参考資料1

「中間整理(案) 第8章」の修正について

文化審議会著作権分科会 私的録音録画小委員会
事務局 御中

2007年9月19日
委員 亀井正博、河野智子

 9月13日開催の小委員会において、申し上げることのできなかった意見について、以下の通り、述べさせていただきます。
 これまでの小委員会において述べられたにもかかわらず反映されていない意見のほか、本整理における表現の問題も含まれています。
 なお、この意見書は、次回委員会において委員間で共有すべく配付して頂きたく思います。

・p.10 2 アの5行目「なお、権利者側は、法の運用を容易にするため…」

<意見>

 当該なお書きの記述箇所を、現在の「ア」からp.9 1「エ」(脚注か)に変更すべきである。

<理由>

 この「ア」項は、30条の適用を除外するにあたっての要件について記述されているが、当該なお書きは、今後検討される要件の解釈に影響を及ぼすかのように誤解されるおそれがある。すなわち、「適法サイトを容易に識別できるよう、識別マークをサイトに付ける」ことの反射的効果として、識別マークが付されていないサイトからの録音録画があたかも「情を知って」要件を満足することとなるかのように読みうる。識別マークの検討は、むしろ、実態の一つとして、p.9「エ」にある「効果的な違法対策」の一つであると理解されるのであり、従って、記述箇所を改めるべきである。

・p.11 b「他人から借りた音楽CDからの私的録音」

<意見>

 少数意見ではあるが、他人から借りた音楽CDからの私的録音について、30条の適用を外すべきであるとの意見があったことを明記すべきである。

<理由>

 生野委員、松田委員からこのような意見があったことは事実であり、議事録においても確認できる。a「違法録音録画物‥」との対比をすると、取り扱いの公平さを欠いている。

・p.19 脚注8 「少なくとも録音録画行為が第30条の範囲内である限りにおいては権利行使ができないので」

<意見>

 当該表現を削除すべきである。

<理由>

 「権利行使ができない」とあるが、オーバーライド契約の可能性を肯定する以上(p.12「オーバーライド契約は、契約自由の原則に基づき原則として有効」)、権利行使ができない、という記述は誤りであると考える。

・p.20 イのまるの4行目以下「このことから、現状の著作権保護技術は…という意味が強い」

<意見>

 以下のように修正すべきである。

 「現状の著作権保護技術の多くは、録音録画回数等利用可能な範囲を限定し、その範囲内での録音録画が行われることを技術的に担保するものとなっている」

<理由>

 著作権保護技術の現状に照らして適切な表現とすべきである。

・p.20 イのまるの下から3行目以下「このことから、現状における多くの著作権保護技術は…」

<意見>

 以下のように修正すべきである。

 「著作権保護技術は、通常の利用者の30条の範囲内での私的録音録画の機会は確保しつつ、デジタル録音録画された高品質の複製物が私的領域外へ流出するのを抑制するものという捉え方も可能である」

<理由>

 複製物を使用しない者の複製を禁止したり、私的複製に作成した複製物の頒布を禁止することを担保する著作権保護技術は一般には普及していない。著作権保護技術の現状に照らし適切な表現とすべきである。

・p.21 「著作権保護技術の範囲内の録音録画と権利者が被る経済的不利益の関係」の整理

<意見>

 小委員会意見の整理として、以下の考え方を追加する。

 「著作権保護技術によって利用者が不便を感じない程度の録音録画ができるのであれば、(1)の基準に戻って権利者の経済的不利益及び補償の必要性を判断すべきであるという意見」

<理由>

 イ−1およびイ−2の二つに整理されているが、委員意見には、これらと異なる意見として上記があるので、それを記述すべきである。

・p.22 脚注9

<意見>

 当該脚注は削除すべきである。

<理由>

 当該脚注の付された本文は、他人から借りた音楽CDからの私的録音について記述されている。しかるに、当該脚注で引用されている調査における「デジタル録音の理由」は、購入したCD、レンタルCD、有料音楽配信等、録音のソースを特定せずにその理由について聞いたアンケートの結果であることから、本文の内容に関するものとして引用するのは適当ではない。

・p.23 一つ目のまるの1〜2行目「タイムシフト録画以外に、保存目的の録画実態も多く、両者は区別し難いこと」と当該部分の脚注10、および同項下から3〜2行目「録画物の保存(ライブラリー化等)」

<意見>

 当該部分・脚注は削除すべきである。

<理由>

 「保存」は「ライブラリー化」と説明的に記述されている。しかしながら、脚注10で引用されている調査においては、録画の理由として選択肢で用意されている「保存」がいかなる態様のものであるか不明確であり、ライブラリーとして長期間にわたり録画物を残すことを目的としているのか否かは、このアンケート結果からは分からず、本文において「保存目的の録画実態も多く」とする根拠とすることはできない。

・p.23 一つ目のまる末尾「おおむね了承を得た」

<意見>

 小委員会で出た意見の実態に合わせて、適切な表現に改めるべきである。

<理由>

 放送番組の録画において経済的不利益があるかについては、(1)放送時点で広告収入により投資回収は完了していると思われる点、(2)二次利用がほとんど利用されていない点、(3)複製できかった場合に代替品を購入したとは言いがたい点等を理由として、メーカーや消費者等、複数の委員から疑義が示されてきており、「おおむね了承」とは言えない。

・p.25 二つ目のまるの3行目「補償の必要性がなくなる試案」

<意見>

 「補償制度を廃止する場合の試案」と修正すべきである。

<理由>

 ここで記述されているア〜ウは、第5回小委員会において「資料1」として提示された事務局案であるが、そこには「補償の必要性がなくなり、補償金制度は不要となると考えられないか」と記述されている。これらア〜ウの内容そのものについて、小委員会における検討が十分であったかは疑義が残るが、検討は、制度廃止の条件としての妥当性を巡ってなされたのであり、検討の内容を正しく反映すべきである。

・p.36 イのまる

<意見>

 以下を追加すべきである。

 「仮に対象機器等の範囲を拡大する場合には、利用態様、著作権保護技術等を考慮し、制度の問題点の拡大が最小限となるよう対象機器等を限定すべきである。」

<理由>

 「原則として維持」の趣旨を明確にする。

・p.36 Bの三つ目のまる「また、著作権保護技術の内容によっては対象にならないものもあるとする意見があった」

<意見>

 以下のように修正すべきである。

 「デジタル放送のように、著作権保護技術が使用されている録画源を複製する機器・媒体については、対象にならないとすべきであるとする意見があった。」

<理由>

 言葉足らずであるため、趣旨を明確にする。

・p.42 一つ目のまるの3行目「我が国以外の国は機器等の製造業者等を支払義務者にしている」

<意見>

 当該文書の次に以下を追加して記述すべきである。
 「ただし、それらの国の制度は、利用者の侵害行為に対して製造業者等が寄与侵害責任を負うべきであるとの考え方に基づいて製造業者等を支払義務者としており、法律的には、わが国制度は、それらの国の制度の考え方とは異なっている。」
 また、ここで「我が国以外の国」とされているのは、第7章で記述されるであろう、我が国に類似の制度を有する国であることを脚注等で明確にすべきである。なお、現時点では、第7章の記載内容について詳らかではないが、第7章においては、英国のように類似制度のない国、米国のように録音についてのみ制度を有する国、制度を廃止した国等も公平に取り上げられるべきである。

<理由>

 現行法の理念とは無関係に、形式的な点からのみ支払義務者の議論をするとしても、中間整理では事実を事実として伝えるべきである。
 昨年度の小委員会第6回に提出され、事務局著作権調査官から報告された、社団法人私的録画補償金管理協会、社団法人私的録音補償金管理協会が共同で実施した調査報告である「私的録音・録画と著作権に関する海外調査報告」の冒頭にもある通りである。

・p.43 アの3行目「…支払うことであることから、製造業者は…」

<意見>

 以下のように修正すべきである(下線部の追加)。
 「…支払うことであることから、単純に製造業者等から補償金管理協会への金銭のやり取りに着目すれば、製造業者は…」

<理由>

 協力義務が金銭債務の性質を有するとの理由で支払義務との相違がないとしているが、これがいかなる義務の不履行の治癒も最終的には金銭債務化する(わが国民事法制上の原則)との視点で言われているのではないとするならば、補償金の受領に関する点からの考察であり、その点をより明確にすれば、かような修正がなされるべきである。なお、法第104条の5に規定する「補償金の支払の請求及びその受領に関」する協力義務の内容が、金銭を補償金管理協会に支払うという点のみに閉じたものであるのかについて、疑問なしとしない。

・p.43 イの1行目「協力義務と支払義務の内容が、法的に見れば…」

<意見>

 以下のように修正すべきである(下線部の追加・修正)。
 「協力義務と支払義務の内容は、金銭のやり取りについて法的に見れば…」

<理由>

 協力義務が金銭債務の性質を有するとの理由で支払義務との相違がないとしているが、これがいかなる義務の不履行の治癒も最終的には金銭債務化する(わが国民事法制上の原則)との視点で言われているのではないとするならば、補償金の受領に関する点からの考察であり、その点をより明確にすれば、かような修正がなされるべきである。なお、法第104条の5に規定する「補償金の支払の請求及びその受領に関」する協力義務の内容が、金銭を補償金管理協会に支払うという点のみに閉じたものであるのかについて、疑問なしとしない。

・p.43 エの最後から2〜1行目「…権利を行使しなかっただけであり必ずしも不公平にはならないと考えられる。」

<意見>

 不公平とならない理由を、明確に述べるべきである。

<理由>

 支払義務者をユーザーから製造業者等に変更しても、ユーザーからみれば、購入時に補償金も含めた価格を支払う点に変わりない以上、「私的録音録画を適法にできる権利付きの機器等を購入」する点も現行制度と何ら変わらず、私的録音録画しない者が返還請求制度を有する現行法よりも不公平さは増大すると見るのが自然であって、「不公平にならない」という評価には全く賛同できない。
 現在の案に関連する小委員会での発言を探せば、製造業者等を支払義務者とすることによって「不公平が生ずる」こと自体は委員の共通の認識なのであり、案を作成する事務局が「必ずしも不公平にならない」と考えるのであれば、その根拠を明確にすべきである。
 以下に、ここに関連すると考える、第8回小委員会における森田委員の発言を引用する。
 「…権利処理済みで機器を売り出す場合には、その権利を行使する人もしない人もその対価を払うことになって、そこの不公平かどうかという問題が出てくるわけでありまして、これは対象機器だとか、あるいは、そもそもどのくらいのどういう使い方をするのかという額の問題の中でその点を反映させていって、ごく一部のユーザーがある用途には使っているけれども、多くのユーザーは私的録音録画には使っていない機器については、そういうすべての機器を権利処理済みで売り出すということ自体がユーザー間の不公平を招くので適当でないだろう。例えばそういうような形で整理するのであれば、対象機器から外すとか、あるいは、含める場合であっても、多くのユーザーがどういう使い方をするのかということを念頭に置いた額の決定の仕方を制度の中に織り込んでいくというのをどう工夫するかという中で解決策を見出すのが合理的な方策ではないかと思います。」

以上