次世代放射光施設検討ワーキンググループ(第5回) 議事録

1.日時

平成26年11月5日(水曜日) 15時00分~17時00分

2.場所

文部科学省 3階 特別第2会議室
千代田区霞が関3-2-2

3.議題

  1. 次世代放射光施設のあり方について
  2. その他

4.議事録

【高原主査】  それでは、定刻になりましたので、第5回次世代放射光施設検討ワーキンググループを始めさせていただきます。本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。
 今回は、尾嶋委員、北岡委員、北川委員、小松委員、櫻井委員、菅原委員が御欠席との連絡を受けております。
 それではまず、事務局より配付資料の確認をお願いいたします。よろしくお願いいたします。
【岡村補佐】  10月6日は台風の影響により急きょワーキンググループを中止とさせていただきまして、皆様には誠に御迷惑をお掛けいたしました。本日はどうぞよろしくお願いいたします。座って失礼いたします。
 まず、お手元の資料を御確認ください。ドッチファイルにて過去4回の会議資料及び各施設の運転時間や人員情報を補足する「日本の主な放射光施設 基礎資料」を御用意しておりますので、御議論に当たって是非御活用ください。
 資料1は前回会議の議事録でございます。皆様には既に御確認いただいているものですが、公開資料となりますので、もし反映漏れなどございましたら本日の会議終了時までに事務局までお知らせいただければと思います。資料2は本日の委員プレゼン内容の補足資料でございます。資料3としては、今後のワーキンググループの開催予定に関する資料を準備してございます。これについてはまた後ほど議題2のほうで御説明させていただきます。
 以上、何か欠落などございましたら、事務局までお問合わせ願えればと思いますが、よろしいでしょうか。
【高原主査】  お手元の書類はよろしいでしょうか。
 それでは、本日の議題に入りたいと思います。本ワーキンググループとしては、次世代放射光施設に求められる性能・機能を幅広く議論することが主な目的となっておりますので、本日は、各分野のサイエンスを深化させるためにはどのような光が必要かといった点について、前回のワーキンググループで配付しました「今後の次世代放射光施設ワーキンググループにおける議論の観点について」を適宜御参考いただき、是非活発に御議論いただければと思います。
 まず議題の1でございますけれども、本日は、上村委員、渡邊委員、雨宮委員に発表をお願いしております。委員の皆様には、今後取り組むべき研究課題について、次世代放射光施設に期待する貢献について、次世代放射光施設に期待する運営の在り方についての3項目についてプレゼンを行っていただきます。プレゼンごとに15分程度で説明をいただきまして、10分程度の質疑の時間を設けます。また、3人の先生方のプレゼン終了後、最後に全体統括の意見交換として30分から40分程度時間を設けたいと思います。
 それではまず、上村委員より説明をお願いいたします。よろしくお願いいたします。
【上村委員】  どうも高原先生、ありがとうございました。帝人ファーマの上村でございます。私は大学院のときからずっとX線一筋でございまして、初めは低分子、それから、今はタンパク質の結晶解析を創薬に役立てるということをしておりますので、その旨よろしくお願いいたします。
 このスライドは今年世界結晶年ということで、カナダで開かれましたモントリオールでのお話の中にもあったのですが、X線関連のノーベル賞の年表です。X線の発見というのは、皆さん御存じのように、1900年のレントゲンに始まって、それで、LaueとかBragg等の結晶から反射が出るというのが分かって、その後、1950年にDorothy Hodgkinや、それから、皆さんよく御存じのWatson、CrickたちのDNA、それから、球状タンパクのミオグロビン、ヘモグロビンの解析がございました。その後、直接法が出てきまして、その後に今度は膜タンパク質というような形で出てきております。それで、2000年に入りますと、大きな膜タンパク質が解けるようなりまして、リボゾームの解析とか、GPCRは2012年、まだ記憶に新しいところだと思います。そういうふうに考えますと、生体高分子が62年にノーベル賞を取ったということを考えますと、まだまだ新しい分野であることをリアライズされると思います。
 それで、その後、タンパク質の3次元構造のオープンなデータベースであるプロテインデータバンクが1971年から結晶学者のボトムアップの声から作られるようになりました。それで、産業界としましては、私が始めた頃は、タンパク質というのは会社のスループットに合わなくて、まず低分子の解析から始まったわけです。それから粉末回析とか、酵素などの球状タンパク質を用いたSBDDとかございまして、やっと今、膜タンパク質が始まったということです。まずアカデミックにおいて原理、それから、技術、手法などが開発された後、産業界がそれを利用してどんどん現実に役立つプロダクトに連携していったという、こういう流れがよく分かるのではないかと思っております。
 先ほど申しましたけれども、プロテインデータバンクというのはすごいオープンソースであります。今、ビッグデータとかいいまして、オープンソース等、全然特許を取らないパブリックデータベースなるもののさきがけのようなものですけれども、このような形で今年はもう10万件を突破するような勢いです。これは日米欧の三極で合意して、どなたもタンパク質の三次元構造については特許を取らないで、人類共通の宝物としてどんなに使ってもいいという、ものでございます。
 この間、世の中ではもう低分子医薬品の時代は終わりなのではないかというようなことをお話しになった先生がおられたのですけれども、まだまだそんなことはございません。バイオ製剤というのは売上げランキングでは上位ですよね。なぜなら、結局薬価がすごく高いわけです。結局、RAの注射剤とかは月5万円自己負担をしなければいけない。自己負担分でこの額ですから、保険負担分を考えますと、国からどれだけバイオ製剤のためにお金を出しているかということが分かると思います。ですから、こうなりますと、貧乏な人は使えないわけです。だから、本当に安全で安心な低分子薬があれば、より多くの例えばRAの患者さんがそれによってメリットを受けるということで、依然低分子薬の需要は非常に高いということを申し上げなければならないと思います。
 SBDDの創薬過程、SBDDとはStructure-Based Drug Designの略なのですけれども、いわゆるタンパク構造に基づくドラッグデザインの創薬過程におけます放射光の利用というのは、最初に化合物スクリーニングをするときにタンパク質の3次元構造が分かっておりますと、そこを基にして、鍵と鍵穴のように一番うまくヒットするものを、ヒット化合物のスキャフォールドを見付ける段階から使っていきます。
 一番頻度を高く使うのは、ヒットからリードあるいはLead化合物最適化というところで、結局、活性をどんどん上げていくときに、全く構造がないものに比べて、構造がありますと、どこにメチル基を生やしたら何乗上がるというような創薬合成化学者の化合物デザインのアイデアが非常に膨らむわけです。だから、標的タンパク質の構造があるのとないとでは大違いだとうちの合成研究者たちは言います。今、シミュレーションなんかもありますけれども、シミュレーションでは結局、細かな側鎖の動きや何かまでは詳しく分かりません。一つ側鎖が動くことでそこに新たなポケットができたりするわけで、そこに関しましては非常にX線の力が創薬の段階で必要なところであります。これで、合成と、それから、in vitro Assay、バイオアッセイとか、それで、X線に基づくデザインというのは、これを何遍もぐるぐる回しまして、それでコスト性を加味して価格も考えたうえで安全な薬を作るという形になっております。
 このSBDDアプローチに我々が取り組んだのはちょうど1990年初めのときでございます。このときに帝人がMSIというソフトフェア会社の日本法人、MSI社の株を買いまして、それがアクセルリス社となって、その後、ダッソー社になっているのですけれども、TMSIとして立ち上げました。同時にMSI社の顧問だったアカデミック先生に、自由にアクセスできて、帝人社内でマテリアルもバイオロジーもMSI社の持っているソフトウェアすべてをフリーで使用できるという強い契約を締結していただきました。ですから、実際に定価で買うとパーぺチュアルライセンスフィーとして何十億、何百億となるようなソフトウェア群がすべて使い放題いう恵まれた環境だったことがございます。
 しかも顧問のお一人であったハーバード大学のマーティン・カープラス先生は去年ノーベル化学賞を取られましたけれども、彼のところに行って、まだ発展途上のMCSSというプログラムの開発段階に係ることができました。薬のフラグメントを創薬標的タンパクの表面にまきびしのように巻きまして、それぞれのフラグメントにとってどこが一番安定かというところが分かるのですけれども、そのプログラムをここに示しますと、一つ一つのフラグメントを作るところから関与することができました。弊社の研究員が薬のパーツとして必要なフラグメントをいろいろ作ったものを今、皆さんがプロダクトとなったソフトウェアで使っているというような状態です。カープラス先生は純粋にタンパクの力場開発の計算化学の先生なので、薬の構造となるフラグメントはどういうものがいいかとかそういうことも分からなかったわけです。ですから、そこを共同で実施できたということになります。 例えばここはカルボン酸が安定だとか、ここはベンゼンが安定だとか、ここはシクロヘキサンが安定だというのが分かりますと、そこのクラスター中心をこんな形で簡単なファーマコフォアを作りまして、そこでインシリコスクリーニングという、ここのファーマコフォアを満たすような化合物をスクリーニングする手法をとります。これは別にバーチャルなわけですけれども、こういう化合物の中からこのぐらいがファーマコフォアに一致して、それで、そこから先は、いわゆる薬に本当になるかどうかというのは、メディシナルケミストの目でスクリーニングを行いまして、50化合物ぐらいに絞ります。
 これはまだ今メドケムが論文化しているところでして、皆様のお手元の資料にはないのですけれども、こういう形で例えば1年で60化合物合成で、これが660マイクロモーラーぐらいのところから60コンパウンド/1年で3,300ナノモーラーになりまして、その後、60化合物/半年で6ナノモーラーというような形になっていく。だから、1,000倍、1万倍というような形で短期間にどんどん活性が上がっていくわけです。これはタンパク質側の立体構造がないとこんなに速くは行かないわけです。だから、ランダムに作っては、いわゆる低分子のみで構造活性相関をやっていくのと比較して、タンパク質側の立体構造情報があるとこのような形で少ない化合物の合成で1万倍以上の活性向上がわずか3年半ぐらいで効率的にできるわけです。だから、タンパク質の構造があるということがとても重要かつ効率的な創薬手段になりうるということが分かると思います。 これが最後に到達した構造ですけれども、こういう形で電子密度が非常によく分かるような形で結合していて、まさに先ほどのカルボン酸がここで、ここにベンゼンだという、そういうファーマコフォアを満たした形で最後まで行くわけになります。
 今度は一般的な話になります。我々が使っている国内のビームラインですと、日本ですと、Spring-8の32番XU、これは非常に強いビームラインです。それから、BL41なんかもSPring-8ではよく使わせていただきます。それで、昨日もデータ測定に行ってきたのですけれども、PFですとBL1AとかBL17Aですね。マイクロフォーカスに細く非常に強いビームが出るというところでないと、我々のスループットを維持するために、結晶が大きくなるまでとても待っていられないような感じで毎週毎週メドケムに情報をフィードバックしていくという状況ですと、こういうようなビームラインをよく使わせていただいております。
 それで、製薬協でも、蛋白コンソーシアムという形で2001年に、当時は22社で、この間合併等しまして最後は19社になったのですけれども、2002年にSPring-8に専有ビームラインで、石川先生たちのお力添えもありまして造ったわけです。これをみんなでシェアして好きなだけ使えますよという形でやっていたのですけれども、10年間の設置期限が来まして、あと、ベンディングということもございましてなかなかその間に小さい結晶しかとれなくなってきまして、やはりアンジュレーターのビームラインがいいということで、ここで一応一つの使命は終えたということです。それで、スクラップにしようかということだったのですけれども、石川先生がそれは共用の方で引き取ってくださるということで、理研の方に寄附させていただいたというようなこともあります。
 今はもう自分たちの専用ビームラインを持っていないのですけれども、先ほど言いましたBL41とかBL32XU、それから、これは粉末のビームラインですけれども、こういうものをコンソーシアムの中でシェアして、コンソーシアムとして取って、その中で時間配分を分配してやっているという形です。
 次に、この蛋白コンソーシアムが終わった後に、創薬コンソーシアムとして今、16社として再出発しました。ここで合併等があって最終的に19社になって、3社は脱退しました。その理由というのは、脱退の理由に、世界中の放射光が自由に使えるからもう日本のコンソーシアムに入って日本のビームラインを使わなくてもいいという理由を聞きまして、危機感を感じております。今現在はこのような16社でやっております。
 一つの問題としては、前も話題には出ていますけれども、課題としては、SPring-8とPFが同じぐらいのときにシャットダウンしてしまうということがございます。それで、使えるのはこの白いところだけです。SPring-8は多少動くのかもしれないのですけれども、大体同じ時期にシャットダウンしてしまう。
 これは私がいろいろなホームページを見てほかの国のビームタイムを見たのですけれども、日本の場合はやはりこのようにBTがここ数年右肩下がりに少なくなっているのに比べまして、例えばSLSとかASP、APSそれから、CLS等もこういう形でPFの倍である6,000時間に達するようなビームタイムを現在持っているわけです。結局こうなったときに、我々、先ほど言いましたように、毎週毎週構造のフィードバックを欲しがっているメドケムたちの創薬の気持ちがあるわけですから、それに応えないわけにはいかないわけで、こういう時間に国外のビームラインを使うというような形にしています。
 タンパクの結晶の場合は非常に簡単なのは、このように凍らせることができるわけです。これを液体窒素で凍らせてこのような形でパッキングしますと、国際宅配便を使うと、アメリカでも、カナダでも、ヨーロッパでも、それから、オーストラリアでもどこでも届けられるわけです。1週間ぐらい前にパッキングしなければならないので、今朝採れた結晶を測るというわけにはいかないのですけれども、そういう形で、日本の放射光が動いていないときでもメドケム(合成化学者)に切れ目なくフィードバックできるように心掛けております。
 Mail inのメリット、デメリットはこの表に書きましたけれども、デメリットとしては、先ほど言いましたように結晶送付に1週間掛かるということと、ビームラインサイエンティストのデータに依存するということです。過去に私がSLSに送ったときに、高角側の反射が全部オーバーラップして送ってきまして、それで、もっと悪いことにデータも半分しかハードディスクにコピーされていなかったというのがありました。それは本当にSLSの一番悪いときだったのですけれども、やはりいわゆるいい加減なテクニシャンにあたってしまうとこういうことになってしまうわけです。そういうデメリットがあります。
 それに引き換えてメリットの方は、1週間前には送るのですけれども、測定したその日に向こうのサーバーに入って即時取得ができるわけです。ですから、データが返ってくるのを待たなくて、そこで取り終わったときにすぐ解析ができるので、まさに「どこでもドア」状態であるわけです。
 取得した結晶には、最適なビームラインで、本当にこの結晶にはこのビームラインがいいというビームラインが海外でも幾つかありますけれども、そこで取れるので、結晶の大きさが大きくて取れるのであればここでいいだろう、小さくて駄目なときはここでいいだろうと、だから、世界中からそれぞれに最も適切なビームラインが選べるということがあります。
 あと、研究員ですけれども、研究員が夜中に実験したり、それから、長時間の移動する期間が本当になくなって、その分、タンパクの精製とか発現とか、ミューテーションを作ったりとか、そっちに時間が掛けられるということがございますので、研究員からしても非常に良くなったということがございます。
 それから、いわゆるビームラインスタッフにしても、夜間の問合せとか呼出し等は非常に煩わしいと思うのですけれども、そういうことがなくて、ビームラインサイエンティストの空(す)いている時間に自由にデータを測定することができるということで、非常に両方にとってwin-winのようなところがあるわけです。
 お金になりますけれども、一つ、SPring-8などで今おっしゃっているのは、大体1時間9万円です。マテリアルフィーが別途掛かりますけれども、この間SAXSのビームラインの受託なんかも出てきましたけれども、1時間当たり9万円ぐらいですかね。PFの場合は少し安くて、これの場合はのせていただくとこのぐらいのお金が掛かりますけれども、非常にリーズナブルであり、海外のBlに匹敵できる価格と思います。
 例えばSLSとかオーストラリアビームラインになりますと、650ドルで1時間であり、それで、ビームラインサイエンティストに取ってもらっても150ドルしか上のせになりません。あと、送料に関しては、国内の場合は往復で3,000円ぐらいですけれども、国際宅配便を使いますと往復4万円でやれるので、非常に安いと思います。世界中の放射光はサービスを売りにする時代になっていて、化合物の電子密度は、私も初めは半信半疑だったのですけれども、非常にいいです。ビームライン自体は多分SPring-8なりPFの方が非常にいいと思いますけれども、やはりディテクターとかその取り方とか周辺技術を全部含めて非常に良い。特に、化合物の電子密度が我々は命なのですけれども、質としては思いのほかすごくいい電子密度に反映できるデータが帰ってきました。我々ですと月に50から100個解析するのですけれども、そういう形で非常に効率的にやってくださるということです。
 これはオーストラリアの産業利用をサポートしている組織図ものです。ビームラインサイエンティストというのはこういう方がお二人ともいらして、この方は膜タンパクの専門家で、この方はヘンドリクソンスのラボを出られた方で、その道の、いわゆる海外のシンポジウムなんかにも招待講演で呼ばれるような方です。そして、それとは別に産業界専門のチームがいます。この人たちも我々の初期のリクエストだけじゃなく、途中でデータを見ながらのリクエストに関してもどんどん対応してくれるので、こういうチームがいるというのがまずとても違うと思います。ですから、その辺が海外は、これはオーストラリアの例ですけれども、ユーザーの要望に対するサービスが進んでいるなというのを考えます。
 それから、XFELに関してなんですけれども、創薬コンソーシアムでアンケートを採りますと、最大の関心事で、みんな、XFELを使いたいと口をそろえて言うのです。今度、公開テーマで岩田先生の方でやっていただくので、今度の11月23日からの連休を返上してXFELトライアル実験をしに行くのですけれども、非常に魅力的だということです。
 これは阪大蛋白研の中川先生から御提供いただいたスライドですけれども、SACLAでやると、モリブデン染色したものでようやく見えるのですけれども、SACLAより10倍強いと言われるLCLSで見ると、染色しなくてもこういった斑点が見えるというのがありまして、先生たちからすると、やはりもう少し強いものが欲しいということをおっしゃっていました。
 これは岩田先生の方からも言われているのですけれども、去年東北大のセミナーに伺ったときにちょうど岩田先生が送ってきてくださったのが、膜タンパク質であるウシロドプシン化合物のレチナールの密度です。こう出ましたと岩田先生が送ってきてくれましたのですけれども、岩田先生の要望としてもSACLAも32XUと比べると10倍から100倍程度のフォトンの数が今でも少ないから、やはり32XUぐらいの強さのXFELが欲しい、しかも放射線損傷がないわけですから強いほど良いということです。100倍すれば10倍のS/N向上分解能もありますし、できればパルス幅は伸ばさないままでやってほしいと。結局、放射線損傷がないですから、今のSACLAのものよりも、将来的、次世代なのでこれを言ってくださいと私におっしゃってこられましたので、御紹介しておきます。
 今、次から次に感染する感染症の怖さがございまして、ちょっと前まではデング熱が言われておりましたけれども、人から人というのが本当に次から次へやってしまいますので、感染症は本当に怖いですよね。エボラ出血熱も、私がこの資料を作成したときよりも更に今は大変なことで、1万人を超える形になっています。こういうことですと、先ほどの中川先生のお話しではないですけれども、XFELに関してはウィルスの場合は結晶を使わないで飛ばして構造が取れるということになっておりますので、アカデミックと企業が一緒になってどんどんいいワクチンを作っていかなければいけないと思いますので、こういうものに対してもやはりXFELが非常に有用であると考えております。
 国民の健康を守る薬を創出するのは製薬会社でございます。放射光は、先ほど申し上げましたように、タンパク質とリガンドの複合体構造を取ることによって、非常に早く活性を上げることができるという意味でも不可欠の技術でございます。アカデミックによる基盤技術開発は創薬速度をアクセラレートし、他国に対しても競合有利とするということで、学会と産業界のコラボレーションにより、世界でも最先端の次世代放射光、つまり、マイクロビームでBL-1Aとか、SPring-8のBL32XUに匹敵するようなものの増設が求められると思います。省エネ設計によって年中無休であれば、日本の中で朝に採れたやつが持っていけるということもあって一番いいと思いますし、やはり他国のMail inの価格並みに適正価格の受託測定があればいいかなと思います。
 XFELについては、まだまだ企業の使用経験は少ないんですけれども、学界の先生たちの要望にあるように、ウィルスや膜タンパク質などが普通にSBDDのターゲットになるように、SACLAよりも更に100倍から1,000倍強いXFELが必要であるという認識でおります。周辺技術基盤の育成のためにも、人材の育成も含めてですけれども、非常に重要だと思います。
 本当にNMRとかもいろいろ構造が決まるのですけれども、NMRに関しましてはやはり相互作用については非常に有益な情報を与えますけれども、立体構造の決定に関してはX線にまさるものはございませんので、こういうことは本当に国の施策として重要視していただきたいと心から思います。日本国民の健康を守って、世界中の患者さんに安心、安全な薬を届けられるよう、最大限、放射光を使った効率的な創薬を進めていきたいと思っております。以上でございます。
【高原主査】  ありがとうございました。あと、20ページ以降、21、22ページに補足資料も付けていただいておりますけれども、製薬の観点から放射光利用についてプレゼンしていただきました。何か御質問等ございましたらお願いいたします。
 いかがでしょうか。
【雨宮委員】  では、質問を。
【高原主査】  雨宮さん、よろしくお願いします。
【雨宮委員】  Mail inサービスの価格とサポート体制、日本と外国と比べて云々(うんぬん)と話がちょっとありましたけれども、もう少し具体的に、どの程度外国でして満足度があるかどうかというところを率直に。
【上村委員】  別に処理するところまで要望していないのです。データを取るところまでですけれども、大体処理してくれてしまうのです。ですが、空間能が間違っていたりする場合も自動的にやるとあるのですけれども、空間群をこれにしてくださいと言うと、その場でぱっと処理してくれます。あと、やはりパーシャルの取り方とかフルの取り方とか、ものすごくこのビームラインに精通しているので、一番効果が出るような測定法でやってくれるので、ですから、データの質が非常に良くて、いわゆる化合物の電子密度がものすごくクリアできれいです。
 カナダもそうなのですけれども、だから、非常に小さい、これもものすごくコンパクトなビームラインなのですけれども、ものすごくやはり性能がすばらしいということで、カナダもオーストラリアもそうですから、そういう中型放射光、それがやはりすばらしいと思います。
【高原主査】  ほかにございませんでしょうか。
 水木先生お願いします。
【水木委員】  諸外国の創薬会社では放射光の使い方というのは、どういう使い方ですか。今言われたような。
【上村委員】  そうなのです。私、今年モントリオールに行ってきまして、それで、私の留学していたスクリプスの後輩が今、ロッシュにいるのです。ロッシュというのは、SLSから車で30分の距離にあるらしいです。自分では取りに行きたいのですけれども、結局受託を利用していると言っていました。だから、運転手さんがいわゆるデュアーをタクシーに乗せて、それでSLSに持って行って。だから、30分の距離でも、結局、研究員は違うこと、つまり、いわゆる受託のできないことに工数を、工数と言うのですけれども、労働のパワーを割くのです。だから、そういうことでちゃんと考えて、高い労働コストを一番効率的なところに使っているというふうに言っていました。自分では取りに行きたいとは言っていましたけれども。
【水木委員】  それは一つの例かも分かりませんけれども、大体みんなそういう……。
【上村委員】  だと思います。
【水木委員】  特にビームライン持つのではなくて。
【上村委員】  そうですね。だから、ビームラインを持っても、多分そこで特別な人を雇っているのだと思います。だから、本当に結晶学者が全部やるのではなくて、それ専門にやっている人を多分雇って、その人に取ってもらうというか、そういう形だと思います。
【高原主査】  ほかにございませんでしょうか。
 石川先生。
【石川センター長】  XFELを強くするというのは我々も非常にやりたいところではあるのですが、現状を申しますと、どうもピークの強度というのはSCLSも我々も同じであると。何が違うかというと、SCLSは幅が大きくなっている。幅が大きくなっているので、パルス当たりのエネルギーは大きいのですけれども、どうもそのSCLSの幅を持たせてしまうと、その間で変わっていくのが見えているというのが現状です。
 SCLSも我々もピークを高くして幅を狭めるということをやりたいわけですが、今まだそこは両方とも見えていない。多分、SASEという方式、Self-Amplified Spontaneous Emissionを使う限り、そこのところは同じではないかという感じがしています。ですから、全く新しい原理を何か使っていかないといけないのかなという感じがしています。
【上村委員】  あと、中川先生もおっしゃっていましたけれども、ウィルスの飛ばし方とか、それも大分違うらしいのですね。だから、そういうトータルなものも、周辺技術と申しましたけれども、やはり開発がまだ必要なのかなというのも言っていました。
【石川センター長】  そこはいろいろなところで必要だと思っています。
 もう一つは、こういう席でございますのでかなりはっきり言うことを言わせていただきたいわけでございますけれども、日本の場合、特に蛋白コンソーシアムがある意味で蛋白コンソーシアムの中で中間団体を作ってしまったことが全体の流れをちょっと遅らせている感じがすると私は思っています。それはもうちょっとダイレクトにいろいろな研究開発を全体としてやっていけばもっと進んだと思うのですけれども、途中に何か入れてしまいましたよね。あそこのところで、我々の側もそこに任せればいいのかなという勘違いがあって、多分、会社の方もそこに任せていればいいのかなという勘違いがあって、何年かたってみたら、そこがあんまり機能していないように見えると。
【上村委員】  そうですね。最後はまったく機能しなかった。だから、やはり餅は餅屋ですけれども、JASRIの方とかと多分もう少し最初からコラボレーションできればよかったと思うのですけれども、それが専門家でもないのに、自分の仕事みたいな人ができてしまったので、だから、そこがやはりちょっとまずかったのではないかと思います。
【石川センター長】  だから、そこは全体として考え直さないと、今のままだとブレーキ要因になっているのではないかという感じがしています。この場の話として聞いてください。
【上村委員】  現在の創薬コンソはユーザー団体なので、そういう意味での開発は全くしておりませんので、アカデミックの方と共同でやるという形の上で、各社がやるということになっていますから、蛋白コンソーシアム時代のようなBLに関する技術的な弊害は全くないと思います。
【高原主査】  はい、佐野さん。
【佐野委員】  初歩的な質問で恐縮ですが、創薬の方のお話は、全く分からないのですけれども、使い方として何かルーチン的なものが決まっていて、もう試料も決まっていて、それを持っていけばすぐできるという、そういうお仕事が多いのですか。それとも、やはり新しい技術開発とか測定法もいろいろ研究開発なさっているのですか?
【上村委員】  そうですね。新しいタンパクというのは、製薬会社は『Nature』『Science』に出すのが目的ではないので、いわゆる新規タンパクもかなり多く社内で解いております。多分、三共さんも同じだと思います。PDBに載っていないような新しいタンパクもどんどんターゲットとして解いておりますけれども、発表はしないので、外に見えないと思います。我々が最初に構造を取得した四、五年後に例えば『Nature』に載るとかいうことはよくあることです。ですから、そういうときはちゃんと最初から、コンストラクトの設計から何から論文にない技術開発や測定法も含めて全部新規にやります。製薬企業においても、ルーチンワークのみならず論文のトレースだけではやっていけないそういう時代が到来しているのだと思います。
【高原主査】  ありがとうございました。
 ちょっと私から。ちょっと興味本位の質問になるかもしれませんけれども、感染症関係でやはり毒性の強いやつというのは実験室レベルでもいろいろな制限が掛かってきますけれども、その辺りに対して、世界中のビームラインでかなり毒性の高いものを扱えるところというのは整備されてきているのでしょうかということです。
【上村委員】  ちょうど私の留学先のスクリプス研究所のイアン・ウィルソン先生が結構エボラとかインフルエンザとか全部やっているのですが、組み換え体でやりますので、そこの膜表面のタンパクとかになりますと無毒なもので、そのまま採ってくるわけではないので、ですから、毒性に関しては心配することはございませんということでした。
【高原主査】  分かりました。
 それでは、ちょっと時間の方も超過しておりますので、また後で質問の方お受けしたいと思います。
 続きまして、渡邊委員の方から説明をお願いいたします。よろしくお願いいたします。
【渡邊委員】  豊田中央研究所の渡邊でございます。今、上村先生は非常に専門家というお立場だったのですけれども、私はもともとX線の方の関係ではなくて、材料屋です。今、弊社の方で分析、計測等CAE全体のところのシナリオを見ていくということで、自動車会社から見た放射光の使い方みたいなところをまとめさせていただきましたので、それを説明させていただきたいと思います。
 本日のお話ですけれども、最初に自動車産業を取り巻く環境と量子ビームの課題解決、放射光だけではなく、中性子あるいはミュオンといったものも非常に有効に活用できておりますので、その辺りの適応と、あと、弊社の方あるいはトヨタさんと一緒に共同でやったものもございますけれども、そちらの活用例を説明させていただいた後に、お題でありました次世代放射光への期待ということで説明させていただこうと思います。
 自動車業界の現状。自動車業界に限ったことではないかもしれませんけれども、特に新興工業国の追い上げ、あるいは石油自体がないという不安はやはり現在もありまして、そういうことに関しましては例えば生産技術を革新していかないといけない。これは例えば今、自動車会社の場合、関連企業も含めまして生産が海外にシフトしているということで、向こうにラインを造っていく場合、必ずしも日本のものをそのまま持っていけるわけではなくて、そのときにやはり材料も変わってきますし、その中で、中でどういうことが起こっているのかが分かって、それをCAEに落とし込んで新しいラインを立ち上げていくということが非常に強く求められております。
 また、こちらのエネルギー多様化ということでは、石油以外のバイオマス等も含めたものへの対応もやっていかなければならないという状況。あるいは、希少資源ということでは、今は大分収まりましたけれども、一時、中国の方で磁石の材料でジスプロシウム、これにより性能が非常に高くなるのですけれども、そういうものを競争していく中で、やはりそれに代わるような代替材料とかシステムを開発していく必要があるだろうと。また、自動車だけではないと思いますけれども、CO2の問題、そういう中で利便性と快適性の共存といったことで、こういう中で、自動車業界だけではなくて、ほかのメーカーさんを含め、あるいは産官学連携によるイノベーションが必要であろうと考えております。
 競争に打ち勝つためには、生産技術の革新ということでは、我々ですとやはり加工とか、あるいは接合――金属・金属あるいは金属・樹脂といった、軽量化では金属・樹脂の接合がございますけれども、そういうところでの材料特性把握が非常に重要になってきております。
 また、地球環境保全、エネルギー多様化の観点からは、高効率、今のコンベ車を更に来年高効率にしていきたいとか、あるいは排気ガス触媒ということで、こちらも先ほども先ほどのジスプロシウムと同じで高価な貴金属、白金等を使っておりますけれども、それをできるだけ減らしていきたいといったようなことでの材料開発。あるいは、バイオ関係も少し、燃料的にバイオ燃料も含めたところということも考えております。
 また、今、一番重要だと思われますのは電池関係でございます。我々のところで究極のエコカーというような考え方をした場合に、一体どういうような形での取組があるだろうかと考えていきますと、一つは当然、内燃機関の効率化ということもありますけれども、やはり電気自動車なり、あるいは燃料電池自動車、FC、それから、あとは代替エネルギーといったようなものが非常に重要なテーマになるということで研究を進めております。
 そういう中でこれらをやっていくためには、例えばバイオマスといった場合でも、例えばこれは酵素を利用して実際にはセルロースからエタノールを作る等そういうことになってきますし、あと、燃焼制御の中では、中でどういう燃焼が起こっているのかを見ていきたいというニーズがございます。また、触媒もこれまでどんどん性能が上がっているのですけれども、一体原子レベルあるいは分子レベルで見たときにどういうプロセスになっているのかを見ていきたい。それから、電気化学。これ、電気学というのは非常に複雑な学問領域のようでしていろいろな要素が複雑に組み合わさっているんですけれども、その中で、メソフェーズあるいはナノレベルでどんなようなことが起こっているかを見ていきたいというようなニーズがございます。
 そういう中で、放射光利用あるいは量子ビームを利用した高分解能あるいは時間分解能が高いものへの期待、あるいは運動・拡散を解析できる期待、あるいは界面が非常に重要になってきますので、界面の構造解析といったものに適したものへの期待は非常に大きいと思われます。
 改めてここで今更豊田中央研究所を説明いたします。実は我々の会社、こちらにあります株主9社と、あと、技術協力会社、株式会社は大きなところですけれども、こちらからの出資、経費で、トヨタグループ全体への基盤研究に対応しているという会社になっています。そういう中で我々の役割の一つとして、先端分析技術を各社の方にも汎用技術としても展開していって、材料開発なり部品開発にもつなげていけるといったことも大きな役割と考えて取り組んでおります。
 そういう中で、中性子関係ですとJ-PARCを使うこともあります。あるいはSPring-8では、皆さん御存じだと思いますけれども、豊田ビームラインということで別のラインを建設させていただきまして、リングの端に少しだけつながっています。そういうようなラインの中で使わせていただいております。あと、最近ですと、AichiSRができまして、実は豊田中研から車で15分ぐらいです。先ほど上村さんからも言われたのですけれども、やはり近いという非常に便利でして、研究者の方々も気軽に、やはりSPring-8に行くのとは少し違うという意味では使い勝手は非常にいいと申しております。
 放射光の活用例ということで、弊社の関係を少し説明させていただきます。自動車用材料ということになりますと、今まで説明してきましたように、特に電気自動車関係ですと、まずモーターとパワーデバイスと二次電池、これが最も重要な要素部品になります。あとは、コンベの方でいきますと排ガス浄化触媒といったことでありますし、あと、これからはFCもトヨタの方も今後の発表も控え、こちらの方も重要になってくる。またそれ以外に、先ほど言いましたように、生産プロセスの中で、例えば鉄鋼材料ですと、中の結晶構造、あるいは応力によるひずみとか、信頼性の問題で非常に中身を問われていること。軽量化の点で樹脂とかゴムの高次構造、架橋構造もしっかり見ていきたいというような話もございます。
 そういう観点から放射光関係ではと、パワーデバイスですとXRDとかトポグラフィ、それから、磁石ですと偏光を使ったXMCD、あるいは二次電池とか排ガス浄化触媒あるいは燃料電池では、中にあります金属とかの電子状態とかそういうものがどう変わっていくのかというのを見ることが非常に大事になってきます。また、材料でいきますと、当然結晶構造も見ますけれども、高分子ですとSAXSとかで例えば射出成形のときにどういうふうに樹脂の結晶構造等のものが変わっていくか、あるいは更にメソフェーズでどういうふうに変わっていくのかというのは、最終的には強度とか信頼性に強く影響しますので、この辺りも非常に重要な分野であると考えております。
 弊社の方のシンクロトロン光利用は、99年、SPring-8が初めてあったときにお誘いをいただいたときから始まっております。当時、私、全く別の分野にいて、この話を聞いていて何かよく分からなかったのですけれども、こんなに使われるようになるとは正直、思っていませんでした。しばらくの間はSPring-8のサンビームということで、こちらの方の企業で運営する産業用の専用ビームラインを利用させていただいておりました。そういう中で非常に使えるということが分かってまいりまして、海外の機関、これ以外もありますけれども、使っていくということで、非常に使い勝手というか、使い手があると言った方がいいのですか、そういう形で豊田ビームライン、これは2009年から2010年ぐらいに建設させていただいております。
 これはいろいろな方法に使えるということになってきますと、最先端の技術開発だけではなくて、不具合解析とか信頼性の観点でも使えるということが結構あります。そうなってきますとなかなかオープンにできない内容が多くて、成果非公開のところ、そういうところでも少し活用させていただいているところがあります。また、軟X線の方も我々、高分子系の材料を含めてこういう形で使わせていただいております。
 放射光を用いた材料解析ということでは、例えば排ガス浄化触媒、二次電池では、in situの実時間解析、あるいは半導体界面あるいは添加元素の状態ということでは電子構造とか化学状態解析、あるいは非常に小さい部分のひずみとかアルミにはマイクロビームを利用したりしております。あと、複合材料の応力分布とか高分子の構造ということで回折・散乱解析でも活用させていただいております。
 これは排ガス浄化触媒の解析の例でございます。触媒でアルミナの中に白金が通常入っているのですけれども、これを室温から500度Cまで加熱しながら、NOとCOの反応と白金の状態の解析を同時に行うという手法でございます。温度が上がっていきますと、白金が4+から2+、最後に金属の白金に変わっていくのですけれども、このNOのコンバージョンとともに立ち上がりが起こっているということが分かってまいりました。これまではどちらかというと最初と最後だけを見ているということでございますけれども、放射光の非常に強い光でやっていきますと、結構時間分解能を高く取れるという特徴がございますので、そうやって行う実時間というかその場解析みたいなものが非常に重要になってきて活用ができるようになってきていると思われます。
 これも二次電池の解析の例です。これは正極活物質のXAFSと負極の方のXRD、これ自体はそれぞれ個別にも取れる話ですけれども、これを同時に取ることによって、リチウムイオンが確かに片側の電極から出ていって相手側電極に入っていっている様子を同時に見ることが検証でき、我々にとっては今後研究を進める上で非常に有り難いデータであったということであります。
 これは三次元のX線回折です。三次元の状態で内部の結晶方位がどうなっているかということと、それから、実際、4%荷重、負荷を掛けたときに組成変形後にどういう状態になっているかを見ています。これ自体はこれを見ただけということになってしまうのですけれども、実はこれをCAEの方に落とし込んでいくことによってどのように強度に影響を及ぼすかを予測できますので、そういうことによって、実際の部品というか、実際にはボディ構造に反映させることができるという意味で、非常に期待の高いところでございます。
 これは局所・界面のひずみ解析です。これはスパイラルスリットを利用しまして、全方向に回折されるX線を一部だけ切り出すことによって、内部のある界面のところ、あるいは非常に狭いところの応力・ひずみを解析する技術でございます。これによって、界面のところの局所的なひずみさらには応力分布が明らかになる技術でございます。
 これはごく一般的なラミノグラフィということでございます。これは実際にこういう形で部品の内部の情報を把握することができます。例えば部品を持ってきて、負荷を掛けながら見ていったときに、通常ですと一回一回破壊しないと中身は分からないんですけれども、これですと、どういう形でボイドが発生し、亀裂が進展していっているのかといった情報がわかってくる。それによって、どういうような構造に戻し込んでいけばいいかというのが分かりますので、そういうことで非常に使い勝手のいいということになるかと思います。以上、様々な形で非常に多くの部分で活用させていただいているということになります。
 次世代放射光への期待ということで、これは質問に対して書いたものをそのまま出しています。こういう中で自動車会社としても、持続的な社会での環境エネルギーとか、安心・安全な社会の構築が社会全体での大きな課題だろうと。これはどなたも多分同意されることだと思うのですけれども、自動車産業を取り巻く環境から考えますと、先ほど言いましたように新興工業国の追い上げ、石油の将来不安ということで、そういうものに対する生産技術の革新、エネルギー多様化、こういうことで産学官連携によるイノベーションを是非やっていくべきではないかと考えております。
 それから、今、取り組むべき研究課題に関して、次世代放射光施設に対してどのように貢献を期待するかということです。一つは、研究所としての立場から言いますと、まず部品、材料の長期信頼性の確保と、より原理に近付いた研究開発の必要性ということがございます。放射光の強力で高品質なビーム光を活用できるその場観察とか非破壊計測を中心とした研究課題が我々としては期待しているところが非常に大きいところでございます。それから、先端的で、企業からではなかなか発信できない新しい計測とか分析技術、特にナノ領域まで含めた界面計測技術の構築も期待するところが非常に大きいものでございます。
 あと、運営の在り方です。これは全部網羅している形になってしまうのですけれども、世界トップの研究レベルを日本で維持していただいて、かつ産業界でもそれを活用できる体制を是非お願いしたいなと思います。それから、その中で、先端的な領域の見極め、判断が大切かと思います。あと、放射光そのものではなくて、ビームラインそのものの中の新しいオリジナルの技術も非常に重要だと考えております。
 先ほど上村さんの方からオーストラリアの話がありましたけれども、私も先日、Diamond Light Sourceに行ってきて、あそこはサイエンティストが非常に一つのビームラインの中の責任を持ってオリジナルの技術を何年か掛けて作り上げて、それを活用してもらうという体制になっていました。軟X線のビームラインにしぼれば、DLSの方はどちらかというとタンパク等に使いたい形のビームラインということで、高分子に余り適していないようなラインになりつつあります。弊社の高分子への期待からはずれますが、それはそれで一つの在り方かなと思いまして、やはりそういう特徴のあるようなことも必要かなと思っております。
 それから一方で、我々、研究所ですので、多分それなりの対応ができていると思うのですけれども、例えばグループ会社を見ましても、いろいろな分析の技術レベルがありますので、コンベンショナルな技術として産業界に移転できるようなバックアップ体制が必要かと思っております。
 先ほどサンプルを送ってそのまま返していただくという話がありましたけれども、逆に言うと、ルーチン的にそういうものができるような体制も必要かなと思っております。ですから、こういう意味では先端の目的と汎用の目的、かなり違うのですけれども、資金を振り分ける運営体制を考えていただけるといいかと思います。次世代放射光施設単体で運営を考えるのではなくて、現有の放射光施設全体を含めて、役割分担まで踏み込んだ運営方針が提示されると、我々としては非常に使いやすくなるかと期待しております。
 あと、議論の観点ですけれども、これは量子ビーム関係の人たちにまとめていただいたので、豊田中研の視点からということで御理解いただきたいのですけれども、波長領域に関しては、やはり弊社としては軟X線からハードまで全体をカバーしてほしいという期待があります。それから、エミッタンスはどの程度まで下げるかということなのですけれども、最高性能を目指すならそれを目指すべきであると考えますけれども、産業利用の観点ではこれぐらいで十分なのではないでしょうかという意見でした。
 それから、先ほどの繰り返しになりますけれども、先鋭的な光源を目指すべきかということなのですけれども、むしろエンドステーションにおいて、そこでしかできないような特色のあるビームラインというか、そういうものを期待しているということです。
 それから、整備に関して考慮すべき点ですけれども、産業利用の観点からは、余り無理のある設計をする必要はとりあえず現時点ではないかとの意見が大勢です。
 それから、グローバル化の観点ということでは、やはり世界トップの特徴ある施設を期待したいなと。全部が全部トップになることは無理だと思いますので、ここは日本が得意だよね、ここはスイスが得意だよねと、そういうような形でやれるのがいいのではないかと思います。
 産業利用の観点からは、やはりユーザーの利便性を重視して、使いやすくて成果を出しやすいという運用を期待します。ですから、ハードウェアよりも運用等のソフト的な整備もやはり重要かなと思っております。先ほど言いましたけれども、一般的なユーザー、特に企業ユーザーにとっては、設備が一通りそろっているのであれば、例えばアクセスとか、あるいは宿舎があるかないかということも非常に大きく影響してきますので、この辺りも考えていただけるといいのではないかということです。
 それから、これは日本の放射光施設では実験ゾーンがオープンになっているということですけれども、やはりビームラインごとの測定室の設置は必要ではないかと研究者は考えているようです。確かに海外の方に行ってみますと、施錠できる測定室が通常で、秘密管理の点からもこういうことも少しお願いができたらというふうな意見でございました。以上でございます。
【高原主査】  ありがとうございました。自動車産業の観点、それから、研究所としての立場からプレゼンいただきました。
 何か御質問等ございましたら、お願いいたします。ございませんでしょうか。
 どうぞ、水木先生。
【水木委員】  二つあって、一つは、最後の方に言われた次世代放射光施設に期待する貢献についてのところです。今、豊田の中研さん、豊田さんはもちろんSPring-8にビームラインを持っておられますけれども、ここに書いていることは、そこではできない問題点、あるいは使い方とかに対して問題があって、それを新しいところではこういうふうにしてもらいたいということなのか、それとは関係なくもう少し一般的な話なのか。
【渡邊委員】  一般的な話として。豊田ビームラインの中でももちろん活用させていただいておりますけれども、やはりその中に活用できる技術はそんなにたくさんの可能なわけではないですし、自動車産業は非常に裾野が広いものですから、活用のところも多分ほかにもまだいろいろあるのではないかなと。そういう中でやはり新しい技術のビームラインというか、エンドステーションのようなものがあれば、それも是非活用させていただきたいと思っております。
 実際、放射光だけではなくて、例えばミュオンとかニュートロンに関しても我々活用させていただいておりますし、そういうところは専用をもちろん持っているわけではないので、やはりそこのビームの特徴とか、あるいはエンドステーションの特徴を、我々なりに考えて使えるという、そういうものが幾つかあってほしいなというようなことでございます。
【水木委員】  もう1点ですけれども、放射光施設の在り方に関する観点で、次の世代の放射光に関しては、波長に関してはやはり軟X線から硬X線までを大きくカバーしてもらいたいと書かれていますけれども、一方で先ほど言われたのは、日本全体の放射光を考えてすみ分けをというのと、運用はすみ分けて、でも、波長は一つのところが全部欲しいということですか。
【渡邊委員】  そういうわけではなくて、次世代放射光を考えるときに、全体で考えていただければいいと思っております。ですから、この中で次世代放射光施設を一つだけ取り出してしまって議論するのではなくて、今あるものも含めた活用も含めた中で議論していただければいいという、そういう意味でございます。
【水木委員】  分かりました。だから、一つの放射光施設としては波長範囲をカバーしていたとしても、日本全体を見たらいろいろな波長をカバーしている施設がちゃんとありますよというのが望ましいということを言われていると。
【渡邊委員】  そうです、はい。
【熊谷理事】  ちょっといいですか。
【高原主査】  はい。
【熊谷理事】  今の質問と関連しているのですけれども、軟X線から硬X線までカバーといったときに、X線の質というか特性として、挿入光源からのX線なのか、偏向電磁石からのX線なのか、それはマトリックスになりますよね。通常、利用者の方は軟X線から硬X線までということをよくお話しになるのですが、挿入光源からの光で軟X線から硬X線まで欲しいといったときに、その波長領域は一体幾らかというのを聞きたい。それから、偏向電磁石のホワイトの光についても、どのぐらいのエネルギー範囲のものが必要とされていてということは何か明確に出ているのでしょうか。
【渡邊委員】  明確には出ておりませんし、正直言って、私もそこは理解しておりません。先ほど言いましたように、軟X線からハードのところまでというのは、別に一つのところに求めているわけではなくて、先ほどお答えしましたように、日本全体の中できちんとそれがあればいいという、そういう考えで説明させていただいているつもりです。
【熊谷理事】  なるほど。ただ、ハードというか装置側からすると、利用者の人が二つに分かれて、どこかでできればいいというユーザーの方もいらっしゃると思うのですが、そうではなくて、一つの施設の中で軟X線のこのエネルギーからハードX線のこのエネルギーまでがあったらいいねという方もいらっしゃると思います。そういうのがあるのかないのかというのをお聞きしたいのです。例えば軟X線だったら、数百エレクトロンボルトから20キロぐらいまでの範囲がカバーできていればいいよと。でも、それをもっと広げるということになると、これは一つの施設では無理になってきますよね。
【渡邊委員】  それに関して私は専門家でないので何とも答えられないのですけれども、軟X線からハードX線までを同時に使うことによって、新しいオリジナルな分析技術ができるのであれば、それは是非期待したいと思います。
【熊谷理事】  やはりそういうことですか。
【渡邊委員】  ええ。ただ、それが何であるかというのは、私は理解できていないので、そういうことが先端のところでもしあれば、あるいはそういう御提案があれば、それは是非期待したいと思います。ですから、今の時点では軟X線は軟X線、ハードはハードでそれぞれ個別に少なくとも弊社の場合は多分使い分けておりますので、そういうところでの一つのところで欲しいというのが、もしかして希望としてはあるかもしれないのですけれども、そこまでは把握できておりません。
【石川センター長】  よろしいですか。
【高原主査】  石川先生、どうぞ。
【石川センター長】  先ほど製薬から、止まる時期が一緒なのは困るということがございましたが、自動車から見るとその辺りはいかがでしょうか。やはりどこかが動いているというのが。
【渡邊委員】  運営面で、ですか。
【石川センター長】  はい。
【渡邊委員】  やはりどこかが動いているのが非常に好ましいことは好ましいです。特に不具合とか突発的なことであったりしますと、それに対してこれだったら解決できるのだけれど少し待たないといけない等がありますので、そういう意味ではどこかが動いているということは必要かなと。ただ、必ずしも国内だけではなくて、世界全体を見渡したときにそれが動いていれば対応はできると思います。
【高原主査】  ほかにございませんでしょうか。
 先ほどの、どの範囲のエネルギーが必要かというのは、恐らく分析屋さんがどの程度までの領域を必要であるかということと、その分析をされる方は、軟X線は軟X線の専門家で、硬X線は硬X線の専門家ということで、両方を広範囲でカバーされる方というのは余りいらっしゃらないのでないかなと思うのですけれども、いかがでしょうか。
【熊谷理事】  そこを聞きたいのです、実は。
【高原主査】  だから、あんまりいらっしゃらないかと思うのですけれども。
【熊谷理事】  でも、個人的にこういう利用ありませんかといって聞いたときに、軟X線と硬X線が一緒のところでできればいいねという方はいらっしゃるのです。あとは、問題意識として、今、多分、軟X線の人は軟X線ユーザーという塊になっていて、硬X線のところは硬X線の塊になっていて、本来はその間をつなげるような分野って必ずあるのだと思うのです。ただ、そういうところにまだ行っていないだけなのかなという感じもするのですけれども、その辺どうなのでしょう。構造と機能をきちっと同じところで見るという。
【高原主査】  例えば軟X線領域のXAFSと小角とか、反応追跡も含めて、そういったものはこれからサイエンスとして出てくるし、それが産業界にもフィードバックできるのではないかと私は考えています。
【熊谷理事】  ですから、今のビームラインみたいに、軟X線のビームラインとか硬X線のビームラインというんのでなくて、同じ試料のところに軟X線と硬X線のビームが当てられるとか、そういう要望というのはどの程度あるのかというね。
【高原主査】  いや、あんまりないと思いますけれども、その辺りは今からアイデアを出していって、それはサイエンスの点からも……。
【熊谷理事】  サイエンスですよね。
【高原主査】  提案をしていくべきところもあるかと思いますし、それはアカデミアの一つの役割かと思います。
【渡邊委員】  あと、弊社でも分析屋さんと材料屋さんがいて、分析屋さんはそれぞれのことをきちんとやってくれるのですけれども、材料の観点から見たときにどういうことができるのかというところをディスカッションしていかないと、どういうものが本当に欲しいのかなかなか出てこない。そういうところで同時測定とかその場解析というのは非常に重要になってくるだろうなと。
 それから、これまでいろいろ分析関係を見ていて思ったのですけれども、やはり界面のところを見ていきたいというのは非常に強いニーズがございます。その辺りをいかに見られるかというところではやはり分析の新しい技術に期待したいところが大きいかと思います。
【高原主査】  それでは、時間の方も私の不手際で超過しておりますけれども、また最後にディスカッションをお願いできればと思います。
 続きまして、雨宮先生の方から、「次世代放射光施設に期待すること」というタイトルでお話しいただきます。よろしくお願いいたします。
【雨宮委員】  それでは、こういうタイトルでお話しします。物質系専攻の雨宮です。
 まず物質科学における放射光の役割・必要性です。物質科学の目的というのは、物質現象を理解して、それを応用することです。ある著名な材料科学者が、役に立つものが材料、役に立たないものが物質と言われましたが、ここで言う物質というのはそういう意味ではなくて、ダークマター、ダークエネルギーを除いた、原子からできているもの全てという意味です。
 そして、物質科学の対象は物質現象。物質現象は何かというと、四つの力の一つである電磁相互作用。端的に言えば、電子とスピンの授受(構造と動き)ということです。
 では、物質科学の方法論は何かというと、近代科学の方法論基本である、観察することすなわち見ることと、そして、つじつまが合っているかという合理性です。いわゆる実験と理論ということになります。放射光は、物質現象を観察できる最も有力な顕微鏡、小さい物を観察するという意味での顕微鏡です。物質現象すなわち電磁相互作用は、その作用を媒介する光で見るというのが基本です。そういう意味で、放射光は最も強力な顕微鏡で、物質構造、電子構造を観測できる。構造を可視化すれば機能が分かる。そうすれば、デザインができる。先ほど上村さんのお話にもあったことと同じで、このことは普遍的なことだと思います。
 ゆえに、高輝度放射光は物質科学の基盤的かつ先端的ツールだと思います。先端的であるためには高輝度という形容詞が付いていないといけませんが。自然界は物質からできていますから、自然科学の全ては、物質科学の応用展開だと言えて、生命科学、医学、環境科学など全ての自然科学は物質科学に還元されて説明できる。すなわち、物質科学は全ての自然科学の基礎になっていると私は考えます。したがって、全ての物質現象が完全に解明されるまで放射光の必要性は不変です。非常に哲学的な言い方になりましたが、私自身はこういう視点で放射光の重要性を位置付けています。
 物を見るためには光は明るくなければいけない。X線が発見されてから120年経ちますが、約50年前Rotating anodeができて明るくなってきました。その後、放射光の出現でX線輝度が指数関数的に明るくなってきています。エミッタンスも重要ですが、プラクティカルにもっと重要な量はBrilliance、輝度、つまり、明るさです。
 その明るさというのはこういう形で表せる輝度と言われるものです。この式の分子にあるNはフォトンの数です。それを単位時間、単位立体角、単位面積、単位エネルギー当たりで規格化したものが輝度、Brillianceです。なぜ高輝度光源が必要かというと、フォトンの絶対値も重要ですが、それ以上に、相対値が重要。すなわち、時間当たり、立体角当たり、面積当たり、エネルギー当たりのフォトン数が重要。すなわち、分母の&ce_BS;を小さいにしてもどれだけフォトンが入っているかが重要です。例えば分母の&ce_BS;tを小さくすれば時間分解能が上がり、立体角を小さくすれば角度分解能が上がる。角度分解能は回折・散乱の場合には逆空間の運動量分解能ですから、それをフーリエ変換すれば、空間分解能の向上になるわけです。そして面積。これはイメージングするときの空間分解能を決めます。元素選択性、異常分散を使う場合にはこのエネルギー分解能が重要になる。
 この四つの分解能を上げるためには高輝度が必要。分解能の向上に加えて、今まで見えていなかったものが見える。すなわち、測定精度の向上と検出限界の向上です。ブラックピークのような斑点はS/Nがいいですが、非ピーク状の散乱像はS/Nが悪く精度よく測定できなかった。高輝度光源ではその精度が上がる。検出限界が向上すれば、界面や表面のように、見たい物質からの信号がノイズに隠れてしまう状況の中でも、信号を検出できる。例えば、水素やスピンも含めて相互作用の小さいものや今まで見えなかったものが見えるということが高輝度光源の威力です。
 物質の多くは、時間的にも空間的にも階層構造を有しています。その例がここに書いてあります。横軸が時間で、小さいものから大きいもの、そして、動きが速いものから遅いものと、時間と空間の階層構造がこのようにお互いに相関しています。今までの結晶学は、理想化された、単純化された系を対象にしていた。幸い、自然界の多くは結晶、すなわち単位構造を三次元的に組立てた構造でできていて、一つの単位構造を決めてしまえば、あとはそれをX、Y、Zと三次元的に組み立てれば全ての構造が分かる。つまり単位構造を細かく見れば全ての構造が分かるという話です。しかし、実際は、全ての自然界がそうなっているわけではない。
 今後、物質科学で未開拓な物質の多くは、階層構造を有していて、決して単位構造の組立て構造にはなっていない。異なる大きさの構造が各々異なる機能を持っており、異なる時間スケールで動いている。これが階層的構造です。言い方を変えれば不均一構造、非晶系。こういう実在系の中でどの階層構造がどのように動くのか、すなわち、どう機能するのか、すなわち、時間、空間の階層構造を見たいというのが今後の放射光科学が目指しているところです。今後は、「木を見て森を見ず」ではなく、「木も森も見る」ことが重要になってきます。ソフトマターは階層構造をしていて、電場等の外部刺激に対して非常にゆっくりした緩和で動く。このような階層構造は、ソフトマターに限らず、全ての物質において見たいところであるかと思います。
 私が具体的にやっていることは、X線小角散乱という手法を用いて、測定対象は階層構造を有するソフトマター。そして、この階層構造からのX線散乱角は、ワイドアングル、スモールアングル、極小角散乱と非常に広い角度にまた跨がっていて、ビームが非常にシャープであるということが重要です。それから、ダイナミクス。コヒーレントなX線を用いると、平均化されていない構造の完全なフーリエ変換が得られるので、その時間変化から構造ダイナミクス(動き)が見える。それから、ビームを絞ってスキャンすれば、ナノ構造の不均一性が見える。時間幅を絞れば、時間変化を、ポンプ・プローブで観察できる。エネルギー分解能が良くなれば、元素を識別した構造、若しくは、位相決めの精度も良くなる。次に、表面界面。表明界面からの散乱は相互作用が小さく、非常にS/Nが小さいですが、こういうようなものも精度良く見ることができるようになります。
 具体的な例としては、マイクロビームを用いた住友化学との共同研究です。世の中で使われている多くの高分子は、射出成形で製造します。射出成形すると、スキンとコアで構造が違います。この中では球晶、ラメラ、パッキングという階層構造を成していて、これを射出成形すると、スキンの部分とコアの部分で、全然違った散乱パターンが出る。すなわち、不均一構造があります。場所によって構造が違う。射出成形により不均一構造が生じるわけですが、どういう不均一構造を持てば、軽くて強くてしなやかでぜい性がない製品になるか、そのようなデザインをするために必要な情報が得られるわけです。
 もう一つが、花王との共同研究ですが、10年近く前の研究になります。髪の毛の形状が人によって、直毛、曲がっている、縮れている。その原因が何なのかということをナノスケールで理解するために、マイクロビームX線を軸と横方向にスキャンしながら見る。普通のX線だと髪の毛を何十本も重ねないとX線散乱像が得られない。放射光を使ってもやっと1本で取れるぐらいというところが一昔前でしたが、最近は非常に高輝度化されてきて、髪の毛の太さは100ミクロンぐらいですが、5ミクロンに絞って横断的にスキャンしてパターンをとることができる。そうすると、曲がりの外側と内側で階層構造がどのように異なり、ファイバーのパッキングはどう変わっているのか、それから、オリエンテーションがどう変わっているかというのが見える。その結果、もともとの目的は直毛にする剤の開発だったのですが、これが髪の毛がどうやって光沢が出るかということの条件につながってきて、こういうシャンプーの開発に貢献しました。
 次は、住友ゴムとの共同研究です。これはタイヤのゴムです。ゴムはもともと白いですが、黒いのはカーボンを混ぜ合わせているから。このことによって強度が強くなっていますし、粘弾性が変化します。ゴムは結晶ではなく、階層的な構造をしています。こういうナノコンポジットを混ぜるわけですけれども、その表面がどうなっているか。それから、一次粒子がアグリゲートして凝集体を作ります。そのまた高次の凝集体を作ります。こういうふうにフラクタル性があります。小さいものから大きいものまで全部見てやらないといけない。これは単位構造の組立て構造とは全く違うことになるわけです。
 そういうために、今までの小角散乱と、大きいところを見ようとする超小角散乱、ウルトラスモールアングルスキャッタリング、これを組み合わせて実験をしました。横軸が散乱角で、縦軸が強度です。二つのビームラインでの実験を組み合わせました。従来の小角ラインと極小角の小角散乱ライン。こういう160メートルのビームラインを使って、ここを非常に精度良くうまく測定しないといいデータが得られません。結果として、高次凝集構造のポピュレーションが非常に燃費に関係あるという知見を得ました。この知見を元に、住友ゴムがいろいろなコンピューターシミュレーションを駆使し、燃費が良く、グリップ力も強いタイヤの開発につながりました。
 さらに、タイヤの中にはフィラーだけではなくて硫黄のクロスリンクがあるのですが、それを選択的に見たい。そして、硫黄の吸収端はちょうど2keV付近にあるのですが、吸収端で散乱能を変えて見れば、コントラストを付けて見ることができるわけです。硫黄の場合、吸収端は2keVです。周期表で硫黄の近くにあるシリコンだとかリンも非常に実用性が高く、2keV付近の強いX線が必要です。しかし、残念ながら、SPring-8は8GeVでエネルギーが高過ぎて、2keV付近のX線には最適化されていない。もう少し電子エネルギーが低くこの辺のエネルギーのX線強度が強い光源が欲しいというところです。
 話題が変わりますけれども、高輝度光源の現状と今後に関して。今、世界の3極構造は、大型がSPring-8、APS、ESRF。そして、中型、3GeVクラスのものが、SLS、Diamond、MAX-Ⅳ(建設予定)、NSLS-Ⅱ。これは日本で開発された真空封止型のアンジュレーターがその基礎になっています。そして、エミッタンスが6GeV、7GeV、8GeVでなくても、3GeVで大型並みの高い性能がでる。しかも、硬X線、軟X線が使える先端・基盤ツール。運転エネルギーは電子エネルギーの4乗に比例するので、エネルギーが低ければ低いほど省エネになるわけです。しかし、日本には高輝度の3GeV光源がないということが、私は大問題だと思っています。
 更に大型光源の在り方もそのうち大問題になってくる。欧米のAPSやESRFは、中型にできることは中型に任せ、大きなリングでしかできないことをやるための改造が予定されている。すなわちUSR、ウルトラSRに改造して更にアドバンスなことをやろうとしている。日本には高輝度3GeV光源がないと、SPring-8も本当に改造していいものかどうなのか、と、これは大きな問題になると思います。
 結論として、私は、大型光源を用いた先端研究と中型光源を用いた先端・基盤研究、この組合せが重要だと考えています。ヨーロッパではESRF-Ⅱへの改造と、中型のSLS、MAX-Ⅳ、Diamondという組合せに近い将来なる。そして、アメリカでは、APS-Ⅱへの改造とNSLS-Ⅱという組合せ。日本では、ここは疑問符のままであるということが大問題だと私は感じているところです。
 先ほどの輝度の話に少し戻ります。横軸がエネルギーで、縦軸が輝度です。これは最近、東北大の浜さんから頂いたものです。東北大の計画のパラメーターとしてのSliT-J、この赤い部分です。10keV若しくは10keV以下のところで、既存のものに比べて大体2桁から3桁上がる。すなわち、もしSPring-8と中型高輝度があれば、この広いエネルギー領域にわたって連続して10の21乗台になるということです。Brillianceに時間幅、ビームサイズ、角度幅などを掛けるとフォトン数になりますが、Brillianceが10の21乗あると、時間幅、ビームサイズ、角度幅が小さくても、高精度な実験に必要なフォトン数が得られるということになります。必要なフォトン数は、大体10の11乗フォトンだと私は考えています。
 高輝度光源では、今述べたように分解能が上がります。これは光子の量の向上ですが、将来的にはもっと必要になるのは、質の向上です。すなわち、質的に異なる測定、それはコヒーレンスを利用した測定だと思います。
 コヒーレンスは何か、簡単に説明します。これはビームの断面積です。ビームの断面積は、大体100ミクロンとか200ミクロンぐらいの径です。試料がこのぐらいあって、この中にX線を当てているわけですけれども、決して試料全体で干渉しているわけではなくて、干渉しているのはこの小さい領域、すなわち、このコヒーレント領域だけが干渉されているだけで、あとは強度が足し合わされているだけです。すなわち、従来フーリエ変換されていると考えられている散乱像は、散乱体の平均的な構造です。また、時間的な構造から見れば、全部平均化されているということです。
 それに対して、コヒーレントなX線ビーム、すなわち、100ミクロンとか200ミクロン、これの中で全てコヒーレントであるということになれば、散乱像は試料の電子密度分布の正確なフーリエ変換になっている。教科書的には、散乱像は試料のフーリエ変換だと言われていますが、これまでの散乱実験では、そうなってはおらず、全て平均化されてしまっている。
 正確に見るには、平均されていない試料全体の散乱像が必要です。それを簡単に説明します。今まではビームがインコヒーレントだったけれども、結晶がコヒーレントで周期性がいいからきれいな散乱像が得られた。それに対して試料が結晶でなく非結晶で、しかもX線ビームがインコヒーレントだと、このように平均化された散乱像になってしまい、極めて情報量が少なくなってしまう。どちらもインコヒーレントですからぼけてしまう。それを補うために、一生懸命計算機を駆使してモンテカルロ法でいろいろ動かしながらシミュレーションしてきたわけです。しかし、限界があります。ところが、ビームがコヒーレントになれば、こういうような不規則なパターン、非結晶でもフーリエ変換で平均化されていない像が撮れます。そして、この位相を回復すれば、試料全体の構造が求まるわけです。
 更に、結晶に対してもいいことがあります。これは2006年にイアン・ロビンソンが行った実験ですが、結晶の中のディフォーメーション等も全部分かるので、情報量はやはり結晶にとっても増えるわけです。
 そういうことで、コヒーレントなX線を利用すれば、平均されていない構造情報が得られるということで、そのような例をここに示しました。その結果、階層的なもの、非結晶的なもの、不均一なもの、要するに、実在系の可視化ができるというチャンスが非常に増えてくるわけです。
 時間がないので、これは簡単にやりますが、こういうコヒーレントな散乱像の時間変化の相関をとると、物質中で粒子が揺らいでいるのが分かる。例えばゴム中のフィラーが、ゴムは軟らかいので動いているわけですけれども、その動きが時間相関関数をとれば分かる。今、マクロな粘弾性は測れていますが、微視的な粘弾性、すなわち分子レベルでのマイクロレオロジーが可能になる。そのためにもコヒーレントが必要です。
 将来的にはこういう、構造も不均一ですけれども、揺らぎも不均一であると。これがX、Yで場所によって揺らぎも不均一であると。これらのことで高次の相関をとれば、動的な不均一性も図れるということで、本当にリアルな測定、実在系の測定には不可欠だということです。
 これは今までのまとめです。高輝度になれば、結晶というモデル系でも測定精度や検出限界が上がるということで、今まで見えなかった高温、高圧、微小なもの、界面とか、相互作用の非常に少ないものが見えるし、精度良く測れる。空間分解能も上がる。いろいろな分解能が上がる。それから、実在系、ソフトマターを含めた階層構造、非晶性、不均一、複合系などの構造が分かり、機能解明、そして、それがデザインにつながるということになります。
 これが最後ですが、私の観点からいえば、インハウススタッフのキャリアパスも考えるような施設が重要です。さらに、大学と研究機関との連携。今、大学でこういう先端的なことをやる学生を育てようと思うと、この連携がないと大学も行き詰まりますし、もちろん施設も行き詰まるということで、相互の連携が重要です。
 あと、アドミニストレーターの育成。今までアドミニストレーターがいないと言っているわけではなくて、今までの大学共同利用や共用法とは違った新しい運営形態が必然的に必要になる。それから、測定するサンプルだけでなく、使うユーザーも階層構造性を有していて、いろいろなユーザーがいる。そういう人たちのニーズにいかに応えるか。それから、いろいろな施設との役割分担等について、全体を総合的に考えるアドミニストレーターが必要です。そのようなアドミニストレーターの育成も含めた人材育成が必要なのではないかと思います。以上です。
【高原主査】  雨宮先生、どうもありがとうございました。光源の、最後の方では特にコヒーレンシーの問題についても御提案いただきましたけれども、質問等ございましたら、お願いいたします。
 どうぞ。
【曽我委員】  コヒーレントについて少し教えていただきたいのですけれども、私は製薬会社にいますけれども、製薬会社で構造解析をしようと思うと、とにかくまず結晶を取らなければ話になりません。それで、結晶を取るのに大きな努力を要するのですけれども、この先生のお話のようなコヒーレンスのものを使えば、結晶ではなくても構造解析が可能になるということでしょうか。
【雨宮委員】  そうです。それが究極は、今、XFELが目指している、1分子で構造が取れるというところです。そこまで行くにはこの丸いリングでは強度的には無理だと思いますが、究極、XFELが目指しているものは、コヒーレントのビームを用いて1分子で構造を取ると。
【曽我委員】  そうすると、例えば溶液の中のタンパク質の構造なども1分子で取れるのですか?
【雨宮委員】  そうですね。そういうことが今目指す……。
【曽我委員】  期待できるということですね。
【雨宮委員】  FELユーザーの一つの分野であると理解しています。
【曽我委員】  もしそういうことができるようになると、製薬会社の研究所としても非常に役立つのではないかと思って期待しております。
【雨宮委員】  ただし、先ほどから放射線損傷のことがありますのですぐに壊れてしまうので、物が壊れる前の10フェムト時間よりももっと短いパルス性で取る。それを何回か繰り返して重ね合わせるというような、今までと非常に違ったシナリオでのデータ測定になるわけです。
【曽我委員】  ありがとうございます。
【高原主査】  ほかに質問等ございませんでしょうか。
 石川先生お願いします。
【石川センター長】  一つコメントでございますけれども、最初に上村さんからお話のあったマイクロビームも、光源がコヒーレントだから絞れるというところがございまして、ぼけた光源だとあそこまで絞り切れない、絞ったとしても強度がとれないということがあります。ですから、光がコヒーレントになってくるというところがいろいろなところ、特に今のタンパクですとマイクロビームを作るというところに非常に利いています。
【高原主査】  ありがとうございます。
 ほかに質問等ございませんでしょうか。
 私から雨宮先生に質問したいのですけれども、軟X線のコヒーレントなソースを使ったときに例えばいろいろなサイエンスが期待できると思うのですけれども、例えばフォトンコリレーションなんかでも軟X線を使うとまた違ったものが見えてくるのでないかと思いますけれども、その辺りのサイエンスとしてはどういうものが期待できるかというのは何かありますか。
【雨宮委員】  軟X線に対しては、コヒーレント度は割と楽な方向に行きます。だから、軟X線についてはコヒーレンスが高くなります。先ほど石川さんが言われたように、コヒーレンスが高くなると、ビームの強度を損することなくきっちりと絞れるというところが大きなメリットで、例えば10ナノメートルまで絞っても強度は失わない。インコヒーレントだと、絞れるけれども強度がなくなってしまうとこれが問題なので、絞っても強度があると。やはりローカルなところでのスペクトロスコピー、分光を測るとか、それから、スキャンしてデフラクションを測るとか、そういう意味での応用があるかなと思います。
【高原主査】  あとはあれですね、空間スケールが違ったところでのダイナミクスということで。
【雨宮委員】  そうですね、空間スケールが違うということはありますが、ただ、X線でQレンジを変えれば空間スケール結構見えるので、むしろ軟X線の方については、空間軸というよりもエネルギー軸でユニークなところを狙う、異常分散とかも含めて。
【高原主査】  共鳴等を入れてですね。
【雨宮委員】  そうです。そちらのメリットの方が大きいのではないかなと。軟X線の回折・散乱というのはもちろんこれから広がると思いますが、それに加えて、軟X線領域ではスペクトロスコピー、エネルギー軸に関しての利点がある。高輝度だとビームを絞れるから空間分割でできるというメリットも大きい。
【高原主査】  やはり先端材料では、先ほどの渡邊さんの話にもありましたように、硫黄とかリンとか、いろいろなところでその辺りがポイントになっていますので、硫黄、リンですかね。
【渡邊委員】  はい。
【高原主査】  その辺りが軟X線で見えるところとしては重要な元素になってまいりますね。
【渡邊委員】  そうですね。硫黄の電子状態、ゴムもやはり、直接ではないんですけれども、自動車の中に結構ゴム部品がタイヤ以外のところでも使われています。直接それを見たいということもありますけれども、それがどういうふうに使われていって、どういうふうに劣化していくかということが分かることによって、もう少し安く作れないかなどにつながっていくところがありますので、そういうところで活用できたらいいかと思います。
【高原主査】  生体でも硫黄、リンというのは非常に重要な元素ですね。
【上村委員】  そうですね。
【高原主査】  はい。
【村上副所長】  一つコメントですけれども、軟X線の一つの大きい利点として、ダイナミクスを見るということがあると思います。それは弾性散乱だけではなくて、非弾性散乱を使った利用というのが、今、非常に基礎研究のところですが、非常に広がりつつあるところであります。それはなぜかというと、多くの物質の吸収端、特に遷移金属などのL端を直接に軟X線では見ることができますので、そこでの非弾性散乱をやることによって、物質の中の素励起の研究、簡単に言えば、フォノンとか、あるいはマグノンとか、そういうものですけれども、そういうものが非常に物性と密接に関連しているというのが物質の電子構造の観点からは言えると思うんですけれども、そういうところの発展性というのは軟X線に非常に大きいメリットがあると思います。
【高原主査】  ありがとうございます。
 そのほかに、今の雨宮先生のプレゼンに関しまして御質問等ございませんでしょうか。
【熊谷理事】  ちょっといいですか。
【高原主査】  お願いいたします。
【熊谷理事】  これ、25ページ、元素識別の解析で、光源の高輝度化の一番上に、波長幅を狭く、かつ大強度にという非常に難しい難題が出ているのですが……。
【雨宮委員】  私が文科省に提出したのは24ページまでで……。
【熊谷理事】  そうですか。すみません。
【雨宮委員】  後ろにデリートし忘れた途中版があるということで、25、26はまだ推こう前ですので、余り厳密に考えないでください。
【熊谷理事】  いや、どのぐらいのレベルのことをお考えなのかをちょっと。
【雨宮委員】  これは、波長幅を狭く、かつ大強度というのは、先ほど、エネルギーを絞ったとしても、なおかつフォトンがちゃんと来ていると、最初の輝度が必要だという話をちょっと言い換えただけで余り意味がないなと思って、この25、26、27は使わない資料です。
【熊谷理事】  装置側からすると、これって大変魅力ある利用が多分可能かなと思います。ただ、ハードでこれを実現しようとすると非常に難しいのかなと。多分ここに新しい何か利用だとか、それから、加速器技術だとか、そういうものがあるのかなとは思うんですが。
【雨宮委員】  波長幅を狭く、かつ大強度にということですか。
【熊谷理事】  ええ。
【雨宮委員】  いや、そういう深い意味は持っていなくて、先ほどの輝度で、要するに、&ce_BS;、λ、オーバーλを小さくしてもちゃんとNがありますよということの意味以上のものはありません。
【高原主査】  それでは、雨宮先生のプレゼンに関する質問はここで終わらせていただきます。
 続きまして、全体での意見交換を行いたいと思います。今日は様々な視点から、次世代放射光施設に関する特に何を期待しているかということに関しまして、バイオ系、自動車、それから、ソフトマターを中心としてプレゼンいただきましたけれども、何か全体に関して御質問等ございましたらお願いいたします。
 お願いいたします、内海さん。
【内海委員】  内海でございます。雨宮先生が浜先生の資料をもとになぜ中型光源が是非とも必要なのかということに関して非常に分かりやすいプレゼンをしていただいたと思っています。このワーキンググループのこれまでの議論の中で、中型光源の必要性に関しては、全委員の方々が是非とも必要だとおっしゃっているのだろうと思うのです。そこで大事なポイントの一つは、どういうスペクトルの光源が必要なのかということ。その議論の中で、特に軟X線のところが今の日本の放射光でブランクになっているということ非常に明確な形で、今示していただきました。
 そして、軟X線が必要なのは分かるし、そこにフォーカスした加速器を造るという方向性分かるのだけれど、そこに硬X線をどのぐらい共存させるべきか、またそれが技術的にどれだけ可能であるか、というような点が重要なのだろうと思っています。
 そういう意味ではもっと早くにこういう図面がこのワーキンググループに出てきていてもよかったかなと思うのですが、特に軟X線領域に関しては、今、日本に全くないので是非とも必要だというところは極めてクリアですね。それを踏まえた上で、これをあと高エネルギー側、図では右側にどれぐらい伸ばすべきかという点に関する定量的な議論が必要だろうという気がしています。
 先ほど皆さんおっしゃっているように、一つの施設で必ずしもすべてを共存させる必要はないというところは確かではあるのですが、一方で、フォトンファクトリーの今後のことが極めて重要なファクターになってきます。また、SPring-8がこの後改造されるとすると、図のブルー部分、硬X線領域のところはボンと更に輝度が高く上がっていくのだろうと思うのですが、従前のSPring-8クラスの硬X線の輝度で十分であるけれどもユーザーの数が非常に多い硬X線の領域というのがあります。したがって、新光源にもそれなりの数のビームラインは是非とも必要であって、共存すべきではないか、その辺の見極めが必要だろうと思います。
【高原主査】  ありがとうございます。
 雨宮先生、何かコメントございますか。
【雨宮委員】  私も全く同感です。SPring-8のビームライン、ビームタイムが少ないと。それだけでは新しい光源の根拠にならないから声高に言っていませんが、実はそれは中型高輝度が欲しいことのある割合を占めていると私は理解しています。それはSPring-8の方からのコメントもあるかと思います。少なくとも10keV前後でこのぐらいのクオリティーで使えるSPring-8のビームラインの数、それから、ビームタイムが少ない、だから、より資源が欲しいというところが、次の施設に求められる役割の裏看板だと思っています。
【熊谷理事】  補足しますと、SPring-8の1keVの上の方、10の18乗のところに青い線が二つありますけれども、あれが上の方が多分BL27SUです。その下の青線が多分BL25だと思うのですが、日本では……、いや、もっと真ん中の下の方です。それ。それがBL27で、下はBL25だと思うのですが、我が国にはその2本しかないのです。
【雨宮委員】  ああ、軟X線の話ね。
【熊谷理事】  ええ。2本しかないにもかかわらず、諸外国はもう赤の線まで行ってしまっているのです。ですので、それで日本の軟X線はいいのですかというのがさっきの問いだと思うのです。多分そこのところがないことが我が国にとっては多分これから致命的になるのではないかと。このBL27、25というのは、触媒だとか燃料電池のところだと思うのですが、そういう機能に特化するような軟X線のビームラインが是非とも必要だということは、先ほど雨宮先生もそうおっしゃっていましたけれども、そういうことをこれは如実に表しています。緑の線が、多分PFの挿入光源だと思うのです、BL0。
【雨宮委員】  そうです。実線が全部挿入光源で、点線とか破線はベンディング。
【熊谷理事】  その線が大体代表しているわけではなくて、本当に1本とかそれに対応しているので、そこが非常に問題ですよね。諸外国は何施設かあって、1施設に10本とか20本とかあるわけですから、もう太刀打ちは全然できていないということです。
【高原主査】  石川先生。
【石川センター長】  多分SPring-8の非常に高く見える右側の3本の線というのは、超直線部のアンジュレーターの線で、SPring-8の普通のアンジュレーターはそこです。ですから、皆さんが非常によくお使いの数キロから15キロぐらいの間というのは、多分SPring-8の普通の5メートルアンジュレーターといいところかもっと上に行くものがSliT-Jのこのデータになっているわけです。
【熊谷理事】  これは5次までしか出ていないので、7次、9次まで入れると、20keVぐらいまでは、先ほど石川さんが言っていた通常のSPring-8のアンジュレーターラインより上に来ます。ですので、ある意味では、普通に使ってらっしゃる方は、どちらを使っても同じような明るさのものが利用できるようになると。
【高原主査】  ですから、スペック的にはサイエンス、エンジニアリング、両方とも満たしているということですね。
【雨宮委員】  はい。
【高原主査】  ほかに御意見等ございませんでしょうか。
 ちょうど大体予定の時間に近付きましたけれども……。
【小杉施設長】  では、いいですか。
【高原主査】  はい、小杉先生。
【小杉施設長】  先ほど軟X線、硬X線の併用みたいな話があったので少しコメントします。私自身ずっと化学で研究していて、もともとはPFで硬X線のXAFSをやっていたんですけれども、その後、20年ぐらい前にUVSOR施設長になってからは、軟X線をいかに化学に応用するかという観点で随分考えながら高輝度化を進めてきました
 硬X線は吸収されにくいので、化学では早い時期からその場観測への応用があって、XAFSでは特に触媒金属などのその場観測として非常によく使われています。最近、高輝度光源の時代になって、軟X線のXAFSでその場観測ができるようになって、硬X線のXAFSでは金属に直接結合している炭素や酸素の構造なり電子状態が少し分かるんですけれども、軟X線を使うと炭素、酸素とかの電子状態がじかにわかりますので、金属でない有機物そのものの反応が見えるようになってきています。
 触媒を見るというのでも、硬X線で金属から見る場合と軟X線で軽元素から見る場合と、しかもその場観測で同時にやっていくというのはこれから結構重要になってくるのでないかと思います。化学への応用というのはなかなか軟X線では難しく、化学自身が扱う試料は、物理から見ると汚い試料で、施設では嫌われものだったのですけれども、今は軟X線でも硬X線と同じようにXAFSでその場観測できるようになってきています。
 また、豊田中研におられた方でイギリスのDIAMOND施設に移られた方に協力していただいてUVSORでも軟X線のXAFSで顕微鏡ができるようになって、先ほど説明のあったタイヤの硫黄のリンクとかいうのも既に実イメージで見えておりますし、バイオの試料でもその場観測ができるようになっています。ドイツの高輝度光源BESSY-IIに同じタイプの顕微鏡があるのですけれども、バイオの試料には最適化しておらず試料ダメージがあるため、ベルリンの研究者はUVSORまで来て実験しているような状況です。高輝度軟X線のXAFSでその場観測で化学、生物系に応用するというのは結構これから力を入れるところかなと施設としては感じております。
 X線の使い方としては、吸収と光電子と発光の分光と回折・散乱しかないわけで、XAFSでは波長の元素選択性があるX線吸収分光をいかに化学に使っていくかというところで考えないといけないのですけれども、波長の選択性がないX線光電子分光の場合は、どちらかというと、流れは軟X線から硬X線に移って来ているかなという感じはします。あくまで化学の観点からの話ですけれども。
 今まで軟X線光電子分光というのはどうしても真空が要るし、真空を汚さない試料という話になってきて、そういう中でその場観測の化学をやるというのは非常に難しくて、表面敏感という意味では清浄な固体表面での分子吸着を調べたりする実験は今までもあったのですけれども、今は硬X線でその場観測の光電子が楽にできるようになってきています。超高真空も必要としておりませんし、試料内部のバルクの電子状態を知るというのに硬X線は非常にいいわけですので、そういう意味で、流れとして、化学で光電子をやるというのは硬X線に移って来ている印象があります。
【高原主査】  最近、ALSのプロポーザルとかを見ていますと、有機電子デバイスのレゾナンスのX線スキャッタリングとかレフレクティビティーとか、燃料電池の膜についてもそういったものをその場観察でやるというのがやはりソフトの方ではやられ始めていますので、やはり化学、マテリアルサイエンスもそういったところの流れというのはかなり強くなってきていると感じております。
 ほかにございますか。
 村上先生。
【村上副所長】  全く違う観点ですけれども、運営のことです。次世代の放射光源施設の運営という観点で今日上村さんと渡邊さんに御発表いただいたところで思っていたのは、産業利用と大学などのアカデミックユースの違いです。新施設でそれらを区別なく使えるというのはもちろんですが、大学関係と企業関係で大きな違いというのは、やはり秘密保持という観点かと思うのです。
 成果非公開で今現在でも施設の方ではそういうものにもちろん対応しているわけですが、現状でその辺りの実際の製品開発までつなげるところでの秘密保持みたいなところでの現状の問題点と、その問題点を今後の新しい施設ではどういうふうな形で考えていけば、その辺りが基礎的な研究から応用研究にわたって、ある意味企業の使いやすい形が、あるいは運営での対応がどういうふうなものが可能なのか、ちょっと抽象的な質問ではあるのですけれども、お考えを聞かせていただければと思います。
【渡邊委員】  成果公開・非公開ということに関しては、多分海外の施設と比べてもそんなに大きな違いはないかとは思っています。各国調べてさせていただいた中では、やはりその国の企業をいかにやっていくかというところに視点が置かれているんですけれども、海外に対してもそれなりの成果非公開ということであれば活用はさせてくれているようなので、運営の在り方としての今の割合をどうこうということは特にないと思います。というよりも、むしろ成果公開をするタイミングが非常に困ることが結構あって。やはり大学と違ってなかなか論文を書くタイミングとか、あるいは少し時間が短いとか、少し時間を置きたいとか、そういうことは結構あるかと聞いています。成果非公開に関してはそうですね。
 それから、開発の部分に関しては、多分非常にベーシックなところなので、最終的に公開することに対してはそんなに大きな問題はないかと思っています。ただ、期間の問題はあります。ただ、不具合の問題とか、そういうものになってくると少し、それにはやはり成果非公開で使わざるを得ない。不具合の場合によく問題になるのは、やはりN増しがしたいということがあって、そういう場合にビームタイムがたくさん欲しいということは結構あるように聞いています。
 それから、豊田中研の立場からすると、そういう活用の仕方というのは、多分研究者の方もその辺のレベルにはあるのである程度行って使えると思うのですけれども、例えばグループ全体で見たときに、使い勝手といったときに、何かできそうだから使ってみたいというようなときにも使えるような、そういう支援体制も必要なのかとは思います。だから、企業の場合、かなりレベルの違いが広がっていますので、そういうところにもし将来的にも対応できるような体制ができると、最先端ももちろん大事ですけれども、やはり底辺も大事でないかなと考えていますので、そういうところも考えていただけると、ちょっとぜいたくな言い方かもしれないですけれども、いいかなと思っております。
【高原主査】  上村さんお願いします。
【上村委員】  製薬会社の場合は、やはり成果専有にならざるを得ないのです。それで、最初、BL32も、せっかく国民の税金を使って建てたところに穴を開けて蛋白コンソーシアムの造らせていただいたので、20%は公開のための、いわゆる外に発表できるためのものをやってくださいということになっていたのですけれども、そのものに関わるレーバーの力がすごく掛かってしまって、研究員の負担になってしまったので、最後の方はお願いして、100%成果専有でも使わせていただくというような形にさせていただきました。
 ですから、多分マテリアルのところと、また製薬会社は特別なものがございまして、やはり私なんかも論文を発表するのは10年前の仕事とか、あとはドロップしたもの、そういうものはなるべく論文発表するようにはしているのですけれども、うまくいっていると、やはり製品化するまで20年くらい掛かりますので、その間は絶対出せなくて。先ほどの話ではないですけれども、化合物一つで会社一つを養うぐらいのものになりますから、だから、そこはやはりものすごい成果専有のセキュリティというのは必要だと思います。
 いかがですか、第一三共は。
【曽我委員】  ほとんど同じですけれども、薬の場合、実際のところ、一つの薬を一つの特許で守っているような状況です。ですから、やはり特許とかデータの機密にはどうしても神経質にならざるを得ないところがあります。
 ただし、放射光を使っていろいろなデータを取っていて、成果は公開にはできないけれども、非常に役に立っているわけです。ですから、公開しなければ役に立っていないのかというと、必ずしもそうではありません。確かに外から見ると、公開してくれないとどんなふうに役に立っているか分からないではないかとは言われてしまうのですけれども、例えば時間をたくさん使っていればやはり役に立っているとか、そういう何か別の見方で考えていただかないと、どれぐらい活用されているかというのを測るのは難しいのかなという気がします。
【村上副所長】  どうもありがとうございます。
【高原主査】  よろしいでしょうか。ほかに何かこの際発言したいことがあればお願いいたします。
 石川先生、お願いいたします。
【石川センター長】  お話を聞いていますと、産業利用というか、そこにもいろいろなレベルがあって、多分、個々で頑張るところと、やはりお話を聞いていると、例えば製薬業界全体で頑張らなければいけないところも多分あると思うのです。もちろん個々に行ってしまうと一つ一つでやらなければいけないけれども、コンソーシアムでビームラインを造ったのが良かったかどうかは別にして、ああいう感じのことはこれからも続けていかなければいけない。
 多分、製薬業界だけでなくて、やはりいろいろな業界にみんなで何かをやらなければいけないというところがあるはずで、そういうものと個々にやっていくものとうまく組み合わせて、そこにまた大学の先生方の力もお借りして、全体的に進めていく仕組みを放射光全体で考えていく必要があるのではないかと感じました。
【高原主査】  ありがとうございます。確かに石川先生のおっしゃるとおりでございますので、その辺りも新しい枠組みを作りながらうまく運営していくというのが次世代の放射光の使い方だと思います。
 そのほかにございませんでしょうか。
 ないようでしたら、若干時間が過ぎておりますけれども、議題2のその他についてというところに移りたいと思います。こちらは今後のスケジュール等の連絡事項になりますけれども、事務局よりお願いいたします。
【岡村補佐】  本日はどうもありがとうございました。
 それでは、お手元の資料3をご覧ください。こちらに次回以降のワーキンググループの開催予定についてまとめさせていただいております。次回は年内最後の開催となりますが、12月16日火曜日15時から、この会議室、文科省3階の特別第2会議室にて開催を予定しております。次回も本日同様に委員の皆様からのプレゼンをお願いする予定でございます。
 その次、第7回は年明けになりますが、1月7日水曜日15時から予定しております。議題といたしましては、一つ目に、平成26年度に文科省から東北大学に委託しております次世代放射光施設に関するニーズ調査の状況報告を東北大学のほうから行っていただくことを予定しております。二つ目といたしましては、総括的議論と書いておりますが、第6回までの議論をもとに事務局の方でワーキンググループ報告書の骨子の案を整理させていただいたものを事前に委員の皆様に送付させていただき、ご確認いただいた上で、第7回の場で御議論いただく予定でおります。
 2月は開催を予定しておりませんで、その次は3月になりますが、第8回、最終回を3月9日月曜日15時から予定しております。こちらでは、第7回の場でいただいた骨子案に対する御意見等を踏まえまして、報告書の案を事務局のほうで作成させていただき、これも委員の皆様に事前にご確認いただいた上で、第8回の場で御議論いただければと考えております。その結果を3月中に、ワーキンググループの報告書として取りまとめさせていただく予定です。
 最後になりますが、旅費関係の手続では、書類を押印の上で机上に置いておいていただければと思います。配付資料につきましても、前回まで同様、机上に置いておいていただければ、後ほど郵送させていただきます。
【高原主査】  ありがとうございました。
 こういったスケジュールであと3回ほどワーキンググループを行っていきまして、そこで報告書を取りまとめていく予定です。メール等でいろいろな文書が送られてまいりますけれども、それに関しましても是非目を通していただければと思います。
 それでは、本日の会議を終了いたします。大変お疲れさまでした。どうもありがとうございました。

お問合せ先

科学技術・学術政策局研究開発基盤課量子放射線研究推進室

(科学技術・学術政策局研究開発基盤課量子放射線研究推進室)