参考資料1 懇談会におけるこれまでの主な意見

【議論の目的について】

○科学技術・イノベーション政策によって、何を目指すのかを議論する必要がある。

【サイエンスとイノベーションについて】

○日本企業の発明者には博士号取得者が少なく、企業がサイエンスを吸収する力に課題があると考えられる。サイエンスのイノベーションへの貢献を高める方法を議論する必要がある。

○半導体産業の発展が固体物理学の発展をもらたしたように、サイエンスがイノベーションにつながるだけでなく、イノベーションがサイエンスにつながることもあることに留意して議論する必要がある。

【イノベーションの創出について】

○世界には様々なイノベーションに対するニーズがあるが、シーズに基づいた研究開発では新たなニーズを満たせなくなっている分野もある。どの分野が転換期を迎えているかを見極め、手持ちのシーズではなく、ニーズに基づいた研究開発を行うことが重要ではないか。

○イノベーション(=モデルチェンジ)とディベロップメント(=従来モデルの量的拡大)は別物であり、イノベーションが必要な分野はどこなのかを議論する必要がある。

○インベンション(発明)は一人でできるが、イノベーションは一人ではできないことに留意して議論する必要がある。

○部品産業が強くても、部品の生産を下請けするだけではイノベーションの果実にありつけない。いかにしてイノベーションのイニシアチブを取っていくかを議論する必要がある。

○日本企業はビジネスモデルの重要性に対する認識が低いために、特許を取っても、標準を取っても、事業で負けてしまっている。事業戦略(ビジネスモデル)と開発戦略(製品アーキテクチャ)と知財戦略(知財マネジメント)の三位一体の議論を行う必要がある。

○要素技術を持つ企業だけでなく、それをシステムとして提供する官をイノベーションの主体として一体にとらえることが重要。日本では企業、大学、行政、政治の間の人材流動性がないために、システム全体を語れる人間が少ない。

○科学技術が強ければイノベーションを起こせる時代は終わったこと、インベンションからディフュージョン(普及)に至るまでの全体のシナリオが重要であること、(事業戦略と開発戦略と知財戦略の)三位一体の議論が必要であること、官民一体での取組が重要であることをきちんと認識した上で、科学技術政策として何ができるかを議論していく必要がある。

【国際競争力について】

○米国競争力評議会のマイケル・ポーターは、競争力を高める目的は国民の繁栄、すなわち生活水準の向上であり、その源泉は経済の大きさ、労働力コストの低さ、輸出シェアの大きさ、経済成長の速度ではなく、国民一人ひとりの生産性であるとしている。議論の前提となる1つの考え方として重要ではないか。

○生産性向上の原動力にはイノベーション、コンペティション(分業)、アキュムレーション(資本ストック)の3つがあるが、長期的な生産性向上のためにはイノベーションが重要。

○企業の競争力は比較優位に依存するのに対し、国の競争力は絶対水準で決まる(注:マイケル・ポーターは、競争力はゼロサムゲームではなく、ある国の生産性の向上はすべての国の国民の繁栄に寄与しうるとしている)ものであり、両者を区別して議論する必要がある。

○競争力の低い産業を底上げするのか、それとも、競争力の高い産業を維持・強化するのかを議論する必要がある。

○我が国は「科学技術創造立国」、「文化立国」、「観光立国」、「知的財産立国」などの多くの立国政策を掲げており、産業競争力以外の競争力も視野に入れて議論する必要がある。

○モジュール化やコモディティ化は製造業を巡る変化の一部に過ぎず、高付加価値化や差別化等も併せて議論する必要がある。

○どこで競争し、どこで協調するのかを議論する必要がある。

○インテグラルからモジュールへ、垂直統合から水平分業へ、クローズからオープンへという流れは欧米諸国によって引き起こされたものであり、環境を変えられたという危機感を持って議論する必要がある。

○革新的な技術を創造する研究開発能力の構築や、グローバル市場での事業化における先行優位性の確保への努力(デファクトを含めた世界的な標準、素早い国際的な事業展開など)についても併せて議論する必要がある。

【日本のイノベーションの在り方について】

○世界中から人々が集まってできた新しい国である米国と、伝統を守り続けてきた日本とを同じように考えるのは無理があり、日本の特性を踏まえた日本型のイノベーションシステムの在り方を議論する必要がある。

○良い技術があっても、制度が悪ければイノベーションは生まれない。薬事法では治験と臨床研究が別に規定されているなど、制度の問題についても議論する必要がある。

○日本は人口の増加による経済成長を見込むことが難しく、技術革新による生産性の向上が重要。

○自前主義中心を改め、オープンなイノベーション構造を築いていくことが重要。

○ベンチャーは優れたイノベーションのからくりであるが、日本では、ベンチャーではなく異業種企業の新規参入が多いことに留意して議論する必要がある。また、今後のイノベーションのからくりをどう作るかが重要。

○「強み」と「弱み」、「チャンス」と「脅威」は条件によって変わるものであり、日本の特徴は何か、それを強みとするための方策は何かといった観点から議論する必要がある。

○日本の特徴を強みとしていかしていくときには、人材や研究開発拠点等の既存の基盤の活用を考えることが重要。

○日本型のモデルとして、これまでの産業を前提としないまったく新しいモデルが生まれる可能性があることに留意して議論する必要がある。

○単純にあるモデルを目指すべきという議論ではなく、いつの時点でどのモデルに移行すべきかという議論をすることが重要。

○これまで正しいと思われて作られてきた税制等の政策の中には、実はイノベーションを抑制する方向に働いているものが色々とあるのではないか。単に規制緩和すればよいという問題ではなく、ダブル・スタンダードやトリプル・スタンダードで規制と緩和のバランスを考えて、見直していくことが重要ではないか。

【人材について】

○日本では優秀な人材ほどリスクの少ない人生設計をしようとするために、人材の流動性が低く、国外はおろか、国内でもコラボレーションが起こりにくい。終身雇用制度のもとで、出向制度は人材の流動性向上に貢献しており、同制度の活用も含めて、人材の流動性を高めていくことが重要。

○成長のためにはグローバルな連携が必要であるが、日本は学生も含めて内向き志向が強い。海外の文化を知り、ネットワークを広げるためにも、単位互換制度の充実や海外経験の就職等における正当な評価など、若い人が海外に出て行きやすい環境を整えることが重要。

○英語ができないために機会損失が生じているのは事実である。言語の壁の克服や外国人にとってのインフラ整備も含めて、海外人材の活用方策について議論する必要がある。

○小学校からディベート能力やプレゼンテーション能力を培うなど、グローバルな場で主張ができるコミュニケーション能力の育成が重要。

○知的ヒーローがおらず、立身出世モデルが崩れた時代にあって、優秀な人材をいかに育てるかを改めて議論する必要がある。

○イノベーション創出の最終的なエンジンは人である。意欲や能力のある人が様々なチャレンジを行う社会の実現に向けて、戦後復興を支えたハングリー精神ではなく、多数の協力を勝ち得るような起業家精神を養うことが重要。

○「答えがあることに対するハンドリング(管理)」は得意であるが、イノベーションのためには「答えがないことに対するマネジメント」ができる人材の育成が重要。

○基礎的な学力とともに、オリジナリティーも併せ持った人材の育成が重要。

○過去のモデルや知見が通用しない世の中において、行動変容をもたらす新たな価値観をつくり出し、未来の人類に貢献していけるよう、若者に多様性のある考え方について教えていくことが重要。

○日本は伝統と保守をはき違えている感がある。タコつぼ型の研究に陥らないよう、大学は社会が求めている新たな分野の教育研究を適切に行うことが重要。

【産学連携等について】

○日米の大学を比べると、米国の大学のほうが企業が求める半歩先の研究開発への関心が高く、大学から企業に行って事業を始める人も多い。日本の大学も、数歩以上も先ばかりでなく、半歩先の研究開発にもっと関心を持つことが重要ではないか。

○大学発の成果が企業でより生かされるよう、リスクマネーの供給等による起業支援など、産学連携を多様化・強化していくことが重要。

○大学と共同研究を希望する企業について、成果を全部所有したいのか、人材を育成したいのか、アイデアを求めているのか、といった点が明確でないために、現場で混乱が起こっており、企業側の目的をより明確にしていくことが重要ではないか。

○論文博士を取得するために行った研究が、論文のみならず、特許や技術、さらには商業化につながったケースもあった。論文博士制度が機能してきた証であり、同制度は日本型の産学連携システムとして重要ではないか。

○基盤的経費が減らされる中、各大学は十分な戦略もないままに外部資金の獲得に奔走しており、中期的な基礎体力の低下が危惧される。大学が基礎体力を失うことなく、企業が行わないような研究を含めた多様な研究を行えるようにするために、何ができるのかを議論する必要がある。