原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という。)において規定される損害賠償措置額(以下「賠償措置額」という。)は、原子力事業者の無限責任を前提として、万一原子力損害が発生した場合に、損害賠償責任の迅速かつ確実な履行を具体的に確保する基礎的資金としての重要性を有している。
賠償措置額は、昭和36年の原賠法制定時に50億円とされ、以降、昭和46年、昭和54年、平成元年、平成11年の法改正時にそれぞれ60億円、100億円、300億円、600億円と引き上げられており、いずれの場合においても、国際的水準を勘案しつつ、責任保険の引受能力等を踏まえ、賠償措置額を設定してきている。
現在、我が国の原子力発電は全発電電力量の3割を支えるベース電源としての役割を担うとともに、環境対策面での有効性からその重要性を増している。また、これを支える核燃料サイクルの面でも着実な進展を見せている。
一方、平成11年9月には、JCO臨界事故が発生し、初めて原賠法が適用され、当時の賠償措置額を大幅に上回る賠償金の支払いが行われるとともに、最近では、原子力施設の耐震性への不安が高まるなど、地域住民はもとより国民一般の原子力に対する不安感は解消されていない。
かかる観点から、今後とも原子力に関する国民の理解と協力を得て原子力開発利用を円滑に推進していくためには、賠償措置額について、国際的な水準を勘案しつつ、万が一原子力損害が発生した場合においても十分な対応ができるよう適切な額を定める必要があると考えられる。
国際的水準の指標となる金額としては、改正パリ条約、改正ウィーン条約においては、それぞれ7億ユーロ(約1,146億円)、3億SDR(約513億円)を、運営者の責任額の下限としており、CSC条約においては3億SDR(約513億円)を運営者の責任額の下限としたうえで、補完基金として一定の算式に基づく各国の拠出金が上乗せされる仕組みとなっている。
※ 円換算は平成20年6月2日の為替レート(1ユーロ163.77円、SDR171.01円)による
現時点での主要国の賠償措置額は別紙のとおりであるが、各条約の締約国は国内法を改正のうえ、これらの賠償措置額を充足することとなる。
賠償措置額については、運営者責任額の国際的水準、責任保険の引受能力等を勘案しつつ、その見直しについて検討を行う必要があるが、国際条約における賠償措置額を目安とした場合、次のオプションが考えられる。
原子力先進国にふさわしい賠償措置額を念頭に置いた場合、EU諸国が批准予定の改正パリ条約における運営者責任額(7億ユーロが下限)を目安に、同水準へ引き上げる方法が考えられる。この場合、賠償措置額を現在の600億円から1,000億~1,200億円程度へ引き上げることになり、賠償能力は大幅に強化される。
先述のとおり、仮に今後国際条約の締約を検討する場合、現実的な選択肢としてはCSC条約が考えられる。賠償措置額を上記(1)の水準に引き上げたうえでCSC条約を締約した場合、賠償措置額の考え方は次の2ケースが考えられる。
(1)の金額を超える損害が生じた場合に拠出金が発動することになる。制度としては簡潔だが、拠出金が発動する機会は制限され、3億SDRの国と比べ不平等が生じる。
3億SDR相当額の賠償措置額を超える場合に拠出金が発動し、それでも足りない場合に、(1)と3億SDR相当額との差額が更に支払われることになる。この場合、3億SDRの国と同等になるが、制度としては複雑になる。また、保険対応等、制度として成り立つか検討する必要がある。
賠償措置額を(1)の水準に引き上げる場合、原子力保険プールの引受能力を確認する必要がある。
現在の賠償措置額である600億円は、CSC条約が求める3億SDR(約513億円)を既に充足していることから、賠償措置額は現水準を維持する。仮にCSC条約を締結した場合、賠償措置額を超える損害部分については他の締約国から拠出金を受け取ることができ、賠償能力は現状より強化される。
研究開発局原子力計画課