第4章 社会・国民に支持される科学技術

3 科学技術に関する国民意識の醸成

 国民が科学技術を身近に感じ、強い関心を抱くような社会環境をつくり上げていくためには、科学技術に親しむ多様な機会を提供するなど、国民に分かりやすく親しみやすい形で科学技術を伝え、対話を通じて説明責任と情報発信を強化する活動及び国民の科学技術に関する基礎的な知識・能力の向上に資する取組を進めることが重要である。
 文部科学省では、以下のような取組を総合的に推進し、科学技術に関する国民意識の醸成を推進している。

(1)科学技術に関する基礎的素養(科学技術リテラシー)の向上のための取組

 成人段階で求められる科学技術に関する知識や能力を明らかにすることは、国民の科学技術に対する関心の向上、科学技術に関する国民意識の醸成、理数教育の向上に資すると考えられる。このため、科学者・技術者などが広く参画して、科学技術リテラシー像(科学技術に関する知識・技術・物の見方を分かりやすく文章化したもの)を策定する取組を進めている。

(2)科学技術と文化や芸術との融合

 人々の求める豊かさは、物質的なものから精神的なものへと比重を移しており、今後の科学技術政策は、心の豊かさに貢献する科学技術分野を強化しながら進めていくことが必要となる。そして科学技術と文化芸術の出会いは、新たな芸術作品を誕生させ、独創的な新技術を創出するなど、科学技術の新たな知を創出する源となる可能性を秘めている。
 この新たな知を創出していくために、若手の研究者とクリエーターの出会いの「場」をつくり、新しいコミュニティを形成していくことが重要な役割を担うと考えられる。このため、第10回文化庁メディア芸術祭の協賛展として技術展示「先端技術ショーケース’07」、テーマシンポジウム「アートとテクノロジーの出会いが独創を呼ぶ」を開催した。また、2年目の実施となった今年度は、次代を担う子供たちにも発想と感動の機会を与える「場」として、電子回路とコンピュータを使って自分のアイデアをカタチにしてみる体験型ワークショップ「Pri/Proこどもワークショップ」を開催した。

(3)科学館活動の充実強化

(日本科学未来館の運営)

 科学技術振興機構が運営する東京・お台場の「日本科学未来館」は、難解と考えられがちな最先端の科学技術を、参加体験型の展示物や映像、実験などを用いて、青少年をはじめとする国民一般に分かりやすく紹介する情報発信の拠点であり、我が国の科学館ネットワークの中核的役割を果たしている。日本科学未来館では、最新の科学技術を分かりやすく紹介する展示・解説を行うとともに、講演やイベントの企画などを通じて、研究者と国民の交流を図っている。また、平成18年度より開始した「科学コミュニケーター研修プログラム」、全国の科学館職員などに対する研修などを通じ、各地域において科学技術の理解増進活動に取り組む人材の育成を行っている。さらに、得られた成果を全国の科学館などに展開し、全国的な科学技術の理解増進活動の活性化に寄与している。

(全国各地域の科学館活動の支援)

 全国各地域の科学館は、地域における科学技術理解増進活動の中核として機能するものである。科学技術振興機構においては、各地域における科学技術理解増進活動を一層充実したものとするために、地域の学校と科学館とが連携することによる新たな展示物の共同開発や、科学館から学校への実験・工作出前教室の実施、展示物の巡回など、児童・生徒が科学技術・理科を体験し、学習する機会の充実に向けた取組などを支援している。

(4)国立科学博物館の活動

 国立科学博物館は、館が蓄積する研究成果や標本などの知的・物的・人的資源を生かして、青少年から成人まで幅広い世代に自然や科学の面白さを伝え、共に考える機会を提供する展示や学習支援活動を実施している。
 また、国内の主導的な博物館として、モデル的・先導的なプログラムの開発に取り組み、例えば平成17年度から学生の科学リテラシー向上等に寄与するために「大学パートナーシップ」制度を設け、大学と連携して学生の無料入館、「大学生のための自然史講座」などの連携プログラムを展開するほか、平成18年度には「サイエンスコミュニケータ養成実践講座」を開始し、博物館の資源を活用した理解増進活動に取り組む人材の育成を図っている。同時に、学校と連携して子どもたちの体験学習プログラムを開発するとともに、成人を含めて科学リテラシーの向上を図るモデルプログラムの開発を進めている。このほか、大学・研究機関と連携協力して研究の内容や成果を社会に対して分かりやすく発信する「上野の山発 旬の情報発信シリーズ」の開催、全国の科学系博物館と連携し各館の標本資料情報や展示情報を人々がインターネットで横断的に検索することができるシステム「サイエンスミュージアムネット」の構築などの活動を通して、全国の科学系博物館や大学・研究機関と連携した理解増進活動の推進を行っている。

(5)大学・研究機関の活動

 宇宙航空研究開発機構では、次世代を担う青少年に対し、宇宙をはじめとする科学技術全般への興味を高めるとともに、子どもたちの科学的な観察・思考・課題解決能力を養うため、「コズミックカレッジ」や「宇宙学校」をはじめとする様々な教育活動や教育支援活動等を行っている。

(6)地域における科学技術に親しみ、学習する機会の充実

 ロボット技術は、最先端のIT(情報技術)とものづくり技術との融合によるものであり、また、ロボット競技は適度なゲーム性を有することから、青少年をはじめ国民が科学技術に楽しみ、体験し、学習することに適している。科学技術振興機構では、学校などにおけるロボット競技や青少年がものづくりや科学技術を体験し、学習できるメニューの開発を支援するとともに、その普及を図っている。
 また、地域において科学技術に親しみ、学習する機会の充実を図るためには、全国各地において実験教室の指導などに携わるボランティアなどの人材を養成・確保し、その活動を推進することが重要でがある。科学技術振興機構では、平成15年度より、地域において科学技術理解増進活動に携わるボランティアなどの人材を募集し、その活動の支援を行っている。
 国立青少年教育振興機構に設置されている「子どもゆめ基金」により、民間団体が行う子どもの科学体験活動などの体験活動等に対して助成を行っている。

(7)全国各地への科学技術情報の発信

 テレビ放送やインターネットなどのマルチメディアを活用し、科学技術に関するコンテンツ(情報)を提供する手法は、国民一般が手軽に科学技術を体験できるため、科学技術の理解増進を図る上で有効な手段である。このため、科学技術振興機構では、科学技術に関するトピックや興味深い科学実験など、青少年をはじめとする国民一般に科学技術を分かりやすく紹介する番組を制作している。制作した番組は、国立オリンピック記念青少年総合センターにより「サイエンスチャンネル」として、CS放送、ケーブルテレビなどを通じ全国に配信されており、番組の普及を図るため、インターネットでも提供している(http://sc-smn.jst.go.jp(※サイエンス チャンネルホームページへリンク))。
 また、青少年が科学技術を分かりやすく体験できる「JSTバーチャル科学館」(http://jvsc.jst.go.jp(※JSTバーチャル科学館ホームページへリンク))を、インターネットを通じて広く提供している。

(8)科学技術週間

 平成18年4月17日〜23日に、試験研究機関、地方公共団体など関連機関の協力を得て第47回「科学技術週間」を実施した。同週間中は、全国各地の関連機関において、施設の一般公開や実験工作教室、講演会の開催などの各種行事が実施された。平成18年度は、「丸の内イベント」として、東京・丸ビルにおいてプラネタリウム「メガスター2」の上映を行うとともに、研究者と一般の方とがお茶を飲みながら科学技術について気軽に話し合う「サイエンスカフェ」などを全国的に開催した。

(9)大学等における科学技術理解増進活動

 大学等における科学技術に関する公開講座の実施や、科学技術に関する授業を開講している放送大学の充実・整備を図るなど、科学技術の理解増進に資する施策を実施している。また、科学研究費補助金において、青少年や一般社会人の関心が高いと思われる分野の研究動向・研究内容を分かりやすく普及啓発しようとするシンポジウムや学術講演会の開催の支援を行っている。このほか、科学系も含めた博物館等の職員を対象とした講習を行い、資質の向上を図るとともに、学芸員等専門職員を諸外国の科学系博物館等に派遣し研修させることにより、高度で専門的な知識・技術の修得を図っている。
 日本学術会議では、学術の成果を国民に還元するための活動の一環として公開講演会を開催しており、「環境学のフロンティア−脱温暖化社会へのシナリオ」等をテーマとして、今年度は4回実施した。このほか、全国を7ブロックに分け、それぞれの地域で求められる情報に即したテーマで年2回程度、公開講演会を開催している。また、小中学生をはじめ一般の人々に直接語りかけるという交流を通して科学と向き合うことの面白さを広く理解してもらうために、様々なイベントを開催している。平成18年度の科学技術週間には、関係機関の協力により全国21か所において「サイエンスカフェ」を開催したほか、「子どものゆめサイエンス」や「女子高生夏の学校」等、若い世代の科学・科学技術分野への興味・関心を高めるための体験学習活動を行っている。
 産業技術総合研究所では、常設展示施設として、サイエンス・スクエア つくば/臨海、地質標本館、JISパビリオン等を備えている。また平成18年度は全国8拠点で一般公開を行い、延べ1万2,000人を超える来場があった。

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