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文化審議会

2002/09/12議事録
文化審議会著作権分科会司法救済制度小委員会(第4回)議事要旨

文化審議会著作権分科会司法救済制度小委員会
(第4回)議事要旨

日時 平成14年9月12日(木)10時30分〜13時
     
場所 文部科学省分館201、202特別会議室
     
出席者 (委員)
久保田、後藤、潮見、高杉、道垣内、橋元、細川、前田、松田、山口、山本の各委員
(説明者)
(社)日本経済団体連合会  光主幹事
(文化庁)
丸山長官官房審議官、岡本著作権課長、吉尾国際課長、尾崎著作物流通推進室室長、堀野著作権調査官ほか関係者
     
配付資料  
     
  資料1 文化審議会著作権分科会司法救済制度小委員会(第3回)議事要旨
  資料2−1 著作権法と他の知的財産権法及び民事訴訟法における損害賠償規定の対比
  資料2−2 参照条文
  資料3 新たな損害額算定ルールの導入について
  資料4 積極否認の特則の導入について
  資料5 技術的保護手段の回避等に係る違法対象行為の見直しについて(高杉委員説明資料)
  資料6 シリアルナンバー等の流布の規制について(久保田委員説明資料)
  資料7 コピーコントロール技術等について(光主氏説明資料)
     
概要  
(1) 新たな損害額算定ルールの導入及び積極否認の特則の導入について
事務局から「新たな損害額認定のルールの導入」及び「積極否認の特則の導入」について説明が行われた。その後以下のような意見交換が行われた。
(以下委員○、事務局△)

  (新たな損害額認定のルールの導入について)

○   :逸失利益とは、通常、純利益で計算するのか。

:逸失利益の計算方法については、限界利益なのか平均利益なのかという論点と、純利益なのか粗利益なのかという論点と2つある。特許については限界利益を損害として認定することが多いのではないか。限界利益でも純利益と粗利益と二つある。条文上は決まっていないが裁判実務上は純利益説と粗利益説と両方ある。

:著作権法に「譲渡数量」に「単位当たり利益」を乗じる規定を導入する場合、逸失利益の請求という考え方は変えないのか。懲罰的賠償と逸失利益の請求との中間に立つ機能は作れないのか。また、損害額を減額する事情という要件の部分だけ販売を実施する者だけを対象とするのか。特許のように「譲渡」という形態に限定するのか。

:特許法等工業所有権と同様の制度を導入してはどうかという趣旨であり、逸失利益を超える請求を認めるという趣旨ではない。

:著作権法が先行して逸失利益をこえて他の考え方を導入することは可能なのか。

:前回議論した3倍賠償のような逸失利益を超える損害賠償制度は、引き続き検討すべき課題であるが、侵害は日々起きているので今すぐに実現できることから着手することも必要である。

:特許と著作権では違う。著作権の場合は個数を考えるのが難しいケースもある。放送権やネット上での送信権の侵害の場合に、「利益かける個数」と言った場合、利益はライセンス料になり、個数は放送回数等になるが、それを乗じると114条2項で普通にライセンス料を計算した場合と同じ結果になる。高いライセンス料を主張することも考えられるが、そうすると懲罰的になって日本の法体系上問題がある。

:利益の考え方についての裁判実務では、売上げからコストと、一般管理費を引いて、利益だという算定方法だけでなく、失われた市場の価値はいくらかという算定方法も少し出てきている。

:実費主義とか実損主義にそれほどこだわるべきか。損害のてん補だけでなく、侵害の抑止ということも考えても良いのではないか。

:今は逸失利益の新しい計算方法を検討しているのであり、限界利益説をとるのか、純利益で捉えるのか、という問題は別の問題である。損害の算定方法において、「侵害がなければ権利者が販売できた個数」がわからないのが現時点の問題であり、具体的なアプローチとして立証責任を被告側に設けるというのが特許法102条1項の方法である。だから、今議論しているのは「数量」の問題である。また、譲渡の場合だけでなく、ネット配信の場合等もあるので「譲渡」の部分を、「譲渡又は公衆への提供」などの表現にすることも考えられる。

:特許法では明らかに譲渡と書いてあるが、著作権法では譲渡という範囲内では狭すぎる。

:譲渡以外の行為についても包括的に規定できればその方が良いが、その場合、譲渡に近いダウンロード型の譲渡だけでなく、送信可能化も含まれることになる。送信可能化の場合は数量を計ることは困難であるが、そういう行為を切り分ける困難さから検討に時間を要するということであれば今回は譲渡だけに限定しても良いのではないか。

:無形複製は数量の概念が特定できないから難しいということで継続的な検討課題になってきた。これについては別の面からの手当てに待つことにして、今は複製物による侵害が著しいので、この点に絞って制度化してもよいのではないか。また、著作権においては、権利者が自ら実施せずライセンスのみという形をとっていることも多いので、不実施者を対象にしても良いのではないか。

:権利者側が単位あたりの利益を得ている場合であれば適用できる書き方であれば良いのではないか。

:「公衆への提供」あるいは「公衆の使用に供し」という概念を使えば、少なくともインターネット配信については適用できるのではないか。特許法102条1項のような規定が実際役に立つのは販売する人が権利者である場合であり、ライセンスだけしている権利者は現行法の114条2項を適用すればよいので新しい規定を適用する必要はない。

:単位あたりに利益を得ているという場合に広く適用できる条文になればそれに越したことはない。また、実施能力が全く認められない者にまでこの規定の適用を認めるのはおかしい。

:「譲渡」という言葉について、特許法の文言上は「譲渡」なのだが、立法者の意図は特許という形態のみに使われるのではなく、貸し渡しなど別の利用形態についても使えるという前提で立法している。また、特許法上は「譲渡」にインターネット送信による譲渡も含んでいるが、著作権法上同様の整理になるかどうかは、立法技術の問題としては検討が必要と考えている。

:参考までに用語の整理をすると、著作権法上定められている利用行為の中にはまず「複製」があり、次に「二次的著作物に関する行為」があるが、これらを除くと、公衆への伝達について「提供」と「提示」がある。「提供」とは有体物の占有が移転する場合であり、具体的には、譲渡、貸与、頒布である。「提示」というのはそれ以外の無形的な伝達形態であるが、権利が及ばない行為についても、著作権法の中では「提供」、「提示」と言っている部分がある。さらにこれらをまとめて「公衆の使用に供す」という言い方がある。

:送信可能化権は可能化においた状態で本当に侵害が生じているのかという問題があることに留意する必要がある。

:本日の議論で概ね論点は網羅された感じであり、特許法102条1項と同様の範囲で新しい規定を積極的に導入するということについては共通の理解が得られたのではないか。その場合に、特許法は実施概念であるが、著作権法は支分権で規定しているという違いがあり、譲渡という言葉だけで良いかどうかはよく考えるべきである。

  (積極否認の特則の導入について)

○   :コンピュータプログラムについてはパッケージで販売されているものについては侵害品を入手出来るのだが、地方自治体向けの専用ソフトのようなものは調べてみたいが侵害品を手に入れることが難しい。その場合、所有者に見せてもらえれば良いのだが、そこで一時的蓄積を伴うという懸念もあり、結局中身を見られずに、推測で訴訟を展開しなくてはならない状況がある。また、プログラムが翻案されたような場合は、そのプログラムの解析が難しい。裁判官もコンピュータについて詳しいわけではない。

:積極否認の特則は必要だと思う。ソフトウェアのパッケージ商品は入手できてもソースコードの比較をする必要が生じた時に必ずしも逆コンパイルが出来るとは限らない。但書については、ソースコードについては企業秘密であることも少なくないので、訴訟が起きた時に常に出せというのは不適切なので、設けておくことが必要である。著作権法特有の問題として依拠性の問題がある。侵害者が依拠していないという時に自らの創作過程を積極否認で求める場合もあるかと思う。

:侵害物件の隠しコードや権利者が特に編み出した秘密を積極的に出してもらうということも考えられる。

:積極否認の特則の導入には全く賛成である。訴訟をやっていると、相手方のソースプログラムがわからない場合や入手も出来ない場合もある。相手が企業秘密だということで、出さなければ裁判官にインカメラで見てもらうことが必要であるが、インカメラの手続に乗るためにもこの規定が必要である。

:インカメラは日本でもやっているのか。裁判の公開との問題で難しいと聞く。

:プログラムのソースコードでは経験がないが、証拠として帳簿を提出してもらう時に、全体を裁判官に見てもらってマスキングをしてもらう時にインカメラを使った。

:但書の判断はインカメラでなされることになるのか。

:著作権法114条の2の2項で、既にインカメラ手続は導入されている。

:日本でもインカメラ手続を行っている事例は聞いたことがある。調べてみる。書類等の中に営業秘密の部分とそうでない部分があるときは、インカメラで確認して営業秘密ではない部分を提出させるということは行われているのではないか。

(2) 技術的保護手段の回避等に係る違法対象行為の見直しについて
  「技術的保護手段の回避等に係る違法対象行為の見直し」について事務局から説明が行われた後、高杉委員、久保田委員より説明があり、その後経団連産業技術委員会知的財産問題部会の光主幹事から「コピーコントロール技術等について」説明があった後、以下のような意見交換が行われた。
(以下委員○、事務局△)

△   :技術的保護手段に関する条約・国内法を作る時には、権利の存在をベースとした無断でコピーされないという複製権があり、それを担保するために、施しているコピーコントロールを外す行為を違法にしている。WOWOWのように暗号化されているものを解読して見てしまうということは、今の条約でも国内法でも対象になっていない。「見る」ということに権利を及ぼすべきかどうかという問題であり、これについては、法制問題小委員会で検討している。ここではコピーコントロールとの関係で「ノウハウを流布する」ということはどうなのかということを検討していただきたい。

:ノウハウという位置付けで検討するのは適当でない。シリアルナンバーの情報の提供は回避ではないので技術的保護手段の回避に該当しない。また、情報を提供しているというのは回避を助長する行為であり、教唆・幇助の問題として位置付けた方が良いのではないか。

:技術的保護手段の「回避」とは、「信号の除去又は改変」を意味するので、シリアルナンバーの情報の提供のようなものは、これに当たらないと思われる。

:刑法や不正競争防止法において情報提供が侵害となる場合には、情報そのものに不法性あるいは虚偽性がある。今回の提案は不法性や虚偽性の無い情報提供を違法とすることになるので、他の条件とのバランスの問題がある。

:バランスは大切である。爆弾やピストルの作り方の本など出版を差し止められない状況で、著作権だけ規制することには慎重であるべきだと思う。回避の助長は違法だということになると、技術者の間でのまともな情報交換も出来なくなってしまう。

:権利の保護が危うくなっているから、しかも侵害のおそれが具体化しているからこの行為を禁止するという説明ができなければ難しい。また、具体的にこういう情報提供は権利侵害だと、定型的なものをいくつかあげて、整理する必要があるのではないか。

:コンテンツと機器にそれぞれプロテクションを施しておかないと効果的なプロテクションが出来ないと言う事だが、ノウハウの提供を規制すると、どのような技術の議論が出来なくなるのか。

:DVDのように、ある程度高い技術レベルでプロテクションをしておいて、それを乗り越えるものは悪いという制度設計をすべきであり、容易にノウハウが提供できるような技術を前提に制度を設けるべきではない。

:ほとんど迂回ができないような技術水準を著作権法上の技術は保護手段に要求する必要があるのだろうか。これからは一般の人もインターネットを通じて保護回避の情報を簡単に得ることができる。保護のハードルを高くしすぎるのはどうかと思う。

:技術的保護のハードルが高い低いのということと、ハードルを越えても良いかいけないかの規範の在り方とは別の問題ではないか。

:利用者の立場からすれば現在のCCCDの場合、パソコンなどプロテクションに反応しない機器があることを考えると、情報提供を広く規制してよいのか。やはり、媒体と機器とコンテンツ製作者との間できちんと合意してプロテクションを施した上で、それを回避した場合は違法ということにすべきであり、期せずして回避できてしまった情報を提供したら侵害だということになっては困るのではないか。


6  閉会
  事務局から今後の日程について説明があった後、閉会になった。


(文化庁長官官房著作権課)

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