資料5-4 放射化物の扱いについて(案)

1.現状

(1) 放射化物の現状

  現行の放射線障害防止法では、当初から使用等を予定する放射性同位元素と放射線発生装置、また放射性同位元素によって汚染されたものが規制対象にされており、放射線の照射に伴って発生する放射化物については、明示的な規定がなされていない。

  一方、放射線発生装置の性能の向上により、高エネルギーの放射線発生装置が使用されるようになり、その使用に伴い機器等が放射化されるという問題が顕在化してきた。

  放射化物は、加速器の構造体である鉄、銅、アルミニウム、ステンレス、遮へい体であるコンクリート、鉄、鉛などで発生している。代表的な生成核種は、アルミニウム材中のNa-22、Be-7、鉄材中のCo-60、Mn-54、Co-56、コンクリート材中のNa-22、H-3などである。

  また、表面密度4Bq/cm2、表面での線量率が3mSv/hを超える場合もある。

  通常発生する放射化物については、一部事業所では、放射化した磁石、加速管等を点検し、再利用されている例もあるが、大部分は、室内に保管されている。古い加速器の解体によって発生した大量の放射化物についても、一部再利用されているものの、大部分は専用の使用施設を設置し保管されている状況である。

(2) 放射化物の取扱いに係る課長通知について

  法令上、放射化物が規定されていないことから、平成10年10月30日、当時の科学技術庁が、放射化物の取扱いについて、「放射線発生装置使用施設における放射化物の取扱いについて」(科学技術庁原子力安全局放射線安全課長通知)をとりまとめ、関係事業者に対して安全管理上の留意事項を周知、徹底している。この課長通知の概要は以下のとおり。

1. 適用範囲

  放射線発生装置使用施設において放射化した放射線発生装置等の取扱いについて適用。核子当たりの最大加速エネルギーが2.5メガエレクトロンボルト未満のイオン加速器、最大加速エネルギーが6メガエレクトロンボルト未満の電子加速器等は放射化物がほとんど発生しないので対象外。

2. 放射化物の定義

  放射線発生装置の使用に伴って、放射化させることを目的とせずに有意の放射能が認められるに至った放射線発生装置及び実験機器。(放射性同位元素の製造や材料検査を目的とした照射による放射化は、非密封線源としての規制を受けるので対象外)

3. 放射化物の取扱い

  放射化物を以下の3つの区分に分け、管理する。

区分 表面の放射性同位元素の密度 表面から10cm離れた位置における1cm線量当量率 取扱いの要領
A 表面密度限度の10分の1以下 600nSv/時以下 運搬、廃棄、譲渡等についてはB,Cに準じた取扱い
B 表面密度限度の10分の1以下 600nSv/時を超える 穿孔、溶断等の加工を行う場合は非密封線源、それ以外は密封線源に準じた取扱い
C 表面密度限度の10分の1を超える 非密封線源に準じた取扱い

4. 放射化物の使用

  放射化物の使用に当たって考慮すべき事項は以下のとおり。 ・ 定期的に放射化の状況を把握し、残留放射能による作業者の被ばく管理に十分配慮する。

・ 高度に放射化された物は、直接手で扱わず、遠隔操作装置などを用いて被ばく量の低減に努める。

・ 放射化物が管理区域からみだりに持ち出されないように、出入口等において持ち出す物のチェックを行う。

・ 放射化物に関する台帳を作成し、発生場所、測定日時、測定値等を記録すること。

5. 放射化物の保管

  再使用するために一時的な保管をするに当たって考慮すべき事項は以下の通り。 ・ 管理区域内に専用の場所を確保し、注意事項等を掲示する。

・ 過剰被ばくの危険がある放射化物を保管する場合は、遮へいを施すなどの対策をとる。

・ ターゲット部分など比放射能が高いものは、放射線障害防止法の保管の基準に準じて保管する。

・ 電磁石など大型の物品を保管する場合は、専用の保管のための施設を設ける。施設は、廃棄施設の基準と同様であることが望ましい。

6. 放射化物の運搬

  事業所内運搬、他事業所への運搬とも、放射線障害防止法の運搬の基準に従う。

7. 放射化物の廃棄

  放射化物を廃棄する場合は、放射性同位元素によって汚染されたものとして放射線障害防止法の廃棄の基準に従う。

8. 放射線障害予防規定

  放射化物の取扱い及びそれに付随する安全管理業務について、必要な事項を放射線障害予防規定に記載し、放射線業務従事者等に徹底を図ることが望まれる。

2.今後の対応

(1) 基本方針

  放射線発生装置使用施設における放射化物の取扱いについては、前述の通り、現状は、科学技術庁原子力安全局放射線安全課長通知に基づき、実態的に安全性は確保されていると考えられる。

  しかしながら、課長通知は、基本的に放射化物の安全な保管管理を求めるもので、放射化物の取扱いや使用についてまで安全確保のあり方を示しているものではないこともあり、今回の法令改正の際に放射化物に係る安全確保について所要の法令整備を行うことが適当であると考えられる。

(2) 具体的な法令整備の内容案

  課長通知の内容を適宜見直し、次のような方向で具体的な法令整備の内容案を検討することが適当であると考えられる。

1. 放射化物の定義

(イ) 放射化物として、「放射線発生装置の運転に伴い加速粒子あるいは中性子などの二次的に発生した粒子により、放射性同位元素に転換した元素及びこれを含む物質で、発生装置や遮へい等構造物から取り外されたもの」と定義する。ここで、「構造物から取り外されたもの」としたのは、放射化物は、装置や遮へい等構造物から取り外さない段階では、発生装置の管理区域内で管理されており、特段の対応をとる必要がないと考えられるためである。

(ロ) 具体的には、装置から取り外された部品、消耗品、周辺構造物・遮へい材から取り外された他の装置、機器、壁、天井などのうち、ある一定の表面の放射性同位元素の密度が表面密度限度及び表面から10cm離れた位置における1cm線量当量率を超えたものとする。一定の限度としては、例えば、表面の放射性同位元素の密度が表面密度限度の10分の1を超えるもの及び、表面から10cm離れた位置における1cm線量当量率が600nSv/時を超えるものなどが考えられる。
  放射化物を管理する上で、核種と数量による厳密な管理は困難であることから、β核種を多く生成するものを除き、基本的には線量率と個数で管理することを規定する。

(ハ) 加速器のエネルギーや放射化物の材質により、外部線量率がほとんど計測されないβ核種を多く生成する場合も想定されるため、内部に生成する核種の量及び濃度が、BSS免除レベルを超えるか否かを計算し、審査の際に確認することについての検討も必要である。

(二) 放射性同位元素の製造や材料検査を目的として放射化されたものは、放射線源としての規制がかかるため、放射化物としての規制を課す必要はない。  

2. 放射化物の取扱い、使用

  定義された放射化物は、原則として、穿孔、溶断、研磨等の汚染のおそれのある作業を行う場合は非密封線源に準じた規制(放射化物作業室の設置等)、それ以外は密封線源に準じた規制とすることが適当である。

  なお、核種や数量の厳密な特定が難しいという特徴を踏まえ、管理上、線量と個数で管理することになる。空間線量率、空気中濃度、排気中濃度などについては、主要な核種で評価をする。

3. 放射化物の保管

  放射化物については、管理区域の設定等の観点から、発生装置の付近で使用や保管されているのが実態である。そのため、発生装置の管理区域内に、放射化物貯蔵場所を設定するか、あるいは、専用の放射化物貯蔵施設を設けて保管するのが適当である。汚染のおそれのある場合は、養生するなど汚染の広がらない措置を取ることを求める。

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