかがでしょうか。富田委員、お願いします。
 
 
 
【富田委員】  既に前回の第四次追補でも、基本的には認めていた内容ではありますし、私どもも現地で被災者の声を聞いて、帰還困難区域のみならず、他の地域でもやはりこの点は認めざるを得ない実情を見ておりますので、その他の地域についても認めていくという方向はよろしいかと思います。
 ただ、前回の第四次追補の説明ぶりが、非常に後からよく分かりづらいものではあったので、今回、そのあたりはできるだけシンプルに説明していく必要があるのではなかろうかと感じております。いずれにしても、各判決の内容と分析して、どのぐらいの額になるかということを見ていかなきゃいけないんだろうと思いますので、その整理をよろしくお願いしたいと思います。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。
 ほかに御意見ありますでしょうか。中田委員、どうぞ。
 
 
 
【中田委員】  ありがとうございます。私もこれを認める方向については賛成ですけれども、整理が必要だろうなと考えています。前回申し上げたことですけれども、故郷というのと生活基盤というのはちょっとずれがあるかもしれない。それから、喪失と変容との関係についても、幾つかの考え方があるような気がします。かつそれが、この場合について言うと、損害類型と対象区域とが非常に密接に関連しているという点が、議論をより複雑にしていると思います。第四次追補との関係を整理しながら、かつその概念を整理して、明快に示すことが必要であろうと思います。
 以上です。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。ごもっともな御指摘だと思います。
 ほかに御発言ございますでしょうか。
 こちらについては独立の損害項目として検討してよいかという形になっていますが、これは今までにない性質の損害が生じているので、それについて独立に算定するという、ちょっと最初の論点、過酷避難とは違った性質の慰謝料であるということかと思います。
 鹿野委員、どうぞお願いします。
 
 
 
【鹿野委員】  ありがとうございます。この点についても基本的に最終報告の考え方に賛成でございます。故郷喪失・変容による精神的損害については、最初の中間指針策定の当時には、被害の広がりと深刻さについて十分な予測が難しかったという事情から、特に帰還困難区域以外の区域の住民のこのような損害については、考え方が示されてこなかったということであると思います。この点、これまでに明らかになってきた被害の実態や、それを踏まえた高裁の判決を受けて、このような地域についても、これを新たな損害項目として類型化することを検討していただきたいということを前回申し上げたのですが、今回、最終報告の内容を伺い、あらためてこのような形で見直しを図っていくべきだと考えているところです。
 最終報告書では幾つかの区域について記載があって、帰還困難区域以外のうち、居住制限区域と避難指示解除準備区域については、故郷変容による精神的損害を独立の項目として賠償の考え方を示すという意見が明確に示されており、その点について大いに賛成するところです。ただ、それ以外の地域について、どこまで類型化が可能なのかという点、例えば、報告書に挙げられている緊急時避難準備区域や、それ以外の区域のどこまで類型化が可能なのかということについては、改めて少し議論することが必要かと考えているところです。
 以上です。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。御意見を踏まえて、今後議論していければと思います。
 ほかには特に御発言ございますでしょうか。よろしいでしょうか。
 あと各判決を見ると、賠償額をいろんな項目ごとに積み上げて賠償額を算定しているように見える判決も、最終的なトータルの額をにらみながら額を決めているように見えますので、この故郷喪失・変容の慰謝料額について検討する際も、各判決の認容額から日常生活阻害慰謝料額の金額を控除した残額を比較しながら見ていくというのが後半の御提案ですけれども、これについてはあまり御異論はないという理解でよろしいでしょうか。ありがとうございます。
 それでは、以上のような方向で議論を進めさせていただきたいと思います。
 続いて、ローマ数字Ⅱの(3)です。相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害についてですが、計画的避難区域の居住者について、相当量線量地域健康不安、これはちょっと新しい概念ですが、相当量線量地域健康不安は法的保護に値する損害と考え、同不安を基礎に置く精神的損害について、指針での類型化を検討してよいかという論点で、これは通し番号で言いますと49ページから51ページあたりですかね。報告書のページ数では39ページから41ページあたりかと思います。この点について御意見ございましたらお伺いしたいと思います。いかがでしょうか。
 これはちょっと新しい概念をつくって、慰謝料額の算定の基準にしようという議論ですけれども、そこに至るまでには専門委員の間で非常に精緻な議論があったように思います。
 では、古笛委員、お願いいたします。
 
 
 
【古笛委員】  先ほどお話しさせていただいたことと一部重なりますが、やはり単なる不安とか心配というものは法的保護には値しないけれども、今回分析していただいたとおり、相当線量地域健康不安というものは、これまでの単なる健康に対する不安というものとはかなり質的にも違うということで、新たに法的保護に値する損害とここで整理していただいた上で検討するということは、違和感なく受け入れられるだろうなと考えております。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。
 ほかにいかがでしょうか。
 単に相当線量だけではなく、健康に対する不安であるところにも、非常に重要な意味が込められているかと思います。
 大体このような方向で検討を進めるということでよろしいでしょうか。ありがとうございます。それでは、この点についても、この方向で今後の議論を進めたいと思います。
 続いて(4)ですが、精神的損害の増額事由、いわゆる総括基準を指針の中に書き込むという点ですが、資料記載の5つの事由について、これは資料の通しページでいいますと52ページですか。報告書では42ページから43ページにかけての部分ですが、総括基準の中の5つの事由について、指針での類型化を検討してよいかという論点について御意見を賜れればと思います。富田委員から最初にこの点に関わる重要な御指摘もいただいております。それを踏まえてのことですが、この5つを取り上げるということについて、いかがでしょうか。
 樫見委員、お願いします。
 
 
 
【樫見会長代理】  ありがとうございます。先ほど、過酷避難状況による精神的損害のところでちょっとお話ししたところなのですが、ここで総括基準で類型化されている9個の項目のうち、重度または中程度の持病があることですとか、それから、家族の別離、二重生活等が生じたこと、避難所の移動回数が多かったこと、これが外れております。これについては、やはり証明というか、問題があるということは、先ほど山本委員がおっしゃったんですが、やはりこれまでの東京電力の被災者に対する対応状況を考えてみますと、表現の仕方を少し工夫する必要があるかとは思います。つまり、客観的にある程度証明できることが必要かとは思いますが、やはり加算増額事由の中にこの項目を入れておきませんと不足ではないかなというふうに思っております。
 それから、その他のところで、総括基準では避難生活に適応が困難な客観的指標があって云々というような、どちらかというと一般条項的なものが入っているのですが、被災者の方からお聞きしたときには、やはり地域に根差して御商売をなさっていて、それを廃業せざるを得なかったという点も挙げられておりました。これを類型化の中に入れるのはともかくとして、何らかの形で、考慮条項を入れる必要があるのではないかなというふうには考えております。
 以上でございます。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。最後の点は、特に何か新たなものを追加するということではなくて、議論の中で反映させていけるという問題でしょうか。何か御提案を含むという趣旨ですか。
 
 
 
【樫見会長代理】  すみません、ちょっとおっしゃっていることがよく聞こえないのですが、申し訳ありません。
 
 
 
【内田会長】  最後におっしゃった点は、何か新たな御提案を含むという趣旨でしょうか。
 
 
 
【樫見会長代理】  新たな類型というのではないのですが、具体的なものが、ここでは要介護状態にあることというふうに幾つか入っているのですが、やはり一般条項的なものは、客観的な証明といいますか、それができるものであれば、一般条項的な項目も入れたほうがいいのではないかという趣旨です。
 例えばというので申し上げたのは、やはり廃業せざるを得なかったと。そうしますと、これ、ちょっと財産的な損害のほうにも入ってまいりますし、やや難しいところがあるのですが、被災者の方々からお話をお聞きした限りでは、若干その要素も、農業廃業とか、それをある程度何か考慮できればよいなという次第でございます。
 以上です。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。ちょっとこれはその論点について議論するときに、併せて議論をさせていただければと思います。
 ほかに。富田委員、どうぞ。
 
 
 
【富田委員】  項目を絞るという話は、先ほどありましたように、直接請求でできるだけ迅速に賠償を受けるということであったとは思います。しかし、東京電力のほうで、それ以外の項目についてもそれを考慮して支払うということであれば支払っていただければいいことですし、争いがあって合意できないなら、ADRに来ていただければいいということからすると、どういうふうに算定基準にするかは議論があるところですが、私は一応今日の段階で項目から落とすというよりは、やはりそれは中間指針に入れるのが困難かどうかを是非議論していただいて、その上でどうするかを議論いただければと思います。そういうことで、一応9項目について、中間指針に入れられるかどうかの議論は再度お願いしたいと思います。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。それでは、総括基準全般について、中間指針に入れられるかどうかの議論をすると。ただ、報告書の中では5つに絞っているということの意味を十分考慮しながら議論するということでしょうかね。
 米村専門委員、どうぞ。
 
 
 
【米村専門委員】  すみません、今の点に関連して、最終報告書の趣旨の補足を含めて手短に発言させていただきたいと思います。
 今回の御提案の中では、「重度または中程度の持病があること」という項目は、項目としては落としているわけですけれども、一部の重篤な内臓疾患その他の疾患に関しては、身体障害者の認定基準に適合して、障害者認定が受けられるというのが現在の厚生労働省の基準になっています。もちろん、ここでの「身体または精神の障害」というのは、必ずしも行政の認定基準と一致するという前提ではないと思いますが、いずれにせよ、疾患が全て入らないということではなく、一定の水準に達して、日常生活の支障を生じさせている疾患については、身体障害なり精神障害のほうで捕捉できるという前提で、この項目立てを行っていると私は理解しております。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。
 山本委員、何か御発言ありましたでしょうか。
 
 
 
【山本委員】  ありがとうございます。基本的には先ほど樫見委員、あるいは富田委員が言われたのと同趣旨のことを申し上げようと思いました。先ほどの私の質問についての、大塚先生からの御説明は、私自身も了解できたところです。ただ、現段階で完全に残りの項目を落としてしまうという決断まで、この段階でする必要は必ずしもないのではないか。もう少し詰めてみて、やっぱりなかなか一般的な基準は立てにくくて、個別の事情でADRで判断せざるを得ないということになれば、それはそういう方向でやらざるを得ないと思いますけれども、もう少し可能性を追求してみてもよいのではないかという印象を持っているということを申し上げようと思いました。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございました。
 それでは、大体同じような御意見をいただいていますので、今のような方向で、総括基準については、取りあえず取り上げると。議論の俎上には乗せて、そのうち指針にどこまで盛り込めるかということを、報告書を十分考慮しながら議論していくということでよろしいでしょうか。ありがとうございます。
 では、そのような方向で議論を進めることにいたします。
 続いて、算用数字2の(1)子供・妊婦以外の者というところですが、子供・妊婦以外の者について、損害の賠償をすべき期間を本件事故当初の時期としたことについて、裁判例を踏まえ、中間指針が示した賠償すべき損害の対象期間を変更するとしてよいか。これは通しページでいいますと39から41ページあたり、報告書では29ページから31ページあたりに書かれていることかと思います。
 この点について、御意見いただけますでしょうか。富田委員、どうぞ。
 
 
 
【富田委員】  特に問題はないかと思います。ぜひこういう方向で議論していただければと思っております。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。指針では子供・妊婦とそれ以外とでちょっと差が大きくなっておりますので、判決を参照して、その差を埋めるような方向での議論をするということかと思いますが、それでは、そのような方向で議論をするということでよろしいでしょうか。ありがとうございます。
 続きまして、(2)の子供・妊婦についてですが、こちらは資料記載のとおりの理由から、中間指針の見直しについては慎重に対応することでよいか。慎重に対応するというのは役所言葉ですが、基本的には指針を維持するということかと思いますけれども、そのような方向でよいかどうか、この点についていかがでしょうか。
 その理由について、報告書の中に十分書き込まれてはおりますので、それなりに説明はついているかと思いますが、特に御異論はございませんでしょうか。よろしいでしょうか。ありがとうございます。
 それでは、そのような方向で議論することにいたします。
 続いて、(3)自主的避難対象区域以外における精神的損害についてでございます。これも資料記載のとおりの理由から、自主的避難等対象区域の拡大については慎重に対応していくということでよいか。基本的には指針を維持するということでよいかという点について、御意見をいただければと思います。県南地域とか丸森町が具体的には問題となっていた課題、論点ですけれども、御意見ございますでしょうか。
 特に御異論はありませんでしょうか。議論の非常にあるところではございますけれども、報告書に書かれている理由はそれなりに納得できるというふうに理解してよろしいでしょうか。ありがとうございます。
 それでは、そういう方向で議論を進めることにいたします。
 それから、最後3ですが、その他。これは通しページでいいますと55ページ(報告の45ページ)以下ですが、その他の論点について、第五次追補に記載しておくべき論点がほかにあるかという点について御意見いただけますでしょうか。樫見委員、どうぞ。
 
 
 
【樫見会長代理】  論点とは言い難いのですが、先ほど冒頭の第五次追補のところで入れるべきというふうにおっしゃった点、やはり冒頭だけではなくて、その他のところできちんと書くべきではないかというので意見を申し上げたいと思います。
 この中間指針については、2011年の8月の指針では、中間指針とされなかったものが直ちに賠償の対象とはならないというものではなくて、個別的な事情に応じて、相当因果関係のある損害と認められることがあり得るという点、この10年以上の間、東京電力が必ずしもそれに沿った対応をしてこなかったということが、再三再四、この審査会でも言われてきたものであるかと思います。そういった意味で、再度、中間指針の機能とその限界があることを踏まえて、やはり東電の対応を、中間指針が賠償の上限ではないということを改めて指針の中にきちんと盛り込んでいただきたいなという要望でございます。
 以上です。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。これは皆さん、誰も内容的には御異論のないことかと思いますが、それが東京電力に十分伝わるようにするにはどうすればよいかということをまた検討した上で、どのように書き込むかを考えていきたいと思います。いろいろお知恵をお借りできればと思います。
 ほかにその他の論点につきまして、御発言ありますでしょうか。大体最終報告案を基に事務局で作成してくれた論点整理で、論点は一応尽きていると判断してよろしいでしょうか。ありがとうございます。
 それでは、そのような方向で議論していくことにいたします。
 一通り各項目について議論をいたしましたけれども、このほかちょっと言い忘れたという追加の御意見とか、あるいは、ほかの観点からの御意見がありましたらいただければと思いますが、何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。
 それでは、最後に一言申し上げます。これまでの御議論を踏まえますと、具体的な中身はこれから議論するとして、何らかの形で中間指針を見直し、第五次追補を策定するという方針について、委員間で共通の認識が得られたというふうに理解をいたしました。また、その具体的内容につきましても、論点ごとに多くの御意見をいただきましたので、これを踏まえて今後の論点整理をし、審議が進められるようにしていきたいと思います。
 本日の議論を踏まえまして、次回の審査会におきましては、中間指針第五次追補策定に向けて、さらに御議論を深めていただくというようにしたいと思います。事務局におかれましては、本日いただいた各委員からの御意見を踏まえまして、新たに類型化すべき損害の考え方について、具体的な論点の整理をするようにお願いいたします。よろしくお願いします。
 以上で、議題の(2)のその他が終わりまして、これで一応本日の議事は終了ですが、最後に何か御発言ございますでしょうか。よろしいでしょうか。
 それでは、最後に事務局から連絡事項をお願いいたします。
 
 
 
【川口原子力損害賠償対策室次長】  事務局でございます。
 次回、第60回審査会の開催につきましては、改めて御連絡をさせていただきたいと思います。
 また、本日の議事録につきましては、事務局でたたき台を作成し、委員の皆様に御確認の上、準備が整い次第、ホームページへ掲載させていただきたいと思います。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。
 それでは、本日は、長時間にわたって大変熱心な御議論をいただき、ありがとうございました。本日はこれにて閉会をいたします。どうもありがとうございました。
 
―― 了 ――

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