資料4

意見募集の結果を受けた主な争点について

1.海賊版の譲渡のための告知行為の防止策について

【争点1】対象とすべき告知媒体について

<中間まとめへの意見>

インターネットに限定しない意見 インターネット限定の意見
  •  インターネット以外のチラシやカタログなどを利用した一般的な広告手法による譲渡告知行為についても、伝播効果は高いと考えられ、対策を講ずる必要。(社団法人日本音楽著作権協会、個人)
  •  インターネットに限定した手当とすべきかどうかについては、更なる慎重な検討が必要。(日本知的財産協会)
  •  インターネットオークションでの海賊版の蔓延等が現在明確化している課題なのであれば、あくまで顕在化している課題の解決を目的とする法改正を行うべき。(社団法人日本広告業協会)

⇒ インターネット以外の媒体については、どう考えるか。

(参考)中間まとめ(抜粋)

 以上のような点を踏まえ、権利を侵害する行為によって作成された物又は同様の輸入物品の販売のためにインターネットを活用して譲渡告知行為を行うことについて、「情を知って」などの一定の要件の下で著作権等を侵害する行為とみなすこととすることが適当である。
 なお、海賊版の流通を未然に防止するという意味では、インターネット以外の媒体を通じて譲渡告知行為を行うことについても基本的には同様の課題が考えられるが、匿名性の高いインターネット環境においては、プロバイダ責任制限法における発信者情報の開示請求のためには前述の通り一定の要件を満たす必要があるなど、権利者にとって必要な措置を講じるための法的な限界がある点で他の媒体と差異がある。また、インターネット以外の媒体には、放送、新聞、雑誌からチラシなどの印刷まで多様な業態があり、それらを一律に取り扱うことは必ずしも妥当ではないため、各事業の実態とともに同様の規定を設ける必要性を見極めたうえで必要な措置を講じることが適当である。

【争点2】対象とすべき「海賊版」の告知の内容について

<中間まとめへの意見>

  •  海賊版の譲渡のみならず、譲渡行為が頒布権・譲渡権等の侵害となる場合の告知行為についても著作権侵害行為とみなすようにすべき。(社団法人日本映画製作者連盟、社団法人日本レコード協会)
  •  海賊版であるか否かを当事者が知っているかの確認方法が不明確であり厳しく判断するとネット利用者のほとんど全員が処罰の対象となり得、同意できない。一方、曖昧な運用では法律が意味をなさない。(個人)
  •  海賊版の定義には、典型的な海賊版だけでなく、無許諾の二次創作物(複製権や翻案権の侵害に当たるもの)等も含まれると考えられ、また、正規品を仕入れるのか侵害品を作成して販売するのか明確でない場合もあり、創作活動への萎縮効果について検討が十分でない。(個人)

⇒ 告知行為の外形上から、海賊版であることの情を知って告知行為を行っているかどうかをどのように判断できるのか。

⇒ また、その譲渡自体が譲渡権侵害となる場合の告知行為も対象とすべきか。

2.権利制限規定の見直しについて(薬事関係)

【争点1】権利制限の根拠等について

<中間まとめへの意見>

賛成側 否定側
  •  薬事法は、憲法上の国民の生存権を補完・実行するものであり、薬事法に係る行為は、公益性の観点から、既存の権利制限と同じ性質を有するものである。薬事法第77条の3はこの中核をなすものであり、この一端を担うのが学術文献の入手、提供であり、著作権による制約を受けるべきものではない。(日本製薬団体連合会 他)
  •  法や行政が複製物の提供を義務づける場合に、著作権処理の義務が課されることは、義務者の負担であると同時に、行政の遅延にもなる。このような場合には、薬事関係に限らず、権利制限を加えるべき。(個人)
  •  薬事法第77条の3が製薬企業に課している努力義務は、他者の権利を侵害してまでも情報提供すべきとはされていない。医薬品の安全等に関する情報提供は、製造者責任の範疇にある事柄であって、営利企業である製薬企業の当然の責務である。薬事法第77条の3の規定はその製造者としての当然の義務を明記したものであり、それを理由として医薬品の安全等のための情報複製を権利制限とする必然性はない。(株式会社日本著作出版権管理システム 他)
  •  医薬品の安全等の情報は、患者の病状に「最適な」情報が「迅速に」提供される必要があり、事前の許諾手続が不要になることで「迅速性」は担保されるかもしれないものの、「最適性」という観点からも検討すべき。金額に公的な規制がかからない場合には、価格の一方的な高騰がおこる可能性があり、体力のない企業は「最適な」情報を提供ができないことになりかねない。(日本製薬団体連合会 他)
  •  権利制限要望の主たる理由として、許諾に時間がかかることを挙げているが、管理団体との事前の基本契約があれば、複写の都度の許諾手続は不要であり、許諾に時間がかかるということはない。また、製薬企業における医療従事者への情報提供は、多くは文献複写業者に発注の上で行っており、数日の日数を要することは容易に考えうるため、「緊急性」を理由とすることは現実に即していない。(株式会社日本著作出版権管理システム 他)

⇒ 双方の主張についてどのように考えるか。

(参考)中間まとめ(抜粋)

 これらは薬事法に規定される努力義務に基づくものであり、また、患者の生命、身体に関するものであり迅速な対応が求められることも多いと考えられ、文献の複製について個別に許諾に時間をかけることが不適切な場合もあると考えられる。(中略)
 現在、関係団体(現在、交渉中のものも含め)の管理に属しているものは、前述のように約7割ということであり、この残る3割の団体管理に属さない文献については、事前に迅速に許諾を得ることが困難な場合が多いと考えられる。
 このため、権利制限の形で何らかの対応を図ることが適当であるとの意見が多かった。

【争点2】国際条約との関係について

<中間まとめへの意見>

条約違反との意見 違反でないとする意見
  •  権利制限はベルヌ条約違反である。医学専門書籍・雑誌等の目的は、医療関係者に最新の医学専門情報を提供することにより、医学・医療の進歩に貢献することにある。医学専門書籍・雑誌等は、医師、薬剤師等の医療関係者に有償で提供することを前提としており、またそれ以外に市場は存在せず、それが医学専門書の出版社にとって"通常の利用"に他ならない。
     一方、これらの情報は、今回の権利制限の対象とされている、薬事法第77条の3において医薬品等の製造販売業者等に課せられている医薬品等の有効性、安全性または適正な使用のために必要な情報そのものであり、かつ、薬事法第77条の3に該当する情報提供に係る製薬企業による複製は膨大であり、業界全体で年間数千万ページに及ぶと言われている。
     この膨大な量の複製を権利制限することは著作物の通常の利用を妨げ、かつ、その著作者の正当な利益を不当に害することになり、明らかにベルヌ条約第9条第2項の規定に違反する。海外権利者の反発は避けられず、国際的な問題に発展することは必至である。(株式会社日本著作出版権管理システム 他)
  •  情報提供をする文献はほとんどが論文であり、その通常の利用は出版である。日々の研鑽のための購読利用と、患者に応じた個別の症例対応のための個別入手利用では、その目的が異なるため、複写の権利制限が認められたとしても、医療関係者は購読を中止するようなことはない(日々の研鑽をやめるようなことはしない)。

     仮に医師が必要な情報(文献)を特定し、出版社に購入を申し出たとしても、出版社は1部の論文単位での提供は困難としており、逆に言うと出版量に比して、ごく小部数で個別的であるということを裏付けるものであり、量的には出版に影響があるといえる程度ではないということであって、今回の複写は、通常の利用である出版を妨げるものではない。

     また、権利制限による経済的損失についても、過去何十年にもわたって薬事法第77条の3による情報提供の一部が複写文献により行われて来たことを勘案すれば、今回の権利制限により出版が影響を受けるとは考えられない。
    (日本製薬団体連合会)
  •  その他、経済的損失は不当とまでは言えない旨の主張有り。(資料2参照)

⇒ 双方の主張についてどのように考えるか。
 より詳細に、文献の提供先等を、提供文献の内容に応じて分析する必要があるか。

【争点3】補償金について

<中間まとめへの意見>

安価であるべきとの意見 反対の意見
  •  権利制限の趣旨からして、補償金は必要ないと考える。金額は、権利者と利用者の話し合いに任せるのではなく、公的な規制がかかる一定の制限が必要。文献は医師が自ら入手する場合もあり、単に複写主体が異なるだけであるので、補償金は、日本複写権センターの社内複写利用料である1頁当たり2円程度を目安として、原本相当額(原本の頁単価)を超えない範囲で、関係者関係省庁間で協議・決定されるべきである旨を明記すべき。(日本製薬団体連合会)
  •  製薬企業は薬事法上の努力義務を負っていることから立場が弱くなり、関係者間の話し合いにおいて対等の価格交渉が行われないおそれもある。補償金の額は、当事者間の交渉のみに委ねるのではなく、裁定制度の適用を含め、公的な観点から何らかの形でチェックする仕組みが必要。(社団法人日本経済団体連合会・知的財産委員会企画部会)
  •  権利制限する方向で、一方では補償するというのは理解しがたい。一歩譲って補償が必要になったとしても、補償金制度のスキームが全く提示されておらず、その性格も不明。本小委員会あるいは行政が公平な立場から、補償金の全体的スキームを早急に明示すべき。補償制度を設定するにしても、目的の性格に鑑み安価に設定することが必要。(財団法人日本医薬情報センター)
  •  製薬企業は、「国民の健康のため」という公共目的であるから情報提供は無償にすべきとしている一方で、「国民の健康のために不可欠」な医薬品は有償で販売している。医学専門書誌は「国民の健康のため」との公共目的で出版しているものであり、製薬企業の主張は論理矛盾である。(株式会社日本著作出版権管理システム 他)
  •  製薬業界が権利制限を要望している本当の理由は製薬会社のコスト削減である。製薬会社は、サービスとして顧客である医師等に対して、出版物の複製提供等、本来医師が自ら行うべきものの業務を代行してきている。出版社が発行・販売している情報を製薬会社が提供するのであれば、そのコストは製薬会社が負担すべきもの。製薬会社はこのサービスのコスト削減のために無断の違法複製を繰り返し、使用料を無視してきており、今回の権利制限要望はそれを合法化しようとするもの。
    (株式会社医学書院 他)
  •  補償金の額は、現在、著作権管理団体に委託されている著作物の使用料と同水準のものにすべき。(社団法人日本書籍出版協会)
  •  補償金の額は、医薬関係専門書のページ単価又は抜き刷りのページ単価と同等程度にすべき。現在の権利者側のページ単価は高額すぎ、製薬企業の経営を圧迫するほか、他の弊害も生じるのではないか。(個人)

⇒ 双方の主張についてどのように考えるか。

(参考)中間まとめ(抜粋)
  • b 権利制限を行う際には、文献複写を行った者から著作権者へ通常の使用料相当額の補償金の支払いを義務付けることが適当であると考えられる。
     これは、権利制限の対象として考えられる文献は、医学関係の文献であることが多く、医療現場で従事する者に読まれるものもあると思われることから、製薬企業による文献提供は、これらの文献の権利者の利益と衝突する可能性があることから、無償の権利制限をかけることは、これらの者の経済的利益を不当に害することになりかねないと考えられることによるものである。

【争点4】医療関係者による情報取得の体制整備について

<中間まとめへの意見>

権利制限で対応すべきとの意見 反対の意見
  •  日本薬剤師会としても「医療関係者が必要な情報を取得できる体制」は望ましいが、当面は、患者の利益のために、実際の医療現場で混乱なく円滑に情報が入手できるよう配慮されるべき。(社団法人日本薬剤師会)
  •  今回の権利制限の背景には、医師が長年の製薬企業の便宜供与に慣れている経緯と、製薬企業が顧客である医師からの文献の複写提供を断り切れないことがある。製薬業界のビジネスの在り方自体が大きな問題。今回の権利制限は、文献は買わなくとも、頼めばメーカーがサービスで届けてくれるという風潮に拍車をかけることになる。(日本医書出版協会 他)
  •  「患者の生命・身体に対して迅速な対応が求められる場合」であるなら、権利制限の適用を行使できるのは、医療関係者であって医薬品等製造販売業者ではないのではないか。(個人)
  •  「製薬企業からの文献の提供を待たずとも医療関係者が必要な情報を取得できる体制の在り方について検討が行われるべき」との意見に賛成。病院図書館では、医学雑誌・資料を偏ることなく網羅的に収集している。製薬企業による情報提供という限定された制度によることなく、診療現場で必要な情報提供の体系を形成すべきであり、「病院図書館においても著作権法31条が適用されること」との病院図書館の検討課題についても並行して検討していただきたい。(日本病院ライブラリー協会 他)

⇒ 双方の主張についてどのように考えるか。

2.権利制限規定の見直しについて(ネットオークション等関係)

【争点1】出版物(漫画、イラスト集)の取扱いについて

<中間まとめへの意見>

  •  この権利制限の見直しに強く反対。美術の著作物であっても、出版物はその書名、作者名、出版社等の文字情報を掲載することで商品を特定するに充分である(実際に、一部のサイトでは、そのような形で取引が成立している)。出版物のカバー画像が「美術の著作物」でもあるために今回の権利制限の対象とされ、安易にネット上に掲載されるおそれがある。現在、書籍等の表紙画像が無断でネット掲載されることが蔓延しているが、この権利制限はそれを合法化することになりかねない。(株式会社集英社 他)
  •  漫画やイラストについては現在でも様々な形で違法行為が横行しており、権利制限がされれば、作品をネットオークションで売るためには中身も読ませなくてはならないとの拡大解釈が広まるのは必至である。たとえ表紙といえども公衆送信権の権利制限見直しに断固反対。(株式会社秋田書店 他)
  •  不法に複製されたものや譲渡権を侵害して不法に入手されたものの取引を認めることはできない。(社団法人日本書籍出版協会 他)

⇒ これらの懸念について、どう考えるか。
 違法複製物の場合には、譲渡告知行為の防止策で対応すべきものではないか。

(参考)中間まとめ(抜粋)
  • 4 まとめ
     以上のことから、売り主が取引を行う際の商品情報の提供の必要性を根拠として、譲渡権等を侵害することなく美術品等を譲渡等することができる場合には、当該美術品等を画像として複製・掲載する行為について、権利制限を行うことが適当であると考えられる。なお、立法化にあたっては、権利者の利益を不当に害しないための条件について、取引の実務の状況等を踏まえて適切に検討を行いつつ進めていくべきものと考えられる。

【争点2】権利制限の対象とすべき売買形式について

<中間まとめへの意見>

  •  この見直しの契機は、税務当局が差し押さえた絵画のネットオークションで公売する際における、「著作権侵害」と公売の「公益性」の比較考量の問題であり、公益性の少ない一般商取引であるオークション、ショッピングサイトにまで一気に敷衍することには慎重であるべき。(株式会社集英社)
  •  「公売、オークションといった形式によらず一般のショッピングサイト等も含めた制度設計とすべきと考えられる」とされているが、事業者・消費者間の取引と消費者間の取引とでは、それぞれ事情が異なり、両者を含めて制度設計することは疑問。
    (社団法人日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センター(CPRA)他)

⇒ 一般のショッピングサイト等については、懸念が示されているが、この点をどのように考えるか。

(参考)中間まとめ(抜粋)
  • a 商品の取引を行う上で、商品情報の提供は、売り主に求められる義務として、必要不可欠なものである。特に隔地者取引の場合には、この義務を果たすために商品としての美術品等の画像の複製・掲載を行うことはやむを得ないものである一方、仮にこの画像掲載ができないことになると、本来、著作権(譲渡権等)の及ぶ範囲ではない取引行為にまで、事実上著作権によって影響が及ぼせる結果になってしまう。このため、この両者の調整の観点から、これらの取引行為のために必要な限度において、その取引に係る美術品等を画像として複製・掲載することについて権利制限の対象とすべきであるとの意見があった。
  • c なお、aの趣旨にかんがみれば、立法措置を行う場合には、権利制限の対象は、公売、オークションといった形式によらず、一般のショッピングサイト等も含めた制度設計とすべきと考えられる。

【争点3】技術的保護手段等の条件について

<中間まとめへの意見>

条件付けに否定的な意見 積極的な意見
  •  権利制限を講ずるとしても、売主に対し、商慣行から乖離した、技術的保護手段などの過度な義務を課すと、取引市場全般に萎縮効果を及ぼすおそれさえ生じる。(日本知的財産協会)
  •  ネットオークションで絵画等の著作物を複製・掲載する場合、複製された画像が再利用できないように「電子透かし」などの技術を導入することを義務つけることが必要。(株式会社美術著作権センター)
  •  画像を掲載する際に、流出防止のための技術的保護手段を施すことや商品の情報提供に必要な限度に限って掲載することなどの必要な環境を整えていくことは、著作権法上の問題を検討するか否かに係わらず、早急に対処されるべき。(社団法人日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センター(CPRA))

⇒ 双方の主張についてどのように考えるか。
 関係業界の慣行や技術的動向について分析する必要があるか。

(参考)中間まとめ(抜粋)
  • 1 一方で、例えば美術品や写真の場合、インターネット等に掲載された画像そのものが鑑賞に堪えられるものであるときには、販売目的以外で複製その他の利用が行われることが想定され、権利者の利益に及ぼす影響が大きくなると考えられることから、この弊害を抑える必要があるとの意見があった。
     この点については、インターネット上の画像の掲載に関しては、権利者に利益を不当に害することとなる場合を権利制限の対象から除外することが考えられるが、その他、例えば、複製を抑止するための技術的な保護手段を施すことや、商品情報の提供の際に必要な限度(画質、期間等)に限って掲載することなど、必要な条件について関係者の間でガイドラインを作成する等により必要な環境を整えていくことが考えられる。