舟橋村立図書館における村おこし、駅舎との一体化 -駅舎併設・パーク&ライド方式がもたらした村活性化への相乗効果-
舟橋村立図書館 |
ア 地域の概況
舟橋村は富山平野のほぼ中央に位置し、富山市、立山町、上市町に隣接した人口約2,700人、面積3.4キロ平方メートルの県内で最も小さな自治体である。立山連峰を源とする常願寺川によって形成された扇状地であり、その豊かな水と肥えた土壌で育つコシヒカリは、「アルプス米」としてブランド化されている。また、県中心部の富山市から8キロメートル、県内東部をサービス圏内とする富山地方鉄道の電車で12分、車で20分と交通の便がよく、快適な住宅地として注目されている。村自らの宅地開発に合わせ、民間による宅地造成が今も続いている。新しい村民には初めて家を建築する若い世代が多い。年代構成の変化が著しく、65歳以上の高齢人口が15.4パーセント(県内平均22.7パーセント)、15歳未満の年少人口23.1パーセント(同13.6パーセント)と県内平均を逆転させたような数字となっている。村内には、保育所、デイサービスセンター、舟橋会館、児童館と新しい施設が多数立地し、徹底した住民サービスに力を入れ合併せず独自の発展を遂げている。また、将来を担う子供達に対する教育予算を第一に考え、教育に対する村民の熱意も高い。
イ 図書館の概要
1989年、舟橋駅整備についての検討が開始され、複合施設として駅の再建が決定した。翌年「ふるさと環境整備計画」により、駅舎に図書館を併設することが決定し、1996年建設着工、1998年4月オープンした。村民にとって利用に便利な位置にある駅に併設したこと、また沿線自治体の住民が利用しやすいことなどから、多くの人々に利用されている。
駅の改札口をでるとすぐ図書館があり、RC3階建ての本館は、延床面積1,518平方メートル、1階が児童・AVコーナー、2階は一般コーナー、3階は書庫という構造である。全館木製フローリングであり靴を脱いで入る形式で1階は床暖房になっている。職員は館長(教育長兼任)を含め4人で、このうち有資格者は1名、利用客の多い金曜日・土曜日・日曜日は1名のアルバイトが加わりサービスの充実に努めている。2004年3月末時点での登録者は、11,032人(内村民1,716人)、貸出冊数は年間約151,000冊、住民1人あたりの貸出冊数は55.8冊である。蔵書数は表1の通りである。
表1 | 2005年12月28日現在 | ||||||||||||||||||||
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ウ 図書館経営の方針、目標
村教育委員会では県立図書館の助言、各地の図書館事例調査、視察などを行い、舟橋村立図書館運営基本方針をまとめた。そしてそのためには、一定水準以上の施設整備と、適正な職員配置、そしてインパクトのある立地条件が必要との結論に達した。以下は具体的運営方針である。
滞在型図書館 多くの社会教育施設は講座や催し物などの事業があるとき以外、個人としての利用はほとんどできないのに対し、図書館は開館している間、誰でも自由に好きな時間に利用できる。この特徴を生かし、余暇時間の増大に対してゆったりとした施設の中で心ゆくまで読書やビデオ、音楽などを楽しめる施設とする。 |
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情報発信基地としての図書館 氾濫する情報の中で、人々が価値ある真に必要とする情報を収集・整理し、コンピュータ化やレファレンス体制の整備、ネットワークなどによって求められた資料を迅速に提供する。また、村の歴史、文化、産業に関する資料を収集し、各種資料情報と共に利用に供するほか村に関する情報などを展示する。 |
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広域サービス 村民ばかりでなく、地鉄沿線の自治体住民にも広く開放された図書館として運営し、利用者相互の交流を促進する。また同時に近隣図書館とのネットワークを整備し、資料の分担収集・保存などの相互協力を行い広域サービスの向上を図る。 |
以上のような方針に基づき整備運営しているが、特徴として次のような事があげられる。
(ア) | 暮らしに役立つ本や、雑誌を豊富に提供する | ||
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(イ) | 子どもの夢と希望を育む、資料センターとする | ||
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(ウ) | 親子が楽しめるマンガを、収集・提供する | ||
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(エ) | 音と映像を、楽しめる場とする | ||
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(オ) | 最新の情報を、コンピュータで提供する | ||
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(カ) | 村の資料センターとしての、機能をもつ | ||
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(キ) | 地域コミュニケーションの、場を提供する | ||
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車社会が進むにつれ地方の交通機関は窮地に追い込まれている。村内にある「舟橋駅」もマイカーの普及とともに、乗降客が減り寂れる一方であった。舟橋駅は県内東部をサービス圏とする富山地方鉄道の村内唯一の駅として村のほぼ中央に位置している。旧駅舎は1931年に建造され、老朽化が著しかった。「駅周辺はまさに村の顔。そこをよくしないと村の発展はない」との発案から、「村の玄関口である駅に利用者を呼び戻す」ための活性化事業がスタートし、富山地方鉄道と連携し「駅舎検討委員会」を設立した。
一方、図書室は、1981年役場の一室に毎週土曜日のみ開館していたが、環境、蔵書数など村民が満足できるものではなかった。しかし委員会設立の時点では、図書館を駅に併設するということは定まっていなかった。「第二次舟橋村総合計画」およびその下位計画である「ふるさと環境整備計画」には、村の中心地区に二つの重要な施設計画があった。一つは舟橋駅舎改築事業であり、専門店、コンビニエンスストアなどを設け、村内外の買物客を吸収すると共に、商工会議所などを置き、村の産業・歴史・文化などの情報発信基地としての機能をもつことになっていた。二つ目は、舟橋会館の建設事業であり、生涯学習施設を集中し、村内コミュニティーの中心的活動基地にしようとするものであった。図書館は生涯学習施設の一つとして、この舟橋会館に入ることになっていた。会館の建設計画が住民参加で進む中、会館への併設は難しくなる一方で、駅舎改築事業における併設には景気や商圏の移動によって影響され易い商業施設より、公共施設のほうがより適切であるということになり、幼児から若者、年配者まで幅広い利用者が見込まれる図書館を併設することに決まった。
財源に関する検討、議会の承認などを得、まず取り組んだのが駐車場の確保であった。パーク&ライド方式として駅舎建替えに先行する形で整備が進み、現在250台収容の無料駐車場が整備されている。パーク&ライド方式とは、郊外の駐車場に車を置き、電車やバスに乗り換えて市街地へ入る方法でアメリカなどで普及した。公共交通機関の利用の促進、都市部の車による渋滞緩和、環境汚染の防止などのための施策であるが、舟橋駅のこの方式の導入は、当初の見込みをはるかに越えるものであった。
表2.舟橋駅整備と関連する動き
西暦 | 事項 |
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1988 | 駅前駐車場整備工事 「舟橋村魅力あるまちづくり基本計画」策定 駅のシンボライズ、駅前の秩序化を課題に富山高岡広域都市計画区域を外れ、立山舟橋都市計画区域に編入。村内全域無指定地になる |
1989 | 舟橋駅舎整備検討委員会設置・開催・地鉄本線舟橋駅敷地内の構造物改築(トイレ・駐輪場)について協議 |
1990 | 公衆トイレ、駐輪場完成 「第二次舟橋村総合計画」の中で魅力ある街づくりプロジェクト計画 村議会全員協議会の中、駅舎整備を「ふるさと環境総合整備事業」として検討 |
1991 | 「第二次舟橋村総合計画・豊かで住みよい文化的な都市近郊農村」策定 策定の中に図書館に関する事項を明記 |
1993 | 駐車場工事・規模拡大1,562.65平方メートルになる 舟橋駅舎等駅前整備検討委員会設置要綱施行・舟橋駅舎駅前整備検討委員会の開催 駅舎は多目的複合施設として改築することで検討 |
1994 | 村議会全員協議 駅舎改築についての財源検討 |
1995 | 駐車場工事・規模拡大2,214.65平方メートルになる 教育委員会事務局、図書館構想について研究調査 図書館の具体的プランニング、近隣図書館においての視察等活発に行う |
1996 | 駐車場工事・規模拡大3,532.58平方メートルになる 「舟橋村ふるさとづくり事業計画」策定 駅舎を併設する「舟橋村文化・福祉複合施設建設事業」地域総合整備事業債の借入が決定、地下自由通路着工 |
1997 | 文化・福祉複合施設の建設着工・工事完成検査 |
1998 | 駐車場道路新設工事 駐車場工事・規模拡大4,176.58平方メートルになる 新図書館へ引越し・図書の搬入・図書館竣工式挙行・4月1日図書館オープン |
2000 | 駐車場工事・規模拡大4,913.42平方メートルになる |
2006 | 図書館インターネット蔵書公開システム導入予定 |
村として自立した行政の実現のためには、駅周辺の活性化をぬきには考えられないとし、無料駐車場を整備し、村の財源で駅の改築も行った。村では、国庫補助等の補助金制度を活用しつつ地鉄の駅およびその周辺に、1993年から通算で実に10億円を超える投資をおこなっている。そしてその投資は全額、駅舎の改築、駅前駐車場、及び村内線路上の踏切改良事業などに使われた。(表1)当時の人口が1,800人、村の予算約13億円を考え合わせると、大事業であった。
表3.合築駅舎及び駐車場改良工事関連出費総額 | (単位:千円) | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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ホームに降り立つとそこはもう図書館であり、地下道を経由すると大きな無料駐車場である。パーク&ライド方式の無料駐車場が村外居住者にも開放されていることにより、村への自動車の乗り入れが増加し、舟橋駅を利用する人のエリアが広がった。そしてその結果、多くの村外居住者が「舟橋村」「図書館」を認知し、登録者・貸出増加につながった。
福井大学大学院工学研究科の学生が2004年から2005年にかけて実施した「パーク&ライド駐車場を併設した図書館合築駅の利用実態調査」によると、土曜、日曜駐車場利用者の80パーセントが図書館を利用し、平日の駐車場利用者についても55パーセントが図書館を利用するという結果がでている。この中には、週一回以上の高頻度利用者も多く、高い貸出状況の根拠となっている。また、富山地方鉄道沿線各駅の一日あたり乗客数の推移をみると、1960年以降大きな減少傾向をみせ、無人駅化や停車本数の減少が懸念されていたが、駐車場設置、合築駅完成の98年以降、舟橋駅の乗客数は確実に増加し、駅員が常駐し富山-舟橋駅間往復便も増えた。駐車場利用者に限らず上市・立山町からの電車通勤、通学者も帰宅途中下車し、閉館時間(4月~10月:午後7時・11月~3月:午後6時)まで図書館を利用することが多い。
市街化調整区域の除外・パーク&ライド方式の無料駐車場、駅舎併設図書館・電車の増便、立地条件の良さなど多面的相乗効果により人口が増え村は様変わりした。しかし、三位一体改革による地方交付税の減少は、今、小さな村の台所を直撃している。10年前には、約1,600人だった村の人口は、2,700人に増え、若年人口増加への対応が重要課題となり保育所は既に定員オーバーし、小、中学校も手狭で近い将来増築の必要に迫られている。
また、「パーク&ライド」をうまく実現させたが、無料であるため土地の賃貸料が重くのしかかり、駅裏駐車場の有料化も近年議論が高まっている。有料となれば、管理費用が付いて回り、採算性や村民感情を十分考慮しなければならないのは勿論だが、図書館利用状況にも大きく影響するものと思われる。
オープンから7年、村の施策の成功により「小さな村の、小さな図書館」として常に注目されてきたが、基礎作りが終った今、駅舎と一体となった特性を生かした事業、PR方法など今後の図書館の研究課題とし、村民の大きな期待である、地域に根ざし、世代・地域を越えた交流の場としての図書館の役割を、十分果たせるように取り組んでいきたい。
-- 登録:平成21年以前 --