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幼児期運動指針

 別紙1

平成24年3月
幼児期運動指針策定委員会

1 幼児を取り巻く社会の現状と課題

 現代の社会は、科学技術の飛躍的な発展などにより、生活が便利になっている。生活全体が便利になったことは、歩くことをはじめとした体を動かす機会を減少させるだけでなく、子どもにとっては、家事の手伝いなどの機会を減少させた。さらに一般的な生活をするためだけであれば、必ずしも高い体力や多くの運動量を必要としなくなっており、そうした大人の意識は、子どもが体を動かす遊びをはじめとする身体活動の軽視につながっている。
 都市化や少子化が進展したことは、社会環境や人々の生活様式を大きく変化させ、子どもにとって遊ぶ場所、遊ぶ仲間、遊ぶ時間の減少、そして交通事故や犯罪への懸念などが体を動かして遊ぶ機会の減少を招いている。
 文部科学省で平成19年度から21年度に実施した「体力向上の基礎を培うための幼児期における実践活動の在り方に関する調査研究(以下、文部科学省調査という。)」においても、体を動かす機会の減少傾向がうかがえる結果であったことから、このような社会の変化は幼児においても同様の影響を与えていると考えられる。このことは、結果的に幼児期からの多様な動きの獲得や体力・運動能力に影響している。
 幼児にとって体を動かして遊ぶ機会が減少することは、その後の児童期、青年期への運動やスポーツに親しむ資質や能力の育成の阻害に止まらず、意欲や気力の減弱、対人関係などコミュニケーションをうまく構築できないなど、子どもの心の発達にも重大な影響を及ぼすことにもなりかねない。
 このような状況を踏まえると、主体的に体を動かす遊びを中心とした身体活動を、幼児の生活全体の中に確保していくことは大きな課題である。

2 幼児期における運動の意義

 幼児は心身全体を働かせて様々な活動を行うので、心身の様々な側面の発達にとって必要な経験が相互に関連し合い積み重ねられていく。このため、幼児期において、遊びを中心とする身体活動を十分に行うことは、多様な動きを身に付けるだけでなく、心肺機能や骨形成にも寄与するなど、生涯にわたって健康を維持したり、何事にも積極的に取り組む意欲を育んだりするなど、豊かな人生を送るための基盤づくりとなることから、以下のような様々な効果が期待できる。

(1) 体力・運動能力の向上

 体力は人間の活動の源であり、健康の維持のほか、意欲や気力といった精神面の充実にも大きくかかわっており、人が生きていくために重要なものである。特に幼児期は、神経機能の発達が著しく、タイミングよく動いたり、力の加減をコントロールしたりするなどの運動を調整する能力が顕著に向上する時期である。この能力は、新しい動きを身に付けるときに重要な働きをする能力であるとともに、周りの状況の的確な判断や予測に基づいて行動する能力を含んでおり、けがや事故を防止することにもつながる。このため、幼児期に運動を調整する能力を高めておくことは、児童期以降の運動機能の基礎を形成するという重要な意味を持っている。
 また、日ごろから体を動かすことは、結果として活動し続ける力(持久力)を高めることにもつながる。

(2)健康的な体の育成

 幼児期に適切な運動をすると、丈夫でバランスのとれた体を育みやすくなる。特に運動習慣を身に付けると、身体の諸機能における発達が促されることにより、生涯にわたる健康的で活動的な生活習慣の形成にも役立つ可能性が高く、肥満や痩身を防ぐ効果もあり、幼児期だけでなく、成人後も生活習慣病になる危険性は低くなると考えられる。また、体調不良を防ぎ、身体的にも精神的にも疲労感を残さない効果があると考えられる。

(3)意欲的な心の育成

 幼児にとって体を動かす遊びなど、思い切り伸び伸びと動くことは、健やかな心の育ちも促す効果がある。また、遊びから得られる成功体験によって育まれる意欲や有能感は、体を活発に動かす機会を増大させるとともに、何事にも意欲的に取り組む態度を養う。

(4)社会適応力の発達

 幼児期には、徐々に多くの友達と群れて遊ぶことができるようになっていく。その中でルールを守り、自己を抑制し、コミュニケーションを取り合いながら、協調する社会性を養うことができる。

(5)認知的能力の発達

 運動を行うときは状況判断から運動の実行まで、脳の多くの領域を使用する。すばやい方向転換などの敏捷な身のこなしや状況判断・予測などの思考判断を要する全身運動は、脳の運動制御機能や知的機能の発達促進に有効であると考えられる。
 幼児が自分たちの遊びに合わせてルールを変化させたり、新しい遊び方を創り出したりするなど、遊びを質的に変化させていこうとすることは、豊かな創造力も育むことにもつながる。

3 幼児期運動指針策定の意図

 幼児期における運動の実践は、心身の発育に極めて重要であるにも関わらず、全ての幼児が十分に体を動かす機会に恵まれているとはいえない現状がある。そこで、幼児の心身の発達の特性に留意しながら、幼児が多様な運動を経験できるような機会を保障していく必要がある。
 その際、幼児期の運動は、一人一人の幼児の興味や生活経験に応じた遊びの中で、幼児自らが体を動かす楽しさや心地よさを実感することが大切であることから、幼児が自発的に体を動かして遊ぶ機会を十分保障することが重要である。さらに、幼児が楽しく体を動かして遊んでいる中で、多様な動きを身に付けていくことができるように、様々な遊びが体験できるような手立てが必要となる。
 これらを実現するためには、保護者や、幼稚園、保育所などの保育者をはじめ、幼児に関わる人々が幼児期の運動をどのようにとらえ、どのように実施するとよいのかについて、おおむね共有していくことが重要である。そこで、運動習慣の基盤づくりを通して、幼児期に必要な多様な動きの獲得や体力・運動能力を培うとともに、様々な活動への意欲や社会性、創造性などを育むことを目指し、幼児期の運動の在り方についての指針を策定した。なお、ここで示す幼児とは、3歳から6歳の小学校就学前の子どもを指す。

4 幼児期の運動の在り方

(1)運動の発達の特性と動きの獲得の考え方

 幼児期は、生涯にわたって必要な多くの運動の基となる多様な動きを幅広く獲得する非常に大切な時期である。動きの獲得には、「動きの多様化」と「動きの洗練化」の二つの方向性がある。
 「動きの多様化」とは、年齢とともに獲得する動きが増大することである。幼児期において獲得しておきたい基本的な動きには、立つ、座る、寝ころぶ、起きる、回る、転がる、渡る、ぶら下がるなどの「体のバランスをとる動き」、歩く、走る、はねる、跳ぶ、登る、下りる、這(は)う、よける、すべるなどの「体を移動する動き」、持つ、運ぶ、投げる、捕る、転がす、蹴る、積む、こぐ、掘る、押す、引くなどの「用具などを操作する動き」が挙げられる。通常、これらは、体を動かす遊びや生活経験などを通して、易しい動きから難しい動きへ、一つの動きから類似した動きへと、多様な動きを獲得していくことになる。
 「動きの洗練化」とは、年齢とともに基本的な動きの運動の仕方(動作様式)がうまくなっていくことである。幼児期の初期(3歳から4歳ごろ)では、動きに「力み」や「ぎこちなさ」が見られるが、適切な運動経験を積むことによって、年齢とともに無駄な動きや過剰な動きが減少して動きが滑らかになり、目的に合った合理的な動きができるようになる。
 次に、目安として幼児期における一般的な運動の発達の特性と経験しておきたい遊び(動き)の例について示す。なお、幼児の発達は、必ずしも一様ではないため、一人一人の発達の実情をとらえることに留意する必要がある。

1) 3歳から4歳ごろ

 基本的な動きが未熟な初期の段階から、日常生活や体を使った遊びの経験をもとに、次第に動き方が上手にできるようになっていく時期である。特に幼稚園、保育所等の生活や家庭での環境に適応しながら、未熟ながらも基本的な動きが一通りできるようになる。次第に自分の体の動きをコントロールしながら、身体感覚を高め、より巧みな動きを獲得することができるようになっていく。
 したがって、この時期の幼児には、遊びの中で多様な動きが経験でき、自分から進んで何度も繰り返すことにおもしろさを感じることができるような環境の構成が重要になる。例えば、屋外での滑り台、ブランコ、鉄棒などの固定遊具や、室内での巧技台やマットなどの遊具の活用を通して、全身を使って遊ぶことなどにより、立つ、座る、寝ころぶ、起きる、回る、転がる、渡る、ぶら下がるなどの「体のバランスをとる動き」や、歩く、走る、はねる、跳ぶ、登る、下りる、這(は)う、よける、すべるなどの「体を移動する動き」を経験しておきたい。

2) 4歳から5歳ごろ

 それまでに経験した基本的な動きが定着しはじめる。
 友達と一緒に運動することに楽しさを見いだし、また環境との関わり方や遊び方を工夫しながら、多くの動きを経験するようになる。特に全身のバランスをとる能力が発達し、身近にある用具を使って操作するような動きも上手になっていく。
 さらに遊びを発展させ、自分たちでルールや決まりを作ることにおもしろさを見いだしたり、大人が行う動きのまねをしたりすることに興味を示すようになる。例えば、なわ跳びやボール遊びなど、体全体でリズムをとったり、用具を巧みに操作したりコントロールさせたりする遊びの中で、持つ、運ぶ、投げる、捕る、転がす、蹴る、積む、こぐ、掘る、押す、引くなどの「用具などを操作する動き」を経験しておきたい。

3) 5歳から6歳ごろ

 無駄な動きや力みなどの過剰な動きが少なくなり、動き方が上手になっていく時期である。
 友達と共通のイメージをもって遊んだり、目的に向かって集団で行動したり、友達と力を合わせたり役割を分担したりして遊ぶようになり、満足するまで取り組むようになる。それまでの知識や経験を生かし、工夫をして、遊びを発展させる姿も見られるようになる。
 この時期は、全身運動が滑らかで巧みになり、全力で走ったり、跳んだりすることに心地よさを感じるようになる。ボールをつきながら走るなど基本的な動きを組み合わせた動きにも取り組みながら、「体のバランスをとる動き」「体を移動する動き」「用具などを操作する動き」をより滑らかに遂行できるようになることが期待される。そのため、これまでより複雑な動きの遊びや様々なルールでの鬼遊びなどを経験しておきたい。

(2)運動の行い方

 幼児期は、生涯にわたる運動全般の基本的な動きを身に付けやすく、体を動かす遊びを通して、動きが多様に獲得されるとともに、動きを繰り返し実施することによって動きの洗練化も図られていく。また、意欲をもって積極的に周囲の環境に関わることで、心と体が相互に密接に関連し合いながら、社会性の発達や認知的な発達が促され、総合的に発達していく時期である。
 そのため、幼児期における運動については、適切に構成された環境の下で、幼児が自発的に取り組む様々な遊びを中心に体を動かすことを通して、生涯にわたって心身ともに健康的に生きるための基盤を培うことが必要である。
 また、遊びとしての運動は、大人が一方的に幼児にさせるのではなく、幼児が自分たちの興味や関心に基づいて進んで行うことが大切であるため、幼児が自分たちで考え工夫し挑戦できるような指導が求められる。なお、幼児にとって体を動かすことは遊びが中心となるが、散歩や手伝いなど生活の中での様々な動きを含めてとらえておくことが大切である。
 これらを総合的に踏まえると、幼稚園、保育所などに限らず、家庭や地域での活動も含めた一日の生活全体の身体活動を合わせて、幼児が様々な遊びを中心に、毎日、合計60分以上、楽しく体を動かすことが望ましい。また、その推進に当たっては、次の3点が重要である。

1) 多様な動きが経験できるように様々な遊びを取り入れること

 幼児期は運動機能が急速に発達し、体の基本的な動きを身に付けやすい時期であることから、多様な運動刺激を与えて、体内に様々な神経回路を複雑に張り巡らせていくことが大切である。それらが発達することにより、普段の生活で必要な動きをはじめ、とっさの時に身を守る動きや将来的にスポーツに結び付く動きなど多様な動きを身に付けやすくすることができる。そのためには、幼児が自発的に様々な遊びを体験し、幅広い動きを獲得できるようにする必要がある。幼児にとっての遊びは、特定のスポーツ(運動)のみを続けるよりも、動きの多様性があり、運動を調整する能力を身に付けやすくなる。幼児期には体を動かす遊びなどを通して多様な動きを十分経験しておくことが大切である。
 体を動かす遊びには、先に挙げたように多様な動きが含まれる。例えば、鬼遊びをすると、「歩く、走る、くぐる、よける」などの動きを、夢中になって遊んでいるうちに総合的に経験することになる。そのため、幼児期には様々な遊びを楽しく行うことで、結果的に多様な動きを経験し、それらを獲得することが期待される。

2) 楽しく体を動かす時間を確保すること

 多様な動きの獲得のためには、量(時間)的な保障も大切である。一般的に幼児は、興味をもった遊びに熱中して取り組むが、他の遊びにも興味をもち、遊びを次々に変えていく場合も多い。そのため、ある程度の時間を確保すると、その中で様々な遊びを行うので、結果として多様な動きを経験し、それらを獲得することになる。
 文部科学省調査では、外遊びの時間が多い幼児ほど体力が高い傾向にあるが、4割を超える幼児の外遊びをする時間が一日1時間(60分)未満であることから、多くの幼児が体を動かす実現可能な時間として「毎日、合計60分以上」を目安として示すこととした。幼児にとって、幼稚園や保育所などでの保育がない日でも体を動かすことが必要であることから、保育者だけでなく保護者も共に体を動かす時間の確保が望まれる。
 なお、幼児が体を動かす時間は、環境や天候などの影響を受けることから、屋内も含め一日の生活において、体を動かす合計の時間として設定した。

3) 発達の特性に応じた遊びを提供すること

 幼児に体を動かす遊びを提供するに当たっては、発達の特性に応じて行うことが大切である。幼児は、一般的に、その時期に発達していく身体の諸機能をいっぱいに使って動こうとする。そのため、発達の特性に応じた遊びをすることは、その機能を無理なく十分に使うことによってさらに発達が促進され、自然に動きを獲得することができ、けがの予防にもつながるものである。また、幼児の身体諸機能を十分に動かし活動意欲を満足させることは、幼児の有能感を育むことにもなり、体を使った遊びに意欲的に取り組むことにも結び付く。
 したがって、幼児期の運動は、体に過剰な負担が生じることのない遊びを中心に展開される必要がある。発達の特性に応じた遊びを提供することは、自発的に体を動かして遊ぶ幼児を育成することになり、結果として無理なく基本的な動きを身に付けることになる。
 これらを踏まえ、幼児の興味や関心、意欲など運動に取り組んでいく過程を大切にしながら、幼児期に早急な結果を求めるのではなく、小学校以降の運動や生涯にわたってスポーツを楽しむための基盤を育成することを目指すことが重要である。
 なお、運動の在り方に示した内容を推進するに当たっては、次のような配慮をすることが望まれる。

  • 幼児期は発達が著しいが、同じ年齢であってもその成長は個人差が大きいので、一人一人の発達に応じた援助をすること。
  • 友達と一緒に楽しく遊ぶ中で多様な動きを経験できるよう、幼児が自発的に体を動かしたくなる環境の構成を工夫すること。
  • 幼児の動きに合わせて保育者が必要に応じて手を添えたり見守ったりして安全を確保するとともに、固定遊具や用具などの安全な使い方や、周辺の状況に気付かせるなど、安全に対する配慮をすること。
  • 体を動かすことが幼稚園や保育所などでの一過性のものとならないように、家庭や地域にも情報を発信し、共に育てる姿勢をもてるようにすること。

お問合せ先

スポーツ・青少年局参事官(体育・青少年スポーツ担当)付専門職(子供の体力向上担当)

電話番号:03-5253-4111(内線2649)

(スポーツ・青少年局参事官(体育・青少年スポーツ担当))

-- 登録:平成24年05月 --