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事案1 「二重ライセンス契約」
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βは、ソフトウェア開発会社であり、Aとの間でデジタル化ライセンス契約(A・B間のそれ()と同じ)を締結し、素材集のCD―ROMに複製し販売をしている。 |
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(米国法による結論)
A・β間の契約が独占的契約かどうかによって若干アプローチは異なる。
A・β間の契約が独占的契約である場合
(1) |
A・B、A・β間の両契約のうち、先に契約書を締結した方が優先する。但し、後に契約を締結した者に優先するには、後に契約を締結した者が優先する要件((2)参照)を欠いているか、または、先に契約書を締結した契約が次の要件を備えていることが必要である。
(a) |
著作権法第205条(c)項に規定される方法によって、契約書が登録されていること |
(b) |
米国で締結された契約の場合、その契約締結日から1ヶ月以内の登録、米国以外で締結された契約の場合、その契約締結日から2ヶ月以内(これらを以下「グレースピリオド」という)の登録、あるいは後に締結された契約書より先の登録であること。 |
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(2) |
(1)(a)(b)のいずれの要件も満たされていないときには、後に契約書を締結した方が優先する。但し、以下の要件を備えていることが必要である。
(a) |
最初に締結された契約よりも先に登録され、かつ |
(b) |
善意であり(先に独占的な契約があったことを知らないで登録したこと)又はその旨のノーティスがなかったこと |
(c) |
相当な対価が支払われているか、ロイヤルティーを支払う拘束力のある約束があること(すなわち、後者が無償の独占契約の場合には、常に先に契約を締結したものが優先する) |
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場面
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先に契約締結B |
後に契約締結β |
両方とも登録がない場合 |
○(但し、Bがグレースピリオド内に登録せず、かつβがグレースピリオド後に先に登録すれば×) |
×(但し、Bがグレースピリオド内に登録せず、かつβがグレースピリオド後に先に登録すれば○) |
Bがグレースピリオド内の登録 |
○ |
× |
後者が無償契約であったこと(この場合、登録があってもなくても結論は同じ) |
○ |
× |
後者が前者の独占契約の存在を知っていた又はその旨のノーティスを受けていたこと(この場合、登録があってもなくても結論は同じ) |
○ |
× |
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結論 |
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A・B間の契約又はA・β間の契約のうち、劣後する契約は優先する契約に対して対抗できない。従って、優先する契約当事者からクレームをつけられると、劣後するライセンスの権利を行使することができない。この場合、劣後するライセンス契約のライセンシーは、ライセンサーであるAに対して、債務不履行に基づく損害賠償請求、解除権の行使をすることができる。
βがA・β間のライセンス契約を締結するときにBの存在を承知している場合には、βが優先権を主張できないだけであって、Bに対する債権侵害による不法行為は成立しない。 |
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A・β間の契約が非独占的契約である場合
(1) |
この非独占契約が優先するのは次の場合に限られる(非独占契約が登録されていても登録されていなくても結論は同じ)。
(a) |
非独占契約が書面化されており、その書面にライセンスの対象となる権利の権利者又は権利者から正式に権限を与えられた代理人が署名していること、かつ |
(b) |
A・β間非独占契約がA・B間の独占契約とりも先に締結されているか、あるいは、A・B間の独占契約の登録前に、善意で又はその旨のノーティスなくして締結されたこと |
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(2) |
非独占契約が登録されているかどうか、無償契約かどうかは無関係である。 |
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A・β間非独占契約が書面化されていることを前提とすると
場面 |
A・B間の独占契約 |
A・β間非独占契約 |
A・B間の独占契約が先に締結 |
○(但し、以下の例外あり) |
×(但し、以下の例外あり) |
A・β間の非独占契約が後に締結されたが、A・B間の独占契約の登録前に、A・β間非独占契約が善意で又はその旨のノーティスなくして締結された場合 |
× |
○ |
A・β間の非独占契約が後に締結され、A・B間の独占契約登録が先であった場合又はA・β間非独占契約が、A・B間の独占契約の存在について悪意又はその旨のノーティスがありながら締結された場合 |
○ |
× |
A・β間非独占契約が先に締結 |
× |
○ |
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結論 |
非独占的権利が優先する場合、その権利に関する限りで独占的権利のライセンシーは、非独占的権利のライセンシーの権利行使を受忍する義務が生じる。その場合、独占的権利のライセンシーは、ライセンサーであるAに対して、債務不履行に基づく損害賠償請求、解除権の行使をすることができる。
また、独占的権利が優先する場合、劣後する非独占的契約に基づく権利は優先する独占的契約のライセンシーに対して対抗できない。従って、優先する契約当事者からクレームをつけられると、劣後するライセンスの権利を行使することができない。その場合、非独占的権利のライセンシーは、ライセンサーであるAに対して、債務不履行に基づく損害賠償請求、解除権の行使をすることができる。
βがA・β間のライセンス契約を締結するときにBの存在を承知している場合には、βが優先権を主張できないだけであって、Bに対する債権侵害による不法行為は成立しない。 |
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