第5節 魅力ある高等学校づくりと中高一貫教育

1.高等学校教育の個性化・多様化を進めるために

(1)高等学校教育の現状について

 新制高等学校発足当初(昭和23年)42パーセントであった高等学校進学率が,平成18年度には97パーセントを超え,高等学校はほとんどの子どもたちが通う教育機関となっています(図表2-2-25)。高等学校進学率の上昇に伴い,生徒の能力・適性,興味・関心,進路などが多様化しており,生徒一人一人の個性を伸ばす高等学校教育が求められています。
 その一方で,高等学校の生徒数は平成元年の約560万人から約360万人に減少しており,高等学校の適正配置・適正規模の在り方が課題となっています(図表2-2-26)。

図表●2-2-25 高校への進学率と生徒数の推移

図表●2-2-26 高校の1校当たり生徒数(推移)

 このため,各都道府県では,高等学校の適正配置・適正規模に留意しつつ,生徒一人一人の個性を伸ばし,知・徳・体の調和のとれた充実した高等学校教育を実現するため,各学校においてそれぞれの特色を生かし創意工夫に富んだ魅力ある学校づくりを進められています。

(2)特色ある高等学校づくりの推進

 文部科学省は,生徒一人一人の個性を伸ばす特色ある高等学校づくりが可能となるよう,中高一貫教育,総合学科や単位制高等学校をはじめとする新しいタイプの高等学校や特色ある学科・コースの設置などを推進するとともに,自校以外での学修成果の単位認定の幅の拡大などを通じて,多様なカリキュラムづくりが可能となる制度を整備しています。

1中高一貫教育

 中高一貫教育は,中等教育の一層の多様化を推進し,生徒一人一人の個性をより重視した教育を実現するため,平成11年度から制度化されており,18年度までに197校が設置されています(図表2-2-27)。中高一貫教育校には,(ア)修業年限6年の学校として,一体的に中高一貫教育を行う中等教育学校,(イ)高等学校入学者選抜を行わず,同一の設置者による中学校と高等学校を接続する併設型中高一貫教育校,(ウ)既存の市町村立中学校と都道府県立高等学校など,異なる設置者による中学校と高等学校が,教育課程の編成や教員・生徒間交流などの面で連携を深める形で,中高一貫教育を実施する連携型中高一貫教育の三つの形態があります。
 また,中高一貫教育校として特色ある教育課程を編成することができるよう,指導内容の移行など,実施形態に応じて,教育課程の基準に関する特例を設けています。

図表●2-2-27 中高一貫教育校設置数の推移

2総合学科

 総合学科は,普通科と専門学科に並ぶ新しい学科として,平成6年度から設置されており,17年度までに286校が設置されています(図表2-2-28)。
 総合学科の教育の特色は,幅広い選択科目の中から自分で科目を選択し学ぶ点にあり,生徒がそれぞれの個性に応じて達成感を得ることができる学習や,将来の職業選択など自己の進路への自覚を深めるための学習が重視されています。

図表●2-2-28 総合学科数の推移

3単位制高等学校

 単位制高等学校は,学年による教育課程の区分を設けず,決められた単位を修得すれば卒業が認められる学校です。昭和63年度から定時制・通信制課程において導入され,平成5年度からは全日制課程においても設置が可能となっています。17年度までに684校(うち全日制課程は400校)が設置されています(図表2-2-29)。
 単位制高等学校の特色としては,自分の学習計画に基づき,興味,関心などに応じた科目を選択し,学習できることや,学年の区分がなく,自分のペースで学習に取り組むことができることなどが挙げられます。

図表●2-2-29 単位制高等学校の推移

4自校以外での学修成果の単位認定

 生徒の多様な学習意欲にこたえて選択学習の機会を拡大するため,他の高等学校,専修学校における学修の成果や技能審査などの合格に関する成果を自校の単位として認定を可能とする制度が,平成5年度から導入されています。また,10年度からは,ボランティア活動,就業体験,スポーツ又は文化に関する分野における活動,大学,高等専門学校,社会教育施設などにおける学修の成果についても,各学校長の判断によって,単位として認定することが可能となっています。17年度からは自校以外での学修により認定できる単位数の上限を,従来の20単位から36単位に拡大しています。
 さらに,平成18年度から技能審査などの合格に関する学修に加え,TOEFL(トーフル)やTOEIC(トーイック)など,合格・不合格の区別のない技能審査などの成果に関する学修も単位認定ができるようになりました。

5高等学校卒業程度認定試験の合格科目の単位認定

 平成17年度から,従来の大学入学資格検定に代わり高等学校卒業程度認定試験が導入されるとともに,高等学校の定時制・通信制課程の生徒に加え,全日制課程の生徒にもその受験が認められることとなりました。このことを踏まえ,全日制課程,定時制課程,通信制課程の別を問わず,高等学校卒業程度認定試験の合格科目に関する学修について,生徒が在学する学校長の判断により,単位を与えることができるよう制度改正を行いました。

(3)各都道府県における取組

 各都道府県では,少子化の進行による長期的で大幅な生徒数の減少に対応しつつ,生徒や地域のニーズに応じた高等学校教育を提供するため,再編整備が進められています。

1普通科高等学校

 生徒の多様化が一層進む中,普通科高等学校の個性化・特色化を図るための取組が進められています。

2専門高校

 国際化や情報化の進展,科学技術の進歩,産業構造の複雑化などの社会の変化に対応したより高度な専門教育が求められています。また,生徒の70パーセント以上が普通科高等学校に進学する中,専門高校の特色を生かした魅力ある学校づくりが課題となっています。

3定時制・通信制高等学校

 近年,定時制・通信制高等学校は,従来からの勤労青少年に加えて,全日制課程からの転・編入学者や不登校経験のある生徒など多様な入学動機や学習歴を持つ生徒が増えてきています。多様なニーズにこたえるため,定時制課程を置く高等学校では,いわゆる「多部制の定時制課程」が増えてきています。
 一方,夜間定時制高等学校を希望する生徒が減少していることから,その適正配置・適正規模の在り方が課題となっています。

【概念図:多部制(3部制)の例】

4適正規模の確保

 高等学校の生徒数はピーク時の約60パーセントになっていますが,今後,更なる生徒数の減少が見込まれる中,適正規模確保のための学校数の調整が必要となっています。そのため,各都道府県では,地域の実情に応じた高等学校の再編整備が進められています。

5その他

 中高一貫教育校,総合学科,単位制高等学校の設置を進めるとともに,多様な学科,コースなどを設置したり,学科やコースの枠を超えた選択履修を可能とする学校など,様々な特色のある高等学校が設置されています。

  • (ア)くすりを作り,調べる学習と,くすりに関するバイオテクノロジーについて学習する「くすり・バイオ科」(富山県)
  • (イ)人間の一生を生活の核ととらえ,ライフステージにおける生活課題について専門的に学ぶことができる「ライフデザイン科」(愛媛県)
  • (ウ)将来教員になることを希望する生徒のためのコース「普通科教育コース」(奈良県)
  • (エ)単位制の仕組みにより,個別の学習を重視して,一人一人の生活スタイルや学習ペースに応じることができるよう,幅広い授業時間帯から生徒の興味・関心や進路希望などに応じて科目を選択できる柔軟なシステムを持つ「フレキシブルスクール」(神奈川県)
  • (オ)生徒自ら学ぶ科目や時間帯を選択することにより目的意識を養い,進路目標に応じた多様な学習が可能となるよう,単位制で昼間の定時制の課程を活用した,新しいタイプの学校として多部制単位制高等学校である「クリエイティブスクール」(大阪府)

東京都の取組例

○生徒の多様な希望にこたえる高等学校づくり
  • ア 普通科高等学校
    • 国公立・難関私立大学への進学実績の向上を目指す「進学指導重点校」
    • 小・中学校で十分能力を発揮できなかった生徒のやる気を育て,基礎・基本の学習を重視した「エンカレッジスクール」 など
  • イ いろいろなタイプの専門高校
    • 大学進学を目的とした「進学型専門高校」
    • 生徒の進路希望や興味・関心に応じて,幅広く専門科目を学習できる「単位制の専門高校」
    • インターンシップよりも長い期間,企業で就業訓練を行い,卒業後にも役立つ技術・技能を身に付ける「東京版デュアルシステム」 など
  • ウ 新しいタイプの定時制・通信制高等学校
    • 小・中学校時代に不登校経験を持つ生徒や高等学校の中途退学者など,これまで自分の能力や適性を十分に生かしきれなかった生徒が,自分の目標を見つけ,それに向かってチャレンジする「チャレンジスクール」
    • 自宅などでインターネットを使って勉強することにより,スクーリング回数を軽減できる「トライネットスクール」 など
○都民に信頼される学校経営の確立

 各学校が目指す学校像を明らかにした学校経営計画をつくり,計画に沿って教育活動を行い,その評価をして,学校改善を実施しています。

上記のほか,地域との連携を強めたり,教員の資質の向上などに努めています。

前のページへ

次のページへ