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参考資料2
弁護士報酬の敗訴者負担(今後の検討の参考資料)
※司法制度改革推進本部第19回司法アクセス検討会(H15.10.10)配付資料

    弁護士報酬を敗訴者負担とする根拠等に関する議論
     勝訴の見込みの方が高い事案ではアクセスを拡充する効果がある。
     弁護士への報酬は訴訟をする際に必要なものになっており,訴訟費用と同様に敗訴者負担とするのが公平である。
     不当な訴えの被告となった者のことを考えると,敗訴者負担とした方が公平である。
     敗訴した場合の費用負担のことを考えると提訴萎縮につながる。
     政策形成型訴訟が困難になるのは問題である。

  敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲及びその取扱いの在り方

  1    範囲の設定に当たっての考え方
   司法へのアクセスの拡充の観点から,提訴萎縮的効果が生じるかどうかを基準に考える。
   提訴萎縮的効果があるというだけではなく,それが重大であるかどうかを考慮する。
   当事者の属性で分ける。
   手続法上特則のあるもの(行政事件訴訟法,人事訴訟法,少額訴訟手続)について,その立法趣旨も視野に入れて考える。
   生活維持の必要があるものについて配慮する。
   当事者間の力の格差を考慮する。
   会社組織のように弁護士報酬を経費処理できるかどうかを考慮する。

  2    各論
    行政訴訟
     指定代理人制度があり,国民にとっては公権力行使の適法性を争う唯一の手段である。このあたりに政策的配慮をすべきかどうかということである。
     行政訴訟も細かく見ると類型がある。抗告訴訟には敗訴者負担を導入しなくてよいように思う。民衆訴訟は個人の利益を図るためでなく,行政の適法性を確保するための訴訟なので,敗訴者負担にすべきではないように思う。しかし,当事者訴訟は民事訴訟に近いので別に論じる余地があり,機関訴訟は国対自治体,或いは自治体間の訴訟なので,別に考える余地がある。
     行政訴訟を細かく類型分けをするのはどうかと思う。ひとくくりにして行政訴訟には敗訴者負担は導入しないということでよい。行政訴訟の中でも国対個人の訴訟は片面的敗訴者負担にすべきである。
     行政訴訟は行政の適法性を争う唯一の手段だから,萎縮的効果はない方がいいというのが敗訴者負担を適用しない理由ではないか。また,行政処分は争われない限り有効であり,行政庁が訴訟を起こして行政処分の有効性が認められる形にはなっていない,つまり,国民の側から訴訟を起こさざるを得ない形になっているので,現状どおりでよいと考える。
     行政が間違いをしないという前提ならともかく,間違いがある以上は片面的敗訴者負担にした方が社会が健全になる。
     行政訴訟に敗訴者負担を導入しないということになると,例えば大銀行が課税処分を争う場合も敗訴者負担にしないことになるが,それでもよいと考えるべきか。
     行政に対するチェックであるところに意味があり,誰が原告であってもよいと考える。
     抗告訴訟では勝訴しても経済的利益を得ることができず,敗訴者負担を導入しないと自分の弁護士費用だけが持ち出しになるが,それでもよいと考えるのか。
     行政訴訟は勝つかどうか分からずに起こしており,自分の弁護士費用を負担する覚悟で提訴していると言える。各自負担でよいと思う。

  労働関係訴訟
     未払賃金の請求訴訟では勝訴する例がかなりある。このような例で,原告が自分の弁護士報酬を負担しなければならないのは気の毒である。
     大企業なら未払額はすぐに分かることかもしれないが,中小企業では何時間働いたかを資料に残していないこともあり,そう簡単ではない。相手から回収できない場合もある。
     使用者と労働者の間の訴訟は敗訴者負担を導入しない典型例である。当事者間に力の差がある。
     強者対弱者という図式を拡大すると,個人間の訴訟でも所得のある人,財産のある人とない人との間の訴訟の取扱いに影響する。敗訴者負担を導入しない訴訟類型の設定に当たって貧富の差という考え方をするのはどうかと思う。
     実質的公平を確保するために労働法ができている。敗訴者負担制度は形式的公平に近い考え方と結びつきやすく,実質的公平を確保するために,労働の分野には敗訴者負担は導入しないという理由になるのではないか。
     敗訴者負担は経済的弱者に厳しい制度であり,今でも訴訟を起こしにくい労働の分野には導入すべきでなく,各自負担がよい。片面的敗訴者負担であればいいかもしれないが,ここまで片面的敗訴者負担を広げるのはいかがなものかという議論もあるので。
     提訴萎縮的効果が重大かどうかという点も考慮すべきである。生活維持に関わる訴訟分野では提訴萎縮的効果を伴う制度を導入するのは妥当でないということが導入しない根拠になるのではないか。
     使用者と組合との間の訴訟は組合がバーゲニング・パワーを持っているという前提なので,敗訴者負担を導入しない範囲にしなくても良い。
     少数組合が当事者になることもあり,使用者と組合の間の訴訟にも敗訴者負担を導入すべきでない。
     使用者対組合の訴訟は現状どおりという選択肢もあり得るのではないか。集団的労使紛争では労働委員会制度があるが,これは普通の紛争とは異なる特殊性があるからだろう。

  人事訴訟
     リソースの偏在のない個人間の訴訟なのだから,敗訴者負担としてもいいのではないか。
     離婚訴訟が多いが,訴訟の勝敗の見通しがつきにくいし,ドイツでは敗訴者負担にしていない。敗訴者負担にすべきでない。
     離婚では子供をどうするかという問題も出てくる。このあたりのことを考えると,公益という観点が敗訴者負担を導入しないことのメルクマールになるのではないか。
     離婚を念頭に考えると,勝ち負けと言うよりも紛争解決のための訴訟である。破綻主義が徹底しているわけではなく,裁判官の世界観も影響し,勝敗の見通しは立てにくい。少しでも萎縮効果がない方がよい。
     離婚と離縁を除けば客観的身分関係を確定する訴訟である。身分関係は当事者利益を超えたものを扱うということで説明することが可能ではないか。離婚の場合も,未成年の子供をどうするかという問題を伴うなら,当事者利益に還元でいないものを含んでいると言える。
     子供のいない夫婦の離婚の場合はどう説明するのか。そもそも,婚姻の場合は男女平等という前提があると思うが,それとの関係はどう考えるべきか。夫婦間に強者,弱者はあるのか。この分野では一方が弱者だからということは根拠にすべきでない気がする。離縁の場合,一方が離縁を要求し,他方がそれを拒んでいる場合は勝敗があるのではないか。
     身分関係という社会生活の基本単位に関わることで,真実発見の必要性が高いという観点から,人事訴訟はひとくくりにすることができるのかもしれない。

  人的損害を理由とする損害賠償請求
     公害訴訟は事業者対個人の訴訟である。裁判に勝てるかどうか分からないところで提訴している。敗訴者負担になると裁判にならないので,敗訴者負担を導入すべきでない。
     公害訴訟等の場合でも,勝つか負けるか分からないからというのは理由として十分ではない。訴えを提起する必要性,正当性といった事情が敗訴者負担を導入しない理由になると考えるべきではないか。
     勝つか負けるか分からないという理由を使うと,最高裁判例が出た後は勝敗の予測がつきやすくなるので,後発の訴訟を救うことはできない。生命・身体の被害は他の権利侵害よりも保護の必要性が高いから敗訴者負担にしない方がいいということになるのではないか。
     人身損害では完全な被害回復が必要である。弁護士報酬の敗訴者負担を導入しないと,弁護士への報酬分だけ減額されてしまい,問題である。勝てる事案について敗訴者負担でなくて良いのかと思う。
     公害訴訟や薬害訴訟でも,勝つ見込みの方が高ければ敗訴者負担が提訴促進につながることもあるのではないか。
     自動車保険では弁護士報酬をカバーしているものがある。弁護士が関与して解決することが社会的に承認されていることの表れだろう。だとすると,弁護士報酬を訴訟費用に近いものと考えて,敗訴者負担とすべきだろう。

  消費者関係訴訟
     消費者契約に関する訴訟に敗訴者負担を導入すると提訴萎縮につながるので,敗訴者負担にすべきでない。
     信販会社が立替え払いをして消費者に立替金を請求するという例で,被告である消費者が,詐欺にあったので支払いたくないと主張して勝訴した場合にも弁護士報酬を回収できないでいいのか。
     構造的な力の格差があるから敗訴者負担にしないということではないか。
     消費者と事業者の間には情報格差がある。
     情報格差を理由にするのは妥当でない。別の制度で対応できた場合には敗訴者負担にしてもいいことになる。消費者契約法の採用している考え方を参考に,社会的なリソースの違いが敗訴者負担を適用しない理由だと考えるべきである。

  少額訴訟
     少額訴訟は本来弁護士が関与することが予定されていないので,敗訴者負担の対象外とすべきである。勝敗の見通しが立てにくいとか個人間の訴訟だからという理由よりも,弁護士の関与が予定されていないという理由の方がいい。
     少額訴訟を敗訴者負担の対象外とする場合,実際に少額訴訟手続で審理されたもののみが対象外なのか,少額訴訟の要件を満たすもの全てを対象外とするのかという問題がある。被告の移行申述等により通常訴訟に移行した場合はどうなるのかも問題である。
     実際に少額訴訟手続で審理されたもののみが敗訴者負担の対象外と考えるべきである。通常訴訟の場合には差別化の理由がない。
     少額訴訟でも勝敗の見通しは立てにくいので敗訴者負担を導入すべきでない。

  国等が当事者となる訴訟(行政訴訟を除く)
     大企業と国の間の訴訟なら敗訴者負担でよいが,中小企業対国の場合は各自負担だろう。
     特に理由がない限り敗訴者負担でよい。
     国家賠償請求には敗訴者負担を適用すべきでない。

  その他
     行政訴訟など,一定の分野では片面的敗訴者負担制度の導入を検討すべきである。司法へのアクセスの拡充につながる。
     片面的敗訴者負担制度には合理性がない。公益的な訴訟だからというのが理由だとすると,勝訴当事者に,公益のために不利益の甘受を強いることになる。理由説明が難しい。
     片面的敗訴者負担制度は敗訴者負担制度の先にある話ではないか。後で考えるべき問題である。

    負担額の定め方
     客観的な基準で上限を画すべきである。その範囲内で裁判所の判断に委ねるのか,固定額にするのかは検討課題である。
     合理的で予測可能な,訴訟提起を抑止させない額の定め方という視点で考えるべきである。
     上限額を定め,その範囲内で裁判所が決めるという方法は予測可能性の点で問題がある。訴額又は認容額の一定割合という方法がよい。具体的な額としては,法律扶助協会の支出基準による着手金の額が参考になる。
     法律扶助協会の支出基準による着手金の額の上限は原則として22万円であり,このあたりを上限にするのがよいと思う。
     訴額を基準に負担額を決めるべきである。22万円程度を上限とすべきかどうかについてはさらに検討する必要がある。

    その他
     法律扶助のような例では,訴訟に勝った場合に弁護士報酬の一部を相手から取れるというのは大きな意味を持つ。
     弁護士報酬の敗訴者負担が入ると勝つ見込みのある事件に絞って扶助することになりかねない。

  制度設計上検討が必要と思われる点
  1    対象
   
    対象となる訴訟代理人等
     対象となる訴訟代理人の範囲
     対象となる訴訟代理人が弁護士だけではない場合,負担額の定め方
     訴訟代理人が複数いる場合
  対象となる手続
     民事訴訟以外の手続(執行・保全等)についてはどのように考えるのか
  本人訴訟の場合の取扱い
     本人訴訟をした当事者が敗訴した場合,相手方の訴訟代理人の報酬の取扱い
     本人訴訟をした当事者が勝訴した場合
  2    訴訟代理人の交替等
   
    訴訟代理人が交替した場合
  訴訟代理人の関与が一部である場合
     当初本人訴訟だったが,途中から訴訟代理人に委任された場合
     訴訟代理人が途中で辞任して本人訴訟になった場合
  3    共同訴訟,請求の併合等
   
    敗訴者負担が適用される請求とされない請求が併合されている場合
     原告が被告A,Bを訴え,これらの訴えが併合審理されているが,被告Aに対する請求には敗訴者負担が適用になり,被告Bに対する請求には敗訴者負担が適用にならない場合
     原告が被告に対して2つの請求をし,そのうち一方は敗訴者負担が適用になり,他方は敗訴者負担が適用にならない場合
     原告の被告に対する請求について複数の法律構成が可能であり,ある法律構成を採用した場合は敗訴者負担が適用され,別の法律構成を採用した場合は敗訴者負担が適用されない場合
  4    訴訟費用の負担に関する民事訴訟法の規定との関係
   
○    不必要な行為があった場合,訴訟を遅滞させた場合
一部敗訴の場合
共同訴訟の場合
  5    請求の認諾等
   
○    被告が請求を認諾した場合の取扱い
欠席裁判の場合の取扱い
  6    上訴
   
○    上訴審での負担額
上訴審での負担の判断


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