原子力損害賠償紛争審査会(第58回) 議事録

1.日時

令和4年9月26日(月曜日)13時00分~15時00分

2.場所

文部科学省15F特別会議室及びオンライン

3.議題

  1. 原子力損害賠償紛争審査会による現地視察結果について
  2. 地方自治体等からの主な要望事項について
  3. 判決等の調査・分析について(中間報告)
  4. その他

4.出席者

委員

内田会長、樫見会長代理、明石委員、江口委員、織委員、鹿野委員、古笛委員、富田委員、中田委員

大塚専門委員、日下部専門委員、末石専門委員、米村専門委員

文部科学省

井出文部科学副大臣、千原研究開発局長、林原子力損害賠償対策室長、松浦原子力損害賠償対策室室長代理、川口原子力損害賠償対策室次長

オブザーバー

【説明者】
古谷原子力損害賠償紛争和解仲介室(原子力損害賠償紛争解決センター)室長

5.議事録

【内田会長】  それでは、時間になりましたので、第58回原子力損害賠償紛争審査会を開催いたします。
 本日はお忙しいところ、お集まりいただきまして、ありがとうございます。また、オンラインで御参加の委員の皆様もありがとうございます。
 初めに、本日はオンラインで井出文部科学副大臣に御出席をいただいておりますので、御挨拶をいただきたいと思います。
 井出副大臣、どうぞよろしくお願いいたします。
 
 
 
【井出文部科学副大臣】  皆さん、こんにちは。8月に文部科学副大臣を拝命した井出庸生と申します。
 本日は御多忙の中、御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。
 本日、私、出張のため、オンラインでの御挨拶となる失礼をまずお詫び申し上げます。
 内田会長をはじめ、先生方にはこれまで賠償の状況や被災地の実態の把握など、被害者の方々が被った損害の賠償が迅速、公平かつ適正に進むよう御尽力をいただき、心から感謝を申し上げます。
 特に、先月29日と30日、福島市、大熊町、浪江町、葛尾村を御視察いただき、被害者の方々の声に耳を傾け、また意見交換をしていただくなど、精力的な活動をしていただき、心から感謝を申し上げます。
 本日は、その現地視察の結果などに関する報告もあると伺っています。御視察で得た主な御意見、私も少し拝見しました。中間指針の見直しですとか、また、損害賠償区域の区分や訴訟を起こした被害者とそうでない被害者の方々、また、業種などによるいわゆる賠償にかかる被害者の方々の分断、こうしたものへの御懸念の声があったと承知をしております。
 私のもとにも今月13日に福島県原子力損害対策協議会の方々が来られまして、御要望をいただきました。先生方が既に進めてくださっている確定判決の調査・分析などをさらに進めて、中間指針の見直しを含めた適切な対応を取っていただきたいですとか、また、ALPS処理水の取扱いについても改めて地元としての強い御懸念が示されたところです。
 中間指針の見直しの要否などの検討のために、7つの確定判決を調査・分析していただいております専門委員の先生方にも今日は御出席をいただいて、その中間報告があると伺っております。
 損害の賠償が迅速、公平かつ適正に進むよう、先生方には引き続き、中立かつ公正なお立場から御議論をいただきますようお願い申し上げまして私からの御挨拶とさせていただきます。本日、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございました。
 ここで井出副大臣は所用のため御退席されます。どうもありがとうございました。
 
 
 
【井出文部科学副大臣】  どうもありがとうございました。
 
 
 
(井出文部科学副大臣退出)
 
 
 
【内田会長】  続きまして、事務局から報告事項があるとのことですのでお願いいたします。それに続いて資料等の確認も一緒にお願いいたします。
 
 
 
【川口原子力損害賠償対策室次長】  事務局でございます。事務局から1点、前回審査会以降の事務局の人事異動について御報告いたします。
 研究開発局長に千原が着任してございます。
 
 
 
【千原研究開発局長】  9月1日で着任いたしました千原でございます。先生方、どうぞよろしくお願いいたします。
 
 
 
【川口原子力損害賠償対策室次長】  続きまして、資料の確認をさせていただきます。本日は会場での対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド形式での開催となってございます。会場で参加されている委員につきましてはお手元の端末を、また、オンラインで参加されている委員につきましては、事前にお送りしているものを御覧ください。
 資料は議事次第に記載のとおりでございますが、資料に不備等ございましたら、議事の途中でも結構でございますので、事務局までお声がけください。
 会場で参加されている委員につきましては、御発言の際にお手元のマイクのボタンを押していただき、マイクにランプが点灯したことを確認した後、必ずマイクに近づいて御発言いただきますようお願いいたします。マイクから離れて御発言をされてしまいますと、オンライン参加の委員などへ音声が聞こえない場合がございますので、御留意いただければと存じます。発言が終わりましたらボタンを再度押していただき、ランプが消灯したことを確認いただければと思います。
 また、オンラインで参加されている方につきましては、御発言の際には、端末の画面上にございます挙手のボタンを押していただきますと、会長などから御指名をさせていただきます。御発言いただく際にはミュートの解除をお願いいたします。発言が終わりましたら、その都度ミュートに戻していただければと思います。
 なお、本日は過半数以上の委員の皆様に御出席いただいており、会議開催の要件を満たしておりますことをあらかじめ御報告させていただきます。
 また、織委員におかれましては、14時頃退席予定である旨お伺いしてございますので、あらかじめ御承知おきいただければと存じます。
 事務局からは以上でございます。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。
 それでは、議事に入ります。まず、議題の1と議題の2については、続けて御説明をいただいて、その後、まとめて御意見、御質問等をいただきたいと思います。
 まず議題1は、「原子力損害賠償紛争審査会による現地視察結果について」でございます。事務局から御説明をお願いいたします。
 
 
 
【川口原子力損害賠償対策室次長】  事務局でございます。資料、全体のPDFですと3ページ目、左下に1と書いてある資料1でございます。「原子力損害賠償紛争審査会による現地視察結果について」という題名の資料になります。こちらに基づきまして説明をさせていただきます。
 1ポツの「日程」にございますとおり、令和4年8月29日及び30日で現地視察を行ったところでございます。
 2ポツの「目的」にございますとおり、中間指針の見直しを含めた対応の要否の検討に当たりまして、被害者の意見を聴取すること、そして中間指針等に基づく賠償の実施状況を確認するため、被災地域の現場を視察すること、この2点を目的として実施したものでございます。
 3ポツの「視察委員等」のところでございますが、一部のみの参加の委員等も含めまして、委員からは計8名、専門委員からも計3名御参加をいただいたというところでございます。
 4ポツの「視察行程」について御説明いたします。まず8月29日、月曜日でございますが、福島市におきまして、被害者との意見交換、自主的避難等対象区域内外の意見交換を行ったところでございます。そして北沢又団地の視察。
 大熊町に入りまして、大野駅周辺、大熊インキュベーションセンターなどの視察、そして、大熊町役場におきまして、吉田町長、吉岡議長等との意見交換を行ったところでございます。その後、被害者との意見交換、避難指示等対象区域の丸1 ということで、1回目でございます。
 ページ変わりまして、8月30日、火曜日でございます。まず浪江町に入りまして、帰還困難区域、特定復興再生拠点区域の外になります、そこの施設、例えばここに書いてございますとおり、陶芸の杜おおぼり、老人憩いの家やすらぎ荘の視察を行ったというところでございます。その後、浪江町役場におきまして吉田町長等との意見交換を行いました。その後、被害者との意見交換、避難指示等対象区域の丸2 番、2回目でございます。
 最後に、葛尾村に入りまして、野行宿泊交流施設、帰還困難区域、これも特定復興再生拠点区域外でございます小出谷地区の視察、そしてかつらお胡蝶蘭合同会社の視察を行ったというところでございます。その後、葛尾村村民会館におきまして篠木村長等と意見交換を行ったというものでございます。その後、被害者との意見交換ということで、避難指示等対象区域丸3 ということで、3回目ということで、以上が全体の視察等行程でございます。
 この中で意見交換を何度か重ねてございます。その中でいただいた主な御意見をまとめたものが次のページ、別紙という形でまとめてございます。大きく分けまして、被害者との意見交換、そして自治体の首長等との意見交換の2つに分かれるというものでございます。
 1ポツの「被害者との意見交換」のところ、(1)で、まず1つ、自主的避難等対象区域内外というところでございます。これにつきましては、福島県の自治会館の中で行ったというものでございまして、御参加いただいたのは福島県の市長会及び町村会ということで、木幡福島市長、品川郡山市長、鈴木白河市長、そして押山大玉村長、杉山会津美里町長、この5名に御対応いただいたというものでございます。
 その中でいただいた主な意見でございますけれども、最高裁決定によりまして中間指針が不十分であるということが示された、中間指針の見直しを早急に進めていただきたい。
 次の丸でございますが、確定判決で認められたものを類型化して中間指針へ反映させることで迅速かつ公平な賠償が可能になるというようなもの。
 3点目の丸のところでございます。損害賠償区域の区分によって、その内外で地域が分断されるという理由はないのではないか。
 丸の4つ目でございます。自治体への賠償、特に職員人件費についての御意見があったというところでございます。
 最後の丸でございますが、風評被害、これについてはまだ大きなものがあるということ、そして、ADRセンターのほうに持ち込んでも解決しないものも多いというようなお声がありました。
 (2)番というところでございます。避難指示等対象区域、全てで3回行ってございますが、それの1回目でございます。こちらにつきましては、大熊町の会場で行ったものでございまして、参加者といたしましては、広野町、楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町の事故当時にお住まいになられていた住民の方々、計9名との意見交換となってございます。
 主な御意見については次のとおりでございまして、丸の1つ目でございますが、自治体が独自に出した補償金につきましては、自治体への賠償の対象になってもいいのではないかというお声。
 そして集団訴訟の原告とそれ以外の被害者との間で新たな分断、混乱が起きないよう中間指針を見直していただきたいということ。
 そして3つ目の丸、中間指針の作成当時では予測できなかったこともあり、中間指針の見直しによって被害実態に即した十分な賠償を実現してほしいというようなお声。
 4点目、これは「売り言葉に買い言葉となっていた中ではあるが」という前提ではございますが、東京電力からあまりいいことを言われてないというような御意見もございました。
 最後の5つ目の丸でございますけれども、東京電力は、個人で請求しても相手をしてくれない一方で、自治区の区長として接すると丁寧に扱ってくれるというようなお声。
 最後の丸になります。東電は中間指針を上限にして中間指針の範囲内でしか賠償に応じていないと。ADRセンターの申立ての手続でさえできない人がたくさんいると。こういったところから、中間指針を見直しして、一律に賠償の水準を引き上げてほしいというような御意見がございました。
 (3)避難指示等対象区域の2回目に当たります。これは浪江町の会場でございます。
 参加者といたしましては、南相馬市、川俣町、浪江町、飯舘村の住民計8名との意見交換になってございます。
 主な御意見、次のとおりでございます。1つ目の丸でございますが、地区によって復旧や復興の仕方が違うということで、こういう状況を踏まえた中間指針の見直しをしていただきたいという話。
 次の丸でございますが、事故当時の状況、これを踏まえて中間指針の見直しをしてほしいというところ。訴訟に参加していない人にも考慮をしてほしいというようなお声がありました。
 次の丸でございます。一方で、中間指針の要望はないという方もいらっしゃいました。一律に捉えるのは難しいというお声です。その一方、営業損害について、東電の機械的な対応に対して不満があるということ。
 次の丸、働くことができる場所がなくて帰りたくても帰れないという人もいると。このような事例に対しても救済を考えていただきたいというようなお声です。
 次の丸でございます。事故後すぐに自助努力で立て直した費用、これについて東電から賠償の対象とならないと言われていて、不満であるということ。自助努力で立て直した人とそうでない人の間で仲違いをしている状況であって、考えていただきたいというようなお話でございます。
 最後の丸でございます。裁判費用がかかるから諦めたりとか、東電に数値を示さないと対象にならないと言われて諦めたりしていると。また、ADRセンターの情報がなくて請求するのを諦めているというようなことがあるだけであって、今の状況に納得しているわけでは必ずしもないというようなお声が多く寄せられたと承知しておるところでございます。
 (4)でございます。避難指示等対象区域の丸3 ということで、3回目に当たります。こちらは葛尾村の会場のものでございます。
 参加者といたしましては、田村市、川内村、葛尾村の住民計4名との意見交換となってございます。
 主な御意見は次のとおりでございます。1つ目の丸でございます。同じ自治体の中で20キロ圏の内外で賠償に差をつけないでほしかったというようなお声。
 2つ目の丸、営業損害につきまして、商工業と農業の間で当初の賠償期間が異なっていることについての御意見。
 3つ目の丸、ADRセンターの申立てや相談の仕方が分からない、東京電力に請求を繰り返すしかなかったというようなお声。
 ページ変わりまして次の丸になります。東京電力から賠償を出せないというふうに言われてしまうと、多くの人が納得してしまってそこで諦めてしまうんだというようなお声がありました。
 次の丸でございます。東電のほうからADRセンターがあるということを紹介はしないと。その一方で、センターの存在を知らないという人も多く、どうしても法律的な話になってくるので、敷居も高いと感じていると。相談窓口を設けてもらえると気軽に来てもらえるのではないかというようなお声もございました。
 次の丸でございます。直接請求で賠償を受けた人、ADRセンターで和解を受けた人が、確定判決に従った賠償となるよう中間指針に反映させてほしいというようなお声です。
 最後の丸、被害者の立場に沿った中間指針としていただきたいというようなお声もございました。
 変わりまして、2ポツでございます。自治体首長等との意見交換になってまいります。
 (1)大熊町、先ほどを申し上げた吉田町長、吉岡議長等との意見交換でございます。
 主な御意見3つでございまして、1つ目の丸が、迅速・公平かつ適切な賠償がなされるよう、そして、混乱・不公平を生じさせないよう速やかに指針の見直しをお願いしたいというところ。
 もう一つは、商工業と農業の業種の差別の観点で、業種を問わない賠償の標準化をお願いしたいというところでございます。
 3点目、東京電力は個別の事情に寄り添って対応すると言っているものの、中間指針を超える賠償は出せないということで、中間指針を盾にした賠償となっているのではないかという御指摘がありました。これにつきましては、第4次追補から中間指針が見直されていないということが原因であって、早急な指針見直しをお願いしたいというようなお声でございました。
 (2)浪江町でございます。吉田町長等との意見交換でございます。
 主な御意見ございます。1つ目の丸でございますが、最高裁判所の決定を受けて多くの町民から中間指針がどう見直されるかという声が寄せられているというような状況。
 丸の2つ目でございます。最後の2行目に書いてありますが、町民間で賠償に齟齬が生じないよう早く審議を行っていただきたいというようなお声。
 丸の3つ目でございますが、賠償に当たっては、国民や福島県民の理解が必要であるということ。国民や県民からは被災地にまたお金なのかという声すら聞くというような状況であるということ、御意見がございました。
 ページ変わりまして、最後、丸の4つ目に当たりますが、ADRセンターへ申立てをした人しか賠償の増額が認められていないという状況。積み上がってきた和解事例を踏まえましで賠償という形で審査会としての考え方を出してほしいというようなお声でございました。
 最後、(3)葛尾村でございます。篠木村長等との意見交換でございます。
 主な御意見を2つにまとめてございますが、1つ目、集団訴訟の原告に入っていなくても、避難者は皆同じ境遇であるということであり、審査会において適切な対応をお願いしたいというようなお声。
 そして2点目、農業の賠償について一部遅れが見られるという個別のお話もございました。
 以上が原子力損害賠償紛争審査会で実施いたしました現地視察の結果の概要の御報告となります。
 以上でございます。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございました。
 では、続いて議題の2の「地方自治体等からの主な要望事項について」も事務局から説明をお願いいたします。
 
 
 
【川口原子力損害賠償対策室次長】  事務局でございます。引き続きまして、資料2、全体のPDFでは9ページ目に当たります、左下に7と書いてあるページになりますけれども、資料2を御覧いただければとございます。
 「地方公共団体等からの主な要望事項について」という題名の資料でございます。この資料につきましては、第57回、令和4年8月に実施しましたけれども、これ以降、現時点までに文部科学省に寄せられた御要望のうち主な項目の概要をまとめたものでございます。主に1、2、3、4という形でカテゴライズをしてございまして、それに基づきまして説明させていただきます。
 まず1点目、1ポツでございます。「最高裁判所の決定を受けての対応」というところでございまして、丸の1つ目、改めて被害の実態調査・評価を行い、中間指針等を速やかに見直すことという御要望でございます。
 2点目の丸でございますが、確定判決の内容やADRセンターでの和解や打切りの事例等について、早急に具体的な調査・分析を進展させることというようなものでございます。
 3つ目の丸でございます。福島県などの現状や判決の具体的な分析を踏まえた上で、混乱や不公平を生じさせないよう、中間指針の見直しを含め適切に対応すること。こういうような御意見がございました。
 2点目でございます。「被害者への賠償」というところでございまして、1つ目の丸でございます。旧居住制限区域と旧避難指示解除準備区域の不動産について、全損評価による賠償をすべき旨を中間指針等に明示するということ。
 2つ目の丸、特定避難勧奨地点の避難費用、精神的損害の対象期間、これにつきまして、終期が解除から3か月とされており、他の区域と比べて著しく期間が短いということもあって、他の区域に準じ期間を延長すること、こういうような御要望もございました。
 3点目、晩発性の放射線障害につきまして、あらかじめ因果関係の立証の基準について議論を深めるということ。
 4つ目の丸、営業損害につきまして、業種別の基準を見直しして平準化するよう東京電力を指導すること。
 最後の丸でございます。原発事故前の利益が確保できる状況に至るまでの営業損害賠償の継続について東京電力を指導すること、このようなお声がありました。
 3点目、「ALPS処理水の処分に係る風評対策」でございます。審査会も含めまして、国において基本方針や行動計画による様々な対策の実施状況を継続的に確認し、福島県の現状把握をこれまで以上にしっかりと行うなど必要な対応を適時適切に行うことでございます。
 4点目、「消滅時効への対応」。丸の1つ目でございますが、全ての損害について消滅時効を援用せず、かつ完全な賠償を果たされるよう東京電力に対し強く指導するということ。
 2つ目の丸でございます。東京電力に対しまして、「第四次・総合特別事業計画」に明記したとおり、将来にわたり消滅時効を援用せず損害がある限り最後まで賠償を行うよう指導することということでございます。
 「また」のところ、原子力損害賠償紛争解決センター、ADRセンターにおける和解仲介手続等の一層の周知など必要な対応を行うこと。このような要望が寄せられたというところでございます。
 事務局からの報告は以上でございます。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございました。それでは、議題の1と2につきまして、まとめて御意見、御質問等いただければと思いますが、その前にまず現地視察に参加された委員の皆様から所感をいただければと思います。
 御発言は、まず会場参加の委員から先に五十音順でお願いをし、その後オンライン参加の委員にお願いをしたいと思います。最後に私からも感想など、少し述べさせていただきます。
 それでは、最初、明石委員、お願いいたします。
 
 
 
【明石委員】  明石でございます。私、1日目は参加できなかったんですが、2日目、参加させていただきました。やはり一番大きく感じたのが、法律の専門家というところまで到達するまでが非常にまだ壁があるということ。実際はADRセンターでは、直接交渉がうまくいかなくても相談することができるし、秘密も守られるし、それにお金もかからないんだということがやはりまだ浸透してない部分があるのかなということを非常に感じました。非常にADRセンターの方、努力されているというのは僕ら素人に分かるんですが、やはりまだ何か分からない壁が多少あるのかなということ。
 それから、東電と直接話をしても、先ほどもお話ありましたとおり、そんなのあんまり補償の対象にならないと言われると何となく納得してしまうというところ、その辺のところ、うまくいかなくても、ADRセンターに一報、電話かけるなり何かしても可能だというようなところをもう少し浸透させるのが必要かなというのが1点。
 それから、第2点は、何となく自分がお金をもらったということを人に言えない。ADRセンターに行ったらうまく解決できたということを言うと、どうもあの人お金もらったんじゃないのみたいなことを言われてしまう。ですから、そこも、何というんですかね、うまくいったか、うまくいかないかということも秘密というか、他人に知られることはないんだということをうまく考えた上で、ADRセンター、もっと敷居が低いんだというようなことを、アピールというか、何らか分かっていただけるような方策が不可欠で、実際は確定申告とか、健康診断とか、いろんなところに出張されているというお話は聞くんですが、やはりその内容を少し、我々素人等だったらこんなふうに思うみたいなところを考えていただけるのか、それが一番いいのかなと感じました。
 以上でございます。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。それでは、江口委員、お願いいたします。
 
 
 
【江口委員】  江口でございます。私は委員になりましたのが今年なので、今回初めて現地を訪れ、住民の方からも直接お話を聞くことができました。その意味で大変貴重な経験をさせていただいたと思っております。
 とりわけ印象に残っているのは、1日目に参りました大熊町の大野駅前の状況です。きれいに整備された駅舎と人の気配を感じることができない駅の周辺部との対比というものが原発事故の影響の大きさをまざまざと示しているように見えました。
 住民の方々の御意見は、先ほど事務局でまとめられた概要のとおりですが、皆さん、11年前の避難のときのことや避難後の生活について実に具体的によく話していただきました。このような住民の方々のお話も胸にとめ、今後検討を進めてまいりたいと思います。
 以上です。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございました。それでは、古笛委員、お願いいたします。
 
 
 
【古笛委員】  古笛です。昨年に続いて今年も参加させていただきました。一年たって変わっているところ、変わっていないところといろいろ拝見させていただいて、とてもよかったと思います。
 とくに、今回は被害者の方の生の声を直接聞けたということがすごくよかったです。11年が経過して、怒りとか、理解とか、諦めとか、納得とか、いろんな感情をお持ちの被害者の方のそれぞれの御事情、お気持ちを伺えたこと、とてもよかったと思います。
 特に印象に残ったのは、どうしても対東電との賠償ということばっかりに目を奪われがちなんですけれども、被害者の方はまたそれとは別にいろんな問題を抱えていらっしゃって、例えば被害者の方の間の不公平感というものですとか、あるいは国民、県民の方の理解が得られるとか得られないとか、そういったことにも私たちは配慮して対応させていただかなければいけないんだなということも思いました。ありがとうございました。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございました。では、続いて富田委員、お願いいたします。
 
 
 
【富田委員】  富田でございます。今回の視察では、今までも帰還困難区域を中心に状況を見ておりましたが、先ほど話がありましたように、町を再建しようとすると、今までは建っていた家を全部撤去して、実は全て真っさらなところから町を再建しなきゃならないという現実をまざまざと見ましたし、窯や陶器のところなどは初めて見ましたけれども、そういうことの復興が極めて難しいことがわかりました。
 それから、被害者の方から話がありましたように、実際問題として被災地に戻って生活を再建することが現実には極めて厳しいと。特に浪江町、双葉町、大熊町辺りはいまだに帰還率が極めて低い上、半分の人が帰ってこない意向だという話を前提とすると、本当にこの復興というのが非常に困難な事業だということをまざまざと実感させられました。
 その中で、我々としては、賠償についてできる限り公平・適正にやらなければならないということになりますが、今回被害者の方々の話を聞いて、様々な地域で皆さん様々な思いをされているということがわかりました。
 特に南相馬市については、原発からの距離が20キロ、30キロ、それ以外で実にきれいに分かれてしまったがために地域の分断といった問題もあることがよくわかりました。そういう意味で、やはり被害者の方々の話を直接聞くというのは非常に重要で、これを前提にして我々も考えていかなければならないと改めて思った次第です。
 以上です。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございました。それでは、オンライン参加の委員からも所感をお伺いしたいと思います。まず織委員、お願いいたします。
 
 
 
【織委員】  ありがとうございます。皆さん、おっしゃっているように、今回被害者の方と直接お話をすることができて、いろいろな思いを伺うことができました。正直、もっと早くこういう機会をつくって、皆さんから直接伺えばよかったなと改めて思った次第ですが、印象に残っているのは、やはり皆さん、東北の方、非常に我慢強いということと地域や故郷の思いというのとコミュニティーを大切にしていらっしゃるということを改めて感じさせていただきました。
 特に、ほかの委員の方もおっしゃっているように、被害者は皆同じであると。なので、20キロ圏内、あるいは訴訟の原告であるとか、そういったところで差をつけないでほしいという、その思いはすごく強く感じたこと。
 あと、また、不公平感というと、事業所間ですとか、商業施設、あるいは、特に自分で頑張った、自力でやった人のほうが損をしているのはちょっとおかしいんじゃないかという、そういったところについてもなるほどなと思ったところであります。
 あともう1点は、東電の対応についてです。改めて住民の方から、私たち、ずっと中間指針はあくまでも指針の1つあり、個別の対応によって、それ以上でも十分できるんですということを言っていたんですけど、実際上、交渉に当たった方、皆さんが、東電が中間指針を上限として扱っているということを、改めてちょっと思うところもあるかなと思いました。
 また、ADRがこれだけ皆さん頑張っているのに、まだまだ知らない方もいらっしゃるということはもう少し工夫が必要かなと思いました。
 今回、お時間取っていただいた地域の方には本当に感謝したいと思っていまして、またこういう機会をもっときめ細やかにつくっていければなという思いを新たにしました。ありがとうございます。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございます。続いて、樫見委員、お願いいたします。
 
 
 
【樫見会長代理】  樫見でございます。このたびの視察につきましては、コロナ感染症の影響がある中ではございましたが、関係者の皆様の御尽力で、昨年の1日だけの視察から2日間の視察となりまして、多くの被災地を訪れることができました。
 バスの車中から目にし、また、被災地の幾つかを御案内いただいたのですが、10年以上の月日が流れていながら、被災当時のまま取り残され荒れ果てている住宅地、耕作されていないまま草木が茂っている農地等の現状を拝見いたしまして、なかなか復興できない原発被害の甚大さと無力感を大きく感じました。
 このことは、大熊町、浪江町、葛尾村において実施されました12の市町村の被災された住民の方々との意見交換会におきましてはより強く実感したところでございます。
 この意見交換会において住民の皆様からお話をいただいた点で、3点共通したところがございました。
 1つは、被災地におきまして、住み慣れた故郷から転々と住居を移し、生活の基盤の喪失とともに、地域社会から断絶され、同居していた家族とも別れ、そしていまだに故郷に戻れないつらさ、こういったものが今でも続いているということ。
 2つ目は、原発被害を受けた後、さらに損害賠償請求の過程で東京電力の担当者の方から心ない言葉と対応という二次的な被害を受けてしまい、被災者がそれぞれの事情を抱えた個別的な損害で、存在であるということを全く相手方に理解されず、事務的に処理されたことでさらに被害感情が拡大したということを実感いたしました。これらについては、東京電力側の理解と誠実な対応を強く望むところでございます。
 3点目は、原子力損害賠償紛争解決センターの存在、それから役割について、これまで様々な広報や相談窓口を被災住民の方が相談しやすいようにと努力してきたところでございますが、まだまだ被災者の方々の御意見からは、知らない、利用ができないといったような御意見があることにさらなる取組が必要であるということを痛感いたしました。
 以上でございます。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございました。それでは、本日御欠席の山本委員からもコメントをお預かりしているとのことですので、事務局から御紹介いただけますでしょうか。
 
 
 
【川口原子力損害賠償対策室次長】  事務局でございます。山本委員よりコメントをお預かりしてございますので、読み上げさせていただきます。
 現地調査時の感想といたしまして、被害者の方々からそれぞれの様々な御事情を直接伺い、被害ないし損害の多様性、個別性について痛感した。事故当初がある程度共通したくくりで捉えられた損害であっても、それぞれの方の個別の事情が11年余り積み重なり、様々に拡大してきたという印象である。その意味で、そのような個別性の強い損害はADRでは比較的容易に対象とできそうであるが、指針のような一般規定に取り込むに際しては相当の工夫が必要になりそうな気がした。
 もう一つでございます。被害者の方々から引き続き東京電力の対応に対する強い御不満が提起されたことも印象深かった。特に、連絡した担当者が東京電力の社員ではなく、関連会社等の人で、そこで極めて不適切な発言がされ、傷ついた旨の御不満が印象に残った。仮に東京電力がそのような社員以外の人を苦情処理等に使っているとすれば、よほど懇切に教育、研修を徹底する必要があるものと思われる。その点、改めて東京電力の適切な対応を求めたい。
 以上でございます。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございました。それでは、最後に私からも感想を一言申し述べたいと思います。
 今回は、各参加いただいた委員から御紹介ありましたとおり、被害者の方々と直接の意見交換ができたということは大変意義のあることであったと思います。被害発生時の避難の様子やその後の避難生活についての体験談からは損害の実態を改めて認識することができました。
 ある被害者がおっしゃった「心の復興はゼロです」という言葉は大変重く受け止めました。
 また、視察させていただいた地域は、特定復興再生拠点区域では様々な復興の試みが進行している反面で、帰還困難区域での全く対照的な現状は、改めて帰還が困難であることがどのような現実をもたらすのかということを実感させるものでした。
 以上が私からの感想でございます。
 それでは、続きまして、議題の1、2併せて御意見、御質問をいただければと思います。どこからでも結構ですので、御自由に御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。
 
 
 
【内田会長】  鹿野委員、どうぞお願いします。
 
 
 
【鹿野委員】  私自身は日程の都合がつかず、今年は残念ながら参加できなかったのですが、先ほど御紹介いただいたヒアリングの結果、その御報告を受けまして、少し質問と感想を述べさせていただければと思います。
 1つは、既に委員の先生方から言及されたところでもありますが、4ページのところにADRセンターの情報がなくて諦めている場合もあるというような御指摘が記載されており、5ページのところでは東電はADRセンターの紹介をしていないというような御指摘があったということでございました。これは昔ということではなくて、現時点でもそういうことだという御発言なのでしょうか。もしそうであるならば、これはやはり好ましくない状況だと思いますので、一方で、自治体の協力も得ながらADRセンターについてより一層の広報に努める必要があると思いますし、また他方で、東電においてもADRセンターの紹介も含め、適切な紛争解決に努めていていただきたいと、そういうふうに要望するところでございます。
 それからもう一つ、これは感想になるかもしれませんが、東電が中間指針が上限だと主張して請求を突っぱねるというようなことについては、昨年のヒアリングのときにも、私自身、お聞きして、それについて少し発言をさせていただいたところでございます。今年についても、ヒアリングの結果としてそのような御報告がなされているということは非常に残念だと思います。さらに、被害者からの声として、東電からかなり心ない言葉を投げかけられ、今、内田会長からも御指摘のあったように、心の復興というものが全くなされていないというような状況もうかがわれました。金銭的な問題というのも重要ですけれども、金銭とは別のさらなる被害を受けているということを知り、とても残念でございます。
 以上、2点目は感想ということではありますけれども、よろしくお願いいたします。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございました。ただいま御質問と感想をいただきました。ただいま鹿野委員から御指摘がありましたADRセンターの広報に関して、広報一般を一生懸命やるのは当然ですけれども、それと併せて東電からもADRセンターを紹介すべきではないかという御発言がございました。この点は審査会で過去にも話題になったことがあるのですが、この点についてはこれまでの経緯もあると聞いております。ちょっとこの点、事務局から御説明をいただけますでしょうか。
 
 
 
【川口原子力損害賠償対策室次長】  事務局でございます。補足に入る前に、まず鹿野先生から御質問のありました東電の御発言に対する時点の問題のところをまずお答えさせていただければと思います。
 先ほど申し上げましたが、ADRセンターを知らないとか、ADRセンターを紹介しないとか、あとは心ない発言とか、中間指針を上限とするような対応と、この時点につきましては、その当時の時点について明示的に御説明をいただいたものではありませんので、この1年以内ということでは必ずしもございません。その当時、今回御参加されました被害者の住民の方が東電との対応をした時点で言われたことであったり、そのときの対応であったということでもありますので、この1年以内であるというようなものでは必ずしもないという点は御留意いただければと思います。
 その上で、先ほど内田会長から御指摘ありました過去の経緯の部分でございますが、平成25年2月に取りまとめられました、平成24年1月から12月までの活動をまとめましたADRセンター活動状況報告書というものがございます。その中で電話によるお問合せの状況というものをまとめた記載がございます。その中におきまして、「東京電力の査定額を受け入れなかったら、その後話し合いをしてもらえず、一方的に当センターを案内された」との不満が寄せられていたというような記載があるというところでございます。
 この報告書を受けまして、平成25年3月に文部科学省から東京電力に対しまして要請を行っているところでございまして、具体的な内容について、ADRセンターへの問合せの状況で不満というのが結構あったというところで、具体的に幾つか羅列をしている中でこの話は入ってはいないものの、不満がいろいろと寄せられていますよということを指摘した上で、誠意ある対応の徹底について要請を行ったというところでございます。
 こういった経緯もございまして、東京電力としてADRセンターの紹介を、必ずしもやりやすいというわけじゃなく、しにくいというような状況となっている側面があるというふうに思料しているところではあると考えているところでございます。
 事務局からは以上でございます。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございました。ただいま事務局から説明がありましたとおり、東京電力に対して単にADRセンターをきちんと紹介するようにというふうに指摘や要請をすれば解決するという問題ではなさそうに思われます。折衝しているさなかに、真摯に折衝に対応しないでADRセンターに行ってくれと言われることで非常に失望したというような事例があるということのようです。
 そこで、まずは今回の現地視察の結果や本日の議論について、事務局から東京電力に伝達をしていただいて、どのような工夫があり得るか検討していただくということをお願いしたいと思います。
 
 
 
【川口原子力損害賠償対策室次長】  承知いたしました。
 
 
 
【内田会長】  よろしくお願いいたします。これは言い方とか、タイミングとか、なかなか微妙な問題があるかと思いますが、そういった点についての工夫をしていただくようにぜひお伝えいただければと思います。
 それでは、そのほかの御意見、御質問もしありましたらお願いいたします。
 特にありませんでしょうか。
 
 
 
【古谷室長】  よろしいですか。
 
 
 
【内田会長】  古谷室長、お願いいたします。
 
 
 
【古谷室長】  ADRセンターの古谷でございます。先ほど現地視察の結果をいろいろ聞かせていただきまして、ADRセンターとしてはこれまでも広報など周知活動をかなり頑張ってきたつもりではありましたが、そもそも利用方法が分からないなど、かなり基本的なところで、アクセスのしづらさ、あるいは難しさを感じている被害者の方がまだまだいらっしゃるということを重く受け止めたいと思っております。
 また、既に健康診断などのタイミングで、現地に出張して、関係を作っていろいろ事情をお聞きするということに取り組んでいるのですけれども、今後、関係自治体と連携を強化して、一歩一歩そういった活動を強化していきたいと思います。
 ADRなので、中立性や公平性といったところは気をつけなければいけないとは思いますけれども、今回、現地での声を真摯に受け止めて、また一つずつ積み上げていきたいと考えております。
 以上です。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございました。私も直接の意見交換をしながら、裁判官や弁護士によって構成されるADRセンターというのが一般の国民にとっていかに敷居が高いものであるかということを本当に感じまして、そこをアクセスしやすいものにするためにどのような工夫ができるかと。これはもう既に10年以上たっている話ではありますけれども、改めて工夫しなければいけないなということを私も感じたところです。どうもありがとうございました。
 
 
 
【古谷室長】  ありがとうございました。
 
 
 
【内田会長】  ほかに御発言ございますでしょうか。
 特にありませんでしょうか。
 それでは、特に御発言がないようでしたら議題1と議題2は以上とさせていただきます。今回の現地視察におきましては、中間指針の見直しも含めた対応の要否の検討に当たって、被害者の方々からの御意見を直接お伺いするということを第1の目的として、事務局からも御報告ありましたとおり、事故発生当時、避難指示等対象区域に居住されていた住民の皆様からこれまでよりも直接的な形で被害者の声を聞く機会を持つことができました。この被害者との意見交換を行うに当たって、福島県や関係市町村の担当の皆様に多大な御協力をいただきました。この場をお借りいたしまして改めてお礼を申し上げたいと思います。
 今回の現地視察の内容につきましては、事務局から報告され、また委員の皆様からも所感や御意見等いただいたとおりですけれども、やはり中間指針の見直しに対する期待や要望、そして東京電力の対応に関する御意見、ADRセンターの広報の必要性に関わる御意見などが多かったと思います。
 いただいた意見も含め、今回の現地視察の結果を踏まえまして、今後の審査会の審議に生かしてまいりたいと思います。どうもありがとうございました。
 では、以上で議題1と2を終えまして、続いて議題の3、「判決等の調査・分析について」に移ります。これまで専門委員の皆様に御尽力をいただいて判決等の調査・分析を進めてきたところですけれども、今回中間的な報告をいただけるということとなりましたので、審査会としてその報告を聴取し、調査・分析の方向性等について御議論いただければと思います。
 それでは、専門委員を代表いたしまして、座長をお願いしております大塚専門委員から御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
 
 
 
【大塚専門委員】  大塚でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 今回、判決等の調査・分析についての中間報告をさせていただきます。令和4年3月の最高裁の不受理決定によりまして7つの高裁判決が確定しております。これと中間指針が示す目安とが異なっているところとか、あと判決間でも違いがございますので、それらを踏まえて分析・検討させていただいたということでございます。
 2つの観点から検討したということになります。第1は、判決の間でも違いがございます中で、各判決の趣旨とか7つの判決の傾向は何かということを追究しようとしているということでございます。
 それから2つ目は、中間指針の示す目安と7つの判決との間の食い違いを虚心坦懐に検討し、その考え方の違いがないかということも含めて注目をして検討していったといます。
 7つの確定判決につきましては、12ページ(資料3の3ページ)からございます、仙台高裁いわき、東京高裁小高、仙台高裁生業、東京高裁前橋、仙台高裁中通り、東京高裁千葉、高松高裁の松山の7つの判決でございます。
 18ページ(資料3の9ページ)に行っていただいて、各判決を俯瞰して導き出される論点に移っていきたいと思います。まず、各判決を俯瞰して導き出される論点でございますけれども、最初に、被侵害利益、あるいは精神的損害の捉え方について検討しました。各判決につきましては、そちらにございますように、被侵害利益を権利利益の形で明示するもの、それから、権利利益の形では明示しないで精神的損害を認定するものに分かれております。
 被侵害利益を権利利益の形で明示するものの中でも、「平穏生活権」について、包括的な平穏生活権という新しい概念を用いているものと、それから包括的な生活利益とだけしているもの、さらに居住・移転の自由などその他の権利利益とするものなどに分かれております。
 ただ、これらは権利・法益との関係ではこういう問題になるわけですけれども、重要なのは、4つの点について、被侵害利益、あるいは精神的損害を捉えているということでございます。
 19ページ(資料3の10ページ)に移ります。この4つというのは、「避難生活に伴う精神的苦痛(又はこれに対応する平穏に生活する利益)」、2つ目に、「故郷又は生活基盤の変容・喪失に伴う精神的苦痛」、それから3つ目に、「生命身体を危険に曝されているのではないかという不安による精神的苦痛」、4つ目に、「避難を余儀なくされたことによる精神的苦痛」。ここにいう避難を余儀なくされたとは、避難のときの精神的苦痛とお考えいただければと思いますが、この4つに分かれるということでございまして、最初の2つについては各判決がいずれも認めているわけですけども、あとの2つは一部の判決で認めているという違いがございます。
 損害項目につきましても、一体的に判断しているものと細分化しているものがございますけれども、細分化しているものに関しては、慰謝料、精神的損害に関して2つに分けるか3つに分けるかというところで、高裁判決が2対3に分かれており、ここをどう考えるかという問題がございました。
 2つに分けるか3つに分けるかについては、後でもう少し詳しくお話しいたします。
 さて、これまでの賠償実務でございますけれども、そちらにございますように、人格権侵害としては、単一の損害賠償請求権が成立すると考えて、複数の損害項目に細分化しないというのが通例であったと考えられます。もっとも後遺障害のある人身損害の事件では、慰謝料については症状固定時の前と後とで2つの損害項目に分割するということもございました。
 さて、そうした中で各判決と中間指針及び従来の考え方との比較をしますと、東京高裁の小高と千葉の2つの判決は慰謝料の損害項目を2つに分けています。先ほど申しました避難全体の慰謝料とそれから故郷または生活基盤の慰謝料の2つに分けるという考え方でございます。避難全体についての慰謝料というのは、避難生活に伴う慰謝料と避難自体の慰謝料をまとめて考えて避難に伴う慰謝料ととらえ、それと故郷あるいは生活基盤の変容・喪失に伴う精神的苦痛という2つに分けるという考え方でございまして、中間指針もこの考え方を取っているものでございます。
 これに対して、仙台高裁いわき、仙台高裁生業、高松高裁松山というのは、精神的損害を3つに分けていまして、先ほど申しました、避難に関する慰謝料を、避難を余儀なくされたことによる慰謝料と、避難した後の生活に伴う精神的苦痛を分けるということで、結局慰謝料は3つに分けるという考え方をとっているということでございます。
 次のページに移りますけれども、先ほど来申し上げていることでございますけれども、各判決が共通して賠償の対象としているのは、「避難生活に伴う精神的苦痛」と「故郷又は生活基盤の変容・喪失に伴う精神的苦痛」です。
 各判決の判断が分かれているのは、「生命身体が危険に曝されているのではないかという不安による精神的苦痛」と「避難を余儀なくされたことによる精神的苦痛」でございます。
 それぞれ中間指針と比べますと、中間指針は、「避難生活に伴う精神的苦痛」につきましては、月額の慰謝料の中で考慮しております。
 それから、故郷喪失、あるいはその生活基盤の変容・喪失に伴う精神的苦痛につきましては、帰還困難区域については考慮していると考えられますが、ほかの区域については考慮しておりません。
 次に、「生命身体の危険に曝されているのではないかという不安による精神的苦痛」につきましては、中間指針は、第1次追補で、自主的避難等対象区域については考慮していると考えられます。
 4つ目でございますけども、「避難を余儀なくされたことによる精神的苦痛」、つまり、避難自体の精神的苦痛につきましては、先ほど申しました仙台高裁のいわきと生業、それから、高松高裁の松山の3つの判決はこれを独立の項目として扱っていまして、中間指針の考え方には必ずしも収まり切れないと考えることもできるということでございます。
 このような分析をした結果として、さらに検討を深める必要がある点としては、そこにございます「『避難を余儀なくされたこと』による慰謝料」、つまり避難自体の慰謝料と、「故郷の喪失・変容による慰謝料」と「自主的避難等による慰謝料」の3つであると考えております。
 次のページの21ページ(資料3の12ページ)ですけども、中間指針についての7つの判決の全般的な評価でございますが、最後のところにございますように、中間指針の合理性とか、示された基準額については、多くの裁判例は否定的でないですけれども、あくまで一般的な指針であって、裁判規範ではございませんので、裁判所は拘束されるものでないという判断が前提となっている点で共通していると考えられます。
 さて、各論点に関する検討として先ほど申しました3つの点について簡単に申し上げていきたいと思います。
 まず、避難を余儀なくされたこと自体による慰謝料でございますけれども、先ほど来申し上げておりますように、これを独立の損害項目として捉える判決が3つございます。それから、上の東京高裁の小高と東京高裁の千葉は、これを独立の項目として捉えず、避難の慰謝料はまとめて扱うということで、精神的損害は避難慰謝料と生活基盤慰謝料の2つという二分をしているということになります。
 東京高裁の前橋は、二分も三分もせず、そもそも慰謝料の性質ごとに区分をしないで一括して慰謝料を算定するという方法を取っております。
 認容額を見ますと、(3)のところにございますように、独立の損害項目として避難を余儀なくされたことによる慰謝料を捉えないという判決におきましても、これを独立の損害項目として捉える3つの判決と比べて慰謝料額の合計額は遜色がないということにはなっているということでございます。
 さて、次のページに行きまして、中間指針の捉え方でございますけれども、先ほど申しましたように、中間指針は、慰謝料に関しては、避難の慰謝料全体と、あと生活基盤による慰謝料の2つに分けるという考え方を取り、避難自体の慰謝料に関しては、第1期は月額10万円、第2期は月額5万円ですけども、これは総括基準で10万円に変えていただいているということでございます。
 各判決の違いは先ほど申し上げたとおりでございまして、25ページ(資料3の16ページ)に行きますけれども、避難を余儀なくされたことについての慰謝料を独立の損害項目とする判決とそうでない判決が分かれるということでございまして、ただ、避難を余儀なくされたことの精神的な苦痛は、いずれの判決も慰謝料算定の考慮要素としているということでございまして、中間指針のように、避難に関する慰謝料を全部まとめて判断することが避難自体の慰謝料を十分に評価していると考えられるかどうかということについてさらに慎重に検討を深める必要があると考えております。
 次に、第2の論点である「故郷の損失・変容による慰謝料」、生活基盤の変容による慰謝料でございます。
 これにつきましては、類型的に算定する判決が、仙台高裁いわき、それから高松高裁松山、東京高裁小高、仙台高裁生業でございます。個別に算定するものもございます。
 先ほど申しましたように、中間指針はこれにつきまして、帰還困難区域については考慮していますが、帰還困難区域以外の区域の住民の方々につきましては、故郷を喪失した、あるいは変容したことによる慰謝料は示していません。
 28ページ(資料3の19ページ)に行っていただきますけれども、この故郷の変容に対する慰謝料につきましては、中間指針の第四次追補の策定の当時におきましては、帰還困難区域を除いて、生活基盤の変容による損害の実態が十分に想定、把握できていなかったということがございまして、紛争審査会でも議論の対象になっていないということでございまして、だから中間指針等では示されていないと考えることができます。
 さらに各判決における異同でございますけれども、帰還困難区域の住民の方々につきましては、中間指針は生活基盤の喪失・変容の損害を考慮してはいるのですが、その額につきましては、幾つかの判決と慰謝料総額において違ってきておりますので、この点についてもさらに検討を要するということでございます。
 次に29ページ(資料3の20ページ)に行きまして、自主的避難等による慰謝料に移っていきたいと思います。自主的避難等による慰謝料につきましては、5つの判決がこれを考慮していまして、自主的避難を実行した場合に、その精神的苦痛を賠償すべきであるという判断において共通しております。
 30ページ(資料3の21ページ)に行っていただきますと、類型的に損害を認定したものとして、生業は平成24年2月まで、子供・妊婦であるかどうかを問わず。それから中通りは、子供・妊婦以外の者について平成23年12月まで。松山は、子供・妊婦は平成24年8月まで、それ以外は平成24年2月までという認定をしています。さらに各判決における賠償額については、それぞれこのようになっております。また、自主的避難等対象区域外の原告に賠償を認めたものもございます。
 これに関しましては、中間指針の捉え方といたしましては、第一次追補で、自主的避難等対象者のうち子供・妊婦については、平成23年の12月末までの損害として1人40万を目安とする、その他の自主的避難等対象者については、1人8万円を目安とするとしています。さらに平成24年1月以降につきましても、損害の内容に応じて合理的に算定するものとしているところでございます。
 各判決との異同でございますけれども、中間指針は各判決が賠償すべきものとして判断したものを取り込んでいると評価できるわけでございますけれども、賠償期間がかなり異なったものがあるということ、さらに賠償額も違っているということがありますし、対象地域についても幾つかのものは区域外のものを認めているということがございます。中間指針が定める賠償期間、賠償額がこの各判決と異なっているところにつきまして、さらに検討を深める必要があると思われます。また、各判決におきましても、賠償期間、賠償額にばらつきがございますので、考慮要素の整理を含めて、有意な考え方を見いだすことができるかどうかについて、さらに検討を深める必要があると考えております。
 その他の論点でございますけれども、ADRの総括基準で類型化されている精神的損害の増額要因をどう扱うかという問題がございます。ADRにおきまして、平成24年2月に総括基準が策定されておりまして、要介護状態にあること等につきまして、中間指針において目安とされた額よりも増額することができる場合が定められております。これに関しまして、各判決がそこに列挙されておりますけれども、個別事情に基づく損害を否定する判決はないということでございまして、これを踏まえまして、既に総括基準に示されている増額基準について、被害者の立証負担の軽減、手続の迅速性などの観点から、中間指針において類型化すること、あるいは目安額を示すことについて、さらに検討を進める必要があると考えております。
 また、後続訴訟からの影響等でございますけれども、先ほど申しました7つの高裁の確定判決以外に、後続訴訟として地裁の判決もございますので、これらに関して7つの判決が示す損害項目とか賠償額算定における考慮要素等と異なるものを含む場合、あるいは中間指針の見直しの要否の検討に当たって、これらの訴訟の判断が与える影響について、さらに検討を進める必要があると考えています。
 最後に、確定判決が既にある場合とか和解済みの案件についての留意点でございますけれども、今般中間指針を仮に見直すことになるとして、中間指針で新しく定められた目安額との関係で、確定判決の認容額よりも多くなってしまう場合には、この差額については、訴訟においてなかなか請求が難しいということになってしまうのではないかということがございます。これは民事訴訟法における既判力による遮断の問題が出てくるということでございます。
 他方、ADRによる和解とか、直接請求手続において支払いを受けていらっしゃる場合につきましては、中間指針の見直しによって、既に直接請求で受け取っていたり、和解している案件につきまして、清算条項が付された事案は限定的でございますので、差額の請求ができなくなるという事態はないだろうと考えているところでございますが、さらに検討を進める必要があるということでございます。
 ただいま私が申し上げたことについては、37ページ(資料3の28ページ)以下にまとめがございますので、御参照いただければ幸いでございます。
 以上でございます。ありがとうございました。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございました。
 大変膨大な調査・検討していただいたわけですが、その内容を大変要領よく御紹介をいただきました。どうもありがとうございます。
 今回、専門委員の皆様にも御出席をいただいております。そこで質疑に先立ちまして、専門委員の皆様から一言ずつ御発言いただければと思います。
 まず、会場参加の末石専門委員からお願いできますでしょうか。
 
 
 
【末石専門委員】  専門委員の末石と申します。よろしくお願いいたします。現地視察の際にお会いした方々もいらっしゃいますけれども、今回このような機会を設けさせていただいて、ありがとうございます。
 私自身は医療事件等を普段扱っている弁護士でございまして、人身の損害論等について主に取り扱ってまいりました。ただ、今回の原子力損害賠償の判決等で避難を余儀なくされた慰謝料であったり、避難継続の慰謝料というふうに分けた考え方をしていて、これは非常に新しい議論をしてございまして、どのように考えたらいいのかということについて、今後もよく整理していかなければならないと思っておりますが、非常に難しい問題があるなと考えました。
 現地視察、私も伺わせていただいて、中間指針の改正、見直しに向けた現地の方々の期待というものもひしひしと感じることができましたので、今後とも尽力してまいりたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございました。
 では続きまして、米村専門委員、お願いできますでしょうか。
 
 
 
【米村専門委員】  専門委員を務めております東京大学の米村でございます。少しだけお時間を頂戴いたしまして、私自身のバックグラウンドも含めて、今回どのようなことについて検討を進めたいと考えて作業に従事してきたかということを、簡単に御説明させていただきたいと存じます。
 私はもともと民法、特に損害賠償法を専門とする研究者であり、その観点から、原子力損害賠償の問題も検討の対象としてまいりました。それに加え、私は2011年3月の時点で東北大学の教員でございまして、私自身も震災の被害を全く受けなかったというわけではないのですが、その後、東北大学の学生たちを組織して、約2年間にわたり現地でボランティア活動を行った経験がございます。当時はほぼ毎週のようにボランティア活動をしておりました。その中に、当然福島の避難者の皆さんの支援も含まれていたわけです。
 その活動は東大に戻ってからも続けており、コロナ禍によってかなり中断しておりますけれども、年に一、二回は被災地域を訪れることを続けております。
 そのような機会に、原子力損害賠償の仕組みが、避難者の皆さんのコミュニティーの分断を招いている、あるいは地域復興の阻害要因になっているという御意見をあちこちから伺ってまいりました。そういった点も含めて、私としては、現在の原子力損害賠償の仕組みに問題があるようであれば、改善を試みる必要があるのではないかということを、今回の専門委員をお引き受けする前から考えてきたところでございます。
 今回の作業に当たっては、中間指針の内容に不十分、不適切な点があれば当然改めるべきであろうと考えて作業に取り組んでまいりました。先ほどお話ししたように、私自身が避難者の方々から伺っていた話もあり、また今回の高裁判決の中身も含めて考えますと、原発事故の影響で何が起こったのか、避難者の皆さんがどういうことでつらさ、苦しさをお感じになっておられたのかということをきちんと把握した上で、それを賠償基準にも反映させる必要があるのではないかと考えるところです。
 他方で、これも先ほど申し上げたとおり、原子力損害賠償の仕組みが地域復興の阻害要因になるということは避けなければならないということもございます。そういった複数の考慮の下に新しい賠償基準を考えていく必要があるという点が、私の中心的な立脚点だということになるかと思います。
 裁判例の分析につきましては、損害額が幾らかということも重要ではあるのですが、それ以上に何を考慮して賠償額を決めたのか、賠償を導く考慮要素をどのように整理しているのかというところを私としては注目したいと思っております。そういう点を踏まえて、裁判例の中にも違いがございますので、なるべく統一的な基準で、何を考慮して損害賠償額を決めていくべきかを明確にお示しできるようにしたいと考えております。
 まだ中間報告の段階でございますので、ぜひ皆様方から御意見を頂戴いたしまして、今後も引き続き検討を行ってまいりたいと思っております。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございました。
 では続きまして、日下部専門委員、お願いいたします。
 
 
 
【日下部専門委員】  ありがとうございます。本年6月に専門委員に就任いたしました日下部真治と申します。
 私は、職業は弁護士でして、実務家として民事の紛争解決、具体的には民事訴訟、仲裁その他のADRに広く携わってまいりましたが、原子力損害賠償のADRや訴訟に、当事者代理人として関わったことはございません。そうした者が専門委員への就任の御要請をいただいたのは、フラットな目線で判決等の調査・分析をすることが求められているためと考え、それを常に意識してこの4か月ほど活動してまいりました。
 調査・分析の主たる対象は、御承知おきのとおり、最高裁の決定により確定した高等裁判所の7つの判決の内容、とりわけ精神的損害ないし慰謝料についての判断でございますが、各判決の考え方には共通する部分ももちろんありますけれども、まちまちの部分が多く、特に被侵害利益や損害項目の立て方という判断枠組みが異なっていることがありまして、それらを整合的に理解することには非常に難しい面があると感じております。
 これは、慰謝料は裁判所の裁量により算定され、その内訳としての被侵害利益や損害項目の提示も、裁判所の裁量の枠内にあると考えられること、また、判決で示される被侵害利益や損害項目は、当該事件での原告による主張の組立て方にも影響を受け得ると考えられることから、やむを得ない面があるようには感じております。
 しかし、これまでの検討によって、各判決が被侵害利益や損害項目の提示を通して、精神的損害ないし慰謝料を生じさせる実質的な原因として、どのような事情を重視しているのかについては、大分整理が進められてきたように感じております。
 これは、先ほど大塚先生のほうから概要の御説明があったと思いますけれども、1つ目は避難生活、または屋内退避生活を送ること。2つ目は、故郷または生活基盤が変容、または喪失すること。3つ目は、被曝の可能性を慮ること、4つ目は、避難過程が苛酷であったということ。表現は様々あるかと思いますが、実質的にはこの4点が中核的な事情なのではないかと、現時点では私としては理解をしているところです。
 今の時点ではまだ中間報告でありまして、引き続き整理を続けていかなければいけないと考えておりますが、最終報告の際には、中間指針の見直し要否について御検討いただくための有益な資料となるよう、引き続き尽力したいと考えております。
 以上でございます。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございました。
 あと専門委員は青野先生にお願いしておりますけれども、青野専門委員は本日御欠席でございます。
 それでは、この中間報告に関する審議に入りますが、4月の第56回審査会におきまして確認をいたしましたとおり、専門委員からは中間的な報告をいただいて、それを聴取した上で議論を行い、この審査会での議論の結果をフィードバックして、最終報告に向けた調査・分析につなげていただくということになっておりました。そこで本日は、この中間報告を受けて、調査・分析の方向性などにつきまして御議論をいただければと思います。
 まず、本日御欠席の山本委員から、事前にコメントをお預かりしているということですので、事務局から御紹介いただけますでしょうか。
 
 
 
【川口原子力損害賠償対策室次長】  事務局でございます。山本委員よりコメントお預かりしてございますので、読み上げさせていただきます。
 判決等の調査・分析について、3点コメントをいただいております。
 まず1点目、これまでの裁判例について、極めて精緻かつ詳細な分析がされており、引き続きそのような方向で検討し、指針の改定の必要がある点をあぶり出していただきたい。特に3-2-2の生活基盤変容慰謝料については、現地に伺った印象でも、決して帰還困難区域に限定されず、他の区域でも様々な形で生活基盤が変容していることは間違いなく、その類型化は容易ではないものとは思うものの、できる限りの工夫をお願いしたい。
 2点目でございます。3-3-1-1にある総括基準で類型化されている増額要因については、私自身、総括委員としてこの基準策定に関与したことを記憶しているが、当時はまだ賠償手続がどのようになっていくか全く手探りの状態の中であったが、現在、運用が固まる中、増額事由及び金額について、可能なものはADRの手間を経ないでも救済ができるように工夫をお願いしたい。
 3つ目でございます。3-3-2-2の既に確定判決等がある場合の取扱いは難しい問題である。やや専門的であるが、既判力の性質につき、現在は、既判力により実体権が変動するという実体法説ではなく、実体権には影響なく訴訟上の効力のみを認める訴訟法説が通説であり、その観点からすれば、請求が認められなかった部分も、実体法上不存在とする効果まではないはずである。その意味で、その後に債務者がその部分を任意弁済することも非債弁済ではないという整理も可能であるようには思われるが、引き続き検討をお願いしたい。
 以上でございます。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございます。
 それでは、委員の皆様からの御意見、御質問等をお願いしたいと思います。どこからでも結構ですので、御自由に御発言をお願いいたします。
 明石委員、お願いします。
 
 
 
【明石委員】  明石でございます。
 ちょっと先ほどに戻る部分があるんですが、7ページに南相馬市からの御意見の中で、晩発影響との因果関係という項目があります。それから、今、日下部先生から被曝の影響についてというお話があったんですが、放射線による直接影響というのを今回、住民で差をつけるというのは、私自身は非常に科学的には難しいんじゃないかなという気はしているんですが、ここはちょっと私の聞き違いだったことなのかどうなのかも含めてちょっと御教示いただけたらと思うんですが、いかがでしょう。
 
 
 
【内田会長】  この点については、大塚先生、お願いできますでしょうか。
 
 
 
【大塚専門委員】  晩発影響については、訴訟が起きていることは認識はしておりますが、まだ確定判決のところまではいっていませんので、今後検討する必要があれば検討させていただきますけれども、それに非常に時間をかけて検討するというところまでは現在のところいたっておりません。
 それから、放射線による影響に関して直接影響をどう考えるかという問題につきましては、政府が避難指示を出したときの20ミリシーベルトという数値については、中間指針でもそれなりに重視して検討してまいりましたし、各判決においても、それを重視しているところがございますので、低線量被曝の場合でも、多少線量が多い場合でも同じに扱うという考え方はなかなか判決との関係でも取りにくいということかと思いますけれども、先生の御指摘に答えていることになるでしょうか。
 
 
 
【内田会長】  明石委員、お願いします。
 
 
 
【明石委員】  例えば、20ミリシーベルトという、避難を決める、そういう基準としてそういうことを使うというのは、私自身は別に問題はないと思うんですが、線量による放射線の直接影響を今回、住民でどこまでが影響があるないというような、いわゆる重み付けというか差をつけるというのは、科学的には難しいような、私自身は気がして。行政的にどう避難をするのに決めたかとかということについては別に何も問題はないんですけれども、体への影響という点ではちょっと難しいような気がしているので、ちょっと御質問させていただきました。
 
 
 
【大塚専門委員】  それは私どもも同様の認識を、基本的には持っております。ただ避難したときの避難指示の区域によって、帰還できる時期が変わってくる等々の影響がございますので、それとの関係での精神的損害は変わってくるということはあると思っていますけれども、直接被曝をしたこと自体についての損害については、先生の御指摘と整合しない考え方を取って検討しているわけではないと言えると思います。
 
 
 
【明石委員】  了解いたしました。よく理解できました。ありがとうございました。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございます。
 ほかに御発言ありますでしょうか。鹿野委員、お願いします。
 
 
 
【鹿野委員】  鹿野でございます。専門委員の先生方におかれましては、大部にわたる判決を、精緻かつ丁寧に整理、分析していただき、また今後の検討の方向性を示していただきましてありがとうございました。
 全体として、示された方向に賛成でございます。ただ、この機会に2点ほど申し上げたいと思います。
 1つは損害項目についてです。例えば、避難を余儀なくされたことによる精神的損害など、判決においても独立の項目として捉えたものと、そうではなく、慰謝料算定の考慮要素とされていると思われるものが分かれており、理論的には恐らくどちらの整理もあり得るのではないかなと、私としては考えているところです。
 ただ、中間指針としてどうあるべきかということを考えた場合、もし可能であるならば独立の損害項目として立てたほうが、分かりやすさという観点からはメリットがあり、それがひいては紛争解決にも資することになるのではないかなというようなイメージを持っております。もちろん独立項目としなくても、こちらの項目の中にこれこれが入っているのだということを明確にするというやり方もあるかとは思いますけれども、要するに、紛争解決に資する基準というような観点から、御検討いただければというふうに思います。
 それから、2番目は、故郷の喪失・変容による慰謝料等の対象地域についてでございます。既に記載のとおり、あるいは御報告いただきましたとおり、帰還困難区域以外の地域など、地域的に中間指針等で示されていないところがございます。これについては、この指針策定当時において、被害にどれだけの広がりがあるかということがどこまで予測できたのかということもございますが、これらの判決においては、やはりこれらの対象外の地域においても、法的に救済されるべき被害が認められるのだという考え方が基本的に示されてきたのではないかと受け止めているところであります。
 先ほど、ヒアリングの結果や、米村専門委員からも御指摘がございましたように、地域を限ったことによる地域の分断といいましょうか、そういう問題も生じているようにも思います。そこで、これについては、ある程度の基準で類型化はしなければいけないとは思いますけれども、ぜひ引き続き御検討をいただきたいとお願いさせていただきます。ありがとうございました。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございました。
 よろしいですか。大塚専門委員、どうぞ。
 
 
 
【大塚専門委員】  おっしゃるとおりでございまして、さらに検討していきたいと思います。
 特に第2点の故郷変容の損害に関しましては、こちらにも書かせていただいているように、中間指針の策定のときには必ずしも明らかでなかった点でございますので、そういうことも含めて検討させていただきたいと思っているところでございます。ありがとうございます。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございます。
 ほかに御発言ありますでしょうか。富田委員、お願いします。
 
 
 
【富田委員】  前提として、審査会が決める中間指針等の役割に関する認識がある程度共通でないとなかなか話が進まないと思います。少なくとも現在の構成としては、審査会が中間指針を設け、それによって行われた東電との交渉結果に不服があればADRに申し立て、ADRも含めたそれらの結果に不服がある人は訴訟を提起して、最終的に訴訟で個別的な解決が図られるという仕組みだと思います。そういう意味では、今回特に最高裁の判決がなかったので、高裁の7つの判決はそれぞれ個別の判断ということになり、その個別の判断が中間指針を上回ることは、ある意味で予定されているということになると思います。
 この中で仙台高裁の各判決は、地域ごとに一律の判断をしていますので、基準を変えたように見えますが、実は基準を変えているという評価は法的には変なので、各東京高裁で個別認定したのと同じ効果しかないと考えられます。そういう意味では、中間指針の改正に当たっては、先ほど話があるように、被侵害利益で評価が不十分なものはないのかとか、そういった観点から見ていくのが本来だろうという風に思います。
 金額等についても、中間指針として改定する必要があるのかという観点になろうかと思うんです。しかし、今回も出ていますし、ずっとそういう意見は出ていますけれども、この建前が被害者の方々にはなかなか理解していただけない。多分ずっと理解していただけないわけです。被害者の方の要求は、むしろADRで解決することを要することなく、ADRや判決が認める金額をなぜ東電が直接交渉で認めないというのが不満なわけです。今回のように判決が出ますと、これだけの判決の内容を他の人にも直ちに認めてほしいと考えるわけで、要するに中間指針の制度の建前とのギャップがありますので、それを我々がもうちょっと考慮しないわけにもいかない。それと同時に、中間指針の役割といいますか、制度の建前を変えるというのはなかなか難しいところがあるので、このあたりについても議論が必要になるのではなかろうかというふうには思います。
 当然金額のほうは、もともと裁判例等を参考にしながら基準というのは決めていきますから、そういう意味で今回いろいろ出た高裁判決に基づいて、基準を変えていくというのはもちろん十分あり得るというふうに思います。
 さらに最後に審査会としての姿勢ということになると、やはり各判決がどうこうというよりは、現在の被害実態を見て、中間指針を決めた当時は、まだ将来のことで分からなかった要素がありますが、今はもう相当な事実が明らかになっていますので、それを前提に、中間指針としてどういう基準を審査会は打ち出すのかということが注目されていると思います。そういう意味で、中間指針としては、こういう被害実態をこういうふうに評価しますというのが本来であって、それが裁判とずれていても、それは我々の責任でやっていくことだと思います。また、あと現在30以上の裁判が控えているので、それがどうであっても我々としてはこうするんだという意識が最終的には必要なのかなと思います。極めて難しいところですけれども、判決の金額との違いだけに拘泥していると、ちょっと我々の方向を見失うことがあろうかなと思っております。
 それで、最初に今日の中間報告の評価をしておりませんでしたが、とても精緻な分析がされており、個人的に7つの高裁判決を見比べているだけではなかなか頭の整理がつかないところでしたが、これによってすごく整理ができました。本当にありがとうございました。その上に立って、今後我々の中間指針の在り方の観点から、どの要素を考えていかなきゃいけないかを勉強させていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございました。
 ほかにはありますか。では、江口委員、どうぞ。
 
 
 
【江口委員】  江口でございます。まず、専門委員の先生方には、この7件の判決の膨大な情報量というものを大変分かりやすくまとめていただいて大変感謝しております。どうもありがとうございました。
 その上で、私のほうとして2点ほど確認したい点があります。ちょっと細かいことを言うので、富田委員の後で何かすごく細かいことを言うようでちょっと恐縮な点もあるんですけれども、1点目は、避難生活に伴う精神的苦痛のところで、それについては、中間指針における月額慰謝料の中で考慮されていると考えられるというふうに結論づけられています。この7つの判決の中で、額の問題として、いわゆる高松高裁の判決だけが、言わば避難継続慰謝料を月額12万円というふうに持ってきたんです。これはほかの中通り判決を除いて、ほかの4つの判決と食い違っちゃっているんですけれども、この違いということについて、何か検討された点はあったのかなということを思いました。
 なぜこのようなことを申すかと言いますと、いわゆる自主的避難により慰謝料の額のところでも、高松高裁の判決は一部を月額で示して、それに月数を掛けるというような形で金額を出しているところがあるんです。そうすると、さっきの避難生活に伴う精神的苦痛の慰謝料の金額の問題というのが、自主的避難による慰謝料の額の問題とも連動するというところがあるのかなというふうなことも思うんですから、もちろんこの点については、今後自主的避難による慰謝料の額についてもさらに検討を進められるということですので、その中で併せて検討されるんじゃないかなとも思いますので、今日の時点で何かお答えをいただきたいというのは一切ありませんで、そこの高松高裁の判決だけがちょこっと違うところについて、何か原因なり、それをどういうふうに理解するかというのも、最後の自主的避難による慰謝料のところでまたお聞きできればなというふうに思います。
 それから、もう1点は、まとめのところで出てくる伝統的見解との比較という問題なんです。これは故郷の喪失・変容による慰謝料について、今後の検討の中で伝統的見解との比較という言葉が出て聞きまして、これは恐らく避難を余儀なくされたことによる慰謝料のところでも出てきていいのではないかなと思ったんですが、先ほどの末石専門委員の御発言からすると、もう何かある程度答えが出てきているようなところもないわけではないんですが、伝統的見解との比較というのが、今回の判決を見たときにどういう位置づけなのかなと。ただ、そこについてはぜひお聞きしたいなと。本当に民法学の権威である先生方も検討に加わっていただいているので、民法学の立場から見るとどうなっていくんだろうというところも、恐らく伝統的見解との比較というのはそういうことも意味しているのではないかなと思いますけれども、ぜひお聞きしたいなという、これは要望のようなものです。
 以上です。
 
 
 
【内田会長】  それでは、大塚専門委員からお願いできますか。
 
 
 
【大塚専門委員】  難しい問題を、2つ提起していただきまして、どうもありがとうございます。さすが元裁判官でいらっしゃるなと思いましたが。
 第1点でございますけれども、松山の高松高裁については、愛媛に避難した方についての個別事情もあると考えておりますが、さらに検討していきたいと思っております。どうも重要な御指摘ありがとうございました。
 それから、2つ目の点でございますが、伝統的見解との関係は実はかなり議論をしました。避難を余儀なくされた慰謝料との関係との関連でも、19ページ(資料3の10ページ)のところに出ているこれまでの賠償実務というところで、そこに簡単に書かせていただいております。ただ比較すべきものが何かということ自体が大きな問題ですが、ここにある後遺障害のある人身損害との関係で、症状固定時の前と後で2つの損害項目に分かれると考えることもできる、あるいは単なる考慮要素として2つあるという考え方もあると思いますが、仮に2つに分けることができるとすると、症状固定時の後のもの、つまり、後遺障害は、生活基盤損害に当たるのではないかと思われます。
 そして、症状固定前のものについては、避難慰謝料に当たるのではないかというような議論いたしました。ただ、他方で原子力損害賠償の具体的な事件が発生したのは今回が初めてですので、伝統的な見解といっても、実際には伝統的なものは交通事故が多いものですから、どうしても交通事故のケースに引っ張られていくんですが、そもそも交通事故と今回の原子力損害賠償のケースは類似したものと考えていいかどうかという、もともとの根本的な問題が実はございますので、伝統的な見解に引っ張られた形で議論するのが適切かどうかということも含めて検討させていただき、結果的に少し短く、伝統的な考え方はこういうものがあるということを書いているというのが、現在の状況でございます。
 そこに関しましては、まさにかなり議論を交わしたところでございます。ほかの専門委員の先生方も、何か一言おっしゃっていただきたいところがあるかもしれませんので、私としてはその程度にさせていただきます。ありがとうございます。
 
 
 
【内田会長】  では、ほかの専門委員の先生から何か今の点について御発言ありますでしょうか。
 
 
 
【米村専門委員】  そうしましたら、一言だけ説明させていただきます。
 2点目の御指摘は大変重要な問題ですので、引き続き私どものほうでも検討させていただきたいと思っております。今、大塚専門委員から御紹介いただきましたように、この点はかなり議論をしたところでして、ただ伝統的見解というのがどのレベルの問題なのかというところも若干の問題であるように思います。単に、損害論における慰謝料の技術的な位置づけについて、従来の実務的な取扱いと今回の裁判例の取扱いが違うということだけであるならば、必ずしも伝統的見解と違うということを強調する必要はないのではないかというのが私自身の理解です。「伝統的見解」と言われるものの中に、本質的に損害賠償制度の中核をなすような内容が含まれているのかどうかをきちんと検討して、仮にそうであるならば、それを大きく変えることは難しくなってくるかもしれませんし、あるいは変えるとすると、きちんとした説明が必要だということになるかもしれません。その意味で、「伝統的見解」と言われるものの中身をもう少し詳しく考えていきたいと私自身は考えているところです。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。日下部先生も御発言いただけますか。
 
 
 
【日下部専門委員】  ありがとうございます。伝統的見解との対比が必要なことだろうということで、専門委員の間でも議論をしてきたのですけれども、事案として多いのが交通事故なものですから、その実務に沿う形でというふうに考えたくなってしまうところなのです。ただそうしますと、原子力損害というほかに類のないものを、頻繁に起きる事案に無理に当てはめるということになると、そこにゆがみが生じるのではないかということで、慎重になる必要があるだろうというふうに判断されまして、今回の中間報告の中では、伝統的見解への配慮はしているけれども、それに当てはめるとこうなるというような、ある意味単純な考え方を示すということはしないようにしてきているものです。
 この点については、まだ専門委員の間でも、もっと議論をしていかなければいけないところだろうというふうに考えているところですので、まさに中間報告という位置づけになっているところかと思います。
 以上です。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。では、末石委員、お願いします。
 
 
 
【末石専門委員】  ありがとうございます。江口先生からは、先ほど私の発言からちょっと変な誤解を与えてしまったかもしれませんけれども、私としては、まず結論としては特に出ていないとは思っておりまして、ただ、やはり判決を見ると、避難を余儀なくされた慰謝料については、東京高裁と仙台高裁、高松の事件でやはり考え方は違っていて、伝統的な見解という話ですと、東京高裁の判断の枠組みというのがこれに近いのかなと思いますので、東京高裁がそういう判断枠組みを取ったということも、意味がないものではないんだろうなというふうには考えております。
 ただ他方、先ほどどなただったかな、お話があったとおり、中間指針にするというときの分かりやすさというか、そういったものも多分考えなければならないんだろうなというふうに思いまして、理論的には正直どちらが間違いということではないんだろうと私も考えておりますけれども、どうするのが適切なのかということは、今後もまた議論を進めてまいりたいというふうに考えている次第でございます。
 以上です。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。江口委員からはもう一言御意見がおありなのではないかと推測しますが、もしありましたらどうぞ。
 
 
 
【江口委員】  いえ、特にはございません。
 
 
 
【内田会長】  よろしいですか。ありがとうございます。
 ではちょっとお待たせしていますが、まず樫見委員から。その後、中田委員から御発言をお願いします。
 
 
 
【樫見会長代理】  樫見でございます。今の意見について、質問というよりは個人的な意見といいますか、述べさせていただきます。
 原発による被害というのは、やはり従来の不法行為に基づいて人身被害の事件類型、先ほどお話にも出ましたが、交通事故、それから公害等の環境被害、それから医療過誤等によって構築されてきました損害賠償の要素、あるいは算定方法、特に精神的損害を評価するための考慮要素については、今回の未曽有の原発被害については、やはり従来の考え方に対して、裁判例ですとか、今回の中間報告に出されましたように、新たに考慮要素が加わっているという印象を受けました。それがどういう形で最終報告に導かれるのかということについては、その内容が待ち望まれるというところでございます。
 とりわけ今回度重なる避難先への住居の変更、それから、地域から切り離された生活基盤ですとか地域社会との密着性が断絶したこと、家族の絆が失われたといったような事実の問題、これをどう反映させていくのか。それから、被害の一時性、一定期間性、あるいは永続性、こういった期間の問題、これらが私も裁判例などをざっと拝見いたしましたけれども、やはり中間報告において具体的に周知されたことで、より明快さが増したかということで、今回の中間報告、ありがたいと思っております。これが今後、最終報告においてどのように御意見が出てくるのか、待ち望まれるところでございます。
 あと1点は、現地視察の際に、被災した住民の多くが述べられた意見にもありましたけれども、東電の担当者の方が10年の長きにわたって、原子力損害賠償紛争解決センターによる和解の仲介の中で蓄積してきた損害賠償額を増額する諸要素、こういったものに対して、個別の処理事例がたくさんあるにもかかわらず、全くその活用した跡が見られず、中間指針の硬直的かつ画一的な運用がなされてきたという実態に対して、やはりどう我々は対処すべきなのかということについて、かなり真摯に対応しなければいけないのではないかなということを、個人的には思いました。
 以上でございます。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。
 では中田委員、お願いいたします。
 
 
 
【中田委員】  ありがとうございます。専門委員には短期間に精力的な仕事をしていただき、精緻な分析をしてくださいましたことに感謝しております。ありがとうございました。
 3点申し上げたいことがあります。専門委員に対するお願いが2点と、それから、仮に見直しをする場合に、当審査会において検討すべき課題1点でございます。
 まず、お願いの1点目ですけれども、これまでにも話題に出ておりました故郷の喪失・変容による慰謝料(生活基盤変容慰謝料)の検討、38ページに出ておりますけれども、これが私も重要だと思っております。その際に、ここからはお願いになるんですが、喪失と変容の関係、それから、故郷と生活基盤の関係、この分析が必要ではないかというふうに考えております。
 ある判決では、帰還困難区域について喪失、居住制限区域等について変容と言っていますが、別の判決を見ますと、包括的生活基盤の喪失ないし著しい変容と言っていて、著しい変容がより包括的なもので、全体を包摂するものであるような表現になっております。つまり、変容というのは、喪失に準じるものをいうのか、喪失を含む広い概念なのか、あるいは喪失とは違う性質や内容を持つものなのかということがちょっと曖昧になっているように思います。これは各判決で違っているから当然なんですけれども。
 それから、故郷と生活基盤についても、故郷はその地域を主として指しているのに対して、生活基盤は被災された方の生活基盤を指しているように読めると思いました。それぞれの判決はもちろんそれでよろしいんですけれども、中間指針の見直しをする場合には、この点は詰めておく必要があると思います。一方で明確化する必要があるし、他方で分断をしないようにするという、両方の要請に応えるためにも分析があったほうがいいかと思いました。
 それから、2番目は山本和彦委員や富田委員がおっしゃったこととも関係するんですが、総括基準を中間指針に取り込むということ、これは34ページ、39ページに出ておりますけれども、それは有意義なことだとは私も思うんですけれども、他方で検討課題もあるように思います。大きく言うと、中間指針と総括基準の関係をどう考えるのかということなんですけれども、より具体的に申しますと、仮に総括基準の一部を中間指針に取り込んだ場合、取り込まれなかった総括基準に対して、東京電力は、現在よりも増して消極的になるおそれがあるのではないかということを懸念いたします。それに対する対応も考えておく必要があると思います。ですから、中間指針への取り込みということについては、今のような点についても御検討を賜ればと思います。
 3点目は全体の話なんですけれども、中間指針の見直しをする場合に、この審査会で、その見直しの位置づけを検討すべきだと思います。まず高裁判決における中間指針についての評価も分かれているという分析がありまして、総じて過半は肯定的だけれども、一部には、控え目な基準を示したものだというような指摘もあるという御紹介がありました。そこで見直しをする際に、なぜ見直しをするのか。中間指針の性質そのものを見直すのかどうかということを考える必要があると思います。
 具体的に申しますと、見直しの形式に関わることでして、私の現時点でのイメージは、中間指針全体の性質を見直すというんじゃなくて、例えば第五次追補というような形として、その冒頭で、見直しの経緯と趣旨を示すということになるんじゃないかと思います。これまでの第四次追補までの成果を前提とした上で、裁判例の集積を考慮する、そして被害実態が固まってきたということを考慮するということで、従来十分検討されていなかった点について補足をすると、こういう理解でおります。
 これはさっきの第2点とも関係するんですが、やはり中間指針と総括基準、あるはADRセンターの位置づけということとも関係してきまして、私は見直しをしたとしても、ADRセンターの重要性は決して減らない、むしろ、ますます重要になってくると思います。それが変な方向に作用しないように配慮する必要もあろうかと思います。ということで、この点についても、どこかの段階で審査会としての基本的なスタンスを詰めておくのがよろしいかと思います。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございました。重要な御指摘もいろいろいただきました。
 あとほかに、古笛委員、どうぞ。
 
 
 
【古笛委員】  各委員の先生方からいろんな御意見が出たところで、重複するところもありますが、中間報告、本当にありがとうございました。
 実務家として、損害賠償を請求する、あるいは請求を受ける代理人として活動していることを踏まえてですが、基本的に、条文に従って、損害賠償の成立要件に従って、どんな法益侵害がなされたのか、それに基づいてどんな損害が発生したのかとアプローチせざるを得ないので、被侵害利益について考えたうえ、損害額についてまとめていただき、とても分かりやすかったです。
 とはいうものの、実際のところ被侵害利益といっても、分かりやすい交通事故の事案でも、傷害と後遺障害と死亡は分けて扱われるけれども、本当にこれらが別の被侵害利益なのか、生命と身体は別なのか、身体の究極のものが生命と考えると、被侵害利益は一諸ではないかという意見もないわけではなくて、結局、生命、傷害、後遺障害と分けるのは、分かりやすく損害を算定するためだという考え方もあるところですし、損害算定にしても、交通事故だと1か月通院したら19万という慰謝料基準があるけれど、何で19万なんだということを考えてみると、今まで積み重なった基準があるからということであって、なかなか人の精神的苦痛を金額算定するというのは難しいです。
 人身損害についてはある程度基準があるけれども、私たちが苦労する離婚の場合、どういう慰謝料がいいのか、極端なことを言うと、相手方の資力によって変わるなんていうところもあるぐらい、その苦しみを算定するのは難しいと思います。
 感想的なものになりますが、これらの裁判例も、何もないところからこの金額を算定するというよりは、むしろ中間指針があるからこそ、中間指針で一般化され尽くされていないものがあるかどうか、個別具体的な事情を踏まえて判決に至っているところなので、判決が出たなかで、中間指針ではカバーされていない個別具体的な事情なのか、それとももう指針として基準として踏み込んで取り入れるべき一般化できるようなものがあるのかどうなのか、検討させていただいているところです。
 先ほど伝統的な考え方の御意見があったんですが、やはり被害者の方から、国民の、県民の理解というお話もあったとおり、やはり他の人身損害ですとか、それ以外の分野での損害算定というものからあまりにも大きくかけ離れていると、なかなか理解を得ることが難しいという場面もあると思います。従来の人身損害に関する考え方に拘束され過ぎるというのはよくないと思いますが、あまりにも乖離するのもなかなか理解が得られないというところで、難しいところです。
 いずれにしても、中間指針があって、それを踏まえたうえで裁判例が構築されているので、どこまで一般化すべきかということを具体的に考えてみたいと思います。
 
 
 
【内田会長】  どうもありがとうございます。
 一通り御意見いただきました。ほかに御意見ございますでしょうか。大体よろしいでしょうか。
 大塚専門委員、どうぞ。
 
 
 
【大塚専門委員】  重要な御指摘をたくさんいただきましたので、その点を踏まえて、さらに検討させていただきたいと思っております。どうもありがとうございます。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。
 それでは、一通り御意見をいただいたかと思いますので、どうもありがとうございました。大変重要な御指摘をたくさんいただいたと思います。
 では、ちょっとまとめをさせていただきますが、このたび最高裁の決定を受けまして、審査会において、中間指針の見直しを含めた対応の要否について検討を行うに当たり、専門委員の皆様には、各判決の詳細な調査・分析に取り組むという、大変重く重要な任務に当たっていただいております。今回、中間報告という形でこれまでの検討状況についての経過報告をいただきましたけれども、まだ中間報告という段階ではありますけれども、大変精緻な分析が行われているということが十分にうかがえる内容になっているかと思います。
 本日、御報告をいただきました大塚専門委員をはじめとして、残念ながら本日御欠席であります青野専門委員、そして日下部専門委員、米村専門委員、末石専門委員の各5名の専門委員の皆様には、この場をお借りして、審査会を代表いたしまして感謝を申し上げます。
 その上で、各専門委員の皆様におかれましては、本日、各委員からいただきました御意見も踏まえまして、さらなる調査・分析を進めていただき、なるべく早い段階で最終報告を取りまとめていただいて、審査会に御報告いただきますよう、引き続きの御尽力をよろしくお願いいたします。どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、議題の3は以上とさせていただきまして、次に、議題の4がその他となっておりますが、今回は特に議題が設定されていないと聞いておりますので、本日の議事は以上になります。
 最後に、本日の審査会を通しまして、委員の皆様から何か御発言がありましたらいただきたいと思いますが、何かありますでしょうか。特にございませんでしょうか。
 ありがとうございます。それでは、本日の議事はこれで終了いたします。
 最後に、事務局から連絡事項をお願いいたします。
 
 
 
【川口原子力損害賠償対策室次長】  事務局でございます。
 まず初めに、本日の審査会、一部動画配信におきまして、僅かながらの時間、途切れた場面があったと聞いてございます。申し訳ございませんでした。
 その上で、次回第59回審査会の開催でございますけれども、改めて御連絡をさせていただきたいと思います。
 また、本日の議事録につきましては、事務局でたたき台をつくりまして、委員の皆様等に御確認の上、ホームページに掲載させていただきたいと考えているところでございます。
 以上でございます。
 
 
 
【内田会長】  ありがとうございます。
 それでは、本日はこれにて閉会いたします。長時間にわたり、熱心な御議論をいただきまして、誠にありがとうございました。
 


―― 了 ――

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