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資料2

裁判外紛争解決等の在り方



1. 紛争処理の現状

(1)    著作権等の訴訟件数

   近年、著作権に関する訴訟は増加しており、平成13年において、受理した著作権に関する事件は127件であり、10年前と比較すると約3倍の伸びを示している。

新受事件の種類別件数
  著作権 特許権 実用新案権 意匠権 商標権
平成3年 40 75 57 29 36
4年 66 98 51 24 45
5年 70 91 130 37 55
6年 72 106 98 26 53
7年 87 111 61 31 53
8年 85 157 77 28 80
9年 94 167 70 25 63
10年 113 156 58 22 77
11年 117 191 72 32 65
12年 97 176 59 38 89
13年 127 153 34 29 67
(最高裁判所行政局調べ)

(2)    著作権紛争解決あっせん制度

   著作権等に関する紛争の実情に即した簡易、迅速な解決を図るため、著作権法により独自のあっせん制度が設けられている。
1    文化庁長官が、当事者双方から申請があったとき、又は当事者の一方から申請があり他の当事者がこれに同意したときに、原則としてあっせん委員によるあっせんに付す。
2    あっせん委員は、文化庁長官が、学識経験者の中から事件ごとに3人以内を委嘱する。(通例として、大学教官、弁護士、著作権実務専門家から1名ずつ。)。
3    あっせん委員は、当事者双方の主張の要点等を確認し、実情に即して事件が解決されるように努め、あっせんの結果を文化庁長官に報告する。

   昭和46年の創設から現在までの受理件数は30件であり、うち相手方が手続開始に同意し、実際審理を行ったのは6件、解決したのは4件である。

(3)    日本知的財産仲裁センターの取組

   平成10年4月に設立。日本弁理士会と日本弁護士連合会との共同運営により、仲裁又は調停を行う。平成13年4月から、著作権に関する紛争を対象に追加している。
   著作権に関しては、これまで3件の申立があったが、このうち2件は、相手方不応諾のため審理は行われていない。残りの1件は、不成立となった。

2. 文化審議会著作権分科会の審議経過報告

   平成15年1月に出された文化審議会著作権分科会の審議経過報告においては、「著作権法には第105条以下に「あっせん」に関する規定があり、日本知的財産仲裁センターやWIPO仲裁・調停センターにおいても著作権に関する紛争を取り扱うこととされているが、これらの紛争解決手段の利用は少数に止まっており、今後とも、司法制度改革推進本部での検討状況を踏まえつつ、その活性化の在り方を検討することが必要である。」とされている。

○文化審議会著作権分科会審議経過報告(抄)
(裁判外紛争解決等の在り方)
   また,厳格な裁判手続きと異なり,簡易・迅速かつ廉価で,法律上の権利義務の存否にとどまらない実情に沿った解決を図ることができるなどの観点から,いわゆる裁判外の紛争解決手段(ADR)に対する期待が高まっており,「司法制度改革推進計画」(平成14年3月19日閣議決定)においても,裁判外の紛争解決手段(ADR)の拡充・活性化を図るための措置等を講ずることとされ,現在,司法制度改革推進本部の下で具体的な検討が進められている。著作権法には,第105条以下に「あっせん」に関する規定があり,日本知的財産仲裁センターやWIPO仲裁・調停センターにおいても著作権に関する紛争を取り扱うこととされているが,これらの紛争解決手段の利用は少数に止まっており,今後とも,司法制度改革推進本部での検討状況を踏まえつつ,その活性化の在り方を検討することが必要である。

3. 司法制度改革推進本部における取組

   司法制度改革推進計画に従って、ADRの利用促進、裁判手続との連携強化のための基本的な枠組みを規定する法律案の策定に向けて、司法制度改革推進本部の下にある、学者、実務家、有識者等から成るADR検討会にて、平成14年2月に開催された第1回検討会から、これまで23回の会合を開催(平成15年10月24日現在)し、検討が行われている。   
   総合的なADRの制度基盤の整備に関し、これまでのADR検討会における検討状況を踏まえ、ADRに関する基本的な法制度を整備する場合に必要となる検討状況全般について、司法制度改革推進本部事務局が意見募集を行った(7月29日〜9月1日)中で、ADR検討会で「今後、更に検討を深めるべき論点」として整理された項目は以下の通りである。

○司法制度改革推進計画(抄)(平成14年3月19日)
(2) ADRに関する共通的な制度基盤の整備
   総合的なADRの制度基盤を整備する見地から、ADRの利用促進、裁判手続との連携強化のための基本的な枠組みを規定する法律案を提出することも含めて必要な方策を検討し、遅くとも平成16年3月までに、所要の措置を講ずる。

(1)    ADR検討会における検討事項

≪ADR検討会で行われている議論の主な論点≫
1.    基本的事項
   ADRに関する基本理念やADRの健全な発展のために国、地方、ADR機関等の各主体が担うべき役割といった、「ADRに関する施策の基本を明らかにする法制」の整備が必要ではないか。
   ADRの基本理念
   国の責務
   地方公共団体の責務
   ADR機関・担い手の役割
   国民の役割

2.    一般的事項
   ADRの公正性・信頼性を確保するために、「ADR機関やADRの担い手が遵守すべきルール(規律)を明らかにする法制」の整備が必要ではないか。
   ADR機関・主宰者等の努力義務
(公正な手続運営の確保、ADR機関に関する一般情報の提供等)
   ADR機関・主宰者等の義務
(ADRに係る業務に関し知りえた秘密の保持、主宰者に関する利害関係情報の開示等)

3.    特例的事項
   ADRが裁判と並ぶ紛争解決の場として十分機能しうるようにするため、「ADRの利用促進や裁判手続との連携促進に関する特例を設けるための法制」の整備が必要ではないか。
   ADRを利用した紛争解決における時効の中断
   ADRにおける和解に対する執行力の付与
   ADRを利用した場合の調停前置主義の不適用
   ADRの手続開始による訴訟手続の中止
   ADR(相談)主宰者、代理人としての専門家(隣接法律専門職種等)の活用
   特例の適用にあたり、ADR機関の適格性に関する要件についての事前確認制度

  (※)日本知的財産仲裁センターの意見
   本年9月8日に行われたADR検討会において、日本知的財産仲裁センターを含む4団体に対するヒアリングが行われた。その際に、日本知的財産仲裁センターが、総合的なADRの制度基盤の整備に関して主な論点のうち「国の責務」について以下のような意見を述べている。

アメリカやシンガポールのように調停前置を義務付けるなど、国の裁判所と民間のADR機関の連携を図るインフラ整備が必要である。
民間のADR機関や申立人・代理人に対する財政支援を行う必要がある。



(参考)
   ADRを利用した紛争解決における時効の中断

問題点

   現行民法では、長期間にわたり権利行使がされない場合には、債権者が一定の時効中断措置をとらなければ、時間の経過により権利が消滅するという時効制度を採用している。
   時効中断事由の一つであるr請求」について、訴えの提起による裁判上の請求等と当事者 間の交渉を通じた請求等を区分し、前者に対しては、最終解決に至らずに終了した場合を 除いて、時効中断の効力発生を認める一方、後者に対しては、前者の措置を取るまでの暫定的(6ヶ月間)な時効中断の効力しか認めていない。
   現行制度のもとでは、訴訟手続、仲裁手続、裁判所の調停を選択した場合には、それらの 手続の開始によって時効が中断するが、裁判所外のADR(仲裁を除く。)を選択した場合には、6ヶ月という暫定的な事項中断の効力しか認められないため、ADRでの話合い中に 事項が完成してしまうことをおそれ、ADRの利用を躊躇してしまうおそれがある。

   検討事項

   裁判所外のADRについて、時効の中断に関して民法の特例を設けることによって、時効 完成を懸念することなくADRによる紛争解決を試みることができるような環境を整えるべきではないか。

   ADRの手士開始による訴訟手続の中止

問題点

   裁判所の調停を利用する場合には、裁判所の決定によって、調停手続が終了するまで訴訟手続を中止することができることとされているが(民事調停規則第5条、家事審判規則第130条)、裁判所外のADRを利用する場合には、このような規定が設けられていない。
   そこで、裁判所外のADRを利用して和解交渉を行おうとする場合には、当事者は、1二重の手間を覚悟の上で訴訟手続と和解交渉を並行して進めるか、2時効中断の効力が消滅するのを覚悟の上でいったん訴えを取り下げて和解交渉を進めるか、のいずれかを選択しなければならない。

   検討事項

   裁判所外のADRと訴訟手続が並行するような場合において、訴訟手続を中止すること及び裁判所外のADRにおいて紛争解決を試みることについて当事者間に合意があることを前提に、裁判所の裁量によって、一定期間を上限として、訴訟手続を中止することができる枠組みを設けるべきではないか。



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