はじめに

 平成18年度を初年度とする第3期科学技術基本計画では、「社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術」を第1の基本姿勢としている。
 我が国においては、科学技術基本法に基づき、平成8年度以来、3次にわたる基本計画の下に科学技術の振興施策を推進し、厳しい財政事情の下でも政府研究開発投資の拡充に努めてきた。
 科学技術の振興に関する年次報告では、毎年第1部において、テーマを定めて科学技術の動向について記述しているが、今年度は、これまでの科学技術の振興の成果を国民に分かりやすく示すことをテーマとした。第3期基本計画の初年度の年次報告に当たり、今後とも科学技術の振興に対する社会・国民からの支持を得ていくためには、これまでの科学技術振興の成果が国民に理解されることが必要不可欠であり、また、そのための説明に努めることが科学技術振興施策を進める上での責務であるとの考えによるものである。
 現代社会においては、科学技術の成果は社会の隅々まで浸透し、我々の生活や社会を支えている。こうした成果の多くは、長年にわたる研究活動の結果花開いたものであり、基礎的研究段階から実用化に至るまでの過程においては、研究者の地道な研究活動と、それを支えた研究環境、あるいは公的資金による支援などが相互に関連している例が少なくない。
 また、研究活動の中には、知的な探究心や研究者の自由な発意に基づき、人間や自然、人間社会の事象等を対象とし、その成果として、新たな原理の発見など人類の知的資産ともいえる価値を生み出すものもある。こうした成果は、我々の自然観・人間観などの思想に影響を与えたり、あるいは後に大きな社会的・経済的価値を生み出す発明の苗床ともなるものである。
 さらに、科学技術振興の重要な成果の一つは、次代を担う人材の育成である。大学等において指導を受けつつ研究活動を行うことにより、次代を担うべき人材が、知識を獲得し、自ら問題を発見し解決に向けて試行錯誤するといった能力と態度を養う。そのような人材が、研究者・技術者のみならず様々な分野・活動で社会をつくり支えている。
 研究・開発の成果は、こうした人材によって引き継がれることにより、新たな真理の探究・発見につながったり、社会に適用されて新たな経済的・社会的価値を生み出したりする。人によって生み出された知は、人によって継承され、人によって社会に活かされ、さらに新たな知の創造・活用へとつながっていくという循環関係を成しており、いずれの局面でも、そこに関わる人の力が鍵となるものである。
 第3期基本計画でも、科学技術力の基盤は人であり、モノから人へ政策の重点を移すことを第2の基本姿勢としている。
 本書第1部では、科学技術の振興の成果を、知の創造、活用、継承の三つの観点からとらえ、具体的な事例に即して紹介する。そして、それらの成果を生み出すに至った過程において、それに関わった人、研究環境、公的支援などの事例を踏まえ、今後の科学技術振興方策を展望する。

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