第2章 科学技術の戦略的重点化

第2節■政策課題対応型研究開発における重点化

[分野別推進戦略の策定及び戦略重点科学技術の選定]

2 情報通信分野

 情報通信技術は電子商取引、電子政府、在宅勤務、遠隔医療、遠隔教育の実現・普及など、産業のみならず日常生活までの幅広い社会経済活動に大きな変革をもたらすものであり、国民が安心して安全な生活をおくるための重要な基盤となりつつある。また、情報通信分野における国際的に優位にある技術に中長期的な観点から重点的に投資を行うことは、我が国の科学技術や学術研究、産業の国際競争力の強化につながる。
 情報通信全般に関する政府の取組としては、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)にて、「IT新改革戦略」(平成18年1月)及び、「重点計画-2006」(平成18年7月)を策定し、「いつでも、どこでも、誰でもITの恩恵を実感できる社会の実現」を目指している。
 総務省では、重点的に推進すべき研究開発の方向性を具体化した「UNS戦略プログラム」(平成17年7月情報通信審議会答申)及び「分野別推進戦略」等に基づき、研究開発を重点的・戦略的に推進していくこととしている。
 文部科学省では、情報通信分野の「分野別推進戦略」を受け、平成18年7月に、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会において、文部科学省として重点的に実施すべき研究開発を「情報科学技術に関する研究開発の推進方策について」として取りまとめた。
 以下に、各省庁における主な施策について、「分野別推進戦略」の「重要な研究開発課題」の七つの領域ごとにまとめた。

(1)ネットワーク領域

 総務省では、大量の情報を瞬時に伝え、誰もが便利・快適に利用できる次世代ネットワーク技術を構築するため、オールパケット型の高機能ネットワークの構築に必要な基盤技術の研究開発、インターネットのトラフィックの爆発的な急増に対応し情報通信インフラを強化するための研究開発、10年先を見据えて、さらに増大した通信トラフィックを安定かつ超低消費電力で制御するオール光ネットワーク、複数の電波利用システムによる電波の高度な共同利用技術、未利用周波数帯における容易な無線システムの構築を可能とする技術などに関連した研究開発等を実施している。

(2)ユビキタス(電子タグ等)領域

 総務省では、「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」使えるユビキタスなネットワーク社会の実現を目指し、多数の端末(電子タグ・センサー・情報家電等)を駆使して、人と人のみならず、人とモノ、モノとモノを情報でつなぎ、便利に安心して利用するための技術開発に取り組んでいる。例えば、「ユビキタスネットワーク(何でもどこでもネットワーク)技術の研究開発」では、必要な基盤技術である「超小型チップネットワーキング技術」、「ユビキタスネットワーク認証・エージェント技術」、「ユビキタスネットワーク制御・管理技術」の研究開発を実施している。
 文部科学省では、ユビキタスネット社会の実現を見据え、電子タグにより高付加価値情報を安全かつ即時的に利活用するために必要な基盤技術を確立する研究開発プロジェクト等を推進している。
 経済産業省では、電子タグについて、関連規格の国際標準化を推進するとともに、低価格化(月産1億個で1個5円)に関する技術開発(「響プロジェクト」)を実施した。
 国土交通省では、「自律移動支援プロジェクト」において、総務省の「超小型チップネットワーキング技術」で開発した電子タグ等を用いた、ユビキタス場所情報システムの試験的運用等を行った。
 内閣府では、科学技術連携施策群として、電子タグ技術を中心に上記施策等を対象とした府省連携を推進するとともに、科学技術振興調整費により医療分野における利活用、測位と安全・安心の補完的課題等を推進している。

(3)デバイス・ディスプレイ等領域

 経済産業省では、半導体技術については、高性能・低消費電力な次世代半導体を実現するテクノロジーノード45ナノメートルレベル以細の微細化技術(プロセス・材料技術、露光システム技術、設計技術、マスク技術等)、情報家電(車載を含む)の低消費電力化等を実現するアプリケーションチップ技術等の開発を実施した。またディスプレイ、メモリ・ストレージ、ネットワークデバイス技術については、高効率な有機材料による表示・発光デバイス技術、革新的原理を利用した低消費電力・大容量・高速ストレージ技術、電子・光技術を活用した高効率なネットワークデバイス技術等の研究開発を実施した。

(4)セキュリティ及びソフトウェア領域

 総務省では、経路ハイジャック検知・回復・予防技術に関する基本検討、高度ネットワーク認証基盤技術等の研究開発を実施した。
 経済産業省では、情報家電分野において実環境下でも利用可能な音声認識技術の開発及び高信頼の組込みソフトウェア等を効率的に開発する手法の研究・実践等取り組んでいる。さらに安心してオープンソース・ソフトウェア(OSS)を活用できる環境の整備を行った。
 総務省と経済産業省では、ボット収集・解析システムの開発・試行運用及び感染対策等を実施している。また、新たな脅威に対応した情報セキュリティに関する被害を未然に防止する技術及び被害が発生した場合に被害を局限化する技術の開発、並びに、国民生活・社会経済活動に密接に関連する情報セキュリティの確保及びITを安心して利活用できる環境の整備などに関する管理手法の研究に取り組んでいる。

(5)ヒューマンインタフェース及びコンテンツ領域

 総務省では、「多国間スーパーコミュニケーションの実現」において、旅行会話を想定した、多言語コミュニケーションシステムの最初のプロトタイプを構築した。また、「エンハンスト・ヒューマン・インターフェースの実現」として、脳内の情報処理を分析するための基礎的検討を行っている。また、「世界と感動を共有するコンテンツ創造及び情報活用技術」として、次世代型映像コンテンツ制作・流通支援技術の研究開発を実施している。平成18年度は、平成17年度に確立した要素技術の拡張を行い、4遠隔地からの2K映像を合成した4K映像及び4Kカメラからの映像を遠隔地を含めた10地点に配信できることを実証した。

(6)ロボット領域

 総務省では、ネットワークを介して異なる種類のロボットと各種センサーやデバイスを接続させることにより、単体ロボットの機能を更に高度化し、生活支援や福祉・介護支援等のサービスを提供できるロボットの実現を目指す研究開発に取り組んでいる。
 経済産業省では、清掃ロボット、搬送ロボット等のサービスロボットを実際に導入・運用するための安全技術及び安全性確保の手法開発、実用化技術開発等を行うことを目的として、実証機の製作等を実施している。また、次世代産業用ロボット分野、サービスロボット分野、特殊環境作業用ロボット分野について、現実の用途を想定した開発を実施している。
 上記施策等を対象とし、内閣府では、連携施策群「次世代ロボット−共通プラットフォーム技術の確立−」を推進し、科学技術振興調整費による「補完的課題」として、環境の情報構造化等についての研究を実施している。また、文部科学省と共催で「ロボット創造教育」シンポジウムを開催し、ロボット製作の持つ教育効果と理科教育と技術教育上の意義が確認されている。

(7)研究開発基盤領域

 文部科学省では国家基幹技術(戦略重点科学技術「科学技術を牽引する世界最高水準の次世代スーパーコンピュータ」)として、今後とも我が国が科学技術・学術研究、産業、医・薬など広汎な分野で世界をリードし続けるための「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」プロジェクトを推進している。

(8)その他

 文部科学省では戦略重点科学技術として、世界最高水準のIT人材として社会情勢の変化等に先見性を持って柔軟に対処し、企業等において先導的な役割を担う人材を大学院において育成するための拠点形成を目指す「先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム」等を推進している。

 なお、平成18年度における情報通信分野の主な研究課題は第3-2-2表のとおりである。

第3-2-2表 情報通信分野の主な研究課題(平成18年度)

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