平成21年7月30日
放射線規制室
(下線:修正箇所)
放射線障害防止法に規定するクリアランスレベルについては、第18回放射線安全規制検討会の資料第18-4-1号によると、平成18年度中間報告書までは、原子力安全委員会における検討結果を踏まえて、原子炉等規制法、BSS(*1)に示された値との整合性等を考慮しながら検討することとしていた。
今回のクリアランス制度導入に向けた検討においては、文部科学省において、関係機関の協力を得て新たに計算を行うこととし、その計算結果に基づき放射線障害防止法に規定するクリアランスレベルの設定を行うことする。計算から設定までの手順は、2.のとおりである。
この基本方針について、放射線安全規制検討会の議論を得て、クリアランスレベルの具体的な検討をクリアランスWGにおいて行うこととする。その後、クリアランスWGにおける検討状況を随時確認しながら放射線安全規制検討会において本年12月頃を目標としてまず試算値をとりまとめ、さらに平成22年11月頃までに省令・告示等の整備に資するためのとりまとめを行いたいと考えている。
放射線障害防止法におけるクリアランスレベルは、先行してクリアランス制度を導入している原子炉施設等におけるクリアランスレベルを原子力安全委員会において検討したときの手順(*2)を参考にし、BSSやRS-G-1.7(*3)その他文献(*4)等に示された考え方も適宜取り入れて設定することとする。
具体的には、放射線発生装置の解体等や放射性同位元素の使用等に伴って発生するRI汚染物に対するクリアランスレベルを下記(1)~(5)に従ってそれぞれ計算し、その後、(6)に従って放射線障害防止法において導入すべきクリアランスレベルを設定する。
(1)対象物の設定
(2)評価経路及び計算モデルの設定
(3)評価パラメータの整備
(4)核種毎のクリアランスレベル計算
(5)クリアランスレベルの妥当性評価
(6)放射線障害防止法に規定すべきクリアランスレベルの設定
(*1)
国際原子力機関(IAEA)安全シリーズNo.115「電離放射線に対する防護と放射線源の安全のための国際基本安全基準」(1996年)
(*2)
主な原子炉施設におけるクリアランスレベルについて(平成11年3月原子力安全委員会放射性廃棄物安全基準専門部会)
(*3) IAEA RS-G-1.7
「Application of the Concepts of Exclusion, Exemption and
Clearance」(2004)
(*4) IAEA SRS No.44 「Derivation of Activity Concentration
Values for Exclusion, Exemption and
Clearance」(2005)、「原子炉施設及び核燃料使用施設の解体等に伴って発生するもののうち放射性物質として取り扱う必要のないものの放射能濃度について」(平成16年12月原子力安全委員会放射性廃棄物・廃止措置専門部会) 等
(1)~(6)の各手順の概要は、以下のとおりである。
(1)対象物の設定
廃棄業者、放射線発生装置や放射性同位元素の使用者等からの情報及び関係する文献等を参考にして、発生するRI汚染物、含まれる核種及び放射能量を調査した後、クリアランスレベル計算における包絡性や必要性を検討して対象とするRI汚染物とその種類毎の物量、クリアランスレベルを計算する核種を設定する。
なお、放射線障害防止法におけるクリアランス制度では、固体のRI汚染物の種類について制限は設けない方針であり、発生するRI汚染物を調査する際には、使用・解体等の多様な状況で発生するものを網羅的に含めることとし、現状では実際にクリアランス判断が困難であることが予想される短半減期核種以外の核種を含むものや原子炉施設での計算時に対象としていない可燃物や難燃物等も考慮する。また、医療関係法令によって規制された施設におけるRI汚染物も考慮する。
(2)価経路及び計算モデルの設定
対象とするRI汚染物に起因して、現実に起こり得る再生利用・再使用・処分に関する経路を抽出する。評価経路の抽出にあたっては、各事業所単位で個別クリアランスする場合と廃棄業者が集荷して一括クリアランスする場合などRI汚染物の実態を踏まえ、小量から大量までの物量による多様な評価経路を網羅的に含めることとし、原子炉施設での計算時に含めていない焼却処理も考慮する。
抽出した経路のなかで、他の経路と比較して線量が十分小さいと判断される経路の整理を行ったうえで評価経路を選定し、評価対象者に対する被ばく計算モデルを設定する。
(3)評価パラメータの整備
被ばく計算モデルに用いられる評価パラメータ(社会・日常生活の態様に係るもの、自然条件等に係るもの)について、関係する文献等を参考にして現実的と考えられる値を整備する。
1)社会・日常生活の態様に係る評価パラメータ
・ 被ばく形態(作業時間等)・食生活(農作物摂取量等)・使用条件(製品重量等)に係るもの
2)自然条件等に係る評価パラメータ
・ 自然現象(浸透水量等)・使用条件(処分場の大きさ等)に係るもの
・ 元素・核種に依存するもの(濃縮及び移行係数等)
(4)核種毎のクリアランスレベル計算
適切な計算コード等を使用し、各核種について評価経路毎の基準線量相当濃度(線量評価10μSv/年に相当する放射性核種濃度)の導出を行う。その後、評価経路毎の基準線量相当濃度を比較して、最小濃度となる経路を決定経路とし、その濃度を対象とするRI汚染物のクリアランスレベルとする。
(5)クリアランスレベルの妥当性評価
クリアランスレベル評価において重要と考えられる核種及び評価経路を抽出し、評価経路の蓋然性評価や評価パラメータのばらつき評価を行い、計算したRI汚染物のクリアランスレベルの妥当性を評価する。
(6)放射線障害防止法に規定すべきクリアランスレベルの設定
原子炉等規制法との整合性や国際的動(RS-G-1.7、BSS、諸外国の基準等)、さらに医療法等の関係法令によって規制されたRI汚染物の状況を踏まえたうえで、放射線発生装置の解体等や放射性同位元素の使用等に伴って発生するRI汚染物について(1)~(5)に従ってそれぞれ導出したクリアランスレベルを比較検討し、放射線障害防止法において規定すべきクリアランスレベルを設定する。なお、対象物(コンクリート、金属、可燃物[
焼却灰
]等)によって有意な差が生じ、クリアランス判断時に実効性のある分類・判断が可能と考えられる場合、対象物の種類に応じてクリアランスレベルを設定することを必要に応じて考慮する。
RI汚染物の実態を踏まえると、このクリアランスレベルの設定では、物量や評価経路等に基づいた多様な選択肢による幅広い比較検討が必要になると考えられる。したがって、(1)~(5)の検討では、(6)におけるクリアランスレベル設定の選択肢を狭めないよう多様な計算を幅広く行うこととする。
3.BSSとRS-G-1.7における免除レベル(クリアランスレベル)の比較
放射線障害防止法におけるクリアランスレベルの設定では、原子炉施設を対象とした場合との相違点として、小規模な事業所で発生するRI汚染物を個別にクリアランスする場合等を想定したときの小さい物量に基づく計算も行うことが挙げられる。
そこで、設定物量の大小の相違による導出事例として、BSSとRS-G-1.7における免除レベル(クリアランスレベル)の比較を下表に示す。また、免除とクリアランスの概念整理を別添に示す。
|
BSS |
RS-G-1.7 |
適用範囲 |
中位(多くても1トン)の量への適用に限定した免除レベル |
大量のものを想定した免除レベルであり、クリアランスレベルとしても適用可能 |
示された値 |
放射能量(Bq)、放射能濃度(Bq/g) |
放射能濃度(Bq/g) |
評価シナリオの前提条件 |
小量の放射性物質の産業利用及び教育、研究並びに病院などの施設での小規模使用 |
放射性物質を含む大量の物品の使用、処分等 |
評価経路 |
・通常使用及び事故時の作業者被ばく |
・処分場、鋳物工場などの施設における作業者被ばく、並びにこれらの施設周辺の居住者被ばく |
計算モデルにおける線量基準 |
通常時:10μSv/年 |
現実的なパラメータ値の場合:10μSv/年 |
導出値の例 |
放射能濃度:10Bq/g |
放射能濃度:0.1Bq/g |
科学技術・学術政策局原子力安全課放射線規制室