第2章 科学技術の戦略的重点化

第2節■政策課題対応型研究開発における重点化

[分野別推進戦略の策定及び戦略重点科学技術の選定]

6 ものづくり技術分野

 製造業(ものづくり)は、全産業の中でも最も国際競争力のある分野であり、我が国の生命線である。また、他産業への波及効果が大きく、経済成長の原動力となっている。
 第3期科学技術基本計画においては、従来の製造技術の開発にとどまることなく、「もの」の価値を押し上げるような科学技術の発展を目指す、価値創造型ものづくり力強化という視点を鮮明にするため、「製造技術分野」から「ものづくり技術分野」に名称を改めて推進している。

(1)共通基盤的なものづくり技術の推進

 文部科学省では、戦略重点科学技術として、世界最先端の研究者のニーズにこたえられる世界初のオンリーワン/ナンバーワンの計測分析技術・機器の開発を推進している。
 経済産業省では、次世代ロボット共通基盤開発、技術戦略マップに沿ったミッションを達成するRT(ロボット技術:Robot Technology)システムの開発等を実施している。

(中小企業のものづくり基盤技術の高度化)

 我が国製造業の国際競争力の源泉は、鋳造、鍛造、めっきなど、ものづくりの基盤となる優れた技術を有する中小企業が、製品・部品の開発・生産過程において、川下の企業と密接な摺(す)り合わせを実施している点にある。燃料電池やロボット等の先端的産業をはじめ、我が国経済を牽引(けんいん)していく製造業の国際競争力の強化及び新産業の創出のためには、基盤技術を担う中小企業の競争力を一層高めていくことが重要である。
 しかし、こうした中小企業は、競争の進展に伴う取引関係の変化や、技術の高度化・専門化による技術開発リスクの上昇、人材・資金面での経営資源確保の困難さなど、様々な課題に直面している。このため、平成18年4月に公布された、「中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律」に基づき、経済産業省において、川上・川下産業間の情報共有の促進や、基盤技術に関する研究開発への支援等、戦略的・重点的な施策を展開した。

1ものづくり中小企業の研究開発支援

 「中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律」に基づき、特定基盤技術(鋳造、鍛造、めっき、プレス加工、金型等)を指定し、技術ごとに中小企業が目指すべき技術開発の方向性を取りまとめた将来ビジョン「特定ものづくり基盤技術高度化指針」を策定した。また、当該指針に基づき、中小企業が作成した特定研究開発等計画を国が認定し、支援した。
 また、中小企業が行う革新的かつハイリスクな研究開発や、生産プロセスイノベーション等を実現する研究開発を支援するとともに中小企業が国から認定された特定研究開発等計画の成果を特許化する場合の費用の減免、中小企業金融公庫による特別貸付信用保険の限度額の拡大等を行った。

2ものづくり基盤技術高度化のための環境整備

 基盤技術を担う中小企業と燃料電池や情報家電等の産業との連携・摺(す)り合わせをコーディネートする人材の配置や、両者の情報交換の場の創設、マッチング機会の創出など、中小企業と大企業の「出会いの場」の創出に向けた取組を支援した。
 中小企業が行う加工・製造プロセスの精度・信頼性を客観的に証明し、製品の市場への供給を支援するため、試験検査機関等による中小企業向けの精度管理システムの構築や人材育成、施設整備等を行うことにより、グローバルなビジネス展開において不可避となるトレーサビリティ体系の確立に向けた計量標準供給基盤の強化を行った。
 また、ものづくり中小企業が保有する個別従業員の暗黙知となっていた設計・加工ノウハウ等をデジタル化・体系化し蓄積することを可能にする、汎用性の高いソフトウェアを開発した。併せて、蓄積されたノウハウ等を生産活動で活用するために、中小製造業が必要とする業務用ソフトウェア(生産管理、品質管理、出荷管理等)をソフトウェア設計の知識のない中小製造業者が自ら作成可能となる支援ツールを開発し、成果を中小企業に提供することにより、中小企業の基盤技術継承を支援した。
 全国の商工会・商工会議所を「知財駆け込み寺」として、相談取次窓口機能を整備するとともに、知的財産を中核に据えた企業活動の普及を目的としたセミナーを各地で実施した。

(2)革新的・飛躍的発展が見込まれるものづくり技術の推進

 経済産業省では、微小電気機械システム(MEMS)製造技術の確立により、情報通信、医療・バイオ、自動車、ロボット、航空・宇宙、福祉など多様な分野における小型・高精度で省エネルギー性に優れた高性能のキーデバイスの国際競争力の維持・強化を目指す「高集積・複合MEMS製造技術開発プロジェクト」、「MEMS用設計・解析支援システム開発プロジェクト」を実施している。

(3)人材育成、活用と技能継承・深化

 我が国のものづくりの強みは、現場の優秀な技術者・技能者にあるが、2007年問題と言われるように、団塊の世代が大量に定年を迎えつつある中、ものづくり人材の質・量両面での減少が懸念されている。
 今後のものづくり技術分野の振興のためには、これを支える創造性に富んだ人材の育成が不可欠であり、学校教育や生涯学習の分野において様々な取組が行われている。
 初等中等教育段階においては、学習指導要領に基づき、小学校段階から関係教科の中でものづくりに関する教育が行われている。特に、工業高校をはじめとする専門高校においては、我が国のものづくり人材育成において大きな役割を果たしてきていることから、平成15年度から専門高校において先端的な技術・技能を取り入れた教育などを重点的に行う「目指せスペシャリスト」事業を実施し、より充実した取組が行われている。
 中学校における職場体験や高等学校におけるインターンシップ(就業体験)は、生徒の学習意欲を喚起し、勤労観・職業観を育成するとともに、生徒がものづくりの事業所を含む職業現場で実際に用いられている知識や技術・技能を学ぶ貴重な機会であるため、各種施策を通じて積極的に推進している。
 高等教育分野においては、各大学においてものづくりを支える実践的教育を行うとともに、専門職大学院における高度専門職業人の養成を質・量共に充実させることを目指している。
 高等専門学校においては、「アイデア対決・高専ロボットコンテスト」等の取組を通じ、ものづくりの魅力を伝えるとともに、地域の人々や小中学生を対象に公開講座や体験授業を開催している。
 専修学校においては、実践的な職業教育や専門的な技術教育などを通じ、ものづくり人材の育成を推進するほか、正規雇用を目指しているフリーターなどの能力向上のため、専修学校を活用した短期教育プログラムの開発等を行う「専修学校を活用した若者の自立・挑戦支援事業」を行っている。
 生涯学習分野においては、大学等における社会人の受入れや公開講座を通じ、社会人のキャリアアップの機会を提供している。また、公民館や博物館等を活用した取組や、教育機関の教室を開放するなどの取組を通じて、子どもたちが地域でものづくりの体験や学習する機会を提供し、ものづくりを支える人材の育成を図っている。
 また、技術者が科学技術の基礎知識と失敗知識を幅広く習得することを支援するために、科学技術の各分野に関する及び分野を横断するインターネット自習教材(http://weblearningplaza.jst.go.jp/(※Webラーニングプラザ 技術者 eラーニングホームページへリンク))と科学技術分野の失敗事例を収録したデータベース(http://shippai.jst.go.jp/(※JST失敗知識データベースホームページへリンク))を提供している。平成19年3月末現在、自主教材727レッスン、失敗事例1,136件を収録している。

 平成18年度に実施された主な研究課題をまとめると、第3-2-10表のとおりである。

第3-2-10表 ものづくり技術分野の主な研究課題(平成18年度)

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