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資料  5

平成14年9月12日

技術的保護手段の回避等に係る違法対象行為の見直しについて

高杉  健二

【問題の所在】
著作権者等が著作権等を侵害する行為の防止又は抑止を目的として著作物等に施す技術的保護手段について、これを回避する方法が書籍、雑誌及びインターネット等により多数公表されており、著作権等の保護の実効性が著しく損なわれている。

【提案の趣旨】
著作権法120条の2、1号は『技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とする装置』若しくは『技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とするプログラムの複製物』を公衆に譲渡等した者を一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する旨定めるが、『技術的保護手段の回避を助長することを専らの目的とする情報』を公衆に提供する行為も対象とするよう同条を改正する必要がある。

【提案の理由】
  1. 技術的保護手段の回避行為を刑事罰の対象として規制する趣旨は、「回避装置等の公衆譲渡等によって著作権等の侵害のおそれが広く生じる事態が発生することを事前に防止する」(加戸守行著「著作権法逐条講義三訂新版」669〜670頁)ことにあるが、権利侵害の準備的行為には、装置及びプログラムの複製物の公衆への提供だけでなく、技術的保護手段の具体的な回避方法を公衆に提供するような行為も存在する。
  2. WCT11条及びWPPT18条は、締約国に「技術的手段の回避を防ぐための適当な法的保護及び効果的な法的救済について定める」義務を課しているが、法的保護及び法的救済の具体的な内容については各国の裁量に委ねられており、英国のように回避装置等の規制の他、「ある者がその複製防止の形式を回避することを可能とし、又は援助することを意図される情報を公表すること」(296条(2)(b)、大山幸房訳「外国著作権法令集(9)−英国編−」)を禁止する国もある。
  3. このように「情報を公表する行為」を規制することについては、表現の自由との関係で議論のあるところであるが、少なくとも「一定の違法性のある情報を公表する行為」を刑事罰の対象とすることは、日本法においても稀なことではない。例えば、信用毀損及び業務妨害罪(刑法233条)では「虚偽の風説を流布する行為」、競売入札妨害罪(同法96条の3)では「虚偽のうわさを流すなどして落札価格を下げようとする行為」が刑事罰の対象となっている。また、「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」4条では、不正アクセス行為を助長する行為の禁止として、アクセス制御機能に係る他人の識別符号の提供行為を禁止しているが、「与えられた情報から容易に識別符号を特定できる相手に当該情報を提供する場合、又は誰もが容易に識別符号を特定することができるような情報を提供する場合には、同様に本条に違反する」(不正アクセス対策法制研究会編著「逐条不正アクセス行為の禁止等に関する法律」91頁)ものとして30万円以下の罰金に処することとされている(同法第9条)。
  4. そして、『技術的保護手段の回避を助長することを専らの目的とする情報』が公衆に提供された場合、当該情報の提供を受けた者が、当該情報に基づき技術的保護手段の回避を行なうことによって複製する行為は民事上違法であり(著作権法30条1項2号は、回避専用装置等を用いた回避によるかどうかを問わない)、このような違法複製行為を惹起させた情報の提供者も共同不法行為者として民事上の責任を問われる可能性があると考えられる。
  5. 次に、上記の場合における刑事責任について、まず実際の複製行為を行なった者は、「私的使用のために行う各々の複製行為に、刑事罰を科すほどの違法性があるとまではいえないことから、改正法は、公衆用自動複製機器を用いて行う複製の場合と同様に、行為者を刑事罰を科す対象から除外することとした(第119条第1号括弧書きの適用)」(文化庁長官官房著作権課内著作権法令研究会・通商産業省知的財産政策室編「著作権法不正競争防止法改正解説」95頁)が、他方、回避専用装置等の提供者は、「このような回避専用装置や回避専用プログラムは、1台(1本)でも(技術的保護手段によって防がれるはずの)権利侵害行為を際限なく可能にしてしまうものであり、まして広く社会に出回れば、著作権等の実効性を著しく損なうことになる」(「前掲改正解説」96頁)ため刑事罰の対象とされている。しかし、広く社会に出回ることにより著作権等の実効性を著しく損なうこととなるのは、『回避専用装置等』だけでなく『専ら回避させることを目的とした情報』も同様である。
  6. 従って、『技術的保護手段の回避を助長することを専らの目的とする情報を公衆に提供する行為』も刑事罰の対象とすべきと考える(不正競争防止法において、営業上用いられている技術的制限手段を無効化する機器等の譲渡等から技術的制限手段の試験又は研究のために用いられる機器等の譲渡等を除外している(11条1項7号)ように、著作権等の実効性を損なうおそれがないと客観的に認められる情報を提供する行為は対象外する)。

以上


平成14年9月12日

規制すべき情報(表現)例(提案)

回避専用プログラム
プログラムも表現である(著作権法2条1項10の2)。
プログラムを公衆送信し、若しくは送信可能化することは規制済み(著作権法120条の2、1号)。
「オブジェクト・プログラム」及び「ソース・プログラム」も著作権法上のプログラムに含まれる(加戸守行著「著作権法逐条講義三訂新版」44頁)から、「オブジェクト・プログラム」及び「ソース・プログラム」を公衆送信等することも規制済み。
「オブジェクト・プログラム」及び「ソース・プログラム」を含む情報を公衆に提供する行為(書籍等による頒布、公衆送信など)も現行法で規制対象となっていると解される。
 
技術的保護手段の回避を助長することを専らの目的とする情報(プログラムを含まないもの)
真正品の購入者のみに開示された識別符号(シリアルナンバー)を公衆に提供する行為
当該情報に記載された手順に従うことによって誰もが技術的保護手段の回避を行うことが可能な情報を公衆に提供する行為

(規制の必要性)
1上記のような情報提供行為は当該情報のみで著作権等侵害行為の実行を可能とするものであり、著作権等侵害を助長する危険性が高い。
2上記のような情報の提供を受けた者が、著作権等侵害行為の実行を思いとどまることは期待しがたく、実行行為に至る可能性が高い(例えば、爆弾の製造方法に関する情報の提供を受けた者は、犯罪行為であるとの規範意識により、その情報に従って必要な材料をそろえ爆弾製造を行うことは殆ど考えられない)。
3著作権等侵害行為者は刑事罰の対象外となっているため(著作権法119条1号括弧書き)、提供行為を規制する必要がある。

以上

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