図書館職員研修の充実方策についての議論の整理

1 研修の区分

 研修は、対象者によって研修内容や効果的な研修方法が異なるため、研修の対象者を明確にしておくことが必要である。研修の対象などの視点から以下の3つの区分が挙げられる。

(1)研修の対象者

 「図書館サービス業務に携わる職員」及び「管理職」に対する研修を、司書資格の有無、職務内容、採用区分などを考慮して以下のとおり区分した。

  • 1司書、司書補
  • 2管理職
  • 3上記以外で図書館サービス業務に携わる職員
  • 4短期雇用者

(2)研修の領域

 図書館での経験年数等に応じて、研修内容の専門化、高度化等を図っていく必要がある。

  • 1初任者を対象とする研修
  • 2経験年数に応じた研修(キャリアアップ研修)
  • 3管理職研修
  • 4図書館サービス向上のための研修
  • 5特定分野の専門性を高めるための研修

(3)研修の実施主体

 行政機関(国、都道府県、市町村等。公立図書館を含む。)が実施する研修のほか、複数の地方公共団体による広域的な取組等も考慮して、以下のとおりとした。また、図書館関係機関(図書館協会等)の主要な研修についても、行政機関に準じた体系区分に位置付けて区分した。

  • 1国レベル…国、又は全国を対象に研修を実施する団体。全国をブロック単位に分割して行うものも含む。
  • 2都道府県レベル…都道府県、又は都道府県内を対象に研修を実施する団体。
  • 3市町村レベル…市町村、又は市町村内を対象に研修を実施する団体
  • 4各図書館内における研修
  • 5その他(特定課題や専門分野に対応した研修を実施する、国立国会図書館、大学、民間団体等)

2 研修の課題と改善方策

 地域の情報拠点としての図書館を目指して、図書館職員の資質・能力の向上を図るため、今後、以下の点に配慮して研修を充実させることが重要であり、国や地方公共団体においては、このための施策を積極的に推進することが求められる。また、民間団体等による取組も期待される。

(1)研修の対象と領域

1初任者を対象とする研修

  • 初任者研修は、図書館に就職して初めて参加する研修である。図書館業務の最も基本的な内容を修得するとともに、地域における図書館の意義や役割を認識するほか、公立社会教育施設の職員としての倫理を身につけること等が必要である。
  • また、司書、司書補などの研修は研修参加者の人数や講師の確保等の観点から、都道府県レベルで行うことが効果的かつ現実的である。
  • 司書資格の有無により知識や技術に差が生ずる場合は、コース別の科目を設けるなど、対象者や内容、研修方法に工夫が必要である。
  • 実態として、図書館サービス業務に携わる非常勤職員が増加しており、正規職員に準じて研修を行うことが望ましい。また、図書館サービス業務に携わらない事務職員や、ボランティア等も、初任者研修に参加することが望ましい。

2経験年数に応じた研修(キャリアアップ研修)

  • 研修内容としては、司書養成科目の内容についての最新の知識・技術や、養成科目ではあまり触れられない知識・技術(主題専門分野の知識など)、役職等に応じて必要となる知識(管理職のための公共経営と組織管理のための知識など)等が挙げられる。
  • また、経験年数に応じて、職務内容が専門化・高度化される一方で、資格取得時からの時間の経過に伴って、必要な知識や技術も変化することが多い。
  • このため、経験年数に応じた研修では、資格取得時に修得した知識や技術をもとにして、社会の変化や新たな課題に対応した図書館サービスに必要となる、最新の知識や技術を加えることが必要である。
  • 文部科学省が、各図書館で指導的立場にある中堅以上の司書を対象として実施する図書館司書専門講座」、「図書館地区別研修」については、最新のテーマをより積極的に取り入れるとともに、参加者が地域の研修で講師を務めるなどしてその成果を普及していくことが望まれる。
経験年数等に応じた研修の事例 千葉県

 千葉県立図書館(中央図書館、西部図書館、東部図書館)では、県内市町村立図書館等職員の資質向上を図るため、県公共図書館協会と連携協力して、公共図書館職員研修を実施している。また、県教育委員会でも、研究協議会や研修を実施している。
 県公共図書館協会事務局が中央図書館内にあり、県立図書館・協会・県教育委員会は実施する研修の内容や開催時期が重複しないよう、連絡調整を行っている。研修対象は、勤務経験年数や役職によって区分され、新任職員(0~2年)、中堅職員(3年以上)、職員全体、館長向けの研修があり、それぞれ分野別に展開している。
 このように、県立図書館では研修事業に力を入れており、豊富な研修プログラムを実施している。研修の企画・運営は、図書館職員が担当しており、若い職員にとっては、経験豊かな職員からの専門的知識や経験の継承や、自身のスキルアップにつながっている。
 平成18年度の研修参加者数は963人であり、県内公共図書館の専任職員760人が、年間1人1回以上参加していることになる。

  • 〔研修内容〕
    • 1新任職員研修
      県立図書館
      公共図書館新任職員研修会、レファレンス研修会〔基礎 2回〕、児童サービス基礎研修会〔4回〕
    • 2中堅職員・館長研修
      県立図書館
      レファレンス研修会〔専門、インターネット情報検索 2回〕、公共図書館サービス計画研修会
      県公共図書館協会
      スキルアップ研修会〔児童奉仕 2コース 3回〕・〔参考調査〕・〔郷土行政資料〕
      県教育委員会
      図書館長研究協議会
    • 3職員全体を参加対象とした研修
      県立図書館
      図書館運営研修会、地域行政資料研修会、資料補修研修会、図書館ネットワーク研修会、障害者サービス研修会
      県公共図書館協会
      視察研修会
      県教育委員会
      公立図書館と学校の連携を図るための研修会
    • 県公共図書館協会は、ブロック(7地域)で独自の研修を年1回実施することがある。
  • 〔今後の課題〕
    •  経験を積み様々な研修に参加した職員の増加に伴い、更にステップアップするための専門分野の研修への要請がある一方で、日常的によく受ける簡単なレファレンスサービスの研修への要望もある。各館の図書館サービスの状況等や職員のキャリアに対応した研修内容やレベルの設定が課題である。
    •  健康情報や行政支援サービス、図書館サービス計画の立案、図書館資料の選定・蔵書構築など、図書館をめぐる諸環境の変化による多様な研修ニーズに応える必要がある。
    •  講義だけではなく、演習(ワーショップ)を含む参加型の実践的な研修を一層充実する必要がある。

3管理職を対象とする研修

  • 管理職は、社会や地域の中で図書館が持つ意義や役割を十分認識し、その実現に向けて職員を統括し、迅速な意思決定を行うことが必要である。また、地方公共団体の行政部局や議会に対して、図書館の役割や意義を理解してもらうよう積極的に働きかけを行うことも必要である。
  • 管理職がこれらの役割を果たすためには、図書館を取り巻く環境や制度、図書館の役割や意義、図書館経営などについて、継続的に研修を受講して知識・技術を高めることが重要である。
  • 都道府県が主催する管理職研修においては、図書館運営形態や危機管理等をテーマとする研修への出席率が高く、このような各図書館が直面している経営上の課題についての研修を更に充実させる必要がある。
  • 国においては、就任1年未満の新任図書館長を対象とする「新任図書館長研修」を実施しているが、この内容は、図書館長以外の管理職や図書館職員にも有用であることから、従来から映像を各地に配信してきた。そして、平成20年度からは、インターネットを活用し、当該研修のコンテンツをオンデマンド配信することを検討中である。このように、研修に直接参加しなくても、幅広い職員が学習することが可能であり、各地方公共団体や図書館等での工夫も望まれる。

4図書館サービス向上のための研修

  • 図書館サービス向上のための研修は、日々の実践に直結するものであり、即戦力となるよう意図する必要がある。また、都道府県立と市町村立、さらには各図書館によって、日常的に求められるサービスの内容が異なる面もあるため、各地方公共団体や図書館においては、地域の特色や図書館の役割に応じた内容の研修を行う必要がある。
  • 例えば、他の図書館と、一般書の選定などの基礎的な図書館活動について情報交換を行うだけでも、より有効な業務方法を見出すことができ、生きた研修となる。
  • 地方公共団体によっては、一般行政職等として採用した職員を図書館に配置しているところもあり、図書館での在任期間が短期間になる傾向があるため、短期間で即戦力となる研修方法についても検討し、教材やカリキュラムを開発する必要がある。
図書館の役割等に応じた館内研修の事例:我孫子市民図書館

 我孫子市民図書館で行っている研修は、主に、1図書館業務を修得するための基礎的な研修、2図書館サービスを全体的にレベルアップするための研修の2つに区分される。

  • 〔研修内容〕
    • 1図書館業務を修得するための基礎的な研修
       初任者や非正規職員を対象とし、図書館業務に関する基礎的な知識を修得することを目的とする。具体的には、資料検索、インターネット検索、資料修理、接遇、障害者サービス、著作権法、電算管理、図書館のホームページの更新等についての研修を行う。
    • 2図書館サービスを全体的にレベルアップするための研修
       図書館サービスに携わる職員全体を対象とし、図書館サービスを全体的に向上させることを目的とする。具体的には、レファレンス事例、参考資料、インターネット活用法、有料データベース検索、資料選定、絵本、新作素話、郷土資料等についての研修を行う、
       このほか、必要に応じて、クレーム対応、文書の書き方、外部研修受講者が研修内容を伝えるなどのテーマで、適宜、研修を実施している。
  • 〔今後の課題〕
    • 研修内容について
      • 一般資料や視聴覚資料、調べ学習のための資料の内容に関する研修が不足しており、今後充実が必要である。
      • 市の行政の仕組み等について学ぶための研修が必要である。
      • よくあるレファレンス事例を多数把握するなど、日頃の業務に直接的に役立つ内容の研修も、もっと充実する必要がある。
      • 中堅職員の研修は、千葉県等が実施する研修を受講させているが、1研修参加の時間の確保、2旅費の確保、3計画的・体系的な研修受講、4研修成果を他の職員へ普及するための機会の設定等が困難なため、図書館として、研修成果を十分に活かすことができていないのが実情であり、今後の課題となっている。

5特定分野の専門性を高めるための研修

  • 社会の変化等に応じた新たな課題等に対応する分野、例えば新しい情報技術の活用やビジネス支援、行政支援や医療関係などのテーマについての体系的な研修が少ない。
  • とりわけ、高度情報化への対応が遅れているため、デジタル情報の利用能力を高めるための研修を、当面重点的に行うことが必要と考えられる。
  • 一般書各分野・視聴覚資料(音楽・映像)などについての知識を身につける場も不足している。分野が幅広くて技術革新が著しく、習得すべき知識も膨大であるため、全国的なレベルでの研修の実施も望まれる。
  • 児童サービスとレファレンスサービスに関する研修は、比較的多く行われているものの、地方都市や町村部では、これらの研修でさえ十分に実施されておらず、大都市圏とそれ以外の地域での研修機会の格差の是正が必要である。
  • また、長期的な展望に立ち、全国的なレベルで計画的にビジネス支援や法律、自然科学など様々な分野の専門家を養成することが必要であるという指摘もあった。
特定分野の専門性を高めるための研修の事例:デジタルライブラリアン講習会(デジタルライブラリアン研究会)

 デジタルライブラリアン研究会(代表:糸賀雅児(慶應義塾大学教授))では、最新の情報技術(IT)を使いこなすスキルと経済の低成長時代に見合った図書館経営センスを身につけた人材の育成と確保に向けて、図書館長を含む現職の図書館職員等を対象に、「デジタルライブラリアン講習会」を開催している。
 この講習会は、「公共図書館コース」「大学図書館コース」「(県別)短期集中コース」の3コースを設定している。このうち、平成18年5月に開催された「公共図書館コース」について、実施概要及び研修プログラムを紹介する。

受講対象者
司書資格を持っているか、公立図書館の実務経験(正規職員、非常勤、嘱託、臨時など)が2年以上の者
定員
20人
期間等
延べ7日間(隔週月曜午後、1回4時間)
受講評価
5回以上の出席とレポート審査にもとづき合格者に修了証を交付。なお、優れたレポートは、高度映像情報センター(AVCC)の報告書に掲載し、公表している。
研修内容
  テーマ
第1週 ハイブリッド図書館のめざすもの
  • (1)「これからの図書館像-地域を支える情報拠点を目指して-」
  • (2)行政戦略としてのビジネス支援サービス-図書館と支援機関の連携によるビジネス支援の模索-
第2週 図書館におけるインターネットの可能性
  • (3)情報検索-出版情報、サーチエンジン、ウェブサイトプラス演習
  • (4)公共図書館における地域情報、ビジネス支援のサイト・リンク集プラス演習
第3週 公共図書館におけるデータベース活用法
  • (5)ビジネス支援図書館におけるデータベースの活用事例
  • (6)公共図書館における健康情報サービスの方法と課題
第4週 図書館による情報発信(1)
  • (7)webページ作成に関わる工夫、webページとプログラムプラス演習
  • (8)webページを用いた図書館の情報発信
第5週 図書館による情報発信(2)
  • (9)デジタルデータの作成、蓄積とxmlの活用-演習を中心に
  • (10)webページを用いた図書館の情報発信
第6週 プッシュ型メディアによる図書館の情報発信
  • (11)メールマガジン、RSSによる図書館の情報発信
  • (12)メールレファレンスとパスファインダーづくり
第7週 地域電子図書館とデジタルライブラリアンの役割
<ワークショップとプレゼンテーション>
  • (13)地域のポータルサイトとしての公共図書館
  • (14)受講者が考える図書館の「情報発信」
  修了レポート提出

6教育の手法(上記各研修の共通事項として)

  • 参加者には、研修の成果として、地域が抱える課題の解決に役立つ図書館サービスや事業の企画・運営に必要な能力、そのための資料の組織化やコンテンツの作成のために必要な知識・技術、人々にわかりやすく説明する能力等の向上が求められている。また、参加者の自発性を引き出し、研修の効果を高めることが必要である。
  • このため、研修の手法には、講義だけでなく、ワークショップ形式やレポート作成などをより多く取り入れる必要がある。また、参加者を地域や現場での研修の講師に育てる観点から、参加者によるプレゼンテーションを取り入れることも重要である。
  • 行政支援やビジネス支援など課題解決支援をテーマとする研修では、各参加者がサービスの課題を選定し、実際の地方公共団体を想定してサービス計画を立案する研修を行うことで、参加者の実践的な能力の育成を図っている。
演習の事例:図書館司書専門講座「図書館サービス計画の企画・立案」

 「図書館司書専門講座」は、文部科学省と国立教育政策研究所社会教育実践研究センター(以下「国社研」という。)が共催し、勤務年数が概ね7年以上で指導的立場にある司書等を対象に実施している。研修期間は2週間で、講義、事例研究、研究協議、レクチャーフォーラム、演習等の様々な研修方法を採り入れており、このうち「図書館サービス計画の企画・立案」の演習には3日間(14時間30分)を当てている。この演習では、実際の公立図書館をモデル図書館として位置づけ、その現状を踏まえて図書館サービス計画を策定するものであり、図書館サービス計画の企画・立案に関する知識・技能が効果的に習得できるよう工夫している。

  • 演習内容
     参加者は、図書館サービス計画の内容ごとに設定した10の演習テーマ(下記参照)から希望するテーマを選択し、そのテーマに基づき4~5人で1つのグループを編成する(平成19年度は12グループ)。参加者は事前に、演習で使用する資料として、自らが所属する地方公共団体の教育振興基本計画、社会教育計画等、勤務先の図書館サービス計画等を準備する。
     演習では、都道府県・市町村立図書館の経験を積んだ司書(演習講師)と国社研職員がチームになって指導に当たり、1チームが4グループを指導する。
     演習内容は、グループ内の参加者が所属する図書館1館を選定し、持参した行政資料等に基づき人口、面積、職業分布などの地域特性及び図書館の運営方針・内容等を書き出し、図書館サービスの現状と課題をまとめる。その上で、それぞれの演習テーマに沿って、図書館サービスの課題を解決するための具体的な方策を検討し、その地方公共団体と図書館に適した図書館サービス計画を作成する。
     演習の最終日には、各グループが作成した計画書を発表し、各演習講師が助言、評価を行う。
  • 演習の評価等
     参加者による事後アンケートの結果では、受講生の96パーセントが、本演習を「よかった」と評価している。また、全日程を通して特に良かった(印象に残っている)内容として、この演習が最も高い評価を得ていた。
     受講生からは、「館によってサービスレベルが違うので、計画性をもって業務を行っている人の意見はとても勉強になった」「短い時間でこれだけやれるということが実感できた。演習講師のアドバイスが大変的確だった。」などの感想が寄せられている。
  • 演習テーマ(平成19年度)
    1図書館システムの整備に関する計画、2図書館資料の構築と管理に関する計画、3地域資料の収集・提供等に関する計画、4図書館利用に関する計画、5図書館間相互協力に関する計画、6貸出・レファレンスサービスに関する計画、7児童・青少年に対するサービス、・8図書館利用に障害のある人へのサービスに関する計画、9多文化サービスに関する計画、10図書館職員研修に関する計画、その他

(2)研修の形態や方法等

1インタ-ネット等を活用した遠隔教育や、遠隔教育と集合学習との組合せなど様々な形態の研修

  • 大都市圏とそれ以外の地域で研修機会に格差があることや、職員の多忙感が研修参加への障害となっている現状等を踏まえ、今後は、インターネット等を活用した遠隔教育による研修を積極的に取り入れることが必要である。
  • 導入に当たっては、参加者の受講確認ができるシステムが不可欠である。また、講師と学生の間で双方向のコミュニケーションが図れる仕組みが必要であり、特に演習形式の研修では、修得の個人差が大きいため、この仕組みを活用したきめ細かな対応が求められる。さらに、参加者同士でコミュニケーションが図れる仕組みがあれば、参加者の意識を高めたり、参加者間のネットワークづくりも可能になり、より大きな研修成果が期待できる。
  • テキストや講義録をデジタルコンテンツ化し、配信することも必要である。また、よくある質問とその回答をインターネットに掲載したり、研修終了後も質問を受け付けることも、研修成果を高める上で効果的である。
  • なお、インターネットを活用した遠隔教育の導入に当たっては、まず、配付資料や教材の配信から着手し、静止画の配信、動画配信、メールでの質疑応答、リアルタイムでの質疑応答等、できるところから段階的にでも取り入れていくことが重要である。
  • 遠隔教育の全面的な導入が困難な場合でも、集合研修の事前学習として、メール等を活用して参考文献の指示や課題を与えることなども効果的である。
  • インターネットを活用した研修を継続的に実施するためには、講師個人に負担をかけるのではなく、研修の実施主体による組織的な支援体制を整備することが不可欠である。パソコンや基本ソフトウエアの使用方法、トラブル解決など、研修参加者や講師を技術面でサポートする職員を配置するなどの支援体制も必要である。
(参考)
大学の授業におけるインターネット等を活用した遠隔教育の事例:八洲学園大学

 八洲学園大学は、E-ラーニングを用いた通信制大学として、主に社会人を対象にした授業を実施している。同大学の学習形態は、テキストによる学習を行いレポートを提出する方式(テキスト履修)と、大学で行っている授業をインターネットで配信して自宅・職場等で受講する方式(メディアスクーリング)があり、この2つを組み合わせて行っている。
 ここでは、インターネットを活用した遠隔教育の手法として、メディアスクーリングについて紹介する。

  • パソコンの画面の構成
     メディアスクーリングでは、学生側のパソコンの画面は、教材の該当ページの画像、講師や教室の映像、教師に「発言」をするためのチャットスペース、理解度を講師に伝えるためのマーク「エクスクラメーションマーク(わかった)」「クエスチョンマーク(よくわからない)」等から構成されている。
  • 授業の進め方
     講師は、黒板の代わりに、パソコン上の板書エリア(教材の画像上)に書き込みを行いながら授業を進める。学生は、授業中、チャットスペースに質問・意見等を記入し、教員に送信できる。教員は、適宜、それらを授業の中で紹介したり、それらに対する意見を求めるようにして、学生の授業参加への臨場感を高めるよう配慮している。なお、チャットを活用した「発言」は、毎時間100件以上にのぼる。
     また、学生は、画面上の「エクスクラメーションマーク(わかった)」「クエスチョンマーク(よくわからない)」のマークをクリックすることにより、理解度を教員に伝えられる。教員の画面には、学生の理解度の平均値を時系列にしたグラフが現れ、授業の進行の参考とできる。演習科目の指導は、同時に50人程度までしか行えないため、同一科目を複数開設し、複数の教員で担当している。この場合、異なる教員でも同じ内容の授業を行えるよう、同一のシラバス、教材、教科書を使用している。なお、教材は事前にインターネットに掲示し、学生が予習できるようにしている。この閲覧の履歴も残される。
     宿題を出すこともある。約90パーセントの学生が期限内に提出し、学習意欲の高さが伺える。
  • 運営について
     学生間の交流を図るため、科目専用の掲示板を作成したところ、学生が様々な情報を寄せてきた。さらに、これとは別に学生間のチャットを立ち上げるなど、仲間意識も生まれているようである。
     E-ラーニングでは、学生の出欠確認が非常に重要である。八洲学園大学では、システムに学生のIDとパスワードが登録されており、科目毎に、担当教官が、学生の入退室の状況を画面上で把握できるようになっている。
     メディアスクーリングの実施体制については、メカニック担当の職員が大学に常駐し、授業を全面的にサポートしている。また、学生支援センターでは、例えばシステムにつながらないなど、学生側の問題にかかる問い合わせにも応じている。E-ラーニングの継続的な実施のためには、このような組織的な支援体制が不可欠である。

(八洲学園大学 高鷲忠美教授の事例発表による)

21ヶ月に1~2回の研修を1年間かけて実施するなどの分散型研修

  • 参加者、講師ともに負担は大きいが、研修内容についての自学自習やレポート作成の時間が確保できるなどの点で有効である。

3国レベルの研修を地方でも開催

  • 経費や実施体制、講師の確保などの課題があるが、地方では企画できない研修が受講できるメリットがある。

4研修プログラムを部分的に参加対象者を拡げて実施

  • 既存の研修プログラムの一部を、職階が異なる者や他館種の職員等、募集対象者以外の図書館関係者にも開放することにより、知識・技術の共有を図ることが可能となる。

5大学、大学院の授業や公開講座等の活用

  • 大学・大学院においては、社会人の受入を推進するため、社会人特別選抜、夜間大学院の設置、昼夜開講制、科目等履修生制度、通信教育、公開講座の実施など、履修形態の柔軟化等が図られている。このような制度等を活用することにより、最新の知識・技術を学ぶことができる。
  • 大学や大学院においては、図書館職員を対象にした研修の機会を充実することが望まれる。その際、図書館職員の勤務形態は変則的であるため、現場の職員が参加しやすいよう開講時間を設定するなど、受講者の拡大のための配慮・工夫が望まれる。これらについて、図書館関係団体等が協力して要望していくことも考えられる。
  • 近年、大学院へ職員を派遣する研修制度を実施している地方公共団体もあり、こういった制度をより多くの図書館で活用することが望ましい。

6他の図書館での実務研修の実施

  • 他の図書館で実務研修を行い、他館の管理・運営を知ることにより、その長所・短所を自館の図書館サービスの向上に生かすことができる。
  • 実務研修は、図書館の規模やサービスが、自館と同程度の図書館で実施することが効果的である。一方、より進んだ図書館活動を展開している図書館での実務研修も有効である。
  • 新設の図書館では、他館から経験を積んだ職員を派遣してもらい、職員の指導を担当してもらうことも効果的である。新設館の職員にとって有意義であるとともに、派遣された職員は、指導力を身につけることができる。

7研究の奨励と、研究発表の場の確保

  • 図書館職員が研究を行い、研究発表や論文の作成を行うことは、知識・技術の飛躍的な向上につながる。また、その研究成果の発表の機会を確保することは、発表者はもとより、参加者にとっても効果的な研修となる。定期的に紀要を刊行している図書館や、学会等に参加している図書館職員もおり、研修の一環として、こういった取組を奨励することも重要である。

8地方公共団体で定期的に研修を実施するための体制の工夫

  • 都道府県立図書館では、県内の図書館職員等を対象とした研修の質の維持・向上に努めているが、図書館職員の業務量が増大する中、専任職員の比率は減少してきており、研修の実施体制を確保することが困難になってきている。
  • よりきめ細かなプログラムを企画・運営すれば、人的にも予算的にも負担が増大する。このため、例えば近隣の都道府県が協力して研修プログラムを調整することや、共同で研修を実施することも考えられる。また、他の研修のプログラムや公開されている資料を活用することも考えられる。

(3)研修に対する評価

  • 研修の評価は、研修の質の向上のために行うものである。研修の評価には、参加者による研修内容の評価と、講師による参加者の評価の二つの側面があり、相互の評価を通して、緊張関係をもって研修が行われるようになり、研修の質の向上が図られる。
  • 参加者による研修の内容や講師に対する評価は、以前と比べればある程度行われてきているが、まだ不十分である。研修の評価に関するモデル的な事例を収集し紹介するなど、研修主催者に評価を行うよう働きかける必要がある。
  • 参加者による評価を講師にフィードバックすることにより、講師が説明内容や教育方法を改善して、参加者の理解度や満足度を高めることが重要である。
  • 評価の方法としては、現在は、研修参加者に対するアンケートの実施、実務研修等での意見交換会等を通じて、参加者の評価や意見・要望を聞き、以後の研修に反映させるなどの取組がなされている。しかしながら、研修の内容が、参加者において、実際に職務上どの程度役に立ったかという研修自体に対する客観的な評価は行われていない。研修後一定の期間をおき、研修で得た知識や技術を職場でどのように活かしたかをアンケート等で把握することも、研修を評価する上で必要である。
  • このような研修自体の評価の方法については、社会教育実践研究センターや研究者等からノウハウの提供が行われることが望まれる。

研修の評価の事例:図書館司書専門講座のアンケート

 図書館司書専門講座では、研修開始時と研修終了後にアンケート調査を実施し、翌年度の講座の企画・運営に反映させている。アンケート調査は、事前アンケート、事後アンケート、科目別アンケートの3種類を実施している。各アンケートの主な項目は、次のとおりである。

  • (1)事前アンケート
    • 講座への参加のきっかけや参加のための費用負担など研修参加の背景等
    • 研修の実施時期、講座に期待すること 等
  • (2)事後アンケート
    • この講座の受講がこれからの仕事に役立つと思うか(5段階評価)
    • プログラムは適切であったか(5段階評価)
    • 講習の時期・期間は適切であったか(3段階評価)
    • 講座の運営は適切であったか(5段階評価)
    • 全日程を通して特に良かった内容・テーマ・講師(記述式)
    • 新たに聴講したい講師や事例(記述式) 等
  • (3)科目別アンケート
    • 科目の4段階評定、評価理由(選択式)、意見・感想
【調査票作成の工夫点】
  •  比較的判断が容易な時期や期間については3段階評価とし、運営やプログラムの内容については、5段階評価としている。また、良悪のみの判断を求める内容については4段階としている。
  •  科目別アンケートの4段階評定については、評価の理由を求めている。これは、受講者が回答しやすいように10項目の観点を示し、選択するようにしている。(複数回答可)
【研修の評価】

 これらのアンケートの結果は、項目ごとに集計し、集計結果を分析しやすいようグラフ化し問題点を整理している。また、研修終了後、国社研職員による検討会を開催し、研修の運営や研修内容、演習課題設定等について、問題点・課題を報告しアンケート結果も踏まえて検討を行い、次年度の図書館司書講座や他の研修への改善策として活かしている。
 具体的な改善の例として、平成18年度のアンーケート結果から「図書館サービス計画の企画・立案」の演習で時間不足を感じている参加者が多数いたため、演習内容を簡素化するか演習時間を確保するか検討し、他のプログラムとのバランスを考慮しつつ、演習時間を1.5時間増やすこととした。その結果、平成19年度の講座では、演習の評価は高く、時間不足の指摘はほとんどなかった。

(4)研修の参加者に対する評価

1研修成果の評価の方法

  • 研修終了時にレポートの提出を課す例があるが、研修で学んだ内容をどのように日々の図書館業務に活かすのかという観点からレポート作成を課して、評価することが望ましい。新任図書館長研修では、平成17年度から、研修終了時のレポートの課題を「図書館(自館)の自己評価と今後の改善方針」とし、具体的な業務改善方針と研修内容の職場への還元方法等を記述するように変更したところ、レポートの内容が大変充実し、研修へ臨む姿勢も積極的になった。
  • 研修に全回出席した者に修了証書を発行することにより、研修実績の評価としている例もあるが、全日程出席できる者が減少しており、その意味が薄れてきている。一定以上の出席率とレポート提出を併用するなど、修了要件を弾力化することも考えられる。
  • 参加者の所属図書館が、研修終了後に参加者から復命書を提出させている場合が多いが、復命書に研修の成果をどのように実践に活かすかという内容を含めることによって、参加者が何を得たか、得なかったかを明確に把握でき、研修の効果も上げることができる。
  • 研修終了後、参加したことによる成果が職務に反映されているのかについて、職場や個人において評価を行うことが必要である。
  • なお、参加者の事前準備の状況についての評価も必要であり、そのための手法の開発が必要である。事前に課題の提出等を求め、研修の中で、講師による講評を実施している例もある。
研修レポートの課題の例:新任図書館長研修

 文部科学省、国立大学法人筑波大学等の共催で毎年実施している「新任図書館長」研修では、研修の修了条件として、レポートの提出を義務づけている。平成19年度のレポートの作成要領を以下に紹介する。

平成19年度新任図書館長研修レポート
課題
図書館(自館)の自己評価と今後の改善方針
提出先
各都道府県の新任図書館長研修担当者
提出締切日
研修最終日の2週間後の日(平成19年度は9月14日)
レポート作成上の留意点
  • (1)レポートの内容は、1.講義内容のうち自館の改善に役立つと思われる事項や事例を述べ、それをもとに、2.自館の自己評価を行い、3.自館における具体的な改善方針について記述すること。3には、研修成果の自館研修への還元方法(館内研修等)を含むこと。
  • (2)講義内容の要約、自館の歴史・現状紹介にならないようにすること。
  • (3)項目立てや形式は自由とする
  • (4)用紙はA4とし、1ページは、左側マージンを30ミリメートルとり、35文字かける30行で記載する。1,800字(50行、約2枚)程度とする(ある程度は長くなってもよい)。レポートの最後に、タイトルと所属の図書館名・氏名を忘れずに記載すること。
研修レポートを発表している事例:ビジネスライブラリアン講習会

 ビジネス支援図書館推進協議会(会長:竹内利明(電気通信大学教授))では、図書館員のビジネス支援スキルを高める講習会として、「ビジネス・ライブラリアン講習会」を毎年開催している。
 この講習会では、毎回、修了レポートの提出が義務づけられ、審査を経た上で、一定の水準以上であると評価された者に、「ビジネス・ライブラリアン講習会修了証」を交付している。現在、全国の図書館員約100名にこの修了証が交付されている。
 修了レポートは、4,000字程度で、講習内容に即したものであること、また、実践報告書ではなく、講習会で得たものを基礎として独自の発想や考え方を取り入れた内容とすることが求められている。
 レポートの評価は、講習会の講師により、テーマの設定、全体構成、論旨、展開、結論(意見・主張)、先行文献、記事の採取等の観点から総合的に行われる。
第4回講習会(平成18年9月開催)修了レポートのうち、特に優秀であると評価されたものが、財団法人高度映像情報センターの調査研究報告書の中で公表されている(『地域を支える公共図書館-図書館による課題解決支援サービスの動向-』)。
 全国の公共図書館にビジネス支援サービスが浸透してくる中で、それぞれの地域の特性を生かしたモデルの構築が必要となってきている。ビジネス支援図書館推進協議会では、研修レポートに、実効性のある斬新な発想力を基にしたビジネス支援モデルを求めており、優秀なレポートを様々な機会を通じて公表することにより、今後も、ビジネス支援サービスの全国的な普及と質の向上を支援していく予定としている。

参考
AVCCライブラリーレポート2007「地域を支える公共図書館-図書館による課題解決支援サービスの動向-」

2研修歴を記録し証明する仕組み

  • 研修への参加を評価するためには、研修歴を記録しておくことが必要である。生涯学習パスポートに類するものを配付して、研修の記録を記入していくことも考えられる。
  • 大阪府では、上司(評価者)が部下の研修歴や受講させたい研修を記録する仕組みがある。本人は、どのような資格を取得し、能力を向上させたいかを申告できるようになっている。事務的な負担はあるが、研修歴の記録は専門職のキャリア形成の記録として意義があり、人事にも役立つと考えられる。
  • 民間団体等が実施する図書館に関する研修へ個人的に参加した場合の評価はほとんど行われていない。また、個人で行っている学習や研究等の評価も必要と考えられるが、現在のところ、その確認方法や個人学習の成果の測定など評価方法についての社会的な議論が深まっていない。今後、生涯学習社会の進展に伴い、このような個人による学習の成果を評価しようとする機運が醸成されることが期待される。
  • 民間団体等の研修を受講した者においては、研修カリキュラム、講師名、講演内容等の研修内容が判断できる資料や、修了証書や成績証明書等を保管し、必要に応じて研修参加を所属先に証明できるようにしておくことが必要である。

3研修修了者の認定・名称の付与

  • 平成8年に取りまとめられた生涯学習審議会社会教育分科会報告「社会教育主事、学芸員及び司書の養成、研修等の改善方策について(報告)」では、図書館の専門的業務について、高度で実践的な能力を有する司書に対し、その専門性を評価する名称を付与する制度を設けることについて提言されている。
  • 社団法人日本図書館協会で、この課題について検討を重ねてきた経緯もあり、同協会の動向を尊重しつつ、実現を期待したい。

4研修の評価を人事や職場の待遇に反映させることついて

  • 現状においては、研修への参加を希望する全ての職員が参加できるわけではなく、職場における多忙さや職務内容、年齢などを加味し順番に参加している状況である。また、評価の高い職員や今後の育成を期待する職員などを所属機関の職員養成計画に基づき研修に参加させるという場合もあるが、個人の希望だけで参加が決定されている状況も見受けられる。
  • 研修へ参加した者の評価がどうあるべきかについては、それぞれの職場での研修への参加状況によって異なる。研修に数多く参加したことだけを評価し、人事等に反映させるのは適切ではない。

(5)研修に参加できる環境の整備

1設置者や管理職に対する、職員の能力育成の必要性についての理解の促進

  • 現状では、とりわけ中堅職員向けの研修は、
    • 1)研修参加の時間が取りにくいこと
    • 2)旅費の確保が難しいこと
    • 3)研修が体系的に整理されていないため、計画的な研修参加や、研修成果の蓄積が難しいこと
    • 4)他の職員に研修内容を伝達する機会の設定が難しく、資料の回覧程度で済ませていることもあること
    などの阻害要因があり、所属図書館内で研修の必要性についての理解が進んでいないのが実情である。
  • 理解の促進を図るためには、その前提として、研修の有用性の評価とその公開を進める必要がある。研修が実務に役立っていること、その時間は仕事に従事できないが、長期的には業務の効率化や組織運営の向上につながることを明らかにする必要がある。そうすることにより、例えば、長期間休職して大学院で学んでも、その成果を職場に還元してもらえるならば研修に出してよいという判断が働くようになることが考えられる。
  • 図書館だけでなく、教育委員会や首長部局の職員全体の研修に対する理解、とりわけ専門的職員を研修に参加させることが、結果的には業務の効率化や住民サービスの充実につながるという認識が高まれば、研修に参加しやすい環境が整備される。

2研修に関する情報の収集と提供

  • 各都道府県で研修に関する情報を幅広く収集し、実施主体別や専門分野別等に区分・整理して提供することにより、研修機会をわかりやすく提示することが考えられる。これにより、各職員が研修計画を立てやすくなるほか、必要とされている知識・技術に気がつくことも期待できる。
  • また、地域においてどのような研修が不足しているかがわかり、地方公共団体や図書館が研修を企画する際の参考にもなる。さらに、図書館の管理職にとっては、研修を活用した職員の育成計画を作成するための材料にもなる。

3研修への参加を支援する仕組み

  • 社会教育法第9条の6では、社会教育主事の研修を奨励する規定があり、公民館職員についても、同条を準用する規定がある。司書についても、同様に、研修を奨励する法的な環境整備がなされたことから、今後の研修への参加促進が期待される。
  • 職員を大学院へ派遣する制度や、自主研修グループの活動に対する助成を行っている地方公共団体もある。このような、各地方公共団体が有する制度について情報を収集し、十分に活用することも必要である。

(6)研修参加者による職場への研修内容の周知・普及

1研修参加者による、職場での研修内容の報告会等の実施

  • 現状では、研修に参加できる人数は少なく、職員全員が研修に参加することは困難である。このため、研修参加者が、職場で研修内容を報告し、職員全体に研修成果を普及することが重要であるが、現状では、職員が一堂に会する機会が減少し、館内研修のための時間が確保しづらくなっているため、資料の回覧により周知するに留まっていることもある。
  • 研修参加者が講師となり、各図書館等で勉強会や研修会等を実施するなど、研修内容の職場への周知に努めることが望まれる。

2講師として活躍できる人材の育成

  • 研修を企画する場合、講師が見つけられなかったり、同じ講師に集中するなどの状況があるため、地方公共団体や各図書館の研修で講師として活躍できる人材を育成する必要がある。そのためには、既存の中堅研修等の中に、講師養成のための内容を入れるとともに、講師用の手引書を作成することが考えられる。
  • どこにどのような講師として活躍できる新たな人材がいるかについて、多くの地方公共団体や図書館で情報を共有できれば、研修の講師探しが容易になるとともに、研修内容の幅を広げることができる。このため、講師として活躍できる人材を養成するための研修修了生のネットワークづくりを支援することも必要である。

(7)研修主催者による研修内容の周知・普及

  • 著作権などをクリアした上で、研修の配付資料をホームページ等で広く公開することにより、参加できない者に配付資料を提供し、個人の学習を促進することができる。配付資料だけでは学習が難しい内容のものであれば、配付資料と合わせて講義録があれば利用しやすくなる。
  • 核となるような研修については、講義録を作成しインターネットに掲載することにより、研修内容を効率的に普及することができると考えられる。大学、研修所、民間団体等との連携協力によって実施することも考えられる。
  • 国等において、研修内容の公表の在り方について標準的なモデルを策定することが望まれる。

(8)その他

  • 指定管理者の契約社員等の、図書館サービス業務に携わる民間の団体や職員等にも、契約内容や雇用・勤務形態等を検討の上、必要に応じて、体系的な研修を受講させる必要がある。
  • 指定管理者制度の活用等、地方公共団体や図書館が民間事業者に図書館サービスを委託する場合は、受託者が、契約者の要請に応じ、図書館サービス業務に携わる民間の職員等を研修に参加させることを、委託契約に盛り込むことが望ましい。

3 研修の体系化

(1)研修の体系化の必要性

  • 「これからの図書館像」を実現するためには、社会の急速な変化等に対応して図書館を改革していく必要があり、図書館職員は、不断の学習を積み重ねる必要がある。また、図書館職員に必要な能力は、資格取得のための学習だけで完成されるものではなく、図書館勤務による実践と、それを踏まえたより高度な学習を繰り返す中で、徐々に高められていくものである。このため、図書館職員は、キャリア等に応じて継続的に研修に参加し、知識・技術を向上させ、能力を高めることが重要である。
  • 国や都道府県、市町村、図書館関係機関等においては、従来から初任者研修や中堅職員研修など、図書館に関する様々な研修を実施している。近年では、民間団体等においても、電子情報の活用などに関する研修を実施している例も見られる。
  • また、住民や地域に役立つ図書館のサービスの向上を目指し、医療関係団体や商工会議所などが実施する健康や医療、ビジネス支援の研修に参加するなど、図書館以外の知識・技術を修得しようとする動きも出始めている。
  • しかしながら、新任職員や図書館勤務年数の短い職員(管理職を含む)は、どの段階でどのような知識・技術を学習することが必要かの判断が困難で、研修を適切に活用できにくいことが指摘されている。
  • また、地方公共団体においては、財政の悪化や研修の企画・運営、研修指導を行う人材の不足等により、今までのような研修の実施が困難になりつつあると言われている。
  • このような状況の中で、図書館職員に対する研修を充実するためには、現在実施されている研修を充実することはもとより、既存の研修を効果的に活用する必要がある。研修実施主体が相互に連携し役割分担を行うとともに、国や都道府県、図書館関係団体等が実施している様々な研修の情報を収集し、体系的に整理し提供していく必要がある。
  • 研修を体系化することにより、図書館職員にとっては、職務内容や専門性、キャリア等に応じて、どのような研修を受講すべきかが明確になる。また、研修実施主体にとっては、研修の役割分担が明確になり、企画・実施の効率化が期待できる。

(2)研修体系の考え方

  • 本協力者会議では、市町村、都道府県、国(図書館関係機関を含む)で実施されている研修を中心に、研修の体系化の観点から整理するとともに、国立国会図書館、大学、民間団体等の研修についても要望として提示した。
  • 図書館職員の研修の体系化に当たって、平成8年にとりまとめられた生涯学習分科審議会報告「社会教育主事、学芸員及び司書の養成、研修等の改善方策について(報告)」の中の別紙9「司書等の研修体系について」を現状を踏まえて見直し、改めて整理した。(別紙1「司書等の研修体系について」参照)
  • 国では、管理職や中堅の司書等の指導的立場にある者を対象に、高度かつ専門的な内容の研修、全国的・国際的動向の理解など広い視野から職務を遂行するための研修、新たなニーズに対応した研修などを行うことが求められる。また、地方公共団体が行う研修を支援するため、新たな研修プログラムや研修手法の開発、研修に関する情報の収集・提供、評価方法の開発・普及等を行うことも重要である。
  • 都道府県では、初任者・中堅等の経験年数に対応して実務上必要な事項についての研修、地域社会の動向に対応した図書館運営に関する研修等を実施することが求められる。また、都道府県内の研修に関する情報の収集・提供、域内市町村への講師の派遣など通じて、市町村の支援を行うことも重要である。
  • 市町村では、職員全般(短期雇用者、事務職員、社会教育施設等の図書室等の職員を含む)を対象に、図書館の意義や役割を理解するための研修、日常業務に係わる実務研修等を行うことが重要である。
  • その他、国や都道府県の研修を積極的に活用し、参加した者がその成果を地域に普及すること、また、通信教育や遠隔教育等を活用してより多くの者が研修に参加できるようにすることが必要である。
  • また、多様な雇用形態の職員や、様々なキャリアパスを有する職員が、どの段階でどのような研修に参加することが望ましいかという、研修によるキャリアパスのモデルの一例を、別紙2「図書館職員のキャリアパスのための研修のモデル」に示した。

-- 登録:平成21年以前 --