本文へ
文部科学省
文部科学省ホームページのトップへ
Home > 政策・施策 > 審議会情報 > 調査研究協力者会議等 > 原子力安全規制等懇談会 > 試験研究用原子炉施設等の安全規制のあり方について(案) > 1−1


1. 核物質防護強化策について

(1) 設計基礎脅威(DBT)の策定と適用

1 設計基礎脅威とは

 INFCIRC/225/Rev.4によれば、「核物質防護システムを設計し評価する基となる、核物質の不法移転又は妨害破壊行為を企てようとする内部者及び/又は外部敵対者の特性及び性格」(資料1注)が設計基礎脅威(以下「DBT」という。)と定義されている。DBTは、核物質防護を担当する規制当局が、脅威情報や治安情報を保有する治安当局と協議し策定する。このDBTを用いた規制手法は、事業者が現実の脅威に対し、自らの責任で脅威に対する防護措置の評価を行い、効果的な防護措置を講ずる手法である。
 具体的には、防護対象特定核燃料物質の区分(資料3)に応じて、仮想敵の種類、人数、能力など現実的・合理的に想定し得る複数の脅威を設定した上で、それらをまとめて一つのDBTとして策定し、事業者が核物質防護システムを構築する際の設計の基礎とする。

2 主要国の状況

 主要国のDBTの策定と適用状況は資料4のとおりである。英仏及び米国エネルギー省(以下「DOE」という。)においては、防護対象の全原子力施設に対して、DBTを適用している。それに対して、米国原子力規制委員会(以下「NRC」という。)においては、区分1のうち核燃料サイクル施設及び原子力発電所にのみDBTを適用している。
 NRCでは、1970年代後半からこのDBT適用範囲を採用しており、DBTを適用すれば比較的複雑で大規模な施設固有の特性に応じた防護措置を事業者の責任において取らせることができるとしている。DBTの適用にあたっては、施設に存在する核物質の種類や形状、施設の規模等を考慮して、最終的に区分1施設のうち核燃料サイクル施設及び原子力発電所について行うこととした。
 一方、その他の施設については、比較的小規模な施設であり、自ら防護措置を設計するノウハウ等を必ずしも有していない。NRCでは、これらの施設にDBTを適用することは現実的ではないとして、画一的な防護措置を示して、規制しているとのことである。
 なお、米国においては、原子力施設を規制している規制当局は、DOEとNRCであり、DOEはDOE所管の国立研究所などを、NRCは原子力発電所等の民間施設やDOE所管外の国立研究所を規制している。

3 経済産業省所管施設におけるDBT適用方針

 経済産業省においては、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律により防護措置が義務付けられている施設として、再処理施設・MOX加工施設(区分1)、原子炉施設(実用炉・研究開発段階炉)(区分12)、ウラン加工施設(区分3)を所管している。これらの施設における、DBTの適用方針は資料5のとおりである。これについては、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子力防災小委員会及びその下の危機ワーキンググループにおいて検討されており、報告書案は次のとおりである。

(総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子力防災小委員会報告書案)
 事業者が現実の脅威に的確かつ迅速に対応し、効果的な防護措置を講ずるためには、事業者が核物質防護システムの設計に当たり考慮すべき脅威(Design Basis Threat(DBT))を国が策定し、事業者に提示し、事業者は当該脅威情報に基づき具体的な核物質防護システムを構築することが重要である。
 設計基礎脅威(DBT)は、核物質の不法移転及び原子力施設への妨害破壊行為の防護の観点から、十分な防護体制を講ずる必要のある施設、すなわち区分1施設及び原子力発電所を対象に策定する。
 原子力施設に対する脅威を想定し、当該施設に効果的な防護措置を講ずることが核物質防護の基本的取り組み姿勢であり、設計基礎脅威(DBT)の策定・適用はその手段の一つであること、また、規制の有効性の観点や施設の特性等から、あらゆる原子力施設の核物質防護に設計基礎脅威(DBT)を導入することは適当でない。
 上記の観点から、設計基礎脅威(DBT)の策定対象以外の施設(区分23の加工施設等)については、設計基礎脅威(DBT)は策定しないが、施設の特性に応じた脅威及びそれに対する防護水準等を国及び事業者が評価し、適切な防護措置を講ずる必要がある。

 経済産業省においては、核物質の不法移転及び原子力施設への妨害破壊行為の観点から、その潜在的な影響を考慮し、DBTを適用する施設としない施設を設定している。

4 文部科学省所管施設におけるDBT適用方針

 文部科学省所管の防護対象原子力施設は、試験研究用原子炉施設及び核燃料物質の使用施設である。これらは、施設に存在する核物質の種類や形状、使用目的などが多様であり、施設や事業者の規模も様々である。DBTは、核物質の不法移転及び原子力施設への妨害破壊行為に対する防護措置を決定するという観点から、十分な防護体制を講ずる必要のある施設を対象に適用することが適当である。
 主要国の状況を参考に、DBTの文部科学省所管施設への適用範囲を考慮した結果、DBTで想定される脅威については、核物質の種類や形状などに応じたものを適用することが妥当である。
 具体的には、資料5のとおり、区分1施設並びにプルトニウム、ウラン233及び濃縮度20%以上の高濃縮ウランを使用している施設に対してDBTを適用する。これらの核物質は、少量でも環境への潜在的な影響が無視できないものがあることや転用のおそれが大きい。このような理由から、これらの核物質を取り扱う施設を特に慎重に防護することが、不法移転及び原子力施設への妨害破壊行為に対する防護措置決定上重要であり、十分な防護体制を講ずる必要がある。DBTが適用される施設については、事業者が自らの責任において決定した防護措置を国が認可(事業者が核物質防護規定に記載する)することが必要である。
 一方、その他の施設については、DBTは適用しないが、国が、事業者の状況についての聞き取りを行いながら、施設の特性に応じた脅威及びそれに対する防護水準等を評価し、適切な防護措置を事業者に対して示していく必要がある。

(2) 事業者に対する守秘義務制度の導入

 DBTを始めとする脅威情報や、原子力施設における具体的な防護情報などは、核物質防護の水準を保つ上で、国、事業者等における情報管理の徹底が必要不可欠である。また、INFCIRC/225/Rev.4においては、国が核物質防護の水準を損なう恐れがある情報の適切な保護を保障するための措置をとる、核物質防護の水準を損なうおそれがある情報の機密性に関する要件を明確にする、機密保護に違反した者に対しては処罰することなどを求めている。我が国においては、核物質防護秘密の守秘義務に関する規定が未整備であることから、守秘義務制度を導入することが必要である。

1 核物質防護上の秘密の種類と範囲

 守秘義務制度の対象となる核物質防護秘密は、INFCIRC/225/Rev.4の内容を踏まえるが、一方で、原子力基本法の基本精神である情報の公開も考慮し、最小限の範囲に留めるべきである。
 また、公開済みあるいは、当該情報に関与する者が不特定多数に及ぶ場合等は、実質的に機密の保持が困難と考えられることから、秘密の対象とはできない。核物質防護情報は、1脅威情報、2防護情報、3施設情報に分類される。このうち、不法に開示されると核物質及び原子力施設の防護を損なう恐れがある個別の又は詳細な情報を特に核物質防護秘密と定義する。IAEAの技術指針であるTECDOC-967「INFCIRC/225/Rev.4の実施のための指針と考察」を参考に、秘密情報を区分し、守秘義務対象者とともに資料6に示した。また、機密性に関するTECDOC-967の記述については、資料7のとおりである。
 この区分を参考に、事業者が申請する「核物質防護規定」に秘密情報の種類を特定し、その管理方法について記載した上で、国がその審査・認可を通じて、最終的に秘密情報として取り扱う範囲を具体的に規定することが適当である。

2 守秘義務対象者の範囲

 核物質防護秘密を知り得る者は、業務上必要とされる最小限の範囲に限定するとともに、当該者に対しては罰則を伴う守秘義務を課すことが必要である。
 守秘義務対象者の範囲は、当該秘密の作成及び利用に業務として関与した者すべてとする。例えば、DBT策定に関わる主務官庁職員や、DBTに対応する核物質防護システムを設計した事業者や防護業務会社、安全協定に基づく核物質防護に係る情報を受ける地方公務員などが考えられる。この守秘義務者についても、核物質防護規定において、具体的に規定することが適当である。
 なお、守秘義務対象者以外の者が、核物質防護秘密に関与することは原則として認められないが、緊急事態(火災時の消火活動等)の場合は、例外的に関与が認められるべきである。

(3) 核物質防護検査の導入

 防護措置等を規定した核物質防護規定の遵守状況を国が監視し、防護措置が的確に実施されていることを確認するため、事業者が講じた防護措置の妥当性を国が定期的に検査する制度が必要である。
 また、INFCIRC/225/Rev.4においても、国が定期的検査によって核物質防護規則及び許認可条件の継続的遵守を検証し、必要な時には事業者に対して改善措置命令を発出して確実に核物質防護を実施させることが求められている。
 このため、詳細な防護措置内容を記載した核物質防護規定を事業者が定めて国が認可を行い、この核物質防護規定に記載されている防護措置の遵守状況を国が定期的に検査することとする。
 検査については、1防護基準適合性検査、2脅威到達時間評価及び3模擬訓練評価の3種類の検査を実施することとし、この検査業務を行う核物質防護検査官(仮称)を新設してあたることとする。1は核物質防護規定を持つ全施設、23はDBTが適用される施設に対してのみ実施することが適当である。
 防護基準適合性検査は、核物質防護規定に記載されている項目について、下部規定や記録の書面審査及び防護設備の現地確認により行われる。
 脅威到達時間評価(資料8)は、想定される脅威が各防護措置を破るために要する時間の評価を事業者が行い、その妥当性について、国も現場確認をすることにより評価する。2回目以降の検査は、防護措置及びその周辺状況に変更がないことを確認する。なお、DBT変更があった場合及び防護措置に変更があった場合には、その変更点について、再評価をし、現場確認する。
 模擬訓練評価においては、事業者が実施する想定脅威の施設への侵入等を実際に模擬した訓練の結果を、国が評価することにより、防護措置の実効性についての確認を行う必要がある。

 文部科学省内で検討されてきた以上の核物質防護強化策については、研究炉等安全規制検討会で検討の結果妥当であるとの結論に達した。ただし、守秘義務制度の導入においては、原子力基本法の精神である民主・自主・公開と齟齬をきたさないように配慮しつつ実施することが必要である。

←前のページへ 次のページへ→


ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ