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文化審議会

2003年10月24日 議事録
文化審議会著作権分科会司法救済制度小委員会(第7回)議事要旨

第7回文化審議会著作権分科会司法救済制度小委員会議事要旨

日  時   平成15年10月24日(金)   10:30〜13:00
場  所 文部科学省分館201・202特別会議室
出席者 (委員)
   蘆立、大渕、久保田、後藤、潮見、橋元、細川、前田、松田、光主、三村、山口、山本、吉田の各委員、齊藤分科会長
(文化庁)
   森口長官官房審議官、吉川著作権課長、吉尾国際課長、川瀬著作物流通推進室長、俵著作権調査官ほか関係者


1.文化審議会著作権分科会(第10回)の概要について
2.司法制度改革推進本部における検討事項
            ・ 知的財産関連訴訟における侵害行為の立証の容易化の方策
弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い
裁判外紛争解決等の在り方



配付資料

    資料1     文化審議会著作権分科会司法救済制度小委員会(第6回)議事要旨(案)
  資料2   侵害行為の立証の容易化のための方策について
  資料3   弁護士報酬の敗訴者負担制度について
  資料4   裁判外紛争解決等の在り方
  資料5   司法制度改革推進計画(平成14年3月19日閣議決定   抄)
  資料6   司法制度改革推進本部   検討会メンバー
  資料7   文化審議会著作権分科会審議経過報告(平成15年1月)(抜粋)

    参考資料1     文化審議会著作権分科会各小委員会の検討状況について(PDF:927KB)
  参考資料2   弁護士報酬の敗訴者負担(今後の検討の参考資料)
  参考資料3   総合的なADR制度基盤の整備について


(主査より第10回文化審議会著作権分科会の概要を報告)

(知的財産関連訴訟における侵害行為の立証の容易化の方策について)
   実務上、現在の手続のどこが不都合なのかという話と、問題点をお話したい。最も問題になるのが、特許権侵害に係る事例や営業秘密が問題となる事例であり、後者の場合には、技術ノウハウの場合と顧客名簿等がそれに該当する場合が多い。
   文書提出命令については、まず損害額についての文書提出命令が認められ、その次に侵害態様についての文書提出命令ということになるが、前者の損害額についての文書については、実務上は、運用でうまくいっており、差し迫った制度改正の必要があるとまではいえない。
   なぜならば、損害の額についての審理を行う時は、まず侵害かどうかの審理をして、その後で損害の内容について審理する。場合によってはその間で中間判決を出すが、損害の額についての審理が必要だという段階では、既に権利侵害があったという心証を得た後であるので、その場合に人の権利を侵害しておきながら、その販売数量は営業秘密だととは運用上言わせない。
   また、提出命令によって提出された文書のうち個別の売掛先などの情報の開示については、訴訟代理人と保佐人、あるいは訴訟代理人から個別の委任を受けた公認会計士に実務上は限定している。
   したがって、実務上は文書開示を弁護士などに限定しているので、それに保持命令の担保ができればなお良いが、差し迫った必要性はない。
   やはり、一番問題になるのが特許侵害に係る事例や営業秘密が問題となる事例の場合で、相手方が違う手法で製造などを行っているという時、被告側が有する当該手法に係る情報を提出することには非常に障害がある。一般的な懸念としては、侵害していれば「儲けもの」という程度で原告の側にさしたる根拠はないのに提出させる事例や、被告側のノウハウを見るために提訴する場合のように、本来の訴訟の目的と違う、濫訴的な形の提起がされるおそれがある。
   ただ、著作権の場合には、中身がわからない著作物というものはプログラム著作物以外には考えられない。例えば、ビジネスソフトについてメーカーが原告もしくは被告になった場合などについて検討する必要があろう。中小メーカー同士で訴訟になる時はお互いさまというところがあるが、大手ビジネスソフト会社のような場合には、被告になって、相手方から何らかの文書提出命令により開示を求められることに懸念がある場合が多いだろう。もっともデッドコピーのように、必ずしも内容を見なくても侵害であるという心証を裁判所としてもとれる場合には、被告側も積極的に証拠を開示せざるを得ず、文書開示命令の必要性はあまりないのではないかと思う。
   やはり営業秘密が正当事由にならないということを一般的に書くのは、被告側の利益を考えるとちょっと難しいだろうと思うので、B案が良いと思う。インカメラに参加する人をどこまで限定するかということについては、弁護士や弁理士あるいは公認会計士に限定して、刑事罰というより、そういう業法の中で、資格の停止や懲戒事由などの方が担保にはなるのではないか。
   また、特許やノウハウの場合だと、弁護士や弁理士だけが見ても判断できないという場合が多く、会社の技術者に見せなければいけない場合があるという要望が強いが、逆に当事者に見せてしまうと、それはもう相手方の思うつぼということになり、とても被告側は容認できないということになってしまう。
   それから、著作権特有の問題として考えられることとしては、1つは、ビジネスソフトの訴訟において規模の小さい会社が原告となる場合には、原告である会社の代表者、社長が著作者自身であることが多く、原告本人を立ち合わせるということは著作者に見せてしまうということであり、大手のビジネスソフト会社なども含めて了解があればよいのだが、おそらく業界からは非常に強い抵抗があると思う。
   もう1つは、裁判所も弁護士も、ソースプログラムが出てきても、そのままでは比較はできないのだが、プログラムは、特許や技術ノウハウに比べるとやや汎用性があるので、全く関係のない第三者であっても、鑑定人や裁判所の専門委員など、ある一定の技術なり、プログラムがわかる人であれば判断できるという点が、特許侵害訴訟とは異なるだろう。

   秘密保持命令について、例えばプログラム著作権の場合、原告自身も自分のソースプログラムは本来的には公開したくない。ただ、原告の場合には、原告が持っているソースプログラムを被告が何らかの手段で持っていて、それを複製なり翻案したという主張をしているのだから、訴訟を提起する以前から被告は原告の情報を持っていることは、当然の前提である。したがって、被告に秘密を保持させることは、本来差止や仮処分で対応するべきなのであって、これを法廷に出せるかどうかを審理している段階で、秘密保持命令でこの結論を先取りするのは、本来的におかしい。一方で、被告側にとっては、訴訟以前で原告の知らない情報を開示するのだから、第三者に対してはもちろん、原告自身や原告の代理人ないし保佐人に対しても、秘密保持命令を出す理由がある。仮に原告の持っている情報に対し秘密保持命令を出せることにすると、秘密保持命令を出してもらうことで、仮処分よりももっと手っ取り早く、自分の請求を実現するためにという形で濫用的な形で使われることが懸念される。その辺は区別して実行する必要があるだろうと思う。

   非公開審理については、現在、非公開にすべき部分についてはできるだけ証人尋問や本人尋問を行わず、陳述書のやり取りや出張尋問をするなどの形で運用がされている。ただ、例えば被告の側が、その審理を公開するという形にこだわるような場合、そういう事案は今のところはあまりないが、そのような制度があれば実効性はある。ただ、著作権の場合にはプログラム著作物くらいしか対象にならないので、それについて証人尋問することはまずないし、鑑定を行う場合も、鑑定書でだいたい足りることが多いので、実際上非公開でないと審理ができないという場合はそれほどないと感じている。

   当方では、この件について関係団体に照会したところ、某大手ビジネスソフト会社からは反対されている。私の経験では、確かにインカメラについては、裁判官の方が実態がわかっていて、どこの部分をインカメラするかということが理解されればたぶん運用面で問題なくいくのだろうが、なかなかこちらの意図がわかってもらえず、実際には、見てみたが問題ないと言われてしまうと、何がどう問題なかったのか、どこを見てもらえたのか、良くわからないまま、訴訟が進行して負けてしまうということを経験したことがある。その辺については、裁判官のサポートをする人やプログラムの中身が理解できる人が関与すれば、機能してくるかと思う。

   それは、ソースベースの開示の問題か。

   ソースベースのものと、その仕組みというか、構造も一緒に見て欲しいと言った。

   まさに営業秘密それ自体が争われて、インカメラ手続をとるべきかどうか、ということになった件数はどの位あるのか。

   件数は最近は多少増えておりビジネスソフトやデータベースのプログラムについて、昔に比べると増えている。もちろん特許や営業秘密ほどではないが、東京地裁では、プログラムを出すか出さないかというような話になっているものが、現在3件ほど系属している。

   法廷の物理的な構造という面から、準備手続が良く利用されているが、準備手続は非公開であり、準備手続兼弁論だと、事実上はもう非公開になっているように思うがどうか。また、直接、営業秘密が問題になるのは、不競法上の営業秘密の方で技術ノウハウや顧客名簿のことが問題になるものであるが、司法制度推進本部では、知財関係の全ての法律に同一の条項を入れるという趣旨で話し合っているのか。

   司法制度改革推進本部では、不正競争防止法による保護も含めて知財訴訟全般について検討されている。今は、特許法、不正競争防止法の規定について審議をされているが、対象は知財訴訟全般なので、今後例えば商標や意匠、著作権侵害についても検討はされると思う。

   確かにほとんどの事件は、弁論準備手続ということで、小部屋でやっており、原則として傍聴は許さない形になっているので、会社の担当者の同席を許すという程度で行っている。したがって、スムーズに行われる事件については、弁論準備手続でそれぞれ書証なり準備書面を出していただき、それについて必要な部分については第三者との関係では閲覧制限をしている。どうしても必要な証人尋問などについてもできるだけ陳述書とそれに対する反駁などをしていただく形で、反対尋問がどうしても必要だというものについては、出張尋問で、代表尋問する。準備手続に付かどうかは、当事者の意見を聞いて決めるので形になっておりますので、ものによってはずっと弁論で回している事件もあり、準備手続があるからすべて担保ができるかというそうも言い切れない。

   実務上工夫すれば、現行の制度でやってゆけるということか。例えば反対がなければ、口頭弁論でやって弁論準備に付してしまい、実際上第三者に対しては開示しないとか、尋問もなるべく陳述書にし、鑑定書を使えばよい。

   実務上の工夫を相当加えれば、現行法の中でも、十分できるが、あくまで公開でやりたいという当事者がいた場合は難しいということか。

   非公開審理については当事者の協力をいただいて、ほとんど今のところ上手くやっている。ただ、第三者との関係での公開審理ではなく、被告側が対比のために自分の側のものも裁判所に見せて潔白を晴らしたいけれども、原告自身の目に触れるのは困るということについては、その部分については代理人に限るなど、いろいろな形でなだめたりして、何とか一部だけでも開示してもらうなどの説得を裁判所はしているが、原告に対して秘密保持が担保されない限り被告は出したくないというのは、今の状況でもある。

   当事者公開と、それから第三者公開というふうに分けるとすると、第三者公開の点ではおおむね運用を工夫することでいけるが、当事者公開というか、相手方に見せたくない、裁判所だけ見てくださいということになると、いろいろ工夫がされているとはいえ、一定の限界があるということか。

   そのとおり。当事者公開の場合も、原告の側の情報についてはもともと原告は被告がそういう情報を盗んだ、あるいは真似したという前提で訴訟を起こしているので、それは説得して出させる。しかし、被告の側は、原告のものとは違う独自のものだから出したくないということなので、部分的でも出してくれという説得が限度で、原告が知らない被告側の情報などを訴訟を通じて初めて原告が知ることについての抵抗というのは非常に強い。

   A案、B案ではどちらが良いか。

   B−2が良いのではないか。訴訟代理人プラス保佐人か、または、裁判所が補助者として付する専門委員や鑑定人の限度というB−2プラスB−3とか、その位が、現実ではないか。

   アメリカの訴訟にもまさしく同じような話があり、どのレベルで公開するかということは、裁判判事が決めるということになっている。1回経験したが、やはり、B−2の訴訟代理人がメインの当事者になる。外国と対比すると、日本は少し厳しいという感じがする。

   要するに、営業秘密の保護を確保するから、文書提出義務の範囲やインカメラ審理参加者を拡大をするということだと思うが、営業秘密の確保という点については、ここで確保しなくても、現行の不正競争防止法上の4号から9号で、正当な理由で開示された営業秘密を、後で不正開示、不正行使、それから不正使用すれば、現行法上も不正競争防止法上は違法になるし、差止や損害賠償の対象にもなる。刑事罰も導入されている。ただそれが実効性があるかどうかというところは問題がある。そのときに開示されたものを使ったのかどうかという判断は難しいから、ここで営業秘密のほうの確保を厳しくするよりも別の方法を考えたほうが実効性があるのかとも思う。保護の確保という点についてもうちょっと議論して欲しい。

   司法制度改革推進本部の中では、現行の不正競争防止法にゆだねるという案もあったようである。ただ、多分実効性の問題から、それだけでは不十分だという声があって、不正競争防止法の他に営業秘密の保護の確保というのを別途設けるべきだという意見を踏まえたものだと思う。

   実効性はあるのか。

   不正競争防止法上の保護は確かにあるが、やはり秘密を知るチャンスを与えること自体が嫌だということで、出してくれない。インカメラの文書提出命令についても、今は裁判所が見るだけだからということで、ある程度数字を出してくれてはいるが、これが訴訟代理人までならともかく、申立人などが入ったとき、スムーズに出てくるかどうか疑問である。強制力があるとはいえ、申し立てて提出命令といったとき、結局は被告の側が協力してくれなければ、実際はもうないとか、廃棄したとかいう話になってくるおそれがある。
   あまり理念的な意味で、インカメラに立ち会える人を拡大してしまうと、実務的には、そんな人には見せたくないから廃棄したことにしようとか、そういう形でやたらとトラブルが増えるだけになる可能性はある。
   実効性があるのかという点については、弁護士、会計士など、士業の人に限って、弁護士法なり公認会計士法などで、資格や懲戒の関係で担保をするというのが一番実効性があるだろうとは思う。


(弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて)
   一般的な著作権事件の場合にはだいたいは法人対法人なので、資料3にあげられている訴訟類型には該当しないと思う。敗訴者負担にしてもよいし、多少負担させてもいい。ただ、原告も法人なので、原告の側にとって弁護士費用の負担から訴訟が起こしにくいという議論はとりにくい。特許権侵害訴訟とか著作権侵害訴訟の場合には、一般的に弁護士費用について、多少厚めにしているつもりなので、一般的に敗訴者負担とされるのは嫌だという弁護士の意見があるかもしれない。
   また、類型的にはやはり企業対個人の場合、例えば、ネット上で大学生などがファイル交換しているというものについて、弁護士費用まで負担させるという形になると、社会的には、問題視する声も出てくるだろうし、JASRACの訴訟など、個人の飲食店のようなものに対し、業務として裁判を行っているものについて、訴訟費用まで相手に負担させるということになると、相手方の業界の方から反対があるかもしれない。
   それから、個人対個人の場合の著作権侵害の場合については、やはり近隣訴訟に近いようなものもあるので、弁護士費用の敗訴者負担までするのはどうかなという議論はあるだろう。

   類型的な観点ということを考えると、個人か企業かとか、管理事業者かという、そういう観点とはまた別に、例えば名誉毀損のような萎縮効果が働いても構わないような類型のものと、権利者が独占的な権利を持っている範囲と自由に使えるべきである範囲とがはっきり分かれるべきであって、どちらか一方に萎縮効果が働くべきではないというような類型があると思う。著作権侵害の場合には、どちらかに偏るべきではなく、原告の訴訟費用は被告に負担させるというような一方的な形は望ましくないだろう。
   そういう意味からいうと、原告も被告も同じ基準で、訴訟費用を負担するべきだと思う。アメリカの最高裁の判決で、従来著作権訴訟の場合に、原告が勝った場合だけ弁護士報酬を与えるという裁判所と、どちらが勝っても弁護士報酬を与えるという裁判所が分かれていたが、最高裁で、対等に与えるべきだというような判決が出ている。類型としての分け方として、個人か企業かというのではなく、訴訟物の違いで分ける方法もあると思う。

   ここは著作権の審議会なので著作権の枠内で議論しているわけで、例えば個人対個人だからという類型はもっと横断的に議論する話で、著作権固有の類型というものはないのではないか。それから、推進計画は、一応原則は敗訴者負担で、不当に訴えの提起を萎縮させないような一部の類型について、ここから外すという前提で考えてよいのか。

   そういう前提であったが、議論の過程で、導入するべきでないという意見が増えてくるということもあり得る。推進本部の方でも、今の段階ではどちらが原則とは言えないようである。

   そういう観点から見ると、弱者が強者に対して挑むという類型や、国に対して挑む類型など救済を求めるのを萎縮させてはいけないという類型がここに挙がっているように見える。著作権については弱者が強者に挑むとか、国に対して挑むという感じではあまりない。したがって、類型として言えば、事業者対個人という類型が中心になるように思う。
   また、これまでの法定賠償制度などの議論の中で、ネットに関する侵害については、細かい訴訟を1件1件起こしても、結局損害額を回収できないので、やっても実効性がないという話だった。このようなものについても、敗訴者負担で賠償額を上げて実効性を高めるというのもまた1つの可能性ではないか。

   司法制度改革推進本部の審議というものをどこまで前提にして議論すべきなのか。資料3の1の記載によると、基本的に敗訴者負担というものは入れない、一定の要件が備わったところについてのみ、弁護士費用の敗訴者負担制度を認める。したがって、認めるべき積極的な理由がある場合は、認めるべき場合であることをこちらのほうで言わなければいけない。つまり、こういう著作権侵害が問題になっているような局面で、敗訴者負担というものをこういう理由で、こういう要件のもとで入れる必要があると言わなければならないという趣旨に読める。
   ところが資料3の3の方だと、原則として敗訴者負担を導入するが、不当に訴えの提起を萎縮させないため、例外的にそういうものを入れてはいけない場合について、敗訴者負担制度は、採用しないという風に読める。
   例えば著作権の侵害が問題になる局面でも、どちらのスタンスをとるかによってかなり、こういう具合に著作権侵害で敗訴者負担を入れるべきだ、入れるべきでないという議論の仕方自体が変わってくるのではないか。
   それで、もしそういう基本的な視点自体もここで議論して、向こうのほうに提言できてしかるべきだということなら、それに沿って議論すべきだろうし、もうこれに乗った形でやるしかないということなら、そのように対応すべきであろう。少なくとも司法制度改革推進本部のほうでいったいどういうふうな基本的な方向性を持ってこの問題を取り上げているのかということをあらかじめ確認した上で、議論の仕方を考えたほうが良いのではないか。

   著作権侵害訴訟についてそれを導入しないという事情があるかどうかということをご議論いただければと思う。

   弁護士会全体としては、そもそも敗訴者負担の制度に反対している。ただ、日弁連の知的所有権委員会では、まだ結論は出ていないところである。
   この類型1から7を見ると、確かに大雑把に言うと弱者対強者、個人が大きい組織を訴えるという類型が挙げられている。著作権事件について個人が絡む訴訟がどの程度あるのか知りたい。

   訴訟の類型に限らず、一定の要件については、例えば事業者対個人のものについては除外するとか、訴額についてどうするか、という枠組みで検討すべきなのではないか。

   JASRACはほとんどのケースが団体対個人という形になるわけであるが、これまでJASRACは、全国的な管理を始めるということで、管理率をできるだけ早期に引き上げていかなければ公平性が確保できないという観点から、金額的な面からだけでいくと割に合わない形で、費用が膨大にかかるということは覚悟の上でやってきた。
   しかしながら、管理率がかなり上がった近時においては、他の利用者への波及効果もなくなっていることから、ある個別の店舗だけの侵害を止める、あるいは損害賠償を求めるということになっている。カラオケの使用料というのは、それほど高いわけではないので、弁護士費用が上回ってしまうというケースも増えてきた。だからといって、無許諾使用を認知しているのに、そのまま期間を長く待っておいて、損害額を増やしてから訴訟するのも本末転倒であるので、それもできない。
   このような状況において団体であるJASRACが強者であるのかというのは必ずしも解らないのであって、団体対個人という類型に敗訴者負担はなじまないのではないかというのは、一般的な感覚としては解るが、こういう事例があるということもご理解いただきたい。
   また、個人の方がJASRACを訴えているケースがあり、個人の方は本人訴訟で提起をされているので、訴訟費用はかかっていないが、被告となったJASRACは弁護士を立てているので、弁護士費用を払わざるを得ないという状況もある。

   芸団協は、放送に係る二次使用料や貸レコード使用料についての指定団体であるが、指定団体は、著作権法第95条第7項により、その「権利者のために自己の名をもってその権利に関する裁判上又は裁判外の行為を行う権限を有する」こととされており、権利者は芸団協を通してのみしか訴訟ができないこととされている。このような団体が業務として権利者から手数料をもらって、放送局や貸レコード業者を訴えるときに、指定団体がどんどん勝訴して侵害者に弁護士の費用を負担させるということがこの制度の目的とのどういうふうに合ってくるのか。

   まだ議題のうち2つしか終わっていないが、これらのテーマについては、この審議会外で膨大な議論が実は行われているものであり、ここでもできるだけ議論をしておくべきだろうから、ADRについては次回、議論を行いたいと思う。

以上


(文化庁長官官房著作権課)

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