NICレポート(GLOBAL TRENDS 2025)

Global Trends 2025 : A Transformed World

November 2008
National Intelligence Council

(要約)

2008/12/11
政策研究大学院大学 永野博

・第 2次世界大戦後に形成された【国際システム】は、新興勢力の急速な台頭で 2025年までにはほとんど不明瞭になる。 2025年までに国際システムは、先進国と途上国との国力の差が拮抗していくような「グローバル多極化システム」に変容する。このような中で多様な国家ではない主体(アクター)が増大する。【ビジネス・人種・宗教の組織、犯罪ネットワーク等】。アクターは変化を続けるが、変化する世界の繁栄の継続のために重要な国家横断的な問題の範囲と広がりも変化する。先進国における人口の高齢化、エネルギー・食糧・水の制約の増大、気候変動に対する懸念は、歴史的に先例のない繁栄の時代を抑制あるいは消滅させる。

・歴史的にみて急成長する多極システムは、二極あるいは一極システムよりも不安定。昨今の金融は不安定であるが、グローバル化の初期の形態が破綻した第 1次世界大戦(1914‐1918)の時のように、国際システムが完全なる崩壊へ向かうとは考えていない。しかしながら、新しいシステムへの変化のためのこれからの 20年は危険に満ちている。貿易・投資・技術革新・知識獲得を巡って戦略的な競争が起こりうるが、軍拡・領土拡大・軍備競争のような 19世紀的なシナリオを除外することもできない。

・米国は依然として唯一の有力なアクターとして生き残りそうであるが、米国の相対的な強みは軍事部門ですら下降し、米国の影響力は制約される。一方、他のアクター (国家であるか否かにかかわらず )が増加する負担をどの程度担えるかは明確ではない。国際システムが旧来のものから転換しつつある際には、政策立案者や市民は多方面との協力の必要に対処しなければならない。

新興勢力の台頭を助長する経済成長

・規模、速さ、流れの方向性に関して、現在進行している【富と経済力のグローバルな転移】—概して西から東へーは近代史上先例がない。まず、石油や一次産品の価格の増大が湾岸諸国とロシアに棚ぼた的利益をもたらし、次に、政策誘導された低価格が製造業と一部のサービス産業の中心をアジアに移動した。

・BRICsの成長予測では、 2040‐2050年までに BRICs全体として G7と同等の GDPシェアになる。【中国】はこれからの 20年間で他のどの国よりも影響力を示す。現在の傾向が継続すれば、中国は2025年までに世界第2の経済規模となり、軍事力でも世界をリードする。
また、最大の天然資源輸入国、最大の環境汚染国となる。

・【インド】も比較的急速な経済成長を続け、ニューデリーを一つの極とする多極化世界の構築を模索していく。中国とインドは世界の中で増大する役割を然るべく果たすことを求められ、また両国の相互関係をどのようにとるかを求められる。

・【ロシア】は、人材に投資を行い、経済の多様性を拡大し、世界のマーケットを構成する一員となれば、2025年にはより豊かで、力を有し、自信をつけるようになる潜在的な能力を有している。しかし、このような努力を怠り、原油・天然ガス価格が1バレルあたり5070ドルに留まるような場合はこのような筋書きからは転落する。

・中国・インド・ロシアのレベルまで成長が予測される国は他になく、これらに匹敵する世界的な影響力のありそうな国もない。しかし、インドネシア、イラン、トルコのような国々の政治的・経済的な力は強まろう。

・中国、インド、ロシアは西欧的な自由主義のモデルには従わず【国家資本主義】(State Capitalism)のモデルを採用していこう。国家資本主義とは、国家に重要な役割を担わせる経済マネジメントシステムを表す一般的な用語である。韓国、台湾、シンガポールのような他の新興国もこのような国家資本主義を採用した。しかし、このモデルに従うロシア、そして特に中国の影響はその規模と「民主化」へのアプローチという観点から、潜在的により重要である。民主化はゆっくりで、グローバル化は最近民主化した国々に対して社会経済的な圧力をかけることになろうが、「より大きな民主化」に対する長期的な展望については楽観的である。

・サハラ砂漠以南のアフリカ諸国は、経済崩壊・人口増加・民族的摩擦・政治不安に最も影響を受ける地域として留まろう。ラテンアメリカ諸国の多くは2025年までには中流階層が力を持つようになるが、経済競争力という観点ではアジアを下回る。

・アジア、アフリカ、ラテンアメリカはこれからの20年間の世界人口の増加のほとんどすべてを占める一方、西欧での人口増加は3%未満である。欧州と日本は人口一人当たりの富では中国やインドをはるかに引き離し続けるが、労働人口の減少により、しっかりした経済成長を維持するためには相当の困難が伴う。先進国の間でも米国は高い出生率と移民の増加のため人口の高齢化に関しては例外である。富める国への移民は増加する。

新たな国家横断的な課題

・資源問題が国際関係の中での重要性を増す。史上例のないグローバルな経済発展は、エネルギー、食糧、水のような【高度に戦略的な資源】への圧力をかけ続ける。今後10年あるいはそれ以上にわたり、需要が供給を容易に超えるので、結果的には、世界のエネルギー供給は石油から天然ガス、石炭、その他の代替エネルギーへの転換の真っ只中へ入っていこう。

・世界銀行の試算では、人口増加や中流階級の西欧志向の食生活への変化による影響で食糧に対する需要は2030年までに50%増加する。2025年までには、36カ国、14億人の人々が農地や飲料水の不足に脅かされる。

・気候変動は資源の希少性をさらに悪化させ、開発途上国の多くの地域が水不足や農業生産の減少に直面する。

・新技術は、化石燃料の代替、食糧と水の制約を克服するための解決策となる。しかし、規模の観点からいって現在のすべての技術は伝統的なエネルギー構造と置き換わるには不十分である。新エネルギー技術も2025年までは商業的に普及可能な状況にはならない。技術革新の速度が鍵になる。しかしながら、2025年までの【エネルギー転換】の可能性を排除することはできない。可能性はより性能のいい再生可能エネルギー(太陽光、風力)やバッテリー技術の向上にある。これらの技術を推進するに当たっては、エネルギーの生産者がその場で消費するという形態が普及すればハードルとなるインフラ整備のコストが低下しよう。

テロ・紛争・核拡散への展望

(省略)

複雑さを増す国際システム

・この数十年にわたり続いてきた政治的パワーの拡散の傾向はさらに加速する。国際場裏における【アクターの多様化】は、一面では、第2次世界大戦後の国際体制の劣化により生じてきたギャップを補填するという意味での強さを与えるかもしれないし、あるいは既存の国際システムを更に分断し国際協力を不可能にしうる。この多様化による分断は向う20年間、拡大する可能性がある。

・BRICSの台頭は、19世紀、20世紀にドイツ、日本が行ったような国際システムへの挑戦は行わないであろう。しかし、拡大する地政学的及び経済的な影響力により、西欧の規範を取り入れるというより、自らの政治経済政策を策定する高度な自由度を持つことになろう。巨大で煩わしい、異なる地政学の秩序のために設計された既存の国際システムは、新たな時代の要請に急速に応えることは困難である。【NGO】はこうした状況に対応できる一つの可能性であるが、国際機関や政府との協調がないと活動が制約される。

・2025年までには可能性のある拡大【アジア地域主義】は、北米、欧州、東アジアという3つの貿易・金融クラスターへ向けた動きを活性化するという意味でグローバルな意味あいを有し、将来のグローバルなWTO合意を実現させる可能性がある。このようなクラスターの成立は、地域間におけるIT・バイオ・ナノテクの製品標準の設定、知的財産、その他「新経済」の視点からの競争を惹起しよう。一方、アジアにおける地域の協調がなければ、中国・インド・日本の間でエネルギーなどの資源をめぐっての競争が起こりかねない。

・国家、国際的機関、さらには国家でないアクターの重複する役割による複雑性の増加は、新たなネットワークや再発見されるコミュニティの設置により、【政治的アイデンティティーの拡散】につながる。2025年までにはどのよな社会においても一つの集合体が支配的な力を持てることはなくなるだろう。また、人種的というより宗教を土台としたつながりの方がより大きな力を発揮するだろう。 

力の優位を失う米国

(省略)

2025年—どのような未来が待ち受けているか

・上記のトレンドは、【不連続性】、衝撃、驚きを示唆する。しかし、これらのうちのいくつかは、いつ起こるかという【タイミング】だけの話である。例えば、エネルギーの転換などは必ず起こり、これが国家の盛衰に関係してくる。しかし、民主化云々のように予測しにくい課題もある。

・欧州、日本、さらにはロシアも直面する人口問題がどうなるかも不確実だ。技術、移民、公衆衛生の向上、女性の参画拡大などが現在の予測を変える可能性がある。

・国際的秩序が今後どうなっていくかはリーダーシップ次第であろう。現在の傾向ではパワーの分散がグローバルガバナンスの弱体化を招くとみられるが、新興国を含む力のある国々が国際社会での強いリーダーシップを発揮すれば反転することもありえる。(不明確なことの中で最も憂慮すべきものは大量破壊兵器によるテロと中東の核開発レース)

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