はじめに

1 図書館職員の養成・研修に関する検討の経緯

  •  今日、我が国は、少子高齢化、高度情報化、地方分権、国際化の急速な進展など様々な課題や変化に直面しており、これらの課題解決のため、多角的な視野からの様々な知識や情報が必要となっている。
  •  また、今日の社会では、自己判断・自己責任が求められる傾向が強くなってきている。これに対処するには、意思決定に必要な正確で体系的な資料や情報を的確に入手することが必要不可欠である。
  •  このような中、これからの図書館の在り方検討協力者会議では、平成18年3月に「これからの図書館像-地域を支える情報拠点をめざして-」(以下、「これからの図書館像」と略す。)をとりまとめ、これからの図書館は、レファレンスサービス(資料の利用相談)や調査研究の支援、時事情報の提供等を充実することによって、「地域や住民に役立つ図書館」となり、地域の発展に欠かせない施設としての存在意義を明確にすることが必要であると提言した。
     また、そのための取組として、
    • 住民の生活、仕事や行政、学校、産業など各分野における課題解決を支援する相談・情報提供の機能の強化
    • 図書館のハイブリッド化(印刷資料とインターネット等による電子媒体を組み合わせた高度な情報提供)
    • 学校との連携による青少年の読書活動の推進、行政機関・各種団体等との連携による課題解決の取組など、相乗効果の発揮
    • 図書館経営の改善(図書館の資源配分の見直し、職員の意識改革など)などの具体的な方策を示した。
  •  「これからの図書館像」を実現し、図書館の改革を一層進めるためには、図書館職員の資質向上が不可欠である。図書館を運営する上で、職員は欠くことのできない存在であり、図書館が地域の情報拠点としての役割を果たせるかどうかは、その意識と行動にかかっているといっても過言ではない。
  •  このため、平成18年9月に、改めて生涯学習政策局長の下に、第2期の「これからの図書館の在り方検討協力者会議」を設置し、「図書館職員の養成・研修の在り方」をテーマとし、司書の養成科目の在り方と、図書館職員の研修の充実方策について検討を進めてきた。
  •  このうち、図書館職員の研修の充実方策については、本協力者会議の委員及び大学関係者より意見を聴取するとともに、意見交換を行い、社会の変化に対応して図書館を改革するための職員の資質・能力の向上や、司書等のキャリアパス(注)形成のために、国や地方公共団体等が実施している研修の形態や方法、評価等をどのように見直し、体系化することが望ましいかという観点から検討を行い、具体的な方策について提案を取りまとめた。一方、研修の内容については、本報告を参考に、地域の特色や各図書館の役割等に応じて各地方公共団体でさらに検討することが望まれる。
  •  また、司書の養成科目の在り方については、委員及び大学関係者より意見を聴取するとともに、ワーキンググループを設置して大学における養成科目について議論を行ったところであるが、今後、大学での実施の実現可能性について幅広く関係者から意見を聞き、さらに検討を重ねる必要がある。
  •  このため、本協力者会議では、図書館職員の研修の充実方策について、報告を行うこととする。
  • (注)キャリアパス:キャリアは「仕事」、パスは「進路」の意。一般に、ある人がその仕事において、どのような学習歴・職歴や職種・地位を経て昇進していくのかの経路を示したもの

2 図書館職員の養成・研修の現状

(1)図書館職員の研修の現状

  •  厳しい財政状況や市町村合併等を契機とする組織の見直し等を背景に、図書館においては、図書館全体の職員数は増加しているものの、専任職員は減少し、兼任職員や非常勤職員の増加が進んでいる。
  •  その一方で、近年、図書館の情報化や子どもの読書活動への支援、地域住民の学習ニーズの多様化への対応、地域の課題解決や地域振興への支援など様々な課題への対応等が求められている。
  •  このような状況の中、図書館職員は、業務量が増大しており、研修に参加する時間が確保できなくなっている。とりわけ、専任職員の減少が、多忙感に拍車をかけているという指摘もある。また、研修経費の確保や、研修期間中の業務のフォローが難しくなっている。
  •  さらに、指定管理者制度や業務委託の導入が進んでおり、受託業者の契約社員等が増加するなど、雇用形態が多様化している。このため、雇用形態にかかわらず、図書館で勤務する者が基礎的な知識・技術を身につけ、専門的な知識・技術を向上させることは、図書館サービスの充実に不可欠であり、これらの人材の研修も大きな課題である。
  •  研修の在り方についても課題が指摘されている。国や地方公共団体、民間団体等によって様々な研修が実施されるようになってきたが、研修の実施に関する情報が図書館や図書館職員に十分に届いていないこと、研修が体系化されておらず、キャリアに応じた研修参加のモデルが無いこと等が指摘されている。
  •  「図書館職員の資格取得及び研修に関する調査研究報告書」(平成18年度文部科学省委託調査研究)では、図書館職員研修の現状や今後必要な研修内容等について、都道府県・市区町村教育委員会や県立図書館へのアンケート調査の結果に基づいて、以下の報告がなされている。
    • 近年注目されている研修テーマとしては、「レファレンスサービス」や「児童サービス」、「図書館運営全般」、「著作権」、「指定管理者制度」などが挙げられる。
    • 研修の実施形態は、講義や演習・実習形式による開催が多い。都道府県や国レベルの研修では、ワークショップ方式も比較的多く取り入れられている。
    • 多忙な職員が学習しやすいように、都道府県立図書館や都道府県図書館協会等では、講義要綱やテキストの公表・提供などのほか、図書館休館日に開催するなどの工夫が行われてきている。
    • 研修の参加者に対する修了条件はほとんど設けられておらず、参加者の研修内容の修得度や参加実績の評価もほとんど行われていない。しかし、一部では、レポート提出による修得度の評価や、修了証書の発行による参加実績の評価などが実施されている例もある。
    • 研修会の参加に対する支援では、研修情報の提供や研修費用の補助などが行われているが、参加期間中の職場における人的代替措置等はほとんど実施されていない。
    • 研修会の参加のほか、他の図書館や部署との人事交流などによる現職職員のスキルアップも重視されている。

(2)司書の養成の現状

  •  司書の養成は、司書講習及び大学における司書講習科目に相当する科目の開設により行われている。司書講習の科目は、図書館法施行規則(昭和25年文部省令第27号)で規定されている。
  •  公立図書館に勤務する司書のうち、大学等卒業後に司書講習を受講して資格を取得した者は、約2割である。これに対し、大学在学中又は卒業後、通信制や科目等履修制度の活用も含め、大学における司書講習科目に相当する科目を修得した者は7割以上である(「図書館職員の資格取得及び研修に関する調査研究報告書」(平成18年度文部科学省委託調査研究))。
  •  司書講習の科目は、平成8年に見直しが行われてから既に10年以上が経過している。図書館関係者からは、図書館の意義や役割を踏まえ、情報化や課題解決支援機能の充実等、社会の変化や個人・地域の要請に応じて、科目や内容等を見直すことが必要であるとの声が上がっている。

3 中央教育審議会の動向等

  •  教育の普遍的な使命と現下の教育上の課題や社会の大きな変化を踏まえ、未来を切り拓く教育を実現するため、平成18年12月に教育基本法が60年ぶりに改正され、新しい時代の教育の理念が明示された。
     その理念を実現するための教育の目標が新たに定められており、これを人間像の観点から言い換えれば、概ね以下の3つに集約することができる。
    • 1知・徳・体の調和がとれ、生涯にわたって自己実現を目指す自立した人間の育成
    • 2公共の精神を尊び、国家・社会の形成に主体的に参画する国民の育成
    • 3我が国の伝統と文化を基盤として国際社会を生きる日本人の育成
  •  また、新たに「生涯学習の理念」(教育基本法第3条)が追加され、国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現を図ることが規定された。さらに、図書館が社会教育施設であることが明記(同法第12条)されるとともに、学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力(同法第13条)に努めることが規定された。
  •  平成19年3月からの第4期中央教育審議会生涯学習分科会では、国民一人一人の学習活動を促進するための方策等のほか、教育基本法の改正を受け、図書館法を含めた生涯学習・社会教育関連法制の見直し等についての審議も行われた。
  •  平成20年2月の中央教育審議会答申「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について-知の循環型社会の構築を目指して-」では、上記の審議で出された数多くの意見を基に、図書館法に関して、以下の指摘がなされている。
    • 情報通信技術の活用
      1.  資料のデジタルアーカイブ化等の情報通信技術の発展に対応した規定を法令上設けることが必要ではないかとの指摘があり、引き続き検討する必要がある。
    • 司書等の在り方
      1.  大学において履修すべき図書館に関する科目について法令上明確に定めること等が考えられる。
      2.  司書講習及び大学における司書養成課程等において履修すべき科目、単位についての具体的な見直しについては、引き続き検討する必要がある。
      3.  司書補の資格要件について、高等学校卒業程度認定試験の合格者等、大学に入学することのできる者を対象とすることが適当である。
      4.  任命権者のほか、文部科学大臣及び都道府県が司書及び司書補の研修を行うこととする旨の規定を法令上設けることが考えられる。
      5.  司書となるために社会教育主事や学芸員としての実務経験を評価できるようにすること等が必要と考える。
    • 社会教育を推進する地域の拠点施設のあり方
      1.  家庭教育の向上に資する活動を行う者を図書館協議会の委員にできるよう法令上明確に定めることが考えられる。
      2.  図書館が実施する教育活動等の運営状況に関する自己評価、それに基づく改善を図る努力義務及び地域住民等の関係者に対し情報提供の努力義務を課すことが求められる。
  •  この指摘等を踏まえ、平成20年6月に社会教育法等の一部を改正する法律(平成20年法律第51号)が施行され、図書館法の一部改正が行われた。
  •  教育委員会や図書館においては、改正教育基本法に定める教育の目的や目標の実現等に向けて、改革に取り組んでいく必要があり、その上でも、図書館職員の意識改革や、知識・技術の一層の向上を図ることが不可欠であると考えられる。

4 これからの図書館職員に求められる資質・能力

  •  「これからの図書館像」を実現し、「地域を支える情報拠点」として機能する図書館を創造するためには、専門的職員である司書は、地域社会の課題やそれに対する行政施策・手法、地域の情報要求の内容、図書館サービスの内容と可能性を学び、情報技術や経営能力を身につけ、さらに、コスト意識や将来のビジョンを持つことなどが必要である。
  •  このためには、資格取得時に身につけた図書館に関する基礎的な知識・技術をさらに深め向上させることが必要である。
  •  また、都道府県・市町村教育委員会や県立図書館へのアンケート調査の結果によれば、司書が図書館で専門的な職員として業務を行う上で求められる知識・技術として、利用者ニーズの把握、資料の選択・収集・管理能力なども重視されている。(「図書館職員の資格取得及び研修に関する調査研究報告書」(平成18年度文部科学省委託調査研究))
  •  これらを踏まえ、図書館職員の研修について、以下の事項の知識や技術等の向上を図る視点から内容を見直す必要があると考えられる。
    • 社会の変化や地域の状況など図書館を取り巻く環境や制度等に関する知識。
    • 図書館の存在意義を理解し、外部の人々にそれをわかりやすく説明できる能力。
    • 生涯学習社会に対応し、人々の学習活動を支援するとともに様々な質問や問い合わせに対応する知識や技術。
    • 高度化・多様化する学習ニーズに応えられるレファレンスサービスを実施するための知識・技術。
    • 地域が抱える課題の解決のための図書館サービスや事業の企画・実施、そのための資料の組織化、コンテンツづくりのための知識・技術。
  •  また、情報化の進展に伴い、電子媒体の利用を進め、印刷媒体とインターネット等による電子媒体を組み合わせて利用できる図書館(ハイブリッド図書館)を目指すことが緊急の課題となっている。データベースやインターネット等の電子情報の利用に関する知識・技術の修得を、従来よりも重要視する必要がある。

-- 登録:平成21年以前 --