資料第29-5号:クリアランスレベルの算出に用いるシナリオ等の妥当性評価に関する検討について(案)[第14回クリアランス技術検討WG資料第14-3号より引用、一部修正]

平成21年11月25日
放射線規制室

1. はじめに

 クリアランス技術検討ワーキンググループ(以下、「クリアランスWG」という。)では、第28回の放射線安全規制検討会(以下、「規制検討会」という。)において承認された「放射線障害防止法に規定するクリアランスレベルの設定に係る基本方針」(以下、「レベル設定方針」という。)に基づいて、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(以下、「放射線障害防止法」という。)に規定するクリアランスレベルの設定に係る検討を行ってきた。なお、このレベル設定方針において、クリアランスレベルの設定については、原子力安全委員会が「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下、「原子炉等規制法」という。)」にクリアランス制度を導入するために検討した手順を参考にすることとし、具体的には、「放射線発生装置の解体等に伴って発生するRI汚染物」(以下、「放射化物」という。)や「放射性同位元素の使用等に伴って発生するRI汚染物」(以下、「RI汚染物」)という。)に対するクリアランスレベルは、下記の(1)~(2)の手順に従ってそれぞれ算出し、その後、(6)の手順に従って設定することとした。
 (1) 対象物の設定
 (2) 評価経路及び計算モデルの設定
 (3) 評価パラメータの整備
 (4) 核種毎のクリアランスレベル計算
 (5) クリアランスレベルの妥当性評価
 (6) 放射線障害防止法に規定すべきクリアランスレベルの設定

2. 放射線障害防止法に規定するクリアランスレベルの算出の状況

 放射線障害防止法に規定するクリアランスレベルの算出は、これまでに、上記(1)~(4)の手順に従い、以下のとおり行ってきた。
 ○クリアランスレベルを設定する放射性核種は、放射化物及びRI汚染物のそれぞれに対して選定した。
 ○クリアランスレベルの算出において、放射化物及びRI汚染物がクリアランスされた後に埋設処分、再利用・再使用、焼却処理される場合の評価経路、計算モデル、評価パラメータは、原子力安全委員会の「原子炉施設及び核燃料使用施設の解体等に伴って発生するもののうち放射性物質として取り扱う必要のないものの放射能濃度について(平成16年12月(平成17 年3 月17 日一部訂正及び修正))」(以下、「再評価報告書」という。)を参考に設定した。
 ○クリアランスレベルの算出は、現実的と考えられる評価パラメータを用いた決定論的な方法により行った。
 なお、放射化物及びRI汚染物に係るクリアランスレベルの算出は、発生するクリアランス対象物の物量を考慮した四つの区分に分けて行った。
 ○ 大規模の放射線発生装置使用施設から発生する放射化物(大規模施設に係る区分)
 ○ 小規模の放射線発生装置使用施設から発生する放射化物(小規模施設に係る区分)
 ○ 一括クリアランスを想定したRI汚染物(一括クリアランスに係る区分)
 ○ 個別クリアランスを想定したRI汚染物(個別クリアランスに係る区分)
 また、算出した結果については、国際原子力機関(IAEA)がRS-G-1.7(※1) をとりまとめる際にクリアランス等の判断に用いる放射能濃度の基準値の算出根拠とした「IAEA Safety Report Series No.44」(※2) (以下、「SRS No.44」という。)において算出された各評価経路に対するクリアランスレベルとの比較・検討を行ってきた。
 これまでに算出した、クリアランスレベルの結果については、クリアランス判断方法に係る検討結果とともに、放射線障害防止法へのクリアランス制度導入に向けた法改正作業に資するための技術的検討に係る中間とりまとめとして、報告書にとりまとめる。しかしながら、今後告示に規定するクリアランスレベルを設定するためには、レベル設定方針に示した手順のうち(5)と(6)に従った検討を行う必要があり、ここでは、これらの手順に関する今後の進め方について検討を行う。

3. 決定論的な方法によるクリアランスレベルの算出に用いたシナリオ等の妥当性評価及び告示に規定するクリアランスレベルの設定に係る検討について

3.1 原子力安全委員会における検討について

 原子力安全委員会では、原子力利用に伴い発生する廃棄物等の安全かつ合理的な処理、処分及び再利用に資するとの観点からクリアランスレベルの設定の必要性を認識し、平成11年以降に、原子炉クリアランス報告書(※3)、重水炉等クリアランス報告書(※4)、核燃料使用施設クリアランス報告書(※5)、再評価報告書等がとりまとめられた。これらのうち、再評価報告書を除いた報告書においては、決定論的な方法によるクリアランスレベルの算出結果に基づく基準値の導出に係る検討として、確率論的解析によるシナリオ(評価経路及び評価パラメータを組み合わせたもの「シナリオ」と呼ぶ。)の妥当性評価、国際的なクリアランスレベルとの比較、及び重要放射性核種の抽出についての検討が行われたのちに、基準値の導出が行われている。 

3.2 クリアランスレベルの算出に用いたシナリオ等の妥当性評価

3.2.1 シナリオ等の妥当性評価の目的及び方法について

 放射線障害防止法に規定すべきクリアランスレベルの設定に向けて、レベル設定方針に示した1.の(1)~(4)の手順に従った決定論的な方法によるクリアランスレベルの算出に用いたシナリオ等について、その妥当性の評価として、次のような確率論的解析による評価を行う。

(1)評価パラメータのばらつき評価

 この評価は、評価パラメータのばらつきが、決定論的な方法によるクリアランスレベルの算出結果に与える影響を評価・確認するものであり、その方法として、評価パラメータの確率論的解析を行う。ここで、確率論的解析については、原子力安全委員会がとりまとめた原子炉クリアランス報告書や核燃料使用施設クリアランス報告書に示された方法に基づいて行う。
 ○評価の目的
 決定論的な方法によるクリアランスレベルの算出に用いるために選定した評価パラメータが保守的かつ適切な選定となっていることを確認する。
 ○評価の方法
 確率論的解析から求めた放射能濃度の累積分布を用いて、決定論的な方法により算出した10μSv/年に相当する放射能濃度が累積分布の確率の中央値(P=0.5)から97.5%片側信頼区間下限値(※6) (以下、「97.5%下限値」)(P=0.025)の間の範囲にあるかどうかを確認する。

(2)シナリオ(評価パラメータ及び評価経路)の妥当性評価

 ○評価の目的
 決定論的な方法によるクリアランスレベルの算出に用いた評価パラメータには本来、ばらつきが考えられることから、この評価では、評価パラメータ及び評価経路を組み合わせて設定するシナリオが適切かつ保守的に選定されていることを確認する。
 ○評価の方法
 上述の97.5%下限値に相当する評価パラメータの組み合わせを、発生頻度が小さいと考えられるシナリオとして扱い、その数値(97.5%下限値)が10μSv/年を著しく超えないことを確認する。なお、原子力安全委員会により行われたクリアランスレベル評価では、「10μSv/年を著しく超えないめやす線量」として「100μSv/年」が用いられていることから、今回の評価では、97.5%下限値の最小値の10倍の濃度である100μSv/年相当濃度と決定論的な方法を用いた評価による決定経路のクリアランスレベル(10μSv/年相当濃度)とを比較し、97.5%下限値の最小値の10倍(100μSv/年相当濃度)が低い濃度ではないことを確認する。

3.2.2 クリアランスレベルの算出に用いたシナリオ等の妥当性評価に係る手順

(1)確率論的解析を行う対象とする放射性核種の選定

 今回、確率論的解析の対象とする放射性核種の選定は、以下に示す点を考慮して行う。
 ○放射化物に係る放射性核種
 クリアランスレベルを算出する放射性核種の選定に係る考え方(参考資料4を参照)を参照し、確率論的解析の対象とする放射性核種の選定を行う。
 選定にあたっては、放射線発生装置及びその使用施設で用いられている構成材料の成分を基に評価された放射化に伴う放射性核種の放射能濃度(D)と決定論的な方法により算出したクリアランスレベル(C)との比(D/C)を求め、比が最大(D/C)maxとなる放射性核種を主要核種とし、その他の核種の(D/C)と主要核種の(D/C)maxの比[(D/C)/(D/C)max]の値が小数点以下2桁目までの範囲に含まれる放射性核種の中から確率論的解析の対象とする放射性核種を選定する。
 ○RI汚染物に係る放射性核種
 確率論的解析の対象とする核種は、我が国における販売量が上位になる放射性核種の中から、放射性核種の特性を考慮して選定する。

(2)確率論的解析を行う対象経路の抽出

 確率論的解析の対象として選定したそれぞれの放射性核種に対して、決定論的な方法により算出した10μSv/年の被ばく線量に相当する各評価経路の放射能濃度結果を基に、それらの放射能濃度の中で小さい方より三つの評価経路を確率論的解析の対象経路として抽出する。なお、確率論的解析の対象として選定したいずれからの放射性核種に対して抽出した評価経路は、他の放射性核種の評価経路として加えることとする。
 なお、原子力安全委員会によるクリアランスレベルに係る検討においては、確率論的解析を行う対象経路が以下のように抽出されている。
 ○原子炉クリアランス報告書
 確率論的解析を行う対象経路として、埋設処分シナリオの全41経路のうち11経路が抽出され、再利用シナリオの全32経路のうち14経路が抽出されている。(表1を参照)
 ○核燃料使用施設クリアランス報告書
 確率論的解析を行う対象経路として、埋設処分シナリオの全41経路のうち12経路が抽出され、再利用シナリオの全31経路のうち14経路が抽出されている。(表1を参照)

(3)評価パラメータの分布型・分布幅の設定

 (2)で抽出した評価経路に係るクリアランスレベルの算出に用いた評価パラメータの分布型・分布幅を決定する。基本的なパラメータについては、原子力安全委員会が取りまとめたクリアランスレベルに係る報告書に示された評価パラメータの分布型や分布幅を参考とする。
 しかしながら、以下に示す評価パラメータについては、原子力安全委員会の報告書に示された選定根拠や手順を参考に、今回の検討で新たに設定する。
 ・放射化物及びRI汚染物に係るクリアランス対象物の物量に依存するパラメータ
 ・原子力安全委員会におけるクリアランスレベルの算出において評価されていない放射性核種や元素に係る核種依存及び元素依存の評価パラメータ
 ・焼却処理の評価経路で新たに使用した評価パラメータ

(4)確率論的解析の結果を踏まえた評価パラメータ等の見直し

 確率論的解析を行い、決定論的な方法により算出したクリアランスレベルの妥当性について評価した結果、以下の二つの項目を満足することを確認する。
 1)評価パラメータのばらつきに係る確認
 算出したクリアランスレベルが累積分布の確率の中央値から97.5%下限値の間の範囲にあるかどうかを確認。
 2)シナリオの妥当性に係る確認
 前述の(2)で抽出した三つの評価経路の中で、97.5%下限値が最も小さくなる評価経路に対して、再度めやす線量を100μSv/年として累積分布を求め、その97.5%下限値における放射能濃度に対して、めやす線量を10μSv/年として決定論的な方法により算出した放射能濃度が上回らないことを確認する。
 これらの項目を確認した後に、必要に応じて、
 ○決定論的な方法によるクリアランスレベルの算出に用いる評価パラメータの再検討。
 ○確率論的解析に用いる評価パラメータの分布型、分布幅について再検討。
を行い、決定論的な方法によるクリアランスレベルの算出、又は確率論的解析を再び行う。

(5)確率論的解析結果についての整理

 確率論的解析の対象として選定した全ての核種及び抽出した全ての重要な評価経路について、決定論的な方法によるクリアランスレベルの算出に用いた評価パラメータの妥当性確認を行う。

3.3 国際的なクリアランスレベルとの比較・検討

 レベル設定方針では、算出したクリアランスレベルについて、国際的なクリアランスレベルとの比較・検討を行うこととしており、今後告示にクリアランスレベルを規定するまでに、このような比較・検討を行う。
 なお、原子力安全委員会におけるクリアランスレベルの検討においても算出されたクリアランスレベルについて、国際的なクリアランスレベルとの比較・検討が以下のように行われている。
 ○原子炉クリアランス報告書
 算出されたクリアランスレベルについて、IAEAの技術文書「TECDOC-855(固体状物質に含まれる放射性核種のクリアランスレベル)」(以下、「TECDOC-855」という。)において算出されたクリアランスレベルとの比較が行われ、値に差があった核種についてはその理由が考察されている。
 ○再評価報告書
 RS-G-1.7の数値の元となるSRS No.44に示された放射能濃度の数値(対数丸めを行う以前の数値)との比較を行い、原子炉クリアランス報告書と同様の考察が行われている。

 これらのことを踏まえて、告示に規定するクリアランスレベルを設定するまでに、決定論的な方法により算出したクリアランスレベルについては、再評価報告書と同様に、SRS No.44に示された放射能濃度の数値との比較、検討を行い、最終的に告示に規定するクリアランスレベルの設定を行う。

4.今後の検討課題

 今後、告示に規定するクリアランスレベルを設定するまに必要となる検討課題を以下にまとめる。

(1)決定論的な方法によるクリアランスレベルの算出に用いたシナリオ等の妥当性を評価する確率論的解析について

 ○確率論的解析を行うシナリオの抽出の考え方
 ○確率論的解析のために選定する放射性核種の考え方

(2)国際的なクリアランスレベルとの比較・検討について

 ○RS-G-1.7においてクリアランスレベルを規定していない放射性核種に関する比較・検討の考え方

表1 原子炉施設及び核燃料使用施設のクリアランスレベル評価における確率論的解析の対象経路(※3,4)

シナリオ

選択数

経路

経路名

埋設処分

1

No.3

操業(運搬作業者・外部)※

2

No.5

操業(埋立作業者・外部)

3

No.6

操業(埋立作業者・吸入)

4

No.11

跡地利用(居住者・外部)

5

No.12

跡地利用(居住者・吸入)

6

No.13

跡地利用(農作物摂取)

7

No.14

跡地利用(畜産物摂取)

8

No.19

地下水利用(飲料水摂取)

9

No.24

地下水利用(灌漑水農作物摂取)

10

No.25

地下水利用(灌漑水畜産物摂取)

11

No.26

地下水利用(飼育水畜産物摂取)

12

No.27

地下水利用(養殖水淡水産物摂取)

再利用

1

No.2

金属再利用用途(ベット・外部)

2

No.5

金属再利用処理(スクラップ作業場周辺居住者・吸入)

3

No.6

金属再利用処理(スクラップ作業場周辺居住者・農作物摂取)

4

No.7

コンクリート再利用用途(壁材等・外部)

5

No.10

金属再利用処理(積み下ろし・外部)

6

No.11

金属再利用処理(積み下ろし・吸入)

7

No.15

金属再利用処理(溶融・鋳造作業・外部)

8

No.16

金属再利用処理(スラグ処理作業・吸入)

9

No.24

金属再利用処理(NC旋盤・外部)

10

No.25

再使用・外部

11

No.26

再使用・吸入

12

No.27

再使用・直接経口

13

No.28

金属再利用用途(スラグ駐車場・外部)

14

No.30

コンクリート再利用処理(コンクリート処理作業者・吸入)

 ※核燃料使用施設クリアランス報告書における評価で追加された確率論的解析の対象経路

(※1)IAEA安全指針RS-G-1.7,「規制除外、規制免除及びクリアランス概念の適用」
(※2)IAEA,「Derivation of Activity Concentration Values for Exclusion, Exemption and Clearance, Safety Reports Series No.44(大量の固体状物質に対する規制除外、規制免除及びクリアランスを判断するための放射能濃度の基準値)」(2005)
(※3)「主な原子炉施設におけるクリアランスレベルについて」(平成11年3月17日)
(※4)「重水炉、高速炉等におけるクリアランスレベルについて」(平成13年7月16日)
(※5)「核燃料使用施設(照射済燃料及び材料を取り扱う施設)におけるクリアランスレベルについて」(平成15年4月24日)
(※6)統計上の信頼区間としては、一般的に90%、95%、99%信頼区間が用いられている。原子力安全委員会における原子炉施設等を対象としたクリアランスレベルの検討では大気汚染等を測定観測する環境影響評価で用いられている95%信頼区間を参考に、検討対象となる片側信頼区間97.5%下限値(P=0.025)を用いており、クリアランス報告書においても、同様の考え方が採用されている。

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科学技術・学術政策局原子力安全課放射線規制室

(科学技術・学術政策局原子力安全課放射線規制室)