4.現在の防災教育における課題

(1)防災教育に携わる人についての課題

    防災教育に携わる人・携わる可能性のある人の類型としては、1防災教育の必要性等に気付いていない(内発的動機付けがない)人や防災教育の必要性に対する意識があまり高くなく、後回しになってしまっている人、2防災教育が必要だと思っているが、やり方が分からない人や防災教育を始めたが、どのような教材を使うべきか分からない、面白い教材が見つからない、「担い手」・「つなぎ手」が見つからない人、3いろいろな資源を集めて防災教育にいきいきと取り組んで成果を上げている人、等に分けられるが、それぞれに応じた防災教育の在り方についての分析は十分なされていない。

  防災教育を面的に広げるためには、特に前述の防災教育に関心が高い層あるいは積極的に取り組んでいる層である3の人達が作り上げた成果が、2の人達の刺激や支援となり、1の人達に防災教育を実施するための気づきを与えることが重要であるが、現在は、防災教育の優れた取組が特定の学校や地域等の「点」で行なわれるのみに留まることが多く、市町村の防災部局や教育委員会、警察・消防、自治会、さらには近隣の大学・研究機関等からなる面的なネットワークの構築、それに関わる人材が不足しているとの指摘がある。

  特に、学校が中心となって地域と学校とを結びつける、或いは地域が中心となって学校と地域とを結びつけるという、相互交流に係るシステムができておらず、学校や地域において防災教育の「担い手」・「つなぎ手」となるべき人材や、自然科学の知識を有する人と教育に携わる人との間を橋渡しできる人材(例えば防災を理解している教職員や地方自治体の防災関係者等)が不足しているとの指摘がある。

  また、防災教育の「担い手」・「つなぎ手」、さらにその受け手が防災教育の成果を発信できるようにしたり、互いにつながることができる場を提供していくための取組や、意欲はあるものの、防災教育の「担い手」・「つなぎ手」となるまでには至っていない人を育成するための取組、さらに、これらの人達が活躍できる場づくりや取組に対する評価も十分になされていないとの指摘がある。

  学校における防災教育では、教職員等の学校関係者に防災教育の大切さやを理解させることが重要であるが、そのような防災教育の側面を発見できるような研修は十分に行われていないとの指摘がある。

(2)防災教育の内容についての課題

  防災教育において、年齢や地域等に応じて身につけるべき防災知識は何か、どのような内容をどのような順番で教えるべきか等、どこの学校や地域でも普遍的に取り組めるような防災教育のミニマムスタンダードが示されていることが必要であるが、現状では体系化が十分なされてはいないとの指摘がある。

  防災教育の「担い手」・「つなぎ手」が利用できるような多くの種類の防災教育の素材やコンテンツを作るとともに、自由に選択できるようにすることが有益であるが、これまでの素材やコンテンツの多くは 「担い手」・「つなぎ手」が活用できるようなものにはなっておらず、作成した人が自ら活用するのにとどまっており、成果の水平展開や共有が不十分であるとの指摘がある。

  また、防災教育の素材やコンテンツについては、災害時の現場の様子や教訓に加え、科学的な知識、助け合う心、災害から立ち上がる力等のバランスの取れた知識を学ばせる教育を行ったり、災害の仕組みやイメージ、それに対してできること・できないことを踏まえた上で、何を伝え、学ばせるべきか等が明確になっておらず、不十分であるとの指摘がある。

  防災教育の重要な受け手としての児童生徒等を対象としていることに鑑み、小学校・中学校・高等学校等、学校種別・学年別のつながりを発達段階に応じて整理することが必要である。例えば、小学生に対しては家族や地域と共に災害に立ち向かう態度や防災に関する基礎知識を学習させる、中学生に対しては地域防災を担う必要性を学習させる、さらに高校生に対しては防災教育を学ぶことで社会の中での役割や、将来の課題を自分の力で解決する方策を学習させる、といった視点が必要であるが、そのような体系化はなされていない。

  また、災害現象や防災科学技術の研究成果を用いて、例えば、地震・津波・火山噴火・台風・竜巻等の自然現象の発生メカニズムや、現実の災害の映像、地球シミュレータ等のシミュレーション結果や地盤構造・住宅構造などの情報を入力することによって自分の住環境に近い状況を再現できる災害シミュレータ等による予測手法、土木構造物や建築物などの人工物、その耐震補強等の効果が実感できるような簡単にできる実験等の防災教育の内容が必要である。このような自然災害の性質から対策までを合わせて学べるような教材や、自然と人間の関係のような内容までを踏まえた、単なる災害の現象論のみに留まらない防災科学教育プログラムの開発、優良な国内外のサイトの体系的な提供等が考えられるが、そのような事例は現在あまり見られない。また、科学技術を内容として扱う場合、教える側の学習も必要となるが、そのような防災科学教育の学習機会の提供は十分なされていない。

(3)防災教育の方法についての課題

  防災について生涯に渡って学んでいけるようにするためには、自ら問いかけて課題を発見し、調べ、結果をまとめ、発表し、その上で、教員や生徒同士の評価を経て調べなおす等の学校内外の人々のコミュニケーションを取ってゆくという能動的学習が必要であり、今後そのような取組が広がっていくことが重要である。

  児童生徒は教えられる側であることのみならず、年齢が上がるに従って、教える側に立つこともあり、そのために自分で能動的に学習することが必要であるが、そのような取組への支援は不足している。また、我が国全体の防災力の向上を考えた場合、まずは吸収力の高い児童生徒を対象に、将来の担い手やつなぎ手として育てることが極めて有効であり、学校における防災教育を充実していくことは重要である。合わせて、児童生徒を通じて家庭の安全対策を促進するという副次的効果も考える必要がある。

  防災教育の場としての学校に継続的に防災教育の仕組みを構築していくための支援方策についても、今後充実させてゆく必要がある。現状では、例えば、防災教育に熱心な教職員がいたとしても、その教職員がいなくなると優れた防災教育の取組が継続されなくなってしまうという指摘がある。

  さらに、防災教育の場としてのPTA活動等を通じ、幼稚園児、保育園児の保護者等の人達に、災害時に互いに助け合う精神を育むことも考えられるが、現状では、そのような取組はほとんどなされていないとの指摘がある。また、地域の防災訓練については、災害時要援護者である高齢者を中心に行なわれており、児童生徒や保護者等の参加はほとんどないという指摘もある。

  学校において防災教育に熱心に取り組む教職員等を育成し、地域の人材と一緒に防災教育に携わる等、教育委員会、PTA、自治会、青少年団体、各種組合等の学校と地域のネットワークの連携や、小学校と中学校、小学校と高等学校等の学校間の連携が必要であるが、そのような検討は十分なされていないとの指摘がある。

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