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市民参加での図書館づくり(佐賀県伊万里市民図書館)

市民参加での図書館づくり(伊万里市からの報告)
伊万里市民図書館

1.伊万里市の概況

 伊万里市は伊万里湾に臨む九州西北部に位置し、人口59,000人、面積254キロ平方メートルの田園都市である。縄文の昔にはここで採れた黒曜石は、九州一円はもとより朝鮮半島にまで渡り利用されていた。中世の頃は武士団松浦党の本拠地として、元寇の際には主戦力となって戦った。近世になると、有田で作られた焼き物は伊万里港から全国各地へ、また遠くヨーロッパまで輸出され、オールドイマルとしてその名を馳せた。1954年、2町7か村が合併して伊万里市が誕生した。当時は石炭産業の全盛期で町は潤っていたが、その後のエネルギー革命で石炭産業が衰退し人口も減った。いま海を活用する国際貿易港として、よそおいも新たに再出発している。

2.図書館の概要

 図書館の概要は以下の表のとおりである。

位置 市のほぼ中央に位置し、伊万里駅から徒歩10分
施設概要 1995年7月7日新図書館開館(伊万里市立花町4110番地1)
  鉄筋コンクリート造平屋(一部4階)建
敷地面積7,692平方メートル 建物面積4,374平方メートル
職員 16人(正規5 嘱託8 臨時3)
利用状況
(2004年度末)
登録者数46,448人 年間貸出冊数517,848点
レファレンス13,541件
予算(2005年度) 図書館費123,106,000円 資料費22,500,000円
目標 伊万里をつくり 市民とともに育つ 市民の図書館

3.図書館めばえの日

 毎年2月26日は「図書館めばえの日」として来館者にはぜんざいが振舞われる。すでに今年で14回目になるが、始まりは新図書館の起工式にさかのぼる。1993年2月26日、新図書館の起工式が行われた。役所の起工式の後、市民有志200人の集会が現場で開かれた。春まだ浅い新図書館の敷地に建物の形を白線で引いて、設計者の案内でやがて完成する図書館を想像しながら歩いたのである。その後、手作りのぜんざいでお祝いをしたが、当時の市長は「ぜひ、この日を伊万里の図書館の日にしよう」と提案をした。
 あれから13年の歳月が流れ、毎年「図書館めばえの日」としてお祝いをしているのである。この日は市長を始めとして市の幹部職員や教育委員会関係者、市議会議員、市民が共に集い、甘くて温かなぜんざいを食べながら、「あの日、私たち伊万里市民が図書館を持とうとしたときの感動をいつまでも忘れないようにしよう。そして図書館の役割を考えよう」という趣旨で図書館談義を交わすのである。

4.市民参加の図書館づくり

 それを裏方で支えているのが<としょかんフレンズ伊万里>の会員である。この会が発足したのは新図書館が開館して2ヵ月後の1995年9月である。それまでは<図書館づくりをすすめる会>という名称で、1986年から9年間、新しい図書館づくりのための市民運動をしてきた。伊万里市には以前から図書館はあったものの手狭であった。そこで子育て中の母親たちが、少しでもいい図書館環境で子どもを育てたいと立ち上がったのが始まりである。その後、会員は手弁当で九州各地の図書館を見てまわり、大学の先生を招いて図書館サービスのあり方の勉強や、図書館の上手な利用方法等の学習をしてきた。新図書館の建設に至る要因はいろいろあったが、この運動もまた引き金のひとつとなり、首長が決心し、新図書館の計画が始まったのである。
 図書館は市民と協働で図書館建設を進めるために様々なプログラムを用意した。その中で出来上がったものよりプロセスが大事と始めたのが、図書館づくり伊万里塾である。塾は計8回、学習課題は下記のとおりであった。

第1回   「図書館は必要なのか」 図書館施設研究所主幹・菅原峻氏
第2回 「岡山の学校図書館はいま」 岡山市学校図書館問題研究所・加藤容子氏
第3回 「貸出日本一を記録するまで」 苅田町立図書館長・増田浩次氏
第4回 「いま学校図書館に新しい波が」 長崎純心短期大学教授・平湯文夫氏
第5回 「ぶっくんは期待に応えているか」 自動車図書館関係者を中心に
第6回 「歩き始めよう 学校図書館」 学校図書館関係者や学校長
第7回 「図書館の成長に市民が何が出来るか」 びぶりおの会・中古賀洋子氏
第8回 「変えるべきこと変えるべからざること」伊万里市民図書館長・森田一雄氏

5.図書館は文化行政という船の帆、市民はその帆をふくらませる風

 このような学習活動を経て誕生した図書館を、市民は「私たちの図書館」として守り育てて来た。その中心になったのが<としょかんフレンズ伊万里>である。会の目的は「図書館への援助と提言」である。
 まず援助であるが、最近の出来事で一番大きかったのは鳥取県片山知事の講演会を計画し開催したことである。2005年9月6日、多忙な中、来伊していただいた片山知事から「知の地域づくりと図書館の役割」という演題で講演をしていただいた。会場には約500人の市民が集い、熱心に図書館の大切さを聴き、そして考えた。それに心のこもったもてなしも図書館職員だけでは出来ないものであった。伊万里焼の器に盛り付けられた当地の食材を使った会員手作りの料理が並び、昼食のひと時をくつろいでもらえたのも<としょかんフレンズ伊万里>の力である。
 もうひとつの援助は、ブックスタート事業に「いのちのバトンタッチ」という寄付金受け入れ体制を作ったことである。伊万里市は乳幼児の心の成長のために、昨年度からブックスタートを始めた。しかし、昨今緊迫財政の中、ややもすると予算削減の恐れもある。ならば香典返しの一部を寄付してもらい、基金として積み立てていこうという試みである。このほどパンフを作成し市内の葬儀社を回って説明、依頼をしてきた。本格化するのはこれからであるが、図書館の発展と市民の幸せを願う<としょかんフレンズ伊万里>ならではの活動である。
 提言についてはこれからに期待をしている。「だれのための図書館」(日本図書館協会発行)という本があるが、この中に財政難のため図書館が閉鎖されようとした内容が書いてある。そのとき立ち上がったのが市民であった。子どもたちは自分たちの貯金箱をひっくり返して募金をしたとある。いま日本でも図書館のあり方が大きく揺れ動いている。当市はまだ平穏ではあるものの、もしもの時には市民の力強い発言があるものと願っている。

6.図書館のめざすもの

 この10年間、市民の風を十分に受けることが出来るように図書館もそれなりに努力してきた。まず、第1に図書館は誰のためにあるかということ、第2に何のために市民は図書館を持つかということを、全職員が理解してサービスに当たるよう努めてきた。図書館の理念は館内に掲げる図書館設置条例に詳しいので紹介をする。

  【伊万里市民図書館設置条例】
第1条 伊万里市は、すべての市民の知的自由を確保し、文化的かつ民主的な地方自治の発展を促すため、自由で公平な資料と情報を提供する生涯学習の拠点として、伊万里市民図書館を設置する。

7.これからの図書館

 伊万里市民図書館は、2005年開館10周年を迎えた。
これまでまずまずの成果をおさめてきたが、次の10年がこれまでの延長であることは許されず、新たな視点と心構えが必要とされることはいうまでもない。図書館の本質は「出会う・学ぶ・変わる」ことにあり、市民が、本や情報や人との出会いによって知見を深め、時代に適応していけるように図書館は支援のプログラムを用意しなければならない。図書館にとって変わるべきことと変わってはいけないことは何か、市民と共に今一度学習しようという主旨ではじめたのが図書館伊万里塾である。
学習課題は次のとおりであった。

第1回   (7月塾) 「図書館は未来をひらく」佐賀県知事・古川康氏
第2回 (8月塾) 「しあわせに本を読み合う」児童文学作家・村中李衣氏
第3回 (9月塾) 「図書館のまち伊万里を永遠に」筑波大学教授・植松貞夫氏
第4回 (10月塾) 「図書館は宝の山」佐賀ダンボール商会・石川慶蔵氏
「図書館を利用して」ボランティア副会長・川副幸子氏
第5回 (11月塾) 「図書館は進化してきたか」寺田大塚小林計画同人代表・寺田芳朗氏
第6回 (12月塾) 「ほんとうの豊かさとは何か」生活経済学者・暉峻淑子氏

 以上6回の学習会がこのほど終了した。まとめとして図書館懇話会等を開催し、伊万里市民図書館のこれからのあるべき姿を市民と共に語り合う場をもつ予定である。

8.ビジネス支援・万華鏡物語

 ビジネス支援図書館ということが言われだしてどれくらいになるだろう。私は10年以上前、アメリカのシアトル市立図書館を訪ねたが、そのとき見た光景が忘れられなかった。開館前から図書館入り口に列をなすビジネスマン風の人たち。何台も設置されたパソコンで最新の情報を得ようとする人たち。雑誌や新聞などビジネス情報が溢れているコーナー。これらを目の当たりにして、日々の仕事に役立つ図書館という課題が頭から離れなかった。そのうち日本の図書館でもビジネス支援コーナーを設けるところがあちこちにお目見えした。かなりのあせりはあったが、ある日のこと、返本にみえた一人の男性からこんな話を聞くことができた。
 「この図書館の資料を利用して、焼き物の筒を使った世界初の万華鏡を開発することができました」「開発プロジェクトチームを組織して研究する補助事業のデータ集め、熱の伝導と物体の収縮に関する本、万華鏡のデザイン、焼き物の文様など数十冊の本を利用しました。そしてこんな万華鏡を商品として開発することができました。これを販売して街を元気にします」と写真まで見せてもらった。それを聞いたとき、どんなにうれしかったか、この図書館の資料全体がビジネス支援をしているのだと確信した。そしてコーナーを作ることが大切なのではなく、迅速に的確に資料提供ができる司書の存在こそが重要であるということを再認識した。
 このことを図書館利用の手本として多くの市民に知ってもらうために、先に記した図書館伊万里塾で「図書館は宝の山」という講話をお願いした。当人、石川慶蔵氏の開発した万華鏡は、全日空の機内PR誌にも掲載され、今や世界に羽ばたこうという勢いである。石川さんは私にこんなことも耳打ちしてくれた。「これからは官も民も蜘蛛の巣商法ではなくミツバチ商法ですよ」つまり、図書館でじっと来館する人を待っているのではなく、図書館に来ない人は何が原因なのか調査研究をし、もっと外に出て営業することが大切だということである。

9.図書館のPR(ミツバチ商法)

 ところで、先に紹介した伊万里市民図書館設置条例は「図書館は地方自治の発展のためにある」と謳っている。地方自治を進めるためには市議会議員の政策活動に図書館を活用してもらいたいと、新人市議会議員の勉強会で図書館の働きについて話をした。数字で見る図書館の現状はもちろんのこと、地域情報、行政情報、その他様々な社会問題に関する情報を収集公開していることに力点をおいて説明をした。中には議員活動に必要な資料収集や勉強が図書館で出来るなんて目からウロコだという方もいた。それから数ヵ月後には、文教厚生委員会の研修として先進図書館への視察が決行され、多くの市議会議員が図書館で調べ物をし、資料要求をするようになった。
 そのほかにもライオンズクラブ、ロータリークラブ、ソロプチミスト、老人会、年金受給者の勉強会、校長会、JA 職員の研修会などへ営業活動を続けている。しかし、営業をするにはそれなりの商品価値と品揃え、サービスの質を向上する準備過程が必須である。

10.資料の構築と司書の力量

 当館には「伊万里学のコーナー」がある。これから地方分権が進み、住民の参加型自治体を目指すためには、行政と住民が対等に対話を共有することが必要である。つまり情報民主主義実現のための図書館である。ここは地域資料、行政資料と共に一般書架の本も配架し、まちづくりの風穴を開かして欲しいと願っている。なお、伊万里学コーナーにはこんな表示を掲げている。

  【伊万里学コーナーに掲げる言葉】
歴史とは現在と過去との対話である、といった学者がいます。
その対話をすすめて、伊万里讃歌は
  伊万里伊万里と呼んでごらん
ふるさと伊万里が返事する
といっているのです。
この「伊万里学コーナー」はそうした対話のために設けられた学習空間です。
その土地に文化が育つかどうかは、ふるさとを温かく見つめ、ふるさとが持つ可能性を伸ばそうと努める人がそこにいるかどうかで決まる、といわれています。そのためには、何よりもふるさとの歴史を学び、先人の知恵に新たな価値を見いだす学習が大切だろう、というのが伊万里学の起こりです。つまり先人との対話を重ねながら学ぶのが伊万里学です。

 新しい世紀の伊万里の文化が、このコーナーを温床にした市民の学習によって芽を伸ばすことを、ともに期待したいものです。

 これに見合うような資料をこれまで以上に収集し、行政にまちづくりに図書館は役に立つことを訴えていきたい。
 もうひとつの課題は司書の力量とやる気である。
 市民の中には、それぞれの分野の専門家あり、知性豊かな人あり、読書歴の長い人ありと様々で、本や情報の検索にしても司書以上に熟知している人が大勢いるはずである。そんな中にあって本も読まずして司書が務まるはずはない。先ずは隗より始めよである。
 一昔前まで、司書は受け入れる資料を1点1点日本十進分類法で分類をし、目録カードの作成もして来た。そういう一連の作業を経ることによって資料に対する知識も深まったものである。しかし今や多くの図書館がそうしているように、当館も装備や書誌情報の作成は業者任せである。背文字を見ただけ、中を開きもせずに書架に並べられる本もある。
 司書の仕事はニコニコしてサービスデスクで本のバーコードをなぞり貸出をする。返された本を法則どおりに書架に並べる。選書は業者任せ。資料のことを尋ねられたらキーボードを叩く。それだけだったら誰にでも出来るし、利用者も親切な応対を受けたら気持ちがいい。ならば委託でも指定管理者でもいいではないかという考えが行政当局からも市民からも出てくるだろう。
 しかし、世界の知への入口としての図書館は、費用や効率の良さや気持ちのいい応対だけでなく、もっと長いスパンで考えなければならない。そのために司書の仕事は今を読み、的確な資料を選び、知ることから始まる。長年かけて力を蓄積して初めて的確な資料が提供出来る司書へと成長していくのである。そこで当館では全員参加の選書と読んだ本を手短に紹介する「朝の一冊」を励行している。

11.不易の理念を大切に

 図書館サービスは日々進化し、今や多種多様なサービスが求められるようになってきた。また、利用冊数の多少が図書館サービスの良し悪しを判断する基準となっている風潮があることも否めない。ベストセラーの複本やコミック、娯楽ビデオ等の問題もまたこれと無縁ではあるまい。図書館の数だけサービスの形態もあるが、流行に迎合することなく、これからも伊万里は伊万里の図書館でありたいと思う。図書館に行けば人と人が出会える、人と資料が出会える、新しい知と出会える。そしてそこからまちづくりの新しい風が吹く――歩むにつれ足跡を消したり、見失ったりするのではなく、背伸びや爪先立つのではなく、迷った時には原点に立ち戻る精神を不易の理念として市民と共に歩んでいきたい。



 

-- 登録:平成21年以前 --