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資料5-2


著作権分科会報告用レジュメ2

駒田泰土(こまだやすと:群馬大学)


1.国際裁判管轄問題に関する国際的な動向

▼ハーグ国際私法会議は、条約案中の管轄規定を当初の案よりぐっと減らしている。知的財産権に関する特別な動きはないと聞いている。

▼米国法律協会がしびれを切らして知的財産権に特化した条約案(仮にALI提案1)を作成。ALI提案は、1999年に作成・公表されたハーグ条約案をもとに、修正・追加を行ったもの。この条約は、管轄権が認められる複数の法廷地の組み合わせを定め、あとは広い意味での訴訟併合に関する詳細な規定で調整するというアプローチをとる。また、侵害訴訟についての特別規定、ISPのために特別の配慮を行った規定など、随所に興味深い規整が。

2.権利所在地管轄

知的財産権に関しては、しばしば「権利所在地管轄」が主張される。平成15年審議経過報告でも侵害訴訟の枠組みでこの管轄原因が特掲されているし(39頁)、その専属管轄化を主張する声も経済界にあるようである。また、円谷プロ事件最高裁判決は、日本における著作権に関する請求について、財産所在地としてのわが国に管轄を認めている。

しかし、その存在が物理的に考えられない「権利」について、その所在地とは結局どこのことなのだろうか?権利所在地=準拠法所属国だろうか(並行原則?)。そうだとすれば、結局、法廷地抵触法(もしくはベルヌ条約)によって、この管轄の有無が決まるのか。

目下のところ、わが国の判例は専属管轄化には背を向けており、また著作権について専属管轄化を本気で主張している人も少ないように思われる(工業所有権のように行政行為を介した権利付与の有効性が問題とならないことも、この傾向を強めている)。

しかし、「準拠法国である」というだけで管轄を肯定するのは――どのような準拠法政策をとるかにもよるが――とくにインターネットとの関係では過剰管轄となる可能性があり、慎重な検討を要するように思う。もっとも、現行の国際民事訴訟法の枠組みにおいては、いわゆる「特段の事情」2 によって過剰管轄を調整しうるが。

3.不法行為地管轄

インターネット上の活動では、加害行為地や損害発生地が明確でないため、加害者のforesee- abilityを確保するためにどうしたらよいか3ということが主な論点になっているようである。⇒▼Disclaimerについての議論

▼近時、米国判例において生成中のsliding scale理論や効果理論が参考になるのでは?

Sliding scale理論は、侵害等に供されたウェブサイトを三つの類型に分類する。
1明確にinteractiveなウェブサイト(それを通して法廷地で明らかにビジネスを行っていると評価されるサイト。故意かつ反復的なコンピュータ・ファイルの送信を内容とする契約を法廷地住民と締結している場合に匹敵するような状況。)⇒人的管轄権(personal jurisdiction)肯定。
2passiveなウェブサイト(法廷地に居住するインターネット・ユーザがアクセスしうる情報を単に搭載しているにすぎないサイト。)⇒人的管轄権否定。
3interactiveなウェブサイト(12の中間に位置するサイト。)⇒この類型に属するもののうち、それを用いて被告が法廷地において「意図的な活動(deliberate action)」を行ったと評価できる場合に、人的管轄権が肯定される。

効果理論
被告の故意に基づく不法行為が明白に法廷地を狙ったものであり、それが法廷地において原告に損害を与え、かつ被告は当該損害が発生するであろうことを知っていた場合に、人的管轄権が肯定されるとする理論。

▼損害発生地管轄の制限も論点のひとつ⇒もっぱら損害発生地であることを理由に訴訟が提起された場合に国内で生じた損害に関する請求についてだけ管轄を認めるべきか。例:ハーグ条約案(2001年案)10条5項(ただし、損害発生地が被害者の常居所地である場合は別)。現行のわが国際民事訴訟法において、このような管轄制限を導けるかは不明4






1 ALI提案については、伊藤敬也氏が詳細な紹介を行っている。同「インターネットにおける知的財産権侵害とアメリカ法律協会による条約提案」木棚照一編『国際知的財産侵害訴訟の基礎理論』[経済産業調査会・2003年]391頁以下。
2 最判平9・11・11民集51巻10号4055頁。
3 ハーグ国際私法会議の2001年条約案10条3項は、たとえ加害行為地・損害発生地といえども、その国で活動すること又はその国に向けて活動することを避ける合理的な手段をとっていた場合には管轄を認めないことを規定している。
4 道垣内教授は、「日本では、損害発生地のひとつとして管轄を持つのであれば、他の国で生じた損害についても、客観的併合による管轄が認められることになるものと思われる」としている。同「サイバースペースと国際私法」ジュリ1117号66頁注20(1997年)。


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