次世代放射光施設検討ワーキンググループ(第4回) 議事録

1.日時

平成26年9月22日(月曜日) 15時00分~17時00分

2.場所

文部科学省 3階 特別第2会議室

3.議題

  1. 次世代放射光施設のあり方について
  2. その他

4.出席者

委員

高原主査、雨宮委員、内海委員、上村委員、北岡委員、小松委員、櫻井委員、佐野委員、菅原委員、杉山委員、曽我委員、水木委員、渡邉委員

文部科学省

川上科学技術・学術政策局長、岸本科学技術・学術政策局次長、渡辺研究開発基盤課長、工藤量子放射線研究推進室長、中川研究開発基盤課長補佐、岡村量子放射線研究推進室長補佐

5.議事録

【高原主査】  それでは、定刻になりましたので、第4回次世代放射光施設検討ワーキンググループを始めさせていただきます。本日はお忙しい中お集まりいただきまして、ありがとうございます。

 今回は、尾嶋委員、北川委員、廣瀬委員が御欠席との連絡を受けております。

 また、過去3回の開催実績を踏まえて、今後の議論をより深める上で有用と思われる観点について、事務局に整理していただきました。この資料につきましては後ほど御説明いたします。

 開催に先立ちまして、本ワーキンググループに今回初めて参加いただきます、科学技術・学術政策局の岸本次長を御紹介させていただきます。よろしくお願いいたします。

【岸本次長】  7月25日付けで民間から登用されました、岸本でございます。今後よろしくお願いします。

【高原主査】  それではまず、事務局より配付資料の確認をお願いいたします。よろしくお願いいたします。

【岡村補佐】  座って失礼いたします。

 まず、お手元の資料を御確認ください。先ほど主査からお話しいただきましたとおり、今回は机上の配付資料と致しまして、本日の委員プレゼン資料に加えまして、「今後の次世代放射光施設検討WGにおける議論の観点について」という資料を用意してございます。こちらは、過去3回の開催実績を踏まえて、今後の議論をより深めていく上で有用と思われる観点について事務局の方で整理したものですので、御議論の中で是非御活用いただければと思います。

 内容の方を御覧いただきますと、大きく2点ございまして、まず一つ目の内容といたしまして、次世代放射光施設の在り方に関する観点1、2、3とございます。まず観点の1点目として、得意とする波長領域、これを特定の領域、硬X線、軟X線、真空の紫外光、そういった領域に特化すべきか、あるいは全ての波長領域をカバーすべきか、という点を挙げております。また、観点の2点目と致しまして、エミッタンス、これは電子ビームのサイズ、角度広がりを表すパラメータですが、これをどの程度まで下げるべきか、具体的には回折限界を目指すのかなど。観点の3点目と致しましては、ビームの安定性について挙げております。安定性が多少犠牲になることがあったとしても、可能な限り先鋭的な光源を目指すべきなのか、あるいは安定性の確保を最優先すべきなのか、そういった観点を挙げてございます。

 二つ目の内容としまして、次世代放射光施設の設計・整備に関して考慮すべき制約に関する観点、こちらも1から3まで3点挙げております。1点目と致しまして、科学的あるいは技術的な制約。これは実現可能な物理パラメータ間でのトレードオフなどを考えております。例えば、輝度を上げたい、しかし輝度を上げ過ぎると試料の方がもたない、壊れてしまうとか。あるいは周長を大きくするか、小さくするか、その場合に確保できるビームラインの本数がどうか、そうした場合にエミッタンスはどうするのかといった点です。さらに、電子ビームのエネルギーを何GeVにするか、その場合、波長領域はどうするのか、といった観点を想定しております。2点目と致しまして、グローバル化の観点と書いてございます。各地で新しい放射光施設の建設計画がある中で、国際競争におけるリードタイムはどうか、また、全てを自前で、国で抱えるのではなくて、国際間で相補的に利用していくことを考えるのか、といった観点です。最後に、その他、財政的・時間的制約や環境要因と書いております。建設費、運用費の要因もありますし、ロードマップの考え方もありますし、そういった制約をどのように考えていくべきか。

 最後に、こちらは具体的な説明は省かせていただきますが、参考と致しまして、光源特性に関する物理パラメータの表も用意してございます。こちらも御議論の際に適宜、観点として御活用いただければと思います。

 また、前回同様、ドッチファイル、こちらのファイルですけれども、過去3回の会議資料と、各施設の運転時間や人員情報を補足する「日本の主な放射光施設基礎資料」を御用意しております。こちらも是非議論に当たって御活用ください。

 次に資料1ですが、これは前回会議の議事録です。縦のステープル留めの資料がございます。内容としては、委員の皆様に既に御確認いただいているものですけれども、この議事録自体は公開資料となりますので、反映漏れなどありましたら、本日の会議終了時までに事務局の方までお知らせください。

 最後に資料2ですけれども、こちらは本日の委員プレゼン内容の補足資料になっております。

 以上でございますが、何か欠落などございませんでしょうか。もしございましたら、事務局までお問い合わせいただければと思いますが、よろしいでしょうか。

【高原主査】  よろしいですか。

 それではまず、お手元の議題1、次世代放射光施設の在り方について、に入りたいと思います。本ワーキンググループとしては、次世代放射光施設に求められる性能・機能を幅広く議論することが主な目的となっております。本日は是非、各分野のサイエンスを進化させるためにはどのような光が必要かといった点について、先ほど事務局から配付いたしました議論の観点についてという資料、その辺りを考慮いただきまして、活発に御議論いただければと思います。

 本日は、櫻井委員、菅原委員、北岡委員に発表をお願いいたします。委員の皆様には、今後取り組むべき研究課題について、次世代放射光施設に期待する貢献について、それから、次世代放射光施設に期待する運営の在り方についての3項目についてプレゼンを行っていただきます。その際に、先ほどの議論の観点を若干考慮していただきながらプレゼンをしていただければ幸いです。

 プレゼンごとに、15分程度の説明時間と、それから、10分程度の質疑の時間を設けております。また、三人の先生方のプレゼン終了後、最後に総括の意見交換として30分から40分程度時間を設けたいと思います。

 それではまず、櫻井委員より説明をお願いいたします。よろしくお願いいたします。

【櫻井委員】  北九大の櫻井です。それでは、よろしくお願いします。

 私のプレゼンを始める前に、私の自己紹介を少しさせていただきます。私、20年ほど国内の某化学メーカーにおりまして、その中で中央研究所の材料開発をやる中でDDSをやっていました。その後、いろいろな事情がありまして、大学に移りました。私、もともとのバックグラウンドは高分子の物理化学ですけれども、会社のときにDDSをやっていたということと、それから、大学に移ってから生体高分子をやっていまして、私が発見した生体高分子のある現象が非常にDDSに向くということで、10年ぐらいやってきた研究が実は今年からある国内の製薬会社さんで10年以内をめどに実用化するということで、実際に実用化の研究をするとともにDDSに関する物理化学の研究をやっていると、そんなような状況です。今日は、ですから、DDS、ドラッグデリバリーシステムについて中心に話をさせていただきます。

 DDSのマーケットですけれども、これはインターネットから見付けたのですけれども、リサーチ会社の資料によりますと、先端的なナノDDSの市場というのは、今後急速に大きくなっていくと。特にアメリカで非常に大きくなります。残念ながら、このothersの中に日本が入っていまして、日本はDDSの基礎研究に関しては先進的なところを走っていますけれども、市場予測としてはそんなに大きくありません。こんな感じで非常に伸びていきますので、科学技術基本政策でもDDSは重点分野の一つとして位置付けられております。それから、後から話をしますけれども、各製薬会社でもDDSというのは非常に大事な技術だと考えております。

 その理由の一つですけれども、これは横軸に年代で、縦軸にどんな薬が今まで研究されてきたかということを表したものです。ここにずっと上がってきているのが、これがペニシリンとかといったいわゆる低分子薬です。ですから、分子量が数千ぐらいの有機合成で作れる分子が非常に一世を風びしまして、いわゆるブロックバスターという非常に大きな薬なんかも出てきています。

 しかし、例えば日本の遠藤先生のように自分の裏庭に生えているカビとかそういうものから有用物質が出てくるという時代はもう既に過ぎていまして、各製薬会社さんは、いわゆる生物資源ということで、南極とか熱帯雨林とかいうところで出てくる珍しい生物とか、火山帯にいるような生物から有用な物質を探すということで、主にもう生物資源、生物でのそういう低分子化合物を探してくる資源は尽きつつあると言われております。

 そういう中で次に出てきましたのが、いわゆるタンパク製剤です。大腸菌とか虫とかにタンパクを作らせて、そのタンパクでもって病気を治すというのがずっと出てきました。

 その後、この辺りにドラッグデリバリーシステムという概念が出ました。それとは別なんですけれども、その後、タンパク製剤の後に、今度はDNAとかRNAという核酸そのものを使って薬にしようと。この二つは、皆さん御承知のように、セントラルドグマのDNA、RNAタンパク質という、タンパク質をターゲットにする薬です。どちらかというと、こちらの方はセントラルドグマの上流の方のRNAとかDNAの部分でストップして病気を治すということで、より根源的なところで治すという発想であります。しかし、RNA、DNAというのももちろん我々の体の中では他人のといいますか、非自己のRNAとかDNAになっておりますので、そのRNA、DNAをいかに細胞とか患部の大事なところに届けるという、いわゆるDDSの技術というのはこの核酸医薬の実用化には不可欠であると言われております。

 これが、もちろん皆さん御承知の方も多いと思いますけれども、簡単に今の話をもう1回繰り返して説明したのですけれども、低分子薬というのはこういう非常に低分子の薬です。世界で一番売れている薬というのは、遠藤先生が三共におるとき見つけられて、実は三共でちゃんと実用化できなかったんですけれども、これが世界で今、一番売れている薬で、コレステロールの抑制剤ですけれども、こういう低分子の薬です。これがタンパク質にピタッとくっつきます。

 その後に出てきたのが、こういうバイオテクノロジーの技術を使って作るタンパク質剤です。インシュリンとか、サイトカインとか、抗体医薬。今、抗体医薬が主体ですけれども、抗体医薬です。

 その後に、RNA、DNAを主体としたこういう薬が今後出てくるだろうということで、今、三つぐらいもう既に認可されております。

 ここからが少し暗い話ですけれども、これ、2012年における世界トップ14までの製薬の売上げを示しています。こちら側が製品名で、こちらが一般名です。製品名で網掛けしてあるのがバイオ医薬品というやつです。一般名で網掛けしてあるのが日本発の医薬品です。そうすると、今後期待できると言われているバイオ医薬品に関しては全く日本発じゃないということが、これ、非常に深刻です。実はタンパク製剤というのは、日本でも非常に活発に研究されたのですけれども、大学とか何かの研究が実際に製品に結び付かなかったという非常に痛い反省ですけれども、そんなことがあります。

 低分子薬では、例えばロスバスタチンとかこういうものが頑張っていますけれども、実は今、2012年というのが製薬の中では一つのトランジションな年でした。2011年、12年、13年ときて、なかなかバイオ医薬品と言われるタンパク製剤が伸びてこなかったのですけれども、2012年をきっかけにして、この網掛けがタンパク製剤で、何もしないところが低分子薬ですけれども、2011年以前はいわゆる低分子薬がずっと売上げのトップ10を占めていたんですけれども、2012年から初めてタンパク製剤がトップ1を占めて、その後急速にバイオ医薬品のマーケットが低分子薬を置き換えている。

 かつ、ブロックバスターと言われた非常に売上げの多かった低分子医薬品の多くが特許切れを迎えつつあるということで、今後この数年は今までの低分子医薬品がタンパク製剤に置き換わっていく流れが加速していくだろうと言われております。残念ながらこのバイオ医薬品の分野では日本が後れをとった、後じんを拝したというのが正直なところかと思います。

 これ、今、私、ある製薬会社さんの方と一緒になって、今後10年以内に核酸医薬を実用化しようということをやっております。そんな中でいろいろな方の話を聞いて、実は私の前いた会社も医薬品をやっていましたので、そんな中から、なぜ日本はバイオ医薬品で後じんを拝したのかという、この辺から実は放射光が入ってくるのです。

 これが低分子医薬品の開発の大ざっぱなスキームです。すみません、私見と書いてありますので、必ずしも正しい用語が使われているとは限りません。昔の低分子医薬品は、要するに、名人芸で作って、その後、同じものができれば、すなわち、NMRとかMSで同じものが作れれば、どんな方法でもよかったんです。ですから、基礎段階では有機合成化学が一生懸命名人芸で作って、その後、生化学とか製薬科学の間で生物の試験をして、いいものができたら、その後に化学工学とか分析化学が入ってきて製品開発したのです。

 ところが、今一緒にやっています会社さんなんかの非常に大きな反省点は、実はここのところで、アメリカではかなり早くから言われていたCMCという概念、これはChemistry, Manufacturing and Controlという、FDAでは非常に大きな大事なコンセプトだと言われています。すなわち、薬の化学とか製造に関するコントロールをきちんとするという、このCMCという概念が日本では欠けていたと。

 ここの段階ではあんまり大したことないと言ったら失礼ですけれども、ある意味途中からでもいいのですけれども、バイオ医薬品の場合には、例えばどんな菌体で作る、どんなオリジンでタンパクを作るかと。大腸菌で作る場合と昆虫で作る場合ではそこに入ってくる不純物が違いますから、全く違ってくるわけです。ですから、このCMCが最初から入って、かつ一体何があるかということをきちんと分析しなければいけなかったのが、それをあんまりしてこなかったということで、それが一つの原因だと思いますけれども、バイオ医薬品が後れたということです。

 このバイオ医薬品というのはほぼ勝負が付きつつあるのじゃないかと思いますけれども、次に来る核酸医薬とDDSの世界ではどうかといいますと、後から実例をお見せしますけれども、このDDSの世界というのは非常にややこしい高分子の製剤を使います。ですから、単なる低分子じゃなくて、一体何が入っているかということをきちんと分析する技術が非常に大事です。CMCという概念がますます大事になるだろうと思います。そういう意味で、この分野で放射光なんかを使った、溶液中のDDSナノ粒子の分析をきちんとやっていくということが一つの放射光の使い方かなと私は思っております。

 これ、アメリカの方の話ですけれども、アメリカでは、高分子医薬のレギュラトリーサイエンスというのが、FDAの方でタンパク製剤はこちらで審査するんですけれども、DDSは大体、CDRというこちらの方で審査するそうです。ここは低分子薬の審査をずっとしてきた人で、分布とか非常に厳しいことを言っています。基本的には3回異なるロットで試験をやって、同じ物性、構造、薬理効果をきちんと示すというのが大事です。

 高分子の製剤をやられた方は分かると思うんですけれども、低分子では同じ物性、構造を出すのは非常に簡単ですけれども、実は高分子では同じものとは何かということから決めなければいけないのです。つまり、分子量分布がありますし、同じ組成でも実はその中での高次構造が違ったら違った物性を発揮しますから、高分子とか何かで同じ物性・構造であるというのは一体何かということは結構難しいことです。

 その例を一つ示します。これは近年、アメリカのAvidimer、こういうベンチャー会社が実はデンドリマーに葉酸と制がん剤をくっつけたこういうDDSですけれども、非常にこれ、制がん効果がありましたから、ものすごくお金を集めてベンチャーを作ったんです。FDAの審査まで行ったのですけれども、実はFDAの審査に行ったときに通らなかったんです。ということが今、その道の方では結構話題になっている話です。

 なぜ通らなかったといいますと、デンドリマーに葉酸と制がん剤を付けたときに、葉酸というのは、これはがんに取り込むことを促進することを物質でして、これががんを殺す薬です。これがたくさん付いたら、これがあんまり付かないとかいうことがあって、一体どの組成が一番よく効くかという、このAPI、Active Pharmaceutical Ingredientの同定に失敗しているんです。だから、FDAに対して、どの組成が効きます、どの組成は不純物だからこれはいらないのですということが証明できなかったということです。

 そういうことで、多分彼らは放射光を使っていませんからというか、いわゆるHPLCだけの分析ですからここの分布の同定ができなかったということと、ラボで合成したデンドリマーとスケールアップしたデンドリマーでは、ラボで合成したデンドリマーには分布はなかったのですけれども、スケールアップするとデンドリマーに分布が出てきてしまって、デンドリマーというのは分布がないというのが売りだったのに失敗したというCMCの失敗、この2点だと言われていますけれども、こんなことがあります。

 ここからは手前みそになりますけれども、我々のところでは、先ほど言いました、今、起業がやっていますのはこの系とは違うんですけれども、高分子ミセルという日本を代表するDDSの溶液中での構造解析について放射光を使ってやってきました。そうしますと、普通は製薬の方に言わせると、高分子ミセルというのは流体力学的半径を決めればそれでいいのだと言われてきたんですけれども、そうじゃなくて、この高分子ミセルの中の会合数がコアの物性とどう関係しているかとか、コアとシェルの大きさをきちんと測ったり、それから、ここにいる、実は生体適合性に最も大事な親水性の鎖の密度をきちんと決めたり、それから、ASAXS、これはブロムを使った粒子の異常X線照射散乱から薬剤が少しはみ出ているというようなことも見てきまして、放射光を使うと非常に高分子ミセルというのがきちんとキャラクタリゼーションできます。最近この仕事は、高分子ミセルの方からは非常に高く評価されまして、これを使ってCMCをやっていこうという話も出ております。

 実はこれ、前回、私、JSTのプロジェクトでこれをやりたかったのですけれども、できなかったんですけれども、こんなことを今考えています。GPCとかFFFといういろいろなものを、高分子薬というのは混ざりものですので、それを分ける、分画する装置の後に、例えば光散乱とかUVとかと同時に非常に強力なX線を付けてやる。そうすると、基本的にはここの各フラクションは単分散ですから、混ざりものですけれども、フラクションを分けた単分散のところから小角散乱のパターンを取ってきてそこから可視化すると、この中にはこういうものが全部入っているということが分かると、そんなことを考えています。

 なぜ単分散なものからSAXSを取るのが大事かという一つの例ですけれども、これは我々が今やっていますが、たまたま単分散なミセルを見付けました。そうしますと、ミセルからの散乱というのは、実験でいったらこれですけれども、こいつをいわゆる古典的なCore-shellモデルで合わせるとここまでしかありませんけれども、今、ヨーロッパで非常に進んでいますDummy Beadsモデルのような可視化モデルで合わせるとこの辺まで合います。この可視化モデルと、それから、MOPACで計算した分子モデルを合わせてRigid bodyモデルを作ってやると実はもうこの辺まで合ってきて、ほぼ小角散乱の全体像が、これが実験データですから、ほぼ合います。

 X線結晶構造解析の人に言ったら怒られますけれども、X線結晶構造解析で単結晶を取るのは2年3年掛かるのですよね。そんなことをしなくてもいいと言ったら叱られますけれども、ラフなアトミックのコーディネーションを見付けるには、別に結晶じゃなくても、単分散のものから真面目に小角散乱を取ればアトミックスケールなものがほぼ出てくると。これもう論文が通っていますので、私の私見よりもちゃんと認められたと思いますけれども、そういうことができます。

 ということで、単分散のものをきちんと真面目に小角散乱を取れば、このぐらいのアトミックススケールまでのデータが得られますから、ですから、単分散のアトラクションから小角散乱を取ってやって、光散乱とかこういったものと組み合わせてやって、各フラクションの分析をきちんとやっていけば、非常にややこしい高分子形でもきちんとした分析ができて、FDAとかといった、今まで低分子の分析に慣れているようなそういう人に説得力あるようなデータができるんじゃないかと思っております。

 ですから、私の今日の話をまとめますと、次世代医薬品を代表する核酸医薬DDS製剤の溶液中での精密構造解析に関して、レギュラトリーサイエンスという、そういう分野での基盤研究・基本データの提示。もちろん製品管理に放射光を使うのは無理ですから、製品管理にはコンベンショナルなSAXSを使うんですけれども、そのSAXSのピークの由来は何であるかとかいうことをきちんと放射光で見るというのは非常に大事なことかなと思いますし、FDAの申請なんかで放射光のデータを使うというのは非常に説得力があることかと思っております。

 それから、バイオ高分子をやる上では、やっぱり硫黄とかリンのX線異常散乱を水溶液中で測定するような、リンは一部、ESRFでやりかけていますけれども、そういったようなことができれば、ですね。今は実はブロムしかできませんけれども、リンとか硫黄がブロムからの異常X線散乱を水溶液中で測れれば、これ、すばらしいことになるなと思っておりまして、この辺は私自身もやっていきたいなと思っております。

 期待する運営の在り方ですけれども、これはソフトマテリアルにいる人間の感想かもしれませんけれども、常にソフトマテリアルの分野ではX線をやっている人というのは少数派でありまして、高分子学会に行ってもなかなかSAXSのデータは分かってくれません。また、その分野に来る人も少ないということがあります。

 先々週、私、実は台湾のビームラインのところのワークショップに呼ばれて参加したところ、ここでは非常に若手が育っているのです。その一つの秘けつは何かと彼らに聞きますと、ビームラインと、台湾で2番目にいい、レベルの高い大学である清華大学がすぐそばにあって、この清華大学の化学工学とか化学の学生がしょっちゅうここを使ってやっていて、そういう研究室からビームラインを使った研究もやると同時に、そこで非常にいい人材ができています。ですから、日本でこんなふうに大学と併設するビームラインというとやっかみが出てくるかもしれませんけれども、この際無視して、大学にドカッとくっつけてそういうビームラインを造らないと、なかなか若手人材の育成というのは無理かなと私は思っています。

 それから、ここですけれども、確かにビームラインサイエンティストは非常に忙しいですね。実験に行くと、学生が「本当に助かる」と言うのですけれども、「じゃ、おまえらどうする?」と言ったら、「いや、僕らはあんなしんどい仕事はやりたくないです」と9割は言うのです。特に最近の化学は女性が多いですから、女性から見ると、「あんな人と結婚したら大変ですね」とか言うし、自分もあんなことやりたくないと言うんです。それではやっぱり困るなと思いまして、若い学生が見て、彼らにももう少しおしゃれしてと言いたいのですけれども、若い学生が見てもやっぱり憧れの職業となるような、そういう彼らのキャリアプランを作っていかなければいけないなと私は思っております。

 それから、あんまり時間ないですから、ここですけれども、我々ケミストから見ると、もちろん最先端の物理でのビームラインというのは確かにすばらしいですけれども、どのようにして使ったら良いのかというふうに常に思うんです。こんなこと言うと叱られるかもしれませんけれども、平易なSAXSでいいから、非常に使いやすいビームラインという、やっぱりこの二つが要るかなと思います。つまり、非常にピークサイエンス、先端的なビームラインでピークの物理、フィジックスのところを狙うのと同時に、別にビームライン自身は新規性も何もないのだけれども、非常にユーザーフレンドリーで、そこに新しい物質を持ち込んできたらすばらしいデータが出るというようなビームラインがあればいいかなと思っています。

 実はこれも手前みそになりますけれども、さっきのSAXSのデータなのですけれども、これ、一応、自分なりに非常にきれいなSAXSのデータだと思っています。これは実は我々は真空カメラを使って、溶液中のセルを真空中に入れて測ったデータなのです。そこまでするとかなりきれいなデータが出まして、かつ、これ、今、「a.d.」と書いてありますけれども、ここ、絶対強度もとるようになっています。ですから、物理としては平凡なんだけれども、非常に使いやすくて、きれいなデータがとれるSAXSのビームラインで、放射光を知らない人にもフレンドリーなビームラインというのはやっぱり大事かなと私は思っております。以上であります。

【高原主査】  櫻井先生、ありがとうございました。先生は光源としてはどういったものが必要だと考えられているのでしょうか?

【櫻井委員】  先ほどのクロマトグラフィーにつけるためには非常に明るい光源が要ります。今の40B2のベンディングでは明るさは不十分です。ですから、やっぱり03番のようなアンジュレータぐらいの光源でないと、クロマトグラフィーから出ている薄いSAXSの領域からのきれいな散乱を取るのは無理ですね。ですから、それは要ると思います。

【高原主査】  あと、リンとか硫黄とかいうとまた別物になってきますか。

【櫻井委員】  これは私自身がよく分かってなくて、どういうふうにしたらいいかというのが分からないのですけれども、軟X線のところに入りますよね。しかも水中でやるというのは結構難しいと思います。薄いセルでESRFでは水の影響を除いてやっていますね。

【雨宮委員】  エネルギー的には8GeVよりももっとエネルギーの低い3GeV辺りの方がそこは強くなる、間違いなく。

【高原主査】  だから、かなり波長領域として幅広い領域が必要だということですね。

【櫻井委員】  そうですね、広い領域が必要ですね。

【高原主査】  ありがとうございました。

 それでは、御質問等ございましたら、お願いいたします。

 渡邊先生、お願いいたします。

【渡邊委員】  質問ですが、今言われたCMCというものが医薬の開発に大変重要だということはよく分かりました。例えば放射光で取ったときに、SAXSで取っても、やっぱりある周期構造とか幅とか分子量分布とかを持ってくると思うんですが、そういうのを、放射光で測定していったときに、先ほどのCMCとかで、FDAを取れるようになっていく何か方向性みたいなものはあるんでしょうか。

【櫻井委員】  今、FDAのCDERの態度は、昔は高分子とか知らない人が審査していましたから分布があってはいけないと言っていたんだけども、最近は特にタンパクにPEGがついたPEG化タンパクなんかの審査を含めて、分布があってもいいのだと。ただし、分布の度合いがこうであって、分布の主なフラクションはどういう毒性を示しているか、どういう薬効を持っているかということをきちっと決めなさいと。ですから、分布のキャラクタリゼーションが大事です。

 ところが、なかなか実際では分布を決めるのは難しいですし、その分布の中にどういうものが入っているかというのを見るのはかなり困難です。現状、今、主な分析方法は、残念ながらDDSで粒径を測るだけなのですね。絶対分子量もなかなか求めていないという状況ですので、それは多分FDA側にしたら非常に不満足だと思います。分子量ぐらい出せよというのが多分彼らの意見ですので。ですから、そういうのはSAXSを使って分子量が出ますし、構造も出ますので、CMCの中でそれ、やっていけると思います。

【渡邊委員】  そういう薬理効果みたいなものと、分子量分布とか、あるいは結晶構造の分布というのですかね、そういうものの違いが出てくれば使いやすくなってくるということですか?

【櫻井委員】  そうですね。実際には分布のある高分子薬でも、もちろん製品にするときにはしませんけれども、フラクションを取ってきて、そのフラクションの構造を測って、細胞とか動物に掛けて薬効を見て、この構造だからこうだということを実際やるというような作業は必ず必要です。そのときにはSAXSが必要だと思います。

【高原主査】  ほかに。製薬会社の方もいらっしゃいますけれども、コメントないでしょうか。

【曽我委員】  すみません、ちょっとお聞きしたいのですが、今回のような分析は、科学的な研究としては有用ですけれども、実際に工場などで作ったものを分析するには使えないという理解でよろしいでしょうか。

【櫻井委員】  工場で作ったものをSPring-8でやるというのはちょっとおこがましいと思いますので、それは無理だと思います。だけども、工場で測る、例えば工場で製品管理にDDSなり小角散乱を使ったとしても、そのときの実際のコンベンショナルなX線というのは非常にわずかですし、弱いですから、ピークしか見えないけれども、実はSAXSで測るとこれは三つか四つピークがあって、これはラメラ構造の最初のピークを見ていますよということが言えるというのが大事だと思います。それをFDAのアプルーバルは要求しますので、こういうデータがあるから、製品管理にはこの方法を使ってこうですと、そういうふうな説明の仕方だと思っております。実際、今そういうふうにやっています。

【曽我委員】  ありがとうございます。

【高原主査】  ほかに。よろしいですか。

 施設側から何か御質問とかございますか。

【熊谷理事】  ちょっと質問なのですけれども、実際にこういうことをするときに、ベンディングマグネットからの光だと弱い、アンジュレータからの光が欲しいということでしたが、絶対的な強度でどこまでだったらいいのかという。いわゆるアンジュレータで強度を上げると多分試料の方がもたなくなるレベルが当然出てくるわけで、ベンディングより高ければいいと言われても非常に困る部分があってですね。

【櫻井委員】  その部分を分画装置に入れるのは楽でして、常に流れていますので常にフレッシュなサンプルが供給されますから、そこは楽かなと思っております。

【熊谷理事】  と言われても施設側では非常に困るのですが、例えばベンディングマグネットの光に比べて、例えば100倍とか1,000倍とかそういう数字でいうとどのぐらいの値になるのですか。

【櫻井委員】  具体的にビームラインでいいますけれども、40B2で今のフラクションを入れてやったところ、やっぱり光散乱は十分取れますけれども、SAXSに関しては濃度が薄過ぎて、Rgのところまでしか、あるいはギニエ領域までぐらいしか見えません。45 XUの理研の装置を使うと、ようやくギニエ領域からその先が少し見えかけたところですけれども、まだ薄いなと思っています。

【熊谷理事】  そういうあれですか。

【櫻井委員】  はい。ですから、イメージ的には、40B2、それから、45 XUですから、100倍ぐらいですかね。もちろんあそこのスリットを絞ってしまうと弱くなりますけれども、100倍ぐらいのイメージだと思っています。03XUで使うとかなりいいかなと思っていますけれども。

【北岡委員】  ちょっと単純な質問ですけれども、先ほどの台湾のビームラインが出ましたね。

【櫻井委員】  はい。

【北岡委員】  先生の今やられている仕事を最も効率良くできるビームラインは世界でどこですか。

【櫻井委員】  今のところ、03XUではないかと思っています。

【北岡委員】  やはり日本の?

【櫻井委員】  はい。台湾はまだできていませんけれども、多分、非常に使いやすくなると思います。

【高原主査】  よろしいでしょうか。若干時間が超過しておりますので、次に移って、最後にまた議論を行いたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 続きまして、菅原先生、よろしくお願いいたします。

【菅原委員】  北里大学の菅原でございます。本日は、初めに私と大型施設との関わりについて少しお話しさせていただいて、その後、宿題になっております次世代放射光実験施設に期待することということで少しお話をさせていただきます。

 私と大型施設との関わりというのは、私自身は大学院の頃は分光学をやっておりまして、大分昔ですけれども、1982年に理化学研究所に入りまして、そこから結晶学に転じました。ちなみに、1982年というのはPFが完成した年というふうにネットには出ております。関わりという意味では、大学院時代に分光学で真空紫外領域を研究テーマで始め、することになったのですけれども、そこで、放射光で真空紫外の非常にいいデータを奥寺先生のグループで出されているのを見て、これはとても実験室系では太刀打ちできないという思いを持ちまして、テーマを変えたという思い出があります。

 1986年の段階からそこに挙げさせていただきましたような装置を利用させていただき、それから、SPring-8に関しては、2003年から時々、粉末回折系を使わせていただいております。ですので、ユーザーでないわけではないのですけれども、このワーキンググループの中では、申し訳ないのですが、どちらかというと私は現在中性子の回折とかミュオン実験をやっております。スタートは2002年に原研のJRR-3研究炉で、HONDERとか、BIX-3、BIX-4を使わせていただきました。

 その後、J-PARCが出来上がりました。これはJ-PARCのMLFの装置の配置図ですけれども、ここにございますタンパク質及び格子が大きい有機物質、それ向けのiBIXという結晶構造解析の装置、それから、逆に今度は低分子で圧力を掛けたり、それから、低温を測ったりできるということに狙いを置いておりますSENJUと呼ばれる装置。これも単結晶の装置です。それから、粉末回折装置であるiMATERIA。それから、昨年からですが、MLFのこの領域はミュオンの実験施設が付いておりまして、ここで、D1ラインといっているところでミュオン実験をお世話になっております。

 どんなことをやっているかということなのですけれども、私自身はX線構造解析で水和物結晶における水和水の様子を見るということをテーマにしております。こういった水和水という問題は、生体分子では構造を負にする、そして、更に機能発現するためには、凍っていない運動性のある水が非常に大事なのだというのが今、共通のコンセンサスになっているかと思うんですが、この問題と結び付いております。また一方で、私自身は医薬品を扱っているわけではありませんけれども、医薬品の世界でもやはり製造とか管理の過程でこういった水和水の問題が非常に大事であるというふうに伺っております。何か医薬品で水和水の挙動がどうもよく分からないときに何回か御相談を受けたこともございます。

 実際に測定をするとどんなことが分かるのかということですが、これはある種のデモンストレーションに用意したスライドです。結晶は、下の方にちょっとちらっと書いたんですが、シチジン一リン酸という核酸の構成単位の結晶で、この辺り、それから、この辺りですが、分子が層状構造を形成しておりまして、その分子層の間に水の領域がございます。この水の領域の水を、こちら側はX線結晶解析で見たときの水の描像、それから、こちら側は中性子構造解析で見たときの水の描像です。

 皆さんよく御存じのように、酸素は電子がたくさんあるけれども、水素は電子が1個しかないという事情がありますので、酸素の電子分布の脇がちょっと膨らんでいるという、おむすび型になっている、ここが水素の位置であるということで、X線の方からも水素の位置を決められないわけではないと。しかし、この水がゆらぎを持っている、酸素が大きく熱振動いたしますと、これはほとんど球状やだ円体になりまして、どこに水素があるか分からないというような状態になるわけです。

 それに対しまして、中性子構造解析をいたしますと、ここで黄色い色で示しているのが非水素原子、水素以外の原子で、水色で示しておりますのが水素原子ですが、これも皆様よく御存じだと思いますが、水素は負のピークとして出ますので、非常に明確にここに酸素があって、ここに水素がありますという描像が、酸素のゆらぎが少々大きくてもはっきり決めることができます。

 その結果、例えばどんなことが分かってきたかといいますと、これも似たような核酸の構成単位の結晶ですけれども、こういったところでは非常にきれいな水、H2Oの描像が出ているわけですが、こういったところになりますと非常に水の酸素が伸びている、要するに、揺らいでいるという様子が見えるのですが、それに対する水素がきっちり見えております。これをよく眺めるとどういうことが分かるかというと、この辺に漫画が描いてございますけれども、水はNなりOなりといった分子に水素結合して、これをアンカーとして水素よりは酸素の側が揺らいでいるという、そういうような水のゆらぎがあるという描像が見えてまいりました。

 また更にその中には、このゆらぎというのが独立ではなくて、あちこちである種のネットワークを作って、そのネットワークが右と左で切り替わっているという協同的なゆらぎがあるというような描像も見えてまいりました。一般に結晶構造解析というのは静的な構造しか見えないというんですけれども、実際にはケース・バイ・ケースでこういった動きを見ることができるということなんかが明らかになってきております。

 またもう1点、こういった中性子の単結晶構造解析というのは非常に有効なのですが、結晶はやはり結構大きなものが必要になります。一昔前は1センチ角と言っていたのが、さすがに今はJ-PARCですと1ミリ角あればというような時代に入ってきているわけですが、実際に有機分子ではとてもそんなところではなくて、例えばこれからお見せしますグアノシンですと、0.2掛ける0.1掛ける0.05ということで10のマイナス3乗立方ミリメートルですか、だから、三桁も足りないということになります。こういったものの中の水のゆらぎも是非見たいということで、粉末中性子回折から何とか水素位置のゆらぎが見えないかという、そのための解析方法の検討を始めました。

 対象と致しましたのは、グアノシンという、これも核酸の構成単位、結晶です。なぜこれに注目しましたかというと、結晶水の一部のところがチャネルに近いような中で、たくさんの分子が作る空間であちこちに水素結合できる部分があると。それに対して水は、こちらを向いたり、あるときはこちらを向いたりというふうに揺らいでいるというふうに考えると、水の出入りの相転移がうまく説明できるし、またMD計算をやってみると、これはMDのスナップショットなのですが、結晶構造解析だと等価としている水が、実はある瞬間こっちの方を向いていて、ある瞬間は下の方を向いているというふうなこういう描像が現れてきまして、これは動いている水であろうと。これを何とか粉末から見たいということです。

 iMATERIAで粉末の中性子回折のデータを取っていただきまして、フィッティングを掛けてということで、これはやっと今年の先月のIUCrで報告した内容です。普通の水素が大体球状になっているのに対して、今、問題にしているような水は、水素の分布がどうも伸びているようであるというのが、こちら側がマキシマム・エントロピー法で求めた核密度の分布で、こちら側はフーリエを使っているものですけれども、やっとこういったふうに解析できるというところまでたどり着いたと、こんな研究をしております。

 放射光に何を期待するかということですけれども、今、中性子ではなくて、今度は放射光というお話ですが、一つ話題になっているのは自由電子レーザーということです。これは「理研ニュース」から取らせていただきましたけれども、一昔前は1ミリぐらいの結晶が欲しいと言っていたのが、放射光がどんどん発展してきますと、数十マイクロメートルで構造解析ができるような時代に入った。ところが、自由電子レーザーならば、10ミクロン以下の結晶でも構造解析が可能な時代に入ってきたという、こういうようなニュースが載っておりましたけれども、こういうファクターが一つある。

 同時に、これはこの9月に『Nature』に載った論文ですけれども、自由電子レーザーを使うことによって、photosystem2について時分割測定をやりましたということです。もちろんそう簡単なことではないというのは、この大勢の共著者の数を見れば見えてくる問題でありますけれども、これ、可視のレーザーをたいて、あるデュレーションをとって、X線のパルスを当てて構造解析をすると。こういうことをすると、photosystem2で一番問題になるマンガンクラスターの辺りで少し構造変化が起きている様子が見えたのではないかという報告です。ただし、現状では分解能は5オングストロームなので、『Nature』に載っている論文ですけれども、クエスチョンマークが付いていまして、動いたかもしれないという段階ですが、これはまた日進月歩で状態が良くなっていくんだと思います。

 こういうような最先端の研究というのはやはり当然、放射光に要求されてくる部分だと思いますが、今の話はphotosystem2ということで生物をターゲットですけれども、こういった時分割という問題は、物理の世界でも化学の世界でもあって、光有機の相転移とか化学反応が起こるというような非常に短いピコ秒オーダーで変わっていく様子というのは今まで専ら分光学を手法として追い掛けているわけですけれども、仮にX線レーザーを使うことによって時分割の構造を決めることができれば、そこに非常に大きな一つのファクターを取り込むことができて、設計とか機能の理解とかが一段と進むということで、当然これは期待されるわけです。

 一方で、貢献としてはただそれだけではないということをもう一つ申し上げたい。これは今お話しいただきました櫻井先生のお話と共通してくるのですが、これ、先月カナダのモントリオールで国際結晶学連合会議が開かれました。それについての報告をまとめさせていただいたんですけれども、そこに書かせていただいた内容です。

 結晶学に関わる装置から、いわゆる普通の構造とか機能の研究から教育に至るまであらゆる分野の内容が発表される会議ですけれども、その中でやっぱり一つの話題は、X線自由レーザーが話題になっておりまして、いろいろな基調講演もあり、また、マイクロシンポジウムが開催されまして、大勢の人が集まっていたわけです。

 一方では、粉末のデータ解析という問題があって、私、中性子でやっておりますので、これはやっぱり関心があるので、そのマイクロシンポジウムに出席いたしましたけれども、複数のマイクロシンポジウムが開かれて、それぞれのマイクロシンポジウムでは結構立ち見が出るような状況で関心が非常に高い。なので、先端的な研究ももちろん要求されるんだけれども、一方で、非常に基礎から応用まで高い汎用性を持って、しかも実験室系よりははるかに進んだいろいろなデータが出るという意味で放射光が要求されるのではないかと考えられます。

 最後に、期待することなのですけれども、これに関しましても、実は申し訳ないのですが、中性子の方が私にとりましては具体的にイメージがあるものですから、こちらでお話をさせていただきます。多分、状況は放射光でも全く同じで、新しいビームラインができるというか、装置ができる、放射光施設ができる、ないしは中性子の線源ができるというのは、これはスタートラインにすぎないと。これが新しければ、先端的であればあるほど、周辺機器――検出器とか、測定方法、解析方法、これががらっと変わってくるということで、ここまでフォローできないといい使い方はできないということで、是非ここまでフォローしてほしいというのが運用に関する期待です。

 例えばJ-PARCで何が違ってきたかというと、これは原子炉と違ってタイム・オブ・フライトの実験に変わった。そういたしますと、測定機器が変わってしまいます。原子炉の時代はイメージングプレートが非常に有効に働いていたわけですが、イメージングプレートはもはや使うことができない。このイメージの右側は、一見、X線のフィルムにブラッグ反射が写っているような、横軸Xピクセル、縦軸Yピクセルで、そこに、これ、中性子ですけれども、リフラクションが写っているわけですが、実際の測定というのは、それにもう一つ時間軸がありまして、刻々飛んでくる中性子のビームを区別して測定しないと、これらが全部違う波長情報をしょっているというわけですので、こういう新しい測定方法が当然のことながら必要になってきます。

 そのために、新しいディテクターを開発して、それから、イメージングプレートのように広い領域をカバーしなければいけないという話になりますと、これをまたたくさん並べて測定をしなければいけないという新しいいろいろなファクターが入ってきて、もうJ-PARCが出来上がってから、ビームの強度をだんだんに上げながら、100ミリワットからスタートして、1メガワットを目指しながら、同時にこういった測定計自身についても増設を行い、種々な改良が今進んでいるという最中になっております。

 当然、解析のためのソフトというのも、これはデータリダクションのためのソフト、それから、解析用のソフトというので、STARGazerとかZ-codeとか、新しいソフトが開発されているわけですが、これもまだとても完全なものになったとは言えない状態です。例えば粉末の中性子というのは、低分子というか無機物なんかでは非常にいいデータがもう山のように出てきているわけですけれども、有機物で少し格子定数が大きくなってくると非常に解析例が減ってきて、こういうソフトがそれにうまく対応していない。それをお願いして変えていただきながら解析を進めてきたなんていう状況をしょっていますので、こういった周りの状況を同時に発展させなければいけないということがございます。

 これがまとめですけれども、新しい放射光施設に期待することとして、先端の研究と、それから、汎用性のある研究と。だから、X線レーザーがたくさん何本もあればいいという問題では決してないだろうと。こういうものをカバーすると同時に、周辺機器について、これが迅速にカバーできないと、せっかく装置ができても装置を生かすことができないという状態になりますので、ここまでにらんだ支援体制を金銭的にも、それから、人的にも考えた運用をしていただきたいと、このように考えております。以上でございます。

【高原主査】  ありがとうございました。

 それでは、何か御質問等ございますか。最初の櫻井先生は主として溶液系のお話で、それから、菅原先生の方は結晶解析、構造解析で、しかも中性子を使ったお話が中心でしたけれども。ございませんか。

 はい、どうぞ。

【曽我委員】  すみません、我々の製薬会社で結構タンパク質と低分子の会合状態の分析をよくするのですが、実際にはなかなか水素までは見えないというのが我々としてもいつも悩みであって、もし水素が見えて水素結合なども分析できれば、いいデザインができるのかなと思うことはよくあります。先生のお話にあった、中性子だと水素が見えるということは非常に期待できると思いますが、関係者から話を聞くと、中性子で分析しようとすると、かなり大きい結晶を取らないとなかなか分析ができないというような話を聞いていますけれども、どうなのでしょうか。

【菅原委員】  X線と比べますと、さっきもちらっとお見せしたんですけれども、三桁ぐらい必要とされるサイズが違ってくると。私もタンパクの中性子のデータをこの前初めて取ったんですけれども、あのときは2ミリぐらいの結晶を用意していったんですが、まだ分解能が足りてない感じでしたので、その辺のところはまだこれから大いに何とかしなければいけないファクターになると思います。

【曽我委員】  それで、水素まで見えるようにするための方法として二つ流れがあると思うのですが、一つは今の中性子の方法で小さい結晶でも見えるようにする。もう一つは、X線の方の性能を上げて水素が見えるようにする二つの方向があると思うのですが、どちらの方が可能性が高いと先生はお考えでしょうか。

【菅原委員】  これは個人的な感想ですけれども、一般論からいうと、かなりX線で精度を上げていけば水素が見えてくると。ただ、私が扱ったような、ゆらぎがあるようなというような問題が入ってきますと、とてもX線ではやはり頑張っても見えないという状態になりますので、そこは使い分けということになるのではないかと思います。

【曽我委員】  ゆらぎの問題を考えると、中性子の方がいい?

【菅原委員】  いいと思います。

【曽我委員】  ありがとうございます。

【高原主査】  ほかに御質問等ございますか。どうぞ。

【上村委員】  菅原先生、どうもありがとうございました。最後の「仏作って魂入れず」というところがものすごく共感したのですけれども、いわゆるビームはいいものがあるんですけれども、結局、周辺機器とか測定方法がうまくいかないと、せっかくいいビームが生かし切れないというのがやっぱりすごく実感としてあるのです。組織的には、例えば物理屋さんだけじゃなくて、いろいろなところの共同研究が、例えば企業も含めたディテクターのところとか要ると思うんですけれども、どういうことが具体的にあったらいいというふうに具体的なアイデアは先生の方でお持ちでしょうか。

【菅原委員】  具体的と言われるとどこまで具体的と言っていいのかあまり分かりませんが、おっしゃるように、装置屋さんと、それから、測定するソフトを作る人間と、それから、実際に測定する人間と、意見を出し合わないと前進しないという部分がすごく大きい。私も経験しているんですけれども、すごくいい装置なのだけれども、私のサンプルを測定しようとすると、例えば低角側は要らないので全然考えていませんでしたとか、取ってあるけど使っていませんということも、お願いするとどんどん対応していただけるので、やっぱりそこのところである種のコミュニティを作って、大勢で相談してどんどん進めていくということが必要なのだと思います。ただ、それがやはり1つずつの実験に係わって進めていると時間が掛かってしまう。迅速にやらないとそれだけ後れていってしまいますので、初めからある程度幾つかのターゲットを置いて、その方たちの集まりみたいなもので育てていくというんでしょうか、速い時間で育つようにしていくという、そういう組織が要るのではないかと感じております。

【上村委員】  ありがとうございます。

【内海委員】  原子力機構の内海でございます。J-PARCを有効に使っていただきまして、本当にありがとうございます。先生の最後のところに、新しい放射光施設の運営の在り方について御提言ございました。これと極めて密接に関係するのですが、J-PARCは御存じのとおり、非常に複雑な運営体制になっておりまして、JAEAとKEKが共管でやっておりまして、しかも、先生が今メインでお使いいただいたiMATERIAやiBIXは茨城県の装置という、こういう状況の中でやっていただいています。

 ユーザーの方から見て、今のJ-PARC、そこに対して、いや、何とかそういうところは乗り越えられているというのであまり問題になっていないのか、あるいはやはり決定的にこういうところは組織運営が複雑なゆえに困っている、放射光では是非ともこういうことがあってもらっては困る、あるいはそういうところはあんまり大した問題ではないと、この辺の御感想はいかがなものでしょうか。

【菅原委員】  私は幸い、iMATERIAの場合だと、茨城大学の先生と非常に親しくさせていただいて、それから一方で、ミュオンを使おうとしますと、これ、KEKになるんですね。その先生方と親しくさせていただいているので何とかやっているんですけれども、それでも、初めて例えばミュオンを使おうとすると、入り口がよく分からない。秘書の方にメールを打って、これ、どうしたらよろしいんですかみたいなことが出てくるわけなので、ましてやそうでない方がユーザーとして入られるときには、これはすごい大きなバリアに恐らくなると思います。

 やっぱりおっしゃったように、是非そういうものはなくて、ユーザーは何も考えないで、もちろん相談する相手というのはそれぞれあってよろしいんですけれども、組織を意識しないで済むようなものに是非していただけたらということは思います。非常につまらない話では、報告書のフォーマットが違うとかいろいろとあったりいたしますので、そこは大事な点だとやはり思います。

【内海委員】  すみません、質問しておりまして墓穴を掘ってしまいましたが、放射光では是非ともそういうことがないように考えていただければいいと思います。

【高原主査】  ほかにございませんか。

 今お話の中では触れられませんでしたけれども、ミュオンはどういう使い方をされているのでしょうか。

【菅原委員】  ミュオンはもともと磁性体で非常にいろいろないい成果が出ているわけですけれども、それを何とか生命現象にも使えるようにしたいということで、永嶺先生、鳥養先生といった方々がかつてチトクロムcという電子伝達系タンパク質についてミュオン実験をすると、どうもタンパクの中を電子が動く様子がミュオンを通じてモニターできているというプレリミナリーなデータを出しておられたのですが、そのままになっていた。それを今度、新学術領域で超低速ミュオン顕微鏡を造るという話の中でもう一度しっかりやろうということで、それで私が参加させていただいております。

 当面は、今見えている現象が一体何を見ているのかということで、私自身が水を扱ってきたという経緯もありますので、水和状態を変えたような試料を扱うことで、だんだん高磁場側のミュオンの緩和を見ることによって、タンパク質1分子の中で電子の動きがどれぐらいの速さのものなのかというのがモニターできているのではないかというところまで今差し掛かってきているところです。これがタンパク質の種類による違いというようなものが見えるというところまでたどり着けば、そこにいろいろな応用の可能性が開けてくるんではないかと、そんな研究を進めております。

【高原主査】  ほかに。水木先生。

【水木委員】  少し細かくなるかも分かりませんけれども、先ほどの中性子と、それから、放射光の使い分けのところで、先生が使われていたような、水素のゆらぎが大きい場合はやはり中性子という話でしたけれども、それは時間的に少し平均して取ってしまうからということだとすると、1発のもので、だから、XFELで精度を上げていって水素を見ていくという方向、要するに、分解能を上げていくという方向……。

【菅原委員】  おっしゃることがうまくいく場合と、それから、今、例えばやっている10ミクロンの結晶といえども複数個分子がありますので、分子間でのばらつきという問題はやっぱり逃げられないので、それは完全にはやはり逃げられない問題として残るような気がいたします。だから、1分子ならいいかということは起こってくるのだと思います。

【水木委員】  なるほど。分かりました。

【高原主査】  村上さん。

【村上副所長】  中性子と放射光の相補利用ということをおっしゃったわけですけれども、相補利用というのも、両方の情報を合わせることによって、新しいことが分かっていくということで、我々も非常に重要だと思っています。今度の次世代の放射光施設を造るときの運営の在り方ということで、中性子とか、あるいはまた場合によってはミュオンとかの他の量子ビームなどとの連携を施設側としてどういう形のものを考えたらいいかということを、ユーザーの方としては多分、違うところに申込みに行ってそれぞれ使うというのも一つの手だと思いますが、もう少しいいシステムとして、何らかの施設間のうまい連携みたいなものがあれば、ユーザーの皆さんに例えばですけれども一つの課題を出して、それによって複数の施設を利用するということが便利なことなのかどうかとか、ユーザーから見たときの、他のプローブとの連携というような観点でもし何かサジェスチョンを頂ければと思います。

【菅原委員】  連携させることは大事なことだとまず思っております。ただ、例えば私はどちらかというと最近、中性子の方でやっておりますので、X線をやろうと思うと、やはりそこで違う施設に申し込むときに、装置の状態も分からない、何も分からないということが起こります。そこに対する、両方でやったら非常にいいというテーマの枠みたいなものがあって、そこへ申し込めば、こことここを組み合わせたらいいでしょうと言って施設側でアレンジしていただけるというのですか、そういうものがあれば、ユーザーにとっては非常に有り難い。幅を広げることが今と比べてはるかに容易になるのでしょうか、そういうものはあると感じております。

【村上副所長】  ありがとうございます。つまり、施設の中の人間間で、違う施設の間でうまく情報交換ができたり、連携ができたりすると、そういうベースの中でユーザーの方が乗っかって、両方をうまく有効にやれるという、そういう考え方でしょうか。

【菅原委員】  はい。

【村上副所長】  ありがとうございます。

【高原主査】  まだまだ御意見あるかと思いますけれども、もう1件プレゼンをしていただきまして、その後にまた意見交換の時間を取りたいと思います。それでは、北岡先生、よろしくお願いいたします。

【北岡委員】  それでは、大阪大学の北岡がこの題で発表させていただきます。私、最初にお断りしますけれども、ユーザーでもございませんし、率直に言うと、見学に行ったことはあるのですけれども、その外部から見ても、この放射光の持っているポテンシャルと今後の重要な点、それについて私の観点からお話ししたいと思います。

 まず、私の自己紹介も兼ねまして、私は、大阪大学の基礎工学研究科に属しておりまして、ここでは一応、科学と技術が連携する、あるいは協奏するという形で、それをうまく回すと。要するに、基礎科学に根差した技術と、それを吸い上げて、それで実りとして世に送り出す。あるいは、技術を掘り下げて生まれる科学をやると。そういう観点では、基本的な基礎科学で物を作って、それの物性を明らかにして、それを物性物理学に基づく本質を突く学術研究をするということです。もちろん知の創出が一応基本になって、でも、やっぱり知の創出だけではなくて活用すると、そういう観点で研究をしております。

 具体的な例でいいますと、永久磁石。これは磁性物理学から出てきた機能といいますか、役に立つ材料ですけれども、これは御存じのように、いろいろ世の中、生活の中で役立っているわけですね。ところが、一旦いいものができるといっても、実際役に立つかということはちょっとギャップがあります。例えばこのネオジウム磁石ですと、ネオジウム・鉄・ボロンという、これが非常にいい材料ということですけれども、実際使い出すと、室温で例えばモーターに使うと温度が上がると。温度が上がると保持力という機能が劣化するということで、ディスプロを混ぜるわけです。混ぜるといいですけれども、このディスプロというのは、今問題になっているように、これ、非常に貴重資源で、輸入を止められると何ともならんという状況になるわけです。

 ということで、今、国でも、こういう機能はあるのだけど、やっぱり代替元素、ありきたりの元素でこの機能を出すということが、元素戦略と名前が付いているのですけれども、これは目的基礎研究です。目的基礎研究だけれども、それを目指してやることによって、そこから出てくる新しい知の創出ということがあるわけです。これはまさに基礎工学という意味で、基礎研究をやりながら新しい材料を生み出すのだけど、そこで問題があったときにそれをもう1回に基礎研究にフィードバックすると、そういうことをやっているわけです。

 私の専門は超伝導です。超伝導はこれ、電気抵抗ゼロ、あるいは完全反磁性という磁気不良、そういうことによく使われる非常に重要な材料で、これが広く応用できれば、革新的技術として非常に省エネルギー、省資源、特に省エネルギー、それに役に立つということです。例えばMRIの磁石あるいは次世代CPUのモデルが今、実験されていますけれども、省エネルギーな大規模計算、リニアモーターカーあるいは無損失のエネルギー伝送ということに使えるわけです。

 ただ、これだと問題がありまして、温度を下げないと超伝導にならないわけで、この機能を使えないので、冷却に多大なコストが掛かる。ということで、やっぱり我々の考えは、高温で超伝導になる物質が必要なので、現在では、窒素温度を超える物質、銅酸化物ができているんですけれども、その機能を解明して、室温で起こるような超伝導を見付けたいというのが研究のモチベーションになっています。

 それで、先ほど言いました物性物理学ということなのですけれども、私が専門にしているんですけれども、これは非常に大型放射光と関係しています。物質の性質を理解し、可能性を追求する学問ということですけれども、これは原子からこういう非周期系の原子を組み合わせて物質ができるわけです。そのとき、電子は元素の周りをまとわり付いているわけですけれども、その元素を主体として、こういう結晶構造、組合せ、構造を持たせると、いろいろ機能が出てくると。例えば導電材料、絶縁材料、半導体材料というのはまさにこういう結晶構造が出てくるわけです。

 ただ、必ずしも機能を考えると、周期的に元素が並んだらいいかというものじゃなくて、かなり非周期、非対称、不均質、不均一、ランダム、こういう周期的に並んでいない固体というか物質が非常に大きな機能を持っています。例えばアモルファス太陽電池、あるいは金属ガラス。これ、金属ガラスという意味は、これは普通、ガラスというのは高温からクエンチして急冷するのですけれども、金属ガラスというのは、どんどん徐々に温度を下げていくとガラス相転移が起こって、非常に強い、高強度で高じん性という相いれない性質を持っているとか、アモルファス鉄心、いわゆるこういうたくさん原子が集まった構造によって機能がともかく出てくるわけです。ですので、こういうことに全部対応しようと思えば、こういう不均質、非周期系の構造とその中の電子状態を明らかにする必要があって、それが放射光の出番になるわけです。

 ということで、まず一つの例として、機能して一番もとへ戻っていくと、電子は一個一個が磁石の機能を持っています。これ、N、Sと両方向くわけです。例えば我々の研究分野では、こういうミクロな磁石が全部同じ方向を向くと永久磁石になるわけです。こういう相互作用をどうやって最適化するかというと、これは物質の組合せと構造なんです。それによって永久磁石の機能が出てくるわけです。

 一方、電子の持っている機能のスピンに着目すると、永久磁石だけじゃなくて、一方、全て一個一個の元素は磁石の性質を持っていても、たくさん集まったときに全部が反対を向く反強磁性というのができるんです。これはもちろん電気も通さないんですけれども、磁石にもくっつかないわけで、機能がないように見えるんです。

 これにちょっと半導体でいうキャリアドープをして、伝導性を付与すると高温超伝導が出てきます。これは驚くべきことに、窒素温度を超える、非常に画期的な性質を持っているわけです。この場合にもやっぱりスピンという性質を、こういうマクロな状態で何もしなければ動かないんだけど、ちょっと鼻薬といいますか、キャリアドープするとこの二つの電子のスピンが反対に向くので、その反対向いた電子が動き回ると超伝導だということが分かって、これは逆に言うと、その機能が分かると、先ほど申しましたように、室温超伝導、いわゆる室温に超伝導がなれば、省エネルギー、いろいろな機能が出てくるので、そういうことを研究しています。

 ということで、これからが本番です。こういう系ではミクロな構造、元素の組合せがマクロな物性機能を出すと。例えばこういう強磁性の薄膜で、強磁性、絶縁体、強磁性で積み上げますと、この磁石の向きによって電気が流れたり、流れにくくなったりする。ということで、これはスピントロニクスと申し上げまして、今、非常に重要なキーテクノロジーであります。全部、省エネのタイプで、全部スピンを使ってメモリを使うし、そのメモリの情報を読み出すときに掛かる磁場によって電気抵抗性が変わるという、いわゆる巨大磁気抵抗ということで、今、読み出しに使われているのはこういう構造をしているわけです。

 高温超電導は薄膜であると。このネオジウム磁石は、こういう鉄と、それから、希少元素のレアアースとボロンをうまく組み合わせて、保磁力を維持しながら高い転移温度を持っていると、そういう機能があるわけですけれども、これはスピンが生み出す機能、スピンが機能を引き出すという言い方ができます。

 一方、これは、先ほどちょっとお話ありましたけれども、植物の光合成。金属錯体でマンガンという原子を含んでいるんですけれども、このクラスターのマンガンの電子状態が刻々と反応過程が変わって、結局、水を分解して酸素、電子、プロトンに分解して、この電子とプロトンが移送されて有機物を合成すると。このときもマンガンのスピン状態は四つの段階にわたって変化するんですけれども、これが変わることによって機能を出しているというわけです。

 要するに、これからの新しい科学としては、先ほど言っていましたようにいろいろな物質はあるけれど、現状のカレントセレンティビティによって物質開発が一歩出て、電子やら、スピン、電子のいわゆる磁石の機能、この構造、状態、それを実空間でやっぱりちゃんと明らかにした上で、かつ電子が動き回る性質は運動量空間といいますけれども、その両面、それを解明することによって、現実の系に寄ってやる。これはまさにスピルレートといいますか、放射光が実空間の構造を明らかにして、それによって高電子分光で電子状態を明らかにすると。こういう二つの組合せでやっていくということが、今後の非常に重要なサイエンスの問題だと思います。

 ですので、この我々の立場からいくと、「モノ」というふうに書きましたけれども、物質、それから、生物、植物、そういうものがいろいろな階層構造になっていますので、それをずっと明らかにしていこうとすると、やっぱりそういうツールが要るというわけです。その学理の探求にとっては非常に重要なツールとして放射光があるんじゃないかということで、これは基礎研究の立場です。

 一方、エネルギーのイノベーションという感じで世界的に言われていますけれども、エネルギーのイノベーションをするためにも非常に重要なキーワードがあります。まさに科学と技術の連携・協奏・融合ということをやらないとエネルギーのイノベーションは起こらないと思います。というのは、まずナノ科学でものづくりですね。今、ナノ科学で作ったものを、そのナノから物性を調べるためには、もちろん観察をする、あるいは調べる。調べた結果をちゃんと理屈を明らかにする計算科学、そういうものが必要なわけです。そういう中にやっぱり量子論という、だんだんサイズが小さくなって、いろいろ現象というのは、電子は量子力学で支配されていますので、それがたくさん集まったときにどういう機能が出てくるかということを突くわけで、それは本質を突く学術研究をやらないといけないわけです。

 そういう意味では、どういう課題があるかというと、いわゆるエネルギーイノベーション、それをやっていこうとすると、やっぱり材料プロセスの電子レベルの制御、それから、特性発現構造を設計して最適化する。原子・電子等の複雑な相互作用がもたらす特性・機能の制御。生物あるいは植物のナノスケールでのエネルギーや情報の操作の実現。関係事象の非平衡。これは全て非平衡状態でずっと反応が進行していますから、それの評価と制御と、これが非常に重要なキーワードです。

 これは、前は制御科学という言い方もできるし、新興領域なので、これを開拓していくツールは、やはり次世代の放射光施設ではないかと薄々思っています。かつ、それだけではなくて、出てきた結果を解析するためには、次世代の計算機科学施設が要ると。こういう二つの非常に重要なキーワードになるわけです。そういう過程で未来の安定したエネルギーの保証とか、環境維持の実現とか、新たな経済機会の創出ということができるというわけです。こういうキーワードは、これ、アメリカで今、エネルギーイノベーションというプロジェクトが進行していますけれども、その中での大きなキーワードになっています。

 私が考える物質科学の未来に向けてということですけれども19世紀、20世紀、21世紀は、こういう形で、産業革命、工業化社会、知識社会、高度知識基盤社会ですけれども、この21世紀の中で物質科学が果たす役割を考えると、こういうキーワードであるような、そこに書かれていますので読み上げませんけれども、こういうことが非常に重要な研究テーマになってくるわけで、それに対する役割としての放射光科学を捉える必要があると思います。

 次に、期待する貢献です。まず言いました、ナノスケールエンジニアリングということで、やっぱり10ナノスケール。先ほど言いましたように物は周期的なことばかりじゃないので、非周期的な構造、不均一だったりするわけですので、やはり10ナノスケールでの精密組織構造をちゃんと制御できるようにして、新しい材料、高機能材料を目指していくプロセスが必要であると。

 なぜ10ナノスケールで放射光が役割を果たせるかというと、小さくしていくと、局所的な表面・界面がそのたびに増えますので、そうすると、素子に及ぼす影響が非常に大きいわけで、10ナノメートルスケールでのX線解析、これは局所的ひずみの評価。10ナノメートル角度分解光電子分光というのは、これはそこでの電子の動きです。バンド分散の評価をすると。こういう実空間での構造と、それから、系空間での電子の振る舞いと、それの両者を理解して初めてやっぱりナノデバイス開発ができるんじゃないかと私は個人的に考えています。

 なので、構造材料とか機能性材料というのは、大体において材料組織複合化、アモルファスあるいはガラス、非常に非周期的なので、そこでの組織構造(ドメイン・テクスチャーあるいは粒界面)とその電子状態、これ、結合形式ですけれども、それを10ナノメートルの非常に狭いスケール、小さなミクロなスケールで評価する。それから、焼結体が非常に多く出ます。機能材料というのは、最初の永久磁石にしても、高温超伝導の材料にしても、大体焼結体です。なので、焼結体の表面を覆う粒界の微量分析、こういうものも必要であろうと思います。

 それと、機能材料。機能材料は新しい物質が非常に求められているわけですけれども、やっぱり結晶、薄膜、表面の構造解析。あるいは、欠陥。欠陥が別に悪いことじゃなくて、いい場合もあるわけで、制御された欠陥ですね。周期性を持たない構造の観測。基礎科学的には低温、高温、強磁場、高圧などの極端条件下での測定がこれから非常にニーズがあると思います。また、共鳴X線の散乱には、原子配置以外の周期構造をここから引き出すとか、そういうことがあると思います。

 私は専門家ではありませんが、そういう意味では、装置の自動化・迅速化、高エネルギー分解能の2次元検出器の開発、こういう装置の開発がビームラインとともにそれは非常に必要不可欠になってくるわけで、どういうニーズに応じてどういう装置を開発していくかということも並行してやっていく必要があると思います。

 それで、白色X線プラス高エネルギー分解能2次元検出器と書きましたけれども、これは非常に短時間で単結晶構造解析ができるとか、低いバックグラウンドの2次元検出器とかいうのはやはりこれからニーズがあって、高速表面回析測定とか、散漫散乱とか、これが非常に重要なポジションになると思います。

 私は近くにいる現場で働いている若手の人からいろいろヒアリングしましたけれども、やっぱりフラックスの最適化した安定光源、高感度な検出器、扱いやすい装置、これが三位一体となった装置がやっぱり要るんじゃないかというふうによく聞くので、これはともかく検討する必要があると思います。ビームサイズのこういうの、これも必要であるということです。

 最後に、非平衡状態というのがこれから次の21世紀の科学における非常に大きなキーワードで、非平衡系の統計力学はまだ完成していないのですけれども、それの実験データを出すと。あるいは、化学反応や生体内での機能発現の非平衡。非平衡って非常にキーワードで、非平衡というのは、結局は空間ゆらぎ、時間ゆらぎの観測によって、不均一・非平衡な系の研究ということです。

 例えば先ほどの光合成の触媒というのはまさにマンガンの電子状態が動的に変化していきますから、それをスピン状態も含めて追っていかないといけないということで、これは非常に重要なキーワードです。そのためのいわゆる放射光のキーワードはコヒーレンス、コヒーレントなX線解析ですね。これは光源性能が当然重要になってくるでしょうし、時分割測定、それから、非弾性散乱、こういうことがちゃんとできてデータが出るような、いわゆる時間的に追跡しながら空間的なゆらぎも認識しながらやっていくということが必要だと思います。

 私は、素人から考えても、コヒーレントなフラックス強度が増大すればいろいろなことができると。ナノメートル~マイクロスケールのニーズが大きいときに、ゆらぎの時間発展、あるいは非弾性散乱による非常に速い動きの観測、あるいはコヒーレント回折による遅い動きの観測、こういうものをやるためには、やっぱり安定した高輝度光源、目的に向けて設計された装置が必要じゃないかと思います。

 あと、残された時間は、ちょっと時間超過して申し訳ないですけれども、やっぱり第三者から見て、例えば新しい放射光というのはお金が掛かるわけですよね。社会の中の放射光施設と考えたときに、やっぱり運営の在り方を第三者から検討する必要があると思います。それで、私はこれから勝手なことを申し上げますのでお許しください。

 というのは、やっぱり新しい運用をするためには、これ、科学技術イノベーションに対する期待と言ってもいいんですけれども、我が国の国力となる学術・科学技術の卓越性・挑戦性・総合性・融合性・国際性、これはまさに次世代放射光施設に求められていることなのですね。研究力、人材強化をする拠点としてまず役割をアピールできるようにするためには、まずこのセクター、今ある今までの施設、新しく造る施設を、それぞれの利害を越えて、人材の活用の流動化、それから、異分野の協奏・連携、効率的なソフト・ハードと、求められることは非常に大きいと思います。

 そういうことで、これが非常に重要なポイントで、外野からの要望としては、大型共用施設は建設と運営のシステムイノベーションをまずやっていただきたいと思います。それはどういうことかというと、大学等と他の機関の双方に身分を置いて、エフォート管理の下、それぞれの機関の業務を行うことができるクロスアポイントメント制度、これは文科省が大学に向かって発信している新しい人事制度ですけれども、及びコストパフォーマンスを基本にしていただいて、これが重要で、行政側と施設側と運用側とユーザー側がやっぱり協働して「コト」に当たっていただきたいと思います。それは社会の中の大型施設という面で考えると非常に責任が重いのではないかと私は考えております。

 ということで、それを実現していくための私の提案としては、今、全国的にこういうビームラインがあるんですけれども、かつ私が委員をして、パブリックコメンターとして関与しているSPRUCの将来ビジョンの白書から引用したんですけれども、今、多分、3GeVの計画があって、SPring-8の次期計画があって、それぞれが放射光の階層的なネットワークをする必要があって、まず、それぞれの組織を越えた人のネットワークができるかどうか。これはクロスアポイントメント制度なんかを利用すればいいと思います。

 運営体制のイノベーションというのはどういう意味かというと、今までは理研・放射光科学研究センター、これがあるわけですけれども、こういう新しい施設を造っていって、既存のビームラインと階層的ネットワークをとっていくためには、やっぱり新しい組織形態が要るのでないかと。運営主体。それ、私は放射光科学推進機構という形で、ややこしい理研から出て、ともかくこういう……、すみません。そういうことで、これ、やはりステーションにするということですね。革新的光科学活用推進、これを例えば3GeVステーションにして、新たな材料、創薬、産業基盤創出、産官学の協働プラットフォームということを担うと。

 それと、NIFですね。先端光科学。汎用でみんな使いやすいでハッピーでしょうけれども、やっぱり先端科学を創出する、常に先進する、先導するという、SPring-8がそれをやってきたわけですけれども、新たな学術・科学技術のイノベーションにつながるシーズをやる、未来開拓の役割を果たすものと。

 それで、既存のステーションに関しては、例えば筑波だと、これはちょっと勝手なことを言わせてもらいますけれども、物質基礎科学推進ステーション、分子系は分子創発科学のステーション、広島は、HiSORは電子構造科学のステーションという形で、こういう階層構造にして、この組織を全部ここに入れてしまうというようなことも考えてもいいかと思います。すみません、これは私があるべき姿と思っていることであって、皆さん方のありたい姿からかなりかい離しているはずなので、それはこのワーキングで議論する可能性があるかも分かりません。

 ということは、行政側と施設側と運用・経営。こういう大きな施設を運営していこうというのは経営というセンスが要る。それで、ユーザーと協奏・協働ということがやっぱり重要なキーワードで、世界トップレベルの放射光施設であってほしいと。階層的にネットワーク化して、未来創造というサイエンスとしての役割と、これをネットワークすることによって、ユーザーにとって産業基盤の創出にも貢献すると。

 最後に申し上げると次のお願いは、放射光施設はもはや既存のコミュニティに固定化されたものではないということが必要で、幅広い利活用分野にとって重要なツールでなければならない。ユーザーコミュニティが、既存のコミュニティの枠を越えて、未踏の分野を自律的に開拓していくコミュニティ提案型のような運用の刷新が必要だと思います。それは社会的な責任だと私は思います。

 かつ、こういうニーズに合っているわけですけれども、研究として見た場合に、研究の中で科学者の視点が非常に重要で、中長期的な視点からも、放射光の有効な利活用を考えていただきたいと思います。端的に言うと、光源から検出器、運用までバランスのとれた高度化、それから、コストパフォーマンス、これ、非常に重要だと思います。省エネルギー、ユーザーフレンドリーの追求と、こういうことをやっぱり一体的に考えていただきたいと思います。

 最後、若手のユーザーから聞いた運営の在り方です。まず、施設職員の位置付けというのがあって、職員による支援は、ビームラインの生産性を決める非常に重要な要因であると。主たる担当者はそのビームラインを使う研究者であって、技術職員等はそれを補助する形が望ましいというふうに、若手の現場で使った人は私のヒアリングのときにこういうことをおっしゃっていました。

 それはどうしてかというと、世界一線級の性能を持つ装置に随時アップグレードをし続けないといけない。支援のみが仕事の場合にトラブルを起こさないことが主目的になってしまうのかと。学生の目にもさらされる施設職員が研究できない状況では、人材確保に問題というか、人材育成に問題が出るかと。助教クラスの職員には年長のメンターの人が付いて、人材育成の観点からもやっぱり手助けが必要なわけで、場合によっては、先ほどのクロスアポイントメントで大学・研究所から応援をお願いするというような柔軟な運営体制が必要じゃないかと思います。

 利用の方針ですけれども、どの装置も学術、産業利用に使えるようなシステムが作れるといいかということは若手研究者が言っており、それは事実かと思います。それから、一つの課題で2年程度の間に何度か実験できるような柔軟な運用がいいと。それと、やっぱり最後はユーザーフレンドリーであるべきで、幾らいい装置ができてもユーザーが使いこなせなかったら意味がないということかと思います。

 産業利用を考えると、やっぱり通年で利用可能な施設が望ましいというのがユーザーからの意見です。最後に、例えば粉末回折とか単結晶構造解析では、私、よく現場を知らないのですけれども、例えばタンパク構造解析に用いられている試料交換ロボットとか、そういうものを利用して自動化を進めていくと。今後の運用、次世代放射光ができるときの運用の体制としてこういうことを考慮していただければいいかという意見があったということです。

 いろいろな勝手なこと申し上げましたけれども、期待するが故に、社会の中の放射光施設という意識を持っていただいて、やはり最先端を開拓すると同時に、裾野を広げるような施設であってほしいと切に願います。以上です。

【高原主査】  北岡先生、ありがとうございました。非常に包括的な意見を頂きましたけれども、施設側にもいろいろな宿題といいますか、今から御意見いただきたいと思います。全体といいますか、今の北岡先生のお話に関しまして、まずユーザー側からの方の質問、何かございますか。

 なければ、まず高田先生からよろしいですか。最初に話題が出てきましたけれども。

【高田副センター長】  ありたい姿をここで話すべきではないと考えております。北岡先生がおっしゃったことは非常に重要でありますけれども、まず少しサイエンスの話からさせていただきます。今日お三方の先生方がお話しになったいずれの点も重要なのは、やはり元素の選択性が放射光の一番の要であると。そこを考えますと、今日いろいろ水素とかのお話が出ました。水素は実はSPring-8ではきちんと見えております。ただ、確かにディスオーダーの部分は非常に精度を上げないと見えない。

 ただ、今、ImPACTとかそういうふうな施策が出てきていろいろと言われていますのは、やはり軽元素をきちんと見たいと。特に酸素とか硫黄です。ここはSPring-8でも、酸素とか水素の電子状態とかエネルギー状態をもうヘリウムの大気圧で見られるようになっております。というのは、そういうデマンドがやはり社会からすごく出てきたと。特にタイヤの硫黄の問題とか、そういうものに対して強い要望が社会から出てきて、そういうものをきちんとやっていかないと対応できないということが起こってきております。そういう点でも、これからの放射光は、やはりそういう社会のデマンド、特に今、これまでちょっと未開のところがあった軽元素のところの電子状態、エネルギー状態をちゃんとやっていかないといけないと。

 そのためには、やはり北岡先生がおっしゃったように、安定性というのがまず1番。これがあるが故に、そういう非平衡状態とかエネルギー状態の変化ということを実はちゃんとできるんだということがやっとSPring-8で分かるようになってきたということが言えると思います。

 組織のお話、ありたい姿、あるべき姿のお話がございました。理研をどうするかというお話まで出ましたけれども、基本的には非常に重要な提言をされたというふうに施設としても思っております。いろいろと支援の問題とかも出ましたけれども、台湾を例にとりますと、実は台湾は、櫻井先生のお話に出ました交通大学とか清華大学、こことの間で職員の交換をしております。副所長には例えばAcademia Sinicaから招請したり、そういうふうなことをしております。いわゆる機関と施設がかなり一体化をして、学生も交流をきちんと作って人材を育成している。

 ところが、日本はもう職員を決めたら、それで、「もう、おまえたち、これをやりなさい」と。そうすると、あとはもう、先生方はどうしても今使えればいいというところが一生懸命になっていきます。そういったところも施設側からのお願いとしては、やっぱり統括的に考えていきたいと。SPring-8がSPRUCという組織を作って代表機関会議を作った最大の理由は、やはりそういうことの議論の場も必要であるということであるとユーザーの先生方が考えておられるんだと私は思います。

 ですから、ユーザーコミュニティが、個々のユーザーがどうこうするという時代はもう終わって、北岡先生が言われたような、やはり機関、そして、企業、そして、施設が、きちんと責任ある組織同士として組織同士の連携をきちんと考える、それが次世代放射光の組織の在り方であると思います。

 そのことが例えば施設間の連携の問題も、今までは日本は個別の施設が、うちはこういうことができますと言っていて、それで無理やり連携をとれと。そうすると、ズラーッと表が出てくるわけですね。そうではなくて、ユーザーコミュニティといいますか、機関同士でやはりそこをきちんとグリップしていく。そうすると、どういうふうな運営をすべきかということも含めて考えていただけるのではないかと私自身は考えております。

 ですから、やはり少しそういう、北岡先生の御提案は非常にドキッとするような提案ではございますけれども、もうこの施設がたくさんになった日本でやはり考えていくべき時期が来たのではないかと私も感じております。ありたい姿については申し上げません。むしろこれがありたい姿かもしれません。

【高原主査】  ありがとうございました。

 あと、JASRIの方からは何かございますか。

【熊谷理事】  JASRIの立場で言うのがいいのかどうかはちょっと別として、これも私見というあれになるかと思いますが、今、北岡先生のお話しになったことは全く私もそのとおりだと思います。もっと言わせていただくと、これはあくまで私見ですから、物質科学を中心に置くと、別に放射光であっても、中性子であっても、計算科学であっても、それはみんな同じですね。同じ枠の中に入らないといけないものだと思うんです。ですから、ここの最後に何とかかんとか機構とありましたけれども、放射光何か連携機構じゃなくて、もうちょっと全部を網羅したような機構であったらいいなというのがあります。

 それから、いろいろと提言されていることに関しては、現在SPring-8の中でもこれと同じようなことを考えて、ある意味ではできる範囲の中で実践をしているという、これはあります。ただ、こういう大きな施設でいろいろなことを改造とかしようとすると、やっぱりフィナンシャルが大きいので、そうすぐにということができません。いわゆる予算のこともありますし、人の話もあるので。

 そういうときに一番いいのは、クロスアポイントメント制度という、やっぱり持っているところの力を共有化するというか、同じ開発をするときに、そこにみんな、大学であろうと、機関であろうと、研究所であろうと、それから、民間の人であろうと、一緒のところに入れて、本当に最先端の施設を造る又は実験施設を開発する。そのことがあってやっぱり日本の科学の最先端ということが実現できるんだと思うんです。ですから、是非ともこういう枠組みで皆さんがお考えになっていただけると私としては非常に有り難いと思います。

【北岡委員】  実際、大学改革も、今言われているように、やっぱりもっと人の流動化のためにやっぱりクロスアポイントメント制度で、年俸制も含めて改革を今やろうとしているわけですね。やっぱりこういう研究ミッションがはっきりしている施設でそういうことを取り入れて、より人材を集めて流動化を図ってですね。それが施設の有効利用につながるわけで、そういう運用体制の刷新を是非ともお考えいただきたいという意見です。

【高田副センター長】  もう一つよろしいですか。

【高原主査】  どうぞ。

【高田副センター長】  施設を造ったときに一番よくありがちな問題は、たこつぼになるということです。要するに、一旦ユーザーが付くと、そこが固定化してしまう。そういうふうな固定化を防ぐ意味でも、要するに、施設をどういうふうにアップグレードしていくか、新しい施設にしていくかということは実はそこの問題と密接に関係してきます。それを考える上では、やはりこういった機構がちゃんとあって、個々のユーザーが対応するのではなくて、機関としてきちんとそれを見ていくということが、サイエンス全体の――北岡先生がこれはサイエンス全体のものである、科学技術全体のものであると。サイエンスだけじゃなくて、産業も含めてですね。やっぱりそういうことを仕組みとしてもう作っていかないと。

 実はESRFが最近アップグレードをしました。そのときに、アップグレードの議論を早くから既存のユーザーコミュニティで始めました。そうしますと何が起こるかというと、その人たちがどう使えるかという議論を始めます。ESRFの場合はそれぞれの国の出資で権利を主張するという点でそれでもいいのかもしれませんが、日本で考えたときに、日本の税金を投入する上でそれが果たして本当に求められているものなのか、やはり考える必要があると思います。

【高原主査】  ありがとうございました。多分クロスアポイントメントは今からの大きな動きになって、良い受皿があれば非常にうまく、大学側の方も欲しているところだと思います。これはまたいろいろなところでの検討になりますけれども。

 次、PFの方、KEKの方、いかがでしょう。

【村上副所長】  今日のお話全体に対するということでよろしいでしょうか。

【高原主査】  もう一緒に始めて結構ですけれども。時間もありませんので。

【村上副所長】  今日、実は分野の違う先生方三人のお話を聞かせていただいて、やはり目指しているところというのは、分野は違うけれども、非常にある部分、共通部分があるなと。それというのがまさに次世代の放射光で展開していかないといけないサイエンスだなと感じました。

 それはどこかというと、やはりこれまでの非常に均一な系ではなくて、実際の世界で、全て実際の世界は不均一なわけですが、そういう部分をきちんと局所的に見ていこうということで、その見るときに、二面から見なさいというのが北岡先生の話に特に強調されていたかと思います。構造をきちんと見るということと同時に、運動量空間の中での構造というふうにおっしゃっておりましたが、私の言葉で言えば電子状態と言ったらいいんでしょうか、そういう2面の方向からきちんと攻めるというところです。

 10ナノメートルで十分なのか、1ナノメートルまで行かないといけないのかというのは若干議論があって、それによっていろいろな性能が議論される。それは少し定量的な話なんですけれども。多分今の我々の科学からいえば、構造的には、X線領域では10ナノを切るというところまで行っているわけですが、実際に市場に汎用というか、使いやすい、全てのユーザーがそのレベルの10ナノあるいは場合によっては数ナノメートルのところの構造、電子状態をきちんとやる、これは一つの大きな目標であろうと思います。

 運営に関してですけれども、これもやはりオールジャパンということをきちんと考えましょうということ、一言で言えばそういうことだと思います。ですので、施設間の連携はもちろんですけれども、やはり大学あるいは企業のうまい連携をオールジャパンでとるという新しいシステムを是非この機構、新しい組織では実現したらどうかということに関しては全く同感であります。

【高原主査】  今、10ナノとかそういうサイズの位置分解能のお話が出てきましたけれども、そのときに、検出器に関しては現状というのはいかがなのでしょうか。位置分解能プラス、それから、時間分解能、その辺りを合わせますと、やはりまだ技術的なところではかなりいろいろな進歩が必要ではないかと思いますけれども、その辺りに関しては?

【高田副センター長】  まず検出器は常に、光が進歩すると、それに伴ってやはりデマンドが出てくる。それによる技術開発が進んできたというのがこれまでの流れです。最近SPring-8でもそういう検出器の開発を進めておりますけれども、同時に、それは医学用の低侵襲の検出器。最近お医者さんでもCTを撮るのに、できるだけ当てないで、薄いX線で。実は医療用のX線って、SPring-8が使っているレベルのエネルギーが一番臓器とか骨と反応するんですね。そこで、薄いX線で弱く当てて撮るということで藤田保健衛生大学なんかと共同研究を始めていますけれども、そういうふうなものがどんどん発展してくる。

 新しい放射光施設を考えると、必ずそれに伴ってそういう検出器とか、そういうものの開発も必要が迫られてくるという点で、やはりそういう副産物も出てきます。検出器というのは、どちらかというとそういう副産物の要素がございます。今、検出器、もちろんXFELとかそういうふうなものもあって進んでいますけれども、そのXFELで開発した検出器を更にSPring-8Ⅱとか、そういう新しい次世代の放射光に最適化するにはどうしたらいいかという研究は進んでおります。

 もう1点、ここは補足しておく必要がありますけれども、エミッタンスという言葉、これがやはり最近ちょっと誤解を生んでいると。そこの表に、電子ビームサイズと角度広がりの積とございます。お配りいただいた、光源特性に関する物理パラメータ。このように書いてあるということはどういうことかといいますと、電子ビームサイズが小さくて角度広がりが大きいもの、電子ビームサイズが大きくて角度広がりが小さいもの、これでエミッタンスは同じになってしまいます。大事なことは、我々が求めるビームサイズ、これがどこまで必要なのか、これを考える必要があると思っております。

 例えばディフラクションである解析方法をうまくやれば、むしろ大きなビームで角度広がりが極めて小さいものを使う、こういう考え方が出てくる。そうすると、その場所の位置分解能はもう少し絞りとかそういうものに絞ってやってもいいですし、何を分解能として求めるかということとエミッタンスというのはきちんと考えていかなければいけない。要するに、利用する側から、欲しい情報から考えたエミッタンス、これをエミッタンスと一くくりとしていいのかどうかやはり考えなければいけないなというのが、最近、エミッタンスという言葉が一人歩きしておりますので。

 これを今度やたら絞って、虫眼鏡で集光して、試料を焦がしちゃうの、何ナノまで絞っていけばいいんですか、それは永遠のテーマとして続いていくんですかと。そうでなくて、海外でそこをそういう大変すてきな考え方をしていたものを、やっぱり日本はきちんと利用する側から考えて議論していく必要があると最近感じております。少しこれは補足、蛇足ですけれども。

【高原主査】  コメントありがとうございます。

 それでは、分子研の方からお願いいたします。

【小杉施設長】  いろいろあるんですけれども、時間の関係もありますので1点に絞ってコメントします。日本全体での組織作りの議論を伺っていると、施設が前面に出ている組織と施設が研究所の中に取り込まれている組織とは随分違うなという印象です。前者の方は、やっぱり北岡さんやほかの方が言われたように、大学と人事交流をしながら連携をとる方向への改善要求は高いですけれども、研究所の中に完全に施設が位置付けられている分子研では研究者が10年に全部入れ替わるぐらいのスピードの人事流動をしていますので、施設の位置付けも違います。

 UVSOR関係で新しい人を採用する場合、10年ぐらいをめどにどういうサイエンスをして、どういう新しいことをやるかという観点を重視します。研究者が自分自身で切り拓かないと、世界最先端のこともできません。そういうことですので、人事の中にスクラップアンドビルドも入れ込んでいます。小さな組織ですから何でもかんでもできるわけではないので、絶えず新しいことをするには、人事流動の機会を生かして、必ず新しいことを、着任した人にはやっていただく、すでにある装置をそのまま使って何かやるというのではなく、必ずスクラップアンドビルドを入れるスタイルでやっています。光源に対しても二度高度化をしていまして、UVSOR-IIIになっています。リングは同じなんですけれども、いろいろデバイスをスクラップアンドビルドして光源性能も上げています。

 このように大学との活発な人事交流を進めながら新しい取り組みをしているような、研究所の中に取り込まれている小型施設と違って、大型施設は大学と切り離されたところにありますので、人も絶えず入れ替わるような状態じゃない。装置もスクラップアンドビルドをするにも、ユーザーがいっぱいいる中でどうやっていくか。古い装置を最後のユーザーがいなくなるまで利用しつづけるのか。長期的にはいろいろ問題があります。10年、20年, UVSORは30年以上の経験がありますが、30年前にやっていたサイエンスというのは今は全くありませんので、新しい施設を作る場合、装置を造って、組織を作って、利用に持っていくまではいいんですけれども、その後のことも考えた仕組みを入れておかねばならないということをコメントしておきたいと思います。

【高原主査】  ありがとうございました。

 北岡先生、何かよろしいですか。

【北岡委員】  もういいです。

【高原主査】  ほかに何か。もう全体での意見交換の方に入っておりますけれども、全体を通して、また今後の進め方としまして、御質問、それから、御意見等頂ければと思いますけれども、いかがでしょうか。

 どうぞ、佐野先生。

【佐野委員】  今日は大学との連携とか、それから、放射光機構の話とかありまして、我々、そういった形で動いていけば、すごく使いやすいものができるんじゃないかなと思います。

 それから、放射光が我々の製品開発の中で果たしている役割は非常に大きいと思っていまして、問題解決をするツールとして非常に強力だと思っています。時々我々が思いますのは、やはりコンベンショナルな装置、例えばX線であれば、ラボX線でのデータとかを持っていまして、それに対して放射光のデータがどう関連するのかと思うことがよくあるんです。

 例えばSPring-8の実験をやっていて、これ、ラボのX線でちょっと測ってみたいなと思うときになかなか装置がない。それから、中性子で、JRR-3で回折の実験をやっているときに、じゃ、これ、X線で見たらどう見えるんだろうというときに、なかなかSPring-8やJRR-3で使えるものがない、というようなことがあります。そういった対応ができるような施設になっていると、今までの研究資産ともうまく連携させる形でデータが取れるんじゃないかなという気がしております。

【高原主査】  ありがとうございました。

 ほかに御意見等。

 はい、よろしくお願いいたします。

【小松委員】  今日は非常に有意義でためになるディスカッションができたかと思うんですけれども、この会は次世代の放射光をどうしていくかという話をメインに、主眼に置いていると思うんですが、今出てきたようなディスカッションというのは、今のこの組織の中でも、お試しと言ったら変ですけれども、全部が全部ができるわけじゃないとは思うんですが、やっぱり今の組織の中でもやっていくと。それが結果として次世代の組織体であるとか、そういうもののある種のトライアルみたいなことにつながっていけばいいんじゃないのかなと。ですから、今回のこういう議論も、次世代のそこまで眠らせているんではなくて、できることは少しずつでもやっていけば次につながる、連続性を持ったことになるのかなとは思いましたし、そういうのは一緒にできればやっていきたいなと思います。

【高原主査】  ありがとうございます。

【北岡委員】  いいですか。おっしゃるとおりで、私、大学におる立場でいきますと、大学もまさに待ったなしで改革を、これは何かできたらやるのではなくて、組織改革も含めて全部並行に推進しながらやらないと。そういうことは組織としては今後やっぱりスピード感が非常に重要で、そのスピード感をどういうふうにうまく回すかというのが非常に重要だと思いますし、今おっしゃった次世代放射光ができてからやるんじゃなくて、やっぱり前もってできる範囲でやっていくというのはまさに同感です。

【工藤室長】  すみません、一つだけ、小松委員から御指摘いただいた点についてなんですけれども、この会の中でいろいろ議論を行いました放射光、中性子、それから、計算機といった他のプローブ、施設に対する連携につきましては、一応、我々の方でもそういった枠をなるべく設けて、相補的に使っていこうというプログラムを御用意させていただいていると思うんですね。

 あと、研究開発テーマとして、それぞれのプローブが、今、大型の話をしているのですけれども、小型のものがあればより相補するのが可能だということで、X線についてはレーザー、それから、中性子も高圧中性子源、こういったものを開発する予算を持って、それぞれの施設の間で掛け合わせて使えるようなプログラムも今、開発しています。なかなかその辺の情報が行き渡らないというのもあると思うのですが、よろしくお願いいたします。以上です。

【高原主査】  ほかに御意見等ございませんでしょうか。

 ございませんようでしたら、今回、議論の観点についてということで1枚物の紙を配付しておりますけれども、次回のプレゼン及びディスカッションに関しまして、この内容を頭に置いてプレゼン等をお願いできればと思います。また、先ほど高田先生の方からエミッタンスのことについて御指摘がありましたけれども、そういった点に関しましても御考慮の上、プレゼン、議論をしていただければと思いますので、よろしくお願いいたします。

 それでは最後に、今後のスケジュール等の連絡事項について、事務局よりお願いいたします。よろしくお願いします。

【岡村補佐】  本日は皆様、活発な御議論をどうもありがとうございました。

 今後のスケジュールですけれども、事前に日程を調整させていただいた結果、次回は10月6日月曜日の15時、午後3時から、場所はこの場所、文部科学省3階の特別第2会議室、こちらで予定しております。

 次回は2週間後と日が近く、御出欠の確認ですとか、旅費の確認、今回の議事録の修整確認なども、これまでよりも短い時間の締切りでお願いさせていただくことになりますので、御多用のところ恐縮ですが、どうぞよろしくお願いいたします。

 また次回も本日同様に委員の皆様からのプレゼンをお願いする予定です。

 なお、旅費手続の書類についてですけれども、二箇所に押印していただいた上で机上に置いておいていただければと思います。

 また、配付資料ですが、こちらも机上に置いておいていただければ、後ほど郵送させていただきますので、よろしくお願いします。

 それでは、本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。

【高原主査】  それでは、本日の会議を終了いたします。長時間にわたってありがとうございました。

お問合せ先

科学技術・学術政策局研究開発基盤課量子放射線研究推進室

(科学技術・学術政策局研究開発基盤課量子放射線研究推進室)