資料4-1 原子力損害の賠償に関する法律の改正事項について(前回までのまとめ)

第1 法律の適用期限の延長

  政府補償契約の締結及び原子力事業者に対する援助に関する規定の適用の期限について、10年間延長するものとする。(原賠法第20条関係)

  政府と原子力事業者との間で締結する原子力損害賠償補償契約(第10条第1項)、及び原子力損害が賠償措置額を超える場合に政府が原子力事業者に対して行う必要な援助(第16条第1項)について、その適用が平成21年12月末日までに開始した原子炉の運転等に限定されている(第20条)。これは、原子力の利用に係る科学技術の進展や民間の責任保険のてん補範囲の拡大の状況等を踏まえ、政府による措置の必要性を期限の到来時点で適切に判断しようとする趣旨による。
  現時点では、民間の責任保険で担保できる範囲の拡大は見込まれておらず、原子力事業者の資金調達能力を超えるような大規模の原子力損害が生じた場合の政府による援助についても、国民の理解を得ながら原子力利用を進める基盤として引き続き必要である。さらに適用期限の設定は、期限の到来を契機として原子力損害賠償制度の全般を見直すという役割も果たしてきている。
 これらを踏まえ、従来と同様、適用期限を10年程度延長することが妥当である。

第2 賠償措置額の見直し

  原子力事業者が講じなければならない損害賠償措置として、原子力損害の賠償に充てることができる金額について、1工場・事業所当たり1,200億円程度に引き上げるものとする。(原賠法第7条第1項関係)

  加工・使用等に係る賠償措置額の少額特例の在り方、解体中の原子炉に係る廃止措置の段階に応じた賠償措置額の少額特例の創設、政府と原子力事業者との間で締結する原子力損害賠償補償契約の補償料率の引下げ等について、引き続き検討を行う。(政令関係)

1.原子力事業者が原子炉の運転等に当たって講じなければならない損害賠償措置(第6条)の内容として、原子力損害の賠償に充てることができる金額(賠償措置額)は、1工場・事業所当たり600億円とされている(第7条第1項)。賠償措置額は、万が一原子力損害が生じた際に原子力事業者が賠償責任を迅速・確実に履行するために、基礎的な資金の調達の見通しをあらかじめ確保しようとするものであり、国際水準、民間の責任保険の引受能力等を勘案して設定されてきた。
  前回の改正後、2004年(平成16年)にパリ条約が改正され、原子力事業者の責任限度額の下限を3億SDR(特別引出権)(約513億円)から7億ユーロ(約1,146億円)に引き上げ、それと同額の保険その他の資金的保証を原子力事業者に義務付けることとなった。EU諸国では、改正パリ条約に対応した国内法の改正が進められており、民間においても各国間の再保険市場が整いつつある。
  これらを踏まえ、保険会社と原子力事業者との間で締結する原子力損害賠償責任保険契約について、再保険契約の締結の可能性も含めて我が国の保険会社の引受能力を今後確認した上で、賠償措置額を1,200億円程度にまで引き上げることが妥当と考えられる。

2.1のほか、例えば以下の事項については、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(昭和32年法律第166号。以下「原子炉等規制法」)における規制との整合性や保険技術等の観点を加味しながら、検討を継続する。

加工・使用等に係る賠償措置額の少額特例の在り方

  加工・使用等に係る賠償措置額の少額特例(現行は120億円又は20億円)の引上げについては、上記1の法定措置額の引上げのみならず、JCO臨界事故の被害規模・実際の賠償総額、諸外国における少額特例に関する立法の動向等を踏まえて検討を進める。

解体中の原子炉に係る廃止措置の段階に応じた賠償措置額の少額特例の創設

  解体中の原子炉に係る現行の賠償措置額については、発電期間中と同額であることに合理性がなく、平成14年に原子炉の廃止に対する規制の在り方を合理化する原子炉等規制法の改正がなされたこととの整合性を確保しながら、炉心からの使用済燃料の取出し等の段階に応じた合理的な少額特例の創設を検討する。

原子力損害賠償補償契約の補償料率の引下げ

  上記1の法定措置額の引上げに伴っては、原子力損害賠償補償契約の補償料に係る補償料率について、保険技術的観点から、近年のリスク評価や民間における保険料の動向等を踏まえた引下げを検討する。

第3 罰則の厳格化

  損害賠償措置を講じる義務の違反、行政庁への虚偽の報告等に関する原子力事業者に対する罰則について、原子炉等規制法における罰則との均衡を考慮して、罰金の水準を引き上げるものとする。(原賠法第24条・第25条関係)

  原子力事業者又はその職員に対する罰則としては、損害賠償措置を講じることなく原子炉の運転等を行った場合(第24条)、行政庁への報告の懈怠・虚偽の報告の場合(第25条)の罰則とそれぞれの両罰規定(第26条)が設けられている。特に罰金の水準については、原子炉等規制法における罰則の水準を勘案して設定されてきており、前回の改正後の平成14年に、原子力発電所における自主点検記録の不正事件の発生を受けて、原子炉等規制法では罰金の水準の引上げと両罰規定に係る法人重課の導入が行われた。
  これを踏まえ、原子炉等規制法における罰則との均衡を考慮し、原賠法における罰則規定を厳格化し、罰金の水準を引き上げることが妥当である。ただし、両罰規定については、原子力損害賠償制度に関する組織的な不正行為の可能性が非常に低く、それによって不当な経済的利益を得ることも想定されないため、法人重課は導入しないこととするのが適当である。

原子炉等規制法 対象 立法時 昭和52年改正 昭和61年改正 平成14年改正
設置許可の変更の懈怠等(第78条) 1年以下の懲役又は10万円以下の罰金 1年以下の懲役又は30万円以下の罰金 1年以下の懲役又は50万円以下の罰金 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
虚偽報告・検査拒否等(第80条) 1万円以下の罰金 10万円以下の罰金 20万円以下の罰金 100万円以下の罰金
原子力損害賠償法 対象 立法時 昭和54年改正 平成元年改正
賠償措置義務の違反(第24条) 1年以下の懲役又は10万円以下の罰金 1年以下の懲役又は30万円以下の罰金 1年以下の懲役又は50万円以下の罰金
虚偽報告・検査忌避(第25条) 1万円以下の罰金 10万円以下の罰金 20万円以下の罰金

第4 国の措置及び原子力損害賠償紛争審査会の所掌の見直し

  公平・迅速な賠償の履行の確保に資する観点から、国において、原子力損害に関する全体像を把握し、必要に応じ、同一の原因から生じた原子力損害の賠償に当たっての基本的な考え方を提示できるものとし、その際、原子力損害賠償紛争審査会に必要な調査審議を行わせるものとするほか、国の措置・原子力損害賠償紛争審査会に関する業務を円滑に行うための方策(資料4-3参照)も含め、引き続き検討を行う。(原賠法第18条関係等)

1.仮に原子力損害が生じた場合には、早期に原子力損害の全体の状況を把握することが重要であり、それに基づき、賠償の基本的な考え方、原子力損害賠償責任保険契約・原子力損害賠償補償契約の査定基準、原賠法第16条に規定する政府の援助の必要性や措置等を具体的に検討することが実効的となる。
  また、原子力損害の賠償請求は短期間に多数の案件が生じるため、個別事案ごとの解決の支援にまして、同一の原因から生じた原子力損害全体に共通して適用できる賠償の基本的な考え方(損害費目・相当因果関係・損害額の算定方法等)を関係者間で共有することが重要である。
  前回の改正後のJCO臨界事故の際には、科学技術庁(当時)の委託により設置した「原子力損害調査研究会」において、日本原子力保険プールの協力も得て損害の概況を把握しながら、損害費目ごとに相当因果関係の範囲や損害額の算定方法等の基準となる基本的な考え方がとりまとめられ、結果として、当事者間における和解の交渉の進展に一定の寄与を果たしたものと評価できる。
  これらを踏まえ、公平・円滑な賠償の履行を確保するためには、「原子力損害調査研究会」が果たした役割を責任ある主体が確実に担う仕組みとすることが必要であり、今後は国の責任において、原子力損害の全体像の把握を行い、必要に応じ、事故ごとに原子力損害の賠償に当たっての基本的な考え方を提示できるようにすることを明確化することが妥当である。
  なお、このうち賠償の基本的な考え方については、必要に応じて適切に国から提示することにより、当事者間の自主的な解決の円滑化に資することを目的とし、当事者(訴訟に至った場合には裁判所)に対する法的な拘束力を付与するものではない。

2.上記1については、中立性や法律・医療・工学等に関する専門的な知見が必要とされること、行政改革の観点からは既存の機関を活用するのが望ましいこと、原子力損害に関する紛争が生じた際の和解の仲介とそれに必要な調査という「原子力損害賠償紛争審査会」(以下「審査会」という。)の業務と類似性があること等から、審査会に調査審議させることとするのが実際的である。
  この場合、公平を重視した一般的な基準の提示と個別の仲介事案におけるその適用・調整とは、それぞれ目的の異なる重要な作用であるため、審査会の内部組織の設計や名称等を引き続き検討する。
  また、こうした国の措置・審査会のほか、原子力損害賠償補償契約に係る国の業務については、保険会社の協力を得ることが現実的かつ不可欠であることから、法制上整備を要する事項の検討を継続する(資料4-3参照)。

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